説明

電力ケーブル用非架橋ポリエチレン組成物

本発明は、電力ケーブルに用いられる非架橋直鎖状中密度ポリエチレン樹脂組成物に関し、絶縁層、半導電層、シース層に使用可能な組成物に関する。具体的には、本発明は、コモノマーとして炭素原子数が4個以上のα−オレフィンを含み、メルトインデックス0.6〜2.2g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、DSCエンタルピーが130〜190joule/gで、分子量分布が2〜30である直鎖状中密度ポリエチレン樹脂を含むポリマー100重量部に対して、難燃剤、酸化安定剤、UV安定剤、熱安定剤及び加工助剤から選択される何れか一つ以上の添加剤0.1〜10重量部を含む電力ケーブル用非架橋ポリエチレン組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存の電力ケーブルの絶縁体として全世界的に広く用いられている架橋ポリエチレンを非架橋タイプのポリエチレン樹脂に代替して用いる電力ケーブル用非架橋ポリエチレン組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
1950年代までは、電力ケーブルの絶縁素材として非架橋タイプのポリエチレン樹脂が主に用いられていたが、長期耐熱性及び耐久性に限界があった。そこで、1950年代に米国のユニオンカーバイド社により、ポリエチレンの長期耐熱性及び耐久性を高める手段として架橋技術が開発され、現在、電力ケーブルにはこのような架橋ポリエチレンが主に用いられている。
【0003】
ポリエチレン架橋方式は、有機過酸化物またはシランを(米国特許第6284178)媒介体とする化学的反応による架橋及び電子線架橋(米国特許第4426497)などがあり、最近の大手電線業界では有機過酸化物による架橋タイプが最も広く用いられている。
【0004】
架橋ポリエチレン樹脂は熱硬化性樹脂であるため、耐熱性及び耐薬品性などに優れており、電気的特性も優れる。
【0005】
しかし、架橋ポリエチレン樹脂は熱硬化性(thermoset)樹脂であるため、リサイクル(recycle)が不可能で、廃棄処分が困難であり、環境汚染の原因となっている。従って、環境に優しい非架橋タイプの熱可塑性(thermoplastic)ポリエチレン樹脂の使用が求められているが、架橋ポリエチレンに比べ耐熱性が非常に劣るため、電力ケーブル絶縁体の用途に用いるには限界があった。
【0006】
それにも関わらず、環境保護のために、また上述の架橋ポリエチレン樹脂の欠点のため、ヨーロッパのフランスなどの一部の国では、電力ケーブルの絶縁体として熱可塑性ポリエチレン樹脂を用いることもある。
【0007】
有機過酸化物による架橋ポリエチレンの電力ケーブルを生産する工程では、架橋工程が必須であり、このような架橋工程は、高圧、高温の条件を要し、生産性が非常に低い。また、工程条件の微細な変化でも架橋度の差が発生する可能性があるため、製品の均質性が低下する。
【0008】
また、架橋工程では、有機過酸化物が高温の熱によって分解されてラジカルを形成し、架橋反応が行われるが、このような架橋反応の副産物としてクミルアルコール(Cumyl alcohol)、メタン(Methane)などが発生し、絶縁体内に気泡を形成させる。これを除去するためには5気圧以上の高い圧力を加えなければならず、除去されなかった気泡は電力ケーブルの絶縁体を破壊する原因物質となる可能性がある。
【0009】
韓国の場合、三面が海で囲まれており、空気中の塩分濃度が高いため、架空電力ケーブルの絶縁体の浸食による火災事故がしばしば発生する。このような電力ケーブルの絶縁体の浸食現象をトラッキング(tracking)による破壊現象というが、これは、電気が印加されている絶縁物の表面で炭化生成物による炭化路が形成されて表面の絶縁破壊を起こす現象で、有機絶縁物の固有の破壊現象である。その発生原因は、表面放電または微小発光放電による熱であるが、それに寄与するものは、水分の他に、塩分、酸性雨、無機質及び繊維質の塵、化学薬品の気泡など、その原因が複雑で多様である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、電力ケーブルを製造する際に用いられる組成物に関するものであり、電力ケーブルの絶縁素材として最も重要且つ基本的な電気的物性である絶縁特性、誘電特性を維持しながら、放電特性、特に耐トラッキング性(tracking)に優れた組成物を提供することをその目的とする。
【0011】
より具体的には、本発明は、リサイクルが可能で、環境に優しく、既存の工程コストを画期的に低減することができる非架橋タイプのポリエチレン樹脂を用いる組成物を提供することをその目的とする。従って、本発明は、既存のポリエチレン樹脂より長期耐熱性及び耐久性を改善できるように、コモノマーとして炭素原子数が4個以上のα−オレフィンを含む直鎖状中密度ポリエチレンを用いた組成物を提供することをその目的とする。
【0012】
また、本発明は、電気的物性をより向上させるために、特定の物性を有する高密度ポリエチレン樹脂をさらに含む組成物を提供することをその目的とする。
【0013】
また、本発明は、絶縁素材だけでなく、半導電層、シース層に使用可能な組成物を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記の目的を果たすための本発明は、コモノマーとして炭素原子数が4個以上のα−オレフィンを含み、メルトインデックスが0.6〜2.2g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、示差走査熱量測定(DSC)エンタルピーが130〜190joule/gで、分子量分布が2〜30である直鎖状中密度ポリエチレン樹脂を含むポリマー100重量部に対して、難燃剤、酸化安定剤、UV安定剤、熱安定剤及び加工助剤から選択される何れか一つ以上の添加剤0.1〜10重量部を含む電力ケーブル用非架橋ポリエチレン組成物に関する。
【0015】
また、前記組成物は、ポリマー100重量部中、メルトインデックス0.1〜0.35g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、DSCエンタルピーが190〜250joule/g、分子量分布が3〜30である高密度ポリエチレン樹脂を5〜40重量%含むことができる。即ち、前記直鎖状中密度ポリエチレン樹脂を単独で用いてもよく、前記直鎖状中密度ポリエチレン樹脂と高密度ポリエチレン樹脂とを混合して用いてもよい。高密度ポリエチレン樹脂と混合して用いる場合は、直鎖状中密度ポリエチレン樹脂60〜95重量%と高密度ポリエチレン樹脂5〜40重量%とを混合して用いる。
【0016】
また、本発明は、必要に応じて、前記ポリマー100重量部に対して、カーボンブラック1〜5重量部をさらに含む。
【0017】
即ち、本発明の第1様態によると、コモノマーとして炭素原子数が4個以上のα−オレフィンを含み、メルトインデックス0.6〜2.2g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、DSCエンタルピーが130〜190joule/gで、分子量分布が2〜30である直鎖状中密度ポリエチレン樹脂100重量部に対して、難燃剤、酸化安定剤、UV安定剤、熱安定剤及び加工助剤から選択される何れか一つ以上の添加剤0.1〜10重量部を含む。
【0018】
本発明の第2様態によると、コモノマーとして炭素原子数が4個以上のα−オレフィンを含み、メルトインデックス0.6〜2.2g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、DSCエンタルピーが130〜190joule/gで、分子量分布が2〜30である直鎖状中密度ポリエチレン樹脂60〜95重量%と、メルトインデックス0.1〜0.35g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、DSCエンタルピーが190〜250joule/g、分子量分布が3〜30である高密度ポリエチレン樹脂5〜40重量%と、を含むポリマー100重量部に対して、難燃剤、酸化安定剤、UV安定剤、熱安定剤及び加工助剤から選択される何れか一つ以上の添加剤0.1〜10重量部を含む。
【0019】
本発明の第3様態によると、コモノマーとして炭素原子数が4個以上のα−オレフィンを含み、メルトインデックス0.6〜2.2g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、DSCエンタルピーが130〜190joule/gで、分子量分布が2〜30である直鎖状中密度ポリエチレン樹脂100重量部に対して、難燃剤、酸化安定剤、UV安定剤、熱安定剤及び加工助剤から選択される何れか一つ以上の添加剤0.1〜10重量部及びカーボンブラック1〜5重量部を含む。
【0020】
本発明の第4様態によると、コモノマーとして炭素原子数が4個以上のα−オレフィンを含み、メルトインデックス0.6〜2.2g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、DSCエンタルピーが130〜190joule/gで、分子量分布が2〜30である直鎖状中密度ポリエチレン樹脂60〜95重量%と、メルトインデックス0.1〜0.35g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、DSCエンタルピーが190〜250joule/g、分子量分布が3〜30である高密度ポリエチレン樹脂5〜40重量%と、を含むポリマー100重量部に対して、難燃剤、酸化安定剤、UV安定剤、熱安定剤及び加工助剤から選択される何れか一つ以上の添加剤0.1〜10重量部及びカーボンブラック1〜5重量部を含む。
【0021】
また、本発明は、上記に記載の組成物のうち何れか一つの組成物を、絶縁層、半導電層またはシース層に用いた電力ケーブルを含む。
【0022】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0023】
本発明は、ポリエチレンを架橋しなくても、長期耐熱性及び耐久性を顕著に高めることができるように、α−オレフィンコモノマーを用いてタイ分子(Tie molecule)生成を誘導した。これに加え、耐熱性を向上させる添加剤を最適化した。また、最も重要且つ基本的な電気的特性である絶縁特性、誘電特性を維持するために、特に耐トラッキング性を向上させるために、α−オレフィンコモノマーの直鎖状中密度ポリエチレンに高密度のポリエチレン樹脂を混合した。
【0024】
本発明において必須に用いられる直鎖状中密度ポリエチレン樹脂は、コモノマーとして炭素原子数が4個以上のα−オレフィンを含む。前記炭素原子数が4個以上のα−オレフィンは、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン、オクテンまたはデセンから選択される。
【0025】
また、前記直鎖状中密度ポリエチレン樹脂は、0.6〜2.2g/10分、(190℃、5Kg荷重条件)のメルトインデックス(以下、MIという)を有する。前記MIが0.6g/10分未満であると重合工程での生産性が低下して経済性が劣り、MIが2.2g/10分を超過すると電力ケーブルに適用する際、耐トラッキング性が低下する。より好ましくは、1.4〜1.9/10分の範囲で、より優れた耐トラッキング性が得られる。
【0026】
また、前記直鎖状中密度ポリエチレン樹脂は、DSCエンタルピーが130〜190joule/gである。DSCエンタルピーが130joule/g未満であると長期耐熱性が低下し、DSCエンタルピーが190joule/gを超過するとクリープ特性が低下する。より好ましくは、150〜190joule/gの範囲で、より優れたクリープ特性が得られる。
【0027】
また、前記直鎖状中密度ポリエチレン樹脂は、分子量分布が2〜30である。分子量分布が2未満であると電力ケーブルの加工時、表面にメルトフラクチャ(melt fracture)が発生し、30を超過するとポリエチレン重合が困難になる。より好ましくは、3.5〜23の範囲で、樹脂合成の工程が容易であり、より優れた樹脂の電力ケーブル加工性が得られる。
【0028】
前記コモノマーとして炭素原子数が4個以上のα−オレフィンを含む直鎖状中密度ポリエチレン樹脂は、既存のポリエチレンの限界を克服することができる。具体的には、ラメラ厚みが100Å以上になるように製造し、95℃の水槽でフープ応力(hoop stress)3.5Mpaの条件で2,000時間以上耐えることができ、常温(23℃)及び低温(−40℃)での衝撃強度が夫々1,250、1,700kg/cm以上の物性を有する。
【0029】
前記直鎖状中密度ポリエチレン樹脂の重合工程では、α−オレフィンが炭素主鎖上にできるだけ多く結合されるようにし、樹脂の結晶(crystal)部分と非結晶(Amorphous)部分とを強く連結するタイ分子(tie molecule)の効率性を増大させることにより、長期耐熱性及び電気的特性を向上させる。
【0030】
本発明は、前記直鎖状中密度ポリエチレン樹脂を単独で用いることができるが、より優れた電気絶縁特性、特に耐トラッキング性を達成するためには、メルトインデックス0.1〜0.35g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、DSCエンタルピーが190〜250joule/g、分子量分布が3〜30である高密度ポリエチレン樹脂と混合して用いる。この際の含量は、直鎖状中密度ポリエチレン樹脂60〜95重量%と、高密度ポリエチレン樹脂5〜40重量%とで混合して用いることが、より優れた耐トラッキング性を達成することができる。直鎖状中密度ポリエチレン樹脂の含量が60重量%未満である場合や、高密度ポリエチレン樹脂の含量が40重量%を超過する場合は、クリープ特性が低下する可能性があり、直鎖状中密度ポリエチレン樹脂の含量が95重量%を超過する場合や、高密度ポリエチレン樹脂の含量が5重量%未満である場合は、耐トラッキング性の改善効果が微少である。
【0031】
本発明において、前記高密度ポリエチレン樹脂は0.1〜0.35g/10分(190℃、5Kg荷重条件)のMIを有する。前記MIが0.1g/10分未満であると、既存の加工器機での加工性が悪く、生産性が低下する。MIが0.35g/10分を超過すると耐トラッキング性の向上効果が低下する。より好ましくは、0.2〜0.3/10分(190℃、5Kg荷重条件)の範囲で用いると、より優れた耐トラッキング性が得られる。
【0032】
また、前記高密度ポリエチレン樹脂は、DSCエンタルピーが190joule/g未満であると長期耐熱性の改善効果が低下し、DSCエンタルピーが250joule/gを超過すると長期クリープ特性が低下する。より好ましくは、200〜220joule/gの範囲で用いると、より優れた長期クリープ特性が得られる。
【0033】
また、前記高密度ポリエチレン樹脂は、分子量分布が3〜30である。分子量分布が3未満であると加工性が低下し、分子量分布が30を超過すると長期耐熱性の改善効果が低下する。より好ましくは、5〜23の範囲で用いると、より優れた長期耐熱性が得られる。
【0034】
本発明において、前記直鎖状中密度ポリエチレン樹脂及び高密度ポリエチレン樹脂は、単峰(Unimodal)または二峰(Bimodal)性の分子量分布及び密度を有するものを用いることができる。
【0035】
本発明の組成物は、難燃剤、酸化安定剤、UV安定剤、熱安定剤及び加工助剤から選択される何れか一つ以上の添加剤0.1〜10重量部を含む。これら添加剤の含量は、樹脂の全体含量100重量部に対して、0.1〜10重量部で用いることが好ましい。0.1重量部未満であると20,000時間以上使用する場合高分子の劣化が加速化し、10重量部を超過すると絶縁体の機械的物性が劣化する可能性がある。
【0036】
前記酸化安定剤、UV安定剤及び熱安定剤は、電力ケーブルの運送、保管及び使用期間の間の長期クリープ特性の向上のために用いられるものであり、具体的に例えば、ヒンダードフェノール(hindered phenol)系、ホスフェート(phosphate)系、ベンゾフェノン(benzophenon)系、ヒンダードアミン光安定剤(HALS)系及びチオエステル系からなる群から選択されるものを用いることができる。
【0037】
また、難燃剤は、難燃性を付与するために用いられるものであり、具体的に例えば、水酸化アルミニウム(aluminum hydroxide)、水酸化マグネシウム(magnesium hydroxide)、ナノクレイ(nanoclay)からなる群から選択されるものを用いることができる。
【0038】
また、前記加工助剤は、耐熱性を向上させ、加工負荷を減少させるために用いられるものであり、具体的に例えば、フルオロエラストマー及びフルオロオレフィンコポリマー混合物からなる群から選択されるものを用いることができる。
【0039】
本発明の組成物に、半導電性及び長期耐候性の向上のために、カーボンブラックをさらに含むことができるが、特に、ポリマー100重量部に対して1〜5重量部の範囲で含むことが好ましい。1重量部未満であると20,000時間以上使用する場合高分子の分解が加速化し、5重量部を超過すると絶縁体の機械的物性が劣化する可能性がある。前記カーボンブラックの使用時、樹脂と混練し、マスターバッチの形態に製造して用いると、より優れた混和性が得られる。
【0040】
ケーブルの絶縁層は、絶縁性を維持しなければならず、UVなどの影響を受けないため、カーボンブラックを添加しなくてもよい。
【発明の効果】
【0041】
本発明は、従来のリサイクルが不可能であった架橋ポリエチレンに代替可能なものとして、リサイクルが可能で環境に優しく、耐熱性だけでなく絶縁特性、誘電特性及び放電特性に優れた非架橋タイプのポリエチレン樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の具体的な説明のために実施例を挙げて説明するが、本発明が下記の実施例に限定されるものではない。
【0043】
本発明の混合組成物の電気的特性、即ち、絶縁特性、誘電特性、放電特性を以下のように測定した。
【0044】
表1.電気的性能評価に必要な試験項目及び試験方法
【0045】
【表1】

【0046】
a.絶縁破壊試験
絶縁破壊試験は、耐電圧性を評価するテストであり、絶縁破壊耐圧が大きいほど絶縁性能が優れるといえる。これは、絶縁材料の評価において有効な尺度となる。
【0047】
−評価方法
絶縁破壊試験時の昇圧速度は500V/sにし、ワイブル分布(Weibull distribution)のために、できるだけ多くの試験片を利用して誤差範囲を最小化した。測定装備の電極は角の電界集中現象を防止するために湾曲形態に製作され、空気層の放電を防止するために、絶縁油内で破壊実験を行った。試験片は、そのサイズを10cmx10cm以上に十分に広くし、電極間の直接的な通電が起こらないようにした。
【0048】
b.絶縁抵抗試験
高圧電線の絶縁材として用いられるための重要な他の特性として、絶縁抵抗(Volume Resistivity[Ωcm])がある。これは、絶縁材料がどれほどその機能を果たすことができるかを判断する重要な尺度であり、絶縁抵抗が高いほど優れた絶縁材料であると判断することができる。
【0049】
−評価方法
絶縁抵抗の測定時、10kgfの荷重を利用して試験片をセルに装着し、測定は500Vを印加した1分後に行って、1mm程度の厚さを有する試験片5個を製作した。測定値はその平均値である。
【0050】
c.誘電特性
韓国の配電網はAC形態を有している。これは、DCの場合より安定的な電圧の供給が可能であるという長所があるためであるが、このために、電線の絶縁材料に対する誘電特性を把握することは非常に重要である。誘電損失の場合、電線の配電性能と発熱及びそれによる破壊などと非常に密接な関連を有するため、低いほど優れた絶縁材料であるといえる。
【0051】
−評価方法
誘電率の評価のために、dielectric analyzer(DEA)を用いた。試験片は、200μm程度に製作し、接触抵抗を最小化するために銀ペースト(silver paste)を試験片の表面に塗布した。測定は1MHzの周波数で、常温で行われた。
【0052】
d.誘電損失の評価
誘電損失はAC電力ケーブルにおいて非常に重要な項目であり、電線の性能及び劣化による破壊などを予測するにあたり非常に重要な資料となる。特に、絶縁材料の誘電損失は実際の事故と密接な連関を有するため、誘電損失が低い絶縁材料の選択は、ケーブルを設計するにあたり非常に必須な要素であるといえる。
【0053】
−評価方法
誘電損失の評価は、誘電率の評価方法と同様に行った。評価のためにdielectric analyzer(DEA)を用い、試験片は200μm程度に製作した。接触抵抗を最小化するために銀ペースト(silver paste)を試験片の表面に塗布し、測定は10−1Hz〜10Hzまでの周波数で、常温で行われた。
【0054】
e.耐トラッキング試験
耐トラッキング試験は、悪環境での絶縁材料の寿命を予測する試験方法であり、高電圧下で表面に残留する塩分などの影響により生じる破壊に対する加速試験方法である。
【0055】
−評価方法
耐トラッキング試験はIEC60587規格に従って行った。規格は、大きくConstant tracking voltage methodとStepwise tracking voltage methodとに分けられるが、本試験はconstant tracking voltage methodで行った。試験片は、横50mm、縦120mm、厚さ6mmのサイズに、ホットプレス(hot press)を利用して製作し、試験に用いられる汚染液として0.1wt%NHCl+0.02wt%の非イオン性薬物(non−ionic agent)水溶液を用いた。(非イオン性薬物としてはTriton X−100を使用)5個の試験片を地面に対して45度の角度で固定した後、両電極の間に汚染液を0.6ml/minの速度で流しながら4.5kVの電圧を印加し、6時間(「IEC60587規格中Class 1A 4.5基準)以内に破壊が発生するか否かを判断し、PassまたはFailに評価した。
【0056】
f.耐熱性試験I
電力ケーブルの絶縁体の耐熱性の分析は、韓国電力公社の標準規格のうちES−6145−0006で提示する試験方法で行った。この規格4.3.5項で提示するように、常温試験はKSC3004の19項に従って行い、加熱試験はKSC3004の20項(加熱)に従って行って、この際の加熱温度は、120℃の対流オーブン(convection oven)で120時間置いた後取り出し、さらに室温24℃で4時間放置した後、10時間以内に引張強度及び伸び率を測定した。
【0057】
g.耐熱性試験II
電力ケーブルの絶縁体の長期耐熱性の分析は、自体実験方法を利用して評価した。前記耐熱性試験Iと同様の方法で行った。但し、110℃の対流オーブン(convection oven)で夫々5,000時間、10,000時間置いた後取り出し、さらに室温24℃で4時間放置した後、10時間以内に伸び率を測定した。
【0058】
h.加工性
加工性は、ドイツBrabender社の実験用2軸圧出器(スクリュー直径19mm、L/D20、Counter Rotating)で、バレル温度を190/200/210℃で、スクリューRPMを60に固定して圧出し、圧出されるストランドの表面及び圧出負荷を比較して測定した。
【0059】
i.耐候性
屋外使用に対する耐候性の評価は、Q Pannel社のQUVを利用して、UVの照射4時間(60℃)、非照射4時間(50℃)のサイクルで加速実験を行った。
【実施例1】
【0060】
直鎖状中密度ポリエチレン樹脂(A1)は、メルトインデックス1.9g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、DSCエンタルピーが150joule/gで、分子量分布が3.5であり、コモノマーとして炭素原子数が8個のα−オレフィンを含む樹脂を使用した。
【0061】
高密度ポリエチレン樹脂(B1)は、メルトインデックス0.2g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、DSCエンタルピーが220joule/gで、分子量分布が23である高密度ポリエチレン樹脂を使用した。
【0062】
添加剤(C)は、酸化安定剤と熱安定剤及び加工助剤を使用し、樹脂と混合して電力ケーブル用組成物を製造した。
【0063】
酸化安定剤としては、1次酸化防止剤であるチバガイギー社のIrganox1330を0.2重量部、2次酸化防止剤であるチバガイギー社のIrganox168を0.2重量部使用し、熱安定剤としては、アデカ社のチオエステル系AO412sを0.3重量部使用した。加工助剤としては、Dynamar社のFX9613を0.1重量部使用した。
【0064】
カーボンブラック(D)は、チタンがコーティングされた平均粒径18nm、表面積100m/g、DPB吸水性150cc/100g特性を有する製品を使用した。前記組成物からなる夫々の試験片を製造し、絶縁特性、誘電特性、放電特性を測定した。測定された物性は、下記表5に示した。
【実施例2】
【0065】
前記実施例1と同一の樹脂(A1、B1)を使用し、含量を下記表2に示すように変化させて組成物を製造し、同様の方法により物性を測定した。
【実施例3】
【0066】
直鎖状中密度ポリエチレン(A2)は、メルトインデックス1.4g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、DSCエンタルピーが190joule/gで、分子量分布が19であり、コモノマーとして炭素原子数が8個のαオレフィンを含む樹脂を使用した。含量を下記表1に示すように使用したことを除き、実施例1と同様に製造し、同様の方法により物性を測定した。
【実施例4】
【0067】
高密度ポリエチレン樹脂(B2)は、メルトインデックス0.3g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、DSCエンタルピーが200joule/gで、分子量分布が5である高密度ポリエチレン樹脂を使用し、含量を下記表1に示すように使用したことを除き、実施例1と同様に製造し、同様の方法により物性を測定した。
【実施例5】
【0068】
樹脂として直鎖状中密度ポリエチレン樹脂(A1)を単独で使用したことを除き、前記実施例1と同様に製造し、物性を測定した。
【実施例6】
【0069】
カーボンブラックを使用していないことを除き、実施例5と同様に製造し、夫々の物性を測定した。
【0070】
表2
【0071】
【表2】

【0072】
[比較例1]
現在22.9KV架空ケーブル(Overhead cable)に用いられており、特に耐トラッキング性が改善されて韓国電力公社の規格(ES−6145−0021:ACSR/AW−TR/OC)を満足する製品の絶縁層に用いられている、架橋度80%の架橋ポリエチレン樹脂(過酸化物架橋タイプ)を使用した。
【0073】
[比較例2]
実施例1で使用した直鎖状中密度ポリエチレン樹脂(A1)及び高密度ポリエチレン樹脂(B1)を使用し、下記表3に示すように含量を変化させて製造した後、実施例1と同様の方法により各項目を測定した。
【0074】
[比較例3]
メルトインデックス1.8g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、DSCエンタルピーが120joule/gで、分子量分布が3.5であり、コモノマーとして炭素原子数が8個のαオレフィンを含む直鎖状中密度ポリエチレン樹脂(a1)を使用し、下記表3のような含量で使用したことを除き、実施例1と同様の方法により製造し、各項目を測定した。
【0075】
[比較例4]
実施例1で使用した直鎖状中密度ポリエチレン樹脂(A1)を使用し、メルトインデックス0.2g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、DSCエンタルピーが260joule/gで、分子量分布が3である高密度ポリエチレン樹脂(b1)を使用して実施例1と同様の方法により製造し、各試験項目を測定した。
【0076】
[比較例5]
メルトインデックス0.8g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、DSCエンタルピーが205joule/gで、分子量分布が3.0である直鎖状中密度ポリエチレン樹脂(a2)を使用して実施例1と同様の方法により製造し、各試験項目を測定した。
【0077】
[比較例6]
メルトインデックス3.0g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、DSCエンタルピーが150joule/gで、分子量分布が3.7である直鎖状中密度ポリエチレン樹脂(a3)を使用して実施例1と同様の方法により製造し、各試験項目を測定した。
【0078】
[比較例7]
実施例1で使用した直鎖状中密度ポリエチレン樹脂(A1)を使用し、メルトインデックス0.3g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、DSCエンタルピーが180joule/gで、分子量分布が4である高密度ポリエチレン樹脂(b2)を使用し、実施例1と同様の方法により各試験項目を測定した。
【0079】
[比較例8]
実施例1で使用した直鎖状中密度ポリエチレン樹脂(A1)を使用し、メルトインデックス0.1g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、DSCエンタルピーが210joule/gで、分子量分布が2.1である高密度ポリエチレン樹脂(b3)を使用して実施例1と同様の方法により製造し、各試験項目を測定した。
【0080】
表3
【0081】
【表3】

【0082】
表4
【0083】
【表4】

【0084】
表5
【0085】
【表5】

【0086】
表6
【0087】
【表6】

【0088】
表7
【0089】
【表7】

【0090】
前記表5〜7に示すように、本発明による組成物を使用する場合、非架橋タイプのポリエチレン樹脂を使用しても、従来の架橋ポリエチレンを使用する場合と同等以上の物性を示すことが分かる。特に、従来の架橋ポリエチレン組成を使用した比較例1に比べ、絶縁特性、放電特性及び耐熱性がより優れることが分かる。また、本発明による組成物を使用する場合、耐候性が優れることが分かる。
【0091】
本出願は、韓国特許庁に2009年3月24日に出願された、韓国特許出願番号10−2009−025128に関連する内容を含み、その全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【0092】
本発明は特定の実施形態により示されているので、当業者が、特許請求の範囲に記載されている本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、様々な変更や改良を施すことができることが理解されるだろう。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明は、リサイクルが可能で、環境に優しく、優れた絶縁特性、誘電特性、放電特性を、良好な耐熱性と共に有する、非架橋タイプのポリエチレン樹脂組成物を提供する。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コモノマーとして炭素原子数が4、又は5以上のα−オレフィンを含み、メルトインデックス0.6〜2.2g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、示差走査熱量測定(DSC)エンタルピーが130〜190joule/gで、分子量分布が2〜30である直鎖状中密度ポリエチレン樹脂を含むポリマー100重量部に対して、難燃剤、酸化安定剤、UV安定剤、熱安定剤及び加工助剤から選択される何れか一つ以上の添加剤0.1〜10重量部を含む電力ケーブル用非架橋ポリエチレン組成物。
【請求項2】
ポリマー100重量部中、メルトインデックス0.1〜0.35g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、DSCエンタルピーが190〜250joule/g、分子量分布が3〜30である高密度ポリエチレン樹脂5〜40重量%をさらに含む請求項1に記載の電力ケーブル用非架橋ポリエチレン組成物。
【請求項3】
ポリマー100重量部に対して、カーボンブラック1〜5重量部をさらに含む請求項1又は2に記載の電力ケーブル用非架橋ポリエチレン組成物。
【請求項4】
炭素原子数が4、又は5以上のα−オレフィンは、ブテン、ペンテン、メチルペンテン、ヘキセン、オクテン及びデセンから選択される請求項1に記載の電力ケーブル用非架橋ポリエチレン組成物。
【請求項5】
直鎖状中密度ポリエチレン樹脂は、コモノマーとして炭素原子数が4、又は5以上のα−オレフィンを含み、メルトインデックス1.4〜1.9g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、DSCエンタルピーが150〜190joule/gで、分子量分布が3.5〜23である請求項1に記載の電力ケーブル用非架橋ポリエチレン組成物。
【請求項6】
高密度ポリエチレン樹脂は、メルトインデックス0.2〜0.3g/10分(190℃、5Kg荷重条件)、DSCエンタルピーが200〜220joule/g、分子量分布が5〜23である請求項2に記載の電力ケーブル用非架橋ポリエチレン組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載の非架橋ポリエチレン組成物を用いた電力ケーブル。
【請求項8】
請求項1乃至6の何れか一項に記載の非架橋ポリエチレン組成物を絶縁層、半導電層またはシース層に用いた多層電力ケーブル。


【公表番号】特表2012−521632(P2012−521632A)
【公表日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−501929(P2012−501929)
【出願日】平成22年3月22日(2010.3.22)
【国際出願番号】PCT/KR2010/001738
【国際公開番号】WO2010/110559
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(508171000)エスケー イノベーション  シーオー., エルティーディー. (19)
【出願人】(511230750)エスケー グローバル ケミカル シーオー., エルティーディー (1)
【氏名又は名称原語表記】SK GLOBAL CHEMICAL CO., LTD
【Fターム(参考)】