説明

電力ケーブル

【課題】遮蔽層に加工を施すことなく、より小さい曲げ半径で曲げても遮蔽層に皺が寄らない電力ケーブルを提供する。
【解決手段】導体2の外側に、内部半導電層3、絶縁層4、外部半導電層5、遮蔽層6及びシース層8を順次同心円状に被覆して構成される電力ケーブルであって、遮蔽層6は、遮蔽用金属テープを一部重なるようにして螺旋状に巻回して設けられ、シース層8は、内側に配置される第一シース層9と外側に配置される第二シース層10とを有し、第一シース層9は、クッション性を有する弾性発泡体からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、市街地等において電力線等の地中埋設化が進められているが、地中埋設工事の作業効率を向上させ工事費を削減するためには、電力線として敷設されるケーブルを大きい曲率(小さい径)で曲げて敷設できるようにして配置スペースを小さく抑えることが必要である。しかし、従来の電力ケーブルは、3本の電力ケーブルをより合わせたときの仕上がり外径の8倍径(直径)まで曲げることができれば可とされていた。ここで仕上がり外径とは、3本の電力ケーブルの長さ方向に対して直交する断面形状に外接する円の直径である。
電力ケーブルを許容径以下の曲げ半径で曲げると遮蔽層に皺が寄ってしまい、これを継続使用すると不具合を生じる場合がある。このような従来の電力ケーブルについて図4を参照して説明する。
【0003】
図4は、従来の電力ケーブル21の長さ方向に沿う部分断面を示した概略構成図である。電力ケーブル21は、銅線を撚り合わせた導体に内部半導電層、絶縁層及び外部半導電層を順次同心円状に被覆してなるケーブルコア22を中心材とし、該ケーブルコア22の外側に遮蔽層26及びシース層28等を同心円状に被覆して構成する。遮蔽層26は、帯状の軟銅テープ等の遮蔽用金属テープを一部重なるようにして螺旋状にケーブルコア22の外側に巻き付けて形成している。
【0004】
図5は、図4に示す電力ケーブル21を仕上がり外径の許容径以下の曲げ半径で円弧状に屈曲させた場合に遮蔽層26に皺が寄る理由を考察した概略図であり、遮蔽層26を構成する遮蔽用金属テープのうち隣接する部分261,262を例にとり示している。なお、図5においては説明の便宜上、遮蔽層26の変形態様を誇張して示し、シース層28を省略して示している。
【0005】
電力ケーブル21を円弧状に曲げると、遮蔽層26にも曲げ応力が加わり円弧状に曲がる。遮蔽層26は、ケーブルコア22の外側に遮蔽用金属テープを螺旋状に巻回して形成したものであるため、電力ケーブル21が円弧状に曲がると、隣接する部分261,262が相互にずれて、図5の実線で示したような変形配置になろうとする。円弧の外周側においては、部分261と部分262の重なりが小さくなり、部分261の端部261aがケーブルコア22から離れる方向に浮き上がろうとする。また、円弧の内周側においては、部分261と部分262の重なりが大きくなり、部分262が部分261の内側に摺動しながら入り込む。すると、部分261は部分262に押されてA方向に撓み、部分261の端部261bがケーブルコア22から離れる方向に浮き上がろうとする。
【0006】
図4に示した通り遮蔽層26の外側にはシース層28を形成しているので、端部261a,261bの浮き上がりやずれがシース層28により抑制され、端部261a,261bには図5中のB方向及びC方向の応力が加わる。これにより部分261は図5中仮想線a,bで示したような形状となり、遮蔽用金属テープに変形が生じ遮蔽層26に皺が寄る。この状態で電力ケーブル21が熱膨張・熱収縮すると、この遮蔽層26が破断したり、遮蔽層26に寄った皺がケーブルコアに損傷を与えたりするおそれがある。
【0007】
このような問題に対し、遮蔽層を構成する遮蔽用金属テープの厚さ方向に穴を設けたり(特許文献1参照)、遮蔽用金属テープの面に凹凸加工を施したり(特許文献2参照)することにより、負荷応力を分散させて遮蔽層の可撓性を向上させようとする方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開昭63−025425号公報
【特許文献2】実開昭62−066115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、遮蔽用金属テープに上記加工を施すと、遮蔽用金属テープの長さ方向の引張強さが低下するため、遮蔽用金属テープを巻回する場合や電力ケーブルが熱膨張・熱収縮した場合等に遮蔽用金属テープが破断するおそれがある。また、遮蔽用金属テープに上記加工を施すと製造コストが向上する。
【0010】
本発明は上記課題を解決しようとしてなされたものであり、遮蔽層に加工を施すことなく、より小さい曲げ半径で曲げても遮蔽層に皺が寄らない電力ケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題を解決すべく、請求項1に記載の発明は、導体の外側に、内部半導電層、絶縁層、外部半導電層、遮蔽層及びシース層を順次同心円状に被覆して構成される電力ケーブルであって、
前記遮蔽層は、遮蔽用金属テープを一部重なるようにして螺旋状に巻回して設けられ、
前記シース層は、内側に配置される第一シース層と外側に配置される第二シース層とを有し、前記第一シース層は、クッション性を有する弾性発泡体からなることを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電力ケーブルであって、前記遮蔽層の外側には押さえ巻き層が設けられ、
前記押さえ巻き層の外側にシース層が設けられていることを特徴とする。
【0013】
前記第一シース層の厚さは、前記シース層の厚さの30〜60%であることが好ましい。
【0014】
前記第一シース層は、発泡率が40%以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、電力ケーブルを曲げたときの遮蔽層の変形を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】電力ケーブルの径方向に沿った断面図である。
【図2】曲げる前の状態の電力ケーブルの長さ方向に沿う部分断面を示す概略構成図である。
【図3】曲げた状態の電力ケーブルの長さ方向に沿う部分断面を示す概略構成図である。
【図4】曲げる前の状態の従来の電力ケーブルの長さ方向に沿う部分断面を示す概略構成図である。
【図5】曲げた状態の従来の電力ケーブルの一部を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。ただし、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されているが、発明の範囲を以下の実施形態及び図示例に限定するものではない。
【0018】
図1は電力ケーブル100の径方向に沿った断面図であり、図2は曲げる前の状態の単心の電力ケーブル1の長さ方向に沿う部分断面を示す概略構成図である。図3は、図2に示す電力ケーブル1を円弧状に屈曲させた状態の遮蔽層6の変形態様を示す概略構成図であって、遮蔽層6を構成する遮蔽用金属テープのうち隣接する部分61,62を例にとって示している。なお、図2,3においては押さえ巻き層7を省略して示している。また、図3においては説明の便宜上、遮蔽層6の変形態様を誇張して示している。
【0019】
図1に示す電力ケーブル100は、単心の電力ケーブル1を3本撚り合わせて構成したものである。具体的には、電力ケーブル1はCV(Crosslinked polyethylene)ケーブルであり、電力ケーブル100はCVTケーブル(CVケーブルのトリプレックス形)である。本実施形態に係る電力ケーブル100は、6kv 60sqの規格のCVTケーブルであるが、本発明はかかる規格に制限されるものではない。
【0020】
電力ケーブル1は、導体2、内部半導電層3、絶縁層4、外部半導電層5、遮蔽層6、押さえ巻き層7及びシース層8を備えている。
すなわち、銅線を撚り合わせてなる導体2の外周に、内部半導電層3を介して架橋ポリエチレン樹脂製の絶縁層4を設け、該絶縁層4の外周には外部半導電層5を形成する。内部半導電層3は、電圧印加時における電界の集中による部分放電を抑制している。同様の目的で、外部半導電層5が設けられている。
【0021】
外部半導電層5の外側に遮蔽層6を設けている。遮蔽層6は、軟銅テープ、鉄テープ等の遮蔽用金属テープを電力ケーブル1の長さ方向に沿って、一部重なるようにして螺旋状に巻回して形成する(図2参照)。該遮蔽層6の外周には押さえ巻き層7を設け、これにより遮蔽層6を外側から押さえ付けている。
【0022】
そして、押さえ巻き層7の外側には、シース層8を設けている。シース層8は電力ケーブル1の最外層に配置されている。このシース層8は二層構造になっており、第一シース層(内層)9と第二シース層(外層)10とを有している。第一シース層9の厚さは、シース層8の厚さの30〜60%の厚さである。
【0023】
第一シース層9及び第二シース層10は、塩化ビニル樹脂を主成分とする組成物からなる。その具体的な組成は、塩化ビニル樹脂100重量部に対して、可塑剤30〜100重量部、安定剤1〜10重量部、充填剤0〜100重量部、更に必要に応じて滑材、酸化防止剤、光安定剤等の各種添加剤及び改質材を配合したものが用いられている。
【0024】
上記可塑剤としては、一般に塩化ビニル樹脂に対して用いられている可塑剤であればよく、例えばポリエステル系、アジピン酸系、トリメリット酸系、フタル酸系等が挙げられる。
上記安定剤としては、鉛安定剤、Ca/Zn系安定剤、スズ系安定剤、ホスファイト系安定剤、エポキシ化合物等を用いる。鉛安定剤としては、三塩基性硫酸鉛、三塩基性マレイン酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛、二塩基性フタル酸鉛、鉛白、二塩基性亜リン酸鉛、塩基性亜硫酸鉛等が挙げられる。Ca/Zn系安定剤としては、ステアリン酸カルシウム、リシノール酸カルシウム、ラウリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、リシノール酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛等が挙げられる。更に安定化剤として、市販のアルカマイザー1〜5(協和化学工業(株)製)や過塩素酸型ハイドロタルサイトを添加してもよい。また、スズ系安定剤としては、有機スズメルカプタイド、有機スズマレエート、有機スズカルボキシレート等が挙げられる。
充填剤としては、塩化ビニル樹脂組成物に一般に使用される増量剤で炭酸カルシウム、カオリンクレー、タルク等を用いる。炭酸カルシウムには、石灰石等の天然石を粉砕した重質炭酸カルシウム、化学的製法で得られる沈降性炭酸カルシウム等が挙げられ、これらを表面処理したものを用いてもよい。
【0025】
第一シース層9は、上記塩化ビニル樹脂組成物を発泡させて得た弾性発泡体であり、クッション性を有する。ここでクッション性とは、電力ケーブル1を曲げた際に生じる遮蔽層6の変形を吸収し、遮蔽層6に皺が寄らないようにできる程度の弾力性をいう。この第一シース層9は、上記塩化ビニル樹脂組成物に発泡剤を配合したものであってもよいし、上記塩化ビニル樹脂組成物に加圧した窒素ガス、二酸化炭素、ブタン、ペンタン、又はその他の揮発性炭化水素系ガスを供給して押出しと同時に発泡させたものであってもよい。また、この第一シース層9の発泡率は40%以上であることが好ましい。ここで、発泡率とは、「発泡させていない塩化ビニル樹脂組成物の密度」と「発泡させた第一シース材料の密度」の比率である。
なお、第一シース層9は、遮蔽層6を被覆してクッション性を有するものであればよく、塩化ビニル樹脂製のシースに限られるものではない。
【0026】
次に本実施形態の作用について説明する。
図2に示すように電力ケーブル1の遮蔽層6を、軟銅テープを互いに一部重なるようにして螺旋状に巻回して形成している。この遮蔽層6の外側には、クッション性を有する第一シース層9を形成している。
第3図は、電力ケーブル1を円弧状に曲げたときの状態を概念的に示すもので、遮蔽層6は一部のみを示し、他は省略している。遮蔽層6は、外部半導電層5の外側に軟銅テープを螺旋状に巻回して形成されているため、電力ケーブル1が円弧状に曲がると、隣接する部分61,62が図3に示したような変形配置となる。すなわち円弧の外周側においては、部分61と部分62の重なりが小さくなり、部分61の端部61aが外部半導電層5から離れる方向に浮き上がろうとする。また、円弧の内周側においては、部分61と部分62の重なりが大きくなり、部分62が部分61の内側に摺動しながら入り込む。これにより、部分61は部分62に押されてD方向に撓み、部分61の端部61bが外部半導電層5から離れる方向に浮き上がろうとする。しかし、遮蔽層6の外側にはクッション性を有する弾性発泡体からなる第一シース層9を設けており、第一シース層9が遮蔽層6の浮き上がりやずれに対応して変形可能であるため、部分61の端部61a,61bは外部半導電層5から離れる方向に浮き上がったり、部分61,62間でずれたりすることができる。これにより軟銅テープが大きく変形せず、遮蔽層6に皺が寄らない。
【0027】
以上のように、本実施形態によれば、遮蔽層の外側であってシース層の内側に弾性発泡体からなる第一シース層を設けているため、電力ケーブルを曲げても遮蔽層が変形したり皺が寄ったりすることを効果的に抑制できる。これにより遮蔽用金属テープが破断したり、ケーブルコアを損傷したりすることを抑制できる。また、本発明の電力ケーブルは従来より小さい曲げ半径で曲げることが可能であるから、ケーブルの地中埋設時に設置スペースを小さく抑えることができ、これにより地中埋設工事の作業効率が向上するとともに工事費を削減することができる。
また、遮蔽層を構成する遮蔽用金属テープには加工を加えておらず、シース層の内層側を弾性発泡体とするのみなので製造コストを低く抑えることができる。
【実施例1】
【0028】
続いて本願発明の実施例について説明する。
6kv 60sqの規格の電力ケーブル100において、該電力ケーブル100の第一シース層9及び第二シース層10の厚さを変更して、その許容曲げ半径及び絶縁抵抗値を比較した。その方法と結果を以下説明する。なお、第一シース層9の厚さと第二シース層10の厚さの合計(シース層8の厚さ)は、2.2mmで統一している。また、遮蔽層6は上記の通り軟銅テープを螺旋状に巻回して形成するものであるが、その軟銅テープは厚さ0.1mmのものを用いている。
【0029】
第一シース層9及び第二シース層10の厚さを変更した電力ケーブル100を所定の曲げ半径で曲げた後、これを解体し、遮蔽層6に皺が発生していないか確認を行った。電力ケーブル100の遮蔽層6に皺が発生しない最も小さい曲げ半径を「許容曲げ半径」として表1に示す。表1中のDは電力ケーブル100の仕上がり外径を示している。また、JIS C3005「ゴム・プラスチック絶縁電線試験方法」に従って各電力ケーブル100の絶縁抵抗値を測定し、その値を「絶縁抵抗(MΩ・km)」として表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表1中、実施例1,2に示したように、第一シース層9の割合を30〜60%とした場合には、曲げ半径を電力ケーブル100の外径Dの5倍として屈曲させても遮蔽層6に皺が寄ることはなく、絶縁抵抗値も良好であった。ここで、第一シース層9の割合とは、シース層8の厚さ(第一シース層9の厚さと第二シース層10の厚さの合計)に対して第一シース層9の厚さが占める比率である。
【0032】
表1中、実施例3に示したように、第一シース層9の割合を20%とした場合には、曲げ半径を電力ケーブル100の外径Dの6倍の径までは曲げても遮蔽層6に皺が寄らなかったが、外径Dの5倍として屈曲させると遮蔽層6に皺が寄ってしまった。
【0033】
表1中、実施例4に示したように、第一シース層9の割合を70%とした場合には、曲げ半径を電力ケーブル100の外径Dの5倍として屈曲させても遮蔽層6に皺は寄らなかった。絶縁抵抗値は、基準値100MΩ・km以上ではあったが、実施例1〜3に比較して低い値であった。
【符号の説明】
【0034】
1 電力ケーブル
2 導体
3 内部半導電層
4 絶縁層
5 外部半導電層
6 遮蔽層
7 押さえ巻き層
8 シース層
9 第一シース層
10 第二シース層
100 電力ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体の外側に、内部半導電層、絶縁層、外部半導電層、遮蔽層及びシース層を順次同心円状に被覆して構成される電力ケーブルであって、
前記遮蔽層は、遮蔽用金属テープを一部重なるようにして螺旋状に巻回して設けられ、
前記シース層は、内側に配置される第一シース層と外側に配置される第二シース層とを有し、前記第一シース層は、クッション性を有する弾性発泡体からなることを特徴とする電力ケーブル。
【請求項2】
前記遮蔽層の外側には押さえ巻き層が設けられ、
前記押さえ巻き層の外側にシース層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電力ケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−228111(P2011−228111A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96645(P2010−96645)
【出願日】平成22年4月20日(2010.4.20)
【出願人】(502308387)株式会社ビスキャス (205)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】