説明

電力伝送システム用の誘電材料

【課題】非接触電力伝送システムにおける、高い誘電特性および低い誘電損失を有し、順応性の良い効率的な材料の提供。
【解決手段】誘電材料は、(Mg1-xSrx)yTiO(2+y)を含む酸化物材料を含んでいる。式中、xは0及び1の間の値に変化することができ、したがって0≦x≦1であり、yは0、1又は2であり得る。さらに、電源に連結された第1のコイル12、及び負荷に連結された第2のコイル16を含む電力伝送システムが開示される。このシステムでは、誘電材料を含む場集束素子18は第1のコイル12と第2のコイル16との間に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に電力伝送システムに関し、特に共鳴に基づく非接触電力伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
瞬間的又は連続的なエネルギー伝送が必要とされるが、相互接続ワイヤは不都合である特定の用途では、非接触電力伝送が望ましい。1つの非接触電力伝送方法は、一次変圧器コイルが主磁場を発生し、一次変圧器コイルの近傍にある二次変圧器コイルが対応する電圧を発生するという原理に基づいて働く電磁誘導法である。二次変圧器コイルによって受信される磁場は2つのコイル間の距離の二乗の関数として減少し、したがって数ミリメートルを超える距離では一次コイルと二次コイルとのカップリングは弱い。
【0003】
もう1つの非接触電力伝送方法では、共鳴誘導カップリングによって誘導電力伝送の効率を高めることが試みられている。送信機と受信機の素子は同じ周波数で共鳴し、最大の誘導はこの共鳴周波数で起こる。しかし、かかる共鳴誘導は負荷及びギャップの変動に対して感受性を有する。
【0004】
現在容認されているものより長い距離だけ隔てられたコイルを用いて動作することができ、位置ずれ又は負荷の変動を受けた場合でも有効である効率的な非接触電力伝送システムに対するニーズが存在している。さらに、高い誘電特性及び低い誘電損率を有していて、所要の周波数範囲で電力伝送システムに使用できる順応性のよい効率的な材料に対するニーズも存在している。
【発明の概要】
【0005】
簡単に述べれば、一実施形態では、電力伝送システムが提供される。かかる電力伝送システムは、誘電材料を含む場集束素子を含んでいる。誘電材料は、(Mg1-xSrx)yTiO(2+y)を含む酸化物材料を含んでいる。式中、xは0及び1の間の値に変化することができ、したがって0≦x≦1であり、yは0、1又は2であり得る。
【0006】
一実施形態では、電力伝送システムが提供される。かかる電力伝送システムは、電源に連結された第1のコイル及び負荷に連結された第2のコイル、並びに誘電材料を含みかつ第1のコイルと第2のコイルとの間に配置された場集束素子を含んでいる。誘電材料は、(Mg1-xSrx)yTiO(2+y)を含む酸化物材料を含んでいる。式中、xは0及び1の間の値に変化することができ、したがって0≦x≦1であり、yは0、1又は2であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0007】
本発明の上記その他の特徴、態様及び利点は、添付の図面を参照しながら以下の詳細な説明を読んだ場合に一層よく理解されよう。添付の図面中では、図面全体を通じて類似の部分は同一の符号で示されている。
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る例示的な非接触電離システムを示している。
【図2】図2は、本発明の様々な実施形態に係る場集束素子の複数の例示的な構造を示している。
【図3】図3は、本発明の一実施形態に係る埋め込み材料の複数の例示的な構造を示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態は、電力伝送システム及び電力伝送システムのために使用できる誘電材料を包含する。
【0009】
本明細書及びそれに続く特許請求の範囲中では、“a”、“an”及び“the”を伴う単数形で記載したものであっても、前後関係から明らかに他の意味が示されない限り、複数の場合も含めて意味する。
【0010】
非接触電力伝送システムは、通例、一次コイルと二次コイルとの間における短距離電力伝送によって特徴付けられる。例えば、誘導電力伝送システムの一実施形態は、一次コイル及び二次コイルを用いて、電気的に隔離された2つの回路間で電力を伝送する。電源に連結されると、一次コイルの回りに磁場が確立される。一次コイルから二次コイルに伝送される電力の量は、二次コイルを結合する一次磁場のレベルに比例する。電気変圧器は、透磁率の高い磁気コアを用いて一次コイルと二次コイルとの間で磁場を結合し、かくして少なくとも約98%程度の効率を達成する。しかし、かかるシステムを非接触電力伝送用に構成すると、2つのコイル間の空隙によって磁場カップリングが低減する。かかるカップリングの低減は非接触電力伝送システムの効率に影響を及ぼす。
【0011】
本明細書中に開示されている若干の実施形態は、負荷の変動に対する感受性の低下、コイルの位置ずれ時の効率的な電力伝送、及び電力伝送効率を高める場集束構造体を有する頑強な非接触電力伝送システムを提供する。
【0012】
図1は、電源14に連結されて磁場(図示せず)を発生するように構成された第1のコイル12を含む、本発明の一実施形態に係る非接触電力伝送システム10の一例を示している。第2のコイル16は、第1のコイル12からの電力を受け取るように構成されている。本明細書中で使用する「第1のコイル」という用語は「一次コイル」といわれることもあり、また「第2のコイル」という用語は「二次コイル」といわれることもある。一次コイル及び二次コイルは、例えば銅のような任意の良好な導電性材料で作製することができる。電源14からの磁場を集束させるため、第1のコイル12と第2のコイル16との間に場集束素子18が配置されている。別の実施形態では、場集束素子は電場及び/又は電磁場を集束させるために使用できる。「磁場集束素子」及び「場集束素子」という用語は互換的に使用される。一実施形態では、磁場集束素子18は自己共鳴コイルとして構成され、第1のコイルを介して励起された場合に定在波電流分布を有する。別の実施形態では、磁場集束素子は能動アレイ又は受動アレイとして動作する複数の共鳴器を含み、各々の共鳴器は定在波電流分布を有する自己共鳴コイルとして構成される。さらに別の実施形態では、磁場集束素子は複数の組のかかる共鳴器を含み、各組のかかる共鳴器は特定の位相で励起される。これらの組の共鳴器を異なる位相で励起した場合、所望の方向の場集束を増強し得ることは容易に理解されよう。
【0013】
磁場集束素子18はさらに、第2のコイル16上に磁場を集束させて、第1のコイル12と第2のコイル16とのカップリングを増強するように構成されている。一実施形態では、場集束素子18に定在波電流分布を創成することにより、磁場集束素子18の回りに不均一な磁場分布が発生される。図示された実施形態では、場集束素子18は一例として第1のコイル12に近接して配置されている。若干のシステムでは、場集束素子18を第2のコイル16に近接して配置することが有利であり得る。電源14から伝送される電力を利用するため、負荷20が第2のコイル16に連結されている。若干の実施形態では、非接触電力伝送システム10はまた、同時に第2のコイルから第1のコイルへ電力を伝送して、このシステムが双方向の電力伝送を行い得るように構成することもできる。可能な負荷の非限定的な例には、電球、電池、コンピューター、センサー、及び動作のために電力を必要とする任意のデバイスがある。
【0014】
非接触電力伝送システム10は、電源14から負荷20に電力を伝送するために使用できる。一実施形態では、電源14は、AC電力をより高い周波数に変換するための電力変換エレクトロニクスと組み合わせた単相AC発電機又は三相AC発電機からなっている。第1のコイル12が磁場集束素子18の共鳴周波数で励起された場合、磁場集束素子18内でこの場集束素子の2つの開放端(22、24)間に定在波電流分布が発生する。この定在波電流分布により、磁場集束素子18の回りに不均一な磁場分布が生じる。かかる不均一な電流分布は、任意の所望方向(例えば、この例では第2のコイル16の方向)に磁場を集束させるように構成されている。共鳴周波数で動作する場合、磁場集束素子18に対する小さい励起であっても、磁場集束素子の長さ25に沿って大きい振幅の電流分布が生じる。このような大きい電流マグニチュードの不均一な分布により、第2のコイル16の方向に増幅されかつ集束された磁場が生じ、その結果としてより高い効率の電力伝送が得られる。
【0015】
図2は、本発明の様々な実施形態に係る場集束素子の構造の複数の例を示している。一実施形態では、場集束素子は単一のループコイル50を含んでいる。別の実施形態では、場集束素子は分割リング構造体52、渦巻構造体54、スイスロール構造体56又は螺旋コイル58のように複数のターンを含んでいる。特定の用途に関する構造の選択は、場集束素子のサイズ及び自己共鳴周波数によって決定される。例えば、(例えば、約1ワット未満の)低電力用途では、約1000MHzまでの共鳴周波数が可能である。(例えば、約100ワット〜約500キロワットの)高電力用途では、数百kHz程度の共鳴周波数が可能である。
【0016】
本発明の電力伝送システムの一実施形態では、場集束素子18の共鳴器は、例えば誘電性空洞共鳴器の形態で誘電材料から作製することができる。場集束素子に使用される誘電材料は、高い誘電定数(誘電率、ε)及び低い損失正接を有することが望ましい。高い誘電定数は共鳴器の所定の小さい寸法で低い共鳴周波数を達成するのに役立つ一方、低い損失正接は誘電損失を許容範囲内に保つために望ましい。
【0017】
一実施形態では、場集束素子18は、共鳴周波数で励起された際に磁場を集束させる自己共鳴コイルからなっている。この共鳴器は、その自己共鳴周波数が自己キャパシタンス及び自己インダクタンスに依存する任意の形状の自己共鳴コイルである。このコイルの自己共鳴周波数は、コイルの幾何学的パラメーターに依存する。例えば、螺旋共鳴器コイルの場合、共鳴周波数は、螺旋の全長が電磁励起の半波長又は半波長の倍数であるようなものである。結果として、低い周波数におけるこれらの共鳴器の設計は空間的制約のため困難である。共鳴器のサイズを小さくする1つの方法は、共鳴器を高い誘電定数の媒体中に埋め込むことである。
【0018】
一実施形態では、場集束素子18の共鳴器又は共鳴器アレイは、より小さいサイズの共鳴器でより低い共鳴周波数を達成するため、高い誘電定数を有する材料又は高い透磁率を有する磁気材料又は高い誘電率及び高い透磁率を有する磁気誘電性媒体中に埋め込まれる。高い透磁率の材料は共鳴器の自己インダクタンスを高め、高い誘電率の材料は共鳴器の自己キャパシタンスを高めることで、共鳴の周波数を低下させる。別の実施形態では、高い透磁率の材料はまた、一次コイルと場集束素子との間及び場集束素子と二次コイルとの間のカップリングを増大させるように構成されている。
【0019】
共鳴器を誘電性媒体中に埋め込んだ場合、コイルのターン間におけるターン間キャパシタンスが増大し、そのため共鳴器の共鳴周波数を低下させるのに役立つ。高い誘電定数を用いれば、共鳴器のサイズを大幅に縮小することが可能である。高い誘電定数の別の利点は電場を共鳴器内に閉じ込めることであり、放射損失が減少するので電力伝送の効率が改善される。しかし、高い誘電定数を有する材料の選択の設計基準の1つは、動作周波数におけるその材料の損失正接である。低い誘電損失正接は最大のカップリング効率を保証する。損失正接が高いと、共鳴器中における熱の形態での損失が高くなることがある。
【0020】
熱損失の問題は、電力レベルが高い場合に重要である。低い電力レベルでは、高い損失正接値が許容できる。電力レベルが1kWを超える用途では、高い誘電定数及び極端に低い損失正接の誘電材料が望ましい。高い誘電定数は数百kHzの周波数で小型共鳴器を達成するのに役立ち、低い損失正接は誘電体内の損失を低減させるのに役立つ。
【0021】
高い誘電定数及び低い損失正接の材料によって可能になる電力伝送システムは、電力伝送レベルが数kW程度である電気自動車充電器、回転負荷への電力伝送、鉱業用車両の非接触充電を始めとする用途を有する。高い誘電定数及び高い損失の誘電材料を有する電力伝送システムは、電力レベルが数ミリワットである海中コネクターのような用途に使用することができる。
【0022】
様々な形状を有する高い誘電定数の材料が、共鳴器用の埋め込み材料として機能し得る。例えば、高い誘電定数の円形の誘電ディスクは、特定の周波数で共鳴器用の埋め込み材料として機能し得る。この場合の共鳴周波数は、共鳴器及び埋め込み材料の幾何学的形状によって決定される。場集束素子として使用できる様々な形状の非限定的な例を図3に示す。
【0023】
高い誘電定数の材料はまた、金属表面上に薄膜又は厚膜コーティングとして使用することで、スイスロール構造体56のような場集束構造体を創成することもできる。スイスロールの異なる層間の高い誘電定数は構造体のキャパシタンスを増大させ、それによって周波数をかなり低下させる。
【0024】
高い誘電定数の材料中に共鳴器材料を埋め込むためには、一般に、何らかの方法で共鳴器材料及び埋め込み材料を一緒に加工することが必要である。例えば、圧縮成形された金属層及びセラミック層の組合せを形成することは、多くの加工上の問題を含んでいる。異なる金属及びセラミックの融点、焼結点又は軟化点の差は、共鳴器の所望特性の達成を妨げることがある。熱膨張の差及び異なる焼結挙動は、圧縮成形構造体中に亀裂やギャップを誘発することがある。
【0025】
材料の挙動は、他の材料の存在下で変化することがある。例えば、共鳴器構造体を形成するために金属共鳴器材料及びセラミック誘電材料を一緒に加工する場合には、過度の酸化なしに共鳴器材料の金属挙動を保持すると同時に、セラミック誘電材料を加工して場集束素子構造体に所要の物理的強度を与えるように加工条件を設計しなければならないことがある。一般に、セラミック材料は高温で焼結して構造体の物理的強度を生じる。しかし、セラミック材料を高温で焼結することはセラミック材料の粒度を増大させ、それによっておそらくはセラミック材料の誘電特性を低下させることがある。
【0026】
したがって、一緒に加工を受けることができる共鳴器材料及び高い誘電定数の材料を検討することが有益である。さらに、高い誘電定数の誘電材料中に埋め込まれた共鳴器材料を加工するためには低温加工方法が望まれる。
【0027】
一実施形態では、共鳴器を埋め込むためにある組合せの材料を使用することができる。例えば、高い誘電定数を有する2種以上の材料又は高い透磁率を有する2種以上の材料の混合物を埋め込み材料として使用することができる。別の実施形態では、各々が高い誘電定数又は高い透磁率を有する2種以上の材料の混合物を埋め込み材料として使用することができる。一実施形態では、誘電材料は、有益な誘電特性を有する酸化物材料及び酸化物材料の焼結挙動を助ける二次酸化物材料を含んでいる。
【0028】
本発明者らは、材料の密度が材料の誘電特性に重要な役割を果たすことを見出した。材料を非常に高い焼結温度に暴露することなしに緻密な誘電材料を得ることは、酸化物材料の誘電特性を高めるのに役立つ。誘電材料のミクロ構造が緻密であれば、材料本体中に含まれる空孔は少ない。空気は通常は誘電材料より低い誘電定数を有し、したがって材料中に存在する場合には全体として低い誘電定数をもたらすと予想される。
【0029】
セラミック酸化物材料に対しては、低い融点を有する別の酸化物材料を緻密化のための助剤として使用できる。セラミック酸化物化合物に対する緻密化助剤として使用できる二次酸化物材料の非限定的な例には、酸化銅(CuO)、五酸化バナジウム(V25)、酸化リチウム(Li23)及び酸化ビスマス(Bi23)がある。
【0030】
電力伝送システムの一実施形態では、誘電材料はバルク材形態で存在し、結晶粒及び結晶粒界を含む多結晶質である。酸化物材料系における粒界伝導の増加は誘電特性を改善し得る。
【0031】
電力伝送システムの一実施形態では、場集束素子に含まれる上記材料のいずれかに酸化ビスマスのようなビスマス含有物質がドープされる。さらに別の実施形態では、ビスマスは場集束素子として使用される多結晶質材料の結晶粒界の金属相中に存在する。関連する実施形態では、酸化ビスマスがドープされ、還元されて誘電材料の結晶粒界で金属ビスマスとなる。一実施形態では、酸化ビスマスは、誘電材料を場集束素子18に組み込み可能なバルク形態に形成して焼結する前に、Bi23及びTiO2をか焼した酸化物材料と混合することで結晶粒界に導入される。一実施形態では、約3モル%未満のBi23・3TiO2が誘電材料中に存在する。一実施形態では、Bi23・3TiO2は約0.01モル%〜約1モル%の範囲内で誘電材料中に存在する。一実施形態では、酸化物材料は結晶粒界に金属ビスマス相を有する。酸化物材料の誘電定数は結晶粒界に金属ビスマス相を有することによって顕著に増大することが判明している。
【0032】
特に限定されないが、酸化チタン(TiO2)及び各種のチタン酸塩化合物のような材料は、低い損失正接値を示す材料の例である。一実施形態では、誘電材料はバルク材として使用される。本明細書中で使用する「バルク材」という用語は、すべての面が約1mmより大きい三次元構造を有する任意の材料を表す。一実施形態では、誘電材料はコーティングとして使用される。このコーティングは薄膜形態又は厚膜形態のものであり得る。本明細書で使用する「薄膜」は約100ミクロン未満の厚さを有するのに対し、厚膜は約100ミクロン〜約1ミリメートルの厚さを有し得る。
【0033】
一実施形態では、誘電定数及び損失正接のような誘電特性が所望用途のある周波数範囲にわたって実質的に安定である誘電材料を使用することが望ましい。本明細書中で「実質的に安定」という用語は、値の変化により、電力伝送システムの性能変動が約10%を越えないことを意味する。したがって、周波数範囲の所要の値及び幅は、場集束素子を使用する用途に応じて変化し得る。一実施形態では、所望の周波数範囲は約100Hz〜約100MHzである。若干の実施形態では、所望の周波数範囲は約1kHz〜約100kHzである。別の実施形態では、所望の周波数範囲は約100kHz〜約1MHzである。もう1つの実施形態では、所望の周波数範囲は約1MHZ〜約5MHzである。
【0034】
高い誘電定数と共に低い誘電損失正接を有する材料は、埋め込み材料又は空洞共鳴器として使用した場合、低い誘電定数及び高い損失正接を有する材料に比べて、共鳴器の自己キャパシタンスを高める点で効率的に機能する。したがって、共鳴器の動作周波数で高い誘電定数及び低い誘電損失正接の両方を有する材料は、場集束素子18に使用するために望ましい。
【0035】
電力伝送システムの場集束素子18に使用すべき誘電材料は、約10以上の高い誘電定数及びできるだけ低い損失正接を有することが望ましい。一実施形態では、約0.1以下の損失正接が場集束素子に使用すべき誘電材料にとって許容し得る。次の実施形態では、約0.01以下の損失正接が誘電材料にとって望ましい。
【0036】
一実施形態では、例えば上述した電力伝送システムの場集束素子18に使用するため、式(Mg1-xSrx)yTiO(2+y)(式中、0≦x≦1、及びy=0、1又は2である。)を有する材料系が提供される。この材料系は、以後、簡単のために「酸化物材料」という。本明細書中で使用する「ゼロより大きい」という用語は、意図された成分が、不純物として存在し得る偶発的な量ではなく意図的に添加されることを意味している。本明細書中で使用する場合、範囲の終点は、正常な測定及びプロセス変動の必要に応じて表示された数の上下の偶発的な変動を含んでいる。一実施形態では、誘電材料として酸化物材料を含む電力伝送システムが提示される。
【0037】
本明細書中で使用する表記(Mg1-xSrx)yTiO(2+y)は、この式によって表される特定の比を満たす混合物及び化合物を包含する理論式であり、標準的な特徴付け技法によって特定できる形態で単一の化合物が存在することを必ずしも意味しない。要するに、上記式で特定される材料は、実際には、全体として考えた場合に上記式で特定される総合組成を有する複数の相として存在し得る。
【0038】
誘電材料の酸化物材料において、チタン、マグネシウム及びストロンチウムレベルを変化させ、好ましい誘電特性に対するその効果を調べた。かくして、一実施形態では、x,y=0であるような電力伝送用誘電材料が提供される。したがって、この実施形態では、誘電材料は酸化チタンを含んでいる。一実施形態では、誘電材料はTiO2系であり、他の実施形態では、誘電材料は他の誘電化合物或いは誘電特性を高め又は誘電材料の加工を助ける他の追加材料を含み得る。例えば、約1wt%のCuOを含むTiO2は、損失正接値を損なうことなく、純粋なTiO2に比べて低周波数での材料の誘電定数を増大させる。約1モル%のBi23・3TiO2を含むTiO2は、誘電定数を増大させると共に損失正接値を顕著に減少させる。一実施形態では、TiO2が二次酸化物材料2MgO・SiO2と組み合わされる。さらに別の実施形態では、誘電材料はTiO2と共に約70重量%までの2MgO・SiO2材料を含んでいる。
【0039】
表1は、実験的加工の詳細及びTiO2を基材とする誘電材料の成績を示している。表中では、「材料」欄はセラミック材料の様々な組合せを示し、「条件」は該当する実験のために使用されるセラミック材料の加工条件である。RTは「室温」を表している。「測定周波数」欄に示された特定の周波数で測定された誘電定数(DC)及び誘電損失正接(DLT)が提示されている。「周波数範囲」欄は、セラミック材料を場集束素子に使用するのが特に有利である概略周波数範囲を示している。
【0040】
【表1】

一実施形態では、x=0及びy=1であるような誘電材料の酸化物材料が提供される。したがって、この実施形態では、誘電材料はチタン酸マグネシウム(MgTiO3)を含んでいる。一実施形態では、誘電材料はMgTiO3系である。一例では、約1400℃の温度で3時間焼結することで調製したMgTiO3材料は、約230〜400kHzの周波数範囲で動作させた場合、約15の誘電定数及び約0.01未満の誘電損失正接を示した。約293kHzの周波数では、MgTiO3は約15の誘電定数及び約2.00e-04の損失正接値を示した。
【0041】
若干の実施形態では、誘電材料は他の誘電化合物或いは誘電特性を高め又は誘電材料の加工を助ける他の追加材料を含み得る。例えば、MgTiO3と共に添加されるある種の材料は、MgTiO3系の誘電特性を高め得る。CuO、Bi23・3TiO2、五酸化バナジウム(V25)などが、誘電特性を潜在的に改善するためにMgTiO3と共に併用し得る追加材料の若干例である。
【0042】
一実施形態では、x=1及びy=1であるような誘電材料の酸化物材料が提供される。したがって、この実施形態では、誘電材料はチタン酸ストロンチウム(SrTiO3)を含んでいる。一実施形態では、誘電材料はSrTiO3系である。一例では、約1350℃の温度で約6時間焼結することで調製したSrTiO3材料は、約7〜9.5MHzの周波数範囲で動作させた場合、約50の誘電定数及び約0.001未満の誘電損失正接を示した。約7.5MHzの周波数では、SrTiO3は約46の誘電定数及び約3.00e-06の損失正接値を示した。
【0043】
一実施形態では、0<x<1及びy=1であって、チタン酸マグネシウムストロンチウム(MgxSr(1-x)TiO3)を含むチタン酸塩系が生成される。別の実施形態では、0≦x≦1及びy=2であって、チタン酸マグネシウムストロンチウム(MgxSr(1-x))2TiO4を含むチタン酸塩系が生成される。
【0044】
上記に提示した実施例は、上記に提示された場集束素子18に使用できる誘電材料中に含まれる様々な酸化物材料を示している。本明細書中に提示された様々な材料系は、ある周波数範囲で有益であることが判明し、まとめて考えれば約230kHz〜約10MHzの広い周波数範囲をカバーしている。若干の特定の実施例が本明細書中に提示されているものの、ドーパントの組合せ、レベル、得られる特性及び使用周波数範囲が変動することは当業者にとって容易に理解されよう。
【0045】
以上、本明細書中には本発明の若干の特徴のみを例示し説明してきたが、当業者には数多くの修正及び変更が想起されるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は本発明の真の技術思想に含まれるこのような修正及び変更のすべてを包含することを理解すべきである。
【符号の説明】
【0046】
10 例示的なシステム
12 第1のコイル
14 電源
16 第2のコイル
18 場集束素子
20 負荷
22、24 場集束素子の開放端
50 単一ループコイル
52 分割リング構造体
54 渦巻構造体
56 スイスロール構造体
58 螺旋コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電材料を含む場集束素子を含んでなる電力伝送システムであって、誘電材料が(Mg1-xSrx)yTiO(2+y)(式中、0≦x≦1、及びy=0、1又は2である。)を含む酸化物材料を含む、電力伝送システム。
【請求項2】
酸化物材料がTiO2を含む、請求項1記載の電力伝送システム。
【請求項3】
酸化物材料がMgTiO3を含む、請求項1記載の電力伝送システム。
【請求項4】
酸化物材料がSrTiO3を含む、請求項1記載の電力伝送システム。
【請求項5】
誘電材料がさらに二次酸化物を含む、請求項1記載の電力伝送システム。
【請求項6】
二次酸化物がCuOからなる、請求項5記載の電力伝送システム。
【請求項7】
二次酸化物が2MgO・SiO2からなる、請求項5記載の電力伝送システム。
【請求項8】
二次酸化物がBi23・3TiO2からなる、請求項5記載の電力伝送システム。
【請求項9】
誘電材料が結晶粒及び結晶粒界を含む多結晶質材料である、請求項8記載の電力伝送システム。
【請求項10】
Bi23・3TiO2が誘電材料の結晶粒界に配置されている、請求項9記載の電力伝送システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−32273(P2013−32273A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−166436(P2012−166436)
【出願日】平成24年7月27日(2012.7.27)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】