説明

電力変換トランス

【課題】構造的に製作が容易であって、ボビン内の導体占有率が高く、且つ寄生容量が小さい電力変換トランスを提供する。
【解決手段】一次巻線34が巻回される円筒状のボビン32と、ボビン32に巻回された一次巻線34と、ボビン32に巻回された一次巻線34の外周側に、一次巻線と同軸上に配置されて螺旋状に巻回され、絶縁処理された二次巻線36と、一次巻線34と二次巻線36を磁気結合するコア46,48と、二次巻線36の引き出し部36aを保持して、二次巻線36を前記所定位置に固定するための固定部38とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の電子機器に用いられる電力変換トランスに関する。
【背景技術】
【0002】
ACアダプター等に用いられるスイッチング電源には、電力変換用に電力変換トランスが用いられている。
また、近年の電力変換トランスへの要求として小型化、低コスト化が挙げられており、このような要求に応えるような電力変換トランスの構成が検討されてきている。
【0003】
ここで、従来の電力変換トランスの構造として特許文献1がある。特許文献1の電力変換トランスは、箔巻トランスであって、電線ではなく銅箔や銅板等を巻線として用いている。このような特許文献1の電力変換トランスによれば、トランス全体の小型化が図れ、また製造の自動化にも対応が容易にできる。
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1のような電力変換トランスによれば、銅箔等大きな面積のものを採用しているために、寄生容量が大きくなってしまい変換電力の損失が大きくなるという問題点がある。
また、スイッチング電源に用いられる電力変換トランスは、一次巻線と二次巻線との間に極めて高い絶縁耐圧が要求されている。特許文献1のような電力変換トランスでは、このような絶縁耐圧要求を満たすために、一次巻線に三層絶縁電線を採用するか、又は二次巻線である銅箔や銅板に絶縁処理を施すことが必要である。しかし、三層絶縁電線を用いるとボビン内の導体占有率が大きく下がってしまうという問題があり、銅箔や銅板に絶縁処理を施すことは作業が困難であるという問題がある。
【0005】
寄生容量を低減させるためには特許文献2に示すような電力変換トランスの構成が提案されている。この構成の電力変換トランスは、各巻線を同軸上に複数層分割して配置している。そして、このような構成とすることで、巻線に分布する寄生容量を増大させることなく、良好な巻線間結合を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−267766号公報
【特許文献2】特開2002−270439号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
寄生容量を小さくしようとした上記の特許文献2の構成によれば、構造が複雑であるため製造が容易ではなく、製造コストがかさむおそれがあるという課題がある。
また、特許文献2の構成も特許文献1の構成と同様にボビン内の導体占有率が下がり、電力変換トランスが大型化してしまうという課題がある。
【0008】
そこで本発明は上記課題を解決すべくなされ、その目的とするところは、構造的に製作が容易であって、ボビン内の導体占有率が高く、且つ寄生容量が小さい電力変換トランスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明にかかる電力変換トランスによれば、一次巻線が巻回される円筒状のボビンと、ボビンに巻回された一次巻線と、ボビンに巻回された一次巻線の外周側に、一次巻線と同軸上に配置されて螺旋状に巻回され、絶縁処理された二次巻線と、一次巻線と二次巻線を磁気結合するコアと、二次巻線の引き出し部を保持して、二次巻線を前記所定位置に固定するための固定部とを具備することを特徴としている。
この構成によれば、成形後の二次巻線を一次巻線の軸線方向から挿入して配置させることができるので製造が容易である。また、二次巻線を螺旋状に巻回していることにより、二次巻線における寄生容量が小さい値となる。さらに、一次巻線に三層絶縁電線を用いなくてもよく、導体占有率を高めることができる。
【0010】
また、前記二次巻線は、断面四角形状であることを特徴としてもよい。
この構成によれば、二次巻線側における導体占有率を高めることができる。
【0011】
さらに、前記固定部は、複数の二次巻線を保持可能に設けられていることを特徴としてもよい。
この構成によれば、ブリッジコンバータ等種々の回路に応用できる電力変換トランスを容易に提供することができる。
なお、前記固定部は、前記ボビンに取り付けられていることを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、構造的に製作が容易であって、導体占有率が高く、且つ寄生容量が小さい電力変換トランスとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る電力変換トランスの斜視図である。
【図2】図1に示した電力変換トランスの組み立て分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、説明する電力変換トランスとしては、交流100Vまたは200Vの電圧を直流12V等に変換するスイッチング電源に搭載されるものであって、高圧を低圧に変換する場合に用いられるものである。
さらに詳細には、本実施形態に示す電力変換トランスは、ブリッジコンバータに用いられるものであって、一次巻線が1つであり二次巻線が2つのものについて説明する。
【0015】
図1に、本実施形態の電力変換トランスの全体構成を示す斜視図を示し、図2に、本実施形態の電力変換トランスの組み立て分解図を示す。
電力変換トランス20は、ボビン32に一次巻線34が巻回され、一次巻線34の外周に、二次巻線36が一次巻線34と同軸となるように配置されている。なお、後述するように二次巻線36には絶縁処理が施されているため、一次巻線34と二次巻線36とは接触するように配置されていてもよいし、また組み立て時の作業効率を高めるために若干隙間が空くように配置されてもよい。
【0016】
一次巻線34が巻回されるボビン32は、円筒状に形成されて一次巻線34が巻回される部位である本体部35と、本体部35の下部に形成されて本体部35よりも大径に形成された台部37とを有している。
一次巻線34としては、一般的に用いられるポリウレタン銅線等を採用することができる。
【0017】
また、二次巻線36は、直接一次巻線34やボビン32に巻き付けるのではなく、予め螺旋状に巻回してから一次巻線34の周囲に配置するようにする。これは、二次巻線36の断面積が大きく成型時に大きな力を必要とする場合であっても、予め巻回させておいてから配置することにより、巻回時に一次巻線34やボビン32に接触して一次巻線34やボビン32を損傷させないようにすることができる。
【0018】
二次巻線36としては平角線を用いるとよい。すなわち平角線のように断面が四角形状の電線を巻回することで電線同士の密着度が高くなって導体占有率を高めることができる。また、平角線を螺旋状に巻回することによって、二次巻線36の平板面同士は厚さ方向に重なり合うことがなく、寄生容量を低減させることができる。
二次巻線36の絶縁方法としては、二次巻線36には絶縁チューブを被せて絶縁を図ればよい。ただし、二次巻線36の絶縁方法としては絶縁チューブに限定されることはなく、樹脂コーティングや絶縁テープを巻き付けるなどといった構成を採用してもよい。このような構成により、二次巻線に銅箔や銅板等を用いた場合の絶縁方法と比較して、作業工程が容易なものとなる。
【0019】
また、本実施形態のように二次巻線36を螺旋状に形成することにより、螺旋の隙間から空気の流出入がある。このため、一次巻線34の放熱効果が極めて高くなる。さらに、当該電力変換トランス20を組み込んだ機器内にファン等の強制冷却手段を設けることにより、一次巻線34の放熱効果はさらに顕著なものとなる。
【0020】
また、二次巻線に銅箔や銅板を用いた場合には一次巻線と二次巻線間の空気の滞留を防止すべくワニス真空含浸等の処置を用いて空気層を無くす必要性があった。しかし、本実施形態のように、二次巻線36を螺旋状に形成することにより、螺旋の隙間から空気の流出入があるため、ワニス真空含浸等の処置が必要無くなる。このため、製造容易であり且つ製造時間の短縮を図ることとなり、製造コストの低減に寄与することができる。
【0021】
予め螺旋状に巻回された二次巻線36は固定部38に保持される。
固定部38は、ボビン32の軸線方向(図面では上下方向)に沿って延びる平板状の本体部39と、本体部39に形成されて二次巻線36の引き出し部36aを挿入して保持する保持穴40と、ボビン32の下部に形成されている台部37とほぼ同一形状に形成されてボビン32の本体部35の上部を抑える抑え部42とを有している。このように、固定部38と抑え部42とは一体に成型されている。
【0022】
本実施形態では、2つの二次巻線36を、ボビン32の軸線方向(図面では上下方向)に並べて配置するようにしている。このため、本実施形態の固定部38に形成されている保持穴40は、上下方向に延びる長穴として形成されている。ただし、保持穴40としては、二次巻線36ごとに別個の穴として形成されていてもよい。
【0023】
また、固定部38とボビン32には、互いに係合して取り付けるための係合部が形成されている。
固定部38の本体部39下端部には、下方に突出して形成された突起部44が形成され、ボビン32の台部37の側面には、この突起部44に対応する位置に突起部44を収納保持可能な収納溝45が形成されている。この突起部44と収納溝45が係合することにより係合部として機能し、固定部38がボビン32に取り付けられる。
【0024】
また、上記のような係合部の構成によれば、上方から下方に固定部38を下降させることによって固定部38がボビン32に取り付けられる。このとき、固定部38の本体部39に保持させた二次巻線36も固定部38と共に下降して一次巻線34の外周に配置される。このため、一次巻線34と二次巻線36との組み付けが極めて容易に行うことができる。
【0025】
また、ボビン32の台部37には、図面下方(一次巻線34の軸線方向に離間する方向)に向けて突出するコア嵌合部49が2箇所に形成されている。コア嵌合部49のうちの一方の外周面側に、上述した収納溝45が形成されている。
これらコア嵌合部49には、後述するコア46の外壁に形成された嵌合溝50にはまり込んでコア46と嵌合すべく、内側に突出する嵌合突起(台部37については図示せず)が形成されている。
【0026】
台部37と同様に、抑え部42には、図面上方(一次巻線34の軸線方向に離間する方向)に向けて突出するコア嵌合部52が2箇所に形成されている。
これらコア嵌合部52には、後述するコア48の外壁に形成された嵌合溝54にはまり込んでコア48と嵌合すべく、内側に突出する嵌合突起55が形成されている。
【0027】
なお、一次巻線34と二次巻線36とを磁気的に結合させるコア46,48は、ボビン32の軸線方向の両端側から配置させることができるような構造となっている。
図面下方側に位置するコア46は、一次巻線34と二次巻線36の両側において各巻線の軸線方向に延びる外周部46a,46bと、一次巻線34の内側(ボビン32の内部空間)に挿入される中心部46cとから構成されている。
外周部46a,46bの内壁面は、ボビン32の台部37の外周形状に倣って円弧状に形成されており、且つ上述した台部37の嵌合突起と嵌合溝50との嵌合により、外周部46a,46bに台部37が嵌合される。
【0028】
図面上方側に位置するコア48もコア46と同一の構造をなしている。
すなわち、コア48は、一次巻線34と二次巻線36の両側において各巻線の軸線方向に延びる外周部48a,48bと、一次巻線34の内側(ボビン32の内部空間)に挿入される中心部48cとから構成されている。
コア48の外周部48a,48bは、コア46の外周部46a,46bとそれぞれ接合し、コア48の中心部48cとコア46の中心部46cとが接合される。
また、外周部48a,48bの内壁面は、ボビン32上部の抑え部42の外周形状に倣って円弧状に形成されており、且つ上述した抑え部42の嵌合突起55と嵌合溝54との嵌合により、外周部48a,48bに抑え部42が嵌合される。
【0029】
上述したように、コア46,48の各外周部の内側形状を、ボビン32の台部37及び抑え部42と嵌合できる形状に形成したことにより、組み付けがより容易に行われることとなる。
コア46,48の材質としては、一般的な材質を採用することができ、例えばケイ素鋼板等を複数枚重ねて構成することにより、渦電流の低減を図ることができる。
【0030】
なお、本発明の電力変換トランスとしては、上述した実施形態に限定されるものではなく、一次巻線が1つであり二次巻線が2つのブリッジコンバータに用いられるものでなくてもよい。フォワードコンバータ、フライバックコンバータ等の種々の回路に応用することができる。
また例えば、一次巻線が1つであり二次巻線が1つの場合であってもよいし、二次巻線が3つ以上の場合であってもよい。
【0031】
以上本発明につき好適な実施形態を挙げて種々説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、発明の精神を逸脱しない範囲内で多くの改変を施し得るのはもちろんである。
【符号の説明】
【0032】
20 電力変換トランス
32 ボビン
34 一次巻線
35 本体部
36 二次巻線
36a 引き出し部
37 台部
38 固定部
39 本体部
40 保持穴
42 抑え部
44 突起部
45 収納溝
46,48 コア
46a,46b,48a,48b 外周部
46c,48c 中心部
49,52 コア嵌合部
50,54 嵌合溝
55 嵌合突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次巻線が巻回される円筒状のボビンと、
ボビンに巻回された一次巻線と、
ボビンに巻回された一次巻線の外周側に、一次巻線と同軸上に配置されて螺旋状に巻回され、絶縁処理された二次巻線と、
一次巻線と二次巻線を磁気結合するコアと、
二次巻線の引き出し部を保持して、二次巻線を前記所定位置に固定するための固定部とを具備することを特徴とする電力変換トランス。
【請求項2】
前記二次巻線は、断面四角形状であることを特徴とする請求項1記載の電力変換トランス。
【請求項3】
前記固定部は、複数の二次巻線を保持可能に設けられていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の電力変換トランス。
【請求項4】
前記固定部は、前記ボビンに取り付けられていることを特徴とする請求項1〜請求項3のうちのいずれか1項記載の電力変換トランス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−209446(P2012−209446A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74459(P2011−74459)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(592214450)株式会社イースタン (17)
【Fターム(参考)】