説明

電力変換回路

【課題】回路自体を大きくすることなく、電力変換回路の個々の構成部品を介して流れるリップル電流および電力変換回路全体で生じるリップル電流を最小限にする。
【解決手段】ブースト・コンバータ10は、入力端子12と入力リターン端子14および出力端子16、18を有している。入力端子12は、ノード40に接続された第1のインダクタ20に接続されている。ノード40は一方で、ダイオード26のアノード端子に接続された第2のインダクタ22に接続され、ダイオード26のカソード端子は、出力端子16に接続されている。さらに、ノード40はダイオード28のアノード端子に接続された第3のインダクタ24に接続され、ダイオード28のカソード端子は、出力端子16に接続されている。コンデンサ42は出力端子16、18間に接続されている。第2のインダクタ22は、フェライトコアによって第3のインダクタ24に磁気的に結合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換回路(power conversion circuit)に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、既知の昇圧型コンバータ(ブースト・コンバータ)は、入力DC電圧とスイッチの間にインダクタが接続された構成となっており、そのスイッチは、インダクタを入力DC電圧または出力端子へと交互に切り替えて接続するようになっている。そして、そのスイッチは、所定のデューティサイクルで駆動し、回路が、常に、入力電圧と等しいかあるいは大きい出力電圧を提供するようになっている。
【0003】
バック・コンバータは、ブースト・コンバータと逆に動作する回路であり、入力電圧が必ず出力電圧と等しいかあるいは大きくなるようになっている。以下、ブースト・コンバータについて説明するが、同様なことがバック・コンバータについても適用できる。
【0004】
ブースト・コンバータのインダクタが連続的にチャージおよびディスチャージすると、その結果生じるインダクタ電流は、リップル電流と呼ばれるAC成分を有する。通常、そのようなリップル電流は、回路構成部品の機能を低下させ、回路へ悪影響を及ぼすため好ましくないものであった。
【0005】
このようなリップル電流を減少させる既知の方法の1つは、回路の動作電圧に対してインダクタのサイズを大きくすることである。しかしながら、この方法は、回路自体が大きくなると共にコスト大となってしまう欠点があった。
【0006】
リップル電流を減少させる他の方法としては、大きなインダクタを使用する代わりに、2つあるいはそれ以上のブースト・コンバータ回路を並列に動作させる方法がある。しかしながら、この方法では、それぞれのスイッチのスイッチングの間に位相シフトが生じてしまう。このような回路は、インターリーブド・ブースト・コンバータ回路として知られており、その一例を図1に示す。
【0007】
図1に示すように、インターリーブド・ブースト・コンバータ10’は、2つのサブ回路を有し、第1のサブ回路は、インダクタ22’、ダイオード26’、およびスイッチ32’を含み、第2のサブ回路は、インダクタ24’、ダイオード28’およびスイッチ30’を含む。スイッチ30’は、コントローラ34’によってコントロールされ、インダクタ24’を介して流れる電流を、入力12’からダイオード28’を介して入力リターン端子14’へ戻る第1のパスと、入力12’からリターン端子14’へ直接戻る第2のパスとの間で切り替える。また、スイッチ32’は、コントローラ36’によってコントロールされ、インダクタ22’を介して流れる電流を、入力12’からダイオード26’を介して入力リターン端子14’へ戻る第1のパスと、入力12’からリターン端子14’へ直接戻る第2のパスとの間で切り替える。ここで、“インターリーブド”とは、コントローラ34’、36’が、それぞれの位相が互いに異なるようにスイッチ30’、32’を動作させることをいう。そして、サブ回路の各々は、既知の電力変換回路と同様に作動し、出力端子電圧が出力端子16’、18’間に生成される。
【0008】
2個のスイッチ34’、36’の動作における位相シフトにより、2つのサブ回路におけるリップル電流の間で、一方のリップル電流が他方のリップル電流をキャンセルする状態が生じる。これにより、入力および出力の両方でのリップル電流が減少される。しかしながら、このような回路構成では、ブースト・コンバータの種類によっては、回路の構成部品を流れるリップル電流は減少せずに、依然として上述したような欠点を有する。
【0009】
インターリーブド・ブースト・コンバータの他の従来例として、「“Control Strategy of an Interleaved Boost Power Factor Correction Converter" Pinheiro, J.R.; Grundling, H.A.; Vidor, D.L.R; Baggio, J. E. Power Electronics Specialists Conference, 1999, PESC 99. 30th Annual IEEE Volume 1, 27 July 1999, vol. 1, pages 137-142」に記載されたものがある。従って、回路によって生成されるリップル電流と当該回路の構成部品を流れるそれらのリップル電流を最小限にする電力変換回路を提供することが要望されている。
【0010】
また、一般に、電力変換回路のスイッチにおけるピーク電流が高くなればなるほど、電導性およびターンオフ損失が高くなってしまう。従って、電力変換回路の動作中にスイッチのピーク電流を最小限にすることが望ましい。
【0011】
また、US-A-2006/0028186には、メインスイッチにおける電圧ストレスを制限するため、ブースト・コンバータにおいてトランスフォーマを利用する技術が記載されており、この技術によれば、スイッチング損失を低減するとともに、その回路で使用される低定格電圧でのスイッチの使用を可能にする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記従来の問題点を鑑みてなされたものであり、その目的は、回路自体を大きくすることなく、電力変換回路の個々の構成部品を介して流れるリップル電流および電力変換回路全体で生じるリップル電流を最小限にすることができる電力変換回路を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するために、本発明の第1の態様によれば、電力変換回路は、電気エネルギーの保持のため少なくとも2つのサブ回路に接続されたインダクタを有し、各サブ回路は、それぞれ整流器およびスイッチを備えている。そして、そのスイッチは、第1の電圧レベルにおいて対応するインダクタを通る第1の電流パスと、第2の電圧レベルにおいて対応するインダクタおよび対応する整流器を通る第2の電流パスと、を切り替え、それにより、使用された際に、各サブ回路により電力変換がなされる。電気エネルギー保持インダクタは、サブ回路のインダクタの各々に接続され、サブ回路のうちのいずれか1つのインダクタは、少なくとも1つの他のサブ回路のインダクタに磁気的に結合されている。
【0014】
DC入力が、本発明の好ましい実施形態による電力変換回路に供給されると、磁気的に結合されたインダクタは、それぞれの巻線に流れる直流によって動作する。また、これらの磁気的に結合されたインダクタの位相の極性は、電磁結合のDC磁化の合計が0となるようになっている。したがって、既知の電力変換回路と比較して、本発明の実施形態による電力変換回路では、より小さな回路構成部品を用いることができる。
【0015】
さらに、本発明の実施形態による電力変換回路によれば、従来の電力変換回路と比較して、スイッチにおいてピーク電流がより低くなり、スイッチング損失を減少させる。したがって、本発明の実施形態による電力変換回路は、より効率的で、比較可能な既知の電力変換回路に比べて大幅に小型化できる。
【0016】
いずれか1つのサブ回路のインダクタは、他のサブ回路の各々のインダクタに磁気的に結合してもよい。
【0017】
その磁気的に結合されたインダクタは、トランスフォーマから構成してもよい。
【0018】
このトランスフォーマは、多相トランスフォーマから構成してもよく、その場合、各サブ回路は、その多相トランスフォーマの対応する入力位相に接続される。
【0019】
磁気的に結合されたこれらのインダクタおよび電気エネルギー保持インダクタは、一体型回路構成部品として構成することもできる。これにより、別個の磁気的に結合されたインダクタおよび電気エネルギー保持インダクタを有する回路構成よりもコンパクトな回路構成を可能とする。
【0020】
電力変換回路は2つのサブ回路を含んでもよく、その場合、コントロール手段は、180°の位相差でこれらの対応する2個のスイッチを切り替える。
【0021】
また、電力変換回路を2つ以上のサブ回路で構成することもでき、その場合、いずれか1つのサブ回路のインダクタが、他のサブ回路のそれぞれのインダクタに磁気的に結合される。
【0022】
また、電力変換回路をn個のサブ回路で構成することもでき、その場合、コントロール手段は、360°/nの位相差で対応するスイッチを切り替える。
【0023】
また、電力変換回路は、さらに出力フィルタリング手段を含んでもよい。
【0024】
また、コントロール手段は、ピーク電流モード・スイッチング機能を用いてもよい。
【0025】
また、本発明は、上述した電力変換回路を備えたバック・コンバータにも適用できる。
【0026】
さらに他の態様によれば、本発明は、複数のスイッチングサブ回路およびトランスフォーマを含む電力変換回路を提供する。この場合、すべてのサブ回路が、使用の際に、2つの電圧レベル間の切り替えを行い、各サブ回路が、前記トランスフォーマの対応する入力位相に接続され、当該トランスフォーマの各出力位相が共通のノードに接続されるようになっている。また、その電力変換回路は、さらに、前記共通のノードへのあるいはそのノードからの切り替え電流を生成するため、前記複数のサブ回路のスイッチングを制御するコントロール手段を有する。
【0027】
そのコントロール手段は、第1の周波数で前記スイッチを切り替え、第2の周波数で前記切り替え電流を生成するようにしてもよい。この場合、第2の周波数が第1の周波数より小さい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に添付の図を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1は、従来の電力変換回路の回路図である。
図2は、本発明の電力変換回路の好ましい実施形態の回路図である。
図3は、第1のモード(連続動作モード)で動作する図2に示した電力変換回路における時間に対するインダクタに流れる電流および切り替えを示すグラフである。
図4は、第1のモードで動作する図2に示した電力変換回路における時間に対する3つのインダクタに流れる電流を示すグラフである。
図5は、第1のモードで動作する図2に示した電力変換回路における時間に対する2つのダイオードに流れる電流を示すグラフである。
図6は、第1のモードで動作する図1に示した従来の電力変換回路における時間に対する2つのインダクタに流れる電流の合計とスイッチに流れる電流を示すグラフである。
図7は、第2のモード(不連続動作モード)で動作する図2に示した電力変換回路における時間に対する1つのインダクタに流れる電流とスイッチに流れる電流を示すグラフである。
図8は、第2のモードで動作する図1に示した従来の電力変換回路における1つのインダクタに流れる電流とスイッチに流れる電流を示すグラフである。
図9は、第2のモードで動作する図1に示した従来の電力変換回路における2つのインダクタに流れる電流を示すグラフである。
図10は、本発明のさらに好ましい実施形態による電力変換回路の概要の回路図である。
【0029】
図2は、本発明の電力変換回路の好ましい実施形態としてのブースト・コンバータ10の回路図である。このブースト・コンバータ(昇圧型電力変換回路)10は、入力端子12と入力リターン端子14および出力端子16、18を有している。接地リターンライン38は、入力リターン端子14を出力端子18に接続している。入力端子12は、ノード40に接続された第1のインダクタ(電気エネルギー保持素子)20に接続されている。また、ノード40は、一方で、ダイオード26のアノード端子に接続された第2のインダクタ22に接続されている。ダイオード26のカソード端子は、出力端子16に接続されている。したがって、電流パスは、入力端子12から、第1のインダクタ20、ノード40、第2のインダクタ22およびダイオード26を介して出力端子16へと形成される。
【0030】
また、ノード40は、ダイオード28のアノード端子に接続された第3のインダクタ24に接続されている。ダイオード28のカソード端子は、出力端子16に接続されている。したがって、電流パスは、入力端子12から、第1のインダクタ20、ノード40、第3のインダクタ24およびダイオード28を介して、出力端子16へ形成される。
【0031】
なお、第2のインダクタ22は、フェライトコアによって第3のインダクタ24に磁気的に結合されている(図2に概略的に点線で示される)。
【0032】
ブースト・コンバータ10は、さらに第1のスイッチ(電子制御スイッチング素子)30を有し、そのドレイン端子は、第3のインダクタ24とダイオード28のアノード端子との間の接点に接続されている。スイッチ30のソース端子は、入力リターン端子14および出力端子18に接続された接地リターン・ライン38に接続されている。コントローラ34は、第1のスイッチ30に接続され、スイッチ30にパルス幅変調されたコントロール信号を供給する。
【0033】
第2のスイッチ(電子制御スイッチング素子)32のドレイン端子は、第2のインダクタ22とダイオード26のアノード端子の間の接点に接続されている。このスイッチ32のソース端子は、入力リターン端子14および出力端子18を接続する接地リターンライン38に接続されている。コントローラ36は、スイッチ32に接続され、スイッチ32にパルス幅変調されたコントロール信号を供給する。
【0034】
コントローラ34、36は、各々スイッチ30、32へ、これらのスイッチのデューティサイクルを決めるパルス幅変調されたコントロール信号を供給する。なお、コントローラ34、36は、別個の回路素子として描かれているが、同じ機能が単一の回路素子によって実現されるようにしてもよい。
【0035】
第1のインダクタ20、第2のインダクタ22、ダイオード26および第2のスイッチ32により、第1の電力変換サブ回路が形成され、一方第1のインダクタ20、第2のインダクタ24、ダイオード28および第1のスイッチ30により、第2の電力変換サブ回路が形成される。さらに、各サブ回路は、インダクタ22、24に磁気的に結合されたインダクタをそれぞれ含むようにしてもよい。
【0036】
コンデンサ42は、出力端子16、18間に接続され、この分野でよく知られている出力フィルタリング機能を提供する。また、コンデンサ42以外の他の出力フィルタリング方法も知られており、それらを本発明の実施形態に係る回路を用いてもよい。
【0037】
次に、ブースト・コンバータ10の動作について説明する。なお、ブースト・コンバータ10の動作については、ノード40の電圧を注視することで、最もよく理解される。
【0038】
連続動作モード(第1のモード)において、両方のスイッチ30、32が閉じている場合、結合された第2および第3のインダクタ22、24は短絡回路として機能し、ノード40の電圧はほぼ0となる。スイッチ30、32のどちらかが開いている場合、ノード40の電圧は、出力端子16、18間の出力電圧に比例した値となり、この電圧値は、第2および第3のインダクタ22、24 の設定値に基づいた値となる。スイッチ30、32が両方とも開いている場合、ノード40の電圧は出力電圧と等しくなる。
【0039】
不連続動作モード(第2のモード)においては、スイッチ30、32は、各サイクルにおいて、ダイオード28、26および出力端子16、18を介して負荷に供給された電流が、スイッチ30、32のオフ時間の間に0に減衰するように動作する。この不連続動作モードにおいては、ノード40の電圧は、負荷電流が0に落ちるまでインダクタ22、24の値によって決定される出力電圧に比例して拘束される。そして、負荷電流が0になった時に、スイッチ32が閉まっており、スイッチ30が開いている場合、そのノード40の電圧が第1および第2のインダクタ20、22へ供給(印加)され、一方、スイッチ30が閉まっておりスイッチ32が開いている場合、そのノード40の電圧が第1および第3のインダクタ20、24へ供給(印加)される。
【0040】
すなわち、負荷電流が0に落ちた後、入力電圧は、第1および第2のインダクタ20、22の間に、あるいは第1および第3のインダクタ20、24の間に印加される。従って、軽負荷に対する回路の利得は、連続動作モードのために必要な保持電力とは無関係に設定することができる。しかも、結合されたインダクタ22、24の設定値をより高いインダクタンス値にすることにより、不連続動作モードでの軽負荷における電流利得に対するデューティ比が効率的に設定されるので、インダクタ20の値を、保持電力が減少されるように低い値とすることができる。
【0041】
また、結合されたインダクタ22、24が高いインダクタンスを持つ場合、回路の利得は、不連続動作モードで、結合されたインダクタ22、24のサイズに関係なく、熱およびフラックス密度の状況に応じて減少する。
【0042】
コントローラ34、36は、特別のデューティサイクルでそれぞれのスイッチ30、32を動作させ、スイッチ30、32のうちの1つのスイッチ切替位相を、他方のスイッチ切替位相に対してシフトさせることができる。
【0043】
結合されたインダクタ22、24は、1:1の巻線比率を持っている。そして、両方のスイッチ30、32のデューティサイクルが50%あるいはそれ以下である場合、両スイッチは決して同時にオンすることはなく、ノード40は、Vout/2あるいはVoutの値となる。両方のスイッチ30、32のデューティサイクルが50%以上である場合、ノード40は、0VあるいはVout/2の値となる。
【0044】
いずれの場合においても、図1に示すような従来の既知の回路に比較して、Volt-secondsの数値は、インダクタ20の両側で著しく減少することが実現される。
【0045】
図3〜図5は、連続動作モード(第1のモード)における図2に示すブースト・コンバータ10の様々な回路構成部品における電流変化を示すグラフである。これらのグラフにおいては、回路構成部品の値は以下のように設定される。インダクタ20の値は、21μHであり、インダクタ22、24の値は、両方とも400μHである。これらの図では、電力変換回路は、1600Wおよび90Vの入力電力で動作するようになっている。第1および第2のスイッチ30、32は、180°の位相シフト、100KHzのスイッチング周波数、75%のデューティサイクルで動作する。
【0046】
図3〜図9のグラフを作成するにあたり、対応するそれぞれの回路は、スイッチ間で180°の位相差で動作したものである。
【0047】
図3には、図2に示したインダクタ20に流れる電流70および第2のスイッチ32に流れる電流72が示されている。図4には、図2に示した第1のインダクタ20に流れる電流70、第2のインダクタ22に流れる電流74および第3のインダクタ24に流れる電流76が示されている。図5には、図2に示した2つのダイオード26、28に流れる電流78、80が示されている。
【0048】
図6は、連続動作モード(第1のモード)において動作する図1に示した従来の電力変換回路の動作を示すグラフである。この図は、インダクタ22’、24’が各々50μHの値を持ち、スイッチ30’、32’が100KHzの周波数で、連続動作モードで180°の位相シフトで75%のデューティサイクルで動作する場合の従来の電力変換回路の動作を示す。ここでは、入力電力はおよそ1600Wである。図6の符号82は、図1に示した2つのインダクタ22’、24’における電流の合計を示し、符号84は、図1に示したスイッチ32’における電流を示す。
【0049】
図3および図6を比較すると、本発明の実施形態による電力変換回路の第2のスイッチ32におけるピーク・ドレイン電流は、図3の符号72で示すように約10.5Aとなり、図6の符号84に示す従来の場合の約16Aと比較してはるかに低くなっている。これは、従来の電力変換回路のスイッチではより高いコンダクションとなり、ターンオフ損失が高くなることを示している。
【0050】
図7は、図3〜図5のグラフの場合と同じ回路で50%のデューティサイクルで作動する場合のグラフである。符号86は、インダクタ20における電流を示し、符号88はスイッチ32における電流を示す。
【0051】
図8は、図7のグラフの場合と同じ負荷条件で、図1に示した従来のインターリーブド電力変換回路の動作を示すグラフであり、符号90は、図1に示したインダクタ22’における電流を示し、符号92は、図1のスイッチ30’における電流を示す。図9は、図1の従来の電力変換回路動作を示すグラフであり、符号94は、図1に示したインダクタ20’、22’の両方における時間に対する電流を示し、符号92は、図1に示したスイッチ32’における時間に対する電流を示す。
【0052】
図8は、従来の電力変換回路の入力端子における相殺(キャンセル)が不完全となる原因の不連続インダクタ電流を示している。インダクタ22’の電流90があるスイッチング・サイクルにおいてほぼ0に落ち、そのためにインダクタ24’における電流のキャンセルが達成できていないことが分かる。
【0053】
図9で示すように、従来の電力変換回路では、前述のオペレーティング・パラメーターおよび構成部品の値の場合、約5Aの入力電流においてピーク間ピークリップル電流で動作する。これに対し、本発明の実施形態のインダクタ20におけるリップル電流は、図7の符合86で示すように、ほぼ完全に相殺される。それに対し、従来の回路設計によってインダクタに同様のほぼ連続的な電流を流すためには、115μH以上のレ−トのインダクタが要求される。
【0054】
従来の電力変換回路と比較すると、本発明の実施形態による回路のスイッチによれば、著しく低いピーク電流で動作可能となり、それにより、著しく低いコンダクションおよびターンオフ損失を達成できる。また、本発明の実施形態によれば、従来の回路で必要とされた値より低い値の定格部品を有するインダクタにおいてリップル電流を相殺することができる。したがって、本発明の実施形態では、電気エネルギー保持回路構成部品のサイズおよびスイッチ損失を大幅に減少できる。より小さな回路構成部品の使用が可能となれば、その結果、集積化をより進め、全体的に小さくできる。
【0055】
図10は、本発明のさらに他の実施形態による電力変換回路50を示し、図2に示した電力変換回路と同じ構成要素には同じ符号が付されている。
【0056】
図10において、電力変換回路50は、上部と底部とでEの形と逆Eの形とが接続されるように上部リム44と下部リム46とが接続されたコア52を有し、2つの中央部リム47、48の間には、エアギャップ66が設けられている。コア52は、上部リム44に巻線54、56を有し、下部リム46に巻線58、60を有し、エアギャップ66を持つ2つの中央部リム47、48に、各々対応する巻線62、64を有している。
【0057】
巻線54、56、58、60、62、64を備えたコアは、図2に示すインダクタ20、22、24を置き換えたものである。コア52の上部リム44上の巻線54は、スイッチ30のドレイン端子およびコア52の下部リム46上の巻線60の一端に接続されている巻線60の他端は、上部リム44上の巻線56に接続されたノードに40"に接続されている。巻線56は、コア52の下部リム46上の巻線58に接続されている。巻線58はスイッチ32のドレイン端子に接続されている。
【0058】
ノード40"は、コア52の中央部リム48上の巻線64に接続され、巻線64は、さらにコア52の中央部リム47上の巻線62にエアギャップ66を横切って接続されている。巻線62は入力端子12に接続されている。
【0059】
上述のような接続により、入力12からの電流は、巻線62、64を介してノード40へと流れる。この電流は、ノード40"から巻線56および巻線58を介しスイッチ32のドレイン端子へ流れる。また、電流は、さらにノード40"から巻線60へと流れ、次に巻線54を介してスイッチ30のドレイン端子へ流れる。ダイオード26のアノード端子は、巻線54およびスイッチ30のドレイン端子間の接合点に接続されている。図10に示した実施形態における残りの接続および回路素子は、図2に示したものと同様となっている。
【0060】
巻線54、56、58、60は、結合されたインダクタとして機能し、巻線62、64は、電力変換回路50の電気エネルギー保持インダクタとして機能する。エアギャップ66は電気エネルギーを保持するが、必ずしもエアギャップである必要はなく、他の手段で達成することもできる。
【0061】
図10の回路は、図2の回路と同様に動作し、 図2のノード40に関して前述した説明は、図10のノード40"に関して同様に適用できる。コア52は、巻線54、56、58、60と共に磁気的に結合されたインダクタを提供し、巻線62、64と共に電気エネルギー保持インダクタを提供する。
【0062】
磁気的に結合されたインダクタをなす巻線54、56、58、60からの磁束は、接続された上部リム44および下部リム46の周囲に生じ、巻線62、64による電気エネルギー保持インダクタからのDCフラックスは、中央部リム47、48を流れる。電気エネルギー保持インダクタからのACフラックスは、上部リム44あるいは下部リム46の内の一方における正味のACフラックスを増加させ、他方の正味のACフラックスを減少させる。このフラックスの不均衡は、2つの外部リム44、46の各々における磁気的に結合されたインダクタを形成する各巻線の巻数を半分にすることにより相殺(キャンセル)される。しかしながら、電気エネルギー保持インダクタからのACフラックスが低い場合、磁気的に結合されたインダクタのための巻線は外部リム44、46に全部巻きつけられる。なお、図10で示す巻線の巻数は、状況に応じて変えてもよい。
【0063】
この一体型コア52は、磁気的に結合されたインダクタとエネルギー保持インダクタの間のコア部材を共有できるので、図10の回路は、図2のものより大幅に小型化することができる。
【0064】
なお、図2および図10に示す実施形態では、結合されたインダクタは、基本周波数をキャンセルするために、1:1の巻線比を持つ。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、従来の電力変換回路の回路図である。
【図2】図2は、本発明の電力変換回路の好ましい実施形態の回路図である。
【図3】図3は、第1のモード(連続動作モード)で動作する図2に示した電力変換回路における時間に対するインダクタに流れる電流および切り替えを示すグラフである。
【図4】図4は、第1のモードで動作する図2に示した電力変換回路における時間に対する3つのインダクタに流れる電流を示すグラフである。
【図5】図5は、第1のモードで動作する図2に示した電力変換回路における時間に対する2つのダイオードに流れる電流を示すグラフである。
【図6】図6は、第1のモードで動作する図1に示した従来の電力変換回路における時間に対する2つのインダクタに流れる電流の合計とスイッチに流れる電流を示すグラフである。
【図7】図7は、第2のモード(不連続動作モード)で動作する図2に示した電力変換回路における時間に対する1つのインダクタに流れる電流とスイッチに流れる電流を示すグラフである。
【図8】図8は、第2のモードで動作する図1に示した従来の電力変換回路における1つのインダクタに流れる電流とスイッチに流れる電流を示すグラフである。
【図9】図9は、第2のモードで動作する図1に示した従来の電力変換回路における2つのインダクタに流れる電流を示すグラフである。
【図10】図10は、本発明のさらに好ましい実施形態による電力変換回路の概要の回路図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力端子と、出力端子と、前記入力端子に一端が接続された電気エネルギー保持素子と、少なくとも2つのサブ回路と、を有する電力変換回路であって
前記少なくとも2つのサブ回路のそれぞれは、前記出力端子と前記電気エネルギー保持素子の他端との間に直列に接続されており、
前記各サブ回路は、インダクタと、整流素子と、当該サブ回路内で前記インダクタと前記整流素子の間に接続され前記インダクタが前記入力端子に並列に接続されるように切り替え制御を行なう電子制御スイッチング素子と、を有し、
前記少なくとも2つのサブ回路のそれぞれのインダクタは、磁気的に一体になるように結合されていることを特徴とする電力変換回路。
【請求項2】
前記電気エネルギー保持素子がインダクタからなる請求項1に記載の電力変換回路。
【請求項3】
前記すべてのサブ回路のそれぞれのインダクタが実質的に同じである請求項1あるいは2に記載の電力変換回路。
【請求項4】
前記磁気的に結合されているインダクタおよび前記電気エネルギー保持素子が一体型統合磁気回路構成部品として提供される請求項1〜3のいずれかに記載の電力変換回路。
【請求項5】
前記電力変換回路が、3つ以上のサブ回路を有しており、これらのサブ回路のうちのいずれか1つのインダクタが他のサブ回路の各インダクタに磁気的に結合されている請求項1〜4のいずれかに記載の電力変換回路。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の電力変換回路を備えたブースト・コンバータ。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の電力変換回路を備えたバック・コンバータ。
【請求項8】
少なくとも2つのサブ回路に接続された電気エネルギーの保持のための電気エネルギー保持インダクタを有し、
前記サブ回路のそれぞれが、インダクタ、整流器およびスイッチを有し、該スイッチは、各サブ回路が使用された際に電圧変換を行うべく前記インダクタを介する第1の電流経路および前記インダクタおよび前記整流器を介する第2の電流経路を提供するように、前記整流器および前記インダクタに接続され、
前記電気エネルギー保持インダクタが、前記サブ回路のそれぞれのインダクタに接続され、
前記サブ回路のうちのいずれか1つのインダクタが、他のサブ回路のインダクタに磁気的に結合されていることを特徴とする電力変換回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−5579(P2009−5579A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−139615(P2008−139615)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(508159145)クータン ラムダ リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】Coutant Lambda Limited
【住所又は居所原語表記】Kingsley Avenue Ilfracombe Devon EX34 8ES United Kingdom
【Fターム(参考)】