説明

電力変換装置

【課題】1つまたは複数の単位セルの直列体からなるクラスタ3つから構成された三相電力変換装置に関し、該三相電力変換装置が逆相電流を出力するための回路方式と制御法を提供する。
【解決手段】1つまたは複数の単位セルの直列体であるクラスタとリアクトルとの直列体をデルタ結線して構成したデルタ結線カスケード・マルチレベル変換器(CMC)を電力系統に連系した電力変換装置であって、前記電力変換装置が正相無効電流と逆相電流とを同時に出力することによって、前記電力系統に連系する他の不平衡負荷による正相無効電流と逆相電流とを大略相殺する機能を有する電力変換装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力変換装置に関し、特に1つまたは複数の単位セルの直列体からなるクラスタ3つで構成された三相電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カスケード・マルチレベル変換器(以下、CMCと称す)は、Insulated Gate Bipolar Transistor(以下、IGBTと称す)などのオン・オフ制御可能なスイッチング素子を使用し、前記スイッチング素子の耐圧以上の電圧を出力できる回路方式である。非特許文献1によれば、CMCは複数の単位セルの直列体であるクラスタとリアクトルとの直列体3つをスター結線して構成される。
【0003】
非特許文献1によれば、各単位セルは単相フルブリッジ回路であり、複数のスイッチング素子と直流コンデンサとを備えている。単位セルはスイッチング素子のオン・オフを制御することによって、直流コンデンサの両端電圧(以下、直流電圧と称す)、直流電圧の逆極性の電圧、または零電圧を出力する。
【0004】
各クラスタは1つまたは複数の単位セルの直列体であるため、各クラスタの出力電圧(以下、クラスタ電圧と称す)は該クラスタに含まれる1つまたは複数の単位セルの出力電圧の和となる。各クラスタが複数の単位セルを含む場合、該クラスタ内の各単位セルのスイッチング・タイミングを適切にシフトすることによって、クラスタ電圧をマルチレベル波形とすることができる。したがって、各クラスタに含まれる単位セルの個数を増加することによって、クラスタ電圧の高調波成分を低減できる。
【0005】
非特許文献1は、CMCを電力系統と連系し、CMCによる自励式無効電力補償装置(以下、CMC−STATCOMと称す)の実験結果を示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】吉井・井上・赤木:「トランスレス・カスケードPWM STATCOMの直流電圧制御法の検討」,電気学会半導体電力変換・産業電力電機応用研究会資料,SPC−07−115/IEA−07−38,pp.32−36。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
アーク炉などの不平衡負荷が電力系統に連系している場合、不平衡負荷から流出する逆相電流によって電力系統のインピーダンスに不平衡な電圧降下が発生し、結果として、近傍の電力系統の電圧(以下、系統電圧と称す)に不平衡を引き起こす。
【0008】
不平衡負荷に起因する系統電圧の不平衡を抑制するための一方法として、不平衡負荷の近傍に電力変換装置を連系し、前記不平衡負荷の逆相電流と逆位相の逆相電流を出力させる方法がある。
【0009】
しかし、非特許文献1では、CMC−STATCOMが正相無効電流のみを出力した実験結果を開示しており、逆相電流を出力する場合の回路方式や制御法については開示していない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
3つのクラスタがスター結線されたCMCが逆相電流を出力する場合、各クラスタに流入する有効電力に不平衡が生じるため、各クラスタに含まれる単位セルの直流電圧が継続的に上昇または低下してしまう。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明は以下の解決策を提供する。
【0012】
本発明は、1つまたは複数の単位セルの直列体であるクラスタとリアクトルとの直列体をデルタ結線して構成したデルタ結線カスケード・マルチレベル変換器(CMC)を電力系統に連系した電力変換装置を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、1つまたは複数の単位セルの直列体であるクラスタとリアクトルとの直列体をデルタ結線して構成したデルタ結線カスケード・マルチレベル変換器(CMC)を電力系統に連系した電力変換装置であって、前記電力変換装置が正相無効電流と逆相電流とを同時に出力することによって、前記電力系統に連系する他の不平衡負荷による正相無効電流と逆相電流とを大略相殺する機能を有する電力変換装置を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、1つまたは複数の単位セルの直列体であるクラスタとリアクトルとの直列体をデルタ結線して構成したデルタ結線カスケード・マルチレベル変換器(CMC)を電力系統に連系した電力変換装置であって、前記の各単位セルの直流コンデンサの両端電圧をバランスする機能を有する電力変換装置を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、1つまたは複数の単位セルの直列体であるクラスタとリアクトルとの直列体をデルタ結線して構成したデルタ結線カスケード・マルチレベル変換器(CMC)を電力系統に連系した電力変換装置において、前記電力系統の電圧の正相成分の位相角をφ1とし、前記電力変換装置の逆相電流指令値または実際の逆相電流の実効値と位相角をそれぞれI2,δ2とすると、前記の各クラスタが次式で表わされる実効値I0と位相角δ0とを有する循環電流を流す機能を有する電力変換装置を提供するものである。
【0016】
〔数1〕
I0=I2
【0017】
〔数2〕
δ0=2×φ1−δ2±π
【0018】
また、本発明は、1つまたは複数の単位セルの直列体であるクラスタとリアクトルとの直列体をデルタ結線して構成したデルタ結線カスケード・マルチレベル変換器(CMC)を電力系統に連系した電力変換装置において、前記電力系統の電圧の正相成分の実効値と位相角をそれぞれV1,φ1、同逆相成分の実効値と位相角をそれぞれV2,φ2、前記クラスタに流れる電流の指令値または実際の電流の正相成分の実効値と位相角をそれぞれI1,δ1、同逆相成分の実効値と位相角をそれぞれI2,δ2とした場合、各クラスタが、大略、次式で表わされる実効値I0と位相角δ0を有する循環電流を出力する機能を有することを特徴とする電力変換装置を提供するものである。
【0019】
〔数3〕
I0=(I1×V2×cos(δ1−φ2)+I2×V1×cos(δ2−φ1))
/(V1×cos(δ0−φ1)+V2×cos(δ0−φ2))
【0020】
〔数4〕
δ0=tan-1((I1×V2×(V1×sin(δ1+φ1−φ2)+V2×sin(δ1
−2×φ2))−I2×V1×(V2×sin(δ2+φ2−φ1)+V1
×sin(δ2−2×φ1)))/(I1×V2×(V1×cos(δ1+φ1
−φ2)+V2×cos(δ1−2×φ2))−I2×V1×(V2×cos(δ2 −φ2+φ1)−V1×cos(δ2−2×φ1))))
【0021】
また、本発明は、1つまたは複数の単位セルの直列体であるクラスタとリアクトルとの直列体をデルタ結線して構成したデルタ結線カスケード・マルチレベル変換器(CMC)を電力系統に連系した電力変換装置において、V1,φ1,V2,φ2,I1,δ1,I2,δ2の検出に、系統周波数の半周期またはその整数倍を時間窓とする移動平均演算を用いることを特徴とする電力変換装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0022】
前記循環電流の振幅と位相を、本発明のように制御することによって、各クラスタに正相無効電流と逆相電流が同時に流れている状態で、3つのクラスタの電圧と電流がそれぞれ直交する。したがって、各クラスタには有効電力が流入しない。
【0023】
したがって、本発明によれば、1つまたは複数の単位セルの直列体であるクラスタとリアクトルとの直列体3つからなる電力変換装置を用いて、不平衡負荷の正相無効電流と逆相電流との補償が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】デルタ結線CMC−STATCOM主回路図。
【図2】フルブリッジ形単位セル。
【図3】制御ブロック図。
【図4】補償電流指令値演算器。
【図5】フィードフォワード演算器。
【図6】クラスタバランス制御部。
【図7】本発明による波形例。
【図8】逆相電圧対応形フィードフォワード演算器。
【図9】実電流を使用する制御ブロック。
【図10】実電流を使用するフィードフォワード演算器。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施例を図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0026】
本発明の第1の実施例について説明する。
【0027】
実施例1では、1つまたは複数の単位セルの直列体であるクラスタとリアクトルとの直列体3つからなる電力変換装置を用いて、不平衡負荷の正相無効電流と逆相電流との補償が可能となる。
【0028】
以下、図1を用いて実施例1の全体構成を説明する。
【0029】
電力系統101に接続する電力変換装置102は、3つのリアクトル103,uv相クラスタ104,vw相クラスタ105,wu相クラスタ106で構成されている。本明細書では、uv,vw,wu相クラスタ104〜106を区別せず、単にクラスタと称する場合もある。
【0030】
各クラスタ104〜106のそれぞれには、リアクトル103が直列接続されている。uv相クラスタ104とリアクトル103との直列体の一端は電力系統のu相に接続されており、他端はv相に接続されている。vw相クラスタ105とリアクトル103との直列体の一端は電力系統のv相に接続されており、他端はw相に接続されている。wu相クラスタ106とリアクトル103との直列体の一端は電力系統のw相に接続されており、他端はu相に接続されている。
【0031】
各クラスタ104〜106のそれぞれは、1つまたは複数の単位セル107の直列体である。図1では各セルにN個の単位セル接続されている。各クラスタ104〜106において、リアクトル103に近い側から、第1セル,第2セルと番号を付して呼称する。単位セル107の内部構成については後述する。
【0032】
電力系統101には不平衡負荷108が接続されている。不平衡負荷108は、正相有効電流,正相無効電流,逆相電流のすべて、またはいずれかの組み合わせを、電力系統101から引き込む。
【0033】
以下、各電圧・電流を定義する。
【0034】
電力系統101の相電圧をVSu,VSv,VSwとする。なお、O点はVSu+VSv+Vsw=0となる仮想中性点である。また、電力系統101の線間電圧をVSuv,VSvw,VSwuとする。
【0035】
電力系統101から電力変換装置102に流れる電流をIu,Iv,Iwとする。また、リアクトル103と各クラスタ104〜106に流れる電流をIuv,Ivw,Iwuとする。
【0036】
各クラスタ104〜106の出力電圧(クラスタ電圧)を、それぞれVuv,Vvw,Vwuとする。
【0037】
さらに、各クラスタ104〜106に含まれる単位セルの直流電圧をVCijとする。ただし、i=uv,vw,wuであり、各クラスタに含まれる単位セル107の個数をNとすれば、j=1,2,…,Nである。
【0038】
以下、図2を用いて単位セル107の内部構成について説明する。なお、図2はi相第jセルを図示している(i=uv,vw,wu、j=1,2,…,N)。
【0039】
単位セル107は、x相上側素子201,x相下側素子202,y相上側素子203,y相下側素子204,直流コンデンサ205からなる単相フルブリッジ回路であり、各素子201〜204のスイッチングを制御することによって、y点を基準としたx点の電圧Vijとして、Vij=0,Vij=VCij、またはVij=−VCijを出力する。
【0040】
なお、図2では、各素子201〜204をIGBTの記号で図示しているが、Gate Turn-Off Thyristor(GTO),Gate-Commutated Turn-Off Thyristor(GCT),Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor(MOSFET)など、オン・オフ制御可能なスイッチング素子であればIGBTに代えて使用可能である。
【0041】
図1の各クラスタ104〜106はM個の単位セル107の直列体である。したがって、各クラスタ電圧Vuv,Vvw,VwuはそれぞれM個の単位セル107の出力電圧Vijの和であり、Vuv=Vuv1+Vuv2+…+VuvN、Vvw=Vvw1+Vvw2+…+VvwN,Vwu=Vwu1+Vwu2+…+VwuNと書くことができる。
【0042】
したがって、各単位セルをPulse-Width Modulation(PWM)制御することで、各クラスタ電圧Vuv,Vvw,Vwuを制御できる。
【0043】
特に断りがない限り、本明細書はクラスタ電圧Vuv,Vvw,Vwu、リアクトル103とクラスタ104〜106に流れる電流Iuv,Ivw,Iwuに含まれる基本波成分に着目して発明の原理と効果について説明を行う。
【0044】
以下、図3を用いて、本発明による電力変換装置の制御法と本発明の原理について説明する。なお、図3は図1には図示されていない制御装置内の制御ブロックを表わした図である。
【0045】
制御装置は、電力系統101の線間電圧VSuv,VSvw,VSwuを検出し、これらを正相dq変換することで、正相d軸電圧Vdと正相q軸電圧Vqとを得る。また、制御装置は、リアクトルに流れる電流Iuv,Ivw,Iwuを検出し、これらを正相dq変換することで、正相d軸電流Id1と正相q軸電流Iq1とを得る。さらに、制御装置は、リアクトルに流れる電流Iuv,Ivw,Iwuを検出し、これらを逆相dq変換することで、逆相d軸電流Id2と逆相q軸電流Iq2とを得る。得られたVd,Vq,Id1,Iq1,Id2,Iq2を電流制御器308に与えられる。
【0046】
なお、本明細書においては、正相dq変換ブロック306と逆相dq変換ブロックの基準位相角は、すべて電力系統101のuv相線間電圧VSuvに大略同期しているものとする。
【0047】
電流制御器は、電流Id1,Iq1,Id2,Iq2がそれぞれの指令値Id1*,Iq1*,Id2*,Iq2*と一致するように、電流制御器からの各クラスタ電圧指令値Vuvcc*,Vvwcc*,Vwucc*を演算する。
【0048】
正相d軸電流指令値Id1*と他の電流指令値Iq1*,Id2*,Iq2*は、異なる方法で与えられる。
【0049】
正相d軸電流指令値Id1*は、全平均直流電圧制御部303より与えられる。
【0050】
正相q軸電流指令値Iq1*,逆相d軸電流指令値Id2*,逆相q軸電流指令値Iq2*は、不平衡負荷108の電流(以下、負荷電流と称す)ILu,ILv,ILwから補償電流指令値演算部305を介して与えられる。補償電流指令値演算部305の内部構成については後述する。
【0051】
制御装置は、各単位セル107の直流電圧VCuvj,VCvwj,VCwujを検出し、これらをローパスフィルタ(以下、LPFと称す)301に通してVCuvfj,VCvwfj,VCwufjを得る(j=1,2,…,N)。
【0052】
平均値演算器302は、各クラスタ内の直流電圧の平均値(以下、クラスタ平均直流電圧と称す)VCu,VCv,VCwを次式のように演算する。
【0053】
〔数5〕
VCuv=(VCuvf1+VCuvf2+…+VCuvfN)/N
VCvw=(VCvwf1+VCvwf2+…+VCvwfN)/N
VCwu=(VCwuf1+VCwuf2+…+VCwufN)/N
【0054】
全平均直流電圧制御部303は、VCuv,VCvw,VCwuの平均値(以下、全平均直流電圧と称す)VC=(VCuv+VCvw+VCwu)/3を演算し、指令値VC*とVCの誤差に全平均直流電圧制御ゲイン304を乗じて正相d軸電流指令値Id1*を演算し、これを電流制御器308に与える。
【0055】
フィードフォワード演算器310は、逆相d軸電流指令値Id2*,逆相q軸電流指令値Iq2*と、系統電圧VSuv,VSvw,VSwuより、各クラスタ104〜106の流入出有効電力を零とするような循環電流指令値フィードフォワード項I0FF*を演算する。
【0056】
クラスタバランス制御部311は、クラスタ平均直流電圧VCuv,VCvw,VCwuと全平均直流電圧VCとから、クラスタバランス制御に使用する循環電流指令値フィードバック項I0FB*を演算する。これによって、クラスタバランス制御部311は、各単位セルの直流電圧をバランスする機能を提供する。クラスタバランス制御部311の内部構成については後述する。
【0057】
循環電流制御部312は、循環電流指令値フィードフォワード項I0FF*と循環電流指令値フィードバック項I0FB*の和(I0FF*+I0FB*)を実際の循環電流I0と比較し、循環電流制御ゲイン313を乗じて零相電圧指令値V0を演算する。さらに、得られたV0を、電流制御器からの各クラスタ電圧指令値Vuvcc*,Vvwcc*,Vwucc*を加算し、クラスタ電圧指令値Vuv*,Vvw*,Vwu*を得る。
【0058】
電圧指令値分配器309は、クラスタ電圧指令値Vuv*,Vvw*,Vw*をそれぞれセル数Nで除算し、出力電圧指令Vij*(i=uv,vw,wu、j=1,2,…,N)を各単位セル107に分配する。
【0059】
以下、図4を用いて、補償電流指令値演算部305の内部構成について説明する。
【0060】
補償電流指令値演算部305は、負荷電流ILu,ILv,ILwを検出し、正相dq変換ブロックと移動平均演算器401を介して正相d軸電流<ILd1>,正相q軸電流<ILq1>を演算する。また、ILu、ILv、ILwから、逆相dq変換ブロックと移動平均演算器401を介して逆相d軸電流<ILd1>,逆相q軸電流<ILq1>を演算する。ここで、移動平均演算器401の時間窓は系統の半周期またはその整数倍である。
【0061】
得られた<ILd1>,<ILq1>,<ILd2>,<ILq2>のうち、<ILd1>を除く3つは、電力系統101の図示されていない上位インピーダンスのリアクタンス成分に電圧降下を発生させる。
【0062】
負荷の正相q軸電流<ILq1>は系統電圧の振幅を変化させる。また、負荷の逆相d軸,q軸電流<ILd2>,<ILq2>は、系統電圧の不平衡率を増加させる。そこで、<ILq1>,<ILd2>,<ILq2>と逆位相の電流を、電力変換装置102から出力させ、系統電圧の振幅の変化と、不平衡率の増加を抑制することが望ましい。
【0063】
したがって、電力変換装置102の電流指令値Iq1*,Id2*,Iq2*を次式で与える。
【0064】
〔数6〕
Iq1*=−<ILq1>
Id2*=−<ILd2>
Iq2*=−<ILq2>
【0065】
前述の通り、電流制御器308は、実際の電流Iq1,Id2,Iq2を与えられた電流指令値Iq1*,Id2*,Iq2*に一致させる制御を行う。
【0066】
以下、図5を用いて、フィードフォワード演算器310の内部構成について説明する。
【0067】
フィードフォワード演算器310は、直交座標・極座標変換ブロック501を介して、与えられた電流指令値Id2*,Iq2*のベクトル[Id2*,Iq2*]の大きさと偏角から、逆相電流実効値I2,正相電流位相角δ2を得る。
【0068】
また、フィードフォワード演算器310は、正相dq変換ブロック306を用いて電力系統101の相電圧VSu,VSv,VSwを逆相dq変換し、さらに移動平均演算器401を介して系統半周期を時間窓とする移動平均を演算し、正相d軸電圧<Vd1>,正相q軸電流<Vq1>を得る。さらに、直交座標・極座標変換ブロック501を介して、ベクトル[<Vd2>,<Vq2>]の大きさと偏角から、正相電圧実効値V1,逆相電圧位相角φ1を得る。
【0069】
発明者らは、各クラスタ104〜106の流入有効電力を零とするためには、以上で得られたI2,δ2,V1,φ1より、次式で表わされる実効値I0と位相角δ0を持つ循環電流指令値フィードフォワード項I0FF*をクラスタに流せばよいことを見出した。本発明のメカニズムについては後述する。
【0070】
〔数7〕
I0=I2
〔数8〕
δ0=2×φ1−δ2±π
【0071】
上式は次式のように書いても数学的に等価であり、図5では次式を使用したブロック図を描いている。
【0072】
〔数9〕
I0=−I2
【0073】
〔数10〕
δ0=2×φ1−δ2
【0074】
正弦波発生器502は、実効値I0,位相角δ0を有する正弦波信号として循環電流指令値フィードフォワード項I0FF*を発生させる。
【0075】
フィードフォワード演算器310は、図4に示したブロックと完全に同一なアルゴリズムでなくても、〔数7〕〜〔数10〕と数学的に等価な信号を出力することができれば、他のアルゴリズムを採用することもできる。
【0076】
以下、図6を用いてクラスタバランス制御部311の内部構成について説明する。
【0077】
クラスタバランス制御部311は、与えられた全平均直流電圧VCとクラスタ平均直流電圧VCuv,VCvw,VCwuとの差であるΔVCuv,ΔVCvw,ΔVCwuを演算する。得られた、ΔVCuv,ΔVCvw,ΔVCwuをαβ変換ブロック601を用いてαβ変換し、αβ軸上のベクトルとして[ΔVCα,ΔVCβ]を得る。さらに、直交座標・極座標変換ブロック602を介して、ベクトル[ΔVCα,ΔVCβ]の大きさΔVCと偏角ξを演算する。
【0078】
また、クラスタバランス制御部311は、与えられた正相d軸電圧Vdと正相q軸電圧Vqのベクトル[Vd,Vq]から、直交座標・極座標変換ブロック501を介してベクトル[Vd,Vq]の偏角φ1、すなわち系統uv相線間電圧の位相角を演算する。
【0079】
正弦波発生器502は、ΔVCとクラスタバランス制御ゲイン603を乗算して得られる実効値I0と位相角δ0=φ1−ξとを有する正弦波信号として、循環電流指令値フィードバック項I0FB*を出力する。
【0080】
以下、本発明によって得られる効果について、図7を用いて説明する。
【0081】
図7は、本発明による制御を行った場合の各部の概略波形であり、上から、電力系統101の線間電圧VSuv,VSvw,VSwuの概略波形、リアクトル103と各クラスタ104〜106に流れる電流Iuv,Ivw,Iwuの概略波形,循環電流(I0FF+I0FB)の概略波形,直流電圧VCuvj,VCvwj,VCwujの概略波形,LPF301を介して観測した直流電圧VCuvfj,VCvwfj,VCwufjの概略波形である。なお、図7は、循環電流指令値I0が指令値(I0FF*+I0FB*)に理想的に追従していると仮定して描いている。
【0082】
また、図7の横軸は時間または位相角であり、縦軸は電圧や電流の振幅を任意単位(arbitrary unit:a.u.)で表わしている。
【0083】
電流Iuv,Ivw,Iwuが逆相電流を含んでいる期間では、循環電流I0が流れている。
【0084】
本発明のメカニズムについて以下で説明する。
【0085】
リアクトル103と各クラスタ104〜106の電流Iuv*,Vvw*,Vwu*に、循環電流制御部312で制御される循環電流I0を重畳させることによって、VuvとIuvの位相差、VvwとIvwの位相差、VwuとIwuの位相差が、Iuv,Ivw,Iwuに逆相成分が含まれている場合においても90°となる。すなわち、各クラスタに流入出する有効電力が零となる。このため、各クラスタの流入出有効電力が零となり、直流電圧アンバランスの発生を抑制できる。
【0086】
本発明において、零相フィードバック項I0FB*は、使用部品の特性バラツキなどに起因する直流電圧アンバランス発生を抑制する役割を担う。
【0087】
本実施例の電力変換装置102では、各クラスタ104〜106はリアクトル103を介して電力系統101に接続している。
【0088】
本発明は、各クラスタ104〜106がリアクトル103に代えて変圧器を介して電力系統101に接続する場合にも適用可能である。
【0089】
また、本発明は、各クラスタ104〜106がリアクトル103と変圧器とを介して電力系統101に接続する場合にも適用可能である。
【実施例2】
【0090】
本発明の第2の実施例について説明する。
【0091】
実施例1では、フィードフォワード演算器310に逆相電流指令値Id2*,Iq2*を与えていた。一方、実施例2では、Id2*,Iq2*に代えて、実際の逆相電流Id2,Iq2を与える。
【0092】
これにより、何らかの外乱により、電流制御器308が意図した通りに電流を制御できなかった場合、すなわちId2≠Id2*,Iq2≠Iq2である場合においても、各クラスタ104〜106に流入する有効電力を大略零にできるという効果を得られる。
【0093】
実施例1と実施例2の相違点は、制御ブロックとフィードフォワード演算器である。したがって、以下では、図8と図9を用いて、実施例2の制御ブロックとフィードフォワード演算器について説明する。
【0094】
図8の制御ブロックでは、電流Iuv,Ivw,Iwuをフィードフォワード演算器801に与えている。
【0095】
次に、図9を用いて、フィードフォワード演算器801の内部構成について説明する。
【0096】
フィードフォワード演算器801は、逆相dq変換ブロック307を用いて電流Iuv,Ivw,Iwuを逆相dq変換し、さらに移動平均演算器401を介して系統半周期を時間窓とする移動平均を演算し、逆相d軸電流<Id2>と逆相q軸電流<Iq2>を得る。さらに、直交座標・極座標変換ブロック501を介して、ベクトル[<Id2>,<Iq2>]の大きさと偏角から逆相電流の実効値I2と位相角δ2を得る。
【0097】
また、フィードフォワード演算器801は、正相dq変換ブロック306を用いて電力系統101の相電圧VSu,VSv,VSwを逆相dq変換し、さらに移動平均演算器401を介して系統半周期を時間窓とする移動平均を演算し、正相d軸電圧<Vd1>、正相q軸電流<Vq1>を得る。さらに、直交座標・極座標変換ブロック501を介して、ベクトル[<Vd2>,<Vq2>]の大きさと偏角から、正相電圧実効値V1,逆相電圧位相角φ1を得る。
【0098】
発明者らは、各クラスタ104〜106の流入有効電力を零とするためには、以上で得られたI2,δ2,V1,φ1より、次式で表わされる実効値I0と位相角δ0を持つ循環電流指令値フィードフォワード項I0FF*をクラスタに流せばよいことを見出した。本発明のメカニズムについては後述する。
【0099】
〔数11〕
I0=I2
【0100】
〔数12〕
δ0=2×φ1−δ2±π
【0101】
上式は次式のように書いても数学的に等価であり、図5では次式を使用したブロック図を描いている。
【0102】
〔数13〕
I0=−I2
【0103】
〔数14〕
δ0=2×φ1−δ2
【0104】
正弦波発生器502は、実効値I0,位相角δ0を有する正弦波信号として循環電流指令値フィードフォワード項I0FF*を発生させる。
【0105】
以上で説明した制御ブロック(図3)とフィードフォワード演算器801以外は、実施例1と同様である。
【実施例3】
【0106】
本発明の第3の実施例について説明する。
【0107】
実施例3では、電力系統101の電圧が三相不平衡であり、逆相成分を含んでいる場合においても、実施例1,2と同様に、各クラスタ104〜106の流入出有効電力を零にできるという効果を得られる。
【0108】
実施例3は、実施例2の図9に示したフィードフォワード演算器801を、図10に示した逆相電圧対応形フィードフォワード演算器1001に置き換えたことを特徴とする。
【0109】
逆相電流対応形フィードフォワード演算器1001は、電流Iuv,Ivw,Iwuを正相dq変換ブロック306,移動平均演算器401を介して正相d軸電流<Id1>、正相q軸電流<Iq1>を得る。さらに、直交座標・極座標変換器501を介して、ベクトル[<Id1>,<Iq1>]の大きさと偏角から、正相電流実効値I1,正相電流位相角δ1を得る。
【0110】
逆相電流対応形フィードフォワード演算器1001は、電流Iu,Iv,Iwを逆相dq変換ブロック307,移動平均演算器401を介して逆相d軸電流<Id2>,逆相q軸電流<Iq2>を得る。さらに、直交座標・極座標変換器501を介して、ベクトル[<Id2>,<Iq2>]の大きさと偏角から、逆相電流実効値I2,逆相電流位相角δ2を得る。
【0111】
逆相電流対応形フィードフォワード演算器1001は、電圧VSuv,VSvw,VSwuを正相dq変換ブロック306,移動平均演算器401を介して正相d軸電圧<Vd1>、正相q軸電圧<Vq1>を得る。さらに、直交座標・極座標変換器501を介して、ベクトル[<Vd1>,<Vq1>]の大きさと偏角から、正相電圧実効値V1,正相電圧位相角φ1を得る。
【0112】
逆相電流対応形フィードフォワード演算器1001は、電圧VSuv,VSvw,VSwuを逆相dq変換ブロック307,移動平均演算器401を介して逆相d軸電圧<Vd2>、逆相q軸電圧<Vq2>を得る。さらに、直交座標・極座標変換器501を介して、ベクトル[<Vd2>,<Vq2>]の大きさと偏角から、正相電圧実効値V2,正相電圧位相角φ2を得る。
【0113】
発明者らは、電圧VSuv,VSvw,VSwuが逆相成分を含有している場合にも、次式で表わされる実効値I0と位相角δ0を有する循環電流指令値フィードフォワード項I0FF*を循環電流制御部312に与えることによって、各クラスタの流入出有効電力を零にできることを見出した。
【0114】
〔数14〕
I0=(I1×V2×cos(δ1−φ2)+I2×V1×cos(δ2−φ1))
/(V1×cos(δ0−φ1)+V2×cos(δ0−φ2))
【0115】
〔数15〕
δ0=tan-1((I1×V2×(V1×sin(δ1+φ1−φ2)+V2
×sin(δ1−2×φ2))−I2×V1×(V2×sin(δ2+φ2−φ1)
+V1×sin(δ2−2×φ1)))/(I1×V2×(V1×cos(δ1
+φ1−φ2)+V2×cos(δ1−2×φ2))−I2×V1×(V2
×cos(δ2−φ2+φ1)−V1×cos(δ2−2×φ1))))
【0116】
上式で表わされる実効値I0と位相角δ0を有する零相をクラスタを流れる電流Iuv,Ivw,Iwuに重畳させると、VuvとIuvの位相差、VvwとIvwの位相差、VwuとIwuの位相差がすべて90°となる。すなわち、各クラスタに流入出する有効電力が零となり、直流電圧アンバランスの発生を抑制できる。
【0117】
なお、フィードフォワード演算器1001は、図10に示したブロックと完全に同一なアルゴリズムでなくても、〔数14〕,〔数15〕と数学的に等価な信号を出力することができれば、他のアルゴリズムを採用することもできる。
【0118】
本実施例の電力変換装置102では、各クラスタ104〜106はリアクトル103を介して電力系統101に接続している。
【0119】
本発明は、各クラスタ104〜106がリアクトル103に代えて変圧器を介して電力系統101に接続する場合にも適用可能である。
【0120】
また、本発明は、各クラスタ104〜106がリアクトル103と変圧器とを介して電力系統101に接続する場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0121】
101 電力系統
102 電力変換装置
103 リアクトル
104 uv相クラスタ
105 vw相クラスタ
106 wu相クラスタ
107 単位セル
201 x相上側素子
202 x相下側素子
203 y相上側素子
204 y相下側素子
205 直流コンデンサ
301 ローパスフィルタ(LPF)
302 平均値演算器
303 全平均直流電圧制御部
304 全平均直流電圧制御ゲイン
305 補償電流指令値演算部
306 正相dq変換ブロック
307 逆相dq変換ブロック
308 電流制御器
309 電圧指令値分配器
310 フィードフォワード演算器
311 クラスタバランス制御部
312 循環電流制御部
313 循環電流制御ゲイン
401 移動平均演算器
501 直交座標・極座標変換器
502 正弦波発生器
601 αβ変換ブロック
602 直交座標・極座標変換ブロック
603 クラスタバランス制御ゲイン
801 実電流を使用するフィードフォワード演算器
1001 逆相電圧対応形フィードフォワード演算器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つまたは複数の単位セルの直列体であるクラスタとリアクトルとの直列体をデルタ結線して構成したデルタ結線カスケード・マルチレベル変換器(CMC)を電力系統に連系した電力変換装置であって、前記電力変換装置が正相無効電流と逆相電流とを同時に出力することによって、前記電力系統に連系する他の不平衡負荷による正相無効電流と逆相電流とを大略相殺する機能を有する電力変換装置。
【請求項2】
請求項1の電力変換装置であって、前記の各単位セルの直流コンデンサの両端電圧をバランスする機能を有する電力変換装置を提供するものである。
【請求項3】
請求項1,2の電力変換装置において、前記電力系統の電圧の正相成分の位相角をφ1とし、前記電力変換装置の逆相電流指令値または実際の逆相電流の実効値と位相角をそれぞれI2,δ2とすると、前記の各クラスタが、大略、次式で表わされる実効値I0と位相角δ0とを有する循環電流を流す機能を有する電力変換装置。
〔数1〕
I0=I2
〔数2〕
δ0=2×φ1−δ2±π
【請求項4】
請求項1〜3の電力変換装置において、前記電力系統の電圧の正相成分の実効値と位相角をそれぞれV1,φ1、同逆相成分の実効値と位相角をそれぞれV2,φ2、前記クラスタに流れる電流の指令値または実際の電流の正相成分の実効値と位相角をそれぞれI1,δ1、同逆相成分の実効値と位相角をそれぞれI2,δ2とした場合、各クラスタが、大略、次式で表わされる実効値I0と位相角δ0を有する循環電流を出力する機能を有することを特徴とする電力変換装置を提供するものである。
〔数3〕
I0=(I1×V2×cos(δ1−φ2)+I2×V1×cos(δ2−φ1))
/(V1×cos(δ0−φ1)+V2×cos(δ0−φ2))
〔数4〕
δ0=tan-1((I1×V2×(V1×sin(δ1+φ1−φ2)+V2×sin(δ1
−2×φ2))−I2×V1×(V2×sin(δ2+φ2−φ1)+V1
×sin(δ2−2×φ1)))/(I1×V2×(V1×cos(δ1+φ1
−φ2)+V2×cos(δ1−2×φ2))−I2×V1×(V2×cos(δ2 −φ2+φ1)−V1×cos(δ2−2×φ1))))
【請求項5】
請求項1〜4の電力変換装置において、前記の電圧・電流とその位相角、(V1,φ1,V2,φ2,I1,δ1,I2,δ2)の検出に、系統周波数の半周期またはその整数倍を時間窓とする移動平均演算を用いることを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項1〜3の電力変換装置において、前記単位セルが単相フルブリッジであることを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項1〜3の電力変換装置において、前記リアクトルと直列に変圧器を接続したことを特徴とする電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−223784(P2011−223784A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91896(P2010−91896)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】