説明

電力変換装置

【課題】小容量のコンデンサを有する電力変換装置において、モータの回生動作に起因する過電圧を防止する。
【解決手段】電力変換装置は、モータ(5)の出力トルクに上記交流電源(6)の出力電圧の脈動成分を重畳させるように、該モータ(5)の出力トルクを脈動させる制御部(40)とを備え、制御部(40)は、モータ(5)の出力トルクがマイナスとならないように、モータ(5)の出力トルクを制限する制限部(60)を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータを制御する電力変換装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、圧縮機等のモータを制御する電力変換装置が広く知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、圧縮機の一回転中の負荷トルクの脈動に応じて、モータの出力トルクを変動させる電力変換装置が開示されている。即ち、例えば図16に示すように、回転式の圧縮機では、ピストンが一回転する際、その回転角に応じて圧縮トルクが変動し、これに伴いモータの負荷トルクも脈動する。そこで、特許文献1の電力変換装置では、この負荷トルクの脈動に同期するように、モータの出力トルクを変動させている。これにより、モータの負荷トルクを低減して圧縮機の運転時における振動を抑制している。
【0004】
一方、特許文献2には、出力電圧を平滑するコンデンサの容量が極めて小さい電力変換装置が開示されている。具体的に、この電力変換装置は、コンバータ回路と、該コンバータ回路に並列に接続される直流リンク部と、複数のスイッチング素子を有するインバータ回路とを備えている。コンバータ回路では、交流電源の電源電圧が全波整流されて直流リンク部へ出力される。直流リンク部には、静電容量が極めて小さいコンデンサが接続されている。具体的に、このコンデンサは通常の平滑コンデンサの1/100程度の静電容量しか有していない。このため、直流リンク部からは、整流後の電圧が平滑化されずに脈動した直流電圧として出力される。インバータ回路は、この直流電圧を交流電力に変換し、この電力をモータに供給してモータを駆動する。特許文献2の電力変換装置は、このようにコンデンサを小容量することで、電力変換装置の小型化、低コスト化を図っている。
【0005】
更に、特許文献3では、特許文献2に開示のようなコンデンサの容量が小さい電力変換装置について、上記のようなトルク制御を行うものが開示されている。つまり、直流リンク部のコンデンサの静電容量が小さいと、インバータ回路への出力電圧も、脈動成分を有することになる。そこで、特許文献3では、モータの負荷トルクの脈動成分と、電源電圧の出力電圧の脈動成分を出力トルクに重畳させるようにして、モータの負荷トルクに応じて出力トルクを変動させ、圧縮機の振動を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−046000号公報
【特許文献2】特開2002−51589号公報
【特許文献3】特許第4192979号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献3に開示のような電力変換装置において、出力トルクの変動幅が比較的大きくなると、この出力トルクがマイナス側(即ち、マイナストルク)にまで至ってしまう虞がある。このようにして、モータの出力トルクがマイナス側に至ると、モータが回生動作を行ってしまう。
【0008】
このような状況下において、例えば特許文献1のように、直流リンク部のコンデンサの容量が比較的大きいものであれば、モータが回生動作を行っても、この回生エネルギーをコンデンサによって十分に吸収できる。しかしながら、例えば特許文献2や3に開示のように、コンデンサの容量が極めて小さい電力変換装置では、モータの回生エネルギーをコンデンサによって十分に吸収できない。従って、直流リンク部で過電圧が生じてしまい、例えばインバータ回路のスイッチング素子の破壊等の不具合を招いてしまう虞がある。
【0009】
特に、上記のようなトルク制御を行う電力変換装置では、負荷トルクのうち振動の主要因となる一次成分(基本波周波成分)を十分に低減しようとする場合、出力トルクの変動幅が大きくなり易い。その結果、モータの出力トルクがマイナス側に至り易くなるため、上記のようなモータの回生に起因する不具合を招き易くなる。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、小容量のコンデンサを有する電力変換装置において、モータの回生動作に起因する過電圧を防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、電力変換装置を対象とし、交流電源(6)の電源電圧を整流するコンバータ回路(11)と、該コンバータ回路(11)の出力に並列に接続されたコンデンサ(16)を有し、脈動する直流電圧を出力する直流リンク部(15)と、該直流リンク部(15)の出力をスイッチングして交流に変換し、接続されたモータ(5)に供給するインバータ回路(20)と、上記モータ(5)の出力トルクに上記交流電源(6)の出力電圧の脈動成分を重畳させるように、該モータ(5)の出力トルクを脈動させる制御部(40)とを備え、該制御部(40)は、上記モータ(5)の出力トルクがマイナスとならないように、該モータ(5)の出力トルクを制限する制限部(60)を備えていることを特徴とする。
【0012】
第1の発明では、モータ(5)の出力トルクに交流電源(6)の出力電圧の脈動成分が重畳するように、モータ(5)の出力トルクが脈動する。このモータ(5)の出力トルクがマイナス側に至ると、モータ(5)が回生動作を行ってしまう可能性がある。そこで、本発明の制限部(60)は、モータ(5)の出力トルクがマイナスとならないように、該出力トルクを制限する。これにより、モータ(5)の回生動作を禁止できる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、上記制御部(40)は、上記モータ(5)の負荷トルクに応じて該モータ(5)の出力トルクを変動させるトルク制御を行うように構成され、上記制限部(60)は、上記トルク制御動作時に、上記モータ(5)の出力トルクがマイナスとならないように、該モータ(5)の出力トルクを制限することを特徴とする。
【0014】
第2の発明では、モータ(5)の負荷トルクに応じて該モータ(5)の出力トルクが変動する。これにより、モータ(5)の振動が抑制される。一方、このようにしてトルク制御を行うと、モータ(5)の出力トルクの変動幅が大きくなり、この出力トルクがマイナス側に至りやすい。そこで、本発明の制限部(60)は、トルク制御動作時において、モータ(5)の出力トルクがマイナス側に変動しないように、該出力トルクを制限する。これにより、トルク制御時において、モータ(5)の回生動作を禁止できる。
【0015】
第3の発明は、第2の発明において、上記制御部(40)は、上記トルク制御動作時に、上記モータ(5)の出力トルクの変動幅が該モータ(5)の負荷トルクの平均値よりも大きくなるように、該出力トルクの変動幅を調整することを特徴とする。
【0016】
第3の発明では、トルク制御動作時において、モータ(5)の出力トルクが負荷トルクの平均値よりも大きな変動幅となるように、モータ(5)の出力トルクの変動幅が調整される。これにより、モータ(5)の負荷トルクの基本波周波数成分を効果的に抑えることができ、モータ(5)の振動の抑制効果が向上する。
【0017】
一方、このようにモータ(5)の出力トルクの変動幅が増大すると、この出力トルクがマイナス側に至り易い。しかしながら、制限部(60)は、トルク制御時において、モータ(5)の出力トルクがマイナス側に変動することを制限しているため、この出力トルクがマイナス側に至ってモータ(5)が回生動作を行ってしまうこともない。
【0018】
第4の発明は、第2又は第3の発明において、上記制御部(40)は、トルク制御動作時に、上記交流電源(6)の電源電圧又は上記直流リンク部(15)の出力電圧に基づいて上記モータ(5)の出力トルクの変動幅を補正することを特徴とする。
【0019】
第4の発明のトルク制御動作では、交流電源(6)の電源電圧や、直流リンク部(15)の出力電圧(直流リンク電圧)に基づいて、モータ(5)の出力トルクの変動幅が補正される。これにより、例えば電源電圧が比較的高い条件下、あるいは電源電圧が比較的低い条件下において、モータ(5)の出力トルクの変動幅を制限できる。その結果、例えば電源電圧が比較的高い条件下において、トルク制御動作時の出力トルクの変動幅が過大となることに起因してリアクタとコンデンサ(16)との間での共振が起こることを回避でき、ひいては直流リンク部(15)の出力電圧が過大となることを回避できる。また、例えば電源電圧が比較的低い条件下において、出力トルクの変動幅が過大となることに起因して、トルク制御動作の制御性が悪化してしまうことを回避できる。
【0020】
第5の発明は、第2乃至第4のいずれか1つの発明において、上記制御部(40)は、上記トルク制御動作時に上記モータ(5)のピーク電流が所定の上限値を越えると、上記モータ(5)の出力トルクの変動幅を低減させることを特徴とする。
【0021】
第5の発明では、モータ(5)のピーク電流に応じて、モータ(5)の出力トルクが制限される。本発明の電力変換装置(即ち、コンデンサの容量が極めて小さい電力変換装置)でトルク制御動作を行うと、直流リンク部(15)の出力電圧の脈動成分と、モータ(5)の負荷トルクの脈動成分とが重畳するため、両者の脈動成分のそれぞれのピークが重なると、モータ(5)のピーク電流が極端に上昇してしまう。その結果、このピーク電流が、例えばスイッチング素子等の定格の最大許容電流値を上回り、スイッチング素子の破壊を招く虞がある。そこで、本発明では、モータ(5)のピーク電流が所定の上限値を越えると、モータ(5)の出力トルクの変動幅が低減される。その結果、モータ(5)のピーク電流の上昇が抑えられ、スイッチング素子等の保護が図られる。
【0022】
第6の発明は、上記制御部(40)が、所定の判定時間において上記モータ(5)の電流の最大値をピーク電流として保持するピークホールド部(55)を有し、上記ピークホールド部(55)で保持されたピーク電流が所定の上限値を越えると、上記モータ(5)の出力トルクを低減させることを特徴とする。
【0023】
第6の発明では、ピークホールド部(55)がモータ(5)の電流の最大値をピーク電流として保持することで、モータ(5)のピーク電流を確実に導出することができる。この点について詳細に説明する。
【0024】
上述のように、モータ(5)の電流は、モータ(5)の負荷トルクのピークと、直流リンク部(15)の出力電圧のピークとが、一致した時に最も大きくなる。ところが、モータ(5)の負荷トルクの脈動の周期と、直流リンク部(15)の出力電圧の脈動の周期とは、必ずしも同じでないため、両者のピークが一致しないタイミングでモータ(5)の電流を検出しても、この電流値は比較的小さい値となってしまう。つまり、両者のピークが重畳するタイミングにおいて、モータ(5)の電流を検出しなければ、トルク制御動作時に生じうる、モータ(5)のピーク電流を確実に導出することができない。
【0025】
そこで、本発明では、ピークホールド部(55)がモータ(5)の電流の最大値を所定の判定期間毎に保持するようにしている。これにより、この判定期間において、モータ(5)の負荷トルクのピークと、直流リンク電圧の出力電圧のピークとが重畳するタイミングでピーク電流を導出し易くなる。トルク制御量調整部(54)は、このようにして導出したピーク電流が所定の上限値を越えると、モータ(5)の出力トルクの変動幅を低減させる制御を行う。
【0026】
第7の発明は、第6の発明において、上記制御部(40)は、上記ピークホールド部(55)の判定期間中に、上記モータ(5)の負荷トルクの脈動成分のピークと上記直流リンク部(15)の出力電圧の脈動成分のピークとが重畳するように、上記モータ(5)の運転周波数を補正する速度指令調整部(72)を備えていることを特徴とする。
【0027】
第7の発明では、ピークホールドの判定期間において、速度指令調整部(72)によって、モータ(5)の負荷トルクのピークと、直流リンク部(15)の出力電圧のピークとが重畳するように、モータ(5)の運転周波数が補正される。その結果、この判定期間において、両者のピークが重畳した時点でのモータ(5)のピーク電流を確実に導出することができる。
【0028】
第8の発明は、第7の発明において、上記制御部(40)は、上記交流電源(6)又は上記直流リンク部(15)の出力電圧の周波数と、上記モータ(5)の運転周波数とに基づいて、上記モータ(5)の負荷トルクのピークと上記直流リンク部(15)の出力電圧のピークとが重畳する周期を導出する周期導出部(71)を備え、上記速度指令調整部(72)は、上記周期導出部(71)で導出される周期が、上記ピークホールド部(55)の判定期間以下となるように、上記モータ(5)の運転周波数を補正することを特徴とする。
【0029】
第8の発明では、周期導出部(71)によって、交流電源(6)や直流リンク部(15)の出力電圧の周波数と、モータ(5)の運転周波数とに基づいて、直流リンク部(15)の出力電圧のピークと、モータ(5)の負荷トルクのピークとが重畳する周期が導出される。速度指令調整部(72)は、このようにして導出された周期が、ピークホールド部(55)の判定期間以下となるように、モータ(5)の運転周波数を補正する。その結果、この判定期間において、直流リンク部(15)の出力電圧のピークとを必ず一度は一致せることができ、ピーク電流を確実に導出することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、モータ(5)の出力トルクがマイナスとならないように、制限部(60)がモータ(5)の出力トルクを制限している。これにより、モータ(5)の回生動作を確実に回避して過電圧を防止できる。その結果、直流リンク部(15)のコンデンサ(16)の容量が小さくても、モータ(5)の回生動作に起因するスイッチング素子等の破損を確実に防止できる。
【0031】
特に、第2の発明では、トルク制御動作を行うことで、モータ(5)の振動を防止できる。更に、第3の発明では、モータ(5)の出力トルクの変動幅を負荷トルクの平均値よりも大きくすることで、負荷トルクの一次成分を効果的に抑制してモータ(5)の振動を確実に防止できる。一方、第2や第3の発明では、このようにして出力トルクの変動幅が大きくなっても、この出力トルクがマイナスに至るのを確実に防止でき、モータ(5)の回生動作を回避できる。
【0032】
第4の発明では、トルク制御動作時において、電源電圧の上昇、あるいは低下に伴って生じる不具合を、出力トルクの変動幅を制御することによって未然に回避できる。
【0033】
第5の発明では、モータ(5)のピーク電流が所定値を越えると、モータ(5)の出力トルクの変動幅を低減させている。このため、モータ(5)の電流値が過剰となってスイッチング素子等が破損してしまうことを未然に回避できる。
【0034】
特に、第6の発明では、モータ(5)の電流値を所定の判定期間において保持する、ピークホールドを行うようにしているため、負荷トルクのピークと直流リンク電圧のピークとが重畳するタイミングでのピーク電流を導出することができる。
【0035】
更に、第7や第8の発明では、判定期間内において、負荷トルクのピークと直流リンク電圧のピークとが一致するようにモータ(5)の運転周波数を調整している。この運転周波数は、一般的には電源周波数に基づいて決定しているため、例えば交流電源(6)の電源周波数が所望の周波数(例えば50Hz又は60Hz)に対してばらついた場合にも、所望とする周期でビートを発生させることができる。また、例えばマイコンクロックがばらついた場合にも、所望とする周期でビートを発生させることができる。その結果、この判定期間内において、負荷トルクのピークと直流リンク電圧のピークとが一致するタイミングでのピーク電流を確実に導出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、実施形態に係る電力変換装置の概略の回路図である。
【図2】図2は、電力変換装置の制御部の詳細を表したブロック図である。
【図3】図3は、電力変換装置のトルク制御部の詳細を表したブロック図である。
【図4】図4は、トルク制御動作(トルク制御量=100%)における、モータの負荷トルク、直流リンク電圧、及びモータの出力トルクの波形を表した図表である。
【図5】図5は、トルク制御動作(トルク制御量=150%)における、モータの負荷トルク、直流リンク電圧、及びモータの出力トルクの波形を表した図表であり、リミッタのよってマイナストルクを制限していない状態のものである。
【図6】図6は、トルク制御動作(トルク制御量=150%)における、モータの負荷トルク、直流リンク電圧、及びモータの出力トルクの波形を表した図表であり、リミッタのよってマイナストルクを制限した状態のものである。
【図7】図7は、トルク制御動作における、モータの負荷トルク、直流リンク電圧、及びモータの出力トルクの波形を表した図表であり、負荷トルクのピークと直流リンク電圧のピークとが重畳した状態のものである。
【図8】図8は、トルク制御動作におけるピークホールドの動作を説明するための図表である。
【図9】図9は、モータの負荷トルクのピークと、直流リンク電圧のピークとが徐々にずれていく状態を説明するための図表である。
【図10】図10は、速度指令補正部のブロック図である。
【図11】図11は、ビートの発生の周期と、ピークホールドの判定周期とを表した図表であり、判定期間毎にビートが発生しない状態を示したものである。
【図12】図12は、速度指令補正部の制御動作を示すフローチャートである。
【図13】図13は、ビートの発生の周期と、ピークホールドの判定周期とを表した図表であり、判定期間毎にそれぞれビートが発生する状態を示したものである。
【図14】図14は、リアクタとコンデンサの共振に伴う直流リンク電圧の上昇の一例を表した図表である。
【図15】図15は、その他の実施形態に係る電力変換装置の概略の回路図である。
【図16】図16は、圧縮トルクの変動の一例を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0038】
《発明に係る実施形態》
本発明に係る電力変換装置(10)は、例えば空気調和装置の冷媒回路に接続される圧縮機の三相交流式のモータ(5)に接続される。圧縮機は、例えば1つのシリンダを有するロータリー式の圧縮機で構成される。つまり、この圧縮機では、駆動軸が1回転する際に、圧縮トルク(即ち、モータ(5)の負荷トルク)が脈動する。また、モータ(5)は、例えば4極6スロットの集中巻きのDCブラシレス式のモータである。後述するように、電力変換装置(10)では、このモータ(5)の負荷トルクを低減してモータ(5)の振動を抑制するトルク制御動作を実行可能に構成されている。
【0039】
〈電力変換装置の全体構成〉
図1に示すように、電力変換装置(10)は、コンバータ回路(11)、直流リンク部(15)、インバータ回路(20)、及び制御部(40)を有している。電力変換装置(10)は、単相の交流電源(6)から供給された交流の電力を所定の周波数の電力に変換して、モータ(5)に供給する。
【0040】
コンバータ回路(11)は、交流電源(6)に接続されている。コンバータ回路(11)は、複数(本実施形態では4つ)のダイオード(D1〜D4)がブリッジ状に結線された、いわゆるダイオードブリッジ回路である。コンバータ回路(11)は、交流電源(6)が出力した交流を直流に全波整流する全波整流回路である。
【0041】
直流リンク部(15)は、コンバータ回路(11)の出力側に並列に接続されている。コンバータ回路(11)と直流リンク部(15)との間には、リアクタ(12)が接続されている。直流リンク部(15)は、コンデンサ(16)を有している。コンデンサ(16)の両端に生じた直流電圧(直流リンク電圧Vdc)は、インバータ回路(20)の入力ノードに接続されている。
【0042】
コンデンサ(16)は、例えばフィルムコンデンサによって構成されている。コンデンサ(16)は、その静電容量が比較的小さい容量(例えば数十μF)に設定されている。具体的に、コンデンサ(16)は、インバータ回路(20)のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)が動作する際、このスイッチング動作の周波数に対応して生じるリプル電圧(電圧変動)を平滑化可能な静電容量を有している。一方、コンデンサ(16)は、コンバータ回路(11)によって整流された電圧(電源電圧に起因する電圧変動)を平滑化できない静電容量を有している。従って、直流リンク部(15)は、コンバータ回路(11)の出力を受けて、コンデンサ(16)の両端から交流電源(6)の電源電圧Vinの2倍の周波数の脈動を有する直流リンク電圧Vdcを出力する。直流リンク部(15)が出力する直流リンク電圧Vdcは、その最大値がその最小値の2倍以上となるような大きな脈動を有している。
【0043】
インバータ回路(20)は、変換部を構成しており、入力ノードが直流リンク部(15)のコンデンサ(16)に並列に接続され、直流リンク部(15)の出力をスイッチングして三相交流に変換し、接続されたモータ(5)に供給する。本実施形態のインバータ回路(20)は、複数のスイッチング素子がブリッジ結線されて構成されている。このインバータ回路(20)は、三相交流をモータ(5)に出力するので、6個のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)を備えている。詳しくは、インバータ回路(20)は、2つのスイッチング素子を互いに直列に接続してなる3つのスイッチングレグを備え、各スイッチングレグにおいて上アームのスイッチング素子(Su,Sv,Sw)と下アームのスイッチング素子(Sx,Sy,Sz)との中点が、それぞれモータ(5)の各相のコイル(図示は省略)に接続されている。また、各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)には、還流ダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)が逆並列に接続されている。インバータ回路(20)は、これらのスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のオンオフ動作によって、直流リンク部(15)から入力された直流リンク電圧(vdc)をスイッチングして三相交流電圧に変換し、モータ(5)へ供給する。
【0044】
電力変換装置(10)は、各種の検出部を備えている。具体的に、電力変換装置(10)は、交流電源(6)の電源電圧(Vin)を検出する電源電圧検出部(25)と、交流電源(6)の電源電圧の電源位相(θin)を検出する電源位相検出部(26)と、交流電源(6)の電源電圧の周波数(fin)を検出する電源周波数検出部(27)とを有している。また、電力変換装置(10)は、コンバータ回路(11)の入力電流(Iin)を検出する入力電流検出部(28)と、直流リンク部(15)の直流リンク電圧(Vdc)を検出するDCリンク電圧検出部(29)とを有している。更に、電力変換装置(10)は、モータ(5)を流れる電流(Idq)(詳細には、モータ(5)の各相を流れる電流)を検出するモータ電流検出部(30)と、モータ(5)の位相(θm)を検出するモータ位相検出部(31)と、モータ(5)の実回転速度(ωm)を検出するモータ回転数検出部(32)とを有している。
【0045】
制御部(40)は、インバータ回路(20)のスイッチング(オンオフ動作)を制御するゲート信号(G)をインバータ回路(20)に出力するものである。本実施形態の制御部(40)は、電源電圧の脈動成分を重畳させるとともに、該モータ(5)の負荷トルク変動に応じてモータ(5)の出力トルクを変動させるトルク制御動作を行うように構成されている。
【0046】
〈制御部の詳細構成〉
図2に示すように、制御部(40)は、速度制御部(41)、トルク制御部(50)、トルク制御重畳部(42)、トルク指令変調部(43)、2次調波印加部(44)、入力電流指令生成部(45)、増幅器(46)、リミッタ(60)、電流制御部(47)、及びPWM演算部(48)を備えている。
【0047】
速度制御部(41)には、減算器(34)において、モータ回転速度の速度指令(ω*)からモータ(5)の実回転速度(ωm)とが減算された後の偏差が入力される。速度制御部(41)は、実回転速度(ωm)と速度指令(ω*)との偏差を比例・積分演算(PI演算)することで、モータ(5)の負荷トルクの平均(平均トルク)を算出する。この平均トルクは、所定の周期で脈動する負荷トルクの平均値である。速度制御部(41)は、この平均トルクを指令値(平均トルク指令値(Tave*))として、トルク制御重畳部(42)へ出力する。
【0048】
トルク制御重畳部(42)では、平均トルク指令値(Tave*)と、詳しくは後述するトルク制御部(50)から出力された指令値とが乗算される。これにより、トルク制御重畳部(42)では、モータ(5)の負荷トルクの脈動成分が重畳したトルク指令値(T*)が生成される。トルク制御重畳部(42)で生成された指令値は、トルク指令変調部(43)に入力される。
【0049】
トルク指令変調部(43)は、交流電源(6)の位相角(電源位相(θin))を入力として正弦値sinθinを生成し、これに応じた変調係数rをトルク指令値(T*)に乗算して2次調波印加部(44)に出力する。2次調波印加部(44)は、モータ(5)での出力電力を正弦波状にするように、トルク指令変調部(43)の出力値に電源周波数の2倍の周波数成分を印加する。上記の変調係数rは、例えば|sin(θin)|やsin2(θin)となる。なお、モータ(5)での出力電力を正弦波に近づけるために、電源周波数(50Hzまたは60Hz)に応じて変調係数rを変更してもよい。また、モータ(5)の出力電力が正弦波状になるように、位相(θin)を所定量Δだけずらした正弦値sin(θin+Δ)に応じて変調係数rを決定してもよい。これにより、電源周波数の2倍の周波数成分を印加するのとほぼ同様の効果を得ることができる。
【0050】
一方、入力電流指令生成部(45)は、入力電流(Iin)をフーリエ変換して基本波周波数成分を抽出し、これにsin(θin)を乗算して入力電流の指令値(Iin*)を生成する。この指令値(Iin*)は、減算器(35)において、入力電流の絶対値(|Iin|)が減算された後、増幅器(46)へ出力される。増幅器(46)では、減算後の出力値に所定のゲインが乗算される。
【0051】
2次調波印加部(44)からの出力値と、増幅器(46)からの出力値とは、加算器(36)において加算される。加算後の指令値は、詳細は後述するリミッタ(60)で処理された後、減算器(37)に入力される。減算器(37)では、リミッタ(60)側から出力された指令値から、実際のモータ電流(Idq)が減算され、この値が電流制御部(47)へ出力される。電流制御部(47)は、この電流指令値に基づいて電圧指令値(Vdq*)を生成し、この電圧指令値(Vdq*)をPWM演算部(48)へ出力する。
【0052】
PWM演算部(48)は、電圧指令値(Vdq*)に基づいて、各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のオンオフ動作を制御するゲート信号(G)を生成する。これにより、各スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、所定のデューティーでオンオフ動作を行う。
【0053】
〈トルク制御部の基本構成〉
トルク制御部(50)は、モータ(5)の負荷トルク等に基づいて、上述したトルク指令の制御量を決定/出力するためのものである。図3に示すように、トルク制御部(50)は、1次成分抽出器(52)、増幅器(53)、トルク制御量調整部(54)、及びピークホールド部(55)を備えている。
【0054】
1次成分抽出器(52)は、モータ(5)の負荷トルクの脈動成分のうち、モータ(5)の振動に最も影響を与える一次成分(基本波周波数成分)を、フーリエ変換によって抽出する。増幅器(53)は、1次成分抽出器(52)で抽出された一次成分に所定のゲインを乗算し、トルク制御量調整部(54)へ出力する。
【0055】
トルク制御量調整部(54)では、上述した平均トルク指令値(Tave*)に乗算される指令値を最終的なトルク制御量として上記トルク制御重畳部(42)へ出力する。このため、トルク制御重畳部(42)からは、平均トルク指令値(Tave*)よりも大きな変動幅のトルク指令値(T*)が出力される。なお、乗算後のトルク指令値(T*)の変動幅が、平均トルク指令値(Tave*)と同じである場合に、モータ(5)の出力トルクの変動幅が負荷トルクの平均値(平均トルク)に相当する大きさとなり、この際の平均トルクに対する出力トルクの変動幅の割合をトルク制御量=100%とする。本実施形態では、モータ(5)の振動の主成分となる一次成分が平均トルクよりも大きいため、通常、十分に振動を抑制するようにトルク制御を行うと、トルク制御量が100%以上となる。つまり、本実施形態では、トルク制御動作時において、モータ(5)の出力トルクが、モータ(5)の負荷トルクの平均値よりも大きな変動幅を含む波形となるように調整される。
【0056】
図3に示すピークホールド部(55)は、モータ(5)を流れる電流(Idq)の最大値を所定の判定期間において保持してピーク電流を導出するピーク電流導出部を構成している。トルク制御量調整部(54)は、このピーク電流が所定の上限値を越えると、トルク制御量を低減するように出力指令値を調整する。また、トルク制御量調整部(54)は、DCリンク電圧検出部(29)で検出された直流リンク電圧(Vdc)に基づいて、トルク制御量の出力指令値を制限する。
【0057】
〈トルク制御動作の基本動作について〉
トルク制御動作について、より具体的に説明する。上述した電流制御部(47)の入力指令値には、モータ(5)の負荷トルクを抑制する出力トルクを発生させるためのトルク指令値が重畳される。これにより、トルク制御動作時には、例えば図4に示すようにして、モータ(5)の出力トルクが制御される。なお、図4は、交流電源(6)の電源周波数fin=50Hz,モータ(5)の回転速度=30rps、トルク制御量=100%の条件下における、モータ(5)の負荷トルク、直流リンク部(15)から出力される直流リンク電圧(Vdc)、及びモータ(5)の出力トルクの経時変化を表したものである。
【0058】
本実施形態の電力変換装置(10)では、直流リンク電圧(Vdc)が周期(Tdc)で脈動するとともに、モータ(5)の負荷トルクも周期(Tc)で脈動する。このため、出力トルクは、交流電源(6)の電源電圧の脈動と、負荷トルクの脈動とが重畳するように制御される。従って、例えば直流リンク電圧(Vdc)のピークと、負荷トルクのピークとが比較的近くなるタイミングでは、出力トルクも比較的大きくなる。これにより、負荷トルクと同期するようにモータ(5)の出力トルクが制御されるため、モータ(5)の速度変動が抑制されてモータ(5)の振動が低減される。特に、本実施形態では、振動の主要因となる負荷トルクの基本波周波数成分を抑制するようにモータ(5)の出力トルクが制御されるため、モータ(5)の振動を効果的に抑制することができる。
【0059】
〈リミッタについて〉
上記のようなトルク制御動作においては、モータ(5)の振動の一次成分を抑制するためにトルク制御量が100%以上となる。このため、このトルク制御では、モータ(5)の出力トルクの変動幅(振幅)が大きく成り易い。従って、このようにして出力トルクの振幅が大きくなり、出力トルクがマイナス側に至ると、モータ(5)が回生動作を行ってしまう可能性がある。
【0060】
具体的に、例えば図5に示す例は、交流電源(6)の電源周波数fin=50Hz,モータ(5)の回転速度=30rps、トルク制御量=150%の条件下における、モータ(5)の負荷トルク、直流リンク部(15)から出力される直流リンク電圧(Vdc)、及びモータ(5)の出力トルクの経時変化を表したものである。この例では、トルク制御量の増大に起因して出力トルクの変動幅が大きくなり、これに伴い出力トルクが0を下回ってマイナス側まで変動している。その結果、図5の破線で囲んだ領域では、モータ(5)が回生動作を行ってしまう。
【0061】
一方、本実施形態の電力変換装置(10)は、直流リンク部(15)のコンデンサ(16)の静電容量が極めて低く設定されている。このため、このようにモータ(5)が回生動作を行うと、この回生エネルギーをコンデンサ(16)が十分に吸収することができず、直流リンク部(15)が過電圧となり、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)等の破壊を招く虞がある。そこで、本実施形態では、図2に示すように、制御部(40)にリミッタ(60)を設けることで、出力トルクがマイナストルクに至るのを制限している。つまり、リミッタ(60)は、入力された指令値に対して、モータ(5)の出力トルクがマイナスに至らないように、マイナス側の出力トルクを制限する指令値を生成する。これにより、例えば図6に示すように、従来であればマイナス側に変動していた出力トルク(図6の二点鎖線で示す出力トルク)が、マイナスよりも高い値(例えば出力トルク=0)の状態に維持される。その結果、モータ(5)の回生動作を確実に防止して、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)等の保護が図られる。一方、このリミッタ(60)の制御においては、プラス側の出力トルクに対しては何ら制限が加えられない。このため、トルク制御動作では、モータ(5)の出力トルクを十分に得ることができ、モータ(5)の振動を効果的に抑えることができる。
【0062】
なお、本実施形態では、リミッタ(60)を電流制御部(47)の入力側の直前に設けることで、出力トルクがマイナス側に至るのを確実に防止するようにしている。しかしながら、このリミッタ(60)は、電流制御部(47)の入力側であれば他の箇所に設けるようにしてもよい。具体的には、このリミッタ(60)をトルク制御部(50)のトルク制御量調整部(54)の出力側に設けることもできる。
【0063】
〈トルク制御動作時のモータ電流の抑制について〉
上述したトルク制御動作時には、モータ(5)の出力トルクの増大に起因して、モータ(5)の電流(Idq)が高くなる。具体的には、例えば図7に示すように、モータ(5)の負荷トルクのピーク(図7の2点鎖線で示すピーク(Pl))と、直流リンク電圧(Vdc)のピーク(図7の白抜きの点で示すピーク(Pdc))とが重畳すると、これに伴いモータ(5)の出力トルクが極めて大きくなる。よって、これらの両者のピーク(Pl,Pdc)が一致した場合に、モータ(5)の電流が急上昇する。このようにして、モータ(5)の電流が急峻に上昇すると、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の電流値が定格の最大許容電流値を越えてスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の破壊を招いたり、モータ(5)の磁石の減磁を招いたりする。また、このような対策としてデバイスの電流容量を大きくすると、電力変換装置(10)のコストアップを招く。
【0064】
このような不具合の対策としては、モータ(5)の電流値を適宜検出し、この電流が所定の上限値を越えないように、トルク制御量調整部(54)のトルク制御量を制限することが考えられる。しかしながら、本実施形態では、上記のように直流リンク電圧(Vdc)が所定の周波数で脈動するため、直流リンク電圧(Vdc)のピーク(Pdc)と、負荷トルクのピーク(Pl)とが、必ずしも一致しない(例えば図4等を参照)。このため、両者のピーク(Pdc,Pl)がずれたタイミングでモータ(5)の電流を検出しても、この電流値は比較的低い値となり、所望とするピーク電流を検出できない。
【0065】
そこで、本実施形態の制御部(40)には、モータ(5)のピーク電流を確実に検出できるように、上述したピークホールド部(55)が設けられている。
【0066】
ピークホールド部(55)は、予め設定された所定の判定期間(Td)毎に、モータ電流検出部(30)で検出されたモータ電流(厳密には、モータ(5)の相電流の制御周期毎のピーク値)の最大値を保持するように構成されている。この点について図8を参照しながらより具体的に説明する。
【0067】
ピークホールド部(55)には、モータ電流が適宜入力される。ピークホールド部(55)は、所定の判定期間(Td)毎に、モータ電流の最大値(即ち、ピーク電流(Ip))を導出する。本実施形態では、前回の判定期間で導出されたピーク電流(Ip)が、その次回の判定期間(Td)においても保持される。このようにして、所定の判定期間(Td)においてピーク電流(Ip)を保持することで、負荷トルクのピーク(Pl)と直流リンク電圧(Vdc)のピーク(Pdc)とが重畳するタイミングでのモータ(5)の電流を検出し易くなる。なお、判定期間(Td)としては、両者のピーク(Pl,Pdc)が重畳するタイミングを十分に検出できる時間(例えば1秒)が設定される。
【0068】
また、図8に示すように、1つの判定期間(Td)内においては、これまでのピーク電流(Ip)よりも検出されたモータ電流が大きくなると、ピーク電流(Ip)が更新される。つまり、1つの判定期間(Td)内においては、モータ電流の最大値を適宜トレースするようにしてピーク電流(Ip)が更新される。これにより、判定期間(Td)内で平均トルクが急上昇するような場合でも、速やかに電流ピークを検出することができる。
【0069】
ピークホールド部(55)で検出されたピーク電流(Ip)は、トルク制御量調整部(54)へ出力される。トルク制御量調整部(54)は、このピーク電流(Ip)が所定の上限値を越えると、トルク制御量を制限し、モータ(5)の出力トルクを低減させる。その結果、トルク制御動作において、モータ電流が過大となることが防止されるため、上述した不具合を未然に回避できる。なお、ピーク電流(Ip)の上限値は、例えばスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の定格の最大許容電流値よりも低い所定値に設定されている。
【0070】
〈トルク制御動作時の速度指令補正〉
上述のように、ピークホールド部(55)によって判定期間(Td)毎にモータ電流のピーク電流(Ip)を保持したとしても、この判定期間(Td)をあまりにも長くすると、トルク制御量の制御性が悪化してしまうことがある。具体的には、例えば判定期間(Td)内においてピーク電流(Ip)が保持された後、この判定期間(Td)中に平均トルクが下がった場合、実際にはトルク制御量をもう少し大きくすることができるのに、上記のようにトルク制御量が制限されてしまい、トルク制御性能の悪化を招く。
【0071】
この点について、図9を参照しながら詳細に説明する。図9は、直流リンク電圧(Vdc)の波形と、モータ(5)の負荷トルクの波形の一例を示したものである。この例では、時点t1において、直流リンク電圧(Vdc)のピーク(Pdc)と、モータ(5)の負荷トルクのピーク(Pl)とが重畳している。一方、この例では、直流リンク電圧の周波数(fdc)と、負荷トルクの周波数(即ち、モータ(5)の運転周波数fc)の整数n倍とが僅かにずれている。このため、図9において、両者のピーク(Pl,Pdc)が一致した後には、直流リンク電圧(Vdc)のピーク(Pdc)と、負荷トルクのピーク(Pl)とが少しずつずれていき、両者のピークのずれの間隔(図9で示すΔT)も徐々に大きくなっていく。このような条件下では、両者のピーク(Pl,Pdc)がなかなか一致しないため、長時間に亘ってピーク電流(Ip)を正確に検出できなくなる。一方、このような条件下でピーク電流(Ip)を確実に検出できるように、判定期間(Td)を長めに設定すると、上述の如くトルク制御性能が悪化してしまう。
【0072】
そこで、本実施形態の制御部(40)には、このような条件下においてもピーク電流(Ip)を確実に検出するための速度指令補正部(70)が設けられている(図10を参照)。速度指令補正部(70)は、ビート周期演算部(71)と速度指令調整部(72)とを備えている。ビート周期演算部(71)は、トルク制御動作時において、直流リンク電圧(Vdc)のピーク(Pdc)と、負荷トルクのピーク(Pl)とが重畳するタイミングの周期(以下、これをビート周期(Tb)という)を導出する周期導出部を構成している。速度指令調整部(72)は、ビート周期演算部(71)で導出したビート周期(Tb)に基づいて、モータ(5)の速度指令(ω*)を補正し、モータ(5)の運転周波数(fc)を調整するものである。
【0073】
具体的に、例えばトルク制御動作において、図11に模式的に示すように、直流リンク電圧(Vdc)のピーク(Pdc)と負荷トルクのピーク(Pl)とが判定期間(Td)中に一致せず、ビート周期(Tb)がピークホールド部(55)の判定期間(Td)よりもかなり大きくなっているとする。このような条件下では、上記のピークホールドを行ってもピーク電流(Ip)を確実に検出できない。
【0074】
そこで、速度指令補正部(70)は、図12に示すような制御を行う。ステップS1では、ビート周期演算部(71)が直流リンク電圧(Vdc)の脈動の周波数(fdc)を導出する。直流リンク電圧(Vdc)の脈動の周波数(fdc)は、例えば電源周波数検出部(27)で検出された交流電源(6)の電源電圧の脈動の周波数(fin)を2倍すること(fdc=fin×2)により算出される。
【0075】
次いで、ステップS2において、ビート周期演算部(71)は、直流リンク電圧(Vdc)の脈動の周波数(fdc)と、モータ(5)の運転周波数(fc)の整数倍(n倍)とが最も近くなる整数nを算出する。例えば交流電源(6)の電源電圧の周波数(fin)が50.1Hzであり、直流リンク電圧(Vdc)の脈動の周波数(fdc)が100.2Hzであり、運転周波数(fc)が25Hzであったとすると、この整数nは4となる。
【0076】
次いで、ステップS3において、ビート周期演算部(71)は、以下の(1)式により、ビートが発生する周波数(ビート周波数(fb))を算出する。
【0077】
fb=fdc−(fc×n)・・・・(1)式
次いで、ステップS4において、ビート周期演算部(71)は、算出したビート周波数(fb)の逆数を求めてビート周期(Tb)を算出する。算出された直流リンク電圧の周波数(fdc)が100.2Hzであり、モータ(5)の運転周波数(fc)が25Hzであり、整数nは4であったとすると、ビート周波数(fb)は、上記(1)式により100.2Hz−25Hz×4=0.2Hzとなり、ビート周期(Tb)は5secとなる。
【0078】
ステップS5では、速度指令調整部(72)が、算出されたビート周期(Tb)と、ピークホールド部(55)に設定された判定期間(Td)とを比較する。例えばビート周期(Tb)=5sec、判定期間(Td)=1secであり、ビート周期(Tb)が判定期間(Td)よりも大きい場合、各判定期間(Td)毎に、直流リンク電圧(Vdc)のピーク(Pdc)と負荷トルクのピーク(Pl)とのピーク電流(Ip)とが一致した時点でのモータ電流をピーク電流(Ip)として確実に検出できない。そこで、ステップS5では、Tb>Tdである場合に、ステップS6に移行してモータ(5)の運転周波数(fc)を調整するように、速度指令(ω*)を補正する。
【0079】
具体的に、ステップS6では、速度指令調整部(72)が、ビート周期(Tb)を判定期間(Td)と同じとするための運転周波数(fc*)を以下の(2)式により算出する。
【0080】
fc*=(fdc−(1/Td))/n・・・・(2)式
例えば直流リンク電圧(Vdc)の脈動の周波数(fdc)が100.2Hzであり、判定期間(Td)が1secであり、整数nが4であったとすると、ビート周期(Tb)と判定期間(Td)とを同じとするための運転周波数(fc*)は、上記(2)式により(100.2Hz-1.0Hz)/4=24.8Hzとなる。そこで、速度指令調整部(72)は、現在の運転周波数(fc、例えば25Hz)を算出後の運転周波数(fc*、例えば24.8Hz)に補正するように、入力された速度指令(ω*)を補正する。これにより、その後の運転では、ビート周期(Tb)と判定期間(Td)とが同じ周期となるため、例えば図13に示すように、各判定期間(Td)毎に、直流リンク電圧(Vdc)のピーク(Pdc)と負荷トルクのピーク(Pl)とを必ず一度は重畳させてピーク電流(Ip)を導出することができる。
【0081】
なお、本実施形態の速度指令調整部(72)は、ビート周期(Tb)が判定期間(Td)よりも大きい場合に、ビート周期(Tb)と判定期間(Td)とが同じとなるようにモータ(5)の運転周波数(fc)を補正している。しかしながら、速度指令調整部(72)は、ビート周期(Tb)が判定期間(Td)よりも大きい場合に、ビート周期(Tb)を判定期間(Td)よりも小さくするように運転周波数(fc)を補正するようにしてもよい。即ち、判定期間(Td)において、直流リンク電圧(Vdc)のピーク(Pdc)と負荷トルクのピーク(Pl)とが、最低でも1度は重畳するようにすればよい。
【0082】
〈直流リンク電圧に基づくトルク制御量の補正〉
トルク制御動作時において、交流電源(6)の電源電圧(Vin)が比較的高い条件、あるいは低い条件下において、出力トルクが過剰になると、不具合を招く虞がある。具体的に、電源電圧(Vin)が比較的高く、これに伴い直流リンク電圧(Vdc)も比較的高い条件下において、トルク制御量が比較的大きい場合、リアクタ(12)とコンデンサ(16)との共振が大きくなり、直流リンク電圧(Vdc)が過剰に高くなってしまうことがある(例えば図14を参照)。また、電源電圧(Vin)が比較的低く、これに伴い直流リンク電圧(Vdc)も比較的低い条件下において、トルク制御量が比較的大きい場合にも、所望の出力トルクを得ようとするためにPWM演算部(48)のパルス信号のデューティーが全体的に高くなってしまう。その結果、電流制御の追従性が遅くなりトルク制御動作の制御性が悪化してしまう虞がある。
【0083】
そこで、本実施形態では、直流リンク電圧(Vdc)の電源半周期中のピークに基づいてトルク制御量調整部(54)が、トルク制御量を補正するようにしている。具体的に、例えば直流リンク電圧(Vdc)の電源半周期中のピークが所定の上限値を越える場合、トルク制御量調整部(54)は、直流インク部(15)が過電圧とならない程度に、トルク制御量を低減させる。これにより、トルク制御量調整部(54)では、トルク制御量の指令値が所定値(直流リンク電圧Vdcが過電圧とならないような指令値)に制限される。その結果、上述のようなリアクタ(12)−コンデンサ(16)間での共振が抑制され、図14に示すような直流リンク電圧(Vdc)の上昇が抑制される。
【0084】
また、例えば直流リンク電圧(Vdc)の電源半周期中のピークが所定の下限値を下回る場合にも、トルク制御量調整部(54)は、トルク制御量を低減させる。これにより、トルク制御量調整部(54)では、トルク制御量の指令値が所定値まで制限される。その結果、PWM演算部(48)のパルス信号のデューティーが高くなり過ぎるのを抑制でき、これによりトルク制御動作の制御性の悪化を回避できる。
【0085】
なお、本実施形態のトルク制御量調整部(54)は、DCリンク電圧検出部(29)で検出された直流リンク電圧(Vdc)に基づいて、トルク制御量を制限している。しかしながら、例えば交流電源(6)の電源電圧(Vin)に基づいて、上記と同様にしてトルク制御量を制限するようにしてもよい。
【0086】
−実施形態の効果−
上記実施形態によれば、トルク制御動作時に、モータ(5)の出力トルクがマイナス側に至らないようにリミッタ(60)が出力トルクを制限している(図6を参照)。このため、モータ(5)の回生動作を確実に防止でき、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)等を確実に保護できる。
【0087】
また、本実施形態では、トルク制御動作時において、モータ(5)の電流の最大値をピークホールド部(55)によって保持し、ピーク電流(Ip)を導出するようにしている(図8)を参照。このため、出力トルクのピークと、直流リンク電圧(Vdc)のピークとが重畳する時のモータ電流値をピーク電流(Ip)として導出し易くなる。そして、このピーク電流(Ip)が所定値を越えると、出力トルクの変動幅を小さくすることで、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)等を確実に保護できる。
【0088】
更に、ピークホールド部(55)の判定期間(Td)において、直流リンク電圧(Vdc)のピーク(Pdc)と負荷トルクのピーク(Pl)とがなかなか一致しないような条件下においては、ビート周期(Tb)と判定期間(Td)とを同じとするように、モータ(5)の運転周波数を調整している。このため、例えば図13に示すように、判定期間(Td)毎に両者のピーク(Pdc,Pl)を確実に重畳させてピーク電流(Ip)を導出できる。
【0089】
また、上記実施形態では、直流リンク電圧(Vdc)の電源半周期中のピークが所定の上限値を越える場合には、出力トルクの制御量を所定値まで制限している。これにより、リアクタ(12)とコンデンサ(16)との間での共振に起因する直流リンク電圧(Vdc)の上昇を未然に防止できる。また、直流リンク電圧(Vdc)の電源半周期中のピークが所定の下限値を下回る場合にも、出力トルクの制御量を所定値まで制限している。これにより、PWM演算部(48)でのデューティーが増大することに起因して、トルク制御動作の制御性が悪化してしまうことを防止できる。
【0090】
−実施形態の効果−
上記実施形態によれば、トルク制御動作時に、モータ(5)の出力トルクがマイナス側に至らないようにリミッタ(60)が出力トルクを制限している(図6を参照)。このため、モータ(5)の回生動作を確実に防止でき、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)等を確実に保護できる。
【0091】
また、本実施形態では、トルク制御動作時において、モータ(5)の電流の最大値をピークホールド部(55)によって保持し、ピーク電流(Ip)を導出するようにしている(図8)を参照。このため、出力トルクのピークと、直流リンク電圧(Vdc)のピークとが重畳するモータ電流値をピーク電流(Ip)として導出し易くなる。そして、このピーク電流(Ip)が所定値を越えると、出力トルクの変動幅を小さくすることで、スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)等を確実に保護できる。
【0092】
更に、ピークホールド部(55)の判定期間(Td)において、直流リンク電圧(Vdc)のピーク(Pdc)と負荷トルクのピーク(Pl)とがなかなか一致しないような条件下においては、ビート周期(Tb)と判定期間(Td)とを同じとするように、モータ(5)の運転周波数を調整している。このため、例えば図13に示すように、判定期間(Td)毎に両者のピーク(Pdc,Pl)を確実に重畳させてピーク電流(Ip)を導出できる。
【0093】
また、上記実施形態では、直流リンク電圧(Vdc)の電源半周期中のピークが所定の上限値を越える場合には、出力トルクの制御量を所定値まで制限している。これにより、リアクタ(12)とコンデンサ(16)との間での共振に起因する直流リンク電圧(Vdc)の上昇を未然に防止できる。また、直流リンク電圧(Vdc)の電源半周期中のピークが所定の下限値を下回る場合にも、出力トルクの制御量を所定値まで制限している。これにより、PWM演算部(48)でのデューティーが増大することに起因して、トルク制御動作の制御性が悪化してしまうことを防止できる。
【0094】
〈その他の実施形態〉
上記実施形態では、電源として単相の交流電源(6)を用いているが、この限りでなく、図15に示す例のように、三相の交流電源を用いることもできる。図15に示すコンバータ回路(11)は、6つのダイオード(D1〜D6)がブリッジ状に結線されたダイオードブリッジ回路である。この構成においても、本発明に係る制御部(40)を採用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
以上説明したように、本発明は、モータを制御する電力変換装置について有用である。
【符号の説明】
【0096】
5 モータ
6 交流電源
10 電力変換装置
11 コンバータ回路
15 直流リンク部
16 コンデンサ
20 インバータ回路
21 コンデンサ
40 制御部
54 トルク制御量調整部
55 ピークホールド部
60 リミッタ(制限部)
71 ビート周期演算部(周期導出部)
72 速度指令調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源(6)の電源電圧を整流するコンバータ回路(11)と、
上記コンバータ回路(11)の出力に並列に接続されたコンデンサ(16)を有し、脈動する直流電圧を出力する直流リンク部(15)と、
上記直流リンク部(15)の出力をスイッチングして交流に変換し、接続されたモータ(5)に供給するインバータ回路(20)と、
上記モータ(5)の出力トルクに上記交流電源(6)の出力電圧の脈動成分を重畳させるように、該モータ(5)の出力トルクを脈動させる制御部(40)とを備え、
上記制御部(40)は、上記モータ(5)の出力トルクがマイナスとならないように、該モータ(5)の出力トルクを制限する制限部(60)を備えていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記制御部(40)は、上記モータ(5)の負荷トルクに応じて該モータ(5)の出力トルクを変動させるトルク制御動作を行うように構成され、
上記制限部(60)は、上記トルク制御時に、上記モータ(5)の出力トルクがマイナスとならないように、該モータ(5)の出力トルクを制限することを特徴とする電力変換装置。
【請求項3】
請求項2において、
上記制御部(40)は、上記トルク制御動作時に、上記モータ(5)の出力トルクの変動幅が該モータ(5)の負荷トルクの平均値よりも大きくなるように、該出力トルクの変動幅を調整することを特徴とする電力変換装置。
【請求項4】
請求項2又は3において、
上記制御部(40)は、トルク制御動作時に、上記交流電源(6)の電源電圧又は上記直流リンク部(15)の出力電圧に基づいて上記モータ(5)の出力トルクの変動幅を補正することを特徴とする電力変換装置。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか1つにおいて、
上記制御部(40)は、上記トルク制御動作時に上記モータ(5)のピーク電流が所定の上限値を越えると、上記モータ(5)の出力トルクの変動幅を低減させることを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
請求項5において、
上記制御部(40)は、所定の判定時間において上記モータ(5)の電流の最大値をピーク電流として保持するピークホールド部(55)を有し、上記ピークホールド部(55)で保持されたピーク電流が所定の上限値を越えると、上記モータ(5)の出力トルクの変動幅を低減させることを特徴とする電力変換装置。
【請求項7】
請求項6において、
上記制御部(40)は、上記ピークホールド部(55)の判定期間中に、上記モータ(5)の負荷トルクの脈動成分のピークと上記直流リンク部(15)の出力電圧の脈動成分のピークとが重畳するように、上記モータ(5)の運転周波数を補正する速度指令調整部(72)を備えていることを特徴とする電力変換装置。
【請求項8】
請求項7において、
上記制御部(40)は、上記交流電源(6)又は上記直流リンク部(15)の出力電圧の周波数と、上記モータ(5)の運転周波数とに基づいて、上記モータ(5)の負荷トルクのピークと上記直流リンク部(15)の出力電圧のピークとが重畳する周期を導出する周期導出部(71)を備え、
上記速度指令調整部(72)は、上記周期導出部(71)で導出される周期が、上記ピークホールド部(55)の判定期間以下となるように、上記モータ(5)の運転周波数を補正することを特徴とする電力変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−151960(P2012−151960A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−7774(P2011−7774)
【出願日】平成23年1月18日(2011.1.18)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】