説明

電力線通信システム

【課題】隠れ端末となるモデムが発生した場合にも、そのモデムの電力線上の接続位置を変更することなく、隠れ端末となったモデムとシステム内の他の全てのモデムとの間での通信を行うことができるようにする。
【解決手段】隠れ端末となってしまうモデムE15は、確実に通信可能なモデムD14のリンクアドレス「0011」を自モデムのアドレステーブル151に登録すると共に、モデムD14のアドレステーブル141内の他のモデムのアドレスを自モデムのアドレステーブル151にコピーする。モデムD14は、他のモデムA11〜C13にモデムE15のアドレス「0020」を送信して登録させる。モデムE15とモデムA11〜C13との通信は、モデムD14を中継用モデムとして行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力線通信(PLC:Power Line Communication)システムに係り、特に、使用する電力線の状態により、特定の電力線通信用モデム相互間での通信を行うことができなくなるようなことを防止した電力線通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、家庭内等において、各種の家電製品等の家庭内機器に電力線通信機能を持たせ、PC等により構成される親機からそれらの家庭内機器を監視、制御すると共に、外部から公衆通信網を介して前述の親機にアクセスし、外部から家庭内機器を監視、制御することを可能にしたシステムが提案されている。また、より高速な信号を電力線通信により取り扱うことを可能にし、インターネットを含む公衆通信網等を介したISP(Internet Service Provider)からの映像情報、音声情報等のマルチメディア情報をリアルタイムにPC等の表示装置に表示させることを可能にしたシステムも提案されている。
【0003】
前述したようにな電力線通信により各種の信号の授受を行うためには、信号の授受を行う機器と電力線との間のインタフェースとして、電力線通信用モデムが利用される。この電力線通信用モデムは、一般には、電源コンセントを介して電力の供給を受ける電子機器等の内部に設けられ、電子機器からの信号を、自身の電源回路を経由して電力線に重畳し、また、電力線からの信号を分離して自モデムを介して電子機器に渡す機能を備えている。
【0004】
図3は従来技術による電力線通信システムの構成例を示すブロック図である。図3において、11〜15は電力線通信用モデム(以下、単に、モデムという)A〜E、16は電力線(ACライン)、111、121、131、141、151は各モデムが持つリンク(LINK)アドレステーブルである。
【0005】
従来技術による電力線通信システムは、複数のモデムA11〜E15が電力線16に接続されて構成されている。そして、複数のモデムA11〜E15のそれぞれは、モデム毎に固有のMACアドレスを有すると共に、電力線通信システム内での相互間の通信を行うために任意に設定されたリンクアドレスを有している。また、複数のモデムA11〜E15のそれぞれは、通信可能な相手モデムのリンクアドレスを登録したリンクアドレステーブル111、121、131、141、151を有している。
【0006】
図3に示す電力線通信システムの例では、複数のモデムA11〜E15のそれぞれは、MACアドレスとして、「xx.xx.xx.00.00.01」 、「xx.xx.xx.00.00.02」 、「xx.xx.xx.00.00.03」 、「xx.xx.xx.00.00.04」 、「xx.xx.xx.00.00.05」 を有し、リンクアドレスとして、「000A」、「000B」、「0010」、「0011」、「0020」を有しているものとする。
【0007】
前述したように構成される電力線通信システムにおいて、いま、モデムA11〜D14の4つのモデムだけが電力線16に接続されていて、相互に通信可能な状態にあるものとする。この場合、モデムA11〜D14のそれぞれが持つリンクアドレステーブル111、121、131、141には、通信の相手となる自モデム以外のモデムのリンクアドレスが登録されている。
【0008】
このリンクアドレステーブルへの相手モデムのリンクアドレスの登録は、新たなモデムが電力線16に接続されたとき、そのモデムからブロードキャストによりその旨の報告とそのモデムのリンクアドレスが電力線16に送信されので、その報告とリンクアドレスとを受信することができたモデムが自モデム内のリンクアドレステーブルに受信した新たなモデムのリンクアドレスを登録することにより行われる。このとき、新たなモデムからのリンクアドレスを受領したモデムは、その応答として、新たに電力線に接続されたモデムに対して自モデムのリンクアドレスを送信して、相手モデムのリンクアドレステーブルに自モデムのリンクアドレスを登録させる。
【0009】
前述したようなリンクアドレスの登録の処理により、モデムA11〜D14のそれぞれが持つリンクアドレステーブル111、121、131、141には、通信の相手となる自モデム以外のモデムのリンクアドレスが登録されて相互に通信可能な状態になり、各モデムは、相手のリンクアドレスを使用して相互に通信を行うことが可能となる。
【0010】
いま、前述したように4つのモデムA11〜D14が電力線16に接続されて電力線通信システムが構築されている状態で、もう1つのモデムとして、MACアドレス「xx.xx.xx.00.00.01」 、リンクアドレス「0020」を持つモデムE15を電力線16に接続しようとするものとする。
【0011】
一般に、電力線16には、家電機器等の種々の機器が接続されており、電力線16の状態が線路の場所によって悪化していて、信号の伝送ロスが大きくなっている場合がある。このため、モデムE15を電力線16に接続した場合、モデムE15との間でリンクを確立して、いつでも確実に通信を行うことができるのはモデムD14だけであり、モデムE15とモデムA11及びモデムB12との間では、全くリンクを確立することができず、また、モデムC13との間では、電力線16の状況により、接続が不可能となる場合が生じることがある。前述のように、新たに接続されたモデムE15は、モデムA11及びモデムB12からは全く見えない(接続されていることが判らない)ことになる。このような場合におけるモデムE15は、一般に「隠れ端末」と呼ばれている。
【0012】
なお、前述したような状態におけるモデムC13及びモデムD14のリンクアドレステーブル131、141には、モデムE15のリンクアドレス「0020」が登録され、モデムE15のリンクアドレステーブル151には、モデムC13及びモデムD14のリンクアドレスだけが登録されることになる。
【0013】
なお、電力線を利用してデータの授受を行う電力線通信システムに関する従来技術として、例えば、特許文献1等に記載された技術が知られている。
【特許文献1】特開2004−7497号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
前述した従来技術による電力線通信システムは、隠れ端末が生じた場合、その隠れ端末となったモデムとの間でリンクを確立することができず、従って、その隠れ端末となったモデムとの間で通信を行うことができないモデムが発生してしまうという問題点を有している。
【0015】
また、電力線の状況によっては隠れ端末との間での通信が可能となるモデムがある場合、それらの間、前述したモデムE15とモデムC13との間は、接続可能となる場合もあるので、通信を行おうとする都度リンクの確立(リンクアドレステーブルの更新処理も行われる)をするための電力線16上のトラフィックが上がってしまう。そして、モデムE15とモデムC13との間のリンクが確立できない場合、再接続の処理が繰り返し行われることになる。この結果、他のモデム相互間の通信を行うことができなくなるという問題点を生じさせてしまう。
【0016】
前述したような問題を解決するための最も簡易な方法は、隠れ端末となったモデムの接続位置を変更し、図3に一点鎖線で示すように、システム内に接続されている全てのモデムとのリンクを確立させることができる位置の電力線16上のコンセントに新たなモデムを接続すればよい。しかし、新たなモデムを使用して通信を行おうとする機器によっては、接続位置を移動させることができないものもある。このため、結局、このような機器の使用ができなくなるという問題点を生じてしまう。
【0017】
本発明の目的は、前述した従来技術の問題点を解決し、隠れ端末となるモデムが発生した場合にも、そのモデムの電力線上の接続位置を変更することなく、隠れ端末となったモデムとシステム内の他の全てのモデムとの間での通信を行うことができるようにした電力線通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明によれば前記目的は、複数の電力線通信用モデムを電力線に接続して構成される電力線通信システムにおいて、前記複数の電力線通信用モデムは、システムに接続されている他の電力線通信用モデムの一部の電力線通信用モデムとの通信を行うことができない第1の電力線通信用モデムとそれ以外の第2の電力線通信用モデムとを含み、前記第2の電力線通信用モデムは、他の第2の電力線通信用モデムのアドレスと前記第1の電力線通信用モデムのアドレスとを識別可能に格納したアドレステーブルを持ち、前記第1の電力線通信用モデムは、自モデムが通信を行うことができる前記第2の電力線通信用モデムうちの1つである第3の電力線通信用モデムのアドレスと、第3の電力線通信用モデムが持つアドレステーブル内の他の第2の電力線通信用モデムのアドレスとを識別可能に格納したアドレステーブルを持つことにより達成される。
【0019】
また、前記目的は、前述において、前記第1の電力線通信用モデムのアドレステーブル内に格納される前記第3の電力線通信用モデムが持つアドレステーブル内の第2の電力線通信用モデムのアドレスは、第1の電力線通信用モデムと前記第3の電力線通信用モデムとの間でのリンクの確立時にコピーしたものであることにより達成される。
【0020】
また、前記目的は、前述において、前記第2の電力線通信用モデムのアドレステーブル内に格納される前記第1の電力線通信用モデムのアドレスは、前記第3の電力線通信用モデムから送信されてきたものであることにより達成される。
【0021】
また、前記目的は、前述において、前記第1の電力線通信用モデムと前記第2の電力線通信用モデムとの間の通信が前記第3の電力線通信用モデムを経由して行われることにより達成される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、隠れ端末となるモデムが発生した場合にも、そのモデムの電力線上の接続位置を変更することなく、隠れ端末となったモデムとシステム内の他の全てのモデムとの間での通信を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明による電力線通信システムの実施形態を図面により詳細に説明する。
【0024】
図1は本発明の一実施形態による電力線通信システムの構成例を示すブロック図、図2は隠れ端末となったモデムと他のモデムとの間で通信を行う場合に用いられる通信フレームの構成について説明する図である。図1、図2において、21は送信元モデムアドレス、22は中継モデムアドレス、23は宛先モデムアドレス、24はデータ部であり、他の符号は図3の場合と同一である。
【0025】
本発明の実施形態による電力線通信システムは、図3により説明したものと同様に構成されており、各モデムが持つリンクアドレステーブルの構成だけが相違している。従って、まず、図3を参照して説明したように、モデムA11〜D14のそれぞれが持つリンクアドレステーブル111、121、131、141に、通信の相手となる自モデム以外のモデムのリンクアドレスが登録されて相互に通信可能な状態の電力線通信システムに新たなモデムE15が電力線16に接続された場合の各モデムが持つリンクアドレステーブル111、121、131、141、151の更新について説明する。
【0026】
(1)前述した状態で、新たなモデムE15が電力線16に接続されて、新たなモデムE15が隠れ端末となってしまうことが判ると、まず、モデムE15は、モデムD14との間でリンクを確立する。その際、モデムD14は、自モデムが持つリンクアドレステーブル141に、モデムE15のリンクアドレス、この場合、リンクアドレス「0020」を追加登録する。
【0027】
(2)一方、モデムE15は、自モデム内のリンクアドレステーブル151に、モデムD14のリンクアドレスであるリンクアドレス「0011」と共に、モデムD14が持つリンクアドレステーブル141の内容をコピーして登録する。このリンクアドレステーブルのコピーの際、モデムE15は、モデムD14のリンクアドレステーブル141に登録されていた自モデムのリンクアドレスを削除すると共に、コピーしたリンクアドレスに、モデムD14のリンクアドレステーブル141のコピーであることを示すフラグを付けておく。
【0028】
(3)モデムD14は、モデムA11〜モデムC13に対して、モデムE15のリンクアドレスをそれぞれのモデムが持つリンクアドレステーブル111〜131に追加して登録するように指示を行う情報を送信する。その際、送信するモデムE15のリンクアドレスには、モデムA11〜モデムC13から直接的にリンクを確立して通信を行うために使用するものではなく、モデムD14を中継してしか通信を行うことができないものであることを示すフラグが付けられる。
【0029】
なお、前述において、新たなモデムE15が電力線16に接続されたとき、モデムE15は、モデムD14以外に、モデムC13との間のリンクが確立できる場合もあるが、リンク確立のためのデータの授受における信号のレベル等に基づいて、新たなモデムE15は、モデムD14とだけリンクを確立させる。
【0030】
前述したように構成される本発明の実施形態は、モデムE15は、モデムD14とだけ直接のリンクを確立することができ、モデムD14とはダイレクトで通信を行うことができるが、他のモデムA11〜C13とはダイレクトで通信を行うことはできない。このため、モデムE15とモデムA11〜C13との間の通信は、モデムD14を経由して行われる。
【0031】
モデムD14を経由して通信を行う場合に使用する通信フレームのフォーマットの例を図2に示しており、通信フレームは、送信元モデムアドレス21、中継モデムアドレス22、宛先モデムアドレス23、データ部24により構成される。モデムE15とモデムA11〜C13との間の通信は、このような通信フレームを使用して行うことができる。
【0032】
例えば、モデムE15がモデムA11との間で通信を行おうとする場合、モデムE15は、自モデムが持つリンクアドレステーブル151から通信を行おうとしているモデムA11のアドレスがモデムD14から受領したものであること、モデムD14を中継用のモデムとして使用することが判るので、前述した通信フレームの送信元モデムアドレス21に自モデムのリンクアドレス「0020」を、中継モデムアドレス22にモデムD14のリンクアドレス「0011」、宛先モデムアドレス23にモデムA11のリンクアドレス「000A」、データ部24に送信したいデータ(通信開始終了等の接続データも含む)を格納して、電力線16に送信する。
【0033】
また、例えば、モデムB12がモデムE15との間で通信を行おうとする場合、モデムB12は、自モデムが持つリンクアドレステーブル121から通信を行おうとしているモデムE15のアドレスがモデムD14から受領したものであること、モデムD14を中継用のモデムとして使用することが判るので、前述した通信フレームの送信元モデムアドレス21に自モデムのリンクアドレス「000B」を、中継モデムアドレス22にモデムD14のリンクアドレス「0011」、宛先モデムアドレス23にモデムE15のリンクアドレス「0020」、データ部24に送信したいデータ(通信開始終了等の接続データも含む)を格納して、電力線16に送信する。
【0034】
前述したように本発明の実施形態によれば、隠れ端末となってしまうモデムが存在する場合にも、隠れ端末となるモデムとの間のリンクを確実に確立することができるモデムを中継用のモデムとして用いることができるので、隠れ端末となるモデムとシステム内の他のモデムとの通信を確実に行わせることができる。
【0035】
また、隠れ端末となるモデムとの間で不確実ではあるがリンク確立の可能性のある他のモデムとの間の通信も、中継用のモデムを介して行われることになり、不確実なリンク確立のための電力線上の不要なトラフィックの増大をも防止することができ、他の通信を邪魔するようなことも防止することができる。
【0036】
前述した本発明の実施形態は、通信のためのアドレスとしてリンクアドレスを使用するとして説明したが、本発明は、リンクアドレスの代わりに、MACアドレスを使用することもできる。但し、一般に、MACアドレスは6バイトで構成され、リンクアドレスは2バイトで構成されているので、MACアドレスの使用は、ネットワーク的に見ると、通信のためのデータ量が増加することになり効率が悪いことを考慮する必用がある。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の一実施形態による電力線通信システムの構成例を示すブロック図である。
【図2】隠れ端末となったモデムと他のモデムとの間で通信を行う場合に用いられる通信フレームの構成について説明する図である。
【図3】従来技術による電力線通信システムの構成例を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0038】
11〜15 電力線通信用モデムA〜E、
16 電力線(ACライン)
111、121、131、141、151 リンク(LINK)アドレステーブル
21 送信元モデムアドレス
22 中継モデムアドレス
23 宛先モデムアドレス
24 データ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電力線通信用モデムを電力線に接続して構成される電力線通信システムにおいて、前記複数の電力線通信用モデムは、システムに接続されている他の電力線通信用モデムの一部の電力線通信用モデムとの通信を行うことができない第1の電力線通信用モデムとそれ以外の第2の電力線通信用モデムとを含み、前記第2の電力線通信用モデムは、他の第2の電力線通信用モデムのアドレスと前記第1の電力線通信用モデムのアドレスとを識別可能に格納したアドレステーブルを持ち、前記第1の電力線通信用モデムは、自モデムが通信を行うことができる前記第2の電力線通信用モデムうちの1つである第3の電力線通信用モデムのアドレスと、第3の電力線通信用モデムが持つアドレステーブル内の他の第2の電力線通信用モデムのアドレスとを識別可能に格納したアドレステーブルを持つことを特徴とする電力線通信システム。
【請求項2】
前記第1の電力線通信用モデムのアドレステーブル内に格納される前記第3の電力線通信用モデムが持つアドレステーブル内の第2の電力線通信用モデムのアドレスは、第1の電力線通信用モデムと前記第3の電力線通信用モデムとの間でのリンクの確立時にコピーしたものであることを特徴とする請求項1記載の電力線通信システム。
【請求項3】
前記第2の電力線通信用モデムのアドレステーブル内に格納される前記第1の電力線通信用モデムのアドレスは、前記第3の電力線通信用モデムから送信されてきたものであることを特徴とする請求項1または2記載の電力線通信システム。
【請求項4】
前記第1の電力線通信用モデムと前記第2の電力線通信用モデムとの間の通信が前記第3の電力線通信用モデムを経由して行われることを特徴とする請求項1、2または3記載の電力線通信システム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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