説明

電動パワーステアリング装置

【課題】トルク伝達の遅れを防止するとともに、ウォーム軸の傾動に伴う反力が過大になることを抑制しつつ、トルクの伝達効率が低下することを抑制できる電動パワーステアリング装置を提供する。
【解決手段】軸継手は、板厚方向に弾性変形可能な金属板からなる各一対の第1及び第2のアーム53,54を有する連結部材51を備えた。そして、ウォーム軸に連結される第1のアーム53を第1の平面S1と直交する板状に形成するとともに、同第1のアーム53に第1の直線Lr1と交差する湾曲部53a及び連結部53bを形成した。また、モータ軸に連結される第2のアーム54を第2の平面S2と直交する板状に形成するとともに、同第2のアーム54に第2の直線Lr2と交差する湾曲部54a及び連結部54bを形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動パワーステアリング装置(EPS)には、モータを駆動源としてステアリングシャフトを回転駆動することにより、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するものがある。この種のEPSとしては、ウォーム軸及びウォームホイールを噛合してなる減速機構(ウォーム減速機)を介してモータのトルクをステアリングシャフトに伝達するものが一般に知られている。
【0003】
ところが、上記のような減速機構が設けられたEPSの場合、そのバックラッシュに起因して、操舵方向の切り替え時等において、歯打ち音が発生することがある。そこで、こうしたEPSには、多くの場合、ウォーム軸の一端をモータ軸(モータの出力軸)に対して傾動可能に連結するとともに、その他端をウォームホイールに近接する方向に付勢することにより、これらの軸間距離を調整してバックラッシュを除去する所謂アンチ・バックラッシュ・システムが組み込まれている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
このようなウォーム軸をモータ軸に対して傾動可能に連結する軸継手として、上記特許文献1には、複数の係合爪を有してトルク伝達可能に係合する一対の継体間に、ゴム等の弾性体を介在させてなるものが開示されている(特許文献1、第3図参照)。特許文献1の軸継手では、係合爪間に配置される弾性体を介してトルクが伝達されるため、同弾性体の変形に伴うトルク伝達の遅れを抑制すべく、その弾性係数を高くすることが望ましい。しかし、ウォーム軸は、一対の継体間で弾性体が圧縮されることにより傾動するため、弾性体の弾性係数を高くすると、ウォーム軸の傾動に伴う弾性体の反発力が大きくなるという背反がある。
【0005】
そこで、例えば特許文献2には、平坦な十字板状に形成された可撓性を有する金属板(板バネ)により一対の継体を連結してなる軸継手が提案されている(特許文献2、第3図参照)。すなわち、板バネは、その板厚方向には容易に弾性変形するのに対し、板厚方向と直交する方向には剛性が高く、非常に変形し難い。そのため、その板厚方向がモータ軸の回転方向と直交するように板バネを配置することでトルク伝達の遅れを防止するとともに、ウォーム軸の傾動に伴う反発力が過大となることを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−203154号公報
【特許文献2】特開2005−231487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、ウォーム軸を収容するハウジングの寸法精度等に起因して、ウォーム軸の軸心がモータ軸の軸心に対してその径方向にずれた状態、すなわちウォーム軸がモータ軸に対して偏心した状態で組み付けられることがある。
【0008】
しかし、上記特許文献2の軸継手では、板バネ全体が平坦な形状に形成されていることから、モータ軸の回転方向のみならずその径方向における剛性も高くなるため、ウォーム軸がモータ軸に対して偏心することがほとんど許容されなくなる。そのため、この軸継手を介して偏心した状態のモータ軸とウォーム軸とを連結すると、これらウォーム軸及びモータ軸に大きな応力が作用することになる。その結果、ウォーム軸及びモータ軸の円滑な回転が妨げられることでトルクの伝達効率が低下する虞があり、この点においてなお改善の余地があった。
【0009】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、トルク伝達の遅れを防止するとともに、ウォーム軸の傾動に伴う反力が過大になることを抑制しつつ、トルクの伝達効率が低下することを抑制できる電動パワーステアリング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、ウォーム軸及びウォームホイールを噛合してなる減速機構と、前記減速機構を介してステアリングシャフトに駆動連結されるモータと、モータ軸に対して前記ウォーム軸の一端部を傾動可能に連結する軸継手と、前記ウォーム軸の他端部を前記ウォームホイール側に付勢する付勢手段とを備えた電動パワーステアリング装置において、前記軸継手は、板厚方向に弾性変形可能な板材からなる各一対の第1及び第2のアームを有する連結部材を備え、前記第1のアームは、前記モータ軸の軸線を含む第1の平面と直交する板状に形成されるとともに、該第1の平面と平行で前記モータ軸の径方向に沿った第1の直線と交差する径方向変形部を有し、前記第2のアームは、前記モータ軸の軸線を含み前記第1の平面と交差する第2の平面と直交する板状に形成されるとともに、該第2の平面と平行で前記モータ軸の径方向に沿った第2の直線と交差する径方向変形部を有することを要旨とする。
【0011】
上記構成によれば、第1及び第2のアームは、それぞれモータ軸の軸線を含む第1及び第2の平面と直交する板状に形成されることから、その板厚方向は第1及び第2の平面と平行になる。ここで、モータ軸の軸線を含む任意の平面は、モータ軸の回転方向と直交するものであるため、第1及び第2のアームの板厚方向と回転方向とが直交することになり、連結部材の回転方向における剛性を確保することができる。従って、第1及び第2のアームをそれぞれウォーム軸及びモータ軸に連結することにより、トルク伝達の遅れを防止するとともに、ウォーム軸の傾動に伴う反発力が過大となることを抑制できる。
【0012】
また、第1及び第2のアームの径方向変形部は、それぞれモータ軸の径方向に沿った第1及び第2の直線と交差するため、その板厚方向が第1及び第2の直線方向と直交しなくなる。つまり、第1及び第2のアームは、それぞれ第1及び第2の直線方向(モータ軸の径方向)に容易に弾性変形することが可能になるため、軸継手がウォーム軸のモータ軸に対する偏心を許容できるようになる。従って、偏心した状態のウォーム軸とモータ軸とを連結しても、第1及び第2のアームがそれぞれ第1及び第2の直線方向に弾性変形することにより、これらウォーム軸及びモータ軸に大きな応力が作用することを抑制できる。これにより、ウォーム軸及びモータ軸の円滑な回転が可能になり、トルクの伝達効率が低下することを抑制できる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、前記モータ軸に対する傾動及び軸方向移動を許容しつつ前記ウォーム軸を回転可能に支持する支持手段を備え、前記第1及び第2のアームは、それぞれ前記モータ軸の軸方向に沿った直線と交差する軸方向変形部を有することを要旨とする。
【0014】
ここで、ウォーム軸及びウォームホイールを噛合させてなる減速機構を備えたEPSでは、アシスト力が付与されない微小な範囲(不感帯)で操舵する際には、ウォーム軸はモータにより駆動されていないため、ステアリングシャフトに連結されたウォームホイールによってウォーム軸を回転させる必要がある。つまり、不感帯では、ウォームホイールから入力される力(逆入力)によって、ウォーム軸を回転させることになるため、操舵開始時において、ウォームホイールに比較的大きなトルクを付与しなければ操舵できず、これが所謂引っ掛かり感となることで操舵フィーリングの低下を招く虞がある。
【0015】
この点、上記構成によれば、第1及び第2のアームは、モータ軸の軸方向に沿った直線と交差する軸方向変形部を有するため、モータ軸の軸方向に容易に弾性変形することが可能になる。そして、ウォーム軸は、支持手段によりモータ軸に対する軸方向移動が許容された状態で支持されるため、第1及び第2のアームが軸方向に弾性変形することでウォーム軸の軸方向移動が可能になる。そのため、操舵開始時において、ウォーム軸を回転させることなく、同ウォーム軸が軸方向に移動することでウォームホイールが回転できるようになり、引っ掛かり感を低減することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の電動パワーステアリング装置において、前記第1のアームは、前記ウォーム軸に対して前記第1の直線と平行な第1の回動軸まわりに回動可能に連結され、前記第2のアームは、前記モータ軸に対して前記第2の直線と平行な第2の回動軸まわりに回動可能に連結されたことを要旨とする。
【0017】
上記構成によれば、ウォーム軸が第1及び第2の回動軸を中心として回動することにより、ウォーム軸がモータ軸に対して傾動するようになる。そのため、第1及び第2のアームが弾性変形することによりウォーム軸が傾動する場合に比べ、ウォーム軸の傾動に伴って反発力が発生し難くなり、ウォーム軸及びウォームホイールの各歯部の摩耗が進んだ場合でも容易にウォーム軸を傾動させることができるようになる。これにより、各歯部の摩耗が進んでもバックラッシュを除去することが可能になり、長期に亘って歯打ち音の発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、トルク伝達の遅れを防止するとともに、ウォーム軸の傾動に伴う反力が過大になることを抑制しつつ、トルクの伝達効率が低下することを抑制できる電動パワーステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】電動パワーステアリング装置(EPS)の概略構成図。
【図2】本実施形態のEPSアクチュエータの概略構成を示す断面図。
【図3】図2のA−A断面図。
【図4】本実施形態の軸継手(連結部材)を示す斜視図。
【図5】(a)本実施形態の軸継手近傍の第1の直線に沿った断面を示す拡大断面図、(b)軸継手近傍の第2の直線に沿った断面を示す拡大断面図。
【図6】(a),(b)偏心した状態のウォーム軸とモータ軸とを連結した状態の軸継手を示す模式図。
【図7】(a),(b)ウォーム軸がモータ軸に対して軸方向移動した状態の軸継手を示す模式図。
【図8】別例の軸継手を示す側面図。
【図9】別例の軸継手を示す側面図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、電動パワーステアリング装置(EPS)1において、ステアリング2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。これにより、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。なお、ステアリングシャフト3は、コラム軸8、中間軸9、及びピニオン軸10を連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、同ラック軸5の両端に連結されたタイロッド11を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪12の舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0021】
また、EPS1は、モータ21を駆動源として操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するEPSアクチュエータ22と、同EPSアクチュエータ22の作動を制御するECU23とを備えている。
【0022】
EPSアクチュエータ22は、所謂コラムアシスト型のEPSアクチュエータとして構成されており、モータ21は、減速機構25を介してコラム軸8と駆動連結されている。減速機構25は、モータ21に連結されたウォーム軸26と、コラム軸8に連結されたウォームホイール27とを噛合することにより構成されている。そして、モータ21の回転を減速機構25により減速してコラム軸8に伝達することによって、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成になっている。
【0023】
一方、ECU23には、車速センサ28及びトルクセンサ29が接続されている。そして、ECU23は、これらセンサにより検出される車速V及び操舵トルクτに基づいて、EPSアクチュエータ22の作動、すなわち操舵系に付与するアシスト力の制御を実行する構成になっている。なお、本実施形態では、検出される操舵トルクτ(の絶対値)が所定の閾値以下である場合には、その操舵トルクτに関わらずアシスト力を付与しない所謂不感帯が設定されている。
【0024】
次に、本実施形態におけるEPSアクチュエータの構成について説明する。
図2に示すように、EPSアクチュエータ22は、減速機構25を収容するハウジング31を備えている。このハウジング31は、ウォーム軸26が収容されるウォーム軸収容部32、及び同ウォーム軸収容部32に連続して形成されるとともにウォームホイール27が収容されるウォームホイール収容部33を有している。ウォーム軸収容部32は、ウォーム軸26の軸方向(図2における左右方向)に延びる円柱状の空間であり、その一端側(図2における右側)は、モータ21が固定されるモータ固定孔34に連通している。また、ウォーム軸収容部32の他端側(図2における左側)は外部に開口しており、この開口端はエンドカバー35により閉塞されている。
【0025】
モータ21は、ハウジング31に貫設されたステアリングシャフト3(コラム軸8)の軸方向に対して、そのモータ軸36の軸方向が直交するように同ハウジング31のモータ固定孔34に固定されている。そして、そのモータ軸36に連結されたウォーム軸26は、その両端がハウジング31内に設けられた第1及び第2の軸受37,38により回転可能に支持されるとともに、ステアリングシャフト3に連結されたウォームホイール27に噛合されている。なお、本実施形態では、第1及び第2の軸受37,38には、ボール軸受が採用されている。
【0026】
ここで、本実施形態のEPSアクチュエータ22には、その減速機構25を構成するウォーム軸26とウォームホイール27との間の軸間距離を調整してバックラッシュを除去するための所謂アンチ・バックラッシュ・システムが組み込まれている。すなわち、ウォーム軸26の一端部(図2における右側端部)26aは、軸継手41によりモータ軸36に対して傾動可能に連結されおり、その他端部(図2における左側端部)26bは、付勢手段としての湾曲板バネ42により、ウォームホイール27側に付勢されている。
【0027】
詳述すると、ウォーム軸26は、支持手段としての第1及び第2の軸受37,38により、モータ軸36に対する傾動及び軸方向移動が許容された状態で回転可能に支持されている。ウォーム軸26の一端部26aを支持する第1の軸受37は、ウォーム軸収容部32内に固定されている。そして、ウォーム軸26の一端部26aは、第1の軸受37の内輪との間に若干の隙間が設けられる隙間嵌めの状態で嵌合されることにより、同第1の軸受37に対してその軸方向に移動可能に設けられている。
【0028】
一方、ウォーム軸26の他端部26bを支持する第2の軸受38は、ウォームホイール27に対して接離する方向(図2における上下方向)に移動可能に設けられるとともに、ウォーム軸26の軸方向に移動可能に設けられている。具体的には、ウォーム軸収容部32の他端側(図2における左側)には、その内径が第2の軸受38の外径よりも大きな支持部43が形成されている。第2の軸受38は、エンドカバー35との間にウォーム軸26の軸方向に間隔を空けて支持部43内に設けられることにより、ウォームホイール27に対して接離する方向に移動可能、且つウォーム軸26の軸方向に移動可能に設けられている。そして、ウォーム軸26は、その他端部26bが第2の軸受38の内輪に圧入されることにより、同第2の軸受38と一体でモータ軸36に対してその軸方向に移動可能、且つ傾動可能に設けられている。
【0029】
ウォーム軸26の他端部26bを付勢する湾曲板バネ42は、第2の軸受38の外周を囲繞するように湾曲して形成されている。詳しくは、図3に示すように、湾曲板バネ42は、第2の軸受38の外輪に当接する円弧状の円弧部45と、この円弧部45よりも径方向外側に配置されるバネ部46と、これら円弧部45及び各バネ部46の両端をそれぞれ接続する接続部47とからなる。支持部43の周壁には、湾曲板バネ42のバネ部46を収容する収容凹部48が形成されている。そして、バネ部46が当該収容凹部48の底面48aに当接して当該底面48aを押圧することにより、第2の軸受38は、ウォームホイール27側に向って付勢されている。これにより、ウォーム軸26がその一端側を中心として傾動し、ウォーム軸26とウォームホイール27との軸間距離が調整され、バックラッシュが除去されるようになっている。
【0030】
(ウォーム軸と出力軸との連結構造)
次に、本実施形態のEPSにおけるウォーム軸とモータ軸との連結構造について説明する。
【0031】
図4及び図5に示すように、軸継手41は、バネ鋼等の板材からなる湾曲板状の連結部材51を備えている。連結部材51は、平板状のベース52、ベース52から延出されてウォーム軸26に連結される一対の第1のアーム53、及びベース52から延出されてモータ軸36に連結される一対の第2のアーム54からなる。なお、本実施形態では、第1及び第2のアーム53,54は、それぞれ円柱状に形成された第1及び第2の継体55,56を介してウォーム軸26及びモータ軸36と一体回転可能に連結されている。
【0032】
第1及び第2のアーム53,54は、それぞれ湾曲板状に形成されており、その板厚方向に弾性変形可能な板バネとして構成されている。そして、図4及び図5(a)に示すように、第1のアーム53は、モータ軸36の軸線Lmを含む第1の平面S1と直交するとともに、その一部が該第1の平面S1と平行でモータ軸36の径方向に沿った第1の直線Lr1及びモータ軸36の軸方向に沿った直線Lsと交差するように形成されている。一方、図4及び図5(b)に示すように、第2のアーム54は、モータ軸36の軸線Lmを含み第1の平面S1と直交する第2の平面S2と直交するとともに、その一部が該第2の平面S2と平行でモータ軸36の径方向に沿った第2の直線Lr2及びモータ軸36の軸方向に沿った直線Lsと交差するように形成されている。
【0033】
具体的には、各第1のアーム53は、第1の平面S1と直交した状態を保ちつつ、ベース52からモータ軸36の径方向外側に向かうにつれてウォーム軸26側に近接する円弧板状の湾曲部53a、及び湾曲部53aから同モータ軸36の軸方向に沿ってウォーム軸26側に延びる平板状の連結部53bからなる。一方、各第2のアーム54は、第2の平面S2と直交した状態を保持しつつ、ベース52からモータ軸36の径方向外側に向かうにつれてモータ軸36側に近接する円弧板状の湾曲部54a、及び湾曲部54aから同モータ軸36の軸方向に沿ってモータ軸36側に延びる平板状の連結部54bからなる。なお、図4に示すように、第1のアーム53及び第2のアーム54のベース52との接続部分は、これら第1及び第2のアーム53,54とが直交せず、滑らかな円弧状となるように形成されており、当該接続部分の応力集中が低減されるようになっている。
【0034】
ここで、モータ軸36の軸線Lmを含む任意の平面は、モータ軸36の回転方向と直交する。従って、第1及び第2のアーム53,54の板厚方向は、モータ軸36の回転方向と直交することになり、同モータ軸36の回転方向における剛性が高くなるように構成されている。また、第1のアーム53における湾曲部53a及び連結部53bの板厚方向は、第1の直線方向(モータ軸36の径方向)と直交しないことになり、第1のアーム53は同方向に弾性変形可能に構成されている。同様に、第2のアーム54における湾曲部54a及び連結部54bの板厚方向は、第2の直線方向と直交しないことになり、第2のアーム54は同方向に弾性変形可能に構成されている。さらに、湾曲部53a,54aの板厚方向は、モータ軸36の軸方向と直交しないことになり、第1及び第2のアーム53,54は同方向に弾性変形可能に構成されている。すなわち、本実施形態では、湾曲部53a,54a及び連結部53b,54bが径方向変形部に相当し、湾曲部53a,54aが軸方向変形部に相当する。
【0035】
そして、第1のアーム53は、第1の継体55(ウォーム軸26)に対して第1の直線Lr1と平行な第1の回動軸61回りに回動可能に連結されるとともに、第2のアーム54は、第2の継体56(モータ軸36)に対して第2の直線Lr2と平行な、すなわち第1の回動軸61と直交する第2の回動軸62回りに回動可能に連結されている。
【0036】
具体的には、第1及び第2の継体55,56には、その径方向に貫通した軸孔63,64がそれぞれ形成されるとともに、第1及び第2のアーム53,54の連結部53b,54bには、軸孔63,64と対応する貫通孔65,66がそれぞれ形成されている。そして、第1のアーム53は、軸孔63及び貫通孔65に軸状の第1の回動軸61が挿通され、同第1の回動軸61の両端がかしめられることにより、第1の継体55に対して回動可能に連結されている。同様に、第2のアーム54は、軸孔64及び貫通孔66に軸状の第2の回動軸62が挿通され、同第2の回動軸62の両端がかしめられることにより、第2の継体56に対して回動可能に連結されている。これにより、ウォーム軸26は、第1の回動軸61を中心として回動する。また、ウォーム軸26は、連結部材51と一体で第2の回動軸62を中心として回動する。そして、ウォーム軸26は、第1及び第2の回動軸61,62を中心として回動することにより、モータ軸36に対して傾動するようになっている。
【0037】
このように構成された軸継手41では、図6(a),(b)に示すように、第1のアーム53が第1の直線方向に弾性変形すること、及び第2のアーム54が第2の直線方向に弾性変形することにより、ウォーム軸26の軸線Lw(軸心)がモータ軸36の軸線Lm(軸心)に対してその径方向にずれた状態となることが許容される。すなわち、ウォーム軸26がモータ軸36に対して偏心した状態となることが許容される。また、上記のように、ウォーム軸26は第1及び第2の軸受37,38によりモータ軸36の軸方向への移動が許容された状態で支持されているため、図7(a),(b)に示すように、第1及び第2のアーム53,54が軸方向に弾性変形することで、ウォーム軸26の軸方向移動が可能となっている。
【0038】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)第1のアーム53を第1の平面S1と直交する板状に形成するとともに、同第1のアーム53に第1の直線Lr1と交差する湾曲部53a及び連結部53bを形成した。また、第2のアーム54を第2の平面S2と直交する板状に形成するとともに、同第2のアーム54に第2の直線Lr2と交差する湾曲部54a及び連結部54bを形成した。
【0039】
上記構成によれば、連結部材51の回転方向における剛性を確保することができるため、第1及び第2のアーム53,54をそれぞれウォーム軸26及びモータ軸36に連結することにより、トルク伝達の遅れを防止するとともに、ウォーム軸26の傾動に伴う反発力が過大となることを抑制できる。また、第1及び第2のアーム53,54は、それぞれ第1及び第2の直線方向(モータ軸36の径方向)に容易に弾性変形することが可能になるため、軸継手41がウォーム軸26のモータ軸36に対する偏心を許容できるようになる。従って、ハウジング31の寸法精度等に起因して偏心した状態のウォーム軸26とモータ軸36とを連結しても、第1及び第2のアーム53,54がそれぞれ第1及び第2の直線方向に弾性変形することにより、これらウォーム軸26及びモータ軸36に大きな応力が作用することを抑制できる。これにより、ウォーム軸26及びモータ軸36の円滑な回転が可能になり、トルクの伝達効率が低下することを抑制できる。
【0040】
(2)モータ軸36に対する傾動及び軸方向移動を許容しつつ前記ウォーム軸26を回転可能に支持する第1及び第2の軸受37,38を備え、第1及び第2のアーム53,54に直線Lsと交差する湾曲部53a,54aを形成した。
【0041】
ここで、本実施形態のEPS1では、アシスト力が付与されない微小な範囲(不感帯)で操舵する際には、ウォーム軸26はモータ21により駆動されていないため、ステアリングシャフト3に連結されたウォームホイール27によってウォーム軸26を回転させる必要がある。つまり、不感帯では、ウォームホイール27から入力される力(逆入力)によって、ウォーム軸26を回転させることになるため、操舵開始時において、ウォームホイール27に比較的大きなトルクを付与しなければ操舵できず、これが所謂引っ掛かり感となることで操舵フィーリングの低下を招く虞がある。
【0042】
この点、上記構成によれば、第1及び第2のアーム53,54は、モータ軸36の軸方向に容易に弾性変形することが可能であり、ウォーム軸26のモータ軸36に対する軸方向移動が許容されているため、第1及び第2のアーム53,54が軸方向に弾性変形することでウォーム軸26の軸方向移動が可能になる。そのため、操舵開始時において、ウォーム軸26を回転させることなく、同ウォーム軸26が軸方向に移動することでウォームホイール27が回転できるようになり、引っ掛かり感を低減することができる。
【0043】
(3)第1のアーム53をウォーム軸26に対して第1の回動軸61まわりに回動可能に連結し、第2のアーム54をモータ軸36に対して第2の回動軸62まわりに回動可能に連結したため、ウォーム軸26が第1及び第2の回動軸61,62を中心として回動することにより、モータ軸36に対して傾動するようになる。そのため、第1及び第2のアーム53,54が弾性変形することによりウォーム軸26が傾動する場合に比べ、ウォーム軸26の傾動に伴って反発力が発生し難くなり、ウォーム軸26及びウォームホイール27の各歯部の摩耗が進んだ場合でも容易にウォーム軸26を傾動させることができるようになる。これにより、各歯部の摩耗が進んでもバックラッシュを除去することが可能になり、長期に亘って歯打ち音の発生を抑制することができる。
【0044】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記実施形態では、第1及び第2の継体56を介して第1及び第2のアーム53,54をウォーム軸26及びモータ軸36に連結したが、これに限らず、第1及び第2のアーム53,54を直接ウォーム軸26及びモータ軸36に連結するようにしてもよい。
【0045】
・上記実施形態において、ウォーム軸26のモータ軸36に対する軸方向移動が所定範囲に制限される構成としてもよい。例えば、図8に示すように、第2の継体56の外周面に係合溝71を形成し、第1の継体55に係合溝71内に挿入されるフック部72aを有する係合片72を形成してもよい。この構成では、フック部72aが係合溝71の側面に当接することにより、ウォーム軸26のモータ軸36に対する軸方向移動が制限される。すなわち、これら係合溝71及び係合片72により制限手段が構成される。なお、第1の継体55に係合溝を形成し、第2の継体56に係合片を形成してもよい。
【0046】
また、係合溝71及び係合片72を形成する場合に限らず、例えば図2に示す第2の軸受38がエンドカバー35又は支持部43の端面に当接することでウォーム軸26のモータ軸36に対する軸方向移動が所定範囲に制限されるようにしてもよい。この場合には、第2の軸受38、エンドカバー35及び支持部43により制限手段が構成される。
【0047】
ここで、ウォーム軸26の移動可能な範囲が大きくなり過ぎると、例えばモータ21によりウォーム軸26が駆動されて回転し始める際等にウォーム軸26とウォームホイール27との噛み合い状態に影響が及ぶ虞があり、操舵フィーリングに違和感が生じる場合がある。従って、上記のようにウォーム軸26のモータ軸36に対する軸方向移動可能な範囲を所定範囲内に制限することで、ウォーム軸26が軸方向に移動可能な範囲が大きくなり過ぎることを防ぎ、良好な操舵フィーリングを実現することができる。
【0048】
・上記実施形態では、軸継手41は、1つの連結部材51を備える構成としたが、これに限らず、モータ軸36の径方向に沿った直線に関して対称な形状となるように互いに連結された一対の連結部材を備える構成としてもよい。具体的には、例えば図9に示すように、ウォーム軸26側に設けられた連結部材51の第2のアーム54と、モータ軸36側に設けられた連結部材51の第2のアーム54とを一体回転可能且つ傾動不能に連結し、各第1のアーム53をそれぞれ第1及び第2の継体55,56に固定する。
【0049】
ここで、上記実施形態のように一つの連結部材51によってモータ軸36にウォーム軸26を連結した場合、ウォーム軸26が傾斜した状態で回転すると、同ウォーム軸26と第1及び第2のアーム53,54との相対的な位置関係がその回転に伴って変化することに起因して、同連結部材51を介して伝達されるトルクが変動する虞がある。この点、上記構成では、一対の連結部材51がモータ軸36の径方向に沿った直線Lrに対して対称な形状となるように連結されるため、モータ軸36側の連結部材51を介して伝達される際に生じるトルク変動と、ウォーム軸26側の連結部材51を介して伝達される際に生じるトルク変動とが互いに打ち消し合うようになる。そのため、軸継手41全体で、トルク変動が生じることを抑制できるようになる。
【0050】
・上記実施形態では、第1のアーム53をウォーム軸26に対して回動可能に連結し、第2のアーム54をモータ軸36に対して回動可能に連結したが、これに限らず、第1のアーム53をウォーム軸26に固定し、第2のアーム54をモータ軸36に固定してもよい。なお、この場合には、第1及び第2のアーム53,54が弾性変形することにより、ウォーム軸26がモータ軸36に対して傾動するようになる。
【0051】
・上記実施形態では、第1及び第2のアーム53,54をモータ軸36の軸方向に弾性変形可能に形成した。しかし、これに限らず、第1及び第2のアーム53,54全体を軸方向に沿った平板状とし、その板厚方向が軸方向と直交するようにこれら第1及び第2のアーム53,54を形成することで、第1及び第2のアーム53,54をモータ軸36の軸方向に弾性変形しないように形成してもよい。
【0052】
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
(イ)前記ウォーム軸の前記モータ軸に対する軸方向移動を所定範囲内に制限する制限手段を備えたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【0053】
ウォーム軸が軸方向に移動可能な構成において、その移動可能な範囲が大きくなり過ぎると、例えばモータによりウォーム軸が駆動されて回転し始める際等に、ウォーム軸とウォームホイールとの噛み合い状態に影響が及ぶ虞があり、操舵フィーリングに違和感が生じる場合がある。この点、上記構成によれば、ウォーム軸のモータ軸に対する軸方向移動が所定範囲内に制限されるため、ウォーム軸が軸方向に移動可能な範囲が大きくなり過ぎることを防ぎ、良好な操舵フィーリングを実現することができる。
【0054】
(ロ)前記軸継手は、前記モータ軸の径方向に沿った直線に関して対称な形状となるように互いに連結された一対の前記連結部材を備えたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【0055】
一つの連結部材によってモータ軸にウォーム軸を連結した場合、ウォーム軸が傾斜した状態で回転すると、同ウォーム軸と連結部材の第1及び第2のアームとの相対的な位置関係がその回転に伴って変化することに起因して、同連結部材を介してモータ軸からウォーム軸に伝達されるトルクが変動する。この点、上記構成では、一対の連結部材が径方向に沿った直線に対して対称な形状となるように連結されるため、モータ軸側の連結部材を介して伝達される際に生じるトルク変動と、ウォーム軸側の連結部材を介して伝達される際に生じるトルク変動とが互いに打ち消し合うようになる。そのため、軸継手全体で、トルク変動が生じることを抑制できるようになる。
【符号の説明】
【0056】
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、3…ステアリングシャフト、21…モータ、22…EPSアクチュエータ、25…減速機構、26…ウォーム軸、26a…一端部、26b…他端部、27…ウォームホイール、31…ハウジング、36…モータ軸、37…第1の軸受、38…第2の軸受、41…軸継手、42…湾曲板バネ、51…連結部材、52…ベース、53…第1のアーム、53a,54a…湾曲部、53b,54b…連結部、54…第2のアーム、55…第1の継体、56…第2の継体61…第1の回動軸、62…第2の回動軸、Lm…軸線、S1…第1の平面、S2…第2の平面、Lr1…第1の直線、Lr2…第2の直線、Lm,Lw…軸線、Lr…(径方向に沿った)直線、Ls…(軸方向に沿った)直線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウォーム軸及びウォームホイールを噛合してなる減速機構と、前記減速機構を介してステアリングシャフトに駆動連結されるモータと、モータ軸に対して前記ウォーム軸の一端部を傾動可能に連結する軸継手と、前記ウォーム軸の他端部を前記ウォームホイール側に付勢する付勢手段とを備えた電動パワーステアリング装置において、
前記軸継手は、板厚方向に弾性変形可能な板材からなる各一対の第1及び第2のアームを有する連結部材を備え、
前記第1のアームは、前記モータ軸の軸線を含む第1の平面と直交する板状に形成されるとともに、該第1の平面と平行で前記モータ軸の径方向に沿った第1の直線と交差する径方向変形部を有し、
前記第2のアームは、前記モータ軸の軸線を含み前記第1の平面と交差する第2の平面と直交する板状に形成されるとともに、該第2の平面と平行で前記モータ軸の径方向に沿った第2の直線と交差する径方向変形部を有することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記モータ軸に対する傾動及び軸方向移動を許容しつつ前記ウォーム軸を回転可能に支持する支持手段を備え、
前記第1及び第2のアームは、それぞれ前記モータ軸の軸方向に沿った直線と交差する軸方向変形部を有することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電動パワーステアリング装置において、
前記第1のアームは、前記ウォーム軸に対して前記第1の直線と平行な第1の回動軸まわりに回動可能に連結され、
前記第2のアームは、前記モータ軸に対して前記第2の直線と平行な第2の回動軸まわりに回動可能に連結されたことを特徴とする電動パワーステアリング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−201173(P2012−201173A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−66346(P2011−66346)
【出願日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】