説明

電動パーキングブレーキ装置

【課題】 電動パーキングブレーキ装置において、ロスストロークを減少させることによりハウジングを小形化して製造コストを減少させる。
【解決手段】 電動パーキングブレーキ装置は、電動モータ13により往復直進運動されるナット15にイコライザ16の中央部を揺動自在に支持し、イコライザの両側部にそれぞれ連結されるケーブル20,25によりパーキングブレーキBを作動させる。電動モータによりイコライザがパーキングブレーキ側に最も戻された状態においてイコライザの揺動を阻止するストッパを設ける。ストッパは、イコライザが一方向に揺動するのを阻止する第1ストッパ部材S1と、イコライザが他方向に揺動するのを阻止する第2ストッパ部材S2よりなるものとしてもよいし、イコライザが両方向に揺動するのを阻止する単一のストッパ部材としてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータを動力源として、同電動モータの正方向回転によりパーキングブレーキを制動状態とし、逆方向回転によりパーキングブレーキを解除状態とする電動パーキングブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電動パーキングブレーキ装置としては、特許文献1に開示された技術がある。これは電気モータの往復回転運動を変換機構により往復直進運動に変換し、この変換機構の出力部であるナットに中央部が揺動自在に支持されたイコライザの両側部に各一端を連結した1対のケーブルにより各パーキングブレーキを作動させるようにしたものである。このような電動パーキングブレーキ装置では、中央部がナットに揺動自在に支持されたイコライザの作用により、各パーキングブレーキを常に同一の力で作動させることができる。
【0003】
またこれに使用されるパーキングブレーキとしては、特許文献2に開示された技術がある。このパーキングブレーキBはディスクブレーキの内部にパーキングブレーキ用のドラムブレーキを組み込んだものであり、図5及び図6に示すように、バッキングプレート30と平行な連結ピン38により互いに回動自在に連結された第1トグルリンク36及び第2トグルリンク37を有している。このパーキングブレーキBは、バッキングプレート30に固定されたアンカー部材31のケーブル挿入孔31aから挿入されたケーブル20,25のインナワイヤ22,27の先端に固定した掛止部材39を第1トグルリンク36のケーブル掛止部36aに引っ掛けてブレーキシュー33を拡開させるようになっている。
【0004】
このパーキングブレーキBでは、U字状断面形状の第2トグルリンク37の内側に掛止部材39が位置しているので、掛止部材39をつかんで引き寄せて第1トグルリンク36のケーブル掛止部36aに引っ掛けることはできない。そこで、ケーブル20,25のアウタチューブ21,26を手でつかんでインナワイヤ22,27の先端の掛止部材39をケーブル挿入孔31a内に挿入し、二点鎖線39Aに示すようにインナワイヤ22,27を撓めて第1トグルリンク36のケーブル掛止部36aと反対側外縁に形成した円弧状の案内面36cに沿って移動させ、ケーブル掛止部36aの外側の突出部36bを越えたところでインナワイヤ22,27はその弾性によりケーブル掛止部36aの間に形成した溝部36d(図6参照)内に入り、掛止部材39とケーブル掛止部36aの底部の間に生じる遊びは、インナワイヤ22,27をアウタチューブ21,22内に引き戻すことにより除去して掛止部材39をケーブル掛止部36aの底部に当接させている。
【0005】
この引っ掛け作業を可能とするには、アウタチューブ21,26の先端がケーブル挿入孔31aの底部に当接した状態(図5の実線参照)において、アウタチューブ21,26の先端からの掛止部材39の突出量は第1トグルリンク36の突出部36bを掛止部材39が乗り越えることができる値となっていなければならない。一方、電動パーキングブレーキ装置を小形化して製造コストを低下させるためには、変換機構及びこれを収容するハウジングを小形化する必要があり、このためにこの引っ掛け作業は、電動モータによりイコライザがパーキングブレーキ側に最も戻され、従ってインナワイヤ22,27の先端の掛止部材39がアウタチューブ21から最も突出された状態において行っている。
【0006】
上述したような従来技術では、インナワイヤ22,27の掛止部材39を第1トグルリンク36のケーブル掛止部36aに引っ掛けるために、ケーブル20,25のアウタチューブ21,26を手でつかんでインナワイヤ22,27の先端の掛止部材39をケーブル挿入孔31a内に挿入すれば、先ず掛止部材39が第1トグルリンク36の案内面36cの開始部に当接して、インナワイヤ22,27をアウタチューブ21,26内に押し戻そうとする反力が生じる。一方、イコライザはパーキングブレーキ側に最も戻された状態でもハウジングに対しある角度範囲において揺動自在であるので、この反力によりイコライザが揺動してインナワイヤ22,27はアウタチューブ21,26内に上記角度範囲に対応する距離H1(図示せず)だけ押し戻される。従って前述のように、アウタチューブ21,26の先端がケーブル挿入孔31aの底部に当接した状態において、掛止部材39をケーブル掛止部36aに係止させるのに必要なアウタチューブ21,26の先端からの掛止部材39の根本側端部までの距離は、前述した距離H1と、ケーブル掛止部36aの底部から突出部36bの先端までの距離H2(図5参照)と、アウタチューブ21,26の先端からケーブル掛止部36aの底部までの距離H3(同前)の和となる。
【特許文献1】特開2005−16600号公報(段落〔0014〕、段落〔0017〕、段落〔0019〕、図1)。
【特許文献2】特開2001−173692号公報(段落〔0003〕〜〔0007〕、図6〜図8)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したような従来技術では、電動モータを正方向に回転して変換機構によりパーキングブレーキ側に最も戻されたイコライザをパーキングブレーキBと反対側にストロークさせ、ケーブル20,25のインナワイヤ22,27を引っ張ってパーキングブレーキBを作動させる場合、そのストロークが上述した距離H1と距離H2の和を越えるまではパーキングブレーキが作動を開始しないロスストロークを生じる。このロスストロークは変換機構の長さを増大するので、これが大きいと変換機構及びイコライザを収容するハウジングを大形化して電動パーキングブレーキ装置の製造コストを増大させるという問題が生じる。本発明は上述した距離H1を0としてこのような問題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このために、請求項1の発明による電動パーキングブレーキ装置は、前記電動モータにより前記イコライザが前記パーキングブレーキ側に最も戻された状態において同イコライザの揺動を阻止するストッパを設けたことを特徴とするものである。
【0009】
請求項2にかかる発明は、請求項1に記載の発明において、前記ストッパは、前記電動モータにより前記イコライザが最も戻された状態において同イコライザが一方向に揺動するのを阻止する第1ストッパ部材と、前記電動モータにより前記イコライザが最も戻された状態において同イコライザが他方向に揺動するのを阻止する第2ストッパ部材よりなることを特徴とするものである。
【0010】
請求項3にかかる発明は、請求項2に記載の発明において、前記両ストッパ部材の少なくとも何れか一方は、前記電動モータにより前記イコライザが最も戻された状態において、前記イコライザの一端部と前記ケーブルのインナワイヤの一端を連結する連結部材の前記インナワイヤに連結される側の一端が当接して前記イコライザがその当接する向きにそれ以上揺動するのを阻止する前記ハウジングの一部または同ハウジングに取り付けた部材であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項4にかかる発明は、請求項3に記載の発明において、前記連結部材は、同連結部材が連結される前記インナワイヤに作用する張力を検出する張力センサであることを特徴とするものである。
【0012】
請求項5にかかる発明は、請求項2に記載の発明において、前記変換機構は前記電動モータにより回転駆動されるねじ軸とこれに螺合されるとともに前記イコライザを揺動自在に支持するナットよりなるものとし、前記両ストッパ部材の少なくとも何れか一方は、前記電動モータにより前記イコライザが最も戻された状態において同イコライザの内面に当接して、前記イコライザがその当接する向きにそれ以上揺動するのを阻止する前記ナットの一部であることを特徴とするものである。
【0013】
請求項6にかかる発明は、請求項2に記載の発明において、前記両ストッパ部材の少なくとも何れか一方は、前記ハウジングに固定され前記電動モータにより前記イコライザが最も戻された状態において同イコライザと当接して、前記イコライザがその当接する向きにそれ以上揺動するのを阻止する当接部材であることを特徴とするものである。
【0014】
請求項7にかかる発明は、請求項1に記載の発明において、前記ストッパは、前記電動モータにより前記イコライザが最も戻された状態において同イコライザが両方向に揺動するのを阻止する単一のストッパ部材であることを特徴とするものである。
【0015】
請求項8にかかる発明は、請求項7に記載の発明において、前記変換機構は前記電動モータにより回転駆動されるねじ軸とこれに螺合されるとともに前記イコライザを揺動自在に支持するナットよりなるものとし、前記単一のストッパ部材は、前記ハウジングに固定されて前記ねじ軸の先端部を回転自在に支持するとともに前記電動モータにより前記イコライザが最も戻された状態において同イコライザの中央部付近に当接して同イコライザが両方向に揺動するのを阻止する軸受部材またはその一部であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
上記のように構成した請求項1の発明による電動パーキングブレーキ装置によれば、ストッパは、電動モータによりイコライザがパーキングブレーキ側に最も戻された状態において同イコライザの揺動を阻止するので、特許文献1で述べたようなイコライザの揺動に起因するケーブルのロスストロークが生じることはない。従ってこのロスストロークの分だけ変換機構の長さを減少させて変換機構及びイコライザを収容するハウジングを小形化できるので、電動パーキングブレーキ装置の製造コストを低下させることができる。
【0017】
上記のように構成した請求項2の発明によれば、イコライザの揺動は第1及び第2ストッパ部材により阻止されるので、請求項1の発明と同じ効果を得ることができる。
【0018】
上記のように構成した請求項3の発明によれば、イコライザの一端部とケーブルのインナワイヤの一端を連結する連結部材の一端をストッパに当接させる部材として利用できて構造が簡略化されるので、電動パーキングブレーキ装置の製造コストを一層低下させることができる。
【0019】
上記のように構成した請求項4の発明によれば、前項の発明の連結部材とインナワイヤに作用する張力を検出する張力センサを兼用化させて構造が簡略化されるので、張力センサを備えた電動パーキングブレーキ装置の製造コストを低下させることができる。
【0020】
上記のように構成した請求項5の発明によれば、ストッパ部材とナットが一体化されて構造が簡略化されるので、電動パーキングブレーキ装置の製造コストを一層低下させることができる。
【0021】
上記のように構成した請求項6の発明によれば、イコライザと当接してその揺動を阻止する当接部材をハウジングに固定したので、簡単な構造で充分な強度のストッパ部材を得ることができる。
【0022】
上記のように構成した請求項7の発明によれば、イコライザの両方向の揺動を単一のストッパ部材により阻止しており、ストッパ部材の数が減少するので、電動パーキングブレーキ装置の製造コストを一層低下させることができる。
【0023】
上記のように構成した請求項8の発明によれば、単一のストッパ部材と軸受部材が一体化されて構造が簡略化されるので、電動パーキングブレーキ装置の製造コストを一層低下させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、図1〜図3示す実施形態により、本発明の一実施形態の説明をする。先ず、図1により、本発明による電動パーキングブレーキ装置の全体構造の説明をする。この実施形態の電動パーキングブレーキ装置は、電動モータ13の往復回転運動を出力部(ナット)15の往復直進運動に変換する変換機構Aと、出力部15に中央部が揺動自在に支持されたイコライザ16と、この変換機構Aとイコライザ16を収容するハウジング10と、イコライザ16の両側部を各パーキングブレーキBに連結する1対のコントロールケーブル(ケーブル)20,25よりなるものである。
【0025】
図1及び図2に示すように、ハウジング10の一端には一方向クラッチ14を介して変換機構Aのねじ軸11を正逆両方向に回転駆動する電動モータ13が設けられている。一方向クラッチ14は、正逆何れの回転方向においても電動モータ13側からねじ軸11側への回転は伝達するが、ねじ軸11側から電動モータ13側への回転の伝達は阻止するものである。ねじ軸11には横断面形状が正方形に近い長方形のナット15がねじ係合され、ねじ軸11の先端部はハウジング10に固定された軸受部材12により回転自在に支持されている。
【0026】
イコライザ16はコ字状断面形状の板金製で中央部にはナット15を収容する四角い箱状部16aが形成され、両側部はナット15よりも幅狭に形成され、箱状部16aの両側壁には長穴の支持孔17が形成されている。ナット15にはねじ軸11と直交する枢支ピン15aが両側に突出して形成され、イコライザ16はその箱状部16aの各支持孔17を各枢支ピン15aに係合させることにより、中央部がナット15に揺動自在に支持されている。ナット15には枢支ピン15aを設けた面と直交する両側面の軸受部材12側となる縁部に沿ってねじ軸11と直交方向に突出する突起部(一部)15bが形成され、この突起部15bがイコライザ16の箱状部16aの内面に当接することにより(図3参照)、イコライザ16はねじ軸11と直交する面から所定角度以上傾斜することが阻止されるようになっている。イコライザ16の両側部にはそれぞれ連結孔17a,17bが形成されている。
【0027】
1対のコントロールケーブル20,25はそれぞれアウタチューブ21,26とインナワイヤ22,27からなり、取付状態においては、各アウタチューブ21,26の一端は、電動モータ13と反対側となるハウジング10の端面にねじ軸11と平行に取り付けた1対のアウタ取付ブラケット19にそれぞれ挿入されて保持され、他端は図5に示すように、ケーブル挿入孔31aの先端が各パーキングブレーキBのアンカー部材31のケーブル挿入孔31aの底部にそれぞれ当接されている。またインナワイヤ22,27の一端にそれぞれかしめなどにより連結された連結部材23,28の他端は、それぞれ連結ピン24,28aと連結孔17a,17bによりイコライザ16の両側部に回動自在に連結され、インナワイヤ22,27の他端に固定した掛止部材39は、前述した特許文献2と同様、第1トグルリンク36のケーブル掛止部36aに係止されている。
【0028】
この実施形態では、一方のコントロールケーブル20のインナワイヤ22の一端に連結された連結部材23は、インナワイヤ22に作用する張力を検出する張力センサとなっている。この張力センサ23は、円筒状のケーシング23aと、その一端の内底面に設けられたフランジ部23b1から同軸的に外向きに突出するワイヤ端末部材23bと、ケーシング23aの他端から摺動自在に挿入されたロッド23cと、このロッド23cの内端に形成されたフランジ部23c1とケーシング23aの間に介装されてロッド23cをケーシング23aの内底面に向けて付勢する圧縮スプリング23dと、ロッド23cの変位を検出する磁気センサ23eにより構成されている。ワイヤ端末部材23bはインナワイヤ22よりも大径でかしめなどによりインナワイヤ22に連結され、またロッド23cの先端部は連結ピン24によりイコライザ16の一方の側部に連結されている。
【0029】
この張力センサ23は、ワイヤ端末部材23bとロッド23cの間に加わる引張り力が所定値以下の場合は圧縮スプリング23dによりフランジ部23c1がケーシング23aの内底面に当接したままでワイヤ端末部材23bの先端と連結ピン24の間の距離は一定であるが、上記引張り力が所定値を越えれば圧縮スプリング23dが撓んでロッド23cがケーシング23aに対し変位し、この変位を磁気センサ23eにより検出して、インナワイヤ22に作用する引張り力が所定値を越えたことを検出するものである。他方の連結部材28は、インナワイヤ27よりも大径で一端部がかしめなどによりインナワイヤ27に連結されたワイヤ端末部材であり、他端部は連結ピン28aによりイコライザ16の他方の側部に連結されている。
【0030】
次に上述した実施形態の作動の説明をする。図1に示す状態から、電動モータ13を逆方向に回転すれば、一方向クラッチ14を介してねじ軸11は逆方向に回転されて、ナット15及びこれに枢支されたイコライザ16はパーキングブレーキBが設けられる側(図において右側。単にパーキングブレーキB側という)に戻され、先ず連結部材(張力センサ)23のワイヤ端末部材23b(前述のようにインナワイヤ22より大径である)の先端が、ハウジング10に取り付けられてインナワイヤ22が挿通されるアウタ取付ブラケット19(第1ストッパ部材S1)の端部に当接されて、ハウジング10に対する連結部材23及び連結ピン24の軸線方向移動は停止される。ねじ軸11によりナット15をパーキングブレーキB側にさらに移動すれば、イコライザ16はアウタチューブ26を中心として半時計回転方向に回動して、図3に示すように、イコライザ16の箱状部16aの内面がナット15の突起部(一部)15b(第2ストッパ部材S2)に当接する。これによりナット15及びイコライザ16がパーキングブレーキB側に最も戻された状態となり、これと同時に電動モータ13が停止してナット15及びイコライザ16の移動は停止される。
【0031】
この状態では、イコライザ16の時計回転方向の揺動は連結孔17aに連結される連結部材23のワイヤ端末部材23bがアウタ取付ブラケット19(第1ストッパ部材S1)に当接されることにより阻止され、半時計回転方向の揺動は箱状部16aの内面がナット15の突起部15b(第2ストッパ部材S2)に当接されることにより阻止される。またこの状態では、各連結部材23,28に連結される各インナワイヤ22,27の他端に固定された各掛止部材39の、対応する各アウタチューブ21,26の先端からの突出量は最大となっており、各突出量は各アウタチューブ21,26をケーブル挿入孔31a(図5参照)の底部に当接した状態で、掛止部材39が第1トグルリンク36の突出部36bを掛止部材39を乗り越えることができる値となるように設定されている。
【0032】
またこの状態で、先に図5により説明したのと同様、各アウタチューブ21,26を手でつかんでインナワイヤ22,27の先端の掛止部材39をケーブル挿入孔31a内に挿入し、二点鎖線39Aに示すようにインナワイヤ22,27を撓めて第1トグルリンク36の案内面36cに沿って移動させ、ケーブル掛止部36aの外側の突出部36bを越えたところでインナワイヤ22,27をその弾性によりケーブル掛止部36aの間に形成した溝部36d内に入れることにより、各掛止部材39は各第1トグルリンク36のケーブル掛止部36aに引っ掛けられる。この実施形態では、上述のようにイコライザ16は両方向の揺動が阻止されているので、この引っ掛けの際に各掛止部材39が第1トグルリンク36の案内面36cの開始部に当接することにより生じる反力により、各インナワイヤ22,27がアウタチューブ21,26内に押し戻されることはない。従って前述した各距離H1,H2,H3のうち、各インナワイヤ22,27がアウタチューブ21,26内に押し戻されることに伴う距離H1は0となる。
【0033】
ナット15及びイコライザ16がパーキングブレーキB側に最も戻されて各インナワイヤ22,27の掛止部材39が第1トグルリンク36のケーブル掛止部36aに引っ掛けられたこの状態から、電動モータ13によりねじ軸11を正方向に回転させてナット15及びイコライザ16をパーキングブレーキBと反対側(図において左側)にストロークさせれば、前述したケーブル掛止部36aの底部から突出部36bの先端までの距離H2だけストロークしたところで、各インナワイヤ22,27の掛止部材39は各第1トグルリンク36のケーブル掛止部36aに当接される。この実施形態では上述のように距離H1は0であるので、この当接された位置において、パーキングブレーキBの作動が開始されるまでのストロークであるロスストロークが終了する。このロスストロークの終了後、さらにねじ軸11を正方向に回転させてナット15及びイコライザ16をストロークさせれば、直ちに第1トグルリンク36が揺動されてパーキングブレーキBは作動を開始し、張力センサ23により検出される各インナワイヤ22,27の張力が所定の値となってパーキングブレーキBの制動力が所定の値となったところで、電動モータ13が停止されて電動パーキングブレーキ装置は作動を停止する。なおイコライザ16の作用により各インナワイヤ22,27に作用する張力は同一であるので、一方のインナワイヤ22に張力センサ23を設ければ、両インナワイヤ22,27の張力が同時に検出される。
【0034】
図3の二点鎖線16Aは、この状態におけるイコライザ16の位置を示している。一方向クラッチ14によりねじ軸11の逆方向回転は阻止されるので、ナット15及びイコライザ16がパーキングブレーキB側に戻されてパーキングブレーキBが緩むことはない。パーキングブレーキBを解除する場合は、この状態から電動モータ13によりねじ軸11を逆方向に回転させてナット15及びイコライザ16をパーキングブレーキB側に戻す。これによりパーキングブレーキBは次第に緩められ、完全に解除されてロスストロークに移る位置に達したところで電動モータ13は停止される。通常の作動では、ナット15及びイコライザ16がこれ以上パーキングブレーキB側に移動されることはない。
【0035】
上述した実施形態によれば、ナット15及びイコライザ16がパーキングブレーキB側に最も戻された状態からパーキングブレーキBが作動を開始するまでのロスストロークは、イコライザ16の揺動に起因する分だけ減少し、前述した従来技術に比してこの減少した分だけねじ軸11の長さを減少させてねじ軸11、ナット15及びイコライザ16を収容するハウジング10を小形化できるので、電動パーキングブレーキ装置の製造コストを低下させることができる。
【0036】
上述した実施形態では、一方のコントロールケーブル20のインナワイヤ22の一端に連結された連結部材23は張力センサとしており、このようにすれば張力センサ23により各インナワイヤ22,27の張力を検出して電動モータ13の作動を制御することができ、また張力センサ23を連結部材と兼用させて構造が簡略化されるのでこのような電動パーキングブレーキ装置の製造コストを低下させることができる。しかしながら本発明これに限られるものではなく、張力センサ23を、ケーシング23aと圧縮スプリング23dが除かれてワイヤ端末部材23bとロッド23cを直結した単なる連結部材としてもよく、そのようにしてもナット15及びイコライザ16がパーキングブレーキB側に最も戻された状態におけるイコライザ16の時計回転方向の揺動を阻止することができる。
【0037】
また上述した実施形態では、イコライザ16の反時計回転方向の揺動はナット15の突起部15b(第2ストッパ部材S2)を箱状部16aの内面に当接して阻止しており、このようにすれば第2ストッパ部材S2とナット15が一体化されて構造が簡略化されるので、電動パーキングブレーキ装置の製造コストを一層低下させることができる。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、突起部15bを廃し、その代わりに連結部材28の長さを大として、ナット15及びイコライザ16がパーキングブレーキB側に最も戻された状態において連結部材28の一端がアウタ取付ブラケット19と当接してイコライザ16の反時計回転方向の揺動を阻止するようにして実施してもよい。
【0038】
あるいはまた各連結部材23,28を何れも上述したような長さが大きい一体構造のものとし、ナット15及びイコライザ16がパーキングブレーキB側に最も戻された状態において連結部材23の一端がアウタ取付ブラケット19と当接してイコライザ16の時計回転方向の揺動を阻止し、連結部材28の一端がアウタ取付ブラケット19と当接してイコライザ16の反時計回転方向の揺動を阻止するようにして実施してもよい。
【0039】
図4は、図1〜図3に示す実施形態における第2ストッパ部材S2の変形例を示す。この変形例はナット15に形成する突起部15bを廃し、その代わり軸受部材12の近くで張力センサ23と反対側となる位置に、当接部材18(第2ストッパ部材S2)をハウジング10の底面から起立して設けたものである。この当接部材18は、ナット15及びイコライザ16がパーキングブレーキB側に最も戻された状態においてイコライザ16の端縁に当接して、その反時計回転方向の揺動を阻止するものである。このようにすればイコライザ16と当接してその揺動を阻止する当接部材18をハウジング10に固定したので、簡単な構造で充分な強度のストッパ部材を得ることができる。その他の構成及び作用はは図1〜図3に示す実施形態と同じであるので、詳細な説明は省略する。
【0040】
なお、上述した実施形態では、インナワイヤ22,27の先端の掛止部材39をアンカー部材31のケーブル挿入孔31aからを挿入して第1トグルリンク36に引っ掛ける型式のパーキングブレーキBを対象として説明しており、このような型式のパーキングブレーキBは本発明の電動パーキングブレーキ装置の対象として適したものではあるが、本発明はこれに限られるものではなく、その他の型式のパーキングブレーキを対象として実施することも可能である。
【0041】
また図示は省略したが、本発明は軸受部材12のイコライザ16側にフランジ部(ストッパ部材)を形成し、ナット15及びイコライザ16がパーキングブレーキB側に最も戻された状態において、フランジ部がイコライザ16の中央部付近の端縁に当接してイコライザ16が両方向に揺動するのを阻止するようにしてもよい。このようにすれば、イコライザ16の端縁と当接して両方向の揺動を阻止するフランジ部材は軸受部材12と一体化されて構造が簡略化されるので、電動パーキングブレーキ装置の製造コストを一層低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明による電動パーキングブレーキ装置の一実施形態の全体構造を示す正面から見た断面図である。
【図2】図1の2−2断面図である。
【図3】図1に示す実施形態のナット及びイコライザがパーキングブレーキ側に最も戻された状態における図1と同じ断面図である。
【図4】図1に示す実施形態の第2ストッパ部材の変形例を示す断面図である。
【図5】本発明による電動パーキングブレーキ装置により作動されるパーキングブレーキの一例のコントロールケーブルが連結されるリンク付近を示す部分断面図である。
【図6】図5に示すリンクの上面図である。
【符号の説明】
【0043】
10…ハウジング、11…ねじ軸、12…軸受部材、13…電動モータ、15…出力部(ナット)、15b…突起部、16…イコライザ、18…当接部材、19…第1ストッパ部材(アウタ取付ブラケット)、20,25…ケーブル(コントロールケーブル)、22,27…インナワイヤ、23…連結部材(張力センサ)、A…変換機構、B…パーキングブレーキ、S1…第1ストッパ部材、S2…第2ストッパ部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ(13)の往復回転運動を出力部(15)の往復直進運動に変換する変換機構(A)と、前記出力部(15)に中央部が揺動自在に支持されたイコライザ(16)と、前記変換機構(A)及びイコライザ(16)を収容するハウジング(10)と、前記イコライザ(16)の両側部をそれぞれパーキングブレーキ(B)に連結する1対のケーブル(20,25)を備え、前記電動モータ(13)の正方向回転により前記各ケーブル(20,25)が引っ張られて前記各パーキングブレーキ(B)が制動状態とされ、前記電動モータ(13)の逆方向回転により前記各ケーブル(20,25)が戻されて前記各パーキングブレーキ(B)が解除状態とされるよう構成した電動パーキングブレーキ装置において、前記電動モータ(13)により前記イコライザ(16)が前記パーキングブレーキ(B)側に最も戻された状態において同イコライザ(16)の揺動を阻止するストッパを設けたことを特徴とする電動パーキングブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電動パーキングブレーキ装置において、前記ストッパは、前記電動モータ(13)により前記イコライザ(16)が最も戻された状態において同イコライザ(16)が一方向に揺動するのを阻止する第1ストッパ部材(S1)と、前記電動モータ(13)により前記イコライザ(16)が最も戻された状態において同イコライザ(16)が他方向に揺動するのを阻止する第2ストッパ部材(S2)よりなることを特徴とする電動パーキングブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電動パーキングブレーキ装置において、前記両ストッパ部材(S1,S2)の少なくとも何れか一方は、前記電動モータ(13)により前記イコライザ(16)が最も戻された状態において、前記イコライザ(16)の一端部と前記ケーブル(20,25)のインナワイヤ(22,27)の一端を連結する連結部材(23)の前記インナワイヤ(22,27)に連結される側の一端が当接して前記イコライザ(16)がその当接する向きにそれ以上揺動するのを阻止する前記ハウジング(10)の一部または同ハウジング(10)に取り付けた部材(19)であることを特徴とする電動パーキングブレーキ装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電動パーキングブレーキ装置において、前記連結部材(23)は、同連結部材(23)が連結される前記インナワイヤ(22,27)に作用する張力を検出する張力センサ(23)であることを特徴とする電動パーキングブレーキ装置。
【請求項5】
請求項2に記載の電動パーキングブレーキ装置において、前記変換機構(A)は前記電動モータ(13)により回転駆動されるねじ軸(11)とこれに螺合されるとともに前記イコライザ(16)を揺動自在に支持するナット(15)よりなり、前記両ストッパ部材(S1,S2)の少なくとも何れか一方は、前記電動モータ(13)により前記イコライザ(16)が最も戻された状態において同イコライザ(16)の内面に当接して、前記イコライザ(16)がその当接する向きにそれ以上揺動するのを阻止する前記ナット(15)の一部(15b)であることを特徴とする電動パーキングブレーキ装置。
【請求項6】
請求項2に記載の電動パーキングブレーキ装置において、前記両ストッパ部材(S1,S2)の少なくとも何れか一方は、前記ハウジング(10)に固定され前記電動モータ(13)により前記イコライザ(16)が最も戻された状態において同イコライザ(16)と当接して、前記イコライザ(16)がその当接する向きにそれ以上揺動するのを阻止する当接部材(18)であることを特徴とする電動パーキングブレーキ装置。
【請求項7】
請求項1に記載の電動パーキングブレーキ装置において、前記ストッパ(S)は、前記電動モータ(13)により前記イコライザ(16)が最も戻された状態において同イコライザ(16)が両方向に揺動するのを阻止する単一のストッパ部材であることを特徴とする電動パーキングブレーキ装置。
【請求項8】
請求項7に記載の電動パーキングブレーキ装置において、前記変換機構(A)は前記電動モータ(13)により回転駆動されるねじ軸(11)とこれに螺合されるとともに前記イコライザ(16)を揺動自在に支持するナット(15)よりなり、前記単一のストッパ部材は、前記ハウジング(10)に固定されて前記ねじ軸(11)の先端部を回転自在に支持するとともに前記電動モータ(13)により前記イコライザ(16)が最も戻された状態において同イコライザ(16)の中央部付近に当接して同イコライザ(16)が両方向に揺動するのを阻止する軸受部材(12)またはその一部であることを特徴とする電動パーキングブレーキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−107704(P2007−107704A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−302053(P2005−302053)
【出願日】平成17年10月17日(2005.10.17)
【出願人】(301065892)株式会社アドヴィックス (1,291)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】