説明

電動プレス加工機の作動方法

【課題】被成形品の平坦度が確保され、高精度の成形が可能な電動プレス加工機の作動方法を提案する。
【解決手段】第1のスライド11を駆動するように設けられる第1側の駆動源12と、第2のスライド21を駆動するように設けられる第2側の駆動源22とを備え、第1側の駆動源により第1のスライドを上昇あるいは下降させると共に、第2側の駆動源により第2のスライドを上昇あるいは下降させる動作が繰り返され、下型と上型とによって被成形品を加工するプレス加工動作が繰り返し連続して行われる電動プレス加工機の作動方法において、第1のスライド及び第2のスライドを第1の位置に移動する工程と、第1のスライドを第1の位置に保持したまま、第2のスライドを第2の位置に移動する工程と、第1のスライドを第1の位置に保持したまま、第2のスライドを第3の位置に移動する工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のスライドを備えると共に、それぞれのスライドが、それぞれの駆動手段によって上昇あるいは下降される電動プレス加工機の作動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えばインナー・スライドとアウター・スライドとを有し、夫々のスライドに例えばインナー側上型とアウター側上型とを個別に取り付けて、被成形品をプレス加工するようにした、いわゆるダブル・スライド方式のプレス加工機が知られている。
【0003】
本出願人は、個々のスライドに対応して複数組の駆動手段が協同して力を加えるようにしかつ複数組の駆動手段が個々のスライドのいわば重心を通る中心点に対して協同して力を加えるようにし、個々のスライドが、プレス加工中の各ショットの進行段階途中においても、正しく水平に維持されることを保証し、複数のスライドあるいは構造体が非所望な衝突を生じないように、制御系の側で規制するようにしている高性能なプレス加工機を開示している(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007─111764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、被成形品の平坦度が確保され、高精度の成形が可能な電動プレス加工機の作動方法を提案することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
ベッドとクラウンと複数の支柱とで形成された枠体と、
前記支柱を摺動する第1のスライドと、
前記支柱を摺動する第2のスライドと、
第1のスライドを駆動するように設けられる第1側の駆動源と、
第2のスライドを駆動するように設けられる第2側の駆動源と、
前記第1のスライドに対応して取り付けられる第1の上型と前記第2のスライドに対応して取り付けられる第2の上型とのいずれか一方あるいは両方と、
を少なくとも備え、
前記第1側の駆動源により前記第1のスライドを上昇あるいは下降させると共に、前記第2側の駆動源により前記第2のスライドを上昇あるいは下降させる動作が繰り返され、
前記ベッドに対応して取り付けられる下型と前記両者または一方の上型とによって被成形品を加工するプレス加工動作が繰り返し連続して行われる電動プレス加工機の作動方法において、
前記第1のスライド及び前記第2のスライドを第1の位置に移動する工程と、
前記第1のスライドを前記第1の位置に保持したまま、前記第2のスライドを第2の位置に移動する工程と、
前記第1のスライドを前記第1の位置に保持したまま、前記第2のスライドを第3の位置に移動する工程と、
を有する
ことを特徴とする。
【0007】
また、前記第1の位置と前記第3の位置は、同じ位置である
ことを特徴とする。
【0008】
また、前記第1のスライドを前記第1の位置に保持したまま、前記第2のスライドを前記第3の位置に移動する工程の後、
前記第1のスライドを前記第1の位置に保持したまま、前記第2のスライドを第4の位置に移動する工程と、
前記第1のスライドを前記第1の位置に保持したまま、前記第2のスライドを第5の位置に移動する工程と、
を有する
ことを特徴とする。
【0009】
また、前記第1の位置と前記第3の位置と前記第5の位置は、同じ位置であり、
前記第2の位置と前記第4の位置は、同じ位置である
ことを特徴とする。
【0010】
また、前記第2のスライドを前記第1の位置に保持したまま、前記第1のスライドを前記第2の位置に移動する工程と、
前記第2のスライドを前記第1の位置に保持したまま、前記第1のスライドを前記第1の位置に移動する工程と、
を有する
ことを特徴とする。
【0011】
また、前記第1のスライドを前記第2の位置に移動し、前記第2のスライドを前記第1の位置に移動する工程と、
前記第1のスライドを前記第2の位置に保持したまま、前記第2のスライドを前記第2の位置に移動する工程と、
前記第1のスライド及び前記第2のスライドを前記第1の位置に移動する工程と、
を有する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明にかかる電動プレス加工機の作動方法によれば、被成形品の平坦度が確保され、高精度の成形をすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】電動プレス加工機の一実施例構成を示す図である。
【図2】電動プレス加工機のインナー・スライド機構の概略図である。
【図3】電動プレス加工機のダイセット部付近を示す図である。
【図4】電動プレス加工機の金型部分の構成を示す図である。
【図5】電動プレス加工機の第1実施例の作動状態を示す図である。
【図6】図5の(a)の状態を示す図である。
【図7】図5の(b)の状態を示す図である。
【図8】図5の(c)の状態を示す図である。
【図9】図5の(d)の状態を示す図である。
【図10】図5の(e)の状態を示す図である。
【図11】図5の(f)の状態を示す図である。
【図12】図5の(g)の状態を示す図である。
【図13】図5の各状態の成形品の状態を示す図である。
【図14】電動プレス加工機の第2実施例の作動状態を示す図である。
【図15】電動プレス加工機の第3実施例の作動状態を示す図である。
【図16】電動プレス加工機の第4実施例の作動状態を示す図である。
【図17】電動プレス加工機の第5実施例の作動状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は電動プレス加工機Pの一実施形態を示す図、図2は電動プレス加工機のインナー・スライド機構の概略図である。なお、図2では支柱2、クラウン3及びアウター用モータ22を省略している。
【0015】
図中の1はベッド、2は支柱、3はクラウン、4は目盛柱、11は第1のスライドとしてのインナー・スライド、12は第1側の駆動源としてのインナー用モータ、13は第1側の送り部材としてのインナー用ボールネジ、14は第1側の位置検出部材としてのインナー用リニア・スケール、21は第2のスライドとしてのアウター・スライド、22は第2側の駆動源としてのアウター用モータ、23は第2の第2側の送り部材としてのアウター用ボールネジ、24は第2側の位置検出部材としてのアウター用リニア・スケールを示す。
【0016】
ベッド1は、電動プレス加工機Pを地面に載置するための基台となる部材である。支柱2は、ベッド1から上方に向かって延びる柱である。本実施形態の支柱2は4本あり、ベッド1の4隅にそれぞれ設置される。クラウン3は、支柱2に載置されインナー用モータ12及びアウター用モータ22を載置する。ベッド1、支柱2及びクラウン3で電動プレス加工機の枠体を形成する。なお、支柱2は4本に限らず、少なくとも2本有し、クラウン3を支えられればよい。また、柱状のものに限らず、板状のものでもよい。
【0017】
インナー・スライド11は、支柱2に対して移動可能に取り付けられる台状部11a及び台状部11aから下方に延びる凸部11bを有する。本実施形態では、台状部11aの4隅を支柱2に摺動可能に設置し、凸部11bを台状部11aの中央から下方に延びるように設置する。
【0018】
インナー用モータ12は、クラウン3の上に載置され、インナー用ボールネジ13を駆動する。インナー用ボールネジ13は、図2に示すように、ネジ軸13aと、ナット部13bとを有する。ネジ軸13aは、クラウン3を貫通してインナー用モータ12の出力軸に連結される。ナット部13bは、インナー・スライド11に取り付けられ、図示しない循環する鋼球を内蔵する。
【0019】
本実施形態では、インナー用モータ12及びインナー用ボールネジ13は、クラウン3及びインナー・スライド11の4隅に対応してそれぞれ4つ有する。4つのインナー用モータ12及びインナー用ボールネジ13は、それぞれ独立して作動する。なお、インナー用モータ12及びインナー用ボールネジ13は、それぞれ4つに限らず、少なくとも2つあればよい。
【0020】
インナー用リニア・スケール14は、目盛柱4を読み取り、インナー・スライド11がベッド1に対して位置する高さを測定する。本実施形態では、インナー・スライド11の4隅に対応して4つ有する。なお、インナー用リニア・スケール14は、少なくとも2つあればよい。
【0021】
アウター・スライド21は、インナー・スライド11の下方で、支柱2に対して移動可能に取り付けられる台状部21a及び台状部21aの上下方向にインナー・スライド11の凸部11bが移動可能に貫通する孔部21bを有する。本実施形態では、台状部21aの4隅を支柱2に摺動可能に設置し、孔部21bを台状部21aの中央にインナー・スライド11の凸部11bが摺動可能に貫通するように設ける。
【0022】
アウター用モータ22は、クラウン3の上に載置され、アウター用ボールネジ23を駆動する。アウター用ボールネジ23は、ネジ軸23aと、ナット部23bとを有する。ネジ軸23aは、クラウン3及びインナー・スライド11を貫通してアウター用モータ22の出力軸に連結される。ナット部23bは、アウター・スライド21に取り付けられ、図示しない循環する鋼球を内蔵する。
【0023】
本実施形態では、アウター用モータ22及びアウター用ボールネジ23は、クラウン3及びアウター・スライド21の4隅に対応してそれぞれ4つ有する。4つのアウター用モータ22及びアウター用ボールネジ23は、それぞれ独立して作動する。なお、アウター用モータ22及びアウター用ボールネジ23は、それぞれ4つに限らず、少なくとも2つあればよい。
【0024】
アウター用リニア・スケール24は、目盛柱4を読み取り、アウター・スライド21がベッド1に対して位置する高さを測定する。本実施形態では、アウター・スライド21の4隅に対応して4つ有する。なお、アウター用リニア・スケール24は、少なくとも2つあればよい。
【0025】
目盛柱4は、一方をベッド1に、他方をクラウン3に鉛直方向に取り付けられる。本実施形態では、インナー・スライド11及びアウター・スライド21の外側の4隅に取り付けられる。インナー用リニア・スケール14及びアウター用リニア・スケール24は、目盛柱4を共通に利用する。したがって、目盛柱4、インナー用リニア・スケール14及びアウター用リニア・スケール24は、それぞれ同数設けられる。
【0026】
本実施形態は、被成形品をプレス加工する動作が繰り返し自動的に行われるが、本番でのプレス加工期間で、1回ごとの当該プレス加工動作中の各段階ごとに、インナー・スライド11やアウター・スライド21が高精度で水平状態を保つことができるようにされている。
【0027】
すなわち、本番でのプレス加工期間に先立ってのティーチング加工期間において、プレス加工の各1回のショットの進行途中の各段階ごとに、(i)インナー・スライド11を水平に保つことができるように、インナー用リニア・スケール14の測定結果を取り込んで、インナー・スライド11を駆動する4つのインナー用モータ12の夫々に供給する駆動エネルギーを調整して決定し、各段階ごとにインナー用モータ12の夫々に供給する駆動エネルギーに関する情報を記憶装置に記憶させ、(ii)アウター・スライド21を水平に保つことができるように、アウター用リニア・スケール24の測定結果を取り込んで、アウター・スライド21を駆動する4つのアウター用モータ22のそれぞれに供給する駆動エネルギーを調整して決定し、各段階ごとにアウター用モータ22のそれぞれに供給する駆動エネルギーに関する情報を記憶装置に記憶させておく。
【0028】
続いて、本番加工期間におけるプレス加工中の各1回のショットの進行途中の各段階ごとに、(i)インナー・スライド11を駆動するインナー用モータ12の夫々に、上記記憶しておいた情報にもとづいて駆動エネルギーを供給し、(ii)アウター・スライド21を駆動するアウター用モータ22の夫々に、上記記憶しておいた情報にもとづいて駆動エネルギーを供給する。
【0029】
本実施形態では、このような制御が行われることから、1回ごとのプレス加工動作の各段階ごとにおいても、インナー・スライド11やアウター・スライド21は高精度で水平状態を保持している。この結果として、インナー・スライド11の4隅の摺動孔と支柱2との間のクリアランスを0.10mmないし0.25mmに決定することができる。
【0030】
図3は、電動プレス加工機のダイセット部付近を示す図である。
【0031】
図1に示した電動プレス加工機Pのベッド1には、ダイセット部30が設置される。ダイセット部30は、ベッド1の上方に設置された下サブプレート31と、下サブプレート31から上方に延びる脚部32と、脚部32上に設置される下スペーサープレート33と、下スペーサープレート33上に設置される下スペーサー34と、下スペーサー34上に設置される下ダイセット35と、下ダイセット35の四隅から上方へ延びるガイドポスト36と、ガイドポスト36を移動可能に係合する係合穴を有する上ダイセット37と、上ダイセット37上に設置された上サブプレート38と、を有する。また、下サブプレート31上には、バルブ等を制御することによりクッション力を制御可能な油圧クッション5が設置されている。
【0032】
次に、金型部分の構成について説明する。
【0033】
図4は、電動プレス加工機の金型部分の構成を示す図である。
【0034】
図中、40は第1の上型としてのインナー用上型部を示し、41はインナー用上型、42はプレッシャーピン、50は第2の上型としてのアウター用上型部を示し、51は第1のアウター用上型、52は第2のアウター用上型、53は第3のアウター用上型、54は上バッキングプレート、55は上パンチプレート、56はパンチホルダー、60は下型としての第1の下型部を示し、61は第1の下型、62はクッション連結部、70は下型としての第2の下型部、71は第2の下型、72はダイプレート、73はダイスペーサ、74は下パンチプレート、75は下バッキングプレート、100は被成形品である。
【0035】
本実施形態では、インナー用上型部40は、環状のインナー用上型41と、インナー用上型41と図3に示したインナー・スライド11とを連結する環状のプレッシャーピン42と、を有する。
【0036】
インナー用上型41は、略円柱状の第2のアウター用上型52が貫通する第1の貫通孔41aを有する。インナー用上型41とプレッシャーピン42、プレッシャーピン42とインナー・スライド11は、ボルト等により、連結される。したがって、インナー・スライド11の押圧力は、プレッシャーピン42を介してインナー用上型41に伝達される。
【0037】
本実施形態では、アウター用上型部50は、円柱状の第1のアウター用上型51と、第2のアウター用上型52と、環状の第3のアウター用上型53と、第1のアウター用上型51と第2のアウター用上型52をアウター・スライド21に連結する上バッキングプレート54と、第3のアウター用上型53を上バッキングプレート54に連結する上パンチプレート55と、上パンチプレート55から下方に突出しダイプレート72と共にストッパの役目を有するパンチホルダー56と、を有する。
【0038】
上バッキングプレート54と上パンチプレート55は、ボルト等により積層されて、図3に示した上ダイセット37にボルト等で取り付けられる。また、上バッキングプレート54及び上パンチプレート55は、プレッシャーピン42が貫通する第2の貫通穴57を有する。
【0039】
したがって、アウター・スライド21の押圧力は、上サブプレート38、上ダイセット37、及び上バッキングプレート54を介して第1のアウター用上型51と第2のアウター用上型52に伝達され、上バッキングプレート54と上パンチプレート55を介して第3のアウター用上型53に伝達される。
【0040】
本実施形態では、第1の下型部60は、環状の第1の下型61と、第1の下型61を油圧クッション5に連結するクッション連結部材62と、を有する。
【0041】
第1の下型61は、インナー用上型41と対向して配置されて、インナー・スライド11の押圧力によって、インナー用上型41に上方から押圧された被成形品100を下方から押さえるものである。また、第1の下型61は、油圧クッション5のクッション力を調整することによって、インナー・スライド11の押圧力によってクッション連結部材62と共に下方へ移動可能である。さらに、第1の下型61には、第2のアウター用上型52が進入可能な第3の貫通穴61aを有する。
【0042】
本実施形態では、第2の下型部70は、環状の第2の下型71と、ダイプレート72と、ダイスペーサ73と、下パンチプレート74と、下バッキングプレート75と、を有する。
【0043】
下バッキングプレート75は、図3に示した下ダイセット35上に設置される。また、下バッキングプレート75上には下パンチプレート74が設置され、下パンチプレート74上にはダイスペーサ73が設置され、ダイスペーサ73上にはダイプレート72が設置される。
【0044】
ダイプレート72、ダイスペーサ73、下パンチプレート74、及び下バッキングプレート75は、それぞれ中央に第1のアウター用上型51が移動可能な第4の貫通穴77を有する。第2の下型71は、下バッキングプレート75上の第4の貫通穴77の内部に環状に設置される。
【0045】
また、ダイプレート72、ダイスペーサ73、下パンチプレート74、及び下バッキングプレート75は、第2の下型71の外周に、第1の下型61及びクッション連結部材62が移動可能な第5の貫通穴78を有する。
【0046】
次に、電動プレス加工機の作動工程について説明する。
【0047】
図5は電動プレス加工機の第1実施例の作動状態を示す図、図6は図5の(a)の状態を示す図、図7は図5の(b)の状態を示す図、図8は図5の(c)の状態を示す図、図9は図5の(d)の状態を示す図、図10は図5の(e)の状態を示す図、図11は図5の(f)の状態を示す図、図12は図5の(g)の状態を示す図、図13は図5の各状態の成形品の状態を示す図である。なお、図6〜図12は、図3における中心線Cに対して左半分を示している。
【0048】
図5では、横軸は時間、縦軸は位置、実線は油圧クッションの動き、破線はインナー・スライドの動き、一点鎖線はアウター・スライドの動きを表している。
【0049】
図5(a)の状態では、図6に示すように、電動プレス加工機Pのインナー・スライド11及びアウター・スライド21は、作動前の状態であり、所定の初期位置にある。被成形品100は、図13(a)のように平板の状態である。
【0050】
図5(a)の状態から、図1に示したインナー用モータ12が駆動すると、インナー用ボールネジ13が作動し、インナー・スライド11が支柱2に沿って鉛直方向下方に移動する。また、図1に示したアウター用モータ22が駆動すると、アウター用ボールネジ23が作動し、アウター・スライド21が支柱2に沿って鉛直方向下方に移動する。
【0051】
インナー・スライド11及びアウター・スライド21は、最初、図5(b)に示すように、共に下降する。すると、まず、第1のインナー用上型41が被成形品100の上側に当接し、被成形品100の下側は、第1の下型61に当接する。そして、図7に示すように、被成形品100は、第1のインナー用上型41と第1の下型61に挟持されて、段付けされて、図13(b)の状態となる。
【0052】
次に、図5(c)の状態まで、アウター・スライド21のみを下降させる。すると、アウター用上型50が下降する。この時、被成形品100は、第1のインナー用上型41と第1の下型61に挟持されている。また、被成形品100は、図8に示すように、第1のアウター用上型51に上方から押圧されると同時に第2の下型71に下方から押さえられるので、第1のアウター用上型51と第2の下型71との境界で中央部100’が穴抜きされて、図13(c)の状態となる。
【0053】
さらに、図5(d)の状態まで、インナー・スライド11及びアウター・スライド21を下降させる。そして、油圧クッション5を下方に移動させる。すると、第1の下型61は油圧クッション5に下方を支持されているので、下方に移動する。しかし、第2の下型71及びダイプレート72は、下方を固定されている。したがって、被成形品100は、図9に示すように、第2の下型71及びダイプレート72に下方から押圧されて、外形を絞られると共に、内径をバーリング加工されて、図13(d)の状態となる。
【0054】
さらに、図5(e)で示す所定の位置まで、アウター・スライド21を下降させる。すると、図10に示すように、第2のアウター用上型52及び第3のアウター用上型53が下降して被成形品100を上方から押圧し、第2のアウター用上型52が第3の貫通穴61aに挿入されて、第2のアウター用上型52と第1の下型61との境界で穴抜きされる。
【0055】
また、被成形品100は、第3のアウター用上型53に上方から押圧されると共に、第2の下型71及びダイプレート72に下方から押さえられて、端部の肉厚が付与される。その結果、被成形品100は、図13(e)のようにほぼ成形された状態となる。この時のインナー・スライド11の位置を第1の位置とする。
【0056】
その後、図5(f)のように、アウター・スライド21をそのまま所定の位置に保持して、インナー・スライド11を上方の第2の位置に移動させる。すなわち、図1に示したインナー用モータ12を図5(a)の時とは逆回転させて駆動し、インナー用ボールネジ13を作動させて、インナー・スライド11を支柱2に沿って鉛直方向上方に移動させる。したがって、被成形品100は、図11に示すように、第2のアウター用上型52及び第3のアウター用上型53と、第1の下型61、第2の下型71、及びダイプレート72とに当接して保持されながら、第1のインナー用上型41と離間する。
【0057】
次に、インナー・スライド11のみを再び下方の第3の位置に移動させる。すると、図5(g)の状態となり、再び、被成形品100は、図10に示すように、第2のアウター用上型52及び第3のアウター用上型53と、第1の下型61、第2の下型71、及びダイプレート72とに当接して保持されながら、第1のインナー用上型41と当接し押圧される。
【0058】
その後、図5(h)のように、図1に示したインナー用モータ12及びアウター用モータ22を図4(a)の時とは逆回転させて駆動する。すると、アウター用ボールネジ23が作動し、アウター・スライド21が支柱2に沿って鉛直方向上方に移動する。そして、インナー・スライド11及びアウター・スライド21が共に上昇し、図12に示すように、第1のインナー用上型41、第1のアウター用上型51、第2のアウター用上型52及び第3のアウター用上型53が上昇して、被成形品100と離間し、被成形品100を取り出すことが可能となる。
【0059】
第1実施例の電動プレス加工機Pは、図5(e)の状態のように、一度インナー・スライド11及びアウター・スライド21を第1の位置に移動する工程と、図5(f)の状態のように、アウター・スライド21を第1の位置に保持したまま、インナー・スライド11を上方の第2の位置に移動する工程と、図5(g)の状態のように、アウター・スライド21を第1の位置に保持したまま、インナー・スライド11を第1の位置より少し下方の第3の位置に移動する工程と、を有する。
【0060】
第3の位置を第1の位置の少し下方とすることにより、一度にインナー・スライド11及びアウター・スライド21を第3の位置に移動するよりも、一度の成形あたりに被成形品にかかる負荷が小さくなる。それによって、インナー・スライド11及びアウター・スライド21を第1の位置に移動する工程において、ある程度の仮成形を行い、インナー・スライド11を第1の位置より少し下方の第3の位置に移動する工程において、被成形品の平坦度が確保され、高精度の成形をすることが可能となる。その結果、従来必要としていたプレス後の仕上げ工程をする必要がなくなる。
【0061】
なお、第1の位置と第3の位置は同じ位置であってもよい。この場合、制御が簡単になると共に、他の工程を付加することも容易になる。
【0062】
次に、他の実施例について説明する。
【0063】
図14は電動プレス加工機の第2実施例の作動状態を示す図である。
【0064】
図14では、横軸は時間、縦軸は位置、実線は油圧クッションの動き、破線はインナー・スライドの動き、一点鎖線はアウター・スライドの動きを表している。
【0065】
第2実施例の電動プレス加工機Pは、図14(a)の状態のように、一度インナー・スライド11及びアウター・スライド21を所定の第1の位置に移動する工程と、図14(b)の状態のように、インナー・スライド11を所定の第1の位置に保持したまま、アウター・スライド21を上方の第2の位置に移動する工程と、図14(c)の状態のように、インナー・スライド11を所定の第1の位置に保持したまま、アウター・スライド21を所定の第1の位置に再度移動する工程と、を有する。
【0066】
このような工程を有することで、被成形品の平坦度が確保され、高精度の成形が可能となる。その結果、従来必要としていたプレス後の仕上げ工程をする必要がなくなる。
【0067】
図15は電動プレス加工機の第3実施例の作動状態を示す図である。
【0068】
図15では、横軸は時間、縦軸は位置、実線は油圧クッションの動き、破線はインナー・スライドの動き、一点鎖線はアウター・スライドの動きを表している。
【0069】
第3実施例の電動プレス加工機Pは、図15(a)の状態のように、一度インナー・スライド11及びアウター・スライド21を所定の第1の位置に移動する工程と、図15(b)の状態のように、アウター・スライド21を所定の第1の位置に保持したまま、インナー・スライド11を上方の第2の位置に移動する工程と、図15(c)の状態のように、アウター・スライド21を所定の第1の位置に保持したまま、インナー・スライド11を所定の第1の位置に再度移動する工程と、図15(d)の状態のように、アウター・スライド21を所定の第1の位置に保持したまま、インナー・スライド11を上方の第2の位置に移動する工程と、図15(e)の状態のように、アウター・スライド21を所定の第1の位置に保持したまま、インナー・スライド11を所定の第1の位置に再度移動する工程と、を有する。
【0070】
このように、インナー・スライド11又はアウター・スライド21のうち、第1のスライドを所定の第1の位置に保持し第2のスライドを上方の第2の位置に移動する工程と、第1のスライドを所定の第1の位置に保持し第2のスライドを所定の第1の位置に再度移動する工程を複数回行うことで、被成形品の平坦度がより確保され、さらに高精度の成形が可能となる。その結果、従来必要としていたプレス後の仕上げ工程をする必要がなくなる。
【0071】
図16は電動プレス加工機の第4実施例の作動状態を示す図である。
【0072】
図16では、横軸は時間、縦軸は位置、実線は油圧クッションの動き、破線はインナー・スライドの動き、一点鎖線はアウター・スライドの動きを表している。
【0073】
第4実施例の電動プレス加工機Pは、図16(a)の状態のように、一度インナー・スライド11及びアウター・スライド21を所定の位置に移動する工程と、図16(b)の状態のように、インナー・スライド11を所定の位置に保持したまま、アウター・スライド21を上方に移動する工程と、図16(c)の状態のように、インナー・スライド11を所定の位置に保持したまま、アウター・スライド21を所定の位置に再度移動する工程と、図16(d)の状態のように、アウター・スライド21を所定の位置に保持したまま、インナー・スライド11を上方に移動する工程と、図16(e)の状態のように、アウター・スライド21を所定の位置に保持したまま、インナー・スライド11を所定の位置に再度移動する工程と、図16(f)の状態のように、アウター・スライド21を所定の位置に保持したまま、インナー・スライド11を上方に移動する工程と、図16(g)の状態のように、アウター・スライド21を所定の位置に保持したまま、インナー・スライド11を所定の位置に再度移動する工程と、を有する。
【0074】
このように、インナー・スライド11又はアウター・スライド21のうち、第1のスライドを所定の第1の位置に保持し第2のスライドを上方の第2の位置に移動する工程と、第1のスライドを所定の第1の位置に保持し第2のスライドを所定の第1の位置に再度移動する工程と、第2のスライドを所定の第1の位置に保持し第1のスライドを上方の第2の位置に移動する工程と、第2のスライドを所定の第1の位置に保持し第1のスライドを所定の第1の位置に再度移動する工程と、を行うことで、インナー・スライド11及びアウター・スライド21の両方に対応して押圧される被成形品の表面の平坦度が確保され、さらに高精度の成形が可能となる。その結果、従来必要としていたプレス後の仕上げ工程をする必要がなくなる。
【0075】
図17は電動プレス加工機の第5実施例の作動状態を示す図である。
【0076】
図17では、横軸は時間、縦軸は位置、実線は油圧クッションの動き、破線はインナー・スライドの動き、一点鎖線はアウター・スライドの動きを表している。
【0077】
第5実施例の電動プレス加工機Pは、図17(a)の状態のように、インナー・スライド11を被成形品の上面に対応する第2の位置に移動し、アウター・スライド21を被成形品の上面に対応する第2の位置より下方の所定の第1の位置に移動する工程と、図17(b)の状態のように、インナー・スライド11を所定の第2の位置に保持したまま、アウター・スライド21を上方の第2の位置に移動する工程と、図17(c)の状態のように、インナー・スライド11を所定の第2の位置に保持したまま、アウター・スライド21を所定の第1の位置に再度移動する工程と、図17(d)の状態のように、インナー・スライド11を所定の第2の位置に保持したまま、アウター・スライド21を上方の第2の位置に移動する工程と、図17(e)の状態のように、インナー・スライド11及びアウター・スライド21を所定の第1の位置に移動する工程と、図17(f)の状態のように、アウター・スライド21を所定の第1の位置に保持したまま、インナー・スライド11を上方の第2の位置に移動する工程と、図17(g)の状態のように、アウター・スライド21を所定の第1の位置に保持したまま、インナー・スライド11を所定の第1の位置に再度移動する工程と、図17(h)の状態のように、アウター・スライド21を所定の第1の位置に保持したまま、インナー・スライド11を上方の第2の位置に移動する工程と、図17(i)の状態のように、アウター・スライド21を所定の第1の位置に保持したまま、インナー・スライド11を所定の第1の位置に再度移動する工程と、を有する。
【0078】
このように、インナー・スライド11又はアウター・スライド21のうち、第1のスライドを第2の位置に保持し第2のスライドを第1の位置に移動する工程と、第1のスライドを第2の位置に保持し第2のスライドを第2の位置に移動する工程と、第1のスライド及び第2のスライドを第1の位置に移動する工程と、第2のスライドを第1の位置に保持し第1のスライドを第2の位置に移動する工程と、第2のスライドを第1の位置に保持し第1のスライドを第1の位置に移動する工程と、を行うことで、インナー・スライド11及びアウター・スライド21の両方に対応して押圧される被成形品の表面の平坦度が確保され、さらに高精度の成形が可能となる。その結果、従来必要としていたプレス後の仕上げ工程をする必要がなくなる。
【符号の説明】
【0079】
1…ベッド(枠体)
2…支柱(枠体)
3…クラウン(枠体)
4…目盛柱
5…油圧クッション
11…インナー・スライド(第1のスライド)
12…インナー用モータ(第1側の駆動源)
13…インナー用ボールネジ
14…インナー用リニア・スケール
21…アウター・スライド(第2のスライド)
22…アウター用モータ(第2側の駆動源)
23…アウター用ボールネジ
24…アウター用リニア・スケール
30…ダイセット
31…ダイセット下台
32…ガイドポスト
33…ダイセット上台
40…インナー用上型部(第1の上型)
41…インナー用上型
41a…第1の貫通穴
42…プレッシャーピン
50…アウター用上型部(第2の上型)
51…第1のアウター用上型
52…第2のアウター用上型
53…第3のアウター用上型
54…上バッキングプレート
55…上パンチプレート
56…パンチプレート
57…第2の貫通穴
60…第1の下型部(下型)
61…第1の下型
61a…第3の貫通穴
62…クッション連結部
70…第2の下型部(下型)
71…第2の下型
72…ダイプレート
73…ダイスペーサ
74…下パンチプレート
75…下バッキングプレート
77…第4の貫通穴
78…第5の貫通穴
100…被成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベッドとクラウンと複数の支柱とで形成された枠体と、
前記支柱を摺動する第1のスライドと、
前記支柱を摺動する第2のスライドと、
第1のスライドを駆動するように設けられる第1側の駆動源と、
第2のスライドを駆動するように設けられる第2側の駆動源と、
前記第1のスライドに対応して取り付けられる第1の上型と前記第2のスライドに対応して取り付けられる第2の上型と、
を少なくとも備え、
前記第1側の駆動源により前記第1のスライドを上昇あるいは下降させると共に、前記第2側の駆動源により前記第2のスライドを上昇あるいは下降させる動作が繰り返され、
前記ベッドに対応して取り付けられる下型と前記第1の上型及び前記第2の上型とによって被成形品を加工するプレス加工動作が繰り返し連続して行われる電動プレス加工機の作動方法において、
前記第1のスライド及び前記第2のスライドを第1の位置に移動する工程と、
前記第1のスライドを前記第1の位置に保持したまま、前記第2のスライドを第2の位置に移動する工程と、
前記第1のスライドを前記第1の位置に保持したまま、前記第2のスライドを第3の位置に移動する工程と、
を有する
ことを特徴とする電動プレス加工機の作動方法。
【請求項2】
前記第1の位置と前記第3の位置は、同じ位置である
ことを特徴とする請求項1に記載の電動プレス加工機の作動方法。
【請求項3】
前記第1のスライドを前記第1の位置に保持したまま、前記第2のスライドを前記第3の位置に移動する工程の後、
前記第1のスライドを前記第1の位置に保持したまま、前記第2のスライドを第4の位置に移動する工程と、
前記第1のスライドを前記第1の位置に保持したまま、前記第2のスライドを第5の位置に移動する工程と、
を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の電動プレス加工機の作動方法。
【請求項4】
前記第1の位置と前記第3の位置と前記第5の位置は、同じ位置であり、
前記第2の位置と前記第4の位置は、同じ位置である
ことを特徴とする請求項3に記載の電動プレス加工機の作動方法。
【請求項5】
前記第2のスライドを前記第1の位置に保持したまま、前記第1のスライドを前記第2の位置に移動する工程と、
前記第2のスライドを前記第1の位置に保持したまま、前記第1のスライドを前記第1の位置に移動する工程と、
を有する
ことを特徴とする請求項2又は請求項4に記載の電動プレス加工機の作動方法。
【請求項6】
前記第1のスライドを前記第2の位置に移動し、前記第2のスライドを前記第1の位置に移動する工程と、
前記第1のスライドを前記第2の位置に保持したまま、前記第2のスライドを前記第2の位置に移動する工程と、
前記第1のスライド及び前記第2のスライドを前記第1の位置に移動する工程と、
を有する
ことを特徴とする請求項2、請求項4又は請求項5に記載の電動プレス加工機の作動方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−103261(P2013−103261A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249821(P2011−249821)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000154794)株式会社放電精密加工研究所 (29)
【Fターム(参考)】