説明

電動ミキサ

【課題】軸受け部の温度上昇を抑え、放熱板が変形するのを防止し、振動や騒音の発生を防いで耐久性を向上させ、ベアリングの位置決め精度を良くしつつ組み立て性を向上させる。
【解決手段】回転軸22の外周に形成された位置決め用凸部30を上下から挟むようにカッタ回転軸22に固定された上下一対の転がり軸受け32と、これら転がり軸受け32の外輪に圧入された金属製の円筒状リング34と、この円筒状リング34が上方から圧入される軸受け収容部40が形成された放熱板36と、回転刃保持体12と放熱板36の軸受け収容部40に臨む位置にそれぞれ保持されその内周リップ部が回転軸22に接触する上下一対のオイルシール46、50とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、食材などの被加工材を粉砕する電動ミキサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の電動ミキサには種々の構造のものが有るが、一般には電動モータを本体ケースに収容し、この本体ケースに上方から着脱する回転刃保持体に回転軸を保持し、この回転軸の上端を回転刃保持体に被冠される被加工材収容容器内に突出させ、この突出端にカッタ(破砕刃)を固定し、回転軸の下端を本体ケース内に突出させてモータの回転を回転コネクタを介して伝達するものである。この場合に回転軸の軸受けとしては焼結合金を使った焼結軸受けや潤滑性を高めたオイルレスメタルを使ったオイルレス軸受けなどの滑り軸受けが構造が簡単であるなどの理由で広く用いられている。
【0003】
焼結軸受けは、焼結合金にオイル(潤滑油)を含浸させたものであるから、回転軸の高速回転時や高負荷時に温度上昇するとメタルに含浸させたオイルが流出しやすくなる。オイルレス軸受けは自己潤滑性を高めた材料を用いた軸受けであり、給油量と給油回数を減らしメンテナンス性を向上させたものであるが、オイルの供給は必要であるから高回転・高負荷時に温度が上昇して、オイルが流出しやすいという問題は残る。このため軸受けの耐久性が低下したり、オイルが流出して周囲に飛散するという問題もある。
【0004】
特許文献1には、オイルレスベアリング10の下方から摩擦熱によって流出するオイルが周囲に飛散するのを防ぐために、オイルレスベアリング10の外周にガイド兼用の放熱部材15を圧入するものが開示されている。ここにはオイルレスベアリング10の外周を囲む軸受8の上部を合成樹脂製の容器6に圧入し固定している。
【0005】
特許文献2には、容器(受容部28)に放熱板48を設け、この放熱板48にオイルレスメタル製の軸受44を固定するものが開示されている。
【0006】
特許文献3には、シールドボールベアリング軸受体231を用いることによって放熱板を不要にすることが開示されている。すなわちボールベアリングの上下にメカニカルシール部233を設けた回転軸部23を、容器部分21の内底に設けたものである。ここに回転軸部23は、この内底とこれに下方から装着される(段落0027、0029)下部軸受収納体部22との間に設けた軸受けの収納部221に固定される。この特許文献3に記載されたものは、ボールベアリングを用いると共に、上下端にメカニカルシールを設けて内部グリスの漏出を防止するから、特許文献1、2のもののような放熱板が不要になり、組み立て工程を簡素化できるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭57−121237
【特許文献2】実開平4−28845
【特許文献3】特開2005−177127
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2に記載されたものは、いずれもオイルレスベアリングを用いるものであり、前記したように高回転・高負荷時における温度上昇によってオイルが飛散したり、オイルの減少によって軸受けの耐久性が下がるという問題がある。
【0009】
特許文献3に記載されたものは、ボールベアリングを用いるから特許文献1、2のような滑り軸受けを用いた場合に比べて温度上昇が少なくなるが、それでも高回転・高負荷で長時間連続運転する場合などには、やはり軸受けのある程度の温度上昇は避けられない。
またこの特許文献3には、回転軸部23は、既存の筒状シールドボールベアリング軸受体231に回転軸232を装着すると共に軸受体231の上下にメカニカルシール部233を付設して、回転軸を上下に突出せしめてなるものである、という説明がある(段落0027)。
【0010】
しかしここでは、容器21の下面に取り付ける下部軸受納体部22に設けた軸受収納部221に前記軸受体231を収納するものであるので、ボールベアリング軸受体231の外輪が直接軸受収納部221の内面に接触して装填されることになる。このため軸受の荷重が直接軸受収納部221に加わることになる。特にこの特許文献3の発明は放熱板を不要にし組み立て工程を簡素化するものであるから、この収納部221を樹脂などで形成するものと考えられ、この場合にはその耐久性が低下する。この結果回転軸232の芯振れが発生し易く、振動や騒音の発生原因となり得る。下部軸受収納体部22をアルミなどの金属製としてその強度と放熱性を増大させることも考えられるが、回転軸の回転時の荷重が繰り返し加わることによりこの下部軸受収納体部22が変形し、ボールベアリングの破損(特にボールの破損や外輪の変形)が発生する。
【0011】
また、回転軸232に固定するベアリング231の固定位置を正確に決めるのが困難であり、このために組み立て性が悪いという問題もあった。すなわちベアリング231を回転軸23に組み付ける(圧入する)のに位置決めが無いために回転軸23に対するベアリング231の高さ設定が難しいからである。
【0012】
さらに2個のベアリング231の上下にメカニカルシール部233を取り付けてから全体を下部軸受け収納体部22の軸受け収納部221に収納し、この状態で下部軸受け収納体部22を上部容器体部21の下面にビス止めするので、組み立て性が悪いという問題もある。すなわちメカニカルシールは、回転軸と一体になった回転環と、固定部(下部軸受け収納体部22および上部容器体部21)に固定された固定環とが、回転軸に垂直な平面で接触したものであって、2つの環はコイルバネによって一定の力で押し付けられているものであるから、構造が複雑で取付が面倒であり大きくなる。
【0013】
この発明はこのような事情に鑑みなされたものであり、転がり軸受けを用いることによって軸受け部の温度上昇を抑え、軸受けを収納する放熱板に加わる荷重によって放熱板が変形するのを防止し、振動や騒音の発生を防いで耐久性を向上させ、さらにベアリングの位置決め精度を良くしつつ組み立て性を向上させることができる電動ミキサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明によればこの目的は、電動モータを収容する本体ケースと、この本体ケースに上方から着脱可能に保持された回転刃保持体と、この回転刃保持体に液密に着脱可能な被加工材収容容器と、前記回転刃保持体を上下方向に貫通するカッタ回転軸とを備え、前記カッタ回転軸の前記被加工材収容容器内に突出する上端にカッタ刃が保持されその前記本体ケース内に突出する下端が回転コネクタを介して前記電動モータの出力軸に着脱可能に係合する電動ミキサにおいて、前記回転軸の外周に形成された位置決め用凸部を上下から挟むように前記カッタ回転軸に固定された上下一対の転がり軸受けと、これら転がり軸受けの外輪に圧入された金属製の円筒状リングと、この円筒状リングが上方から圧入される軸受け収容部が形成された放熱板と、前記回転刃保持体と放熱板の前記軸受け収容部に臨む位置にそれぞれ保持されその内周リップ部が前記回転軸に接触する上下一対のオイルシールとを備えることを特徴とする電動ミキサ、により達成される。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、カッタ回転軸の外周に設けた位置決め用凸部を上下から挟むように一対の転がり軸受けの内輪を回転軸に圧入するから、それぞれの軸受けはこの凸部によって位置決めされ、位置決め精度が向上する。また2つの軸受けの外輪は金属製の円筒状リングに圧入固定され、この円筒状リングを放熱板の軸受収容部に圧入するので、転がり軸受けの熱と軸受けの加重は円筒状リングで分散されて放熱板に加わることになる。このため放熱性がよくなり、放熱板の変形が防止され、振動や騒音の発生が防止されて耐久性が向上する。
またオイルシールを用いるので構成が単純で装着が容易になる。このオイルシールは軸受け収容部の底面と回転刃保持体とにそれぞれ予め保持しておき、この状態で、軸受けと、回転軸と、円筒状リングとの予備組立体を軸受け収容部に収容するものであるから、組み立てが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例の外観を示す正面図(A)と右側面図(B)
【図2】同じく軸受け部の分解斜視図
【図3】全体の分解斜視図
【図4】回転軸保持体の分解斜視図
【図5】回転刃保持体の平面図
【図6】図5におけるVI−VI線断面図
【図7】回転刃保持体の底面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
転がり軸受けは、ボール軸受けが好ましいが(請求項2)、本発明はこれに限定されない。例えばニードル軸受け、テーパー軸受けなどであっても良い。凸部は、カッタ回転軸の外周に機械加工(転造、切削など)によって一体に形成した環状の凸部とするのが良いが(請求項3)、カッタ回転軸に加工した環状溝に別体のフランジ状部材(Eリングや、環状の板バネなど)を固定しても良い。また凸部は回転軸の外周から径方向に突出するピンであってもよい。放熱板は熱伝導性が良いアルミ製とするのが望ましいが(請求項4)、これに限られないのは勿論である。
【0018】
オイルシールは、シールリップとなる高弾性ゴムと外周側に組み込んだ金属環とを一体化したものであるから、その外周側をオイルシールの収容部に圧入などによって予め固定し、さらに軸受けと回転軸と円筒状リングとを一体化した予備組み立て体を、軸受け収容部に装填して放熱板を回転刃保持体に固定するようにすれば組み立て性が一層向上する(請求項6)。
【実施例1】
【0019】
図1、2、3おいて、符号10はほぼ円柱状の本体、12はこの本体10の上面に形成した装填室10Aに装填される回転刃保持体となるカッター容器、14はこのカッター容器12に上方から液密に螺着される被加工材収容容器となるガラス容器、16はこのガラス容器14に被冠されるスイッチカバーである。ガラス容器14の開口付近の外周にはねじ山14Aが形成され、カッター容器12をこのねじ山14Aから外して(螺脱して)、ここに被加工材である食品材料を入れ、これに上下逆向きにしたカッター容器12で蓋をする。すなわちカッター容器12を回して、液密に締め付ける。図2、4、6に示す符号18は、ガラス容器14の開口縁が押圧される防水リングである。この状態で、ガラス容器14とカッター容器12の全体を上下反転させ、カッター容器12を本体10の装填室10Aに挿入する。
【0020】
本体10内には電動モータ20が収容され、このモータ20のモータ出力軸20Aは装填室10A内の中心から上方に垂直に突出している。前記カッター容器12には、このモータ出力軸20Aと同軸上に位置するカッター回転軸22が後記する軸受けによって回転自在に保持されている。なおカッター容器12の外周には装填室10Aに設けた3つの縦溝10Bに係合する3つの縦長の突起12Aが形成され、これら縦溝10Bと突起12Aとが係合することにより、カッタ容器12の回転が規制されている。
【0021】
カッター回転軸22はカッター容器12を上下方向に貫通し、その下端とモータ出力軸20とは、回転コネクタ24(24A、24B)を介して着脱可能かつ回転伝達可能に連結される。カッター回転軸22の上端には、カッター刃26が固定されている。このカッター刃26は電動モータ20により回転駆動され、ガラス容器14内の被加工材をカットする。
【0022】
前記スイッチカバー16は、その下縁の一部に略嘴状の嘴状部16Aが形成され、ガラス容器14に被された状態でこの嘴状部16Aの内側に収容された爪(図示せず)が、本体10の上縁に設けたスイッチ孔10C(図3)に進入する。そして、スイッチカバー16はスイッチの復帰バネによって上方への復帰習性が付され、スイッチカバー16を復帰バネに抗して手で押し下げれば、スイッチがオンになり、電動モータ20が始動する。スイッチカバー16を押し下げるのを止めれば、スイッチカバー16が上方に復帰して、スイッチがオフになる。従ってモータ20は停止する。
【0023】
次にカッタ回転軸22の軸受け構造を説明する。この軸受けは図4、6に示すように、カッタ回転軸22の中央付近に位置決め用の環状凸部30が形成され、この環状凸部30を両側から挟むように上下一対のボール軸受け32、32が圧入されて固定されている。すなわちボール軸受け32、32の内輪が、このカッタ回転軸22に圧入されている。これらのボール軸受け32、32の外輪には、金属製(ステンレスなど)の円筒状リング34が圧入されて固定されている。
【0024】
36は放熱板である。この放熱板36はアルミニウムなどの熱伝導性が良い金属で作られ、カッタ容器12の下面にビス(タッピングネジ)38(図6、7)で固定される。放熱板36の中央には軸受け収容部40が下方に膨出するように形成され、ここに前記円筒状リング34が圧入固定されている。この軸受け収容部40の内周面には、円筒状リング34の下縁が係止される段部42が形成され、この段部42の下方の底部には円筒状リング34の外径よりも小径の下オイルシール収容部44が形成されている。ここには下オイルシール46が圧入固定されている。
【0025】
またカッタ容器12の中央底部には、上方に膨出する上オイルシール収容部48が形成されている。この上オイルシール収容部48には上オイルシール50が固定されている。上下のオイルシール46、50は、シールリップとなる高弾性ゴムとその外周側に組み込んだ金属環とを一体化したものであり、その外周側がそれぞれの収容部48、44に圧入などによって予め固定されている。なおカッタ容器12の下面と放熱板36の間には、軸受け収容部40より大径のOリング52が挟持され、ボール軸受け32の潤滑オイルの流出を防いでいる。
【0026】
この軸受け部の組み立ての際には、放熱板36をカッタ容器12に固定する前に、予めカッタ回転軸22と、ボール軸受け32、32と、円筒状リング34とを予め組み立てた予備組み立て体を準備し、また上下のオイルシール収容部48、44にそれぞれオイルシール50、46を装填しておく。そして、この予備組み立て体を、放熱板36の軸受け収容室40に圧入固定してから、カッタ回転軸22の両端をカッタ容器12側のオイルシール50と放熱板36側のオイルシール46に位置合わせしつつ、この放熱板36をカッタ容器12の下面に密着させる。この時これらの間にOリング52を挟んでおく。放熱板36を位置決めしてビス38で固定すればよい。
【符号の説明】
【0027】
10 本体
12 カッター容器(回転刃保持体)
14 ガラス容器(被加工材収容容器)
20 電動モータ
22 カッタ回転軸(回転軸)
24 回転コネクタ
26 カッタ刃
30 環状突起
32 ボール軸受け
34 円筒状リング
36 放熱板
40 軸受け収容部
42 段部
44 下オイルシール収容部
46 下オイルシール
48 上オイルシール収容部
50 上オイルシール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータを収容する本体ケースと、この本体ケースに上方から着脱可能に保持された回転刃保持体と、この回転刃保持体に液密に着脱可能な被加工材収容容器と、前記回転刃保持体を上下方向に貫通するカッタ回転軸とを備え、前記カッタ回転軸の前記被加工材収容容器内に突出する上端にカッタ刃が保持されその前記本体ケース内に突出する下端が回転コネクタを介して前記電動モータの出力軸に着脱可能に係合する電動ミキサにおいて、
前記回転軸の外周に形成された位置決め用凸部を上下から挟むように前記カッタ回転軸に固定された上下一対の転がり軸受けと、これら転がり軸受けの外輪に圧入された金属製の円筒状リングと、この円筒状リングが上方から圧入される軸受け収容部が形成された放熱板と、前記回転刃保持体と放熱板の前記軸受け収容部に臨む位置にそれぞれ保持されその内周リップ部が前記回転軸に接触する上下一対のオイルシールとを備えることを特徴とする電動ミキサ。
【請求項2】
転がり軸受けはボール軸受けである請求項1の電動ミキサ。
【請求項3】
凸部はカッタ回転軸に一体形成されている環状凸部である請求項1の電動ミキサ。
【請求項4】
放熱板はアルミニューム製である請求項1又は2の電動ミキサ。
【請求項5】
軸受け収容部は、放熱板の回転刃保持体の下面より下方に突出するように形成され、軸受け収容部の内面には、円筒状リングの下縁が係止される段部と、前記円筒状リングの外径より小径であってこの段部より下方に膨出する下オイルシール収容部が形成され、回転刃保持体には、上方に膨出する上オイルシール収容部が形成され、前記下オイルシール収容部に下オイルシールが圧入固定され、前記上オイルシール収容部に上オイルシールが圧入固定されている請求項1の電動ミキサ。
【請求項6】
カッタ回転軸と、転がり軸受けと、円筒状リングとを予め組立てた予備組立て体が、放熱板の軸受け収容部に装填されている請求項5の電動ミキサ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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