説明

電動圧縮機

【課題】騒音の発生を抑制しつつ、駆動回路からの漏電を確実に防止できる電動圧縮機を提供する。
【解決手段】電動圧縮機1は、冷媒を圧縮する圧縮機構4と、圧縮機構4を作動させるモータ機構5と、電源に接続されてモータ機構5を駆動する駆動回路6と、内側ハウジング10と、外側ハウジング20とを備える。内側ハウジング10は、圧縮機構4及びモータ機構5を密閉状態で収容するとともに駆動回路6を保持する。外側ハウジング20は、内側ハウジング10を収容し、外部への取付部29が形成されている。内側ハウジング10と外側ハウジング20との間、及び駆動回路6と外側ハウジング20との間には、防振性及び断熱性を有する中間材31、32が設けられている。外側ハウジング20には、外部から加えられる衝撃から駆動回路6を保護する保護部21が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電動圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の電動圧縮機が開示されている。この電動圧縮機は、車両に搭載されて空調装置を構成するものである。この電動圧縮機は、特許文献1の図3等に示されているように、エンジンへの取付部が形成されたハウジングと、ハウジング内に設けられ、ハウジングの外部から冷媒を吸入し、圧縮してハウジングの外部に吐出する圧縮機構と、ハウジング内に設けられ、圧縮機構を作動させるモータ機構と、電源に接続されてモータ機構を駆動する駆動回路とを備えている。
【0003】
ハウジングの外部には、駆動回路が保持されている。また、ハウジングの外部には、突起部がエンジン側に突出するように設けられている。
【0004】
上記構成である従来の電動圧縮機では、車両衝突時に、取付部が破損してハウジングがエンジンに接近する場合でも、駆動回路がエンジンと干渉するより先に、突起部がエンジンに干渉するようになっている。これにより、この電動圧縮機は、駆動回路の破損を抑制して、駆動回路からの漏電の防止を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−103100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記従来の電動圧縮機では、駆動回路からの漏電を確実に防止するため、駆動回路を覆う板状のプロテクタをハウジングの外部に取り付ける場合がある。しかしながら、この場合、プロテクタがハウジング内の圧縮機構及び圧縮機構からの振動により共振して、騒音の発生源となるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、騒音の発生を抑制しつつ、駆動回路からの漏電を確実に防止できる電動圧縮機を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電動圧縮機は、冷媒を圧縮する圧縮機構と、前記圧縮機構を作動させるモータ機構と、電源に接続されて前記モータ機構を駆動する駆動回路とを備えた電動圧縮機において、
前記圧縮機構及び前記モータ機構を密閉状態で収容するとともに前記駆動回路を保持する内側ハウジングと、前記内側ハウジングを収容し、外部への取付部が形成された外側ハウジングとを備え、
前記内側ハウジングと前記外側ハウジングとの間、及び前記駆動回路と前記外側ハウジングとの間には、防振性及び断熱性を有する中間材が設けられ、
前記外側ハウジングには、外部から加えられる衝撃から前記駆動回路を保護する保護部が設けられていることを特徴とする(請求項1)。
【0009】
本発明の電動圧縮機では、圧縮機構及びモータ機構を密閉状態で収容する内側ハウジングと外側ハウジングとの間には、防振性及び断熱性を有する中間材が設けられている。このため、この電動圧縮機は、中間材が防振性を有することにより、圧縮機構及びモータ機構からの振動及び騒音が内側ハウジングから外側ハウジング及びその外部に伝達することを抑制できる。また、この電動圧縮機は、中間材が断熱性を有して熱を移動し難いものであるため、圧縮機構により圧縮されて高温高圧となった冷媒の熱が内側ハウジングから中間材及び外側ハウジングに奪われ難い。このため、この電動圧縮機は、冷媒の熱量が低下し難く、例えばヒートポンプとして用いた場合でも、暖房用の熱交換器において、十分な暖房能力を発揮することができる。
【0010】
ここで、この電動圧縮機において、駆動回路と外側ハウジングとの間には、防振性及び断熱性を有する中間材が設けられている。また、外側ハウジングには、外部から加えられる衝撃から駆動回路を保護する保護部が設けられている。このため、例えば、この電動圧縮機が搭載された車両の衝突時に、この電動圧縮機に周囲の他の物体が干渉したとしても、保護部により、他の物体が駆動回路に影響を及ぼすことを抑制できる。また、中間材によって駆動回路への衝撃を抑制できる。その結果、この電動圧縮機は、駆動回路の破損を抑制でき、駆動回路からの漏電を確実に防止できる。
【0011】
また、この電動圧縮機では、外側ハウジングに設けられた保護部と、内側ハウジング内に収容された圧縮機構及び圧縮機構との間に中間材が介在している。このため、中間材が防振性を有することにより、圧縮機構及びモータ機構からの振動及び騒音が保護部に伝達することを抑制できる。その結果、この電動圧縮機は、保護部が圧縮機構及びモータ機構からの振動により共振することを抑制でき、保護部が騒音の発生源となることを防止できる。
【0012】
したがって、本発明の電動圧縮機は、騒音の発生を抑制しつつ、駆動回路からの漏電を確実に防止できる。
【0013】
保護部は、外側ハウジングにおける駆動回路近傍に設けられていることが好ましい(請求項2)。この場合、駆動回路近傍に設けられた保護部により、確実に駆動回路を保護できる。
【0014】
保護部は、厚肉部であることが好ましい(請求項3)。この場合、外側ハウジングの成形時に、容易に保護部を形成できる。また、例えば、外側ハウジングに設けられたボスに対して、保護部をボルトにより固定する場合と比較して、ボスやボルトが不要となり、外側ハウジングの簡素化及び部品点数の削減を実現できるとともに、保護部がエンジン等の車両側からの振動により共振して騒音の発生源となることも防止できる。
【0015】
上記の場合において、厚肉部は、外側ハウジングにおける径外方向又は径内方向に突出していることが好ましい(請求項4)。外側ハウジングにおける径外方向に厚肉部が突出した場合、外側ハウジングの内側の形状を簡素化でき、内側ハウジングとの組み付け作業が簡素化できる。また、外側ハウジングにおける径内方向に厚肉部が突出した場合、外側ハウジングの外側の形状を簡素化でき、電動圧縮機を車両等へ搭載する際に、他の部品への干渉が低減される。
【0016】
保護部は、外側ハウジングに一体に設けられ、外側ハウジングより硬い高強度部材からなることが好ましい(請求項5)。この場合も、外側ハウジングの成形時に、容易に保護部を形成できる。また、例えば、外側ハウジングに設けられたボスに対して、保護部をボルトにより固定する場合と比較して、ボスやボルトが不要となり、外側ハウジングの簡素化及び部品点数の削減を実現できるとともに、保護部がエンジン等の車両側からの振動により共振して騒音の発生源となることも防止できる。
【0017】
高強度部材は、外側ハウジングに埋設されていることが好ましい(請求項6)。この場合、外側ハウジングに対して高強度部材を確実に一体化でき、欠落を防止できる。
【0018】
高強度部材は、外側ハウジングの内壁面又は外壁面に貼り付けられていることが好ましい(請求項7)。この場合、外側ハウジングに対して高強度部材を容易に一体化できる。
【0019】
高強度部材は、取付部を一体に有していることが好ましい(請求項8)。この場合、外側ハウジングに設けられる取付部が高強度部材により構成されるので、取付部の破損を確実に防止できる。
【0020】
外側ハウジングは、樹脂又は繊維強化樹脂製であることが好ましい(請求項9)。この場合、外側ハウジングは、防振性及び断熱性を発揮し易くなるので、本発明の作用効果をより確実に奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例1の電動圧縮機が適用される空調装置の模式図である
【図2】実施例1の電動圧縮機の模式断面図である。
【図3】実施例2の電動圧縮機の模式断面図である。
【図4】実施例3の電動圧縮機の模式断面図である。
【図5】変形例の電動圧縮機の模式断面図である。
【図6】変形例の電動圧縮機の模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を電動圧縮機に具体化した実施例1〜3を図面を参照しつつ説明する。
【0023】
(実施例1)
図1に示すように、実施例1の電動圧縮機1は、車両に搭載されて車室内の温度調整を行う空調装置に適用されている。この空調装置は、電動圧縮機1と、方向切替弁91と、外気用熱交換器92と、膨張弁93と、車室用熱交換器94とにより構成されている。
【0024】
図2に示すように、電動圧縮機1は、圧縮機構4と、モータ機構5と、駆動回路6とを備えている。また、この電動圧縮機1は、圧縮機構4及びモータ機構5を密閉状態で収容する内側ハウジング10と、内側ハウジング10を収容する外側ハウジング20とを備えている。内側ハウジング10及び外側ハウジング20の具体的構成については、後で詳しく説明する。
【0025】
圧縮機構4は、内側ハウジング10を構成する第1ハウジング11の内周面11Bに固定された固定スクロール4Aと、固定スクロール4Aに対向配置された可動スクロール4Bとで構成されている。固定スクロール4Aと可動スクロール4Bとは、噛合して両者間に圧縮室4Cを形成している。第1ハウジング11内には、駆動軸5Aが収容されている。駆動軸5Aは、その先端部(図2の紙面右側)が先端側軸受装置5Bに回転可能に支持され、その後端部(図2の紙面左側)が後端側軸受装置5Cに回転可能に支持されている。
【0026】
モータ機構5は、圧縮機構4よりも第1ハウジング11の内底面11D側に配置されている。第1ハウジング11の内周面11Bにはステータ5Dが固定されている。ステータ5Dには、図示しない駆動回路から三相電流が供給されるようになっている。ステータ5Dの内側には駆動軸5Aに固定されたロータ5Eが設けられている。ロータ5Eは、ステータ5D内でステータ5Dに供給される電流によって回転駆動されるようになっている。駆動軸5A、ステータ5D及びロータ5Eによってモータ機構5が構成されている。
【0027】
駆動回路6は、周知のインバータ回路であるので、図示及び説明は簡略する。駆動回路6は、コンデンサ等の高電圧部品から構成されており、車両に搭載された図示しない電源に接続されて、モータ機構5を駆動する。この際、駆動回路6は、電源から供給される直流電力を任意の周波数の交流電力に変換してモータ機構5に供給することにより、モータ機構5の回転数を制御する。
【0028】
図1及び図2に示すように、モータ機構5が駆動回路6によって駆動されて回転し、圧縮機構4を作動させると、圧縮機構4は、吸入配管95を介して内側ハウジング10の外部から冷媒を吸入し、圧縮する。そして、圧縮機構4は、圧縮した冷媒を吐出配管96を介して内側ハウジング10の外部に吐出する。
【0029】
図1に示すように、方向切替弁91は、吸入配管95及び吐出配管96を介して、電動圧縮機1に接続されている。また、方向切替弁91は、配管97を介して外気用熱交換器92と接続されている。さらに、方向切替弁91は、配管99を介して車室用熱交換器94と接続されている。膨張弁93は、配管98Aを介して外気用熱交換器92と接続されている。また、膨張弁93は、配管98Bを介して車室用熱交換器94と接続されている。
【0030】
車両に搭載された図示しない制御部に制御されて、方向切替弁91が吐出配管96と配管97とを連通させ、吸入配管95と配管99とを連通させると、電動圧縮機1から吐出配管96を介して吐出される冷媒は、図1に示す方向D1に沿って流れる。その一方、方向切替弁91が吐出配管96と配管99とを連通させ、吸入配管95と配管97とを連通させると、電動圧縮機1から吐出配管96を介して吐出される冷媒は、図1に示す方向D2に沿って流れる。
【0031】
外気用熱交換器92、車室用熱交換器94及び膨張弁93は周知の構成であるので、図示及び説明は簡略する。外気用熱交換器92は、外気に対する放熱又は吸熱を行うものである。車室用熱交換器94は、車室内の空気に対する放熱又は吸熱を行うものである。
【0032】
次に電動圧縮機1の内側ハウジング10及び外側ハウジング20について詳しく説明する。内側ハウジング10と外側ハウジング20との間には、中間材31、32が設けられている。
【0033】
図2に示すように、内側ハウジング10は、圧縮機構4及びモータ機構5を密閉状態で収容する密閉空間10Aを有している。内側ハウジング10は、一つの部材からなっていてもよいし、互いに組み合わされて密閉空間10Aを区画する複数の部材からなっていてもよい。本実施例では、内側ハウジング10は、後端側(図2の紙面左側)が開口する第1ハウジング11と、第1ハウジング11の後端側を閉塞する第2ハウジング12とからなり、圧縮機構4及びモータ機構5が並ぶ方向に長い略筒形状とされている。なお、内側ハウジング10は、圧縮機構4及びモータ機構5から発生する振動及び熱や、高温高圧となる冷媒等に対する耐久性を確保するため、鉄材やアルミ材等の金属材料製とすることが好ましい。
【0034】
圧縮機構4及びモータ機構5は、焼き嵌め、圧入、ボルト締結と言った周知の固定構造で密閉空間10A内に固定されている。このような固定構造は、高い剛性で圧縮機構4及びモータ機構5を固定する半面、圧縮機構4及びモータ機構5の振動及び騒音を減衰し難くなっている。その結果、圧縮機構4及びモータ機構5の振動及び騒音は、内側ハウジング10に伝達され易くなっている。また、圧縮機構4及びモータ機構5から伝達される熱も、内側ハウジング10に伝達し易くなっている。
【0035】
第1ハウジング11の内底面11Dには、吸入口15が貫設されている。そして、吸入口15には、吸入部材50が固定されている。密閉空間10A内において、吸入口15と圧縮機構4との間には、図示しない冷媒供給経路が設けられている。
【0036】
第1ハウジング11と第2ハウジング12との間には、吐出室4Dが区画形成されている。第2ハウジング12の内底面12Dには、吐出口16が貫設されている。そして、吐出口16には、吐出部材60が固定されている。
【0037】
吸入部材50及び吐出部材60は、周知の管継ぎ手である。吸入部材50には、吸入配管95が接続されている。吐出部材60には、吐出配管96が接続されている。
【0038】
外側ハウジング20は、圧縮機構4及びモータ機構5が並ぶ方向に長い略筒形状とされており、その内部に内側ハウジング10を収容している。外側ハウジング20の長手方向の両端は開放されており、その両端から、吸入部材50及び吐出部材60をそれぞれ外部に突出させている。吸入部材50及び吐出部材60は、外側ハウジング20と非接触状態とされている。
【0039】
外側ハウジング20の外壁面20Cには、径外方向にブロック状に突出する外部への取付部29が複数形成されている。取付部29には、外側ハウジング20の長手方向と平行な貫通穴29Aが貫設されている。取付部29が取り付けられる車両のフレームやエンジン等の対象物9には、取付部29と係合する複数の係合部8が凸設されている。取付部29が係合部8と係合した状態でボルト9Aが螺入されることにより、電動圧縮機1が対象物9に固定される。取付部29、係合部8及びボルト9Aによる締結構造は、高い剛性で外側ハウジング20を対象物9に固定する半面、外側ハウジング20から対象物9に伝達される振動及び騒音を減衰し難くなっている。なお、外側ハウジング20は、鉄材やアルミ材等の金属材料製であってもよいし、樹脂材料製又は繊維強化樹脂材料製であってもよい。
【0040】
中間材31、32は、外側ハウジング20の内壁面20Bと、内側ハウジング10を構成する第1ハウジングの外壁面11Cとの隙間に配設されている。
【0041】
中間材31と中間材32とは異なる材料からなっている。すなわち、中間材31は、防振性を有する材料、例えば、ゴム、エラストマー、樹脂、繊維強化樹脂、シリコンゲル等からなる。本実施例では、中間材31はゴム製の環状体、いわゆるOリングである。中間材31は、内側ハウジング10及び外側ハウジング20における長手方向の一端側と他端側とに配設されている。中間材31は、外側ハウジング20の内壁面20Bと、内側ハウジング10の外壁面11Cとの隙間に圧縮変形した状態で装着されている。これにより、中間材31は、外側ハウジング20内で内側ハウジング10を支持している。
【0042】
その一方、中間材32は、断熱性を有する材料、例えば、グラスウール等の繊維集合体、発泡材、セルロースファイバー、真空断熱材等からなる。本実施例では、中間材32はグラスウール製の肉厚シート状体である。中間材32は、内側ハウジング10の外壁面11Cに巻き付けられて、外側ハウジング20の内壁面20Bと、内側ハウジング10の外壁面11Cとの隙間に充填されている。これにより、中間材32は、外側ハウジング20内で内側ハウジング10を補助的に支持している。
【0043】
第1ハウジング11の外壁面11Cには、駆動回路6が保持されている。例えば、駆動回路6は、第3ハウジング13に収容され、第3ハウジング13が外壁面11Cに図示しないボルト等により締結されることにより、外壁面11Cに保持され得る。また、例えば、駆動回路6は、第1ハウジング11の外壁面11Cに形成された図示しない凹部に収納され、さらに、その凹部が図示しない蓋により塞がれることにより、外壁面11Cに保持され得る。
【0044】
駆動回路6は、第1ハウジング11の外壁面11Cから外側ハウジング20の内壁面20Bに向かって膨出している。駆動回路6と、外側ハウジング20の内壁面20Bとの間には隙間が確保されており、その隙間にも中間材32が充填されている。
【0045】
外側ハウジング20における駆動回路6近傍には、外側ハウジング20の本体28より肉厚が厚い厚肉部21が形成されている。厚肉部21は、本体28から台形状に突出している。図示は省略するが、外側ハウジング20の外部から外側ハウジング20の径内方向に向かって駆動回路6を見た場合に、厚肉部21は、少なくとも駆動回路6全体を覆う程度に大きく形成されている。これにより、厚肉部21は、本体28より強度が高くなっており、駆動回路6を保護している。厚肉部21は、本発明の保護部に相当する。
【0046】
このような構成である実施例1の電動圧縮機1が適用された空調装置は、以下のように、車室内の温度調整を行う。
【0047】
図1に示すように、車室内の冷房を行う場合、方向切替弁91は、吐出配管96と配管97とを連通させ、吸入配管95と配管99とを連通させる。そうすると、圧縮機構4により圧縮されて高温高圧となった冷媒は、方向D1に沿って流れて、外気用熱交換器92において外気に対して放熱して液化する。そして、冷媒は、膨張弁93において圧力が下げられる。その後、冷媒は、車室用熱交換器94において車室内の空気に対して吸熱して蒸発する。その結果、車室内の空気が冷却される。そして、冷媒は、配管99、方向切替弁91及び吸入配管95を介して、電動圧縮機1に戻される。
【0048】
その一方、車室内の暖房を行う場合、方向切替弁91は、吐出配管96と配管99とを連通させ、吸入配管95と配管97とを連通させる。そうすると、圧縮機構4により圧縮されて高温高圧となった冷媒は、方向D2に沿って流れて、車室用熱交換器94において車室内の空気に対して放熱して液化する。その結果、車室内の空気が加熱される。その後、冷媒は、膨張弁93において圧力が下げられる。そして、冷媒は、車外気用熱交換器92において外気に対して吸熱して蒸発する。その後、冷媒は、配管97、方向切替弁91及び吸入配管95を介して、電動圧縮機1に戻される。
【0049】
このように動作する電動圧縮機1において、圧縮機構4及びモータ機構5は、内側ハウジング10に対して高い剛性で固定されている。また、取付部29、係合部8及びボルト9Aは、外側ハウジング20を対象物9に対して高い剛性で固定している。このため、仮に、内側ハウジング10と外側ハウジング20との間で振動及び騒音の伝達を抑制することができない場合、圧縮機構4及びモータ機構5からの振動及び騒音が内側ハウジング10及び外側ハウジング20を介して、対象物9まであまり減衰することなく伝達され、ひいては車室内環境の快適性が阻害され易くなる。また、仮に、内側ハウジング10と外側ハウジング20との間で熱の伝達を抑制することができない場合、圧縮機構4により圧縮されて高温高圧となった冷媒の熱が外側ハウジング20に奪われてしまう。
【0050】
この点、この電動圧縮機1では、内側ハウジング10と外側ハウジング20との間に、防振性及び断熱性を有する中間材31、32が設けられている。このため、この電動圧縮機1は、中間材31が防振性を有することにより、圧縮機構4及びモータ機構5からの振動及び騒音が内側ハウジング10から外側ハウジング20及び対象物9に伝達することを抑制できる。この際、グラスウール製である中間材32も、内側ハウジング10から外側ハウジング20に振動及び騒音を伝達し難い。
【0051】
また、この電動圧縮機1は、中間材32が断熱性を有して熱を移動し難いものであるため、圧縮機構4により圧縮されて高温高圧となった冷媒の熱が内側ハウジング10から中間材32及び外側ハウジング20に奪われ難い。この際、ゴム製である中間材31も、冷媒の熱を奪い難い。このため、この電動圧縮機1は、吸入される冷媒及び吐出される冷媒の熱量が低下し難い。このため、この電動圧縮機1は、図1に示すように、冷媒を方向D2に沿って流すことにより、ヒートポンプとして車室内の暖房に用いた場合でも、車室用熱交換器94に流れる冷媒の温度を高くすることができる。その結果、車室用熱交換器94において車室内の空気に対してより効果的に放熱することができ、十分な暖房能力を発揮することができる。
【0052】
ここで、実施例1の電動圧縮機1において、駆動回路6と外側ハウジング20との間には、中間材32が設けられている。また、外側ハウジング20は、駆動回路6を保持する内側ハウジング10を収容するとともに、外部からの衝撃から駆動回路6を保護する厚肉部21を有している。厚肉部21は、外側ハウジング20における駆動回路6近傍に設けられている。このため、図2に示すように、例えば、車両の衝突時等に、この電動圧縮機1に周囲の他の物体F、例えばエンジン等が干渉したとしても、厚肉部21が駆動回路6を確実に保護することにより、物体Fが駆動回路6に影響を及ぼすことを抑制できる。また、中間材32によって駆動回路6への衝撃を抑制できる。その結果、この電動圧縮機1は、駆動回路6を構成する高電圧部品等の破損を抑制でき、駆動回路6からの漏電を確実に防止できる。
【0053】
また、この電動圧縮機1では、外側ハウジング20が有する厚肉部21と、内側ハウジング10に収容された圧縮機構4及び圧縮機構5との間に中間材31、32が介在している。このため、中間材31が防振性を有することにより、圧縮機構4及びモータ機構5からの振動及び騒音が厚肉部21に伝達することを抑制できる。その結果、この電動圧縮機1は、厚肉部21が圧縮機構4及びモータ機構5からの振動により共振することを抑制でき、厚肉部21が騒音の発生源となることを防止できる。
【0054】
したがって、実施例1の電動圧縮機1は、騒音の発生を抑制しつつ、駆動回路6からの漏電を確実に防止できる。
【0055】
また、この電動圧縮機1では、外側ハウジング20の成形時に、外壁面20Cに凹凸を設けるだけで厚肉部21を容易に形成できる。このため、この電動圧縮機1は、外側ハウジング20に別体の保護部を固定する場合と比較して、外側ハウジング20の簡素化及び部品点数の削減を実現できる。また、この電動圧縮機1では、外側ハウジング20に別体の保護部を固定する場合と比較して、外側ハウジング20に一体に形成された厚肉部21がエンジン等の車両側からの振動により共振し難く、騒音の発生源となり難い。
【0056】
さらに、厚肉部21は、外側ハウジング20における径外方向に突出しているので、外側ハウジング20の内側の形状を簡素化でき、内側ハウジング10との組み付け作業が簡素化できる。
【0057】
(実施例2)
図3に示すように、実施例2の電動圧縮機2では、実施例1における厚肉部21内に高強度部材22が設けられている。その他の構成は、実施例1の電動圧縮機1と同様である。このため、実施例1の電動圧縮機1と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略又は簡略する。
【0058】
高強度部材22は、外側ハウジング20を構成する材料よりも強度が優れる材料からなる略板状部材である。例えば、外側ハウジング20が鉄材やアルミ材等の金属材料製であれば、高強度部材22は、それらの材料よりも強度が優れる鋼材や合金等の高強度材料からなり得る。そして、この場合、高強度部材22は、鋳込みにより外側ハウジング20の本体28に一体に設けられる。また、例えば、外側ハウジング20が樹脂材料製であれば、高強度部材22は、それらの材料よりも強度が優れる繊維強化樹脂材料や金属材料等からなり得る。そして、この場合、高強度部材22は、インサート成形により外側ハウジング20の本体28に一体に設けられる。本実施例では、高強度部材22全体が外側ハウジング20に囲われるように一体化されることにより、高強度部材22が外側ハウジング20に埋設されている。
【0059】
図示は省略するが、外側ハウジング20の外部から外側ハウジング20の径内方向に向かって駆動回路6を見た場合に、高強度部材22は、少なくとも駆動回路6全体を覆う程度に大きく形成されている。これにより、外側ハウジング20における高強度部材22が設けられた部分は、外側ハウジング20の本体28より強度が高くなっている。こうして、高強度部材22も、駆動回路6を保護している。高強度部材22も、厚肉部21と同様、本発明の保護部に相当する。
【0060】
上記構成である実施例2の電動圧縮機2は、実施例1の電動圧縮機1と同様、厚肉部21及び高強度部材22により、騒音の発生を抑制しつつ、駆動回路6からの漏電を確実に防止できる。
【0061】
さらに、高強度部材22は、外側ハウジング20に埋設されて、一体化されている。このため、外側ハウジング20に対して高強度部材22を確実に一体化でき、欠落を防止できる。また、この電動圧縮機2は、外側ハウジング20に別体の保護部を固定する場合と比較して、外側ハウジング20の簡素化及び部品点数の削減を実現できる。また、この電動圧縮機2では、外側ハウジング20に別体の保護部を固定する場合と比較して、外側ハウジング20に一体化された高強度部材22がエンジン等の車両側からの振動により共振し難く、騒音の発生源となり難い。
【0062】
さらに、高強度部材22について、駆動回路6を保護できる強度を確保しつつ、薄くすることにより、厚肉部21の肉厚を本体28の肉厚に近付けることや、厚肉部21を無くすことができる。その結果、この電動圧縮機2は、実施例1の電動圧縮機1と比較して、外側ハウジング20の外形が大きくなることを抑制できる。
【0063】
(実施例3)
図4に示すように、実施例3の電動圧縮機3では、実施例1の電動圧縮機1と比較して、内側ハウジング10の外壁面11Cにおける対象物9側に駆動回路6が保持され、外側ハウジング20が樹脂製とされ、厚肉部21及び取付部29が厚肉部23、高強度部材24及び取付部29B、29Cに変更されている。その他の構成は、実施例1の電動圧縮機1と同様である。このため、実施例1の電動圧縮機1と同一の構成については、同一の符号を付して説明を省略又は簡略する。
【0064】
樹脂製の外側ハウジング20において、外壁面11Cにおける対象物9側に保持された駆動回路6近傍には、外側ハウジング20の本体28より肉厚が厚い厚肉部23が形成されている。厚肉部23は、本体28から台形状に突出している。図示は省略するが、外側ハウジング20の外部から外側ハウジング20の径内方向に向かって駆動回路6を見た場合に、厚肉部23は、少なくとも駆動回路6全体を覆う程度に大きく形成されている。これにより、厚肉部23は、本体28より強度が高くなっており、駆動回路6を保護している。厚肉部23も、本発明の保護部に相当する。
【0065】
厚肉部23内には、高強度部材24が設けられている。高強度部材24は、樹脂よりも強度が優れる繊維強化樹脂材料や金属材料等からなる略板状部材である。そして、高強度部材24は、インサート成形により外側ハウジング20の本体28に一体に設けられる。図示は省略するが、外側ハウジング20の外部から外側ハウジング20の径内方向に向かって駆動回路6を見た場合に、高強度部材24は、少なくとも駆動回路6全体を覆う程度に大きく形成されている。これにより、外側ハウジング20における高強度部材24が設けられた部分は、外側ハウジング20の本体28より強度が高くなっている。こうして、高強度部材24も、駆動回路6を保護している。高強度部材24も、厚肉部23と同様、本発明の保護部に相当する。
【0066】
高強度部材24の一端側には、外側ハウジング20の外壁面20Cから径外方向にブロック状に突出する取付部29Bが一体に形成されている。
【0067】
また、外側ハウジング20の外壁面20Cには、取付部29Bから離れた位置から取付部29Bと同じ方向にブロック状に突出する取付部29Cが一体に形成されている。取付部29C内には、高強度部材24と同一材料からなる保護部29Dがインサート成形されている。
【0068】
取付部29B及び保護部29Dには、上述した貫通穴29Aが貫設されている。そして、取付部29B、29Cは、係合部8と係合した状態でボルト9Aが螺入されることにより、対象物9に固定される。このような取付部29B、29C、係合部8及びボルト9Aによる締結構造は、樹脂製の外側ハウジング20を高い剛性で対象物9を固定することができる。
【0069】
上記構成である実施例3の電動圧縮機3は、実施例1、2の電動圧縮機1、2と同様、厚肉部23及び高強度部材24により、騒音の発生を抑制しつつ、駆動回路6からの漏電を確実に防止できる。
【0070】
また、この電動圧縮機3において、高強度部材24は、取付部29Bを一体に有している。このため、外側ハウジング20に設けられる取付部29Bの強度が向上し、取付部29Bの破損を確実に防止できる。
【0071】
さらに、外側ハウジング20は、本実施例では樹脂製であるので、防振性及び断熱性を発揮し易くなり、本発明の作用効果をより確実に奏することができる。
【0072】
以上において、本発明を実施例1〜3に即して説明したが、本発明は上記実施例1〜3に制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0073】
例えば、実施例1における台形状の厚肉部21の代わりに、外側ハウジング20の外壁面20Cから径外方向に突出する複数のリブを保護部として設けてもよい。また、図5に示すように、外側ハウジング20の内壁面20Bから径内方向に突出する厚肉部21Bを設けてもよい。この場合、外側ハウジング20の外側の形状を簡素化でき、電動圧縮機を車両等へ搭載する際に、他の部品への干渉が低減される。
【0074】
また、実施例1における厚肉部21の代わりに、図6(a)に示すように、外側ハウジング20の外壁面20Cに、本体28より強度が優れる略板形状の高強度部材22Aを保護部として貼り付けてもよい。また、図6(b)に示すように、外側ハウジング20の内壁面20Bに、本体28より強度が優れる略板形状の高強度部材22Bを保護部として貼り付けてもよい。これらの場合、外側ハウジング20に対して、高強度部材22A、22Bを容易に一体化できる。
【0075】
また、取付部29、29B、29C、係合部8及びボルト9Aによる締結構造及び形状は、これに限定されない。電動圧縮機1、2、3が外側ハウジング20に形成された取付部29、29B、29Cによって対象物9に固定できればよい。
【0076】
また、中間材31、32の代わりに、防振性及び断熱性を有する単一部材による中間材を用いていもよい。
【0077】
圧縮機構4は、スクロール式に限らず、往復式、ベーン式その他の周知の圧縮方式を採用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明は、ハイブリッド自動車、電気自動車等の空調装置等に利用可能である。
【符号の説明】
【0079】
1、2、3…電動圧縮機
4…圧縮機構
5…モータ機構
6…駆動回路
10…内側ハウジング
29…取付部
20…外側ハウジング
31、32…中間材
21、21B、22、22A、22B、23、24…保護部(21、21B、23…厚肉部、22、22A、22B、24…高強度部材)
28…外側ハウジングの本体
29、29B、29C…取付部
20B…外側ハウジングの内壁面
20C…外側ハウジングの外壁面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を圧縮する圧縮機構と、前記圧縮機構を作動させるモータ機構と、電源に接続されて前記モータ機構を駆動する駆動回路とを備えた電動圧縮機において、
前記圧縮機構及び前記モータ機構を密閉状態で収容するとともに前記駆動回路を保持する内側ハウジングと、前記内側ハウジングを収容し、外部への取付部が形成された外側ハウジングとを備え、
前記内側ハウジングと前記外側ハウジングとの間、及び前記駆動回路と前記外側ハウジングとの間には、防振性及び断熱性を有する中間材が設けられ、
前記外側ハウジングには、外部から加えられる衝撃から前記駆動回路を保護する保護部が設けられていることを特徴とする電動圧縮機。
【請求項2】
前記保護部は、前記外側ハウジングにおける前記駆動回路近傍に設けられている請求項1記載の電動圧縮機。
【請求項3】
前記保護部は、厚肉部である請求項1又は2記載の電動圧縮機。
【請求項4】
前記厚肉部は、前記外側ハウジングにおける径外方向又は径内方向に突出している請求項3記載の電動圧縮機。
【請求項5】
前記保護部は、前記外側ハウジングに一体に設けられ、前記外側ハウジングより硬い高強度部材からなる請求項1又は2記載の電動圧縮機。
【請求項6】
前記高強度部材は、前記外側ハウジングに埋設されている請求項5記載の電動圧縮機。
【請求項7】
前記高強度部材は、前記外側ハウジングの内壁面又は外壁面に貼り付けられている請求項5記載の電動圧縮機。
【請求項8】
前記高強度部材は、前記取付部を一体に有している請求項5乃至7のいずれか1項記載の電動圧縮機。
【請求項9】
前記外側ハウジングは、樹脂又は繊維強化樹脂製である請求項1乃至8のいずれか1項記載の電動圧縮機

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−211533(P2012−211533A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−77042(P2011−77042)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】