説明

電動圧縮機

【課題】低コストかつ高信頼性の電動圧縮機を提供する。
【解決手段】可動スクロール12と固定スクロール11を備え、前記可動スクロール12と前記固定スクロール11の少なくとも一方の中心部に、前記可動スクロール12と前記固定スクロール11の母材より高強度でかつヤング率の高い材料からなる補強材35が鋳込まれているもので、冷媒圧縮時の荷重により双方一体となって同様の歪が生じると、歪量が同様ではヤング率の高いほうが応力が高くなり、補強材35がより多くの荷重を担う事となるので、補強材35を高強度材とすることで全体の荷重に対する負荷能力が増大し、スクロール中心部の破損を防ぐことが可能となり、低コストの材料においても信頼性の確保が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動圧縮機に関するもので、特に、スクロール方式の電動圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の電動圧縮機として、図4に示すようなものがある(例えば、特許文献1参照)。図4は、上記特許文献1に記載された従来の電動圧縮機の断面図である。
【0003】
図4は、電動圧縮機1の胴部の周りにある取付け脚2によって横向きに設置される横型の電動圧縮機の一例を示しており、電動圧縮機1は、その本体ケーシング3内に電動式モータ5を内蔵し、この本体ケーシング3に、軸方向にボルト締結される圧縮機構部4を駆動する。
【0004】
また、本体ケーシング3内に、圧縮機構部4を含む各摺動部の潤滑に供する液を貯留する貯液部6を備え、電動式モータ5を、モータ駆動回路部101によって駆動するようにしている。取り扱う冷媒はガス冷媒であり、各摺動部の潤滑や圧縮機構部4の摺動部のシールに供する液としては、潤滑油7などの液を採用している。また、潤滑油7は、冷媒に対して相溶性のあるものである。
【0005】
この電動圧縮機1は、ひとつの例として機電一体型のものであり、電動式モータ5は、駆動軸14を介して、可動スクロール12を固定スクロール11に対して円軌道運動させる。
【0006】
図4に示すように、固定鏡板11a、旋回鏡板12aから羽根が立ち上がった固定スクロール11と可動スクロール12とを噛合わせて形成した圧縮空間10は、移動を伴い容積を変化させることにより、外部サイクルから帰還する冷媒の吸入、圧縮および外部サイクルへの吐出を、圧縮機構部4に設けた吸入口8および本体ケーシング3に設けた吐出口9を通じて行う。
【0007】
これに併せ、本体ケーシング3の貯液部6に貯留されている潤滑油7が、容積型ポンプ13などを、駆動軸14にて駆動するか、本体ケーシング3内の差圧を利用するなどして、駆動軸14の給油路15を通じ、可動スクロール12の旋回駆動に伴い、可動スクロール12の背面の液溜り21および液溜り22、図に示す例では、液溜り22に供給し、この液溜り22に供給した潤滑油7の一部は、可動スクロール12の外周部の背面側に、可動スクロール12を通じ絞り23などによる所定の制限の基に供給して可動スクロール12をバックアップしながら、前記潤滑油7を、可動スクロール12を通じ可動スクロール12の羽根における先端の固定スクロール11との間のシール部材の一例であるチップシール24を保持する保持溝25に供給して、固定スクロール11と、可動スクロール12間のシールおよび潤滑を図る。
【0008】
また、液溜り22に供給した潤滑油7の別の一部は、偏心軸受43、液溜り21、主軸受42を経ながら、それら主軸受42、偏心軸受43を潤滑した後、電動式モータ5側に流出し、貯液部6へと回収される。
【0009】
さらに、本体ケーシング3内の軸線方向の一方の端部壁3a側から、容積型ポンプ13、副軸受41、電動式モータ5、主軸受42を持った主軸受部材51を配置してある。容積型ポンプ13は、端部壁3aの外面から収容して、その後に嵌め付けた蓋体52との間
に保持し、蓋体52の内側に、貯液部6に通じるポンプ室53を形成して吸上げ通路54を介して貯液部6に通じるようにしてある。
【0010】
副軸受41は、端部壁3aにて支持し、駆動軸14の容積型ポンプ13に連結している側を軸受するようにしてある。電動式モータ5は、固定子5aを本体ケーシング3に環状部材17によって固定され、駆動軸14の途中まわりに固定した回転子5bとによって駆動軸14を回転駆動できるようにしている。
【0011】
主軸受部材51は、本体ケーシング3の開口端に嵌合され、前記固定スクロール11と共にサブケーシング102でもって挟持する状態で、図示しないボルトなどによって固定し、駆動軸14の圧縮機構部4側を、主軸受42により軸受している。さらに、これら主軸受部材51と固定スクロール11との間に、前記可動スクロール12を挟み込んで圧縮機構部4を構成している。
【0012】
主軸受部材51と可動スクロール12との間にはオルダムリングなどの可動スクロール12の自転を防止して円運動させるための自転拘束部57が設けられ、駆動軸14を偏心軸受43を介して、可動スクロール12に接続して、可動スクロール12を円軌道上で旋回させるようにしている。
【0013】
圧縮機構部4には、吐出孔31及びリード弁31aが設けられ、サブケーシング102との間に形成された吐出室62に開口される。吐出室62は、固定スクロール11および主軸受部材51ないしはこれらと本体ケーシング3との間に形成した連絡通路63を通じて、圧縮機構部4と端部壁3aとの間の、吐出口9を持った電動式モータ5側に通じている。
【0014】
モータ駆動回路部101は、サブケーシング102内に、端部壁102aを隔てて吸入室61及び吐出室62の反対側に回路基板103と、図示しない電解コンデンサとを収容して構成され、回路基板103には、発熱度の高いスイッチング素子を含むIPM(インテリジェントパワーモジュール)105が搭載されている。
【0015】
モータ駆動回路部101は、電動式モータ5などと圧縮機ターミナル106を介して電気的な接続が行われ、電動式モータ5を、温度などの必要な情報をモニタしながらモータ駆動回路部101によって駆動するようにしてある。このためモータ駆動回路部101は、外部との電気的な接続を行う図示しないハーネスコネクタが設けられている。
【0016】
従来の電動圧縮機1は、以上のように構成されており、電動式モータ5は、モータ駆動回路部101によって駆動され、駆動軸14を介して、圧縮機構部4を円軌道運動させるとともに、容積型ポンプ13を駆動する。
【0017】
このとき圧縮機構部4は、容積型ポンプ13により、貯液部6の潤滑油7を供給されて、潤滑およびシール作用を受けながら、固定スクロール11に設けた吸入孔16を通じ、冷凍サイクルからの帰還冷媒を吸入して、圧縮し、吐出孔31から吐出室62に吐出する。吐出室62に吐出された冷媒は、連絡通路63を通じて電動式モータ5側に入り、電動式モータ5を冷却しながら、本体ケーシング3の吐出口9から吐出されるまでの長い過程で、冷媒は、衝突、遠心、絞りなど各種の気液分離を図って潤滑油7の分離を受けながらも、随伴している一部潤滑油7によって副軸受41の潤滑も行う。
【0018】
スクロール方式の圧縮機構部4では、可動スクロール12と固定スクロール11の各々の渦巻形状のラップ壁面と軸方向に対抗する固定鏡板11a、旋回鏡板12aで囲まれた圧縮空間10が形成される。可動スクロール12が旋回運動し、可動スクロール12と固
定スクロール11で囲まれた圧縮空間10は中心へ向かって容積を縮小しながら移動し、冷媒が圧縮される。
【0019】
可動スクロール12が旋回運動するためには、駆動軸14に対して法線方向・軸線方向の両方向に摺動する必要があり、法線方向は、駆動軸14の偏芯軸(図示せず)で支持・摺動される。
【0020】
軸線方向の摺動は、可動スクロール12が圧縮ガスの反力で押されるのに抗して反圧縮空間10側で摺動する場合と、圧縮ガスの反力を上回る荷重で可動スクロール12を圧縮空間10側へ押圧し、圧縮空間10側で摺動する場合がある。可動スクロール12の軸方向摺動部は、後者の圧縮空間10側に構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開平8−261172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
冷媒の圧縮時、可動スクロール12、固定スクロール11の各々のラップは、圧縮過程の冷媒によって荷重を受け、ラップ根元部に応力が集中する。特に、スクロール中心部は高温高圧となるので材料強度上厳しくなるが、従来の電動圧縮機の構成では、固定スクロール11や可動スクロール12の中心部の破損を防ぐために、固定スクロール・可動スクロール両方の材質として、最も応力の高い部位でも疲労破断しない強度の材料を使用することが求められるため、材料コストが増大すると言う課題があった。
【0023】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、比較的低強度の材料で固定スクロールや可動スクロールの破損を防ぐことが可能な、低コストと信頼性確保が両立可能な電動圧縮機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
前記従来の課題を解決するために、本発明の電動圧縮機は、可動スクロールと固定スクロールを備え、前記可動スクロールと前記固定スクロールの少なくとも一方の中心部に、前記可動スクロールと前記固定スクロールの母材より高強度でかつヤング率の高い材料からなる補強材が鋳込まれているもので、冷媒圧縮時の荷重により双方一体となって同様の歪が生じると、歪量が同様ではヤング率の高いほうが応力が高くなり、補強材がより多くの荷重を担う事となる。補強材を高強度材とすることで全体の荷重に対する負荷能力が増大し、スクロール中心部の破損を防ぐことが可能となり、低コストの材料においても信頼性の確保が可能となる。
【0025】
また、本発明の電動圧縮機は、可動スクロールと固定スクロールを備え、前記可動スクロールと前記固定スクロールの少なくとも一方の中心部に、前記可動スクロールと前記固定スクロールの母材より高強度でかつヤング率の高い材料からなる補強材がネジで締結されているもので、冷媒圧縮時の荷重により双方一体となって同様の歪が生じると、歪量が同様ではヤング率の高いほうが応力が高くなり、補強材がより多くの荷重を担う事となる。補強材を高強度材とすることで全体の荷重に対する負荷能力が増大し、スクロール中心部の破損を防ぐことが可能となり、低コストの材料においても信頼性の確保が可能となる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の電動圧縮機は、低コストでのスクロール圧縮機構の信頼性確保が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態1における電動圧縮機の固定スクロールの中心部に補強材が設置されている状態を示す破断図
【図2】同固定スクロールと補強材を鋳造型にて一体成形する断面図
【図3】同固定スクロールの中心部と補強材がネジ締結される様子を示す図
【図4】従来の電動圧縮機の断面図
【発明を実施するための形態】
【0028】
第1の発明は、可動スクロールと固定スクロールを備え、前記可動スクロールと前記固定スクロールの少なくとも一方の中心部に、前記可動スクロールと前記固定スクロールの母材より高強度でかつヤング率の高い材料からなる補強材が鋳込まれているもので、冷媒圧縮時の荷重により双方一体となって同様の歪が生じると、歪量が同様ではヤング率の高いほうが応力が高くなり、補強材がより多くの荷重を担う事となる。補強材を高強度材とすることで全体の荷重に対する負荷能力が増大し、スクロール中心部の破損を防ぐことが可能となり、低コストの材料においても信頼性の確保が可能となる。
【0029】
第2の発明は、可動スクロールと固定スクロールを備え、前記可動スクロールと前記固定スクロールの少なくとも一方の中心部に、前記可動スクロールと前記固定スクロールの母材より高強度でかつヤング率の高い材料からなる補強材がネジで締結されているもので、冷媒圧縮時の荷重により双方一体となって同様の歪が生じると、歪量が同様ではヤング率の高いほうが応力が高くなり、補強材がより多くの荷重を担う事となる。補強材を高強度材とすることで全体の荷重に対する負荷能力が増大し、スクロール中心部の破損を防ぐことが可能となり、低コストの材料においても信頼性の確保が可能となる。
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
【0031】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における電動圧縮機の固定スクロールの中心部に補強材が設置されている状態を示す破断図、図2は、同固定スクロールと補強材を鋳造型にて一体成形する断面図である。なお上記従来の電動圧縮機と同一部分には同一符号を付して、その説明を省略する。
【0032】
本実施の形態における電動圧縮機1は、図1に示すように、固定スクロール11もしくは/及び可動スクロール12の中心部分に、ヤング率、強度共に固定スクロール11或いは、可動スクロール12の母材より高い材料からなる補強材35を鋳込むものである。
【0033】
具体的には、図2に示すように、固定スクロール11もしくは/及び可動スクロール12を鋳造する際に、スクロール鋳造金型34内の所定の場所に、補強材35を設置し、同時に鋳造するもので、これにより固定スクロール11もしくは/及び可動スクロール12の中心部に補強材35を一体成形することが出来る。
【0034】
或いは、図3に示すように、固定スクロール11もしくは/及び可動スクロール12の中心部分のスクロールラップ背面よりネジ穴33を設け、その穴33に補強材35に設けたネジ部35aを嵌合させ締結するようにしても良い。
【0035】
以上のように本実施の形態によれば、補強材35に、ヤング率、強度共に固定スクロール11或いは、可動スクロール12の母材より高い材料を用いるので、補強材35と、固定スクロール11もしくは/及び可動スクロール12は一体となり、冷媒圧縮時の荷重で
同様な歪が生じた結果、補強材35のほうがより多くの荷重を担う事となる。
【0036】
従って、比較的低強度の材料で、固定スクロール11や可動スクロール12の破損を防ぐことが可能となり、低コストと信頼性確保が両立可能な電動圧縮機を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上のように、本発明にかかる電動圧縮機は、同様の負荷能力であれば比較的強度の低い材料を使用することが可能なため低コスト化が可能となる。
【符号の説明】
【0038】
1 電動圧縮機
3 本体ケーシング
4 圧縮機構部
5 電動式モータ
5a 固定子
5b 回転子
8 吸入口
9 吐出口
10 圧縮空間
11 固定スクロール
11a 固定鏡板
12 可動スクロール
12a 旋回鏡板
14 駆動軸
17 環状部材
42 主軸受
43 偏心軸受
51 主軸受部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動スクロールと固定スクロールを備え、前記可動スクロールと前記固定スクロールの少なくとも一方の中心部に、前記可動スクロールと前記固定スクロールの母材より高強度でかつヤング率の高い材料からなる補強材が鋳込まれている電動圧縮機。
【請求項2】
可動スクロールと固定スクロールを備え、前記可動スクロールと前記固定スクロールの少なくとも一方の中心部に、前記可動スクロールと前記固定スクロールの母材より高強度でかつヤング率の高い材料からなる補強材がネジで締結されている電動圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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