説明

電動機の回転子に永久磁石を装着する方法

【課題】
表面磁石電動機の回転子鉄心の表面に、着磁された永久磁石を容易に装着する方法を提供する。
【解決手段】
円筒リングに回転子を挿入し、回転子の回転軸と円筒リングの長手方向軸が一致する状態で、円筒リングと回転子を固定し、固定された回転子と円筒リングとの間に形成された空隙に、着磁されている永久磁石を所定の位置まで挿入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の回転子に永久磁石を装着する方法に関し、特に、外周に複数の永久磁石が固定される回転子を有する電動機、いわゆる表面磁石電動機、の回転子に永久磁石を装着する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、強力な希土類磁石が市場に流通するようになったことにより、回転子に希土類磁石を用いた小型、高効率、高出力の永久磁石同期電動機が開発され、様々な分野で動力源や制御駆動源として使用されている。
【0003】
外周に複数の永久磁石が固定される回転子を有する表面磁石電動機は、騒音や振動が少ない電動機として多方面で使用されている。表面磁石電動機の回転子の永久磁石を着磁する方法は、磁石を回転子に組み込んだ後に着磁する方法(以後、後着磁と記す)と、磁石を回転子に組み込む前に着磁する方法(以後、先着磁と記す)に大別される。
【0004】
後着磁においては、着磁されていない永久磁石を回転子に装着した後、回転子を着磁装置内に設置して、着磁装置に大電流を流すことにより着磁する。そのため、後着磁においては、回転子の仕様に合わせた着磁装置をそれぞれ製作する必要がある。また、未着磁の磁石を回転子に装着した後、回転子を固定子に組み込み、固定子巻き線に瞬間的に大電流を流すことにより、永久磁石を着磁する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
これに対し、先着磁は、磁石を回転子に組み込む前に着磁するため、使用する磁石が強力になるほど、着磁後の磁石を回転子鉄心の表面に整然と配置して固定することは容易ではない。そのため、先着磁で着磁した永久磁石を回転子へ固定することによる回転子の製造は困難を極めるため、一般的には採用されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−304556
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
未着磁の永久磁石を回転子に固定した後で着磁する方法で電動機を製作した場合、回転子上の永久磁石には、回転子の回転方向の端部側及び半径方向の中心側において、十分に着磁できない部分が存在する。そのため、総磁束量を増加することができず、また、磁石を厚く(半径方向に大きく)設計して減磁耐力を改善することもできない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、表面磁石電動機の回転子鉄心の表面に、着磁済みの永久磁石を簡便に取付ける方法を提供する。
【0009】
すなわち、本発明は、外周に複数の永久磁石を有する回転子を備える電動機の製作における、回転子に永久磁石を装着する方法を提供し、具体的には、円筒リングに該回転子を挿入し、該回転子の回転軸と該円筒リングの長手方向軸が一致する状態で、該円筒リングと該回転子を固定し、固定された該回転子と該円筒リングとの間に形成された空隙に、着磁されている永久磁石を挿入することを特徴とする。
【0010】
本発明の方法の更なる実施形態においては、前記円筒リングは非磁性体であることを特徴とする。
【0011】
本発明の方法の更なる実施形態においては、前記空隙は、回転子の半径方向の第1の間隔を有する部分と、第2の間隔を有する部分を含み、該第1の間隔は、永久磁石の厚さ(該半径方向の長さ)より大きく、該第2の間隔は、永久磁石の厚さより小さいことを特徴とする。
【0012】
本発明の方法の更なる実施形態においては、永久磁石の最大の厚さをtmaxとおくとき、回転子の回転方向において隣接する永久磁石の間隔は、0.5×tmax以下であることを特徴とする。
【0013】
本発明の更なる実施形態においては、前記空隙に前記永久磁石を挿入する前に、該永久磁石が固定される前記回転子の外周の面に接着剤を塗布する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の方法により、回転子の形状や型式に応じた永久磁石を着磁するための着磁装置が不要となるため、回転子の形状等に依存する着磁装置を製造する必要がなくなり、また、それに付帯する電源装置等の不要となり、表面磁石電動機の製造コストを削減することができる。
【0015】
本発明に係る方法においては、先着磁により着磁された永久磁石を回転子に取付けるため、着磁不良の場合に発生する逆磁界や高温による減磁が発生しない。また、着磁装置の電源容量に制限されることなく、十分に着磁された強力な永久磁石によって高効率の表面磁石電動機を製作することが可能となる。さらに、先着磁された永久磁石を使用するため、厚さ方向(回転子の半径方向)においても十分に着磁された厚い永久磁石を使用することができるため、総磁束量も多く、減磁耐力に優れた表面磁石電動機を製作することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る表面磁石電動機の回転子への永久磁石の装着方法を説明する図である。
【図2】後着磁により着磁した従来の表面磁石電動機の回転子表面の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付の図面を参照しながら、本発明に係る表面磁石電動機の回転子へ永久磁石を装着する方法を説明する。
【0018】
図1は、本発明に係る表面磁石電動機の回転子への永久磁石の装着方法を説明する図である。回転子1の外周には、永久磁石2の回転子の回転方向(周方向)における位置を画定するためのガイド凸部6が一定の間隔で配置されている。円筒リング3は、非磁性体からなり、円筒形状を有する。円筒リング3の軸方向の長さは、少なくとも回転子上の磁石が装着される部分の軸方向長さ、または、それ以上の長さを有する。回転子1に装着される永久磁石2は、所定の形状に成形され、回転子1に装着される前に既知の方法により着磁される。
【0019】
永久磁石2は、回転子1のガイド凸部6の間の回転子外周凹部4に、以下の方法によって装着される。
【0020】
磁石を装着する前の回転子1と円筒リング3を、回転子1の回転軸と円筒リング3の長手方向軸が一致するように配置し固定する。
【0021】
回転子1の外周と円筒リング3の内周によって画定された空隙に、永久磁石2は軸方向に摺動しながら挿入される。永久磁石2が固定される回転子1の外周面には、予め永久磁石2を固定するための接着剤を塗布しておいてもよい。それにより、永久磁石2が所定の位置まで挿入された後に、確実に固定することができる。
【0022】
空隙は、半径方向の間隔t1を有する空隙部分Aと、間隔t2を有する空隙部分Bを有する。空隙部分Aの、回転子外周凹部4と円筒リング3の円筒リング内周面5との間隔t1は、永久磁石の厚さtmよりも大きい。また、空隙部分Bの、ガイド凸部6の半径方向外側端部と円筒リング内周面5との間隔t2は、永久磁石の厚さtmよりも小さい。
【0023】
円筒リング3は非磁性体であるため、永久磁石2は、回転子1と円筒リング3の間に挿入されると、強磁性体である回転子1側に沿って摺動しながら所定の位置まで挿入される。間隔t2は永久磁石の厚さtmよりも小さいため、永久磁石は、挿入中にガイド凸部6を乗り越えて隣接する回転子外周凹部4に移動することはなく、安定して所定の位置まで挿入することができる。
【0024】
図2は、後着磁により着磁した従来の表面磁石電動機の回転子表面の部分拡大図を示す。
【0025】
表面磁石電動機においては、隣接する永久磁石は逆極性を有する。そのため、後着磁する場合においては、全ての永久磁石のそれぞれを、回転子の回転方向及び半径方向(磁石の厚さ方向)に亘って一様に着磁することは極めて困難である。従って、後着磁した永久磁石の、回転子の中心側と、回転子の回転方向の両端側には、着磁されない部分或いは十分に着磁されない部分が残る。図2に示す未着磁部分の回転方向の幅W2は、永久磁石の厚さtmにほぼ比例する。従って、装着する永久磁石の厚さtmが厚くなると、未着磁部分の幅W2が大きくなり、適正に着磁される部分の幅W1が狭くなる。結果として、1極の総磁束量を増加させることが難しくなる。
【0026】
一般的に、永久磁石電動機の永久磁石にかかる最大の減磁力Haは次式で表される。
Ha=k・N・Ia/(P・tm)
ここで、kは定数、Nは1相あたりのコイルの巻数、Iaは通常駆動での最大電流、Pは極数、tmは磁石の厚さである。永久磁石が永久減磁を起こさない範囲の最大許容減磁力をHmとするとき、減磁耐力は、Hm/Ha×100で表される。すなわち、永久磁石の厚さtmを大きくすると、永久磁石の減磁耐力を向上させることができる。
【0027】
しかし、上記のように、後着磁の場合においては、永久磁石の厚さtmを大きくすると適正に着磁される部分の幅W1が狭められるので、永久磁石を厚く設計することで、減磁耐力を向上させることは困難である。
【0028】
それに対し、先着磁においては、個々の永久磁石が最適な条件で着磁できるため、磁石の厚さ方向(回転子の半径方向)及び幅方向(回転子の回転方向)に亘って一様に着磁することができ、総磁束量を増加させることができる。また、磁石を厚くしても厚さ方向に一様に着磁することができるため、減磁耐力の高い永久磁石を有する電動機を製作することが可能となる。
【0029】
本発明に係る表面磁石電動機の回転子へ永久磁石を装着する方法は、好ましくは、回転子の外周表面に固定して設置される永久磁石の最大の厚さ(回転子の半径方向の長さ)tmaxに対して、回転子の回転方向において隣接する永久磁石の間隔が、0.5×tmax以下である場合において、さらに良好な作用効果を得ることができる。
【0030】
尚、本発明の実施形態の説明において、円筒リングは円筒形状を有するリングであるとしてとして説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、挿入される永久磁石を所定の位置にガイドできるような形状を有していても同様の効果を奏することができることに留意されたい。さらに、本発明の実施形態の説明において、回転子の外周には、永久磁石の周方向の位置を固定するガイド凸部6がある態様を例示して説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、回転子の外周はガイド凸部6を有さず、円筒リングの内側から回転子の中心方向に突き出したガイド凸部を有する構成であっても、同様の効果を奏することができることに留意されたい。
【符号の説明】
【0031】
1:回転子
2:永久磁石
3:円筒リング
4:回転子外周凹部
5:円筒リング内周面
6:ガイド凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に複数の永久磁石を有する回転子を備える電動機の製作における、回転子に永久磁石を装着する方法であって、
円筒リングに該回転子を挿入し、該回転子の回転軸と該円筒リングの長手方向軸が一致する状態で、該円筒リングと該回転子を固定し、
固定された該回転子と該円筒リングとの間に形成された空隙に、着磁されている永久磁石を所定の位置まで挿入する、
電動機の回転子に永久磁石を装着する方法。
【請求項2】
前記円筒リングは非磁性体である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記空隙は、前記回転子の半径方向の第1の間隔を有する部分と、第2の間隔を有する部分を有し、
該第1の間隔は、前記永久磁石の厚さ(該半径方向の長さ)より大きく、
該第2の間隔は、該永久磁石の厚さより小さい、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記永久磁石の最大の厚さをtmaxとおくとき、前記回転子の回転方向において隣接する前記永久磁石の間隔は、0.5×tmax以下である、請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記空隙に前記永久磁石を挿入する前に、該永久磁石が固定される前記回転子の外周の面に接着剤を塗布する、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−252477(P2010−252477A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97777(P2009−97777)
【出願日】平成21年4月14日(2009.4.14)
【出願人】(392009227)日本ムーグ株式会社 (6)
【Fターム(参考)】