説明

電動機器の診断方法

【課題】高精度で信頼性のより高い診断結果を得られ電動機器の診断方法を提供する。
【解決手段】電動機器に入力される電気量に対応する電気信号と、該電動機器側において得られる他の物理量との相関に基づいて電動機器の診断を行う。係る構成によれば、電動機器に入力される電気量に対応する電気信号と、該電動機器側において得られる他の物理量との相関に基づいて診断が行われることから、電動機器が電動機の回転力により駆動される電動弁である場合には、該電動機に入力される電気量に対応する電気信号と、例えば、電動弁のヨークに発生するヨーク応力との相関に基づいて、また電動機器が電磁コイルの磁気駆動力によって駆動される原子炉の制御棒駆動装置である場合には、電磁コイルに入力される電気量に対応する電気信号と制御棒駆動装置の作動時の振動センサとの相関に基づいて、それぞれ電動機器の診断を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、電動弁等の電動機器の診断を行うための診断方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、電動機の回転力とか電磁コイルの磁気駆動力により駆動される電動機器の診断を行う場合、その前提として、電動機器に入力される電気量を正確に知ることが重要である。
【0003】
このような電動機器に入力される電気量を取得する手法としては、例えば、電動機への給電用に設けられた電気箱の蓋を開放し、該電気箱内に収納された電線に電気量測定器を取付けて電流値等を計測する手法とか、特許文献1に示されるように、電動機の電源ケーブルに給電電流を検出するクランプ式の電流センサを取付けて電流値を計測する手法等が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開平2−307033号公報。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、電気箱内の電線に電気量測定器を取付けて電流値等を計測する前者の手法では、測定の度に電気箱の蓋を開放する必要があることから測定器の取付作業が煩雑で作業性が悪いとか、測定器の取付作業時あるいは該測定器を使用しての測定作業時に作業者が感電するとか、電流の地絡・短絡が発生する恐れがある、等の問題がある。
【0006】
また、上記測定器が設置される電気箱は、電動機及びこれにより駆動される電動機器から距離的に離れているため、上記測定器によって取得した取得情報のみを用いて電動機器の診断を行うような場合にはさほど問題はないが、例えば、上記取得情報と電動機器側の他の情報とを相関させて診断を行う必要があるような場合には、問題となる。
【0007】
一方、クランプ式の電流センサを用いる手法では、電源ケーブルが収容された電線管の外側から電流センサを取付けて計測を行うことができず、例えば、電気箱を開放して電源ケーブルの電線に直接電流センサを取付ける必要があり、計測作業が煩雑になるという問題があった。
【0008】
そこで本願発明は、電動機器に入力される電気量を簡便且つ安全に、しかも正確に取得し、この取得情報に基づいて電動機器の各種診断を行い得るようにした電動機器の診断方法を提案することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明ではかかる課題を解決するための具体的手段として以下のような特有の構成を採用している。
【0010】
本願の第1の発明では、電動機器に入力される電気量に対応する電気信号と、該電動機器側において得られる他の物理量との相関に基づいて電動機器の診断を行うことを特徴としている。
【0011】
ここで、上記「電動機器側における他の物理量」とは、電動機器の動作に伴って生じる
物理量であって、電動機器が、例えば、電動機の回転力により駆動される電動弁である場合には、そのヨークに発生するヨーク応力とか、弁棒に発生する弁棒応力等がこれに該当し、また、電磁コイルの磁気駆動力によって駆動される原子炉の制御棒駆動装置である場合には、制御棒の移動に伴う振動(音)がこれに該当する。
【0012】
本願の第2の発明では、上記第1の発明に係る電動機器の診断方法において、上記電気信号を、上記電動機器に給電する電力線を収納した電線管における上記電力線との幾何学的な相対位置が変化しない部位に配置された複数の磁場センサにより取得される基準磁気信号と該基準磁気信号に対応する基準電気信号の相関データベースを参照して、測定により取得される磁気信号に対応する電気信号として取得することを特徴としている。
【0013】
ここで、電源が三相交流であれば、電力線は三本の電線(U相電線、V相電線、W相電線)を備え、これら各電線のそれぞれによって磁場が形成され、この磁場の大きさが上記磁場センサで感知され、その大きさに対応した信号が出力される。この場合、上記磁場センサで感知される磁場の大きさは、各電線からの距離が長くなるほど小さくなることから、例えば、単一の磁場センサでの測定では、該磁場センサの電線管に対する取付位置(換言すれば、電力線の各電線UVWに対する磁場センサの取付位置)によっては、各電線を流れる電気量に対応した磁気信号の取得が困難となる場合もある。
【0014】
一方、電力線(各電線UVW)の電線管内における配置位置(電線管の管軸に直交する面内位置における配置位置)が不明であり、しかも各電線に対する上記磁場センサの感度が異なる場合でも、この電線管と電力線との幾何学的な相対位置が変化しない部位に複数の磁場センサを配置し、これら各磁場センサによって得られる磁気信号の総和を磁気信号として採用することで、確実に磁気信号が得られることも知られている(後述する)。
【0015】
上記「磁場センサ」としては、例えば、上記電線管内の電力線から発せられる磁力線を感知して磁場の大きさに対応した信号(磁気信号)を出力するホール素子とかアモルファス素子を用いた磁場センサが採用される。
【0016】
また、上記磁場センサにより取得される「磁気信号」は、磁気信号そのものは勿論、これに限らず、これを積算した積算磁気信号等の磁気信号に基づく信号をも含む概念である。ここで、「基準磁気信号」とは、電動機に基準電流を流したときに上記磁場センサによって取得される磁気信号である。また、この際の基準電流に対応する電気量が「基準電気信号」であり、この「電気信号」は、電流及びこれを積算した積算電流のみならず、これらに基づく電気信号を含む概念である。
【0017】
さらに、磁場の大きさ「H」は、電力線を流れる電流「I」に比例し、電力線からの距離(r)に反比例することが知られている(HがI/2πrに比例する)。従って、磁場の大きさに対応して出力される磁気信号「G」と電力線を流れる電流「I」は比例関係にあり、このため磁気信号「G」と電流「I」の相関をデータベースとして取得しておけば、このデータベースに基づいて、測定により取得される磁気信号「G」に対応する現時点の電流「I」を取得することができる。また、このような磁気信号「G」と電流「I」の比例関係から、磁気信号の積算値「シグマ(大文字)G」と電流値の積算値「シグマI」も比例関係「シグマGがシグマIに比例する」にあるといえる。
【0018】
以上のことから、電線管における電力線との幾何学的な相対位置が変化しない部位に配置した複数の磁場センサにより取得される基準磁気信号と該基準磁気信号に対応する基準電気信号の相関データベースを取得しておけば、次回以降は上記相関データベースを参照して、測定により取得される磁気信号に対応する電気信号を取得することができる。
【0019】
本願の第3の発明では、上記第2の発明に係る電動機器の診断方法において、予め上記電線管内における上記電力線の各電線の位置を上記電線管内で変化させたときの各位置での上記各磁場センサの磁気信号相互間の基準出力パターンを取得しておき、該基準出力パターンと測定により取得される上記各磁場センサの磁気信号相互間の実出力パターンを対比することで、該実出力パターンに対応する基準出力パターンから上記電線管内における上記各電線の位置情報を取得し、この位置情報を診断に反映させることを特徴としている。
【0020】
ここで、上記のように複数の磁場センサを、電線管における電力線との幾何学的な相対位置が変化しない部位に配置したとしても、これは絶対的なものではなく、何等かの原因によって上記幾何学的な相対位置が変化することも有り得る。係る場合において、上記基準出力パターンを予め取得しておけば、適時、この基準出力パターンと上記実出力パターンを対比し、該実出力パターンが上記基準出力パターンの中の何れのパターンに近似しているかを調べることで、上記幾何学的な相対位置が変化しているかいないか、さらにどのように変化しているか、等の位置情報を容易に取得することができる。
【0021】
従って、この位置情報を電動機器の診断に反映させることで、例えば、上記相関データベースを新たに取得し直し、この相関データベースを電動機器の診断に用いることで、信頼性のより高い診断結果を得ることができる。
【0022】
本願の第4の発明では、上記第2の発明に係る電動機器の診断方法において、測定により取得される上記磁気信号と上記他の物理量の相関を示す実相関パターンと、予め取得した基準状態における磁気信号と他の物理量の基準相関パターンを対比し、これら両パターンの相違状態に基づいて電動機器の診断を行うことを特徴としている。
【0023】
ここで、上記磁気信号は電動機器への入力信号として把握される。また、上記他の物理量は、上述のように電動機器の動作に伴って生じる物理量であって、例えば、電動機器が電動弁である場合には、そのヨークに発生するヨーク応力とか、弁棒に発生する弁棒応力等がこれに該当し、上記電動機器側の出力信号として把握されるものである。
【0024】
従って、上記基準相関パターンは基準時(例えば、電動機器の初期設置時、あるいは先の診断時)における入力信号と出力信号の対応関係を示し、上記実相関パターンは今回の測定時における入力信号と出力信号の対応関係を示すことから、これら基準相関パターンと実相関パターンを対比することで、例えば、電動機器の作動状態の変化とか変化傾向を容易に確認することができる。
【0025】
本願の第5の発明に係る電動機器の診断方法では、上記第1又は第2の発明に係る電動機器の診断方法において、上記電気信号と上記他の物理量をそれぞれ波形信号として表示し、これら各波形信号相互間における発生タイミングの適否、又は繰り返して表示される各波形信号と該各波形信号の全繰り返し期間における平均値との偏差に基づいて、上記電動機器の診断を行うことを特徴としている。
【0026】
ここで上記電気信号に対応する波形信号は、上記電動機器への入力電気量に対応する状態量であり、また上記他の物理量に対応する波形信号は、上記電動機器側の出力に対応する状態量であることから、これら波形信号相互間における発生タイミングを確認することで、上記電動機器が適正な作動タイミングで作動しているかどうかを容易に診断することができる。
【0027】
また、繰り返して表示される各波形信号と該各波形信号の全繰り返し期間における平均値との偏差を確認することで、電動機器の動作期間中において不適正な作動が発生したか
どうかを容易に診断することができる。
【0028】
本願の第6の発明に係る電動機器の診断方法では、上記第1又は第2の発明に係る電動機器の診断方法において、上記各電気信号と上記他の物理量をそれぞれ波形信号として表示し、上記各電動部毎に、上記各波形信号相互間における発生タイミングの適否、又は繰り返して表示される各波形信号と該各波形信号の全繰り返し期間における平均値との偏差に基づいて、上記電動機器の診断を行うことを特徴としている。
【0029】
ここで、入力側の波形信号として上記電動機器の複数の電動部のそれぞれへの入力電気量に対応する複数の波形信号が表示され、また出力側の波形信号として上記他の物理量に対応する波形信号が表示される。このため、これら波形信号相互間における発生タイミングを確認することで、上記電動機器の各電動部がそれぞれ適正な作動タイミングで作動しているかどうかを容易に診断することができる。
【0030】
また、繰り返して表示される各波形信号と該各波形信号の全繰り返し期間における平均値との偏差を確認することで、電動機器の上記各電動部のそれぞれにおいて、その動作期間中において不適正な作動が発生したかどうかを容易に診断することができる。
【0031】
本願の第7の発明に係る電動機器の診断方法では、上記第6の発明に係る電動機器の診断方法において、上記各電気信号に基づく各波形信号のうちの何れか一つの波形信号を基準波形として選択し、該基準波形の特定の波形点を基準として、上記各波形信号及び上記他の物理量に基づいて上記各電動部の作動諸元を取得し、該作動諸元を分析処理することで上記電動機器の診断を行うことを特徴としている。
【0032】
ここで、電動部の作動諸元とは、例えば、上記電動機器の複数の電動部それぞれの作動継続時間とか、複数の電動部相互の作動の重なり期間等であり、従って、これらの作動諸元を分析処理することで、上記電動機器全体としての作動特性をより容易且つ正確に把握することができる。
【発明の効果】
【0033】
(1) 本願の第1の発明に係る電動機器の診断方法によれば、電動機器に入力される電気量に対応する電気信号と、該電動機器側において得られる他の物理量との相関に基づいて診断が行われるものであり、電動機器が電動機の回転力により駆動される電動弁である場合には、該電動機に入力される電気量に対応する電気信号と、例えば、電動弁のヨークに発生するヨーク応力との相関に基づいて、また電動機器が電磁コイルの磁気駆動力によって駆動される原子炉の制御棒駆動装置である場合には、上記電磁コイルに入力される電気量に対応する電気信号と上記制御棒駆動装置の作動時の振動(加速度)センサとの相関に基づいて、それぞれ電動機器の診断を行うことができ、その診断作業がより簡易且つ迅速に精度良く行われる。
【0034】
(2) 本願の第2の発明に係る電動機器の診断方法によれば、上記複数の磁場センサを電線管に配置するという簡単な手段によって、基準磁気信号とこれに対応する基準電気信号の相関データベースを取得でき、次回以降はこの相関データベースに基づいて、測定により取得される磁気信号に対応する電気信号を取得するものであることから、以下のような効果が得られる。
【0035】
(2−1) 例えば、電気箱内の電線に電気量測定器を取付けて電流値等を計測する従来の方法のように、電気箱の改造を必要とするとか、作業中の感電、地絡あるいは短絡等の危険性を伴うこともなく、簡易・迅速に且つ安全に電気信号を取得することができる。
【0036】
(2−2) 上記複数の磁場センサを、電線管における電力線との幾何学的な相対位置が変化しない部位に配置しているので、該磁場センサと電力線の位置関係が一定に維持され、安定した信頼性の高い測定結果を得ることができる。
【0037】
(2−3) 上記磁場センサでの測定に基づく電気信号の取得と、電動機器側における他の物理量の取得が該電動機器の近傍で共に行え、且つこれら両者の対比及び確認が容易であることから、例えば、電気信号は電気盤部分で、他の物理量は電動機器部分で、それぞれ個別に行う構成の場合に比して、上記電気信号と他の物理量の収集、及びこれらの対比確認が容易であり、延いては、上記電気信号と上記他の物理量との相関に基づく診断、例えば、電動機器における駆動力の伝達効率の適否とか、該伝達効率の変化傾向等の診断を容易且つ迅速に、しかも高い信頼性をもって行うことができる。
【0038】
(3) 本願の第3の発明に係る電動機器の診断方法によれば、上記(2)に記載の効果に加えて、以下のような特有の効果が得られる。即ち、この発明では、予め上記電線管内における上記電力線の各電線の位置を上記電線管内で変化させたときの各位置での上記各磁場センサの磁気信号相互間の基準出力パターンを取得しておき、該基準出力パターンと測定により取得される上記各磁場センサの磁気信号相互間の実出力パターンを対比することで、該実出力パターンに対応する基準出力パターンから上記電線管内における上記各電線の位置情報を取得し、この位置情報を診断に反映させるようにしているので、上記基準出力パターンを予め取得しておき、適時、この基準出力パターンと上記実出力パターンを対比し、該実出力パターンが上記基準出力パターンの中の何れのパターンに近似しているかを調べることで、上記幾何学的な相対位置が変化しているかいないか、さらにどのように変化しているか、等の位置情報を容易に取得することができ、この位置情報を電動機器の診断に反映させる、例えば、上記相関データベースを新たに取得し直し、この相関データベースを電動機器の診断に用いることで、信頼性のより高い診断結果を得ることができる。
【0039】
(4) 本願の第4の発明に係る電動機器の診断方法によれば、上記(2)に記載の効果に加えて、以下のような特有の効果が得られる。即ち、この発明では、測定により取得される上記磁気信号と上記他の物理量の相関を示す実相関パターンと、予め取得した基準状態における磁気信号と他の物理量の基準相関パターンを対比し、これら両パターンの相違状態に基づいて電動機器の診断を行うようにしているので、これら両パターンの相違状態から、電動機器の作動状態の変化とか変化傾向を容易に確認することができ、例えば、電動機器のメンテナンス時期を的確に判断することができ、延いては電動機器の保守管理性が向上する。
【0040】
(5) 本願の第5の発明に係る電動機器の診断方法によれば、上記電気信号と上記他の物理量をそれぞれ波形信号として表示し、これら各波形信号相互間における発生タイミングの適否を確認することで、上記電動機器が適正な作動タイミングで作動しているかどうかを容易に診断することができ、診断の迅速化及び診断精度の向上が図れる。
【0041】
また、繰り返して表示される各波形信号と該各波形信号の全繰り返し期間における平均値との偏差を確認することで、電動機器の動作期間中において不適正な作動が発生したかどうかを容易に診断することができ、診断の迅速化及び診断精度の向上が図れる。
【0042】
従って、この診断方法は、特に電動機器が、電磁コイルを用いた電動部によって多ステップで段階的に駆動される原子炉の制御棒駆動装置であって、各ステップにおける電動部の作動タイミングの適正、不適正を目視等によって判断するとか、繰り返されるステップの全範囲内において電動部が適正に作動しているかどうかを目視等によって判断する「ステッピング試検」における診断方法として採用する場合に好適である。
【0043】
(6) 本願の第6の発明に係る電動機器の診断方法によれば、上記(1)又は(2)に記載の効果に加えて、以下のような特有の効果が得られる。即ち、この発明では、上記電動機器が複数の電動部で構成され且つ該各電動部のそれぞれに対応する電力線毎に上記電気信号が取得されるものにおいて、上記各電気信号と上記他の物理量をそれぞれ波形信号として表示し、上記各電動部毎に、上記各波形信号相互間における発生タイミングを確認することで、上記電動機器の各電動部がそれぞれ適正な作動タイミングで作動しているかどうかを容易に診断することができる。
【0044】
また、繰り返して表示される各波形信号と該各波形信号の全繰り返し期間における平均値との偏差に基づいて上記電動機器の診断を行うことで、電動機器の上記各電動部のそれぞれにおいて、その動作期間中において不適正な作動が発生したかどうかを容易に診断することができ、これらの結果、上記電動機器の診断の精度及び信頼性のより一層の向上が図られる。
【0045】
従って、この診断方法は、特に電動機器が、電磁コイルを用いた電動部によって多ステップで段階的に駆動される原子炉の制御棒駆動装置であって、各ステップにおける電動部の作動タイミングの適正、不適正を目視によって判断するとか、繰り返されるステップの全範囲内において電動部が適正に作動しているかどうかを目視によって判断する「ステッピング試検」における診断方法として採用する場合に好適である。
【0046】
本願の第7の発明に係る電動機器の診断方法によれば、上記(6)に記載の効果に加えて、以下のような特有の効果が得られる。即ち、この発明では、上記各電気信号に基づく各波形信号のうちの何れか一つの波形信号を基準波形として選択し、該基準波形の特定の波形点を基準として、上記各波形信号及び上記他の物理量に基づいて上記各電動部の作動諸元を取得し、該作動諸元を分析処理することで上記電動機器の診断を行うものであることから、これらの作動諸元を分析処理することで、上記電動機器全体としての作動特性をより容易且つ正確に把握することができ、それだけ電動機器の診断の精度及び信頼性が向上することになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、本発明を好適な実施形態に基づいて具体的に説明する。
【0048】
I:第1の実施形態
図1には、本願発明に係る診断方法を、電動機器としての電動弁10の診断に適用した第1の実施形態を示している。
【0049】
上記電動弁10は、弁本体部11と弁駆動部16を、ヨーク15を介して連結一体化して構成される。上記弁本体部11内には、弁座部12を開閉する弁体13が収容されている。上記弁体13には、上記ヨーク15を上下方向に貫通して上記弁駆動部16の上部に至る弁棒14が連結されており、該弁棒14を上記弁駆動部16によって上下方向へ昇降駆動することで上記弁体13が上記弁座部12に着座あるいは離座し、上記電動弁10が開閉される。
【0050】
上記弁駆動部16は、ウォーム22を備え電動機5によって回転駆動されるウォーム軸21と、上記ウォーム22と噛合し該ウォーム22側から回転力が伝達されるウォームホイール23と、上記弁棒14のネジ部に噛合するステムナット(図示省略)を内蔵し上記ウォームホイール23からの回転力を受けて上記ステムナットを回転駆動するドライブスリーブ26を備える。また、上記ウォーム軸21の軸端側には、上記弁棒14のトルク調整を行うスプリングカートリッジ24が配置されている。
【0051】
そして、この実施形態においては、究極的には上記電動弁10の電流に関する各種の診断を行うものであるが、その前作業として、該電動弁10に入力される電気量を、簡単な構成で安全且つ容易に、しかも高精度で取得するとともに、該電気量に関連する各種データベースを作成するようにしている。そして、上記電動弁10の診断を行うに際して、予め取得された電気量及び各種データベースを活用することで、信頼性の高い診断を実現するものである。
【0052】
従って、以下においては、先ず、上記電動弁10に入力される電気量の取得手法等について説明し、しかる後、その電気量を用いた上記電動弁10の診断手法について説明する。
【0053】
A:電気量の取得手法
この実施形態では、上記電動弁10に入力される電気量(特に、この実施形態では電流)を、磁場センサにより検出される磁気信号に基づいて取得するとともに、この磁気信号と電気信号の相関をデータベースとして取得することで、次回以降の電気信号の取得の容易化及び迅速化を図っている。
【0054】
A−1:磁場センサ8による磁気信号の取得
この実施形態では、より簡易に且つ安全に、しかも高精度で磁気信号を取得するために、三個の磁場センサ8を組み合わせて磁気信号を取得するようにしている。
【0055】
具体的には、上記電動機5に接続されたフレキシブル管部4の上流端に接続される鋼管製の電線管1の外周面で且つ該電線管1の軸方向の同一位置に、その周方向に略同一ピッチで三個の磁場センサ8A,8B,8Cを配置し、これら三個の磁場センサ8A,8B,8Cによって、上記電線管1内に配置された電力線2の各電線U,V,Wのそれぞれから発せられる磁力線を感知して磁場の大きさに対応した信号を出力するようになっている。
【0056】
上記磁場センサ8としては、例えば、ホール素子とかアモルファス素子を用いた磁場センサが採用される。また、上記電線管1の上記各磁場センサ8A,8B,8Cが配置された部位は、該電線管1と電力線2(即ち、各電線U,V,W)との幾何学的な相対位置が変化しない部位として選定されたものである。係る部位での測定であれば、原則として、何度測定しても上記各磁場センサ8A,8B,8Cのそれぞれからの出力信号の相対関係が一定に保持されると考えられ、安定した信頼性のより高い信号データが取得される。しかし、突発的な何らかの理由によって、上記部位においても電線管1と電力線2との相対位置が変化することも有り得ることから、係る場合の対応についても考慮している(後述する)。
【0057】
A−2:磁気信号の演算手法
ここで、図2を参照して、上記各磁場センサ8A,8B,8Cを用いた磁気信号の演算手法について説明する。
【0058】
この磁気信号の演算手法は、本件出願人が開発し既に特許出願(特願2003−419062、特開2005−180989)を行っているところであるが、これを簡単に説明すると以下の通りである。
【0059】
図2において、上記電線管1内に電力線2が収容されている。この電力線2は三相ケーブルであって、三本の電線U,V,Wを有しており、上述のように、該電力線2の上記電線管1内における幾何学的な相対位置が変化しないものとされる。また、上記電線管1の外周には、上記各磁場センサ8A,8B,8Cが周方向にそれぞれ120度の位相をもっ
て配置されている。
【0060】
ここで、上記各磁場センサ8A,8B,8Cは、各電線U,V,Wのそれぞれから発せられる磁力線を感知して磁場の大きさに対応した信号を出力する特性をもつものであるが、感知される磁場の大きさは、各電線U,V,Wの中心から各磁場センサ8A,8B,8Cまでの距離に反比例することが知られている。従って、上記各各磁場センサ8A,8B,8Cのそれぞれにおいて、上記各電線U,V,Wからの距離が異なることから、各電線U,V,Wからの磁力線から感知される信号は異なる。例えば、磁場センサ8Aにおいては、距離Aru,Arwが小さい電線U,Wから感知される信号は大きいが、距離Arvが大きい電線Vから感知される信号は小さいものとなる。
【0061】
従って、例えば、上記電線管1に1個の磁場センサを配置し、この磁場センサによって磁気信号を検出する構成とした場合には、上記電線管1内での上記電力線2の配置位置と、該電線管1に対する上記磁場センサの配置位置によっては、上記電力線2から感知される信号が小さく、精度の高い磁気信号を取得できない場合も有り得る。
【0062】
一方、上記電線管1内における上記電力線2の配置位置は不明であっても、上記電線管1に複数の磁場センサを配置すれば、磁力線に対する感度が高いものと感度が低いものとが存在することになるため、例えば、この感度の高い磁場センサの出力を磁気信号として採用するとか、感度が高い磁場センサの出力と感度が低い磁場センサの出力の総和を演算にて求め、これを磁気信号として採用することが考えられ、上掲の先行技術では後者の手法を採用し、その具体的な演算方法を開示している。具体的には、各磁場センサ8A,8B,8Cの検知信号を、絶対値で加算、減算等することで、判別し易い大きな信号値として取得し、これを上記電力線2の磁場に対応する磁気信号として採用するものである。
【0063】
以上のことから、この実施形態においては、上掲の先行技術で示された磁気信号取得手法を採用し、上記磁場センサ8A,8B,8Cで検出された信号値をそれぞれ磁気信号演算手段31に取り込み、これを該磁気信号演算手段31で演算処理をし、磁気信号として後述の各種の処理あるいは診断に用いるようにしている。
【0064】
B:診断装置30
次に、上述の磁気信号の取得手法を踏まえた上で、図1を参照して、診断装置30の構成及びこれによる診断方法について説明する。
【0065】
B−1:診断装置30の構成
上記診断装置30は、上述の上記電線管1に配置された三個の磁場センサ8A,8B,8Cのほかに、磁気信号演算手段31、電気信号演算手段32、磁気−電気信号データベース33、磁気信号−物理量データベース34、出力パターンデータベース35、診断手段36、出力手段37及び物理量信号演算手段40を備えて構成される。
【0066】
上記磁気信号演算手段31は、上記各磁場センサ8A,8B,8Cの検出値に基づいて磁気信号を演算にて取得し、これを磁気信号Saとして、磁気−電気信号データベース33と磁気信号−物理量データベース34と出力パターンデータベース35と診断手段36へそれぞれ出力する。なお、この磁気信号Saは、磁気信号そのもののみならず、これを積算等の所要の演算処理をして得られる信号も含まれる。
【0067】
上記電気信号演算手段32は、例えば、電気制御盤29において電流センサ(図示省略)により検出される検出値に基づいて電気信号を演算にて取得し、これを電気信号Sbとして、磁気−電気信号データベース33と磁気信号−物理量データベース34及び診断手段36へそれぞれ出力する。なお、この電気信号Sbは、電流信号のほか、これを積算等
の演算処理をして得られる信号も含まれる。
【0068】
B−1−2:磁気−電気信号データベース33
上記磁気−電気信号データベース33では、基準状態(例えば、初回の測定時)において、上記磁気信号演算手段31から入力される磁気信号(基準磁気信号)と上記電気信号演算手段32から入力される電気信号(基準電気信号)との相関を求め、これをデータベースとして保有する。従って、次回以降の測定においては、上記磁気信号演算手段31から入力される磁気信号Saに対応する電気信号を上記磁気−電気信号データベース33から読み出し、これを電気信号Scとして診断手段36へ出力する。
【0069】
なお、上記診断手段36には、上記電気信号演算手段32からの電気信号Sbと上記磁気−電気信号データベース33からの電気信号Scとが入力されるようになっているが、これは計測によって電気信号を得ることができるときには、この計測に基づく上記電気信号演算手段32からの電気信号Sbを診断に用い、計測をしない場合、あるいは計測できない場合には、上記磁気−電気信号データベース33からの電気信号Scを診断に用いるためである。
【0070】
B−1−3:磁気信号−物理量データベース34
上記磁気信号−物理量データベース34は、上記磁気信号演算手段31から入力される基準状態における磁気信号Saと、後述する物理量信号演算手段40から入力される物理量信号Seとを受けてこれらの相関を求め、これをデータベースとして保有する。従って、次回以降の測定では、上記磁気信号演算手段31から入力される磁気信号Saに対応する物理量信号を上記磁気信号−物理量データベース34から読み出してこれを上記診断手段36における診断に用いることができる。
【0071】
尚、ここでは、上記磁気信号−物理量データベース34に上記磁気信号演算手段31からの磁気信号Saを入力するようにしているが、これに代えて、上記電気信号演算手段32からの電気信号Sbを入力するように構成することもできる。
【0072】
B−1−4:出力パターンデータベース35
上記出力パターンデータベース35は、上記電線管1内で上記電力線2の位置を変化させて場合における上記各磁場センサ8A,8B,8Cの出力パターン(基準出力パターン)をデータベースとして保有し、この基準出力パターンと、実際の測定における上記各磁場センサ8A,8B,8Cの出力パターンである実出力パターンとを対比し、その対比結果を出力パターン信号Seとして上記診断手段36に出力し、該診断手段36での診断に反映させるものである。
【0073】
ここで、上記電線管1内で上記電力線2の位置が変化する場合としては、二つのケースは考えられる。その一つは、電線管1内において上記電力線2が該電線管1との回転方向の相対関係を維持したまま平行移動する場合(以下「第1の場合」という)であり、他の一つは上記電線管1内において上記電力線2が捩れて、又は上記第1の場合のような平行移動と同時に捩れて、該電線管1との相対関係が変化する場合(以下「第2の場合」という)である。
【0074】
上記第1の場合について、これを具体的に説明すると、図8に示すように、上記電線管1内において上記電力線2の位置を順次変化させた場合(例えば、電力線2A→2B→2C→2D→・・・の順で位置を変化させた場合)における各位置での各磁場センサ8A,8B,8Cの出力パターンを、図9に示すような「位置1→位置2→位置3→位置4→・・・」についての基準出力パターンとして保有する。そして、この基準出力パターンと、図10に示すような測定で得られた上記各磁場センサ8A,8B,8Cの実出力パターン
とを対比し、この実出力パターンが最も近似する基準出力パターンを抽出し、この抽出された基準出力パターンに対応する位置を、現在の上記電線管1内における上記電力線2の配置位置であるとして、これを後述の診断手段36へ出力し、該診断手段36における診断に反映させるものである。
【0075】
また、第2の場合で、特に平行移動に加えて捩れが生じた場合は、上記電線管1内において上記電力線2を平行移動とともに回転させて、各回転位置における各磁場センサ8A,8B,8Cの出力パターンを基準出力パターンとして保有する(図9参照)。そして、この基準出力パターンと、測定で得られた上記各磁場センサ8A,8B,8Cの実出力パターン(図10参照)とを対比し、この実出力パターンが最も近似する基準出力パターンを抽出し、この抽出された基準出力パターンに対応する位置を、現在の上記電線管1内における上記電力線2の回転位置であるとして、これを後述の診断手段36へ出力し、該診断手段36における診断に反映させるものである。
【0076】
B−1−5:物理量信号演算手段40
上記物理量信号演算手段40には、上記ヨーク応力センサ25によって検出されるヨーク応力信号が入力される。この物理量信号演算手段40には、図示しないが、ヨーク応力と該ヨーク応力と対応関係にある弁軸力の基準状態における相関データベースが備えられている。そして、上記物理量信号演算手段40は、上記ヨーク応力センサ25からヨーク応力信号が入力されると、これを受けて、例えば、該ヨーク応力信号そのものを物理量信号Seとして、又は入力されたヨーク応力信号に対応する弁軸力を上記相関データベースから読み出してこれを物理量信号Seとして、上記磁気信号−物理量データベース34と上記診断手段36へ出力する。
【0077】
なお、ここでは、物理量として、ヨーク応力と弁軸力を想定しているが、これらヨーク応力と弁軸力は共に電動弁10における「出力トルク」に対応するものであり、従って、これらと同様に「トルク」に対応する上記スプリングカートリッジ24の圧縮力や圧縮量も上記物理量として採用することができる。例えば、上記ウォーム軸21の軸方向変位を、該ウォーム軸21の軸方向変位に追従して回転する回転子の回転角として非接触状態で検出する回転角センサ(図示省略)で検出される回転角信号を上記物理量信号演算手段40に物理量信号Seとして入力することもできる。
【0078】
B−1−6:診断手段36
上記診断手段36は、上記磁気信号演算手段31から入力される磁気信号Saと、上記電気信号演算手段32から入力される電気信号Sbと、上記磁気−電気信号データベース33から入力される電気信号Scと、上記磁気信号−物理量データベース34から入力される物理量信号Sdと、上記物理量信号演算手段40から入力される物理量信号Seと、上記出力パターンデータベース35から入力される出力パターン信号Sfとを受けて、上記電動弁10の各種の診断を行う。この診断手段36における具体的な診断については、後述する。
【0079】
B−1−7:出力手段37
上記出力手段37は、上記診断手段36から出力される診断結果を受けて、表示手段38にその診断結果を表示させるとともに、警報手段39において所要の警報を発生させる。
【0080】
B−2:診断手段36における診断内容等
ここで、上記診断手段36におけるいくつかの診断例を、図3〜図7を参照して説明する。
【0081】
B−2−1:電動弁10の設定トルクに関する診断
図3には、電流とヨーク応力との相関図を示している。ここで、電動弁10においては、ヨーク応力は出力トルクに対応し、また電流値はその積算値が入力に対応することから、上記相関図は上記電動弁10の入出力曲線に相当する。そして、基準時における入出力曲線は、ヨーク応力(即ち、出力トルク)が変化せずに電流(積算値)のみが上昇変化する状態を示す線分L1と、ヨーク応力と電流の双方が所定の上昇率で上昇変化する状態を示す線分L2で規定される。
【0082】
また、基準状態における最大出力トルクaは、電動弁10の設定トルクスイッチ動作時の出力トルクに対応するものであり、基準状態では上記電動弁10はスプリングカートリッジ24の設定トルクに基づいて開閉弁時のトルク制御がなされる。
【0083】
ここで、次回以降の測定によれば、基準状態における入出力曲線を略維持しているものの、上記最大出力トルクが、上記線分L2上で基準状態時の最大出力トルク「a」よりも高トルク側の「c」へ変化していた場合(第1の場合)と、上記線分L2上で基準状態時の最大出力トルク「a」よりも低トルク側の「b」へ変化していた場合(第2の場合)を想定する。
【0084】
これらの変化のうち、上記第1の場合は、設定トルク値が基準状態時よりも上昇している状態であって、このような状態の発生原因としては、上記電動弁10のスプリングカートリッジ24に充填されたグリスの硬化に伴う皿バネの圧縮抵抗の増加とか、上記ウォーム22のスライド抵抗の増加とか、トルクスイッチの高トルク側への位置ズレ等が考えられる。
【0085】
上記第2の場合は、設定トルク値が基準状態時よりも低下している状態であって、このような状態の発生原因としては、上記スプリングカートリッジ24の皿バネの劣化とか、トルクスイッチの低トルク側への位置ズレ等が考えられる。
【0086】
尚、上記のような設定トルクの変化状態は、上記磁場センサ8A,8B,8Cで測定された磁気信号に対応して上記磁気−電気信号データベース33から読み出される電気信号Saと、上記ヨーク応力センサ25からのヨーク応力信号Sbを図表化することで、即座に且つ明確に判断することができる。
【0087】
係る診断結果が上記表示手段38において表示され、また上記警報手段39によって警報が発せられることで、適切な対応を迅速にとることができ、電動弁10の運転上における信頼性が向上する。また、上記設定トルクの変化状態から部品交換等のメンテナンス時期を予測することもできる。
【0088】
B−2−2:電動弁10の上下流間における駆動損失に関する診断
図4には、実線で示す基準状態における入出力曲線に対して、次回以降の測定においては基準状態における線分L2が破線で示す線分L21,L22のように変化した例を示している。第1の場合は、線分L21で示すように、最大出力トルク(設定トルクスイッチの動作時の出力トルク)は変化することなく、基準状態における線分L2がそのまま高電流側へ変化した場合である。第2の場合は、線分L22で示すように、最高出力トルク(設定トルクスイッチの動作時の出力トルク)が低トルク側へ変化するとともに、基準状態における線分L2が高電流側へ変化した場合である。
【0089】
ここで、上記第1の場合も第2の場合も、共に電流が基準状態時よりも増加しており、駆動力伝達系において駆動損失が発生したと判断できる。
【0090】
そして、上記第1の場合は、設定トルクスイッチの動作時の出力トルクに変化がないが、同じ出力トルクを得るためには基準状態よりも大きな電流値を必要としていることから、上記電動弁10の上流側(入力側)における駆動力の伝達効率が低下し駆動損失が発生していると判断することができる。係る上流側における駆動損失の発生原因としては、例えば、上記電動機5とウォーム軸21の間での噛合状態の悪化が考えられる。
【0091】
これに対して、上記第2の場合は、設定トルクスイッチの動作時の電流は同じであるが、低トルク側へ変化していることから、上記電動弁10の下流側(出力側)における駆動力の伝達効率が低下して駆動損失が発生したものと判断することができる。係る下流側における駆動損失の発生原因としては、例えば、上記弁棒14と上記ドライブスリーブ26に内蔵されて該弁棒14と噛合するステムナットの間の潤滑不良が考えられる。
【0092】
このような診断結果が上記表示手段38において表示され、また上記警報手段39によって警報が発せられることで、適切な対応を迅速にとることができ、電動弁10の運転上における信頼性が向上する。また、上記出力トルクの変化状態から部品交換等のメンテナンス時期を予測することもできる。
【0093】
B−2−3:電動弁10の弁棒摺動抵抗に関する診断
図5には、実線で示す基準状態における入出力曲線が、次回以降の測定では破線で示すように変化した例を示している。第1の場合は、基準状態における線分L1が線分L11で示すように高トルク側へ変化するとともに、基準状態における線分L2が線分L21で示すように高電流側へ変化し、しかも設定トルクスイッチの動作時の出力トルクには変化が無い場合である。第2の場合は、基準状態における線分L1が線分L12で示すように低トルク側へ変化するとともに、基準状態における線分L2が線分L22で示すように低電流側へ変化し、しかも設定トルクには変化が無い場合である。
【0094】
ここで、上記第1の場合は、上記弁棒14部分に装着されたグランドパッキンの摩擦抵抗が高くなり過ぎたことが発生原因として挙げられ、また、第2の場合は、逆に、上記グランドパッキンの摩擦抵抗が低くなり過ぎたことが発生原因として挙げられる。
【0095】
このような診断結果が上記表示手段38において表示され、また上記警報手段39によって警報が発せられることで、適切な対応を迅速にとることができ、電動弁10の運転上における信頼性が向上する。
【0096】
B−2−4:ヨーク応力センサ25の感度に関する診断
図6には、実線で示す基準状態における入出力曲線が、次回以降の測定では、破線で示すように、設定トルクスイッチの動作時の出力トルクに対応する電流「G1」、及び弁タッチ時の電流「G2」を維持したまま、全体として低トルク側へ所定量だけ平行移動するように変化した場合を示している。
【0097】
このような変化状態は、上記ヨーク応力センサ25の感度の劣化が原因と考えられる。従って、係る場合の対応措置としては、上記ヨーク応力センサ25を交換する他に、例えば、上記ヨーク応力センサ25の出力値を、基準状態における最低トルク値「t1」と変化後の最低トルク値「t2」の比率によって補正し、補正後のヨーク応力を以降の診断に用いることが考えられる。
【0098】
係る診断結果が上記表示手段38において表示され、また上記警報手段39によって警報が発せられることで、適切な対応を迅速にとることができ、電動弁10の運転上における信頼性が向上する。
【0099】
B−2−5:磁場センサ8の感度に関する診断
図7には、実線で示す基準状態における入出力曲線の線分L2が、次回以降の測定では、破線で示す線分L21のように、最小出力トルク及び最大出力トルク(設定トルクスイッチの動作時の出力トルク)を維持したまま、低電流側へ変化した場合を示している。
【0100】
このような変化状態は、上記磁場センサ8A,8B,8Cの感度の劣化が原因と考えられる。従って、係る場合の対応措置としては、上記磁場センサ8A,8B,8Cのうち劣化している磁場センサを交換する他に、例えば、上記磁場センサ8A,8B,8Cでの測定に基づいて得られた電流を、基準状態時の最大電流「la」と変化後の最大電流「lb」の比率によって補正、補正後の電流を以降の診断に用いることが考えられる。
【0101】
ここで、上記磁場センサ8A,8B,8Cのうち、劣化している磁場センサを特定する必要があるが、この特定の手法としては、例えば、基準状態において上記各磁場センサ8A,8B,8Cのそれぞれから得られる磁気信号を上記磁気信号演算手段31に保有しておき、次回以降において上記各磁場センサ8A,8B,8Cのそれぞれから得られる磁気信号を、基準状態時の各磁気信号と対比することで容易に特定することができる。
【0102】
ところで、上記ヨーク応力センサ25の校正であるが、この校正は、該ヨーク応力センサ25を上記電動弁10のヨーク15に取付けたまま行うことができる。
【0103】
即ち、図11には、電動弁10の開作動時におけるヨーク応力の変化状態を示している。ここで、点aは弁棒14の圧縮が完全に開放された位置であり、点bは弁棒14が作動を開始した位置であり、この点aと点bの範囲では該弁棒14がフリー状態とされ、上記ヨーク15には外力が作用しない。このように上記ヨーク15に外力が作用しない位置を「0点位置」と規定するが、この「0点位置」は上記電動弁10の開作動時及び閉作動時には必ず生じるものである。
【0104】
一方、点cから以降の領域は、弁体13が開方向へ安定的に移動している領域であって、この領域では弁棒14には主としてグランドパッキンの締付力による摺動抵抗が作用しており、且つこの摺動抵抗は安定していることから、上記領域(安定域)では上記ヨーク15には略一定の張力(ヨーク応力)Pが作用しており、その値は上記「0点位置」からの大きさとなる。また、ヨーク応力と弁軸力の間には一定の相関(直線関係)がある。従って、上記「0点位置」と(安定域)が存在することと、上記ヨーク応力と弁軸力の間の直線関係を利用することで、上記ヨーク応力センサ25の校正を簡易に行なうことができる。具体的には以下の通りである。
【0105】
先ず、上記ヨーク応力センサ25の他に、上記弁棒14に弁軸力センサ(歪センサ)を仮設する。そして、上記電動弁10を開作動させ、上記「0点位置」と上記弁体13が安定的に移動している領域、即ち、図11の点c以降の所定の一点の双方で、ヨーク応力と弁軸力をそれぞれ測定し、この2点の測定値に基づいてヨーク応力と弁軸力の相関データベースを取得する。なお、上記弁軸力センサは、相関データベース取得後は取外す。そして、上記ヨーク応力センサ25の校正に際しては、上記相関データベース取得時と同様に、上記ヨーク応力センサ25の他に、上記弁棒14に弁軸力センサ(歪センサ)を仮設し、上記電動弁10の開作動時における上記「0点位置」と上記安定域で、上記ヨーク応力センサ25と弁軸力センサによってヨーク応力と弁軸力をそれぞれ測定する。この測定値を上記相関データベースと対比し、該相関データベースを更新することで上記ヨーク応力センサ25の校正が行なわれる。
【0106】
この校正手法によれば、上記弁棒14をフルストーロークさせることなく、その一部、即ち、上記安定域で作動させることで上記ヨーク応力センサ25の校正を行なうことがで
き、また上記「0点位置」と上記グランドパッキンの締付力によって生じる上記安定期を利用することで、特別の装置を備えることなく上記ヨーク応力センサ25の校正を行なうことができるものであり、これらの相乗効果として、上記ヨーク応力センサ25の校正を簡易且つ迅速に行なうことができるものである。
【0107】
また、上記弁棒14に弁軸力センサを常設すると、該弁棒14のストローク中に摺動部分に食い込まれる恐れがあるが、上記ヨーク応力センサ25を上記ヨーク15に常設してもこのような恐れは無いことから、上記ヨーク応力センサ25を上記ヨーク15に常設し、基準の相関データベースの取得時と上記ヨーク応力センサ25の校正時にのみに上記弁軸力センサを架設することで、上記ヨーク応力センサ25の校正を行うことができ、校正作業の簡易化が可能となる。
【0108】
II:第2の実施形態
図12には、本願発明に係る診断方法を、電動機器としての制御棒駆動装置50の診断に適用した第2の実施形態を示している。
【0109】
上記燃料棒駆動装置50は、周知の構造をもつもので、ハウジング55内に、昇降駆動される駆動軸56と、該駆動軸56を磁気駆動力によって軸方向へ駆動する第1の電磁コイル51(以下、「LIFTコイル51」という)と、該駆動軸56を把持して昇降させる可動グリッパ用の第2の電磁コイル52(以下、「MGコイル52」という)と、該駆動軸56を固定位置で把持する固定グリッパ用の第3の電磁コイル53(以下、「SGコイル53」という)を収容して構成され、上記LIFTコイル51とMGコイル52及びSGコイル53が所定タイミングでそれぞれ一回作動することで上記駆動軸56が1ステップだけ上昇又は降下されるものである。
【0110】
そして、この1ステップの作動が多数回繰り返されることで、上記駆動軸56の下端側に連結された制御棒の炉心からの引抜又は炉心への挿入が実現されるものである。なお、上記LIFTコイル51,MGコイル52及びSGコイル53は、特許請求の範囲中の「複数の駆動部」に該当する。
【0111】
そして、係る制御棒の引抜操作又は挿入操作は、上記各コイル51〜53がそれぞれ電力ケーブル2からの給電を受けて順次所定タイミングで励磁又は消磁されることで行われる。また、この場合における上記各コイル51〜53への供給電流は、それぞれLIFT信号(図12では「LIFT」と略記する)、MG信号(図12では「MG」と略記する)及びSG信号(図12では「SG」と略記する)として、後述する診断装置41側へ入力される。
【0112】
ここで、これらLIFT信号とMG信号及びSG信号の取得手法について説明する。図12に示すように、電気制御盤29から電力線2を通して給電される。この場合、上記各電力線2は、それぞれ専用の電線管1A〜1Cに収容されている。このような配線構造に着目して、ここでは、上記第1の実施形態に適用されていた電流取得手法を採用している。
【0113】
即ち、上記各電線管1A〜1Cにおける上記電力ケーブル2との幾何学的な相対位置が変化しないような部位の外周面に三個の磁場センサ8A,8B,8Cを周方向に所定間隔で取付け、該各磁場センサ8A,8B,8Cによって上記電力ケーブル2への通電によって発せられる磁気信号を取得する。そして、各電線管1A〜1Cのそれぞれに備えた上記各磁場センサ8A,8B,8Cの検出信号(磁気信号)をそれぞれ磁気信号演算手段31に入力する。
【0114】
上記磁気信号演算手段31では、予め上記各電力ケーブル2のそれぞれに基準電流を流したときに上記各磁場センサ8A,8B,8Cで検出される基準磁気信号を求め、この基準電流と基準磁気信号の相関を上記電線管1A〜1C毎にデータベースとして保有する。従って、上記磁気信号演算手段31では、上記各電線管1A〜1Cに取付けた上記各磁場センサ8A,8B,8Cから磁気信号が入力されたとき、この計測された磁気信号に対応する電流を上記各データベースから読み出し、ここで読み出された電流を、それぞれLIFT信号、MG信号及びSG信号として上記診断装置41に出力するものである。なお、上記磁場センサ8A,8B,8Cのそれぞれで検出された磁気信号は、例えば、これらを加算して上記磁気信号演算手段31に入力される。
【0115】
従って、係る電流取得手法を採用することで、上記第1の実施形態の場合と同様に、原子力設備の稼働中であっても、上記電気制御盤29を開いたりすることなく、安全に且つ容易に電流を取得することができるものである。
【0116】
一方、上記燃料棒駆動装置50には、振動センサ(加速度計)54が備えられている。この振動センサ54は、上記燃料棒駆動装置50の作動に伴って発生する作動音を検知し、これを振動信号(ACC信号。図12では「ACC」と略記する)として、後述の診断装置41へ出力するようになっている。
【0117】
続いて、診断装置41の構成等について説明する。
上記燃料棒駆動装置50は、上述のように、上記各コイル51〜53の磁気駆動力によって作動されるものであって、その作動の的確性あるいは作動上の信頼性は、これら各コイル51〜53の作動タイミングあるいは作動時間等の作動状態が適正に維持されていることが必須要件となる。従って、燃料棒駆動装置50の作動の的確性あるいは作動上の信頼性を確保するためには、これら各コイル51〜53の作動状態を定期的に診断することが必要であり、係る診断に供せられるのが上記診断装置41である。
【0118】
上記診断装置41は、二種類の診断、即ち、上記燃料棒駆動装置50の各スッテプにおける上記各コイル51〜53の作動タイミングの適否を目視にて簡易且つ迅速に診断する「ステッピング試験」と、さらに上記ACC信号と各電気信号、即ち、LIFT信号、MG信号及びSG信号の作動諸元を分析処理する「詳細分析」を同時に並行して行うことができるようになっており、図12に示すように、上記「ステッピング試検」を実施するための第1診断部42と上記「詳細分析」を実施するための第2診断部43を備えている。
【0119】
なお、上記「ステッピング試験」としては、上記燃料棒駆動装置50の1ステップ毎の作動状態を確認する「個別ステッピング試験」と、全ステップを通して作動状態を確認する「連続ステッピング試験」とがある。
【0120】
上記第1診断部42は、それぞれ後述する第1演算部44と第2演算部45と表示部46及び第1出力部47を備えて構成される。一方、上記第2診断部43は、上記第1演算部44と上記第2演算部45の他に、後述する第3演算部48及び第2出力部49を備えて構成される。そして、これら何れの診断部42,43においても、上記磁気信号演算手段31からの各電気信号、即ち、上記LIFT信号とMG信号及びSG信号と、上記加速度信号(ACC信号)を、共に波形信号として用いるようにしている。
【0121】
上記第1演算部44は、上記磁気信号演算手段31から出力されるLIFT信号とMG信号とSG信号を波形信号としてそれぞれ収録するとともに、上記加速度計54からのACC信号も波形信号として収録し、これらを次述の第2演算部45へ出力する。なお、この実施形態では、説明の便宜上、上記燃料棒駆動装置50が単一の場合、即ち、電気信号としての上記LIFT信号とMG信号とSG信号がそれぞれ一つである場合を例示してい
るが、実際的には、後述するように、例えば、四つの燃料棒駆動装置50を一組とし(即ち、4ロット分を一組とし)、これら四つの燃料棒駆動装置50側からそれぞれ入力される各四つのLIFT信号とMG信号とSG信号を同時に収録し、これら4ロット分の波形信号を、ACC信号とともに第2演算部45へ同時に出力するようにしている(図15参照)。
【0122】
上記第2演算部45は、個別ステッピング試験においては、上記第1演算部44から入力された4ロット分のLIFT信号とMG信号とSG信号を1ロット分ずつ、上記ACC信号とともに順次上記第1診断部42側の上記表示部46と上記第2診断部43側の上記第3演算部48へそれぞれ出力する。また、連続ステッピング試験においては、全ステップを通して上記第1演算部44から入力された4ロット分のLIFT信号とMG信号とSG信号を1ロット分ずつ、上記ACC信号とともに順次上記第1診断部42側の上記表示部46と上記第2診断部43側の上記第3演算部48へそれぞれ出力する。
【0123】
上記表示部46は、個別ステッピング試験においては、上記第2演算部45から入力される1ロット毎の各波形信号をモニタに順次表示し(図13参照)、ここに表示された波形信号を目視することによる診断を可能とする。
【0124】
また、連続ステッピング試験においては、上記第2演算部45から入力される1ロット毎の各波形信号をモニタに連続的表示し(図16参照)、ここに表示された波形信号を目視すること、あるいは自動的に評価することによる診断を可能とする。
【0125】
なお、図16に連続ステッピング試験における波形表示を示している。ここで、連続ステッピング試験における評価手法を説明する。この例では、1ステップ毎に繰り返して表示されるLIFT信号が、適正状態であれば全ステップを通して同一波形となるところ、途中のステップにおいて、部位aで示すように他のステップの波形とは異なった波形が表示されている。このように本来同一波形が繰り返されるべきところ、異なる波形が現れたことで、上記LIFTコイル51側において故障あるいは作動不良が生じたことを、目視によって知ることができる。
【0126】
一方、係る評価をソフト上において自動的に行う場合には、先ず、各ステップにおいて繰り返して表示される各波形信号と該各波形信号の全繰り返し期間(全ステップ)の波形信号の平均値との偏差を求め、該偏差が所定の閾値を越えた波形信号が存在する場合には、この閾値を越えた波形信号が属するステップにおける作動は「注意を要する」あるいは「異常である」と評価するものである。図16に示す例の場合には、上記部位aが属するステップにおける作動は要注意あるいは異常であると評価される。この評価手法によれば、信頼性の高い高精度の評価をより迅速に得ることができる。
【0127】
なお、上記評価は、特定の電気信号に基づく波形信号、例えば、上記LIFT信号についての連続ステッピング試験であるが、係る手法を用いた連続ステッピング試験としてはこの他に、例えば、複数の電気信号に基づく波形信号、例えば、上記LIFT信号とMG信号とSG信号の三者間、あるいは適宜選択された二者間においても適用できる。例えば、全ステップのうち、あるステップではLIFT信号とMG信号に基づく波形信号は共に正常であるが、SG信号に基づく波形信号は異常であり、当該ステップ全体としてみた場合には「異常」であると評価するものである。
【0128】
さらに、個別、連続の何れのステッピング試験においても、必要に応じて、上記表示部46に表示された波形信号を上記第1出力部47においてプリントアウトし、紙面での確認あるいは保存が可能である。
【0129】
一方、上記第2診断部43側の上記第3演算部48においては、上記第2演算部45から1ロット毎に出力される電流に関するLIFT信号とMG信号とSG信号と、作動音に関するACC信号を受けて、これら各波形信号をモニタに1ロットずつ表示するとともに、これらLIFT信号とMG信号とSG信号の何れか一つ、例えば、LIFT信号を基準として、上記ACC信号と各電気信号の作動諸元を詳細に分析処理し、その分析結果をデータ化して表示する(図13、図14参照)。
【0130】
また、必要に応じて、第3演算部48での表示内容及び分析結果を第2出力部49においてプリントアウトし、紙面での確認あるいは保存を可能とする。
【0131】
ここで、上記診断装置41における診断の具体的な内容を、個別ステッピング試験を例にとり、図13及び図14を参照して説明する。
【0132】
図13(イ)は、燃料棒駆動装置50による燃料棒の引抜操作時の1ステップにおけるLIFT信号とMG信号とSG信号及びACC信号を表示している。また、図13(ロ)は、燃料棒駆動装置50による燃料棒の挿入操作時の1ステップにおけるLIFT信号とMG信号とSG信号及びACC信号を表示している。
【0133】
上記第1診断部42の上記表示部46での表示にあっては、図13(イ)、(ロ)における波形信号のみが表示される。この第1診断部42でのステッピング試検にあっては、上記LIFT信号とMG信号とSG信号及びACC信号の各信号間の時間的な発生タイミング、即ち、上記LIFTコイル51,MGコイル52及びSGコイル53の動作順序(ON−OFF)が目視により確認できれば足りることから、波形信号の表示のみで十分だからである。
【0134】
これに対して、上記第2診断部43の第3演算部48においては、図13(イ)、(ロ)のように、LIFT信号とMG信号とSG信号及びACC信号の波形表示とともに、分析処理の結果が付され、さらに図14(イ)、(ロ)に示すようなデータ表示がなされる。
【0135】
ここで、上記分析処理において分析対象となる諸元としては、図13及び図14に示すように、上記LIFTコイル51とMGコイル52及びSGコイル53のそれぞれについて規定されている。
【0136】
上記LIFTコイル51の動作に関しては、該LIFTコイル51の励磁開始時点から1ステップの引抜又は挿入が開始されるまでの時間「TLin」と、上記LIFTコイル51の消磁開始時点から1ステップの引抜又は挿入が終了するまでの時間「TLout」であり、
【0137】
上記MGコイル52の動作に関しては、該MGコイル52の励磁開始時点から駆動軸56に対するグリップ動作が完了するまでの時間「TMin」と、上記MGコイル52の消磁開始時点から駆動軸56に対するグリップ開放が終了するまでの時間「TMout」であり、
【0138】
上記SGコイル53の動作に関しては、該SGコイル53の消磁開始時点から駆動軸56に対するグリップ開放が完了するまでの時間「TSout」と、上記SGコイル53の励磁開始時点から駆動軸56に対するグリップ動作が完了するまでの時間「TSin」である。
【0139】
また、これらLIFTコイル51とMGコイル52及びSGコイル53の三者間におけ
る動作に関しては、
「TMin」の到達時点から「TSout」の開始時点までの時間「dTMS」と、
「TMout」の開始時点から「TSin」の到達時点までの時間「dTSM」と、
「TMout」の到達時点から「TLout」の到達時点までの時間「dTML」である。
【0140】
なお、「TMin」の到達時点と、「TSout」の到達時点と、「TLin」の到達時点と、「TSin」の到達時点と、「TMout」の到達時点と、「TLout」の到達時点については、全て上記ACC信号の立上り時点で判断する。
【0141】
ところで、このような各諸元を分析処理しその適否を診断するに際しては、上記燃料棒駆動装置50側からのデータを収集するが、通常、該燃料棒駆動装置50を数ステップ連続して運転させるとともに、その連続運転期間におけるデータの全部を連続して収拾するようにしているため、分析の準備として、連続した数ステップ分のデータをステップ毎に切り分ける必要がある。また、このステップ毎の切り分けを行うためには、ステップ毎の収集開始時点を設定する必要がある。
【0142】
係る場合、一つの方法として、制御系全体を一括する制御信号を用いることが知られているが、この制御信号は制御の信頼性の確保等の観点からして極めて重要な信号であるため、あるいは測定回路をシンプルにし信頼性の向上と低コスト化のために、この制御信号を用いることなく上述のステップ毎の切り分けを行うことができれば好都合である。
【0143】
そこで、この実施形態では、上記LIFT信号とMG信号とSG信号の何れかを、切り分けのための基準信号として利用するようにしたものである。この場合、図13に示すように、これらLIFT信号とMG信号及びSG信号を対比すると、LIFT信号の立上り形状は、他の信号に比して明確で極めて判定がし易い点に着目し、このLIFT信号を基準信号として利用するようにしている。
【0144】
具体的には、図13に示すようにLIFT信号における上記LIFTコイル51の励磁開始時点(「TLin」の開始点)から時間「ts」だけ遡った時点を切り分けの基準位置として設定する。そして、この基準位置から、該基準位置における各信号の状態が再度繰り返される位置までの範囲を、1ステップの信号切り分け範囲としている。なお、この実施形態では上記LIFTコイル51の励磁開始時点が特許請求の範囲における「特定の波形点」に該当する。また、切り分けの基準位置を制御回路から求める(例えば、操作員による操作レバーのON操作から一定時間の経過時点を切り分けの基準位置とする等)ことも考えられる。
【0145】
このように各ステップの信号を順次収集し、これを上記第3演算部48において演算により分析する。そして、この分析結果が、図13に示すように数値が付された波形信号として、また図14に示すように数ステップの分析データとして表示される。
【0146】
従って、試験者は、表示される波形信号及びデータを目視してここに記載された各諸元及びその良否を確認し、これによって上記燃料棒駆動装置50の診断を容易に且つ精度良く行うことができるものである。
【0147】
III:第3の実施形態
図15には、電動機器として複数の制御棒駆動装置50A〜50Dが備えられ且つこれら複数の燃料棒駆動装置50A〜50Dを、それぞれ4本を一組として同時にデータの収集を行い、さらに該データに基づく各種の諸元を分析して上記各制御棒駆動装置50A〜50Dの診断を行うものを示している。
【0148】
そして、この例では、上記4本の燃料棒駆動装置50の各三個のコイル51,52,53のそれぞれに接続された12本の電力線2、即ち、各燃料棒駆動装置50の上記各LIFTコイル51にそれぞれ接続された電力線2A1、2B1、2C1,2D1、上記各MGコイル52にそれぞれ接続された電力線2A2、2B2、2C2,2D2、及び上記SGコイル53にそれぞれ接続された電力線2A3、2B3、2C3,2D3を、同じコイルに接続された4本の電力線同士に区分けして一纏めとし、それぞれ電線管1A〜1Cに収容している。
【0149】
そして、これら同種の4本の電力線が収容された上記各電線管1A〜1Cのそれぞれに磁場センサ8A,8B,8C等を取付け、該各磁場センサ8A,8B,8C等によって検出される磁気信号に基づいて、上記各燃料棒駆動装置50A〜50Dの各コイル51〜53に供給される電流を取得し、これを上記診断装置41に入力して上記各燃料棒駆動装置50A〜50Dの診断を行うようになっている。
【0150】
なお、上記診断装置41における診断手法等については、上記第2の実施形態における場合と同様であるので、該第2の実施形態の該当説明を援用し、ここでの説明は省略する。
【0151】
ところで、上述のように、各電線管1A〜1Cのそれぞれに上記各燃料棒駆動装置50A〜50Dの同じコイルに接続された電力線2A1〜2D1,2A2〜2D2,2A3〜2D3を収容した状態で、上記磁場センサ8A,8B,8Cによって電磁信号を検出する場合、どの信号がどの燃料棒駆動装置からの信号であるかを正確に判断することは難しいが、この実施形態では以下のような手法を採用することで、これを解決している。
【0152】
即ち、上記電線管1Cについて説明すると、図15に拡大図示するように、該電線管1Cの外周に所定間隔で複数(この実施形態では6個)の磁場センサ8A〜8Fと取付ける。そして、この状態で、上記各燃料棒駆動装置50A〜50Dのそれぞれに所要の時間差をもって基準電流を流すとともに、上記電線管1Cに設けられた上記各磁場センサ8A〜8Fによって磁気信号を検出する。この場合、上記各磁場センサ8A〜8Fのそれぞれにおいて、上記各電力線2A3〜2D3から発生する磁気信号が検出される。しかし、同一の磁場センサで、該磁場センサからの距離が異なる電力線2から発生する複数の磁気信号を検出した場合、その距離が近い電力線2から発生した磁気信号ほど検出される信号レベル(電圧値)が高くなることは周知である。
【0153】
そこで、一つの燃料棒駆動装置50のSGコイル53に基準電流を流したとき、上記各磁場センサ8A〜8Fのうち、最も高いレベルの信号を検出した磁場センサを選定する。これによって、その磁場センサ8で検出されるのは上記一つの燃料棒駆動装置50のSGコイル53からの影響が最も大きい磁気信号であることが特定される。このようにして、上記各燃料棒駆動装置50A〜50DのSGコイル53と、該SGコイル53からの磁気信号を検出する磁場センサ8の組み合わせを、上記各燃料棒駆動装置50A〜50Dのすべてについて特定し、これをデータベース化して保有する。
【0154】
また、この燃料棒駆動装置50A〜50Dとこれに対応する磁場センサ8の組み合わせを特定すると同時に、基準電流とそれに基づく磁気信号との対応関係を求め、これもデータデース化して保有すれば良い。
【0155】
このような二つのデータベースを保有すれば、次回以降は、上記磁場センサ8のみによって、複数の燃料棒駆動装置50A〜50Dの各コイル51〜53に供給される電流を簡単且つ高精度で取得することができるものである。そして、この電気信号を用いることで
、4本の燃料棒駆動装置50A〜50Dの診断を上記診断装置41において同時に行うことができ、診断作業の効率化が促進される。
【図面の簡単な説明】
【0156】
【図1】本願発明に係る診断方法を電動弁の診断に適用した第1の実施形態における全体システム図である。
【図2】磁場センサを用いた磁気信号測定手法の説明図である。
【図3】磁気(電流)信号とヨーク応力の第1の相関図である。
【図4】磁気(電流)信号とヨーク応力の第2の相関図である。
【図5】磁気(電流)信号とヨーク応力の第3の相関図である。
【図6】磁気(電流)信号とヨーク応力の第4の相関図である。
【図7】磁気(電流)信号とヨーク応力の第5の相関図である。
【図8】磁場センサによる出力パターンの取得方法の説明図である。
【図9】磁場センサ信号の電線位置との関係における出力パターン図である。
【図10】磁場センサ信号の実出力パターン図である。
【図11】電動弁の開作動時におけるヨーク応力の変化状態説明図である。
【図12】本願発明に係る診断方法を燃料棒駆動装置の診断に適用した第2の実施形態における全体システム図である。
【図13】燃料棒駆動装置の燃料棒引抜操作と挿入操作における波形信号の表示画面である。
【図14】燃料棒駆動装置の燃料棒引抜操作と挿入操作における波形信号の分析データである。
【図15】本願発明に係る診断方法を燃料棒駆動装置の診断に適用した第3の実施形態における全体システム図である。
【図16】連続ステッピング試験における波形例を示す波形図である。
【符号の説明】
【0157】
1 ・・電線管
1A〜1C・・電線管
2 ・・電力線
4 ・・フレキシブル管部
5 ・・電動機
6 ・・電気箱
7 ・・電源線
8 ・・磁場センサ
10 ・・電動弁
11 ・・弁本体部
12 ・・弁座部
13 ・・弁体
14 ・・弁棒
15 ・・ヨーク
16 ・・弁駆動部
21 ・・ウォーム軸
22 ・・ウォーム
23 ・・ウォームホイール
24 ・・スプリングカートリッジ
25 ・・ヨーク応力センサ
26 ・・ドライブスリーブ
29 ・・電気制御盤
30 ・・診断装置
31 ・・磁気信号演算手段
32 ・・電気信号演算手段
33 ・・磁気−電気信号データベース
34 ・・磁気信号−物理量データベース
35 ・・出力パターンデータベース
36 ・・診断手段
37 ・・出力手段
38 ・・表示手段
39 ・・警報手段
40 ・・物理量信号演算手段
41 ・・診断装置
42 ・・第1診断部
43 ・・第2診断部
44 ・・第1演算部
45 ・・第2演算部
46 ・・表示部
47 ・・第1出力部
48 ・・第3演算部
49 ・・第2出力部
50 ・・燃料棒駆動装置
51 ・・第1の電磁コイル(LIFTコイル)
52 ・・第2の電磁コイル(MGコイル)
53 ・・第3の電磁コイル(SGコイル)
54 ・・振動センサ(加速度計)
U,V,W ・・電線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機器に入力される電気量に対応する電気信号と、該電動機器側において得られる他の物理量との相関に基づいて電動機器の診断を行うことを特徴とする電動機器の診断方法。
【請求項2】
請求項1において、
上記電気信号を、上記電動機器に給電する電力線を収納した電線管における上記電力線との幾何学的な相対位置が変化しない部位に配置された複数の磁場センサにより取得される基準磁気信号と該基準磁気信号に対応する基準電気信号の相関データベースを参照して、測定により取得される磁気信号に対応する電気信号として取得することを特徴とする電動機器の診断方法。
【請求項3】
請求項2において、
予め上記電線管内における上記電力線の各電線の位置を上記電線管内で変化させたときの各位置での上記各磁場センサの磁気信号相互間の基準出力パターンを取得しておき、該基準出力パターンと測定により取得される上記各磁場センサの磁気信号相互間の実出力パターンを対比することで、該実出力パターンに対応する基準出力パターンから上記電線管内における上記各電線の位置情報を取得し、この位置情報を診断に反映させることを特徴とする電動機器の診断方法。
【請求項4】
請求項2において、
測定により取得される上記磁気信号と上記他の物理量の相関を示す実相関パターンと、予め取得した基準状態における磁気信号と他の物理量の基準相関パターンを対比し、これら両パターンの相違状態に基づいて電動機器の診断を行うことを特徴とする電動機器の診断方法。
【請求項5】
請求項1又は2において、
上記電気信号と上記他の物理量をそれぞれ波形信号として表示し、これら各波形信号相互間における発生タイミングの適否、又は繰り返して表示される各波形信号と該各波形信号の全繰り返し期間における平均値との偏差に基づいて、上記電動機器の診断を行うことを特徴とする電動機器の診断方法。
【請求項6】
請求項1又は2において、
上記電動機器が複数の電動部で構成され且つ該各電動部のそれぞれに対応する電力線毎に上記電気信号が取得されるものであって、
上記各電気信号と上記他の物理量をそれぞれ波形信号として表示し、上記各電動部毎に、上記各波形信号相互間における発生タイミングの適否、又は繰り返して表示される各波形信号と該各波形信号の全繰り返し期間における平均値との偏差に基づいて、上記電動機器の診断を行うことを特徴とする電動機器の診断方法。
【請求項7】
請求項6において、
上記各電気信号に基づく各波形信号のうちの何れか一つの波形信号を基準波形として選択し、
該基準波形の特定の波形点を基準として、上記各波形信号及び上記他の物理量に基づいて上記各電動部の作動諸元を取得し、該作動諸元を分析処理することで上記電動機器の診断を行うことを特徴とする電動機器の診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−159968(P2010−159968A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−268753(P2007−268753)
【出願日】平成19年10月16日(2007.10.16)
【出願人】(000144991)株式会社四国総合研究所 (116)
【Fターム(参考)】