説明

電動機駆動システム

【課題】 制御装置の減速時間と安全機能装置の出力とを同期させることによって、安全かつ確実に電動機を減速・停止させること。
【解決手段】 電動機を可変速運転する制御装置と、電動機を安全に停止させるために制御装置へ停止指令を出力する安全機能装置とを有する電動機駆動システムにおいて、安全機能装置に、電動機を停止させる前に電動機を減速するための減速指令を制御装置へ出力する手段と、減速指令の出力から計測を開始する計時手段と、計時手段が予め定めた設定時間に達したときに制御装置へ停止指令を出力する手段とを設け、制御装置は、減速指令を入力したときに、設定時間よりも短い減速時間で電動機を減速させるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータやサーボアンプなどを制御する制御装置に異常が発生したときに安全に減速停止させることのできる電動機駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー化のニーズに伴ってインバータやサーボアンプなど電動機を可変速駆動する電力変換器が普及している。一方、エレベータや回転ドアの事故などが社会問題化しており、電気・機械機器の異常動作が人体に大きな影響を与える場合があるので、特に装置の異常を監視して、異常検出時には安全かつ確実に機器を停止させる機能が重要になる。
【0003】
電動機を停止させる場合には、電動機に供給するエネルギーを遮断する安全トルクオフ機能(STO)があるが、電動機の回転中にエネルギーを遮断すると、電動機は慣性で回転し続けることになるため、用途によっては危険が伴うことがある。
【0004】
このため、従来の制御装置には、異常を検出すると予め設定された減速傾きで停止する機能が設けられている。また、特許文献1では、電動機を駆動するための制御信号を生成する制御装置とは独立して、この制御装置の異常監視を行う安全機能装置を設け、異常を検出した時に制御信号を遮断することにより電動機を停止させる電動機駆動システムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第7253577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の従来の技術による安全機能装置によれば、安全機能装置と制御装置とを分離して、減速指令を制御装置側に出力するので、制御装置には減速時間が安全機能の設定時間とは別に存在することになる。このため、制御装置の減速時間と安全機能装置の設定時間との間に差違が生じ、減速を開始した後、安全機能装置の設定時間とは無関係に減速する。その結果、まだ高速回転中にも関わらず停止指令を出力し、あるいは電動機がほとんど回転していない状態が長時間継続しているにも関わらず停止指令が出力されないという事態が生ずるおそれがある。このような事態が発生すると、駆動対象の装置に損傷を与えたり、人体に被害を及ぼしたりする可能性があり好ましくない。
【0007】
本発明は、上述の係る事情に鑑みてなされたものであり、制御装置と安全機能装置とによって構成される電動機駆動システムにおいて、制御装置の減速時間と安全機能装置の出力とを同期させることによって、安全かつ確実に電動機を減速・停止させることのできる電動機駆動システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明に係わる電動機駆動システムは、電動機を可変速運転する制御装置と、電動機を安全に停止させるために制御装置へ停止指令を出力する安全機能装置とを有する電動機駆動システムであって、安全機能装置は、電動機を停止させる前に電動機を減速するための減速指令を制御装置へ出力する手段と、減速指令の出力から計測を開始する計時手段と、計時手段が予め定めた設定時間に達したときに制御装置へ停止指令を出力する手段と、を備え、制御装置は、減速指令を入力したときに、設定時間よりも短い減速時間で電動機を減速させるように構成されていることを特徴とする。
【0009】
なお、制御装置は、減速指令が入力された時点での電動機速度指令値と減速時間に基づいて、電動機を減速させるための減速傾きを演算し、当該減速傾きにより電動機を減速させるようにする。
【0010】
本発明では、安全機能装置が減速指令を出力してから停止指令を出力するまでの時間よりも短い時間で電動機の回転速度が零になるように制御することによって、電動機を滑らかにかつ安全に停止させることができる。
【0011】
好ましくは、設定時間と減速時間の時間差を電動機の特性等によって調整可能にすれば、安全機能装置を独立して取り扱うことができ、既設の制御装置と組み合わせて使用することも可能になる。
【0012】
本発明に係わる電動機駆動システムの安全機能装置は、自己診断手段を備え、当該自己診断手段によって異常が検出されたときは、制御装置が減速指令を実行中か否かに関わらず、制御装置から電動機へ出力される制御信号を遮断することによって電動機を停止することを特徴とする。
【0013】
本発明では、自己診断手段によって異常が検出されたときに、制御装置から電動機へ出力される制御信号を遮断することによって直ちに電動機を停止させる。
【0014】
本発明に係わる電動機駆動システムの安全機能装置は、自己診断手段によって複数の異常モードを検出可能であり、検出した異常モードごとに異なる減速時間で制御装置へ減速指令を出力することを特徴とする。
【0015】
本発明では、異常モードごとに異なる減速時間で制御装置へ減速指令を出力するので、異常の状態に応じて適切な減速・停止制御が可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、駆動信号を生成する制御装置とは独立に安全機能を実現する安全機能装置を設け、安全機能装置が減速指令を出力してから停止指令を出力するまでの設定時間と、制御装置が減速指令を入力してから電動機の回転速度が零に到達するまでの減速時間に時間差を設け、設定時間よりも早く減速するようにしたので、電動機を安全に停止させることができる。また、これにより電動機に取り付けられているブレーキ手段などの機械の安全を確保することができる。
【0017】
さらに、異常モードごとに異なる減速時間で制御装置へ減速指令を出力することにより、異常の状態に応じて適切な電動機の減速・停止制御が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第1の実施の形態による電動機駆動システム1の機能ブロック図である。
【図2】本発明の実施の形態による平常時の減速傾きと安全機能装置からの減速指令によって減速する場合の減速傾き、および設定時間との比較を示す説明図である。
【図3】図1の安全機能装置20の安全演算手段21a,21bの減速処理の手順を示すフローチャートである。
【図4】図1の制御装置10の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明の第2の実施の形態による電動機駆動システム1の機能ブロック図である。
【図6】図5の設定時間テーブルのデータ構成図である。
【図7】図5の安全演算手段21の初期化処理の手順を示すフローチャートである。
【図8】図5の安全演算手段21の異常検出時の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、図1〜図8は、本発明の電動機駆動システムに係る実施の形態を説明するための図面であって、これらの図面によって本発明が限定されるものではない。
【0020】
図1は、第1の実施の形態による電動機駆動システム1の機能ブロック図である。ここで、電動機駆動システム1は、電動機4を可変速制御する制御装置10と、電動機4を安全に停止させるために制御装置10へ停止指令等の信号を出力する安全機能装置20を備える。
【0021】
また、インバータ3は、制御装置10から出力されるPWM信号によって、電源2を所定の周波数に変換して電動機4に供給し、エレベータ等の負荷8を可変速制御している。負荷8は、ブレーキ機構6を有し、安全機能装置20からのブレーキ指令によって停止する構成になっている。
【0022】
制御装置10は、減速の際、電動機の回転速度と減速経過時間との関係を示す減速傾きを計算する減速傾き演算手段11、この減速傾きに基づいて電動機の回転速度を制御するための速度信号を出力する速度制御手段12、この速度信号と電流・電圧センサ9を介して入力したインバータ3の出力値とを比較してPWM信号を生成するPWM発生手段13、および、安全機能装置20からの停止指令によってPWM信号を遮断するゲート手段15を有する。
【0023】
また、安全機能装置20は、外部から入力される停止指令や減速指令をもとに回転速度を零にするまでの減速時間、減速指令、停止指令を生成して制御装置10へ出力し、また負荷8のブレーキ機構6に対してブレーキ指令を出力するCPU機能を有する一対の安全演算手段21a,21bで構成されている。
【0024】
次に上記の構成を有する電動機駆動システム1の平常時の動作を説明する。電動機駆動システム1の制御装置10は、外部から入力される運転指令を検知すると、速度制御手段12が指令速度とエンコーダ5の帰還速度との偏差から電動機4に供給するトルクや電力を演算し、演算結果をPWM発生手段13に出力する。PWM発生手段13は、この演算結果と電流・電圧センサ9を介して入力されるインバータ3の出力値とを比較してインバータ3の半導体スイッチを入切するPWM信号を生成する。このPWM信号はゲート回路14を経由してインバータ3に送られる。これにより、インバータ3の半導体スイッチが入切され、適切なトルクおよび電力で電動機4を駆動している。
【0025】
次に電動機駆動システム1の停止時の動作概要を説明する。
外部に設けられている図示しない異常監視装置等によって異常が検知されると、停止指令が電動機駆動システム1の安全機能装置20に送られる。安全機能装置20は、停止指令が入力されると安全演算手段21a,21bによってこれを検知し、制御装置10に対して減速指令および回転速度を零にするまでの減速時間を出力する。また、安全機能装置20は設定時間後にPWM信号を停止するための停止指令を作成し、制御装置10へ出力する。制御装置10は、この停止指令が入力されると、論理回路で構成されるゲート手段15によって、PWM信号の有無に関わらず、インバータ3の全ての半導体スイッチがOFFとなる論理を生成することによって、インバータ3への出力を停止させる。
【0026】
安全演算手段21a,21bは、自己診断や相互診断を行っている。自己診断としては、例えばクロック異常となるような異常モードになると停止指令を出力して制御装置10のゲート手段15をOFFにすることによって制御信号を停止させる。
【0027】
また、電動機4には負荷8が接続されている。安全演算手段21a,21bは、負荷8を停止させる場合にブレーキ機構6へブレーキ指令を出力する。それぞれの安全演算手段21a,21bから出力されたブレーキ指令は、リレー回路7によってOR条件でブレーキ機構6に入力され、これによりブレーキ機構6が動作する。
【0028】
なお、図1では、安全演算手段を2つ設け、安全演算手段の一方が故障した場合でも、他方の安全演算手段で制御信号(PWM信号)を停止させる構成となっている。この二重化構成は、デュアル構成あるいはデュープレックス構成などの既存の技術を用いるものとする。
【0029】
なお、安全演算手段を単一構成として、自己診断機能を高めて、故障率を安全規格等に適合する程度に低くすることも可能であるが、安全演算手段の多重化については本発明の目的ではないので説明を省略する。
【0030】
次に、図2〜図4を用いて、本実施の形態による主要な減速時の処理について説明する。図2は、制御装置10において、平常時の減速・停止動作によって停止する場合の電動機の回転速度の変化率(以下、減速傾きという。)と、安全機能装置20からの減速指令によって減速する場合の減速傾きの比較を示している。縦軸は電動機4の回転速度、横軸は時間を表している。
【0031】
制御装置10は、安全機能装置20から減速指令がない場合(平常時)は、指令速度どおりの帰還速度になるように速度制御を行っている。図2の点線で示す制御装置10側で設定した減速傾きは平常時に停止するときの減速傾きであり、制御装置10に初期値として予め登録されている電動機の回転速度が零に到達するまでの減速時間や、安全機能とは関係なく平常時の加減速運転の際に設定する減速時間などから算出される。
【0032】
また、安全機能装置20で外部から停止指令を入力してから制御装置10へ停止指令を出力するまでの時間(設定時間)と、制御装置10に渡す減速時間との関係は、図2に示すように減速時間の方が設定時間よりも若干短くなっている。この時間差は、電動機や負荷の特性によって異なるものである。
【0033】
制御装置10の減速傾き演算手段11は、安全機能装置20から減速指令と減速時間が入力されると、この減速時間と現時点の回転速度状態から減速傾きを演算する。
【0034】
安全機能装置20から渡される減速時間をTstop、制御装置10のサンプル周期をTs、減速開始時の回転速度をωrとすると、1制御サンプル(制御信号の演算周期)の間に減速する速度指令Δωrは(1)式となる。
【数1】

【0035】
ここで、Δωrは減速開始時の回転速度ωrが正(予めモータの回転方向で正回転と定義された方向に回転している場合)であれば、正の値となり、負(逆回転)であれば負の値となる。
【0036】
したがって、速度制御手段12で用いる演算周期ごとの速度指令値ω*rは、(1)式のΔωrと1制御サンプル前の速度指令値ω*r0とを用いて(2)式によって求めることができる。
【数2】

【0037】
図3は、安全機能装置20の安全演算手段21a,21bの減速処理の手順を示すフローチャートである。
【0038】
図3において、安全機能装置20の安全演算手段21a,21bは、停止指令が入力されると(S101で「Yes」)、制御装置10へ減速指令を出力するとともに(S102)、減速時間Tstopを制御装置10へ出力する(S103)。この減速時間Tstopは、インバータ3が電動機を制動させるために出力できる電力の範囲内で負荷が安全に停止できる時間によって予め定められた時間である。なお、減速時間Tstopは、安全機能装置20または安全演算手段21a,21b内の図示しないメモリに予め格納しておくものとする。
【0039】
そして、安全演算手段21a,21bは、安全機能装置20が減速中か否かを判定し(S104)、減速中でなければ(S104で「No」)、安全演算手段21a,21bの有するタイマに設定時間に対応したカウント値をセットする(S106)。一方、減速中の場合は(S104で「Yes」)、カウントダウンを実施し(S105)、カウント値が零になるまで継続する(S107)。
【0040】
なお、減速中か否かは、フラグを用いることによって判別することができる。すなわち、初期状態として減速中フラグをリセット状態にしておき、ステップS104で減速中フラグがリセット状態ならば、減速中でないとしてタイマをセットするとともに減速中フラグをセット状態する。一方、減速中フラグがセット状態のときはタイマカウントを継続するようにする。
【0041】
安全演算手段21a,21bは、ステップS107でカウント値が零になると、制御装置10へ停止指令を出力し(S108)、またブレーキ機構6が存在する場合はブレーキを動作させるためのブレーキ指令を出力する(S109)。このブレーキ指令は、一対の安全演算手段21a,21bのそれぞれから出力され、リレー回路7によってOR条件でブレーキ機構6へ出力される。その後、安全演算手段21a,21bは制御装置10に対して出力した減速指令と停止指令を解除する(S110)。
【0042】
次に図4を用いて制御装置10の減速傾き演算手段11と速度制御手段12の動作を説明する。
【0043】
安全機能装置20からの減速指令が入力されると(S201)、制御装置10の減速傾き演算手段11は、最初に減速指令を入力したときに(S202で「Yes」)エンコーダ5から入力された電動機4の回転速度ωr、減速時間Tstopおよび予め設定されているサンプル周期Tsを用いて、(1)式により減速傾きを計算して速度制御手段12へ出力する(S203,S204)。速度制御手段12は、速度指令値ω*rが零に達した否かを判定し(S205)、達していない場合は(S205で「Yes」)、(2)式により新たな速度指令値ω*rを演算してPWM発生手段13へ出力する(S207)。これによって電動機4は減速していく。
【0044】
ステップS205で速度指令値が零に達した場合は、速度制御手段12は速度零にて運転を継続する(S206)。そして、安全機能装置20からの停止指令によってゲート回路14がOFFし、運転を停止する(S209)。なお、ステップS201において安全機能装置20から減速指令がない場合は、通常運転を実行する(S210)。
以上、本実施の形態によれば、制御装置10で用いられる減速時間Tstopは、安全機能装置20で用いられる設定時間よりも若干短く設定されているので、制御装置10と安全機能装置20との間に演算時間の誤差があっても、確実に回転速度を零付近に制御した後に停止処理を行うことができる。
【0045】
また、図4の処理手順に示すように、安全機能装置20からの減速指令の有無によって減速・停止動作と通常運転とを切り分けているので、制御装置10は安全機能装置20からの減速指令によって減速動作を行った場合には、安全機能装置20にて停止指令があるまでは回転速度が低くなっていても自ら停止は行わずに、確実に安全機能装置20にて停止を実現することができる。
【0046】
なお、本実施の形態では、(1)式の計算において減速開始時における帰還速度ωを用いて1制御サンプル間に減速する速度指令値Δωrを求めたが、速度センサを持たない場合には、安全機能装置20からの減速指令が入力されたときの速度指令値をもとに(1)式を計算すれば同様の効果を得ることができる。また、速度制御手段12を持たない制御装置10の場合には(2)式を用いずに、上記の速度指令値Δωrをもとに計算した減速傾きで、PWM発生手段13内の出力電圧指令の周波数を減少させていけば実現可能である。
【0047】
次に、本発明の第2の実施の形態を説明する。図5は、第2の実施の形態による電動機駆動システム1の機能ブロック図である。本実施の形態では、安全演算手段21が一重化の場合について説明するが、必要により第1の実施の形態のように多重化構成をとることも可能である。
【0048】
図1との主な違いは、安全機能装置20が安全演算手段21から出力された減速時間をラッチする減速時間保持手段22、減速時間と設定時間との時間差をラッチする時間差保持手段23、減速傾き演算手段11からの読み出し要求によって減速時間を出力する減速時間用ゲート回路24、安全演算手段21からの減速指令をラッチする減速指令保持手段25、ウォッチドッグタイマ回路(WDT)26、内部クロックで動作するカウンタである計時手段28、設定時間等の情報を保存する設定時間テーブル29を備えていることである。この設定時間テーブル29には、図6に示すように、異常モードごとに制御装置10へ出力すべき減速時間と設定時間との時間差が予め保存されている。ここで、異常モード1〜Nは、外部から、あるいは安全機能装置内で検出し安全演算手段21に入力される異常検出信号1〜Nにそれぞれ対応している。またCPUストールエラーとは、CPUが周期的に出力するリセット信号によってリセットされるWDT26が、一定時間リセット信号が来ないことを検知したエラーである。
【0049】
このように設定時間テーブル29には、エラーモードごとに減速時間と時間差が予め関連付けられて保存されている。この減速時間は、所定桁の下位ビット(たとえばLSBから4桁)がすべて零になっており、時間差は、所定桁の下位ビットのみによって表される数値となっている。なお、減速時間と時間差の値は、内部クロックの周期をもとに決められる。
【0050】
次に図7、図8を用いて安全機能装置20の動作を説明する。
(初期化処理)
安全演算手段21は、初期化処理において、設定時間テーブル29からCPUストールエラーに対応する減速時間と時間差を読み出して(S301)、それぞれ減速時間保持手段22と時間差保持手段23に対して書き込み動作を行う(S302,S303)。なお、減速時間保持手段22は、減速時間の有効ビットに対応する上位桁のみをラッチし、時間差保持手段23は、下位桁のみをラッチする。
【0051】
これらラッチされた値のうち減速時間は、ハードウェア回路によって構成される計時手段28の上位桁の入力となり、時間差は、計時手段28の下位桁の入力となる。また、減速時間保持手段22の出力、すなわちラッチされた減速時間の上位桁は、減速時間用ゲート回路24の上位桁の入力になる。一方、減速時間用ゲート回路24の入力の下位桁は零にセットされている。
【0052】
以上が時間設定の初期化処理である。なお、初期化処理の終了後、安全演算手段21からの許可信号によって、制御装置10の起動を開始するようにすると、より信頼性の高いシステムを構築することができる。
【0053】
(異常検知処理)
この状態で、安全演算手段21は、異常検出信号1〜Nのうちいずれかを検知すると、どの異常検出信号からの入力かを判定して(S401)、設定時間テーブル29を参照してその異常検出信号に相当する異常モードの減速時間と時間差を抽出し(S402)、上記ステップS302,ステップS303と同様の処理によって、それぞれ減速時間保持手段22と時間差保持手段23に書き込む(S403,S404)。書き込まれた値のうち、減速時間は計時手段28および減速時間用ゲート回路24の上位桁の入力となり、時間差は、計時手段28の下位桁の入力となる。
【0054】
次に、安全演算手段21は、減速指令保持手段25に「1」を書き込む(S405)。これにより、減速指令保持手段25がONになり、制御装置10の減速傾き演算手段11に減速指令が出力される。
【0055】
減速傾き演算手段11は、この減速指令を入力すると、減速時間用ゲート回路24から減速時間を読みこみ、図4に示す処理によって、減速運転を実行する。
【0056】
一方、安全演算手段21は、減速指令を出力すると同時に計時手段28を起動する(S406)。安全演算手段21から出力された起動指令は、OR回路27を経由して計時手段28へ送られ、計時手段28はこれを検知して入力信号である減速時間と時間差、すなわち設定時間を取り込んで、その値からカウントダウンを開始する。そして零になると停止指令を出力する。なお、必要により、減速時間と時間差の1の補数を算出し、その値を計時手段28の入力にして、起動信号(ロード/イネーブル)によって入力値からカウントアップを開始して桁上がり信号によって停止指令を出力するようにしてもよい。
【0057】
計時手段28から出力された停止指令は、OR回路30と制御装置10のゲート回路14に送られる。ゲート回路14は、停止指令によってゲートがOFFして、PWM信号が遮断される。一方、OR回路30の出力がブレーキ機構6に伝えられ、負荷8にブレーキが掛かる。
【0058】
以上の処理の結果、減速時間と設定時間は、図2に示すように時間差を有するため、制御装置10の速度制御手段12によって電動機の回転速度が零になるまで確実に減速し、その後ゲート回路14がOFFになって停止動作となり、負荷8にブレーキが掛かることになる。なお、必要により、停止処理とブレーキ駆動処理との間に時間差を設けるようにしてもよい。
【0059】
なお、複数の異常検出信号が同時にONになった場合は、安全演算手段21は、設定時間テーブル29を参照して、異常検出信号がONになっている異常モードのうち、減速時間が一番短いモードの数値を選択するようにすることにより、緊急度に応じて適切な減速・停止処理が可能となる。
【0060】
(CPUストール時の処理)
初期化処理の後、CPUがストールすると、WDT26がこれを検知して異常出力を行う。この信号は、OR回路27を経由して計時手段28を起動するとともに、OR回路31を経由して減速指令保持手段25をONにする。これにより制御装置10は、図4の処理手順に従って減速処理を行う。なお、減速時間用ゲート回路24には、初期化時のCPUストールに対応した減速時間が設定されているので、この減速時間で回転速度が零になるように減速処理が行われる。また、計時手段28は、設定時間経過後に停止指令を出力して、ゲート回路14をOFFするとともに、負荷8にブレーキを掛ける。
【0061】
以上、本実施の形態によれば、設定時間テーブルに予めCPUストールも含めた異常モードごとの減速時間、および、減速時間と設定時間との時間差を保存するとともに、初期化時にCPUストールに対応した減速時間および時間差をセットしておき、異常検出信号の入力によってその信号に応じた異常モードに対応する時間をセットし直して、減速指令と停止指令を出力するので、安全機能装置20のCPUが監視中にストールしたとしても、確実に減速・停止処理を行うことができる。なお、必要により、制御装置10のCPUストール等の異常を異常検出信号の一つに割り当てて監視することによって、制御装置10のCPUが正常に機能しなくなっても、設定時間後に出力される停止指令により、最終段であるゲート回路14がOFFし、負荷ブレーキが掛かるので、確実に負荷8を停止させることができる。
【符号の説明】
【0062】
1 電動機駆動システム
2 電源
3 インバータ
4 電動機
5 エンコーダ
6 ブレーキ機構
8 負荷
9 電流・電圧センサ
10 制御装置
11 減速傾き演算手段
12 速度制御手段
13 PWM発生手段
14 ゲート回路
20 安全機能装置
21,21a,21b 安全演算手段
22 減速時間保持手段
23 時間差保持手段
24 減速時間用ゲート回路
25 減速指令保持手段
26 ウォッチドッグタイマ(WDT)
27,30,31 OR回路
28 計時手段
29 設定時間テーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動機を可変速運転する制御装置と、電動機を安全に停止させるために前記制御装置へ停止指令を出力する安全機能装置とを有する電動機駆動システムであって、
前記安全機能装置は、
前記電動機を停止させる前に前記電動機を減速するための減速指令を前記制御装置へ出力する手段と、
前記減速指令の出力から計測を開始する計時手段と、
前記計時手段が予め定めた設定時間に達したときに前記制御装置へ前記停止指令を出力する手段と、を備え、
前記制御装置は、前記減速指令を入力したときに、前記設定時間よりも短い減速時間で前記電動機を減速させるように構成されていることを特徴とする電動機駆動システム。
【請求項2】
請求項1に記載の電動機駆動システムにおいて、前記安全機能装置は、自己診断手段を備え、当該自己診断手段によって異常が検出されたときは、前記制御装置が前記減速指令を実行中か否かに関わらず、前記制御装置から前記電動機へ出力される制御信号を遮断することによって前記電動機を停止させることを特徴とする電動機駆動システム。
【請求項3】
請求項1に記載の電動機駆動システムにおいて、前記制御装置は、前記減速指令が入力された時点での電動機速度指令値と前記減速時間に基づいて、前記電動機を減速させるための減速傾きを演算し、当該減速傾きにより電動機を減速させることを特徴とする電動機駆動システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電動機駆動システムにおいて、前記安全機能装置は、前記自己診断手段によって複数の異常モードを検出可能であり、検出した異常モードごとに異なる減速時間で前記制御装置へ減速指令を出力することを特徴とする電動機駆動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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