電動補助自転車及び電動二輪車
【課題】車軸に沿って減速機、電動機、変速機構を並列に備えた構成において、装置をコンパクトにした電動補助自転車を提供する。
【解決手段】リアハブ内部に、変速機構11、減速機構10及び駆動用モータ8が車軸14の軸方向に並列して配置される。変速機構11は変速機用太陽歯車11aと、変速機用遊星歯車11b及び変速機用遊星キャリア11cとを備え、踏力を駆動輪に伝達する。減速機構10は減速機用太陽歯車10aと、減速機用遊星歯車10bとを備え、駆動用モータ8のモータ出力軸8aからの駆動力を駆動輪に伝達する。変速制御機構15は、変速機用太陽歯車11aと車軸14との間に設けたクラッチ部材16aを介して、変速機用太陽歯車11aを車軸14周りに回転可能又は回転不能とに切り替え変速を行う。変速機用遊星キャリア11cとモータ出力軸8aとは軸受部25によって回転自在に支持されている。
【解決手段】リアハブ内部に、変速機構11、減速機構10及び駆動用モータ8が車軸14の軸方向に並列して配置される。変速機構11は変速機用太陽歯車11aと、変速機用遊星歯車11b及び変速機用遊星キャリア11cとを備え、踏力を駆動輪に伝達する。減速機構10は減速機用太陽歯車10aと、減速機用遊星歯車10bとを備え、駆動用モータ8のモータ出力軸8aからの駆動力を駆動輪に伝達する。変速制御機構15は、変速機用太陽歯車11aと車軸14との間に設けたクラッチ部材16aを介して、変速機用太陽歯車11aを車軸14周りに回転可能又は回転不能とに切り替え変速を行う。変速機用遊星キャリア11cとモータ出力軸8aとは軸受部25によって回転自在に支持されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータにより人力駆動系に補助力を付加させる電動補助自転車及び電動二輪車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自転車の変速機には、様々な種類のものが存在する。このような中で、一般的には、クランク軸又は駆動輪の車軸の何れか一方、もしくは両方の同軸上に多段のスプロケットを設け、ディレイラーによってチェーンをスプロケット間で移動させることによって変速する方式(外装変速機)と、駆動輪のハブの内部に設けた歯車を掛けかえることによって変速する方式(内装変速機)がある。
【0003】
外装変速機は、構造が簡単で軽量であるが、スプロケットやチェーンが摩耗する原因になり、チェーン外れの原因にもなる。一方、内装変速機は、防塵、防水性に優れており、メンテナンスフリーといった利点があるため、シティサイクルに使われることが多い。
【0004】
ところで、電動モータにより人力駆動系に補助力を付加させる電動補助自転車や電動二輪車において、その自転車の駆動輪である後輪のリアハブ内に、モータ、減速機、変速機構が備えられたものがある。
なお、電動補助自転車と電動二輪車とは、アシスト比率等の要件によって法令上その呼び名が区別されるが、ここでは、以下、電動補助自転車と総称して説明する。
【0005】
このように、ハブに駆動用のモータを設けた、所謂ハブモータ方式の電動補助自転車は、これを、変速機と組み合わせる場合、前記外装変速機、又は内装変速機のいずれかを用いることができる。
【0006】
ただし、外装変速機を用いる場合、ハブの構造は、主としてモータと減速機とから構成されるので簡素となるが、前述のような外装変速機ゆえのメンテナンス上の問題がある。一方、内装変速機を用いる場合、ハブの構造は、モータ、減速機及び変速機構とから構成されるので、ハブ自体の構造は複雑となるが、前述のような内装変速機ゆえの利点があるので有利である。
【0007】
現在のところ、電動補助自転車はシティサイクルを中心に展開しており、その殆どが内装変速機を採用している。従って、ハブモータ方式の電動補助自転車においても、内装変速機構とすることが望ましいと考えられている。
【0008】
この種の内装変速機構を備えた電動補助自転車の構造として、例えば、特許文献1,2に記載のものがある。
【0009】
これらの構造では、ハブ内において、電動機(駆動用モータ)、減速機構、変速機構が配置されている。電動機による駆動機構としては、駆動用の電動機と、その電動機の回転数を減速する動力系の減速機構を内蔵している。また、人力の入力機構としては、駆動輪の車軸に入力用のスプロケットが設けられ、その車軸より外周に向かって変速機構、減速機構を順に配置している。
【0010】
ハブは、回転ケーシングと固定ケーシングとを備え、前記人力系の入力機構は回転ケーシング側に、前記電動機による駆動機構は、主として固定ケーシング側に配置されている。
【0011】
ペダルによって与えられた人力は、チェーンによって駆動輪のスプロケットに伝達され、変速機構で変速された後、人力系の減速機構に伝達されて、回転ケーシングを通じて駆動輪を回転させる。また、電動機による駆動力は、前述の人力系の減速機構とは別に備えた動力系の減速機構で減速されて、その後、回転ケーシングにおいて人力駆動力と電動駆動力とが合力されて、駆動輪に伝達される。
【0012】
このとき、電気信号に変換された前記人力による駆動力と、速度センサからの走行速度の電気信号とが、その電動補助自転車が備える制御部に入力され、その制御部が、所定の条件に基づいて駆動信号を出力し、電動機を制御するようになっている。
【0013】
しかし、これらの構造では、電動機は、車軸の軸心から偏心した位置に配置されている。このため、ハブの外径が大きくなるという問題がある。ハブの外径が大きいと、重量バランスが悪くなる傾向がある。
【0014】
この点、特許文献3,4に記載の構造によれば、減速機構、電動機、変速機構を車軸上に併設した構成となっているから、上記ハブの大型化は抑制できる。
【0015】
すなわち、これらの構造では、駆動輪である後輪のハブ内に、減速機構、電動機と変速機構とが車幅方向に並設されており、ペダルによって与えられた人力は、チェーンを介して後輪のスプロケットに伝達され、一方向クラッチを経て変速機で変速された後、回転ケーシングを通じて駆動輪を回転させる。また、電動機による駆動力は、その車軸の周囲に設けた遊星歯車機構からなる減速機構で減速されて、その後、回転ケーシングにおいて人力駆動力と電動駆動力とが合力されて、駆動輪に伝達されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平9−58568号公報
【特許文献2】特開2000−043780号公報
【特許文献3】特開2002−293285号公報
【特許文献4】特開2003−160089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、上記特許文献3,4に記載の構造によれば、電動機からの出力は減速機構を介してハブケース(回転ケーシング)に伝達され、ペダルからの駆動力は変速機構を介してハブケース(回転ケーシング)に伝達されている。
【0018】
このため、車軸の軸心に沿って並列する減速機、電動機、変速機構の三つの機構は、それぞれ独立した構造となっている。すなわち、人力駆動力の伝達機構と、電動駆動力の伝達機構とが、それぞれ別ルートで独立して介在している。
【0019】
駆動輪の車軸方向のスペースには限りがあるので、このような構造では、変速機構のスペースが小さくなり、変速段数を増やすことが困難である。
【0020】
そこで、この発明は、駆動輪のハブ内に、車軸の軸心に沿って減速機構、電動機、変速機構の三つの機構を並列に備えた構成において、装置をコンパクトにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の課題を解決するために、この発明は、駆動輪のハブ内部に、変速機構、減速機構及び駆動用モータを車軸の軸方向に並列して配置し、前記変速機構は、遊星歯車機構によって構成されて少なくとも一つの変速機用太陽歯車と、その変速機用太陽歯車に噛み合う変速機用遊星歯車、及びその変速機用遊星歯車を保持する変速機用遊星キャリアとを備え、ペダルからの踏力による駆動力を駆動輪に伝達し、前記減速機構は、遊星歯車機構によって構成されて少なくとも一つの減速機用太陽歯車と、その減速機用太陽歯車に噛み合う減速機用遊星歯車とを備え、前記減速機用遊星歯車は前記変速機用遊星キャリアで保持され、前記駆動用モータのモータ出力軸からの駆動力を駆動輪に伝達し、駆動力に対して前記変速機用太陽歯車を前記車軸の軸周りの一方向若しくは両方向に回転可能又は回転不能に切り替えて変速を行う変速制御機構を備え、前記変速機用遊星キャリアとモータ出力軸とを回転自在に支持する軸受部を備えることを特徴とする電動補助自転車又は電動二輪車を採用した。
【0022】
この構成によれば、駆動輪のハブ内部に、変速機構、減速機構及び駆動用モータが車軸方向に並列する構成において、減速機用遊星歯車が、変速機用遊星キャリア又はその変速機用遊星キャリアと一体に回転する部材で保持される。すなわち、変速機用と減速機用のキャリアを共通化することができ、車軸方向の装置のコンパクト化が実現できる。
【0023】
また、この構成によれば、駆動輪の車軸と駆動用モータのモータ出力軸とが軸方向に並列して配置されるが、仮に、その車軸とモータ出力軸とを直接支える構造とした場合、通常は、車軸に対して鉛直方向に荷重が作用すると、駆動輪のハブケースから変速機用遊星歯車を介して変速機用遊星キャリアに曲げモーメントが作用する。このとき、車軸にも曲げモーメントが作用し、モータ出力軸と車軸間の軸受等に過大な負荷が作用する懸念がある。
しかし、上記の構成のように、変速機用遊星キャリアで保持される減速機用遊星歯車と、駆動用モータのモータ出力軸とを軸受部で回転自在に支持することにより、車軸への曲げモーメントの負荷が抑制され、このような懸念を解消できる。
【0024】
さらに、変速機構として遊星歯車機構を備えたハブ内において、通常、遊星キャリアは、回転支持軸受によって車軸に対して片持ち支持される。また、その遊星キャリアに取付けられる遊星歯車は、その回転支持軸受から遠く離れた位置で、トルクの伝達が成される。このため、遊星歯車を支える遊星キャリア軸には大きな曲げの力が作用するので、その剛性が弱いと変位量が大きくなるという懸念がある。変位量が大きいと、遊星歯車と外輪歯車、若しくは、遊星歯車と太陽歯車との接触において、片当たりが生じる恐れがある。
そこで、上記のように、遊星キャリアを、車軸とモータ出力軸という2つの軸に回転支持することでその剛性を確保し、そのような片当たりの発生を抑制したものである。
【0025】
また、この構成において、前記ペダルからの踏力による駆動力は、前記ハブに対して前記車軸の軸方向一端側に設けたスプロケットを介して前記変速機構に入力され、前記ハブ内に、前記車軸の軸方向一端側から他端側に向かって変速機構、減速機構及び駆動用モータを並列して設けた構成を採用すれば、変速機構と減速機構とが近接するので、変速機用と減速機用のキャリアを共通化するための構造を簡素とし得る。
【0026】
また、これらの各構成において、前記変速機用遊星歯車と前記減速機用遊星歯車とは、互いに異なる遊星キャリア軸によって前記変速機用遊星キャリアにそれぞれ保持される構成を採用することもできるが、これを、同一の遊星キャリア軸によって前記変速機用遊星キャリアに保持される構成とすることができる。変速機用遊星歯車と減速機用遊星歯車とが、同一の遊星キャリア軸によって変速機用遊星キャリアに保持されれば、変速機用と減速機用のキャリアを共通化するための構造をさらに簡素とし得る。
【0027】
これらの各構成において、前記変速機用遊星歯車と前記減速機用遊星歯車とは同数とすることが望ましく、また、その場合、前記遊星キャリア軸を、前記変速機用遊星歯車及び前記減速機用遊星歯車と同数とすることが望ましい。さらに、前記変速機用遊星歯車と前記減速機用遊星歯車とは同数である場合において、前記遊星キャリア軸を、前記変速機用遊星歯車及び前記減速機用遊星歯車の数の二倍とすることもできる。
【0028】
また、前記変速機用遊星歯車と前記減速機用遊星歯車の数は自由に設定できるが、これらの数を同数とする場合には、例えば、その変速機用遊星歯車と減速機用遊星歯車の数をそれぞれ三個とする構成を採用することもできる。もちろん、個数にかかわらず、変速機用遊星歯車と減速機用遊星歯車は、それぞれ車軸の軸周りに等分方位に配置することが望ましい。
【0029】
また、これらの各構成において、前記変速機用遊星歯車と前記減速機用遊星歯車の間に間隔材を備え、その間隔材は、前記変速機用遊星歯車と前記減速機用遊星歯車とに接することにより緩衝材として機能する構成を採用することができる。
特に、同一の遊星キャリア軸で保持された変速機用遊星歯車と減速機用遊星歯車とは異なる回転数であることから、互いの接触によって発熱、若しくは磨耗の問題が生じる恐れがあるので、その間隔材によって、発熱、摩耗、あるいは、両者が直接触れることによる損傷等を防ぐことができるからである。
【0030】
あるいは、これらの各構成において、前記変速機用遊星歯車と前記減速機用遊星歯車との間に間隔材を備え、その間隔材は、全ての前記遊星キャリア軸を保持する構成を採用することができる。間隔材が遊星キャリア軸を保持することで、その遊星キャリア軸の鉛直方向荷重に対する剛性を高めることができる。
【0031】
なお、この間隔材は、前記変速機用遊星歯車と前記減速機用遊星歯車とに接することによる緩衝材としての機能と、全ての遊星キャリア軸を保持する機能とを併せ持つ構成を採用することもできる。
【0032】
これらの各構成において、前記変速制御機構は、前記変速機用太陽歯車と前記車軸との間に設けたクラッチ部材を介して前記回転可能又は回転不能の切り替えを行う構成を採用することができる。
すなわち、この構成によれば、変速制御機構は、変速機用太陽歯車と車軸との間に設けたクラッチ部材を介して、駆動力に対して、変速機用太陽歯車と前記車軸とを回転可能又は回転不能に切替えることができ、その切替えによって変速を可能とし得る。
【0033】
なお、この電動補助自転車又は電動二輪車に、回生機構を付加することもできる。すなわち、前記変速制御機構は、前記クラッチ部材を介して、前記変速機用太陽歯車と前記車軸との軸周り両方向の相対回転に対して、前記変速機用太陽歯車を前記車軸に回転可能又は回転不能に切替えることができ、前記駆動輪からの逆入力に対して、前記変速機用太陽歯車と前記車軸とを回転不能とすることにより、その逆入力により生じた回生電力を駆動用モータを通じて二次電池に還元する回生機構を備えた構成である。
【0034】
すなわち、ペダルからの踏力による駆動力に対してのみならず、駆動輪からの逆入力に対しても、変速機用太陽歯車を車軸回りに回転可能、回転不能に切替えすることができ、その切替えに応じた適宜の状態で駆動用モータに駆動輪からの逆入力が伝達されれば、回生充電が可能となる。
このとき、その駆動輪からの逆入力は、常に駆動用モータに伝達されて二次電池に回生充電が行われるが、回生充電を行うか否かは制御可能であり、例えば、ブレーキレバーの操作によって回生充電のスイッチが入るようにすることで、必要時にのみ最適条件で回生充電を行うように設定できる。
【0035】
また、ハブ内は、スペースに制約があることから、遊星歯車機構の太陽歯車の車軸方向長さは短くしなければならないが、この構成によれば、変速及び逆入力用のクラッチとして、クラッチ部材という同一の部材を用いることで、その機構を簡素化でき、また、装置の軸方向長さを短くすることができる。このクラッチ部材として、例えば、ボールもしくはキー、又はラチェット等を用いることができる。
【0036】
また、これらの各構成において、前記クラッチ部材は、前記車軸の軸方向に沿って移動可能なボールであり、そのボールが、前記車軸の軸方向に沿って移動することによって、前記回転可能又は回転不能の切り替えを行う構成を採用することができる。
【0037】
クラッチ部材としてボールを用いた構成において、前記ボールは、前記車軸の軸方向に沿って移動することにより、前記変速機用太陽歯車の内面に設けたカム面に対面する位置と、その対面する位置から離脱した位置との間で移動し、前記ボールが前記対面する位置にあれば、駆動力に対して前記変速機用太陽歯車が前記車軸の軸周りに回転不能となり、前記ボールが前記離脱した位置にあれば、駆動力に対して前記変速機用太陽歯車が前記車軸の軸周りに回転可能となる構成を採用することができる。
【0038】
また、これらの各構成において、前記変速制御機構は、前記車軸と前記変速機用太陽歯車との間に制御部材を備え、前記制御部材に、前記車軸の軸方向に対して斜め方向に交差する長手状のポケットを設け、そのポケットに前記ボールを保持し、前記車軸の外面にボール溝を設け、前記制御部材を前記車軸の軸周りに回転させた際に、前記ボール溝によって前記ボールの軸方向への移動を案内する構成を採用することができる。
長手状のポケットが、車軸の軸方向に対して斜め方向に交差しているから、その制御部材を軸周りに回転させれば、ボール溝内のボールを車軸の軸方向へ移動させることができる。
【0039】
そのボール溝は、例えば、車軸の軸方向に並行に伸びている構成とすることができる。また、ボール溝は、前記車軸の軸方向に対して斜め方向に交差する方向へ伸びて、そのボール溝の前記車軸の軸方向に対する交差方向と、前記ポケットの前記車軸の軸方向に対する交差方向とは、その車軸の軸方向に対して反対方向である構成を採用することができる。
【0040】
さらに、前記ポケットと前記ボール溝はそれぞれ直線状に伸びており、前記ポケットと前記ボール溝との交差角度が30度以上である構成とすれば、ボールの移動がスムーズである。
【0041】
これらの構成において、前記ボール溝は、前記カム面に対面する位置から離脱した位置に、前記ボールが前記カム面に干渉しないようにするための逃げ溝を備える構成を採用することができる。この構成によれば、ボールがカム面に誤って干渉することが防止される。特に、車軸の軸方向に複数の太陽歯車を並列する場合に、この逃げ溝を採用すれば、意に反して隣接する太陽歯車を係合させてしまうことを防止するのに有効である。
【0042】
また、クラッチ部材の他の構成として、例えば、クラッチ部材は、前記車軸の軸方向に固定されたボール又はキー部材であり、そのボール又はキー部材が、前記車軸の半径方向に移動することによって、前記回転可能又は回転不能の切り替えを行う構成を採用することができる。
【0043】
このボール又はキー部材は、前記車軸の半径方向に移動することにより、前記変速機用太陽歯車の内面に設けたカム面に係合可能な位置と、その係合可能な位置から離脱した位置との間で移動し、前記ボール又はキー部材が前記係合可能な位置にあれば、駆動力に対して前記変速機用太陽歯車が前記車軸の軸周りに回転不能となり、前記ボール又はキー部材が前記離脱した位置にあれば、駆動力に対して前記変速機用太陽歯車が前記車軸の軸周りに回転可能となる構成を採用することができる。
【0044】
この構成において、前記変速制御機構は、前記車軸と前記変速機用太陽歯車との間に制御部材を備え、前記制御部材を前記車軸の半径方向に貫通する孔を設け、前記ボール又はキー部材は、前記孔に入り込むことで前記係合可能な位置に移動し、前記孔から出れば、前記離脱した位置に移動する構成を採用することができる。
【0045】
前記変速制御機構は、前記制御部材を前記車軸の軸方向に移動させることにより、前記回転可能又は回転不能の切り替えを行う構成とすることができ、前記制御部材を前記車軸の軸周りに回転させることにより、前記回転可能又は回転不能の切り替えを行う構成とすることもできる。
【0046】
これらの各構成において、前記クラッチ部材の個数は、例えば、前記車軸周りに一つだけ配置した構成を採用してもよいが、前記車軸の軸周りに少なくとも二つ以上配置されている構成が望ましい。
また、そのとき、前記クラッチ部材が、前記車軸の軸周りに等間隔で配置されていることが望ましい。
【0047】
また、これらの各構成において、前記減速機構の遊星歯車を二段歯車とし、その一方の歯車に駆動用モータを保持するモータハウジングに設けた減速機用外輪歯車が、他方の歯車に駆動用モータのモータ出力軸に設けた減速機用太陽歯車が噛み合っている構成を採用すれば、高減速比とすることが可能となる。
もちろん、この段数は、電動補助自転車又は電動二輪車に求められる仕様に応じて任意に設定できるから、例えば、一段とすることもできるし、三段以上とすることもできる。
【発明の効果】
【0048】
この発明は、車軸の軸心に沿って減速機、電動機、変速機構の三つの機構を並列に備えた構成において、装置をコンパクトにすることができる。
また、変速機用遊星キャリアで保持される減速機用遊星歯車と、駆動用モータのモータ出力軸とを軸受部で回転自在に支持することにより、車軸への曲げモーメントの負荷が抑制され、歯車間の片当たりの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】この発明の一実施形態を示す縦断面図
【図2】同実施形態のクラッチの作用を示す要部拡大図
【図3】(a)は図2のA−A断面における係合時、(b)は係合解除時を示す断面図
【図4】変速機用遊星キャリア及び遊星キャリア軸の組み立て状態を示す断面図
【図5】(a)は(b)の左側面図、(b)は変速機用遊星キャリア、変速機用遊星歯車、減速機用遊星歯車及び遊星キャリア軸の組み立て状態を示す断面図
【図6】(a)は(b)の左側面図、(b)は図5の変形例を示し、変速機用遊星キャリア、変速機用遊星歯車、減速機用遊星歯車及び遊星キャリア軸の組み立て状態を示す断面図
【図7】他の実施形態のクラッチの作用を示す要部拡大図
【図8】さらに、他の実施形態のクラッチの作用を示す要部拡大図
【図9】(a)は、図8のA−A断面図、(b)はB−B断面図
【図10】さらに、他の実施形態のクラッチの作用を示す要部拡大図
【図11】(a)は、図10のA−A断面図、(b)はB−B断面図
【図12】電動補助自転車の全体図
【発明を実施するための形態】
【0050】
この発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。この実施形態の電動補助自転車は、駆動輪である後輪のハブ1(以下、「リアハブ1」と称する)内部に駆動用モータ8が設けられている、リアハブモータ方式の電動補助自転車である。なお、この実施形態の構成を電動二輪車としても採用でき、両者の構成は同じであるので、以下、電動補助自転車として説明する。
【0051】
踏力による駆動力は、図1に示すように、リアハブ1に対して車軸14の軸方向一端側(図中左側)に設けた後輪2のスプロケット9(以下、「リアスプロケット9」と称する。)を介して変速機構11に入力されるようになっている。また、後輪2の車軸14と同軸に設けたハブケース12内では、車軸14の軸方向一端側から他端側(図中右側)に向かって変速機構11、減速機構10及び駆動用モータ8が並列して設けられている。
【0052】
駆動時、図12に示すペダル3を通じて、クランク軸から伝達された踏力による駆動力が入力された場合は、フロントスプロケットとリアスプロケット9とを結ぶチェーン等の動力伝達要素4、変速機構11を介して、後輪2に駆動力が伝達可能となっている。リアスプロケット9は、ワンウェイクラッチ27を介して、変速機構11の変速機用遊星キャリア11cに取付けされている。
【0053】
変速機構11を切り替える変速制御機構15は、リアハブ1外部において、電動補助自転車のハンドル5やフレーム6等に取り付けられた変速切替スイッチ(図示せず)により、手動もしくは電動により操作されるようになっている。
【0054】
また、補助力としての駆動用モータ8の出力による駆動力は、リアハブ1内部の減速機構10を介して、ハブケース12に伝達され、後輪2に伝達可能となっている。
【0055】
さらに、前進非駆動時には、後輪2からの逆入力が減速機構10(逆入力の場合は増速される)等を介して駆動用モータ8に伝達され、逆入力によって生じた回生電力を、リアハブ1外部においてフレーム6等に取り付けられた二次電池に還元する回生機構を備えている。
【0056】
変速機構11は、三段階の増速可能な遊星歯車機構で構成されている。変速機構11は、車軸14の外周に設けられた三つの変速機用太陽歯車11a(11a−1,11a−2,11a−3)と、その変速機用太陽歯車11aに噛み合う変速機用遊星歯車11b、及びその変速機用遊星歯車11bを保持する変速機用遊星キャリア11cとを備えている。
【0057】
この実施形態では、変速機用太陽歯車11aは三つの太陽歯車、すなわち、第一太陽歯車11a−1、第二太陽歯車11a−2、第三太陽歯車11a−3からなる。その第一太陽歯車11a−1、第二太陽歯車11a−2、第三太陽歯車11a−3が、それぞれクラッチ16を介して車軸14に接続されている。
【0058】
変速機用遊星歯車11bは、第一太陽歯車11a−1、第二太陽歯車11a−2、第三太陽歯車11a−3に対して噛み合う歯数の異なる三段の歯車を有し、その変速機用遊星歯車11bは変速機用遊星キャリア11cによって保持されている。また、変速機用遊星歯車11bに噛み合う変速機用外輪歯車11dは、ハブケース12と一体である。
【0059】
この実施形態では、変速機用外輪歯車11dはハブケース12と一体に形成されているが、変速機用外輪歯車11dとハブケース12とを別体で形成して、それらを共に回転するように噛み合わせる構成も考えられる。
【0060】
なお、変速機用太陽歯車11aの設置数は自由であり、必要とする変速段に応じて、例えば、1個としてもよいし、2個、3個、4個としてもよい。このとき、変速機用遊星歯車11bの歯車の数は、変速機用太陽歯車11aの数と同数段とする。
【0061】
また、この実施形態では、変速機用外輪歯車11dは、変速機用遊星歯車11bの歯数が二番目の歯車と噛み合っている。他の歯車と噛み合わせることも可能であるが、三段間の増速比幅を最も稼ぐことができるため、この実施形態が望ましい。
【0062】
減速機構10は、遊星歯車機構によって構成されて、一つの減速機用太陽歯車10aと、その減速機用太陽歯車10aに噛み合う減速機用遊星歯車10bとを備えている。
【0063】
この実施形態では、減速機用遊星歯車10bは歯数の異なる二段の歯車を有する二段歯車であり、その歯数の少ない側の歯車に駆動用モータ8を保持するモータハウジング8bに設けた減速機用外輪歯車10dが噛み合っている。また、歯数の多い側の歯車に、駆動用モータ8のモータ出力軸8aに設けた減速機用太陽歯車10aが噛み合っている。すなわち、減速機構10は、駆動用モータ8のモータ出力軸8aを減速機用太陽歯車10aとし、二段の減速機用遊星歯車10b、モータハウジング8bと一体に回転する減速機用外輪歯車10d(固定)、及び、変速機構11と共通である変速機用遊星キャリア11cによって構成される。
【0064】
減速機用遊星歯車10bは、変速機用遊星キャリア11c及び変速機用遊星歯車11bと遊星キャリア軸11eで接続されている。つまり、減速機用遊星歯車10bは変速機用遊星キャリア11cで保持されて、変速機用遊星キャリア11c及び変速機用遊星歯車11bと一体に車軸14の軸周りに回転可能である。
変速機用遊星歯車11bと減速機用遊星歯車10bとが共通の遊星キャリア軸11eで、変速機用遊星キャリア11cに支持されているから、変速機構11の遊星キャリアと減速機構10の遊星キャリアを共通化することにより、車軸方向のコンパクト化が図られている。
【0065】
変速機用遊星キャリア11cは、図4に示すように、第一キャリア部材11g、第二キャリア部材11hと、その第一キャリア部材11gと第二キャリア部材11hとを結ぶ前記遊星キャリア軸11eを備える。第一キャリア部材11gと第二キャリア部材11hとは、遊星キャリア軸11eによって固定される。
【0066】
また、この変速機用遊星キャリア11cが備える遊星キャリア軸11eは、変速機用遊星歯車11bを、その遊星キャリア軸11eの軸周りに回転自由度を与えて保持している構成である。減速機用遊星歯車10bについても同様に、遊星キャリア軸11eが、減速機用遊星歯車10bを、その遊星キャリア軸11eの軸周りに回転自由度を与えて保持している。
【0067】
なお、この実施形態では、変速機用遊星歯車11bと減速機用遊星歯車10bとを同数(三個)としている。
【0068】
遊星キャリア軸11eの数は自由に設定でき、例えば、その変速機用遊星歯車11b及び前記減速機用遊星歯車10bと同数(三本)としてもよいが、この実施形態では、図5に示すように、遊星キャリア軸11eを、その変速機用遊星歯車11b及び前記減速機用遊星歯車10bの数の二倍(六本)としている。
【0069】
遊星キャリア軸11eを、変速機用遊星歯車11b及び減速機用遊星歯車10bの数の二倍、即ち六本で構成すれば、変速機用遊星キャリア11cの剛性をさらに増加させることが可能である。
【0070】
また、その六本の遊星キャリア軸11eを、同じPCD位置(車軸14の軸心から等距離にある位置)で構成することで、変速機用遊星歯車11b、減速機用遊星歯車10bが、どの遊星キャリア軸11eに対しても選択的に設定できるようになり、設計の自由度が高まる。
【0071】
また、この実施形態では、変速機用遊星歯車11bと減速機用遊星歯車10bの数をそれぞれ三個としているが、その変速機用遊星歯車11bと減速機用遊星歯車10bの数はそれぞれ自由に設定できる。ただし、変速機用遊星歯車11bと減速機用遊星歯車10bとは、荷重バランスを取るために同数であることが望ましい。
【0072】
なお、変速機用遊星歯車11bと減速機用遊星歯車10bの数を同数とし、さらに、遊星キャリア軸11eをそれと同数とすれば、変速機用遊星キャリア11cを簡単な構成とでき、その組み立てが容易である。
【0073】
このとき、同一の遊星キャリア軸11eで保持された変速機用遊星歯車11bと減速機用遊星歯車10bとは異なる回転数であることから、互いの接触によって発熱、若しくは磨耗の問題が生じる恐れがある。このため、変速機用遊星歯車11bと減速機用遊星歯車10bとの間に間隔材11fを配置するとよい。
【0074】
なお、この実施形態では、間隔材11fは、環状を成す板状部材であり、金属や樹脂等で構成される。また、間隔材11fは、遊星キャリア軸11eに相当する位置に、その遊星キャリア軸11e用の挿通孔を備える。
【0075】
このため、間隔材11fは、変速機用遊星歯車11bの端面と減速機用遊星歯車10bの端面とに接することにより、前述のように緩衝材として機能するとともに、前記挿通孔でもって、全ての遊星キャリア軸11eを保持する機能を発揮する。間隔材11fは、遊星キャリア軸11eを保持することによって、変速機用遊星キャリア11cの曲げ剛性を高める効果を発揮する。
【0076】
さらに、遊星キャリア軸11eの数が、変速機用遊星歯車11bや減速機用遊星歯車10bの数よりも多いとき、例えば、図6に示すように、その変速機用遊星歯車11bや減速機用遊星歯車10bを、それぞれ異なる遊星キャリア軸11eで保持する構成とすることもできる。
この構成によれば、一本の遊星キャリア軸11eにかかる荷重を抑え、変速機用遊星キャリア11cの強度を高めることができる。
【0077】
変速機構11は、車軸14の外周に設けられた三つの変速機用太陽歯車11a(第一太陽歯車11a−1、第二太陽歯車11a−2、第三太陽歯車11a−3)が、変速制御機構15の操作によって、駆動力と逆入力のそれぞれに対していずれか一つの変速機用太陽歯車11aを選択的に車軸14の軸回りに回転可能又は回転不能に切替えて変速できるようになっている。
【0078】
その切替えは、変速機用太陽歯車11aと車軸14との間に設けられたクラッチ16(クラッチ部材16a)を介して行われる。
【0079】
クラッチ16は、車軸14の軸方向に沿って移動可能なボールからなるクラッチ部材16aを備え、そのボールが、車軸14の軸方向に沿って移動することによって、変速機用太陽歯車11aと車軸14との軸周り両方向の相対回転に対して、いずれか一つの変速機用太陽歯車11aを選択的に車軸14の軸回りに回転不能に、他を回転可能に切替える。
【0080】
この実施形態では、変速制御機構15は、車軸14の軸周りに設けた制御部材15aを車軸14の軸周りに回転させることによって、クラッチ部材16aを車軸14の軸方向に沿って移動させ、その移動によって、変速機用太陽歯車11aと車軸14とを、軸周り両方向の相対回転に対して、回転可能又は回転不能に切替えることができる。
【0081】
また、変速機用遊星キャリア11cと変速制御機構15の制御部材15aとの間、変速制御機構15の制御部材15aと車軸14との間、変速機用遊星キャリア11cとハブケース12との間、及びハブケース12とモータハウジング8bとの間、モータハウジング8bとモータ出力軸8aとの間には、それぞれ軸受部21,26,22,23,24が設けられて、互いに軸周り相対回転可能となっている。
【0082】
さらに、変速機用遊星キャリア11cとモータ出力軸8aとの間には、軸受部25が設けられて、互いに軸周り相対回転可能となっている。車軸14とモータ出力軸8aとは接続されておらず、両者は独立して回転する。
軸受部25は、変速機用遊星キャリア11cの第二キャリア部材11hと、駆動用モータ8のモータ出力軸8aとの間に設けられ、その第二キャリア部材11hとモータ出力軸8aとを回転自在に支持する。この実施形態では、軸受部25に玉軸受を採用しているが、他の軸受構造を採用してもよい。
【0083】
この点について説明すると、仮に、軸方向に並列して配置される駆動輪の車軸14と駆動用モータ8のモータ出力軸8aとを、直接、軸受等で支える構造とした場合、通常は、車軸に対して鉛直方向に荷重が作用すると、駆動輪のハブケース12から変速機用遊星歯車11bを介して変速機用遊星キャリア11cに曲げモーメントが作用する。このとき、車軸14にも曲げモーメントが作用し、モータ出力軸8aと車軸14間の軸受等に過大な負荷が作用する懸念がある。
【0084】
しかし、この実施形態のように、変速機用遊星キャリア11cで保持される減速機用遊星歯車10bと、駆動用モータ8のモータ出力軸8aとを軸受部25で回転自在に支持することにより、車軸14への曲げモーメントの負荷が抑制され、このような懸念を解消できる。
すなわち、変速機用遊星キャリア11cを、その軸方向両端で、車軸14とモータ出力軸8aという2つの軸に回転支持することで、車軸14への曲げモーメントの負荷を抑制したのである。
【0085】
また、変速機用遊星キャリア11cを、その軸方向両端で、車軸14とモータ出力軸8aという2つの軸に回転支持することで、その変速機用遊星キャリア11cの剛性を高めている。
すなわち、変速機用遊星歯車11bや減速機用遊星歯車10bを支える遊星キャリア軸11eには、通常、大きな曲げの力が作用するので、その剛性が弱いと変位量が大きくなる。変位量が大きいと、遊星歯車と外輪歯車、若しくは、遊星歯車と太陽歯車との接触において、片当たりが生じる恐れがある。そこで、軸受部25による変速機用遊星キャリア11cとモータ出力軸8aとの支持によって、変速機用遊星キャリア11cの剛性を高め、そのような片当たりの発生を抑制したものである。
【0086】
つぎに、変速機構11の作用について説明すると、例えば、第一太陽歯車11a−1を車軸14に対して回転不能とした場合、リアスプロケット9からの回転速度は、変速機用遊星キャリア11cから増速されてハブケース12(変速機用外輪歯車11d)に伝達される。
【0087】
このとき、第一太陽歯車11a−1の歯数をa1、その第一太陽歯車11a−1と噛み合う変速機用遊星歯車11bの歯数をb1、変速機用外輪歯車11dと噛み合う変速機用遊星歯車11bの歯数をb2、変速機用外輪歯車11dの歯数をd1とすると、変速機用遊星キャリア11cから変速機用外輪歯車11dへの増速比は
[(a1×b2)/(b1×d1)]+1
となる。このとき、第二太陽歯車11a−2、第三太陽歯車11a−3は空転状態であり、トルク伝達に関与しない。
【0088】
また、第二太陽歯車11a−2を車軸14に回転不能とした場合、第二太陽歯車11a−2の歯数をa2、変速機用外輪歯車11dの歯数を、前述の例と同様にd1とすると、変速機用遊星キャリア11cから変速機用外輪歯車11dへの増速比は、
[a2/d1]+1
となる。
【0089】
さらに、第三太陽歯車11a−3を車軸14に回転不能とした場合、第三太陽歯車11a−3の歯数をa3、その第三太陽歯車11a−3と噛み合う変速機用遊星歯車11bの歯数をb3、前述の例と同様に、変速機用外輪歯車11dと噛み合う変速機用遊星歯車11bの歯数をb2、変速機用外輪歯車11dの歯数をd1とすると、変速機用遊星キャリア11cから変速機用外輪歯車11dへの増速比は、
[(a3×b2)/(b3×d1)]+1
となる。
【0090】
また、駆動用モータ8は、変速機構11と車軸14の軸方向に並設されており、その駆動用モータ8の出力は、遊星歯車機構を用いた減速機構10を介して変速機用遊星キャリア11cに減速されて伝達される。
さらに、変速機用遊星キャリア11cからは、変速機構11によって増速されてハブケース12に伝達される。このときの増速比は、変速制御機構15により、いずれの変速機用太陽歯車11aが車軸14に対して回転不能となるかによって異なる。
【0091】
駆動用モータ8からの出力は、減速機用太陽歯車10aと噛み合う減速機用遊星歯車10bの歯数をb4、減速機用外輪歯車10dの歯数をd2、減速機用太陽歯車10aの歯数をa4、減速機用外輪歯車10dと噛み合う減速機用遊星歯車10bの歯数をb5とすると、減速機用太陽歯車10aから変速機用遊星キャリア11cへの減速比は
[(d2×b4)/(a4×b5)]+1
となる。
【0092】
また、前進非駆動時は、後輪2からの逆入力が、ハブケース12から変速機用遊星歯車11bに伝達される。このとき、各変速機用太陽歯車11aと車軸14との間に設けられたクラッチ16によって、いずれか一つの変速機用太陽歯車11aは、その逆入力に対して車軸14に対し回転不能とされ、他は回転可能とされる。
その結果、後輪2からの逆入力は、変速機構11を介して減速されて変速機用遊星キャリア11cに伝達され、さらに、減速機構10を介して駆動用モータ8に増速されて伝達され、回生充電が可能となる。
【0093】
これらの構成により、リアスプロケット9からの駆動力(踏力)は増速されて後輪2に伝達される。また、駆動用モータ8からの駆動力は、減速機構10を介して減速されて変速機用遊星キャリア11cに伝達され、その後、変速機構11を介して増速されて後輪2に伝達される。
一方、後輪2からの逆入力トルクは変速機構11により減速され、減速機構10により増速されて駆動用モータ8に伝わり、回生充電が可能な状態となる。
【0094】
つぎに、変速制御機構15の詳細について説明する。変速制御機構15は、図1及び図2に示すように、車軸14の軸周りに設けられた三つの主要な部材、すなわち、制御部材15a、連結部材15d、操作部材15eで構成される。
【0095】
制御部材15a、連結部材15d、操作部材15eは、一体として回転運動可能なようにセレーション結合によって、車軸14の軸方向に沿って連結されている。また、制御部材15aは、その一部が、車軸14と変速機用太陽歯車11aとの間に入り込むように配置されている。
【0096】
制御部材15aには、少なくとも二個以上のボールを保持するためのポケット15bが軸周り等分方位に(等配に)形成されている。
ポケット15bは長手状を成し、その全長に亘って軸方向に捩れながら、すなわち、車軸14の軸方向に対して斜め方向に交差する方向に伸びている。
【0097】
この実施形態では、クラッチ部材16aは車軸14の軸周りに四つ配置しているが、その数は自由である。ただし、係合安定性のためには、これを二つ以上とすることが望ましい。
また、そのクラッチ部材16aを軸周りに複数設ける場合は、これを車軸14の軸周りに等分方位で配置することが望ましい。
【0098】
また、車軸14の外面には、ポケット15bと同数のボール溝14aが形成されている。この実施形態では、ボール溝14aは、車軸14の軸方向に並行に直線状に形成されている。
【0099】
各ポケット15b内にボールが保持され、また、そのボールは、ボール溝14a内に収容されている。
【0100】
変速制御機構15の操作部材15eにはワイヤー等(図示せず)が繋がれ、前述の変速切替スイッチからの信号によってそのワイヤーが引かれ、操作部材15eが車軸14の軸周りに回転操作される。
操作部材15eが車軸14の軸周りに回転することにより、連結部材15dを介して制御部材15aも車軸14の軸周りに回転する。
【0101】
この制御部材15aの回転により、ボールは、長手状のポケット15bの内壁に押し出されるように、車軸14の軸方向に沿って一方向へ移動する。このとき、ボールはボール溝14a内に収容されているので、そのボールの移動は、ボール溝14aの伸びる方向へ案内される。また、制御部材15aが逆方向へ回転すれば、ボールは、車軸14の軸方向に沿って他方向へ移動する。この制御部材15aの逆方向への回転は、ワイヤーの動作によらず、バネ等の弾性部材の付勢力を活用し、ワイヤーの引張力が解除された際、あるいは緩められた際に自動的に行われるようにしてもよい。
【0102】
各変速機用太陽歯車11aは、それぞれその内面に、周方向に沿って凹凸が連続する花びら状のカム面11kが設けられている。前述のボールの軸方向への移動により、そのボールは、変速機用太陽歯車11aのカム面11kに対面する位置と、その対面する位置から軸方向へ離脱した位置との間で移動することができる。
【0103】
その移動によって、ボールが、ある一つの変速機用太陽歯車11aのカム面11kに対面する位置にあれば、このカム面11kと車軸14のボール溝14aとがボールを介して噛み合い(図3(a)参照)、車軸14とその変速機用太陽歯車11aとが回転不能となる。このとき、クラッチ16は、車軸14と変速機用太陽歯車11aとの軸周り両方向の相対回転に対してそれぞれ係合可能であるので、その変速機用太陽歯車11aは、駆動力に対しても逆入力に対しても回転不能とされる。
【0104】
また、ボールがカム面11kに対面する位置から離脱した位置にあれば、変速機用太陽歯車11aが車軸14の軸周りに回転可能となる。このため、ボールがカム面11kに対面していない他の二つの変速機用太陽歯車11aは、駆動力に対しても逆入力に対しても車軸14の軸周りに回転可能である。
【0105】
また、ボール溝14aには、ボールがある一つの変速機用太陽歯車11aのカム面11kに噛み合っている際に、隣り合う変速機用太陽歯車11aに同時に干渉しないようにするための逃げ溝14bが設けられている。逃げ溝14bは、図2に示すように、カム面11kに対面する位置から軸方向へ離脱した位置に、ボール溝14aの他の部分よりもやや深く形成されている。
【0106】
この逃げ溝14b内にボールが入り込めば、ボールがやや内径側へ移動するので(図3(b)参照)、変速機用太陽歯車11aのカム面11kに干渉しない。このため、ボールによる係合を、一つの変速機用太陽歯車11aから他の変速機用太陽歯車11aへと切替える際に、いずれの変速機用太陽歯車11aにも係合しない中立状態が介在することとなり、スムーズな切り替えが可能となる。
【0107】
変速制御機構15の他の実施形態を、図7に示す。この実施形態は、車軸14のボール溝14aを、その全長に亘って、車軸14の軸方向に捩り状に形成したものである。すなわち、ボール溝14aは、車軸14の軸方向に対して斜め方向に交差する方向へ伸びている。
【0108】
また、そのボール溝14aの車軸14の軸方向に対する交差方向と、ポケット15bの車軸14の軸方向に対する交差方向とは、その車軸14の軸方向に対して反対方向である。すなわち、車軸14の軸方向へ向かうにつれて、ボール溝14aが車軸14の軸周り一方向へ捩れるのに対し、ポケット15bは軸周り他方向へ捩れている。
【0109】
また、ポケット15bとボール溝14aはそれぞれ直線状に伸びており、そのポケット15bとボール溝14aとの交差角度は30度以上となっている。この交差角度(捩れ角度)が30度以上であれば、制御部材15aを回転させた際に、スムーズなボールの軸方向移動が可能である。
なお、このポケット15bとボール溝14aの車軸14の軸方向に対する捩れ角は、その車軸14の軸方向を挟んで、互いに逆方向に同角であることが望ましい。
【0110】
変速制御機構15のさらに他の実施形態を図8及び図9に示す。この実施形態は、クラッチ部材16aをボールとし、そのボールを、各変速機用太陽歯車11aに対してそれぞれ軸方向へ移動しないように取り付けている。なお、各ボールは、車軸14内に設けられた半径方向の孔14c内に収容された弾性部材16bによって、その車軸14内の固定要素14dに接続されている。各ボールは、弾性部材16bの弾性力によって、外径方向へ付勢されている。
【0111】
変速制御機構15の制御部材15aを、車軸14の軸周りに回転させることで、その制御部材15aに設けた孔15c(車軸14の半径方向に貫通する孔15c)にボールが臨めば、そのボールは孔15cを通じて外径方向へ突出し、対面する変速機用太陽歯車11aのカム面11kに係合可能な状態となる(図9(a)参照)。孔15cに臨んでいないボールは、その制御部材15aによって外径方向への突出が押さえられるので、変速機用太陽歯車11aのカム面11kに係合不可能な状態となる(図9(b)参照)。
【0112】
この孔15cは、一つの変速機用太陽歯車11aに対応して、周方向に並ぶボールの数と同数(この実施形態では四個)設けられたものを一群とし、その一群の孔15cが、変速機用太陽歯車11aの数と同数だけ軸方向に並列して設けられている。軸方向に並列する孔15c同士は、互いに軸周り方位が異なる位置に設けられている。
【0113】
このため、各変速機用太陽歯車11aのうち、一つの変速機用太陽歯車11aに対してのみ周方向に並んでいる全てのボールにそれぞれ孔15cが臨み、その孔15cを通じてボールが外径方向に突出する。これにより、その変速機用太陽歯車11aを車軸14に対して軸周り両回転方向に回転不能とする。
【0114】
また、この状態で、他の変速機用太陽歯車11aに対しては、ボールが孔15cに臨まないように孔15cの位置が設定されており、これらのボールは外径方向に突出しない。このため、他の変速機用太陽歯車11aは、車軸14に対して軸周り両回転方向に回転可能となる。
【0115】
すなわち、ボールは、制御部材15aの孔15cに入り込むことで、変速機用太陽歯車11aのカム面11kに係合可能な位置に移動し、孔15cから出れば(孔15cに入り込まない位置にあれば)、そのカム面11kに係合可能な位置から離脱した位置に移動する。また、複数の変速機用太陽歯車11aのうち、一つの変速機用太陽歯車11aについてのみ、クラッチ部材16aとしてのボールはカム面11kに係合可能となり、他の変速機用太陽歯車11aについては、クラッチ部材16aとしてのボールはカム面11kに係合不可能な状態となる。
【0116】
変速制御機構15のさらに他の実施形態を図10及び図11に示す。この実施形態は、前述の実施形態におけるクラッチ部材16aとしてのボールに代えて、キー部材を用いたものである。
【0117】
キー部材は、各変速機用太陽歯車11aに対してそれぞれ軸方向に移動しないように取り付けている。また、各キー部材は、車軸14内に設けられた半径方向の孔14c内に収容された弾性部材16bによって、車軸14内の固定要素14dに接続されている。各キー部材は、弾性部材16bの弾性力によって、外径方向へ付勢されている。その作用については、ボールを用いた前述の実施形態と同様である。
【符号の説明】
【0118】
1 リアハブ(ハブ)
2 後輪(駆動輪)
3 ペダル
4 駆動力伝達要素(チェーン)
5 ハンドル
6 フレーム
7 ハブフランジ
8 駆動用モータ
8a モータ出力軸
8b モータハウジング
9 リアスプロケット(スプロケット)
10 減速機構
10a 減速機用太陽歯車
10b 減速機用遊星歯車
10d 減速機用外輪歯車
11 変速機構
11a 変速機用太陽歯車
11a−1 第一太陽歯車
11a−2 第二太陽歯車
11a−3 第三太陽歯車
11b 変速機用遊星歯車
11c 変速機用遊星キャリア
11d 変速機用外輪歯車
11e 遊星キャリア軸
11f 間隔材
11g 第一キャリア部材
11h 第二キャリア部材
11k カム面
12 ハブケース
14 車軸
15 変速制御機構
15a 制御部材
15b ポケット
15c 孔
15d 連結部材
15e 操作部材
16 クラッチ
16a クラッチ部材
21,22,23,24,25,26 軸受部
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動モータにより人力駆動系に補助力を付加させる電動補助自転車及び電動二輪車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自転車の変速機には、様々な種類のものが存在する。このような中で、一般的には、クランク軸又は駆動輪の車軸の何れか一方、もしくは両方の同軸上に多段のスプロケットを設け、ディレイラーによってチェーンをスプロケット間で移動させることによって変速する方式(外装変速機)と、駆動輪のハブの内部に設けた歯車を掛けかえることによって変速する方式(内装変速機)がある。
【0003】
外装変速機は、構造が簡単で軽量であるが、スプロケットやチェーンが摩耗する原因になり、チェーン外れの原因にもなる。一方、内装変速機は、防塵、防水性に優れており、メンテナンスフリーといった利点があるため、シティサイクルに使われることが多い。
【0004】
ところで、電動モータにより人力駆動系に補助力を付加させる電動補助自転車や電動二輪車において、その自転車の駆動輪である後輪のリアハブ内に、モータ、減速機、変速機構が備えられたものがある。
なお、電動補助自転車と電動二輪車とは、アシスト比率等の要件によって法令上その呼び名が区別されるが、ここでは、以下、電動補助自転車と総称して説明する。
【0005】
このように、ハブに駆動用のモータを設けた、所謂ハブモータ方式の電動補助自転車は、これを、変速機と組み合わせる場合、前記外装変速機、又は内装変速機のいずれかを用いることができる。
【0006】
ただし、外装変速機を用いる場合、ハブの構造は、主としてモータと減速機とから構成されるので簡素となるが、前述のような外装変速機ゆえのメンテナンス上の問題がある。一方、内装変速機を用いる場合、ハブの構造は、モータ、減速機及び変速機構とから構成されるので、ハブ自体の構造は複雑となるが、前述のような内装変速機ゆえの利点があるので有利である。
【0007】
現在のところ、電動補助自転車はシティサイクルを中心に展開しており、その殆どが内装変速機を採用している。従って、ハブモータ方式の電動補助自転車においても、内装変速機構とすることが望ましいと考えられている。
【0008】
この種の内装変速機構を備えた電動補助自転車の構造として、例えば、特許文献1,2に記載のものがある。
【0009】
これらの構造では、ハブ内において、電動機(駆動用モータ)、減速機構、変速機構が配置されている。電動機による駆動機構としては、駆動用の電動機と、その電動機の回転数を減速する動力系の減速機構を内蔵している。また、人力の入力機構としては、駆動輪の車軸に入力用のスプロケットが設けられ、その車軸より外周に向かって変速機構、減速機構を順に配置している。
【0010】
ハブは、回転ケーシングと固定ケーシングとを備え、前記人力系の入力機構は回転ケーシング側に、前記電動機による駆動機構は、主として固定ケーシング側に配置されている。
【0011】
ペダルによって与えられた人力は、チェーンによって駆動輪のスプロケットに伝達され、変速機構で変速された後、人力系の減速機構に伝達されて、回転ケーシングを通じて駆動輪を回転させる。また、電動機による駆動力は、前述の人力系の減速機構とは別に備えた動力系の減速機構で減速されて、その後、回転ケーシングにおいて人力駆動力と電動駆動力とが合力されて、駆動輪に伝達される。
【0012】
このとき、電気信号に変換された前記人力による駆動力と、速度センサからの走行速度の電気信号とが、その電動補助自転車が備える制御部に入力され、その制御部が、所定の条件に基づいて駆動信号を出力し、電動機を制御するようになっている。
【0013】
しかし、これらの構造では、電動機は、車軸の軸心から偏心した位置に配置されている。このため、ハブの外径が大きくなるという問題がある。ハブの外径が大きいと、重量バランスが悪くなる傾向がある。
【0014】
この点、特許文献3,4に記載の構造によれば、減速機構、電動機、変速機構を車軸上に併設した構成となっているから、上記ハブの大型化は抑制できる。
【0015】
すなわち、これらの構造では、駆動輪である後輪のハブ内に、減速機構、電動機と変速機構とが車幅方向に並設されており、ペダルによって与えられた人力は、チェーンを介して後輪のスプロケットに伝達され、一方向クラッチを経て変速機で変速された後、回転ケーシングを通じて駆動輪を回転させる。また、電動機による駆動力は、その車軸の周囲に設けた遊星歯車機構からなる減速機構で減速されて、その後、回転ケーシングにおいて人力駆動力と電動駆動力とが合力されて、駆動輪に伝達されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開平9−58568号公報
【特許文献2】特開2000−043780号公報
【特許文献3】特開2002−293285号公報
【特許文献4】特開2003−160089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかし、上記特許文献3,4に記載の構造によれば、電動機からの出力は減速機構を介してハブケース(回転ケーシング)に伝達され、ペダルからの駆動力は変速機構を介してハブケース(回転ケーシング)に伝達されている。
【0018】
このため、車軸の軸心に沿って並列する減速機、電動機、変速機構の三つの機構は、それぞれ独立した構造となっている。すなわち、人力駆動力の伝達機構と、電動駆動力の伝達機構とが、それぞれ別ルートで独立して介在している。
【0019】
駆動輪の車軸方向のスペースには限りがあるので、このような構造では、変速機構のスペースが小さくなり、変速段数を増やすことが困難である。
【0020】
そこで、この発明は、駆動輪のハブ内に、車軸の軸心に沿って減速機構、電動機、変速機構の三つの機構を並列に備えた構成において、装置をコンパクトにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記の課題を解決するために、この発明は、駆動輪のハブ内部に、変速機構、減速機構及び駆動用モータを車軸の軸方向に並列して配置し、前記変速機構は、遊星歯車機構によって構成されて少なくとも一つの変速機用太陽歯車と、その変速機用太陽歯車に噛み合う変速機用遊星歯車、及びその変速機用遊星歯車を保持する変速機用遊星キャリアとを備え、ペダルからの踏力による駆動力を駆動輪に伝達し、前記減速機構は、遊星歯車機構によって構成されて少なくとも一つの減速機用太陽歯車と、その減速機用太陽歯車に噛み合う減速機用遊星歯車とを備え、前記減速機用遊星歯車は前記変速機用遊星キャリアで保持され、前記駆動用モータのモータ出力軸からの駆動力を駆動輪に伝達し、駆動力に対して前記変速機用太陽歯車を前記車軸の軸周りの一方向若しくは両方向に回転可能又は回転不能に切り替えて変速を行う変速制御機構を備え、前記変速機用遊星キャリアとモータ出力軸とを回転自在に支持する軸受部を備えることを特徴とする電動補助自転車又は電動二輪車を採用した。
【0022】
この構成によれば、駆動輪のハブ内部に、変速機構、減速機構及び駆動用モータが車軸方向に並列する構成において、減速機用遊星歯車が、変速機用遊星キャリア又はその変速機用遊星キャリアと一体に回転する部材で保持される。すなわち、変速機用と減速機用のキャリアを共通化することができ、車軸方向の装置のコンパクト化が実現できる。
【0023】
また、この構成によれば、駆動輪の車軸と駆動用モータのモータ出力軸とが軸方向に並列して配置されるが、仮に、その車軸とモータ出力軸とを直接支える構造とした場合、通常は、車軸に対して鉛直方向に荷重が作用すると、駆動輪のハブケースから変速機用遊星歯車を介して変速機用遊星キャリアに曲げモーメントが作用する。このとき、車軸にも曲げモーメントが作用し、モータ出力軸と車軸間の軸受等に過大な負荷が作用する懸念がある。
しかし、上記の構成のように、変速機用遊星キャリアで保持される減速機用遊星歯車と、駆動用モータのモータ出力軸とを軸受部で回転自在に支持することにより、車軸への曲げモーメントの負荷が抑制され、このような懸念を解消できる。
【0024】
さらに、変速機構として遊星歯車機構を備えたハブ内において、通常、遊星キャリアは、回転支持軸受によって車軸に対して片持ち支持される。また、その遊星キャリアに取付けられる遊星歯車は、その回転支持軸受から遠く離れた位置で、トルクの伝達が成される。このため、遊星歯車を支える遊星キャリア軸には大きな曲げの力が作用するので、その剛性が弱いと変位量が大きくなるという懸念がある。変位量が大きいと、遊星歯車と外輪歯車、若しくは、遊星歯車と太陽歯車との接触において、片当たりが生じる恐れがある。
そこで、上記のように、遊星キャリアを、車軸とモータ出力軸という2つの軸に回転支持することでその剛性を確保し、そのような片当たりの発生を抑制したものである。
【0025】
また、この構成において、前記ペダルからの踏力による駆動力は、前記ハブに対して前記車軸の軸方向一端側に設けたスプロケットを介して前記変速機構に入力され、前記ハブ内に、前記車軸の軸方向一端側から他端側に向かって変速機構、減速機構及び駆動用モータを並列して設けた構成を採用すれば、変速機構と減速機構とが近接するので、変速機用と減速機用のキャリアを共通化するための構造を簡素とし得る。
【0026】
また、これらの各構成において、前記変速機用遊星歯車と前記減速機用遊星歯車とは、互いに異なる遊星キャリア軸によって前記変速機用遊星キャリアにそれぞれ保持される構成を採用することもできるが、これを、同一の遊星キャリア軸によって前記変速機用遊星キャリアに保持される構成とすることができる。変速機用遊星歯車と減速機用遊星歯車とが、同一の遊星キャリア軸によって変速機用遊星キャリアに保持されれば、変速機用と減速機用のキャリアを共通化するための構造をさらに簡素とし得る。
【0027】
これらの各構成において、前記変速機用遊星歯車と前記減速機用遊星歯車とは同数とすることが望ましく、また、その場合、前記遊星キャリア軸を、前記変速機用遊星歯車及び前記減速機用遊星歯車と同数とすることが望ましい。さらに、前記変速機用遊星歯車と前記減速機用遊星歯車とは同数である場合において、前記遊星キャリア軸を、前記変速機用遊星歯車及び前記減速機用遊星歯車の数の二倍とすることもできる。
【0028】
また、前記変速機用遊星歯車と前記減速機用遊星歯車の数は自由に設定できるが、これらの数を同数とする場合には、例えば、その変速機用遊星歯車と減速機用遊星歯車の数をそれぞれ三個とする構成を採用することもできる。もちろん、個数にかかわらず、変速機用遊星歯車と減速機用遊星歯車は、それぞれ車軸の軸周りに等分方位に配置することが望ましい。
【0029】
また、これらの各構成において、前記変速機用遊星歯車と前記減速機用遊星歯車の間に間隔材を備え、その間隔材は、前記変速機用遊星歯車と前記減速機用遊星歯車とに接することにより緩衝材として機能する構成を採用することができる。
特に、同一の遊星キャリア軸で保持された変速機用遊星歯車と減速機用遊星歯車とは異なる回転数であることから、互いの接触によって発熱、若しくは磨耗の問題が生じる恐れがあるので、その間隔材によって、発熱、摩耗、あるいは、両者が直接触れることによる損傷等を防ぐことができるからである。
【0030】
あるいは、これらの各構成において、前記変速機用遊星歯車と前記減速機用遊星歯車との間に間隔材を備え、その間隔材は、全ての前記遊星キャリア軸を保持する構成を採用することができる。間隔材が遊星キャリア軸を保持することで、その遊星キャリア軸の鉛直方向荷重に対する剛性を高めることができる。
【0031】
なお、この間隔材は、前記変速機用遊星歯車と前記減速機用遊星歯車とに接することによる緩衝材としての機能と、全ての遊星キャリア軸を保持する機能とを併せ持つ構成を採用することもできる。
【0032】
これらの各構成において、前記変速制御機構は、前記変速機用太陽歯車と前記車軸との間に設けたクラッチ部材を介して前記回転可能又は回転不能の切り替えを行う構成を採用することができる。
すなわち、この構成によれば、変速制御機構は、変速機用太陽歯車と車軸との間に設けたクラッチ部材を介して、駆動力に対して、変速機用太陽歯車と前記車軸とを回転可能又は回転不能に切替えることができ、その切替えによって変速を可能とし得る。
【0033】
なお、この電動補助自転車又は電動二輪車に、回生機構を付加することもできる。すなわち、前記変速制御機構は、前記クラッチ部材を介して、前記変速機用太陽歯車と前記車軸との軸周り両方向の相対回転に対して、前記変速機用太陽歯車を前記車軸に回転可能又は回転不能に切替えることができ、前記駆動輪からの逆入力に対して、前記変速機用太陽歯車と前記車軸とを回転不能とすることにより、その逆入力により生じた回生電力を駆動用モータを通じて二次電池に還元する回生機構を備えた構成である。
【0034】
すなわち、ペダルからの踏力による駆動力に対してのみならず、駆動輪からの逆入力に対しても、変速機用太陽歯車を車軸回りに回転可能、回転不能に切替えすることができ、その切替えに応じた適宜の状態で駆動用モータに駆動輪からの逆入力が伝達されれば、回生充電が可能となる。
このとき、その駆動輪からの逆入力は、常に駆動用モータに伝達されて二次電池に回生充電が行われるが、回生充電を行うか否かは制御可能であり、例えば、ブレーキレバーの操作によって回生充電のスイッチが入るようにすることで、必要時にのみ最適条件で回生充電を行うように設定できる。
【0035】
また、ハブ内は、スペースに制約があることから、遊星歯車機構の太陽歯車の車軸方向長さは短くしなければならないが、この構成によれば、変速及び逆入力用のクラッチとして、クラッチ部材という同一の部材を用いることで、その機構を簡素化でき、また、装置の軸方向長さを短くすることができる。このクラッチ部材として、例えば、ボールもしくはキー、又はラチェット等を用いることができる。
【0036】
また、これらの各構成において、前記クラッチ部材は、前記車軸の軸方向に沿って移動可能なボールであり、そのボールが、前記車軸の軸方向に沿って移動することによって、前記回転可能又は回転不能の切り替えを行う構成を採用することができる。
【0037】
クラッチ部材としてボールを用いた構成において、前記ボールは、前記車軸の軸方向に沿って移動することにより、前記変速機用太陽歯車の内面に設けたカム面に対面する位置と、その対面する位置から離脱した位置との間で移動し、前記ボールが前記対面する位置にあれば、駆動力に対して前記変速機用太陽歯車が前記車軸の軸周りに回転不能となり、前記ボールが前記離脱した位置にあれば、駆動力に対して前記変速機用太陽歯車が前記車軸の軸周りに回転可能となる構成を採用することができる。
【0038】
また、これらの各構成において、前記変速制御機構は、前記車軸と前記変速機用太陽歯車との間に制御部材を備え、前記制御部材に、前記車軸の軸方向に対して斜め方向に交差する長手状のポケットを設け、そのポケットに前記ボールを保持し、前記車軸の外面にボール溝を設け、前記制御部材を前記車軸の軸周りに回転させた際に、前記ボール溝によって前記ボールの軸方向への移動を案内する構成を採用することができる。
長手状のポケットが、車軸の軸方向に対して斜め方向に交差しているから、その制御部材を軸周りに回転させれば、ボール溝内のボールを車軸の軸方向へ移動させることができる。
【0039】
そのボール溝は、例えば、車軸の軸方向に並行に伸びている構成とすることができる。また、ボール溝は、前記車軸の軸方向に対して斜め方向に交差する方向へ伸びて、そのボール溝の前記車軸の軸方向に対する交差方向と、前記ポケットの前記車軸の軸方向に対する交差方向とは、その車軸の軸方向に対して反対方向である構成を採用することができる。
【0040】
さらに、前記ポケットと前記ボール溝はそれぞれ直線状に伸びており、前記ポケットと前記ボール溝との交差角度が30度以上である構成とすれば、ボールの移動がスムーズである。
【0041】
これらの構成において、前記ボール溝は、前記カム面に対面する位置から離脱した位置に、前記ボールが前記カム面に干渉しないようにするための逃げ溝を備える構成を採用することができる。この構成によれば、ボールがカム面に誤って干渉することが防止される。特に、車軸の軸方向に複数の太陽歯車を並列する場合に、この逃げ溝を採用すれば、意に反して隣接する太陽歯車を係合させてしまうことを防止するのに有効である。
【0042】
また、クラッチ部材の他の構成として、例えば、クラッチ部材は、前記車軸の軸方向に固定されたボール又はキー部材であり、そのボール又はキー部材が、前記車軸の半径方向に移動することによって、前記回転可能又は回転不能の切り替えを行う構成を採用することができる。
【0043】
このボール又はキー部材は、前記車軸の半径方向に移動することにより、前記変速機用太陽歯車の内面に設けたカム面に係合可能な位置と、その係合可能な位置から離脱した位置との間で移動し、前記ボール又はキー部材が前記係合可能な位置にあれば、駆動力に対して前記変速機用太陽歯車が前記車軸の軸周りに回転不能となり、前記ボール又はキー部材が前記離脱した位置にあれば、駆動力に対して前記変速機用太陽歯車が前記車軸の軸周りに回転可能となる構成を採用することができる。
【0044】
この構成において、前記変速制御機構は、前記車軸と前記変速機用太陽歯車との間に制御部材を備え、前記制御部材を前記車軸の半径方向に貫通する孔を設け、前記ボール又はキー部材は、前記孔に入り込むことで前記係合可能な位置に移動し、前記孔から出れば、前記離脱した位置に移動する構成を採用することができる。
【0045】
前記変速制御機構は、前記制御部材を前記車軸の軸方向に移動させることにより、前記回転可能又は回転不能の切り替えを行う構成とすることができ、前記制御部材を前記車軸の軸周りに回転させることにより、前記回転可能又は回転不能の切り替えを行う構成とすることもできる。
【0046】
これらの各構成において、前記クラッチ部材の個数は、例えば、前記車軸周りに一つだけ配置した構成を採用してもよいが、前記車軸の軸周りに少なくとも二つ以上配置されている構成が望ましい。
また、そのとき、前記クラッチ部材が、前記車軸の軸周りに等間隔で配置されていることが望ましい。
【0047】
また、これらの各構成において、前記減速機構の遊星歯車を二段歯車とし、その一方の歯車に駆動用モータを保持するモータハウジングに設けた減速機用外輪歯車が、他方の歯車に駆動用モータのモータ出力軸に設けた減速機用太陽歯車が噛み合っている構成を採用すれば、高減速比とすることが可能となる。
もちろん、この段数は、電動補助自転車又は電動二輪車に求められる仕様に応じて任意に設定できるから、例えば、一段とすることもできるし、三段以上とすることもできる。
【発明の効果】
【0048】
この発明は、車軸の軸心に沿って減速機、電動機、変速機構の三つの機構を並列に備えた構成において、装置をコンパクトにすることができる。
また、変速機用遊星キャリアで保持される減速機用遊星歯車と、駆動用モータのモータ出力軸とを軸受部で回転自在に支持することにより、車軸への曲げモーメントの負荷が抑制され、歯車間の片当たりの発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】この発明の一実施形態を示す縦断面図
【図2】同実施形態のクラッチの作用を示す要部拡大図
【図3】(a)は図2のA−A断面における係合時、(b)は係合解除時を示す断面図
【図4】変速機用遊星キャリア及び遊星キャリア軸の組み立て状態を示す断面図
【図5】(a)は(b)の左側面図、(b)は変速機用遊星キャリア、変速機用遊星歯車、減速機用遊星歯車及び遊星キャリア軸の組み立て状態を示す断面図
【図6】(a)は(b)の左側面図、(b)は図5の変形例を示し、変速機用遊星キャリア、変速機用遊星歯車、減速機用遊星歯車及び遊星キャリア軸の組み立て状態を示す断面図
【図7】他の実施形態のクラッチの作用を示す要部拡大図
【図8】さらに、他の実施形態のクラッチの作用を示す要部拡大図
【図9】(a)は、図8のA−A断面図、(b)はB−B断面図
【図10】さらに、他の実施形態のクラッチの作用を示す要部拡大図
【図11】(a)は、図10のA−A断面図、(b)はB−B断面図
【図12】電動補助自転車の全体図
【発明を実施するための形態】
【0050】
この発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。この実施形態の電動補助自転車は、駆動輪である後輪のハブ1(以下、「リアハブ1」と称する)内部に駆動用モータ8が設けられている、リアハブモータ方式の電動補助自転車である。なお、この実施形態の構成を電動二輪車としても採用でき、両者の構成は同じであるので、以下、電動補助自転車として説明する。
【0051】
踏力による駆動力は、図1に示すように、リアハブ1に対して車軸14の軸方向一端側(図中左側)に設けた後輪2のスプロケット9(以下、「リアスプロケット9」と称する。)を介して変速機構11に入力されるようになっている。また、後輪2の車軸14と同軸に設けたハブケース12内では、車軸14の軸方向一端側から他端側(図中右側)に向かって変速機構11、減速機構10及び駆動用モータ8が並列して設けられている。
【0052】
駆動時、図12に示すペダル3を通じて、クランク軸から伝達された踏力による駆動力が入力された場合は、フロントスプロケットとリアスプロケット9とを結ぶチェーン等の動力伝達要素4、変速機構11を介して、後輪2に駆動力が伝達可能となっている。リアスプロケット9は、ワンウェイクラッチ27を介して、変速機構11の変速機用遊星キャリア11cに取付けされている。
【0053】
変速機構11を切り替える変速制御機構15は、リアハブ1外部において、電動補助自転車のハンドル5やフレーム6等に取り付けられた変速切替スイッチ(図示せず)により、手動もしくは電動により操作されるようになっている。
【0054】
また、補助力としての駆動用モータ8の出力による駆動力は、リアハブ1内部の減速機構10を介して、ハブケース12に伝達され、後輪2に伝達可能となっている。
【0055】
さらに、前進非駆動時には、後輪2からの逆入力が減速機構10(逆入力の場合は増速される)等を介して駆動用モータ8に伝達され、逆入力によって生じた回生電力を、リアハブ1外部においてフレーム6等に取り付けられた二次電池に還元する回生機構を備えている。
【0056】
変速機構11は、三段階の増速可能な遊星歯車機構で構成されている。変速機構11は、車軸14の外周に設けられた三つの変速機用太陽歯車11a(11a−1,11a−2,11a−3)と、その変速機用太陽歯車11aに噛み合う変速機用遊星歯車11b、及びその変速機用遊星歯車11bを保持する変速機用遊星キャリア11cとを備えている。
【0057】
この実施形態では、変速機用太陽歯車11aは三つの太陽歯車、すなわち、第一太陽歯車11a−1、第二太陽歯車11a−2、第三太陽歯車11a−3からなる。その第一太陽歯車11a−1、第二太陽歯車11a−2、第三太陽歯車11a−3が、それぞれクラッチ16を介して車軸14に接続されている。
【0058】
変速機用遊星歯車11bは、第一太陽歯車11a−1、第二太陽歯車11a−2、第三太陽歯車11a−3に対して噛み合う歯数の異なる三段の歯車を有し、その変速機用遊星歯車11bは変速機用遊星キャリア11cによって保持されている。また、変速機用遊星歯車11bに噛み合う変速機用外輪歯車11dは、ハブケース12と一体である。
【0059】
この実施形態では、変速機用外輪歯車11dはハブケース12と一体に形成されているが、変速機用外輪歯車11dとハブケース12とを別体で形成して、それらを共に回転するように噛み合わせる構成も考えられる。
【0060】
なお、変速機用太陽歯車11aの設置数は自由であり、必要とする変速段に応じて、例えば、1個としてもよいし、2個、3個、4個としてもよい。このとき、変速機用遊星歯車11bの歯車の数は、変速機用太陽歯車11aの数と同数段とする。
【0061】
また、この実施形態では、変速機用外輪歯車11dは、変速機用遊星歯車11bの歯数が二番目の歯車と噛み合っている。他の歯車と噛み合わせることも可能であるが、三段間の増速比幅を最も稼ぐことができるため、この実施形態が望ましい。
【0062】
減速機構10は、遊星歯車機構によって構成されて、一つの減速機用太陽歯車10aと、その減速機用太陽歯車10aに噛み合う減速機用遊星歯車10bとを備えている。
【0063】
この実施形態では、減速機用遊星歯車10bは歯数の異なる二段の歯車を有する二段歯車であり、その歯数の少ない側の歯車に駆動用モータ8を保持するモータハウジング8bに設けた減速機用外輪歯車10dが噛み合っている。また、歯数の多い側の歯車に、駆動用モータ8のモータ出力軸8aに設けた減速機用太陽歯車10aが噛み合っている。すなわち、減速機構10は、駆動用モータ8のモータ出力軸8aを減速機用太陽歯車10aとし、二段の減速機用遊星歯車10b、モータハウジング8bと一体に回転する減速機用外輪歯車10d(固定)、及び、変速機構11と共通である変速機用遊星キャリア11cによって構成される。
【0064】
減速機用遊星歯車10bは、変速機用遊星キャリア11c及び変速機用遊星歯車11bと遊星キャリア軸11eで接続されている。つまり、減速機用遊星歯車10bは変速機用遊星キャリア11cで保持されて、変速機用遊星キャリア11c及び変速機用遊星歯車11bと一体に車軸14の軸周りに回転可能である。
変速機用遊星歯車11bと減速機用遊星歯車10bとが共通の遊星キャリア軸11eで、変速機用遊星キャリア11cに支持されているから、変速機構11の遊星キャリアと減速機構10の遊星キャリアを共通化することにより、車軸方向のコンパクト化が図られている。
【0065】
変速機用遊星キャリア11cは、図4に示すように、第一キャリア部材11g、第二キャリア部材11hと、その第一キャリア部材11gと第二キャリア部材11hとを結ぶ前記遊星キャリア軸11eを備える。第一キャリア部材11gと第二キャリア部材11hとは、遊星キャリア軸11eによって固定される。
【0066】
また、この変速機用遊星キャリア11cが備える遊星キャリア軸11eは、変速機用遊星歯車11bを、その遊星キャリア軸11eの軸周りに回転自由度を与えて保持している構成である。減速機用遊星歯車10bについても同様に、遊星キャリア軸11eが、減速機用遊星歯車10bを、その遊星キャリア軸11eの軸周りに回転自由度を与えて保持している。
【0067】
なお、この実施形態では、変速機用遊星歯車11bと減速機用遊星歯車10bとを同数(三個)としている。
【0068】
遊星キャリア軸11eの数は自由に設定でき、例えば、その変速機用遊星歯車11b及び前記減速機用遊星歯車10bと同数(三本)としてもよいが、この実施形態では、図5に示すように、遊星キャリア軸11eを、その変速機用遊星歯車11b及び前記減速機用遊星歯車10bの数の二倍(六本)としている。
【0069】
遊星キャリア軸11eを、変速機用遊星歯車11b及び減速機用遊星歯車10bの数の二倍、即ち六本で構成すれば、変速機用遊星キャリア11cの剛性をさらに増加させることが可能である。
【0070】
また、その六本の遊星キャリア軸11eを、同じPCD位置(車軸14の軸心から等距離にある位置)で構成することで、変速機用遊星歯車11b、減速機用遊星歯車10bが、どの遊星キャリア軸11eに対しても選択的に設定できるようになり、設計の自由度が高まる。
【0071】
また、この実施形態では、変速機用遊星歯車11bと減速機用遊星歯車10bの数をそれぞれ三個としているが、その変速機用遊星歯車11bと減速機用遊星歯車10bの数はそれぞれ自由に設定できる。ただし、変速機用遊星歯車11bと減速機用遊星歯車10bとは、荷重バランスを取るために同数であることが望ましい。
【0072】
なお、変速機用遊星歯車11bと減速機用遊星歯車10bの数を同数とし、さらに、遊星キャリア軸11eをそれと同数とすれば、変速機用遊星キャリア11cを簡単な構成とでき、その組み立てが容易である。
【0073】
このとき、同一の遊星キャリア軸11eで保持された変速機用遊星歯車11bと減速機用遊星歯車10bとは異なる回転数であることから、互いの接触によって発熱、若しくは磨耗の問題が生じる恐れがある。このため、変速機用遊星歯車11bと減速機用遊星歯車10bとの間に間隔材11fを配置するとよい。
【0074】
なお、この実施形態では、間隔材11fは、環状を成す板状部材であり、金属や樹脂等で構成される。また、間隔材11fは、遊星キャリア軸11eに相当する位置に、その遊星キャリア軸11e用の挿通孔を備える。
【0075】
このため、間隔材11fは、変速機用遊星歯車11bの端面と減速機用遊星歯車10bの端面とに接することにより、前述のように緩衝材として機能するとともに、前記挿通孔でもって、全ての遊星キャリア軸11eを保持する機能を発揮する。間隔材11fは、遊星キャリア軸11eを保持することによって、変速機用遊星キャリア11cの曲げ剛性を高める効果を発揮する。
【0076】
さらに、遊星キャリア軸11eの数が、変速機用遊星歯車11bや減速機用遊星歯車10bの数よりも多いとき、例えば、図6に示すように、その変速機用遊星歯車11bや減速機用遊星歯車10bを、それぞれ異なる遊星キャリア軸11eで保持する構成とすることもできる。
この構成によれば、一本の遊星キャリア軸11eにかかる荷重を抑え、変速機用遊星キャリア11cの強度を高めることができる。
【0077】
変速機構11は、車軸14の外周に設けられた三つの変速機用太陽歯車11a(第一太陽歯車11a−1、第二太陽歯車11a−2、第三太陽歯車11a−3)が、変速制御機構15の操作によって、駆動力と逆入力のそれぞれに対していずれか一つの変速機用太陽歯車11aを選択的に車軸14の軸回りに回転可能又は回転不能に切替えて変速できるようになっている。
【0078】
その切替えは、変速機用太陽歯車11aと車軸14との間に設けられたクラッチ16(クラッチ部材16a)を介して行われる。
【0079】
クラッチ16は、車軸14の軸方向に沿って移動可能なボールからなるクラッチ部材16aを備え、そのボールが、車軸14の軸方向に沿って移動することによって、変速機用太陽歯車11aと車軸14との軸周り両方向の相対回転に対して、いずれか一つの変速機用太陽歯車11aを選択的に車軸14の軸回りに回転不能に、他を回転可能に切替える。
【0080】
この実施形態では、変速制御機構15は、車軸14の軸周りに設けた制御部材15aを車軸14の軸周りに回転させることによって、クラッチ部材16aを車軸14の軸方向に沿って移動させ、その移動によって、変速機用太陽歯車11aと車軸14とを、軸周り両方向の相対回転に対して、回転可能又は回転不能に切替えることができる。
【0081】
また、変速機用遊星キャリア11cと変速制御機構15の制御部材15aとの間、変速制御機構15の制御部材15aと車軸14との間、変速機用遊星キャリア11cとハブケース12との間、及びハブケース12とモータハウジング8bとの間、モータハウジング8bとモータ出力軸8aとの間には、それぞれ軸受部21,26,22,23,24が設けられて、互いに軸周り相対回転可能となっている。
【0082】
さらに、変速機用遊星キャリア11cとモータ出力軸8aとの間には、軸受部25が設けられて、互いに軸周り相対回転可能となっている。車軸14とモータ出力軸8aとは接続されておらず、両者は独立して回転する。
軸受部25は、変速機用遊星キャリア11cの第二キャリア部材11hと、駆動用モータ8のモータ出力軸8aとの間に設けられ、その第二キャリア部材11hとモータ出力軸8aとを回転自在に支持する。この実施形態では、軸受部25に玉軸受を採用しているが、他の軸受構造を採用してもよい。
【0083】
この点について説明すると、仮に、軸方向に並列して配置される駆動輪の車軸14と駆動用モータ8のモータ出力軸8aとを、直接、軸受等で支える構造とした場合、通常は、車軸に対して鉛直方向に荷重が作用すると、駆動輪のハブケース12から変速機用遊星歯車11bを介して変速機用遊星キャリア11cに曲げモーメントが作用する。このとき、車軸14にも曲げモーメントが作用し、モータ出力軸8aと車軸14間の軸受等に過大な負荷が作用する懸念がある。
【0084】
しかし、この実施形態のように、変速機用遊星キャリア11cで保持される減速機用遊星歯車10bと、駆動用モータ8のモータ出力軸8aとを軸受部25で回転自在に支持することにより、車軸14への曲げモーメントの負荷が抑制され、このような懸念を解消できる。
すなわち、変速機用遊星キャリア11cを、その軸方向両端で、車軸14とモータ出力軸8aという2つの軸に回転支持することで、車軸14への曲げモーメントの負荷を抑制したのである。
【0085】
また、変速機用遊星キャリア11cを、その軸方向両端で、車軸14とモータ出力軸8aという2つの軸に回転支持することで、その変速機用遊星キャリア11cの剛性を高めている。
すなわち、変速機用遊星歯車11bや減速機用遊星歯車10bを支える遊星キャリア軸11eには、通常、大きな曲げの力が作用するので、その剛性が弱いと変位量が大きくなる。変位量が大きいと、遊星歯車と外輪歯車、若しくは、遊星歯車と太陽歯車との接触において、片当たりが生じる恐れがある。そこで、軸受部25による変速機用遊星キャリア11cとモータ出力軸8aとの支持によって、変速機用遊星キャリア11cの剛性を高め、そのような片当たりの発生を抑制したものである。
【0086】
つぎに、変速機構11の作用について説明すると、例えば、第一太陽歯車11a−1を車軸14に対して回転不能とした場合、リアスプロケット9からの回転速度は、変速機用遊星キャリア11cから増速されてハブケース12(変速機用外輪歯車11d)に伝達される。
【0087】
このとき、第一太陽歯車11a−1の歯数をa1、その第一太陽歯車11a−1と噛み合う変速機用遊星歯車11bの歯数をb1、変速機用外輪歯車11dと噛み合う変速機用遊星歯車11bの歯数をb2、変速機用外輪歯車11dの歯数をd1とすると、変速機用遊星キャリア11cから変速機用外輪歯車11dへの増速比は
[(a1×b2)/(b1×d1)]+1
となる。このとき、第二太陽歯車11a−2、第三太陽歯車11a−3は空転状態であり、トルク伝達に関与しない。
【0088】
また、第二太陽歯車11a−2を車軸14に回転不能とした場合、第二太陽歯車11a−2の歯数をa2、変速機用外輪歯車11dの歯数を、前述の例と同様にd1とすると、変速機用遊星キャリア11cから変速機用外輪歯車11dへの増速比は、
[a2/d1]+1
となる。
【0089】
さらに、第三太陽歯車11a−3を車軸14に回転不能とした場合、第三太陽歯車11a−3の歯数をa3、その第三太陽歯車11a−3と噛み合う変速機用遊星歯車11bの歯数をb3、前述の例と同様に、変速機用外輪歯車11dと噛み合う変速機用遊星歯車11bの歯数をb2、変速機用外輪歯車11dの歯数をd1とすると、変速機用遊星キャリア11cから変速機用外輪歯車11dへの増速比は、
[(a3×b2)/(b3×d1)]+1
となる。
【0090】
また、駆動用モータ8は、変速機構11と車軸14の軸方向に並設されており、その駆動用モータ8の出力は、遊星歯車機構を用いた減速機構10を介して変速機用遊星キャリア11cに減速されて伝達される。
さらに、変速機用遊星キャリア11cからは、変速機構11によって増速されてハブケース12に伝達される。このときの増速比は、変速制御機構15により、いずれの変速機用太陽歯車11aが車軸14に対して回転不能となるかによって異なる。
【0091】
駆動用モータ8からの出力は、減速機用太陽歯車10aと噛み合う減速機用遊星歯車10bの歯数をb4、減速機用外輪歯車10dの歯数をd2、減速機用太陽歯車10aの歯数をa4、減速機用外輪歯車10dと噛み合う減速機用遊星歯車10bの歯数をb5とすると、減速機用太陽歯車10aから変速機用遊星キャリア11cへの減速比は
[(d2×b4)/(a4×b5)]+1
となる。
【0092】
また、前進非駆動時は、後輪2からの逆入力が、ハブケース12から変速機用遊星歯車11bに伝達される。このとき、各変速機用太陽歯車11aと車軸14との間に設けられたクラッチ16によって、いずれか一つの変速機用太陽歯車11aは、その逆入力に対して車軸14に対し回転不能とされ、他は回転可能とされる。
その結果、後輪2からの逆入力は、変速機構11を介して減速されて変速機用遊星キャリア11cに伝達され、さらに、減速機構10を介して駆動用モータ8に増速されて伝達され、回生充電が可能となる。
【0093】
これらの構成により、リアスプロケット9からの駆動力(踏力)は増速されて後輪2に伝達される。また、駆動用モータ8からの駆動力は、減速機構10を介して減速されて変速機用遊星キャリア11cに伝達され、その後、変速機構11を介して増速されて後輪2に伝達される。
一方、後輪2からの逆入力トルクは変速機構11により減速され、減速機構10により増速されて駆動用モータ8に伝わり、回生充電が可能な状態となる。
【0094】
つぎに、変速制御機構15の詳細について説明する。変速制御機構15は、図1及び図2に示すように、車軸14の軸周りに設けられた三つの主要な部材、すなわち、制御部材15a、連結部材15d、操作部材15eで構成される。
【0095】
制御部材15a、連結部材15d、操作部材15eは、一体として回転運動可能なようにセレーション結合によって、車軸14の軸方向に沿って連結されている。また、制御部材15aは、その一部が、車軸14と変速機用太陽歯車11aとの間に入り込むように配置されている。
【0096】
制御部材15aには、少なくとも二個以上のボールを保持するためのポケット15bが軸周り等分方位に(等配に)形成されている。
ポケット15bは長手状を成し、その全長に亘って軸方向に捩れながら、すなわち、車軸14の軸方向に対して斜め方向に交差する方向に伸びている。
【0097】
この実施形態では、クラッチ部材16aは車軸14の軸周りに四つ配置しているが、その数は自由である。ただし、係合安定性のためには、これを二つ以上とすることが望ましい。
また、そのクラッチ部材16aを軸周りに複数設ける場合は、これを車軸14の軸周りに等分方位で配置することが望ましい。
【0098】
また、車軸14の外面には、ポケット15bと同数のボール溝14aが形成されている。この実施形態では、ボール溝14aは、車軸14の軸方向に並行に直線状に形成されている。
【0099】
各ポケット15b内にボールが保持され、また、そのボールは、ボール溝14a内に収容されている。
【0100】
変速制御機構15の操作部材15eにはワイヤー等(図示せず)が繋がれ、前述の変速切替スイッチからの信号によってそのワイヤーが引かれ、操作部材15eが車軸14の軸周りに回転操作される。
操作部材15eが車軸14の軸周りに回転することにより、連結部材15dを介して制御部材15aも車軸14の軸周りに回転する。
【0101】
この制御部材15aの回転により、ボールは、長手状のポケット15bの内壁に押し出されるように、車軸14の軸方向に沿って一方向へ移動する。このとき、ボールはボール溝14a内に収容されているので、そのボールの移動は、ボール溝14aの伸びる方向へ案内される。また、制御部材15aが逆方向へ回転すれば、ボールは、車軸14の軸方向に沿って他方向へ移動する。この制御部材15aの逆方向への回転は、ワイヤーの動作によらず、バネ等の弾性部材の付勢力を活用し、ワイヤーの引張力が解除された際、あるいは緩められた際に自動的に行われるようにしてもよい。
【0102】
各変速機用太陽歯車11aは、それぞれその内面に、周方向に沿って凹凸が連続する花びら状のカム面11kが設けられている。前述のボールの軸方向への移動により、そのボールは、変速機用太陽歯車11aのカム面11kに対面する位置と、その対面する位置から軸方向へ離脱した位置との間で移動することができる。
【0103】
その移動によって、ボールが、ある一つの変速機用太陽歯車11aのカム面11kに対面する位置にあれば、このカム面11kと車軸14のボール溝14aとがボールを介して噛み合い(図3(a)参照)、車軸14とその変速機用太陽歯車11aとが回転不能となる。このとき、クラッチ16は、車軸14と変速機用太陽歯車11aとの軸周り両方向の相対回転に対してそれぞれ係合可能であるので、その変速機用太陽歯車11aは、駆動力に対しても逆入力に対しても回転不能とされる。
【0104】
また、ボールがカム面11kに対面する位置から離脱した位置にあれば、変速機用太陽歯車11aが車軸14の軸周りに回転可能となる。このため、ボールがカム面11kに対面していない他の二つの変速機用太陽歯車11aは、駆動力に対しても逆入力に対しても車軸14の軸周りに回転可能である。
【0105】
また、ボール溝14aには、ボールがある一つの変速機用太陽歯車11aのカム面11kに噛み合っている際に、隣り合う変速機用太陽歯車11aに同時に干渉しないようにするための逃げ溝14bが設けられている。逃げ溝14bは、図2に示すように、カム面11kに対面する位置から軸方向へ離脱した位置に、ボール溝14aの他の部分よりもやや深く形成されている。
【0106】
この逃げ溝14b内にボールが入り込めば、ボールがやや内径側へ移動するので(図3(b)参照)、変速機用太陽歯車11aのカム面11kに干渉しない。このため、ボールによる係合を、一つの変速機用太陽歯車11aから他の変速機用太陽歯車11aへと切替える際に、いずれの変速機用太陽歯車11aにも係合しない中立状態が介在することとなり、スムーズな切り替えが可能となる。
【0107】
変速制御機構15の他の実施形態を、図7に示す。この実施形態は、車軸14のボール溝14aを、その全長に亘って、車軸14の軸方向に捩り状に形成したものである。すなわち、ボール溝14aは、車軸14の軸方向に対して斜め方向に交差する方向へ伸びている。
【0108】
また、そのボール溝14aの車軸14の軸方向に対する交差方向と、ポケット15bの車軸14の軸方向に対する交差方向とは、その車軸14の軸方向に対して反対方向である。すなわち、車軸14の軸方向へ向かうにつれて、ボール溝14aが車軸14の軸周り一方向へ捩れるのに対し、ポケット15bは軸周り他方向へ捩れている。
【0109】
また、ポケット15bとボール溝14aはそれぞれ直線状に伸びており、そのポケット15bとボール溝14aとの交差角度は30度以上となっている。この交差角度(捩れ角度)が30度以上であれば、制御部材15aを回転させた際に、スムーズなボールの軸方向移動が可能である。
なお、このポケット15bとボール溝14aの車軸14の軸方向に対する捩れ角は、その車軸14の軸方向を挟んで、互いに逆方向に同角であることが望ましい。
【0110】
変速制御機構15のさらに他の実施形態を図8及び図9に示す。この実施形態は、クラッチ部材16aをボールとし、そのボールを、各変速機用太陽歯車11aに対してそれぞれ軸方向へ移動しないように取り付けている。なお、各ボールは、車軸14内に設けられた半径方向の孔14c内に収容された弾性部材16bによって、その車軸14内の固定要素14dに接続されている。各ボールは、弾性部材16bの弾性力によって、外径方向へ付勢されている。
【0111】
変速制御機構15の制御部材15aを、車軸14の軸周りに回転させることで、その制御部材15aに設けた孔15c(車軸14の半径方向に貫通する孔15c)にボールが臨めば、そのボールは孔15cを通じて外径方向へ突出し、対面する変速機用太陽歯車11aのカム面11kに係合可能な状態となる(図9(a)参照)。孔15cに臨んでいないボールは、その制御部材15aによって外径方向への突出が押さえられるので、変速機用太陽歯車11aのカム面11kに係合不可能な状態となる(図9(b)参照)。
【0112】
この孔15cは、一つの変速機用太陽歯車11aに対応して、周方向に並ぶボールの数と同数(この実施形態では四個)設けられたものを一群とし、その一群の孔15cが、変速機用太陽歯車11aの数と同数だけ軸方向に並列して設けられている。軸方向に並列する孔15c同士は、互いに軸周り方位が異なる位置に設けられている。
【0113】
このため、各変速機用太陽歯車11aのうち、一つの変速機用太陽歯車11aに対してのみ周方向に並んでいる全てのボールにそれぞれ孔15cが臨み、その孔15cを通じてボールが外径方向に突出する。これにより、その変速機用太陽歯車11aを車軸14に対して軸周り両回転方向に回転不能とする。
【0114】
また、この状態で、他の変速機用太陽歯車11aに対しては、ボールが孔15cに臨まないように孔15cの位置が設定されており、これらのボールは外径方向に突出しない。このため、他の変速機用太陽歯車11aは、車軸14に対して軸周り両回転方向に回転可能となる。
【0115】
すなわち、ボールは、制御部材15aの孔15cに入り込むことで、変速機用太陽歯車11aのカム面11kに係合可能な位置に移動し、孔15cから出れば(孔15cに入り込まない位置にあれば)、そのカム面11kに係合可能な位置から離脱した位置に移動する。また、複数の変速機用太陽歯車11aのうち、一つの変速機用太陽歯車11aについてのみ、クラッチ部材16aとしてのボールはカム面11kに係合可能となり、他の変速機用太陽歯車11aについては、クラッチ部材16aとしてのボールはカム面11kに係合不可能な状態となる。
【0116】
変速制御機構15のさらに他の実施形態を図10及び図11に示す。この実施形態は、前述の実施形態におけるクラッチ部材16aとしてのボールに代えて、キー部材を用いたものである。
【0117】
キー部材は、各変速機用太陽歯車11aに対してそれぞれ軸方向に移動しないように取り付けている。また、各キー部材は、車軸14内に設けられた半径方向の孔14c内に収容された弾性部材16bによって、車軸14内の固定要素14dに接続されている。各キー部材は、弾性部材16bの弾性力によって、外径方向へ付勢されている。その作用については、ボールを用いた前述の実施形態と同様である。
【符号の説明】
【0118】
1 リアハブ(ハブ)
2 後輪(駆動輪)
3 ペダル
4 駆動力伝達要素(チェーン)
5 ハンドル
6 フレーム
7 ハブフランジ
8 駆動用モータ
8a モータ出力軸
8b モータハウジング
9 リアスプロケット(スプロケット)
10 減速機構
10a 減速機用太陽歯車
10b 減速機用遊星歯車
10d 減速機用外輪歯車
11 変速機構
11a 変速機用太陽歯車
11a−1 第一太陽歯車
11a−2 第二太陽歯車
11a−3 第三太陽歯車
11b 変速機用遊星歯車
11c 変速機用遊星キャリア
11d 変速機用外輪歯車
11e 遊星キャリア軸
11f 間隔材
11g 第一キャリア部材
11h 第二キャリア部材
11k カム面
12 ハブケース
14 車軸
15 変速制御機構
15a 制御部材
15b ポケット
15c 孔
15d 連結部材
15e 操作部材
16 クラッチ
16a クラッチ部材
21,22,23,24,25,26 軸受部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪のハブ(1)内部に、変速機構(11)、減速機構(10)及び駆動用モータ(8)を車軸(14)の軸方向に並列して配置し、前記変速機構(11)は、遊星歯車機構によって構成されて少なくとも一つの変速機用太陽歯車(11a)と、その変速機用太陽歯車(11a)に噛み合う変速機用遊星歯車(11b)、及びその変速機用遊星歯車(11b)を保持する変速機用遊星キャリア(11c)とを備え、ペダルからの踏力による駆動力を駆動輪に伝達し、前記減速機構(10)は、遊星歯車機構によって構成されて少なくとも一つの減速機用太陽歯車(10a)と、その減速機用太陽歯車(10a)に噛み合う減速機用遊星歯車(10b)とを備え、前記減速機用遊星歯車(10b)は前記変速機用遊星キャリア(11c)で保持され、前記駆動用モータ(8)のモータ出力軸(8a)からの駆動力を駆動輪に伝達し、駆動力に対して前記変速機用太陽歯車(11a)を前記車軸(14)の軸周りの一方向若しくは両方向に回転可能又は回転不能に切り替えて変速を行う変速制御機構(15)を備え、前記変速機用遊星キャリア(11c)とモータ出力軸(8a)とを回転自在に支持する軸受部(25)を備えることを特徴とする電動補助自転車又は電動二輪車。
【請求項2】
前記ペダルからの踏力による駆動力は、前記ハブ(1)に対して前記車軸(14)の軸方向一端側に設けたスプロケット(9)を介して前記変速機構(11)に入力され、前記ハブ(1)内に、前記車軸(14)の軸方向一端側から他端側に向かって変速機構(11)、減速機構(10)及び駆動用モータ(8)を並列して設けたことを特徴とする請求項1に記載の電動補助自転車又は電動二輪車。
【請求項3】
前記変速機用遊星歯車(11b)と前記減速機用遊星歯車(10b)とは、同一の遊星キャリア軸(11e)によって前記変速機用遊星キャリア(11c)に保持されることを特徴とする請求項1又は2に記載の電動補助自転車又は電動二輪車。
【請求項4】
前記変速機用遊星歯車(11b)と前記減速機用遊星歯車(10b)とは同数であり、前記遊星キャリア軸(11e)を、前記変速機用遊星歯車(11b)及び前記減速機用遊星歯車(10b)と同数とすることを特徴とするリアハブを用いる請求項1乃至3のいずれか一つに記載の電動補助自転車又は電動二輪車。
【請求項5】
前記変速機用遊星歯車(11b)と前記減速機用遊星歯車(10b)とは同数であり、前記遊星キャリア軸(11e)を、前記変速機用遊星歯車(11b)及び前記減速機用遊星歯車(10b)の数の二倍とすることを特徴とするリアハブを用いる請求項1乃至3のいずれか一つに記載の電動補助自転車又は電動二輪車。
【請求項6】
前記変速機用遊星歯車(11b)と前記減速機用遊星歯車(10b)の数をそれぞれ三個とすることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の電動補助自転車又は電動二輪車。
【請求項7】
前記変速機用遊星歯車(11b)と前記減速機用遊星歯車(10b)の間に間隔材(11f)を備え、その間隔材(11f)は、前記変速機用遊星歯車(11b)と前記減速機用遊星歯車(10b)とに接することにより緩衝材として機能することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の電動補助自転車又は電動二輪車。
【請求項8】
前記変速機用遊星歯車(11b)と前記減速機用遊星歯車(10b)との間に間隔材(11f)を備え、その間隔材(11f)は、全ての前記遊星キャリア軸(11e)を保持することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の電動補助自転車又は電動二輪車。
【請求項9】
前記変速制御機構(15)は、前記変速機用太陽歯車(11a)と前記車軸(14)との間に設けたクラッチ部材(16a)を介して前記回転可能又は回転不能の切り替えを行うことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載の電動補助自転車又は電動二輪車。
【請求項10】
前記変速制御機構(15)は、前記クラッチ部材(16a)を介して、前記変速機用太陽歯車(11a)と前記車軸(14)との軸周り両方向の相対回転に対して、前記変速機用太陽歯車(11a)を前記車軸(14)に回転可能又は回転不能に切替えることができ、前記駆動輪からの逆入力に対して、前記変速機用太陽歯車(11a)と前記車軸(14)とを回転不能とすることにより、その逆入力により生じた回生電力を駆動用モータ(8)を通じて二次電池に還元する回生機構を備えたことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一つに記載の電動補助自転車又は電動二輪車。
【請求項11】
前記減速機用遊星歯車(10b)を二段歯車とし、その一方の歯車に前記駆動用モータ(8)を保持するモータハウジング(8b)に設けた減速機用外輪歯車(11d)が、他方の歯車に前記駆動用モータ(8)のモータ出力軸(8a)に設けた減速機用太陽歯車(10a)が噛み合っていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一つに記載の電動補助自転車又は電動二輪車。
【請求項1】
駆動輪のハブ(1)内部に、変速機構(11)、減速機構(10)及び駆動用モータ(8)を車軸(14)の軸方向に並列して配置し、前記変速機構(11)は、遊星歯車機構によって構成されて少なくとも一つの変速機用太陽歯車(11a)と、その変速機用太陽歯車(11a)に噛み合う変速機用遊星歯車(11b)、及びその変速機用遊星歯車(11b)を保持する変速機用遊星キャリア(11c)とを備え、ペダルからの踏力による駆動力を駆動輪に伝達し、前記減速機構(10)は、遊星歯車機構によって構成されて少なくとも一つの減速機用太陽歯車(10a)と、その減速機用太陽歯車(10a)に噛み合う減速機用遊星歯車(10b)とを備え、前記減速機用遊星歯車(10b)は前記変速機用遊星キャリア(11c)で保持され、前記駆動用モータ(8)のモータ出力軸(8a)からの駆動力を駆動輪に伝達し、駆動力に対して前記変速機用太陽歯車(11a)を前記車軸(14)の軸周りの一方向若しくは両方向に回転可能又は回転不能に切り替えて変速を行う変速制御機構(15)を備え、前記変速機用遊星キャリア(11c)とモータ出力軸(8a)とを回転自在に支持する軸受部(25)を備えることを特徴とする電動補助自転車又は電動二輪車。
【請求項2】
前記ペダルからの踏力による駆動力は、前記ハブ(1)に対して前記車軸(14)の軸方向一端側に設けたスプロケット(9)を介して前記変速機構(11)に入力され、前記ハブ(1)内に、前記車軸(14)の軸方向一端側から他端側に向かって変速機構(11)、減速機構(10)及び駆動用モータ(8)を並列して設けたことを特徴とする請求項1に記載の電動補助自転車又は電動二輪車。
【請求項3】
前記変速機用遊星歯車(11b)と前記減速機用遊星歯車(10b)とは、同一の遊星キャリア軸(11e)によって前記変速機用遊星キャリア(11c)に保持されることを特徴とする請求項1又は2に記載の電動補助自転車又は電動二輪車。
【請求項4】
前記変速機用遊星歯車(11b)と前記減速機用遊星歯車(10b)とは同数であり、前記遊星キャリア軸(11e)を、前記変速機用遊星歯車(11b)及び前記減速機用遊星歯車(10b)と同数とすることを特徴とするリアハブを用いる請求項1乃至3のいずれか一つに記載の電動補助自転車又は電動二輪車。
【請求項5】
前記変速機用遊星歯車(11b)と前記減速機用遊星歯車(10b)とは同数であり、前記遊星キャリア軸(11e)を、前記変速機用遊星歯車(11b)及び前記減速機用遊星歯車(10b)の数の二倍とすることを特徴とするリアハブを用いる請求項1乃至3のいずれか一つに記載の電動補助自転車又は電動二輪車。
【請求項6】
前記変速機用遊星歯車(11b)と前記減速機用遊星歯車(10b)の数をそれぞれ三個とすることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一つに記載の電動補助自転車又は電動二輪車。
【請求項7】
前記変速機用遊星歯車(11b)と前記減速機用遊星歯車(10b)の間に間隔材(11f)を備え、その間隔材(11f)は、前記変速機用遊星歯車(11b)と前記減速機用遊星歯車(10b)とに接することにより緩衝材として機能することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の電動補助自転車又は電動二輪車。
【請求項8】
前記変速機用遊星歯車(11b)と前記減速機用遊星歯車(10b)との間に間隔材(11f)を備え、その間隔材(11f)は、全ての前記遊星キャリア軸(11e)を保持することを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一つに記載の電動補助自転車又は電動二輪車。
【請求項9】
前記変速制御機構(15)は、前記変速機用太陽歯車(11a)と前記車軸(14)との間に設けたクラッチ部材(16a)を介して前記回転可能又は回転不能の切り替えを行うことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一つに記載の電動補助自転車又は電動二輪車。
【請求項10】
前記変速制御機構(15)は、前記クラッチ部材(16a)を介して、前記変速機用太陽歯車(11a)と前記車軸(14)との軸周り両方向の相対回転に対して、前記変速機用太陽歯車(11a)を前記車軸(14)に回転可能又は回転不能に切替えることができ、前記駆動輪からの逆入力に対して、前記変速機用太陽歯車(11a)と前記車軸(14)とを回転不能とすることにより、その逆入力により生じた回生電力を駆動用モータ(8)を通じて二次電池に還元する回生機構を備えたことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一つに記載の電動補助自転車又は電動二輪車。
【請求項11】
前記減速機用遊星歯車(10b)を二段歯車とし、その一方の歯車に前記駆動用モータ(8)を保持するモータハウジング(8b)に設けた減速機用外輪歯車(11d)が、他方の歯車に前記駆動用モータ(8)のモータ出力軸(8a)に設けた減速機用太陽歯車(10a)が噛み合っていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一つに記載の電動補助自転車又は電動二輪車。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−116215(P2012−116215A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−265005(P2010−265005)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
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