説明

電動車椅子

【課題】リクライニング動作とスタンドアップ動作と背もたれ部の伸縮動作とを全自動で同時にスムーズに実行可能にして使用感を向上させる。
【解決手段】着座部12と背もたれ部13とスタンドアップリクライニング機構16とを設け、着座部12の前端部をメインフレーム2前部付近に傾動自在に連結する一方、背もたれ部13を構成するシートバックフレーム31の下端部を着座部12の後端部に傾動自在に連結し、このシートバックフレーム31にスライドフレーム32をスライド自在に設けてユーザーの背部に当接させた。スタンドアップリクライニング機構16は、リクライニングアクチュエーター61と、スライドアクチュエーター62と、スタンドアップアクチュエーター63を個別に制御可能なシートコントローラー64と、このシートコントローラー64に着座部12と背もたれ部13の傾動操作およびスライドフレーム32のスライド操作を指令する操作スイッチ65とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着座シートのリクライニング動作とスタンドアップ動作の両方を可能にした電動車椅子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電動車椅子の主なユーザーは、下半身のみならず上半身の可動部位にも制限がある人が多く、その障害のために着座したユーザー自身による座位変換、体圧分散、シットアップ等による除圧が困難な場合が多い。このため、特許文献1,2に記載されているように、背もたれ部を電動等でリクライニング(傾動)可能に構成することにより体圧を分散し、蓐瘡(床ずれ)等を予防可能にした電動車椅子がある。
【0003】
また、特許文献3,4,5に記載されているリクライニングシートや車椅子のように、着座部や背もたれ部をスタンドアップ(起立)可能に構成し、ユーザーを着座姿勢から起立姿勢に移行させやすくしたものもある。このようなスタンドアップ機能を持たせてユーザーが起立姿勢になることを補助することにより、上述のような体圧分散(体圧除去)がより効果的に行えるとともに、ユーザーの「立ちたい」という願望も叶えることができる。
【特許文献1】特開平5−305112号公報
【特許文献2】特開2005−253535号公報
【特許文献3】特公平6−98166号公報
【特許文献4】特許第3072463号公報
【特許文献5】特開平8−275970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のように背もたれ部を電動等で傾動させた場合、背もたれ部の回動中心(傾動軸)と、ユーザーの回動中心(背骨下端付近での回動ならびに臀部の転がり)との位置が異なるために、ユーザーの背中と背もたれ部との間にずれが生じて不快感を覚える。このため、特に着座姿勢から起立姿勢に移行する場合には、ユーザー自身で姿勢を調整する必要があり、障害度の高いユーザーにとっては困難な場合があった。
【0005】
従来、ユーザーの体格に合わせて背もたれ部を伸縮可能にした車椅子もあり、これによれば背もたれ部を傾動させた際に背もたれ部を伸縮させて背中と背もたれ部との間にずれが生じることを防止できたが、背もたれ部の伸縮位置調整は手動で行われており、背もたれ部の傾動時には伸縮動作が固定されていたため、介護者がいないと背もたれ部の伸縮調整が行えなえないばかりか、ユーザーの体格差や日々の座り方のずれ等に十分対応できないといった問題があった。さらに、背もたれ部を伸縮させた時にユーザーの肘とアームレストとの相対距離が変化してしまい、肘を安定良く支持できなくなる懸念があった。
【0006】
本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、リクライニング動作とスタンドアップ動作と背もたれ部の伸縮動作とを全自動で同時にスムーズに行うことができ、しかもユーザーの両肘を安定良く支持することができ、使用感が良くて構造がコンパクトな上にメンテナンス性の良い電動車椅子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る電動車椅子は、ユーザーの臀部および大腿部を支える着座部と、ユーザーの背部を支える背もたれ部と、上記着座部および背もたれ部を傾動動作ならびに伸縮動作させるスタンドアップリクライニング機構とを備え、上記着座部はその前端部がメインフレーム前部付近に傾動自在に連結される一方、上記背もたれ部はシートバックフレームとスライドフレームとを有し、上記シートバックフレームはその下端部が上記着座部の後端部に傾動自在に連結され、上記スライドフレームは上記シートバックフレームに対し上下にスライド自在に支持されてユーザーの背部に接する背当て部材を備え、上記スタンドアップリクライニング機構は、上記着座部を略水平な着座位置から略垂直な起立位置まで傾動させるスタンドアップアクチュエーターと、上記背もたれ部を上記着座部に対し傾動させるリクライニングアクチュエーターと、上記スライドフレームを上記シートバックフレームに対しスライドさせるスライドアクチュエーターと、上記スタンドアップアクチュエーターおよびリクライニングアクチュエーターならびにスライドアクチュエーターを個別に制御可能なシートコントローラーと、このシートコントローラーに着座部と背もたれ部の傾動操作およびスライドフレームのスライド操作を指令する操作スイッチとを備えたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る電動車椅子は、前記スタンドアップリクライニング機構はさらに、前記着座部の傾動角度を検出する着座部傾動角度検出手段と、前記背もたれ部の傾動角度を検出する背もたれ部傾動角度検出手段と、前記スライドフレームのスライド位置を検出するスライド位置検出手段とを備え、さらに前記シートコントローラーは、上記着座部傾動角度検出手段およびシートバック傾動角度検出手段ならびにスライド位置検出手段からの入力信号に基づいて現在の着座部および背もたれ部の傾動角度とスライドフレームのスライド位置とを演算する演算部と、上記演算部が演算した現在の傾動角度およびスライド位置の情報と前記操作スイッチによる傾動操作およびスライド操作の指令情報とを比較し、ユーザーが所望する傾動角度およびスライド位置となるように前記スタンドアップアクチュエーターとリクライニングアクチュエーターとスライドアクチュエーターとを操作する操作部とを備えたことを特徴とする。
【0009】
さらに、本発明に係る電動車椅子は、前記シートコントローラーはさらに、前記着座部および背もたれ部の各傾動角度に対する最適なスライドフレームのスライド位置を記憶するメモリー部と、上記メモリー部に記憶されたマップに応じて前記スタンドアップアクチュエーターおよびリクライニングアクチュエーターの動きに合わせて前記スライドアクチュエーターをフィードバック制御するフィードバック制御部とを備えたことを特徴とする。
【0010】
そして、本発明に係る電動車椅子は、前記リクライニングアクチュエーターと前記スライドアクチュエーターを前記シートバックフレームの背面側に車幅方向に並べて配設する一方、前記スタンドアップアクチュエーターを前記着座部の下方に配設したことを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る電動車椅子は、前記スタンドアップアクチュエーターを伸縮シリンダー状に構成し、その一端を前記メインフレーム前部付近かつ前記着座シートの前端連結部の下方に回動自在に連結し、他端を着座シートの下面かつ自由端寄りに回動自在に連結したことを特徴とする。
【0012】
さらに、本発明に係る電動車椅子は、ユーザーの両肘を載せる左右一対のアームレストの後端部を前記背もたれ部の前記スライドフレームに固定支持したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る電動車椅子によれば、3つのアクチュエーターにより、着座部の傾動動作と、背もたれ部の傾動動作と、背もたれ部の伸縮動作とを自動で個別に操作できる。しかも、これら3つの動作を連動制御することができるため、リクライニング動作とスタンドアップ動作をスムーズに行うことができる。
【0014】
リクライニング動作およびスタンドアップ動作の際には同時に背もたれ部を伸縮動作させることができるため、ユーザーの背中と背もたれ部との間にずれが生じることを防止し、使用感を向上させることができる。
【0015】
また、背もたれ部のスライドフレーム側にアームレストを固定支持したため、背もたれ部の伸縮に応じてアームレストが上下し、これにより背もたれ部の伸縮時にユーザーの肘とアームレストとの相対距離が変化せず、アームレストによりユーザーの肘を安定良く支持することができる。
【0016】
さらに、3つのアクチュエーターがスペース効率良く配置されるため、スタンドアップリクライニング機構のコンパクト化を図ることができる。特に、伸縮シリンダー状に構成したスタンドアップアクチュエーターの一端をメインフレーム前部付近に連結された着座部の連結部下方に回動自在に連結し、他端を着座部の下面かつ自由端寄りに回動自在に連結したことから、スタンドアップ動作時にはスタンドアップアクチュエーターが着座部とともに立ち上がる。このため、メインフレームの上が広く開口し、メインフレームに搭載されている電源用バッテリーやコントローラー等の機材のメンテナンス性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
図1は本発明に係る電動車椅子の一例を示す斜視図であり、図2は左側面図、図3は後面(背面)図である。
【0019】
この電動車椅子1は、例えば鋼管や鋼板等を組み合わせた構成されたメインフレーム2を備えており、このメインフレーム2の上に着座シート3が搭載されている。メインフレーム2の前下部には左右一対の転舵可能な前輪4が設けられ、メインフレーム2の後下部には左右一対の後輪5が設けられている。左右の後輪5の内側にはそれぞれ駆動用の電動モーター(駆動ユニット)6が配設され、その前方に電動モーター6および後述するスタンドアップリクライニング機構16の電源となるバッテリー7が搭載され、バッテリー7の上部と前部とに、それぞれメインコントローラー8やパワーステアリングコントローラー9等の電子器材が載置されている。
【0020】
着座シート3は、サブフレーム11と、ユーザーの臀部および大腿部を支える着座部12と、ユーザーの背部を支える背もたれ部13と、両肘を載せる左右一対のアームレスト14と、両足を載せるフットレスト15と、着座部12および背もたれ部13を傾動動作ならびに伸縮動作させるスタンドアップリクライニング機構16とを備えて構成されている。
【0021】
メインフレーム2の前上部には左右一対のスタンディングブラケット18がそれぞれボルト等で堅固に固定されて上斜め前方に立ち上がっており、その間が角パイプ状の横メンバー20(図4参照)で連結されている。
【0022】
一方、サブフレーム11は、図3、図4、図5に示すように、左右一対の鋼板製のサイドパネル22の間が車幅方向に延びる3本の横メンバー23,24,25により連結された構成であり、左右のサイドパネル22の前端部がピボット軸26を介してスタンディングブラケット18の最上端部に回動(傾動)自在に連結されている。
【0023】
他方、着座部12は、ラダー状のシートアンダーフレーム28の上面に座面クッション29が張設された構成であり、背もたれ部13は、シートバックフレーム31と、このシートバックフレーム31の前面側にスライド自在に支持されるスライドフレーム32とを備えて構成されている。スライドフレーム32の前面にはユーザーの背部に接する背面クッション33が設けられ、その上部にユーザーの後頭部に接するヘッドレストクッション34が設けられる。なお、シートバックフレーム31の上部には後方に延びる左右一対の手押しハンドル35が設けられている。
【0024】
シートバックフレーム31の下端部両側面に固着された左右一対のサイドプレート37には車幅方向に軸線が沿う上側のピボット軸38と下側のピボット軸39が設けられ、ピボット軸38がサブフレーム11(サイドパネル22)の後上部に回動自在に連結され、ピボット軸39が着座部12(シートアンダーフレーム28)の後端部に傾動自在に連結されている。なお、ピボット軸39は幅方向外側に突出し、サイドパネル22に穿設された扇状の長孔40に嵌合され、この長孔40の長さによりピボット軸39の動き、即ちシートバックフレーム31の傾動角度が規制される。なお、部材41は着座部12と背もたれ部13との間の相対移動を固定するロックレバーである。
【0025】
図4、図5に示すように、シートアンダーフレーム28を構成する前側の横パイプ42は、その両端がシートアンダーフレーム28の左右両側に突出し、ここに設けられたベアリングローラー43がサブフレーム11のサイドパネル22前部内面に固定された短いインナーレール44の上にスムーズに前後移動可能に載置されている。インナーレール44は側面視で前上がりに傾斜しており、その前後端部が上方に巻き上げられてストッパー形状とされ、ベアリングローラー43の脱落が防止されている。
【0026】
左右一対のアームレスト14は、その後端部が背もたれ部13のスライドフレーム32に固定支持されている。スライドフレーム32の側面には複数のアームレストボス46が形成されており、これらのアームレストボス46のいずれかにアームレスト14を固定することにより、アームレスト14の設置高さを任意に調整することができる。
【0027】
例えば右側のアームレスト14の前端にはコントロールボックス48が取り付けられる。このコントロールボックス48の上面にはユーザーが電動車椅子1の進行方向および進行速度を制御可能な例えばジョイスティックレバー49が直立状態で設けられると共に、バッテリー7の残量や走行可能時間等を表示する図示しない表示部およびスイッチ類等が設けられる。
【0028】
フットレスト15は、その上端部がピボット軸51によりシートアンダーフレーム28最端部に回動自在に連結されている。フットレスト15の下端部にはユーザーの足を載せるステップボード52が設けられている。また、図4に示すように、フットレスト15の上部を構成する横メンバー53に設けられた左右一対のリンクブラケット54と、サブフレーム11の最後部の横メンバー25に設けられたリンクブラケット56との間が左右一対のリンクロッド57で連接されている。
【0029】
一方、スタンドアップリクライニング機構16は、図6にもブロック図で示すように、リクライニングアクチュエーター61と、スライドアクチュエーター62と、スタンドアップアクチュエーター63と、これらのアクチュエーター61,62,63を個別に制御可能なシートコントローラー64と、操作スイッチ65と、リクライニングセンサー66(背もたれ部13傾動角度検出手段)と、スライドセンサー67(スライド位置検出手段)と、スタンドアップセンサー68(着座部12傾動角度検出手段)とを備えて構成されている。操作スイッチ65は、例えば図1〜図3に示すようにコントロールボックス48の後方に配置されており、直立した操作レバー69を備えている。
【0030】
図7、図8にも示すように、リクライニングアクチュエーター61とスタンドアップアクチュエーター63は例えば伸縮シリンダー状に構成されている。また、スライドアクチュエーター62は例えばモーターユニット71とウォームギヤユニット72とが一体化された構成である。これらのアクチュエーター61,62,63は共に前述したバッテリー7の電力により駆動される。
【0031】
リクライニングアクチュエーター61とスライドアクチュエーター62はシートバックフレーム31の背面に幅方向に並べて配設されており、リクライニングアクチュエーター61が右側に設置され、スライドアクチュエーター62がシートバックフレーム31の左側に固着されたベースプレート73の背面に設置されている。また、スタンドアップアクチュエーター63は着座部12の下方に配設されている。
【0032】
図2〜図5および図7、図8に示すように、リクライニングアクチュエーター61は、その下端部がサブフレーム11最後部の横メンバー25の中間部に固着されたロアーシリンダーブラケット75に、上端部がシートバックフレーム31の最上部の横メンバー76の中間部に固着されたアッパーシリンダーブラケット77に、それぞれ回動自在に連結されており、シートバックフレーム31を着座部12に対し傾動させる役割を担う。
【0033】
リクライニングアクチュエーター61が最も伸びた時には図1、図2に示すように背もたれ部13(シートバックフレーム31)が急角度に起立し、フットレスト15が下方に降りたノーマルポジションとなる。そして、リクライニングアクチュエーター61が縮むに従い、背もたれ部13が後方に傾動すると同時に前述のリンクロッド57によりフットレスト15が前方に押し出されてリクライニングポジションとなる。
【0034】
リクライニングアクチュエーター61が最も縮んだ時には図9に示すように背もたれ部13とフットレスト15が水平になるまで回動し、着座シート3全体がフラットな寝台状になる。このフラットポジションに移行する際、シートアンダーフレーム28後端部のピボット軸39がサイドパネル22後部の扇状の長孔40内を下から上に移動するとともに、着座部12前端のベアリングローラー43がインナーレール44上を前斜め上方に走行し、これにより着座部12がほぼ水平になる。着座シート3の各部は図1、図2のノーマルポジションから図9のフラットポジションまで無段階かつスムーズにリクライニング動作することができる。
【0035】
一方、図7、図8に示すように、スライドアクチュエーター62は、そのウォームギヤユニット72の部分がベースプレート73の後面に固定され、このウォームギヤユニット72の中心部から突出するピニオンギヤ80がベースプレート73の前面に突出している。なお、シートコントローラー64はスライドアクチュエーター62の上方に配置されており、スライドアクチュエーター62とシートコントローラー64とが図1および図12に示す保護カバー81により後方から覆われる。
【0036】
ベースプレート73には軸受筒82(図8参照)が貫通固着され、この軸受筒82にスライドアーム83の回動軸84が回転自在に軸支されている。スライドアーム83にはさらにセクターギヤ85が回動一体に設けられ、このセクターギヤ85がスライドアクチュエーター62のピニオンギヤ80に噛み合う。そして、スライドアーム83の先端と、スライドフレーム32の下側の横メンバー87中央部に固着されたスライドブラケット88との間がリンクプレート89を介して連結されている。
【0037】
スライドアクチュエーター62のモーターユニット71が作動すると、ピニオンギヤ80の回転によりセクターギヤ85が駆動されてセクターギヤ85とスライドアーム83とが一体に回動する。スライドアーム83が上方に回動すると、スライドフレーム32が背面クッション33およびヘッドレストクッション34と共にシートバックフレーム31に対して伸びる方向にスライド動作し、スライドアーム83が下方に回動するとスライドフレーム32(33,34)がシートバックフレーム31に対して縮む方向にスライド動作する。
【0038】
アームレスト14はスライドフレーム32に固定支持されているため、スライドフレーム32がシートバックフレーム31に対してスライドするとアームレスト14もスライドフレーム32と共に移動する。したがって、スライドフレーム32がどの位置にあっても、アームレスト14の上面からスライドフレーム32の上端までの距離H(図2参照)が変化しない。
【0039】
他方、スタンドアップアクチュエーター63は、その一端(ここでは前端)がメインフレーム2の前部付近、かつ着座シート3の前端連結部であるピボット軸26の下方に連結される。例えば、左右のスタンディングブラケット18の間を連結している横メンバー20の中間部に設けられたフロントシリンダーブラケット91(図4参照)にスタンドアップアクチュエーター63の前端部が回動自在に連結されている。
【0040】
また、スタンドアップアクチュエーター63の他端(ここでは後端)は着座シート3の下面かつ自由端寄りに連結される。例えば、サブフレーム11を構成している横メンバー24の中間部に設けられた図示しないリヤシリンダーブラケットにスタンドアップアクチュエーター63の後端部が回動自在に連結されている。
【0041】
スタンドアップアクチュエーター63が最も縮んだ時には、図2に示すように着座部12が略水平な着座位置Aに置かれ、スタンドアップアクチュエーター63が伸びるにつれ、図10に示すように着座部12がピボット軸26を回動中心にして起立し、スタンドアップアクチュエーター63が最も伸びると図11に示すように着座部12が略垂直な起立位置Bまで起き上がる。
【0042】
スタンドアップアクチュエーター63が伸びると同時にリクライニングアクチュエーター61が縮むように制御すれば、図2のノーマルポジションから図10の状態を経て図11のスタンドアップポジションに移行する。このようなスタンドアップ動作によれば、ユーザーが起立姿勢になることを補助したり、ユーザーの体圧分散(体圧除去)をより効果的に行うことができる。図12はスタンドアップポジションを右斜め後方から見た斜視図である。
【0043】
ところで操作スイッチ65は、シートコントローラー64に着座部12とシートバックフレーム31の傾動操作およびスライドフレーム32のスライド操作を指令するものである。例えば、着座部12と背もたれ部13とフットレスト15が図2のノーマルポジションにあり、操作スイッチ65の操作レバー69が直立状態にある時はノーマルポジションを維持し、この状態から、操作スイッチ65の図示しない作動モード切替スイッチをリクライニングモードに設定し、操作レバー69を後方に倒し続けるとリクライニングアクチュエーター61が縮んで図9のフラットポジションまで連続的に変形動作する。また、フラットポジションからノーマルポジションに戻すには操作レバーを前方に倒し続けると、リクライニングアクチュエーター61が伸びてノーマルポジションに戻すことができる。
【0044】
さらにまた、操作スイッチ65の操作図示しない作動モード切替スイッチをスタンドアップモードに設定し、操作レバー69を前方に倒し続けると、スタンドアップアクチュエーター63が伸びると同時にリクライニングアクチュエーター61が縮んで図11のスタンドアップポジションになるまで連続的に変形動作する。なお、上記変形動作中に操作レバー69を放せば全ての動きが停止する。また、スライドアクチュエーター62はリクライニングアクチュエーター61の動きに連動させてスライドフレーム32をシートバックフレーム31に対して伸縮させる。
【0045】
図7に示すように、前述したリクライニングセンサー66がシートバックフレーム31の例えば左側のサイドプレート37内側に設けられている。このリクライニングセンサー66は例えばロータリーセンサーであり、センサードリブンギヤ93を備えている。一方、シートアンダーフレーム28の左側後部には上記センサードリブンギヤ93に噛合するセクターギヤ状のセンサードライブギヤ94が固着されている。
【0046】
リクライニングアクチュエーター61の伸縮動作によりシートバックフレーム31が傾動すると、センサードライブギヤ94に対しセンサードリブンギヤ93が回動するため、リクライニングセンサー66により背もたれ部13(シートバックフレーム31)の傾動角度が検出され、その情報がシートコントローラー64に入力される。
【0047】
また、図8に示すように、スライドセンサー67がベースプレート39の後面に設けられている。このスライドセンサー67も例えばロータリーセンサーであり、センサードリブンギヤ96を備えている。一方、スライドアーム83の回動軸84には上記センサードリブンギヤ96に噛合するセクターギヤ状のセンサードライブギヤ97が回動一体に固着されている。
【0048】
スライドアクチュエーター62によりスライドフレーム32がスライドすると、センサードライブギヤ97に対しセンサードリブンギヤ96が回動するため、スライドセンサー67によりスライドフレーム32のスライド位置が検出され、その情報がシートコントローラー64に入力される。なお、スライドセンサー67をリニアゲージセンサー等に置き換えてスライドフレーム32の動きを直接検知するように簡略化しても良い。
【0049】
さらに、図10および図11に示すように、スタンドアップセンサー68は例えばスタンドアップアクチュエーター63に直接取り付けられている。このスタンドアップセンサー68はスタンドアップアクチュエーター63の伸縮量を直接計測するリニアゲージセンサーとなっており、スタンドアップセンサー68により検出されたスタンドアップアクチュエーター63の伸縮量の情報が着座部12の傾動角度としてシートコントローラー64に入力される。なお、スタンドアップセンサー68をリクライニングセンサー66と同様なロータリーセンサー状に構成してもよい。
【0050】
図6に示すように、シートコントローラー64は演算部101と操作部102とを備えている。演算部101は、リクライニングセンサー66とスライドセンサー67とスタンドアップセンサー68からの入力信号に基づいて現在の着座部12および背もたれ部13の傾動角度とスライドフレーム32のスライド位置とを演算する。操作部102は、演算部101が演算した現在の傾動角度およびスライド位置の情報と、操作スイッチ65による傾動操作およびスライド操作の指令情報とを比較し、ユーザーが所望する傾動角度およびスライド位置となるようにリクライニングアクチュエーター61とスライドアクチュエーター62とスタンドアップアクチュエーター63を個別に操作する。
【0051】
さらに、シートコントローラー64はメモリー部103とフィードバック制御部104とを備えている。メモリー部103は、背もたれ部13(シートバックフレーム31)の各傾動角度に応じたユーザーにとっての最適なスライドフレーム32のスライド位置を予め記憶することができ、その記憶情報はユーザーに応じて任意に設定変更できる。また、フィードバック制御部104は、メモリー部103に記憶されたマップに応じて、リクライニングアクチュエーター61およびスタンドアップアクチュエーター63の動きに合わせてスライドアクチュエーター62を同時に作動させるフィードバック制御を実行する。
【0052】
以上のように構成された電動車椅子1によれば、背もたれ部13を傾動動作させるリクライニングアクチュエーター61と、背もたれ部13を伸縮動作させるスライドアクチュエーター62と、着座部12を傾動動作させるスタンドアップアクチュエーター63とをシートコントローラー64により個別に制御可能であり、しかもシートコントローラー64は各アクチュエーター61,62,63の動きを連動させることができるため、ユーザーに不快感やストレスを与えることなくリクライニング動作とスタンドアップ動作を非常にスムーズに行うことができる。
【0053】
特に、着座部12および背もたれ部13の傾動動作と同時に背もたれ部13を伸縮動作させることができるため、ユーザーの背中と背もたれ部13(背面クッション33)との間にずれが生じることを防止して電動車椅子1の使用感を著しく向上させることができる。
【0054】
また、アームレスト14を直接スライドフレーム32に固定支持したことから、スライドフレーム32のスライドに同期してアームレスト14が動き、アームレスト14上面からスライドフレーム32上端までの距離Hが変化しないため、アームレスト14によりユーザーの肘を安定良く支持することができる。
【0055】
さらに、この電動車椅子1では、リクライニングアクチュエーター61とスライドアクチュエーター62とをシートバックフレーム31の背面に車幅方向に並べて配設し、スタンドアップアクチュエーター63を着座部12の下方に配設したため、スタンドアップリクライニング機構16をコンパクトに構成することができる。さらに、リクライニングアクチュエーター61よりも上下方向寸法の小さいスライドアクチュエーター62の上方にシートコントローラー64を設置したため、三部材61,62,64を近接配置して更なるコンパクト化を達成することができる。
【0056】
しかも、伸縮シリンダー状に構成したスタンドアップアクチュエーター63の前端をメインフレーム2の前部付近に連結し、後端を着座部12の下面かつ自由端寄りに回動自在に連結したことから、スタンドアップ動作時には図10〜図12に示すようにスタンドアップアクチュエーター63が着座部12とともに立ち上がる。このため、スタンドアップポジションではメインフレーム2の上が広く開口し、これによりメインフレーム2に搭載されているバッテリー7やコントローラー8等の機材のメンテナンス性を格段に向上させることができる。
【0057】
なお、本実施形態で述べた着座シート3の部分の構成は電動車椅子に用いるのが好適ではあるが、電動車椅子のみに限らず、リクライニングシートやマッサージチェア、診療椅子等としても幅広く応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係る電動車椅子の一例を示す斜視図。
【図2】図1に示す電動車椅子の左側面図。
【図3】図1に示す電動車椅子の後面図。
【図4】スタンドアップリクライニング機構を左斜め前から見た斜視図。
【図5】スタンドアップリクライニング機構の左側面図。
【図6】スタンドアップリクライニング機構の構成を示すブロック図。
【図7】スライド機構を前方から見た斜視図。
【図8】スライド機構を後方から見た斜視図。
【図9】フラットポジションを示す左側面図。
【図10】ノーマルポジションからスタンドアップポジションに変形動作している状態を示す左側面図。
【図11】スタンドアップポジション示す左側面図。
【図12】スタンドアップポジションを右斜め後方から見た斜視図。
【符号の説明】
【0059】
1 電動車椅子
2 メインフレーム
3 着座シート
11 サブフレーム
12 着座部
13 背もたれ部
14 アームレスト
15 フットレスト
16 スタンドアップリクライニング機構
28 シートアンダーフレーム
29 座面クッション
31 シートバックフレーム
32 スライドフレーム
33 背面クッション(背当て部材)
61 リクライニングアクチュエーター
62 スライドアクチュエーター
63 スタンドアップアクチュエーター
64 シートコントローラー
65 操作スイッチ
66 リクライニングセンサー(背もたれ部傾動角度検出手段)
67 スライドセンサー(スライド位置検出手段)
68 スタンドアップセンサー(着座部傾動角度検出手段)
69 操作レバー
101 演算部
102 操作部
103 メモリー部
104 フィードバック制御部
A 着座位置
B 起立位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザーの臀部および大腿部を支える着座部と、ユーザーの背部を支える背もたれ部と、上記着座部および背もたれ部を傾動動作ならびに伸縮動作させるスタンドアップリクライニング機構とを備え、上記着座部はその前端部がメインフレーム前部付近に傾動自在に連結される一方、上記背もたれ部はシートバックフレームとスライドフレームとを有し、上記シートバックフレームはその下端部が上記着座部の後端部に傾動自在に連結され、上記スライドフレームは上記シートバックフレームに対し上下にスライド自在に支持されてユーザーの背部に接する背当て部材を備え、上記スタンドアップリクライニング機構は、上記着座部を略水平な着座位置から略垂直な起立位置まで傾動させるスタンドアップアクチュエーターと、上記背もたれ部を上記着座部に対し傾動させるリクライニングアクチュエーターと、上記スライドフレームを上記シートバックフレームに対しスライドさせるスライドアクチュエーターと、上記スタンドアップアクチュエーターおよびリクライニングアクチュエーターならびにスライドアクチュエーターを個別に制御可能なシートコントローラーと、このシートコントローラーに着座部と背もたれ部の傾動操作およびスライドフレームのスライド操作を指令する操作スイッチとを備えたことを特徴とする電動車椅子。
【請求項2】
前記スタンドアップリクライニング機構はさらに、前記着座部の傾動角度を検出する着座部傾動角度検出手段と、前記背もたれ部の傾動角度を検出する背もたれ部傾動角度検出手段と、前記スライドフレームのスライド位置を検出するスライド位置検出手段とを備え、さらに前記シートコントローラーは、上記着座部傾動角度検出手段およびシートバック傾動角度検出手段ならびにスライド位置検出手段からの入力信号に基づいて現在の着座部および背もたれ部の傾動角度とスライドフレームのスライド位置とを演算する演算部と、上記演算部が演算した現在の傾動角度およびスライド位置の情報と前記操作スイッチによる傾動操作およびスライド操作の指令情報とを比較し、ユーザーが所望する傾動角度およびスライド位置となるように前記スタンドアップアクチュエーターとリクライニングアクチュエーターとスライドアクチュエーターとを操作する操作部とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の電動車椅子。
【請求項3】
前記シートコントローラーはさらに、前記着座部および背もたれ部の各傾動角度に対する最適なスライドフレームのスライド位置を記憶するメモリー部と、上記メモリー部に記憶されたマップに応じて前記スタンドアップアクチュエーターおよびリクライニングアクチュエーターの動きに合わせて前記スライドアクチュエーターをフィードバック制御するフィードバック制御部とを備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の電動車椅子。
【請求項4】
前記リクライニングアクチュエーターと前記スライドアクチュエーターを前記シートバックフレームの背面側に車幅方向に並べて配設する一方、前記スタンドアップアクチュエーターを前記着座部の下方に配設したことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電動車椅子。
【請求項5】
前記スタンドアップアクチュエーターを伸縮シリンダー状に構成し、その一端を前記メインフレーム前部付近かつ前記着座シートの前端連結部の下方に回動自在に連結し、他端を着座シートの下面かつ自由端寄りに回動自在に連結したことを特徴とする請求項4に記載の電動車椅子。
【請求項6】
ユーザーの両肘を載せる左右一対のアームレストの後端部を前記背もたれ部の前記スライドフレームに固定支持したことを特徴とする請求項1に記載の電動車椅子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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