説明

電圧入力モジュール

【課題】電圧入力モジュールを2重化したシステムにおいて、モジュールを切り替える際に出力の急変を避けるために出力をホールドして、かつ入力側にスイッチを挿入していたが、ホールド時間が長くなるために出力の時間連続性が悪化し、かつスイッチのオフ故障を検出できなかった。本発明は出力の時間連続性および信頼性を高めることを目的にする。
【解決手段】電圧入力モジュールを交換する際に、待機側モジュール内のフィルタのコンデンサを充放電して制御側モジュールと待機側モジュールの出力を一致させてから、待機側モジュールを信号源に接続する。過渡変動がなく、出力ホールド時間を短くでき、かつ入力側のスイッチをなくすることができるので、信頼性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2重化システムに用いる電圧入力モジュールに関し、特に機能安全を必要とする安全計装システムに用いて好適な電圧入力モジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロセス制御では信頼性がなりより優先されるため、モジュール等を2重化する2重化システムがよく用いられる。図3に電圧入力モジュールを用いた2重化システムの構成を示す。
【0003】
図3において、10、20は電圧入力モジュールであり、アナログ電圧が入力され、このアナログ電圧をデジタル値に変換して出力する。電圧入力モジュール10、20は同じ構成を有している。
【0004】
電圧入力モジュール10は動作している制御側モジュールであり、電圧入力モジュール20は待機している待機側モジュールである。制御側モジュール10に異常が発生すると、待機側モジュール20が制御側モジュールとして動作を開始する。
【0005】
制御側モジュール10および待機側モジュール20はいずれもターミナルボード21に接続され、このターミナルボード21を介してセンサ等の信号源22の出力信号が入力される。
【0006】
制御側モジュール10と待機側モジュール20は同じ構成を有しており、スイッチ11、入力フィルタ12、アナログデジタル変換器13、スイッチ制御部14で構成される。スイッチ11はフィルタ12の入力側に配置され、そのオンオフはスイッチ制御部14によって制御される。また、入力フィルタ12にはコンデンサ12aが内蔵されている。
【0007】
制御側モジュール10内のスイッチ11はオンにされる。信号源22の出力信号は制御側モジュール10に入力され、入力フィルタ12でノイズが除去された後、アナログデジタル変換器13でデジタル値に変換される。このデジタル値は通信路23を介して上位CPUモジュールに伝送される。Vnはフィルタ12の出力電圧である。
【0008】
メンテナンス等によって制御側モジュール10を交換するときは、制御権を待機側モジュール20に移し、モジュール20を新たな制御側モジュールとする。この後、モジュール10側の信号ケーブルを取り外し、モジュール10を取り外し、新たなモジュール10を取り付け、この新たなモジュール10側の信号ケーブルを接続する。そして、制御権をモジュール10に戻して、モジュール10を新たな制御側モジュールとする。すなわち、一時的にモジュール20のみがターミナルボード21に接続された状態になる。
【0009】
新たなモジュール10側の信号ケーブルを接続したときに、新たなモジュール10内の入力フィルタ12とモジュール20内の入力フィルタ12によるループが形成される。一般に両モジュール内のコンデンサ12aの両端電圧は異なっているので、信号源22と両モジュール内のコンデンサ12aの間で過渡電流が流れる。その結果、モジュール20の入力電圧が急激に変動し、プロセスの制御に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0010】
この入力電圧の変動を防止するため、待機側となったモジュール内のスイッチ11を常時オフにし、信号源22と制御側モジュール内のフィルタ12によるループと、待機側モジュール内のフィルタ12を切断して、制御側モジュールの出力が急変しないようにする。
【0011】
特許文献1には、2重化され、入力側にスイッチを有する電流入力モジュールが記載されている。特許文献1では、待機側モジュールに電流が流れたことを検出すると、稼働側(制御側)モジュールの動作を停止するようにすることにより、誤った信号の取り込みを防止し、かつ容易にシングル構成としても動作させることができるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−209645号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、このような2重化システムに用いる電圧入力モジュールには、次のような課題があった。
待機側モジュール内のスイッチ11は常時オフになっているので、制御側モジュール内のフィルタ12の出力電圧Vnと待機側モジュール内のフィルタ12の出力電圧Vnは異なっている。この状態で待機側モジュール内のスイッチ11をオンにすると、過渡電流が流れて切り替え時に電圧入力モジュールの出力が急変してしまう。
【0014】
このため、切り替え時は制御側モジュールの最終出力値をホールドして急変を防止するようにしているが、このホールドのために過渡応答時間における信号の時間連続性が失われてしまうという課題があった。
【0015】
また、待機側モジュール内のスイッチ11は常時オフになっているので、このスイッチ11のオフ固着故障を検出することができない。オフ固着故障が発生すると、待機側モジュールに切り替えても信号源22の出力信号が入力されないので、動作しないという課題もあった。
【0016】
特許文献1に記載された発明は入力側にスイッチが配置されている点で、図3従来例と同様の構成を有しているが、電流入力モジュールに関するものであり、本願とは構成が異なる。
【0017】
本発明の目的は、待機側モジュール内の入力フィルタの出力電圧を制御側モジュールのそれと一致させてから待機側モジュールを信号源に接続することにより、切り替え時の入力電圧の急変を低減し、かつ信頼性を向上させることができる電圧入力モジュールを実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
このような課題を達成するために、本発明のうち請求項1記載の発明は、
同じ構成を具備する2つのモジュールを用いて2重化システムを構成するシステムに用いる電圧入力モジュールであって、
アナログ電圧信号が入力され、コンデンサを内蔵するフィルタと、
前記コンデンサに電流を出力する電流源と、
前記2重化システムを構成する他方の電圧入力モジュールに内蔵される前記フィルタの出力に関連する信号、および当該モジュールに内蔵されるフィルタの出力に関連する信号が入力され、これらの信号が一致するように前記電流源を制御する制御部と、
を具備したものである。電圧入力モジュールを切り替える際に、出力が急変しない。
【0019】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載の発明において、
前記電流源は、
電流を吐き出す第1の電流出力部と、
電流を吸い込む第2の電流出力部と、
前記第1および第2の電流出力部の出力を前記コンデンサの両端に切り替えて出力する切替スイッチと、
を具備したものである。短時間で両モジュールの電圧を一致させることができる。
【0020】
請求項3記載の発明は、請求項1若しくは請求項2に記載の発明において、
測温抵抗体に定電流を供給する定電流回路、および/またはバーンアウト回路の定電流回路を、前記電流源として用いるようにしたものである。構成を簡単にできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば以下のような効果がある。
請求項1、2、および3の発明によれば、2つの電圧入力モジュールを用いた2重化システムにおいて、電流源を用いてフィルタ内に配置されたコンデンサを充放電できるようにして、電圧入力モジュールを交換する際に、2つのモジュール内のフィルタ出力を一致させてから、交換したモジュールを信号源に接続するようにした。
【0022】
制御側モジュールと待機側モジュールのフィルタ出力が一致しているので、モジュールを交換する際に過渡応答が生じて出力が急変することがなくなるという効果がある。また、制御側モジュールの出力のホールド時間を短くすることができるので、モジュールの交換の際に出力信号の時間連続性が高くなるという効果もある。
【0023】
さらに、入力側にスイッチを挿入しなくてもよいので、スイッチのオフ固着故障が発生することがない。このため、システムの信頼性を高めることができるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施例を示した構成図である。
【図2】図1実施例の動作を示すフローチャートである。
【図3】従来の2重化された電圧入力モジュールの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下本発明を、図面を用いて詳細に説明する。図1は本発明に係る電圧入力モジュールの一実施例を示した構成図である。なお、図3と同じ要素には同一符号を付し、説明を省略する。
【0026】
図1において、30、40は電圧入力モジュールであり、同じ構成を有している。電圧入力モジュール30は制御側モジュールとして動作し、電圧入力モジュール40は待機側モジュールとして動作している。図3従来例と同様に、制御側モジュール30、待機側モジュール40共に電源が供給され、かつターミナルボード21を介して信号源22の出力信号が入力されている。なお、制御側モジュール30はスロット1に、待機側モジュール40はスロット2に挿入されているとする。
【0027】
電圧入力モジュールである制御側モジュール30、待機側モジュール40はコンデンサ12aを内蔵したフィルタ12、アナログデジタル変換器13、制御部31、および電流源32で構成される。
【0028】
信号源22の出力信号はフィルタ12でノイズが除去され、アナログデジタル変換器13でデジタル値に変換される。このデジタル値は制御部31に入力される。制御部31は通信路23を介して入力されたデジタル値を上位CPUモジュール(図示せず)に送信し、また上位CPUモジュールが送信した他方の電圧入力モジュール(待機側モジュール40の場合は制御側モジュール30)のデジタル値を取り込んで、電流源32を制御する。
【0029】
電流源32は、電流を吐き出す電流出力部32a、電流を吸い込む電流出力部32b、スイッチ32cおよび32d、切替スイッチ32eで構成される。電流出力部32a、32bは、それぞれ第1、第2の電流出力部に相当する。
【0030】
スイッチ32c、32dは同時にオンオフし、それぞれ電流出力部32a、32bを切替スイッチ32eに接続し、また切り離す。切替スイッチ32eは、制御部31の指示により、電流出力部32a、32bの出力電流を選択してコンデンサ12aのいずれかの端子に出力する。切替スイッチ32eが実線のように接続されるとコンデンサ12aは充電されるのでその端子間電圧は増加し、点線のように接続されるとコンデンサ12aは放電されるので、その端子間電圧は減少する。
【0031】
次に、図2フローチャートに基づいてこの実施例の動作を説明する。通常動作のときは、制御側モジュール30および待機側モジュール40内のスイッチ32c、32dはオフにされる。このため、これらのモジュール内の電流出力部32a、32bはコンデンサ12aから切り離される。
【0032】
スロット1に挿入されている制御側モジュール30が故障すると制御側モジュール30は故障モジュール30になり、スロット2に挿入されている待機側モジュール40が新しい制御側モジュールになる。工程(P2−1)で故障モジュール30からターミナルボード21に接続されている信号ケーブルを外し、スロット1から故障モジュール30を抜き取って新しいモジュールを挿入する。このとき、信号ケーブルは接続しない。以下、スロット1に挿入されているモジュールを新待機側モジュール30、スロット2に挿入されているモジュールを新制御側モジュール40とする。
【0033】
次に、工程(P2−2)で、新待機側モジュール30は自身のスイッチ32c、32dをオンにして、工程(P2−3)で最新の信号源22の出力値であるデジタル値を取り込む。このデジタル値は、上位CPUモジュールから送信される。
【0034】
次に、工程(P2−4)で、新待機側モジュール30内の制御部31は、自身の切替スイッチ32eを制御して、アナログデジタル変換器13の出力デジタル値を、上位CPUモジュールから送られてきたデジタル値に一致させる。
【0035】
新待機側モジュール30、新制御側モジュール40は入力電圧をフィルタ12に入力し、このフィルタ12の出力をデジタル値に変換するものであるので、アナログデジタル変換器13の出力デジタル値は、フィルタ12の出力に関連する信号である。上位CPUから送られてくるデジタル値は新制御側モジュール40内のアナログデジタル変換器13の出力デジタル値なので、他方の電圧入力モジュール内のフィルタ12の出力に関連する信号である。
【0036】
2つのデジタル値が一致すると、工程(P2−5)で新待機側モジュール30はスイッチ32c、32dをオフにして、一致したことを外部に通知する。この通知は、新待機側モジュール30が配置されている機器に付属するLED等の表示器で行ってもよく、また通信路23を経由して一致したことを示すデータを上位CPUモジュールに送信して、上位CPUが他の機器に表示するようにしてもよい。
【0037】
切替スイッチ32eを制御することにより、電流出力部32a、32bの出力電流をコンデンサ12aのいずれの端子にも供給することができるので、コンデンサ12aを充電しあるいは放電して、その端子間電圧を変化させることができる。このため、短時間でアナログデジタル変換器13の出力デジタル値を取り込んだデジタル値に一致させることができる。また、必要に応じてスイッチ32c、32dを操作して、電流出力部32a、32bを切り離すようにしてもよい。
【0038】
一致したことを表す通知が表示されると、工程(P2−6)でメンテナンス要員は新待機側モジュール30に信号ケーブルを取り付けて信号源22に接続する。工程(P2−4)の操作で新待機側モジュール30と新制御側モジュール40内のフィルタ12の出力値が一致しているので、新待機側モジュール30と新制御側モジュール40の入力端子が信号ケーブルで接続されても、出力値が急変することはない。
【0039】
このように、制御側モジュールと待機側モジュールの出力値を一致させてから待機側モジュールを信号源に接続するようにしたので、待機側モジュールを信号源に接続したときに出力値が急変することがなく、かつ過渡応答が生じることもなくなる。このため、モジュール切り替え時における制御側モジュールの出力値のホールド時間を短くすることができるので、出力値の時間連続性を高めることができる。
【0040】
また、入力側にスイッチを用いないので、このスイッチのオフ固着故障による誤動作がなくなる。このため、信頼性を向上させることができる。
【0041】
なお、図1実施例では出力側にコンデンサが配置されたフィルタを用いたが、これに限られることはない。コンデンサを内蔵した他の構成のフィルタに適用することもできる。
【0042】
また、電流源32は本実施例の構成に限られることはなく、他の構成を用いることもできる。要はコンデンサを充放電できる構成であればよい。
【0043】
また、本実施例ではフィルタ12の出力信号をアナログデジタル変換器13でデジタル値に変換して出力するようにしたが、アナログ電圧信号をそのまま出力する構成の電圧入力モジュールに適用することもできる。
【0044】
また、TC(Thermo Couple:熱電対)による温度測定器ではバーンアウトのための定電流回路を、そしてRTD(Resistance Temperature Detector:測温抵抗体)による温度測定器では測温抵抗体に励起電流を供給する定電流回路を具えている。これらの定電流回路を電流源32として用いると、構成を簡単にすることができる。
【0045】
さらに、本発明は安全計装システムだけでなく、高信頼性を要求される計測、制御システムで2重化された他のアナログ検出モジュールに適用することもできる。
【符号の説明】
【0046】
12 フィルタ
12a コンデンサ
13 アナログデジタル変換器
30 制御側モジュール(新待機側モジュール)
31 制御部
32 電流源
32a、32b 電流出力部
32c、32d スイッチ
32e 切替スイッチ
40 待機側モジュール(新制御側モジュール)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
同じ構成を具備する2つのモジュールを用いて2重化システムを構成するシステムに用いる電圧入力モジュールであって、
アナログ電圧信号が入力され、コンデンサを内蔵するフィルタと、
前記コンデンサに電流を出力する電流源と、
前記2重化システムを構成する他方の電圧入力モジュールに内蔵される前記フィルタの出力に関連する信号、および当該モジュールに内蔵されるフィルタの出力に関連する信号が入力され、これらの信号が一致するように前記電流源を制御する制御部と、
を具備したことを特徴とする電圧入力モジュール。
【請求項2】
前記電流源は、
電流を吐き出す第1の電流出力部と、
電流を吸い込む第2の電流出力部と、
前記第1および第2の電流出力部の出力を前記コンデンサの両端に切り替えて出力する切替スイッチと、
を具備したことを特徴とする請求項1記載の電圧入力モジュール。
【請求項3】
測温抵抗体に定電流を供給する定電流回路、および/またはバーンアウト回路の定電流回路を、前記電流源として用いるようにしたことを特徴とする請求項1若しくは請求項2記載の電圧入力モジュール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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