説明

電圧測定方法および電圧測定装置

【課題】従来より計測時間、検出精度および耐ノイズ性の向上を図ることができる電圧測定方法および電圧測定装置を提供すること。
【解決手段】電圧測定装置は、電圧源の電圧で充電されたコンデンサ3の電荷を放電時にサンプリングして得た複数のサンプリングデータから前記電圧を検出するに際し、検出電圧に対する複数のサンプリングデータの各々の放電損失分を補正する補正値を示す放電損失換算テーブルが予め記憶されている記憶手段(マイコン7)と、記憶手段(マイコン7)に記憶されている放電損失換算テーブルで複数のサンプリングデータを補正する補正手段(マイコン7)と、補正手段(マイコン7)で補正後の複数のサンプリングデータの最大値および最小値を破棄するソフトフィルタ処理を施して平均化し、得られた平均値を電圧源の電圧を示す値として算出する電圧計測手段(マイコン7)とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧測定方法および電圧測定装置に関し、特に、多数個の電圧源を直列接続して構成される高圧電源における各個別電圧源の電圧を計測するのに好適な電圧測定方法および電圧測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の電源のように、多数個の電池(電圧源)を直列接続して構成される高圧電源において、高圧電源を構成する各個別電池(電圧源)の電圧を、それぞれ測定する装置として、フライングキャパシタ方式電圧測定装置がある。このような装置は、たとえば、特開平11−248755号公報(特許文献1)に開示されている。
【0003】
上記公報に開示されているフライングキャパシタ方式電圧測定装置では、充電系のスイッチの開閉により電圧源の電圧を一旦コンデンサに充電し、その後、電圧源とコンデンサ間のスイッチを切り離し、計測系において信号処理側とコンデンサ間を接続してコンデンサに充電された電荷を計測することにより、絶縁を保ちながら各電圧源の電圧をマルチプレクスして取り込んでいる。
【特許文献1】特開平11−248755号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の従来装置では、コンデンサの後段に、コンデンサの充電電圧の極性を補正する極性補正回路、コンデンサの充電電圧をアナログ/デジタル変換するA/Dコンバータ等の構成要素が設けられている。また、他の従来装置では、コンデンサの充電電圧をA/Dコンバータに印加する適正レベルに調整する分圧回路や、コンデンサとA/Dコンバータの間に接続され、ノイズを除去するバッファ・フィルタ回路等の種々の構成要素が設けられているものもある。
【0005】
しかしながら、従来装置では、コンデンサの後段の計測系に設けられるこれらの構成要素における部品のバラツキ、温度特性、劣化等に起因して、電圧計測の精度が低下してしまうという問題がある。そのため、電圧計測の精度向上には、高精度、高信頼性の高価な部品の採用が必須となり、その結果、装置が高価なものとなる問題がある。
【0006】
そこで出願人は、電圧計測の精度の向上を図ると共にコストダウンが可能な電圧測定方法および電圧測定装置を、特願2005−205625号として提案している。
【0007】
図1は、上述の特願2005−205625号で提案している電圧測定装置を示す回路図である。図1において、電圧測定装置は、フライングキャパシタ方式電圧測定装置であり、高圧電源Vの電圧検出端子T1〜T6に接続された第1のマルチプレクサ1および第2のマルチプレクサ2、両極性のコンデンサ3、サンプルスイッチ4、マイクロコンピュータ(以下、マイコンという)7、基準電圧源回路8、バッファ・フィルタ9を含む。
【0008】
基準電圧源回路8は、抵抗R1〜R4と、スイッチ8bと、基準電圧源+Vrefを含む。抵抗R1〜R3は分圧回路を構成している。基準電圧源+Vrefの電圧は、マイコン7における計測フルスケール値の高電位電圧、たとえば最大電圧を与える。スイッチ8bは、マイコン7における計測フルスケール値の低電位電圧、たとえば最小電圧を与える接地に接続されている。
【0009】
上述の電圧測定装置においては、計測時間を早めるためには、コンデンサ3の容量を必要以上に大きくしたくない。マイコン7の入力ポートA/D1で読み込み中に起こるコンデンサ3の電荷の放電は、直接検出精度低下要因となるため、分圧抵抗値(受け側回路インピーダンス)を大きく設定し、放電損失を防ぎたいが、分圧抵抗値(受け側回路インピーダンス)を大きく設定すると、ノイズによる影響が大きく現れてしまう。
【0010】
そのため、ノイズの影響を軽減するか(分圧抵抗値を小さくする必要がある)、検出精度を向上させるか(分圧抵抗値を大きくする必要がある)、計測時間を遅くするか(コンデンサの容量を大きくする必要がある)のいずれかの選択が必要であり、全てを実現することができない。
【0011】
そこで、従来の対策としては、a)耐ノイズ性向上を諦める、b)計測時間の向上を諦める、c)検出精度の向上を諦める、等の対策が考えられている。
【0012】
方法a)は、ノイズによる影響を受け易くなることを覚悟の上で、分圧回路の抵抗値を上げ、A/D読み込みを1回のみとし、計測中の損失を回避するために、複数回読み込みによるフィルタ処理を行わないことにする。それにより、耐ノイズ性は向上しないが、検出精度が向上する。
【0013】
方法b)は、コンデンサの容量を大きく設定し、分圧回路の抵抗値が小さくても、計測時間内に検出精度に影響を与えるような放電損失が発生しないようにする。それにより、計測時間は遅くなるが、検出精度が向上する。
【0014】
方法c)は、分圧抵抗値(受け側回路インピーダンス)を下げ、損失による分を誤差として許容する。それにより、耐ノイズ性が向上するが、検出精度が向上しない。
【0015】
このように、同時に全てを対策する方法が無く、これらの兼ね合いにより、高速・高精度・高耐ノイズ性の装置の実現が困難であった。
【0016】
そこで本発明は、上述した課題に鑑み、従来より計測時間、検出精度および耐ノイズ性の向上を図ることができる電圧測定方法および電圧測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
請求項1記載の発明の電圧測定方法は、測定すべき電圧源の電圧をコンデンサに充電し、充電された前記コンデンサの電荷を所定のサンプリング間隔で複数回計測し、得られた複数のサンプリングデータから前記電圧源の電圧を算出する電圧測定方法であって、前記複数のサンプリングデータを、予め記憶された放電損失換算テーブルであって、検出電圧に対する複数のサンプリングデータの各々の放電損失分を補正する補正値を示す放電損失換算テーブルで補正し、補正後の前記複数のサンプリングデータの最大値および最小値を破棄するソフトフィルタ処理を施して平均化し、得られた平均値を前記電圧源の電圧を示す値として算出することを特徴とする。
【0018】
請求項2記載の発明の電圧測定装置は、測定すべき電圧源の電圧をコンデンサに充電し、充電された前記コンデンサの電荷を所定のサンプリング間隔で複数回計測し、得られた複数のサンプリングデータから前記電圧源の電圧を算出する電圧測定装置であって、検出電圧に対する複数のサンプリングデータの各々の放電損失分を補正する補正値を示す放電損失換算テーブルが予め記憶されている記憶手段と、前記記憶手段に記憶されている前記放電損失換算テーブルで前記複数のサンプリングデータを補正する補正手段と、前記補正手段で補正後の前記複数のサンプリングデータの最大値および最小値を破棄するソフトフィルタ処理を施して平均化し、得られた平均値を前記電圧源の電圧を示す値として算出する電圧計測手段とを備えたことを特徴とする。
【0019】
請求項3記載の発明の電圧測定装置は、コンデンサと、直列接続されたN個の電圧源に接続された(N+1)個の電圧検出端子のうちの奇数番目の電圧検出端子を前記コンデンサに選択的に接続する第1のマルチプレクサと、前記(N+1)個の電圧検出端子のうちの偶数番目の電圧検出端子を前記コンデンサに選択的に接続する第2のマルチプレクサと、前記コンデンサの両端電圧が供給される電圧計測手段とを備え、測定すべき前記電圧源の電圧を前記コンデンサに充電し、充電された前記コンデンサの電荷を前記電圧計測手段により所定のサンプリング間隔で複数回計測し、得られた複数のサンプリングデータから前記電圧源の電圧を算出する電圧測定装置であって、複数の抵抗を有し、前記コンデンサの電荷を分圧して前記電圧計測手段に供給する分圧回路を含み、前記分圧回路を介して前記電圧計測手段における電圧計測の基準電圧として、計測フルスケール値の高電位電圧または低電位電圧を切り替えて供給する基準電圧源回路と、検出電圧に対する複数のサンプリングデータの各々の放電損失分を補正する補正値を示す放電損失換算テーブルが予め記憶されている記憶手段と、前記記憶手段に記憶されている前記放電損失換算テーブルで前記複数のサンプリングデータを補正する補正手段をさらに備え、前記第1および第2のマルチプレクサにより所望の電圧源を選択することにより、奇数番目の前記電圧源の電圧または偶数番目の前記電圧源の電圧を互いに逆極性で前記コンデンサへ充電した後に、前記第1および第2のマルチプレクサを開くと共に、奇数番目の電圧が充電されたときには前記基準電圧源回路で前記低電位電圧に切り替え、偶数番目の電圧が充電されたときには前記基準電圧源回路で前記高電位電圧に切り替えて、前記電圧源の電圧を測定し、前記電圧計測手段は、前記補正手段で補正後の前記複数のサンプリングデータの最大値および最小値を破棄するソフトフィルタ処理を施して平均化し、得られた平均値を前記電圧源の電圧を示す値として算出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
請求項1記載の発明の電圧測定方法によれば、複数のサンプリングデータを、予め記憶された放電損失換算テーブルで補正し、補正後の複数のサンプリングデータの最大値および最小値を破棄するソフトフィルタ処理を施して平均化し、得られた平均値を前記電圧源の電圧を示す値として算出するので、コストアップを伴うことなく、高速・高精度・高耐ノイズ性の電圧測定方法が実現できる。
【0021】
請求項2記載の発明の電圧測定装置によれば、検出電圧に対する複数のサンプリングデータの各々の放電損失分を補正する補正値を示す放電損失換算テーブルが予め記憶されている記憶手段と、記憶手段に記憶されている放電損失換算テーブルで複数のサンプリングデータを補正する補正手段と、補正手段で補正後の複数のサンプリングデータの最大値および最小値を破棄するソフトフィルタ処理を施して平均化し、得られた平均値を電圧源の電圧を示す値として算出する電圧計測手段とを備えているので、ソフト処理の負担増を伴うことなく、高速・高精度・高耐ノイズ性の電圧測定装置が実現できる。
【0022】
請求項3記載の発明の電圧測定装置によれば、複数の抵抗を有し、コンデンサの電荷を分圧して電圧計測手段に供給する分圧回路を含み、分圧回路を介して電圧計測手段における電圧計測の基準電圧として、計測フルスケール値の高電位電圧または低電位電圧を切り替えて供給する基準電圧源回路と、検出電圧に対する複数のサンプリングデータの各々の放電損失分を補正する補正値を示す放電損失換算テーブルが予め記憶されている記憶手段と、記憶手段に記憶されている放電損失換算テーブルで複数のサンプリングデータを補正する補正手段をさらに備え、第1および第2のマルチプレクサにより所望の電圧源を選択することにより、奇数番目の前記電圧源の電圧または偶数番目の電圧源の電圧を互いに逆極性でコンデンサへ充電した後に、第1および第2のマルチプレクサを開くと共に、奇数番目の電圧が充電されたときには基準電圧源回路で低電位電圧に切り替え、偶数番目の電圧が充電されたときには基準電圧源回路で高電位電圧に切り替えて、電圧源の電圧を測定し、電圧計測手段は、補正手段で補正後の複数のサンプリングデータの最大値および最小値を破棄するソフトフィルタ処理を施して平均化し、得られた平均値を電圧源の電圧を示す値として算出するので、分圧回路抵抗値(受け側回路インピーダンス)を従来より低くした構成とすることができ、そにれにより、高速・高精度・高耐ノイズ性の電圧測定装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0024】
図1は、本発明に係る電圧測定方法を実施する電圧測定装置の実施の形態の構成を示す回路図である。電圧測定装置は、フライングキャパシタ方式電圧測定装置であり、高圧電源Vの電圧検出端子T1〜T6に接続された第1のマルチプレクサ1および第2のマルチプレクサ2、両極性のコンデンサ3、サンプルスイッチ4、マイクロコンピュータ(以下、マイコンという)7、基準電圧源回路8およびバッファ・フィルタ9を含む。
【0025】
高圧電源Vは、直列接続されたN個(この形態では、たとえばN=5)の電圧源(たとえば、単電池)V1〜V5を含む。各電圧源V1〜V5は、(N+1)個(この形態では、たとえば6個)の電圧検出端子T1〜T6にそれぞれ接続されている。
【0026】
第1のマルチプレクサ1は、各電圧検出端子T1,T3,T5にそれぞれ接続されたスイッチS1,S3,S5を含む。また、第2のマルチプレクサ2は、各電圧検出端子T2,T4,T6にそれぞれ接続されたスイッチS2,S4,S6を含む。
【0027】
第1のマルチプレクサ1のスイッチS1,S3,S5は、コンデンサ3の一方の端子に接続され、第2のマルチプレクサ2のスイッチS2,S4,S6は、コンデンサ3の他方の端子に接続されている。
【0028】
サンプルスイッチ4は、コンデンサ3の一方の端子に接続されたスイッチ4aと、コンデンサ3の他方の端子に接続されたスイッチ4bを含む。
【0029】
マイコン7は、電源+Vccからの駆動電圧が供給される電源ポートVccと、入力ポートA/D1を有し、電圧計測手段および補正手段として働く。また、マイコン7は、その内部に記憶手段として働く記憶部を有している。
【0030】
基準電圧源回路8は、抵抗R1〜R4と、スイッチ8bと、基準電圧源+Vrefを含む。抵抗R1は、その一方の端子がスイッチ4aに接続され、抵抗R2は、その一方の端子がスイッチ4bに接続され、抵抗R3は、抵抗R1の他方の端子と抵抗R2の他方の端子間に接続されている。抵抗R1〜R3は分圧回路を構成している。また、抵抗R2およびR3の接続点には、抵抗R4を介して基準電圧源+Vrefが接続されている。基準電圧源+Vrefの電圧は、マイコン7における計測フルスケール値の高電位電圧に設定されている。スイッチ8bは、マイコン7における計測フルスケール値の低電位電圧、たとえば最小電圧を与える接地に接続されている。
【0031】
基準電圧源+Vrefの電圧は、マイコン7における計測フルスケール値の高電位電圧として、マイコン7の駆動電圧+Vcc(すなわち、最大電圧)と同じかまたはそれ以下の電圧+AVcc(≦+Vcc)に設定されるが、ここでは最大電圧+Vccに近い高電位電圧+AVccに設定されている。
【0032】
バッファ・フィルタ9は、抵抗R1および抵抗R3の接続点とマイコン7の入力ポートA/D1の間に接続され、入力ポートA/D1にノイズが印加されるのを防止するためのものである。
【0033】
上述の構成において、本発明の特徴は、コンデンサ3の容量は従来通りとし、分圧回路の抵抗値(受け側回路インピーダンス)を従来より低く設定し、受け側回路インピーダンスが小さくなったことによるコンデンサ3の電荷の放電損失は、マイコン7内の記憶部に予め記憶された後述の放電損失換算テーブルで補正し、さらにソフトフィルタ処理を施すことにより、高速・高精度・高耐ノイズ性の電圧検出を達成することにある。
【0034】
次に、上述の構成を有するフライングキャパシタ方式電圧測定装置の動作(測定手順)について、図2に示すコンデンサ3の充放電波形図を参照しながら説明する。まず、マルチプレクサ1および2のスイッチS1〜S6と、サンプルスイッチ4のスイッチ4a,4bと、基準電圧源回路8のスイッチ8bが全て開いている状態から、時刻t0においおて第1のマルチプレクサ1のスイッチS1と第2のマルチプレクサ2のスイッチS2を閉じると、電圧源V1、電圧検出端子T1、スイッチS1、コンデンサ3、スイッチS2および電圧検出端子T2により閉回路が形成される。それにより、電圧源V1の電圧が、コンデンサ3に充電される。
【0035】
次に、時刻t1において、スイッチS1およびS2を開くと共に基準電圧源回路8のスイッチ8bを閉じ、続いてサンプルスイッチ4のスイッチ4aおよび4bを所定期間閉じ、充電されたコンデンサ3の電荷、すなわち電圧源V1の電圧をサンプルスイッチ4および抵抗R1〜R3を介して、マイコン7の入力ポートA/D1に供給する。
【0036】
このとき、コンデンサ3の電荷は、分圧回路を構成する抵抗R1〜R3およびコンデンサ3の容量で決まる時定数CRで放電され、マイコン7の入力ポートA/D1に供給される分圧後の電圧Vinは、以下の式(1)にしたがって減衰する。
Vin=(R3/(R1+R2+R3))×V1×e-t/CR ・・・(1)
ここで、C=コンデンサ3の容量、R=R1+R2+R3である。
【0037】
そこで、マイコン7は、入力ポートA/D1に供給される電圧Vinを、放電開始からt=CRになるまで(すなわち、電圧が36.8%減少するまで)の間に所定のサンプリング間隔で所定回数、たとえば5回サンプリングする。なお、サンプリング間隔は、懸念されるノイズの周期に一致しない間隔に設定される。たとえば、図2において、時刻t2,t3,t4,t5,t6においてサンプリングし、それぞれ電圧Va,Vb,Vc,Vd,Veに相当するサンプリングデータ(A/D変換値)を得る。
【0038】
マイコン7は、その記憶部に図3に示すような放電損失換算テーブルを予め記憶してあり、各サンプリングデータに対してこの放電損失換算テーブルの補正値を加算する。
【0039】
放電損失換算テーブルは、検出電圧に対するA/Dサンプリングデータの放電損失分を補正するものであり、コンデンサ3の容量Cと分圧回路の抵抗値Rで決まる時定数CRに対応して放電損失分を推定して予め設定される。図3の例では、電圧測定装置が0〜20Vの範囲の電圧源の電圧を検出する仕様になっている場合に、2.5V未満、2.5V以上7.5V未満、7.5V以上12.5V未満、12.5V以上17.5V未満、17.5V以上の5区分に区分けされた検出電圧に対して、1回目サンプル乃至5回目サンプルのそれぞれに対応して補正値が設定されており、各サンプリングデータ(A/D変換値)それぞれに対応する補正値が加算される。
【0040】
たとえば、測定すべき電圧源の電圧が12Vであれば、検出電圧は12Vに近い値となるため、放電損失換算テーブルの7.5V以上12.5V未満の区分が適用され、1回目のA/Dサンプルデータ(Vaに相当)には+1が加算され、2回目のA/Dサンプルデータ(Vbに相当)には+1が加算され、3回目のA/Dサンプルデータ(Vcに相当)には+1が加算され、4回目のA/Dサンプルデータ(Vdに相当)には+2が加算され、5回目のA/Dサンプルデータ(Veに相当)には+2が加算される。また、検出電圧が区分を超える値として検出される場合は、その値が含まれる区分における該当する回目の補正値が適用される。
【0041】
このような加算により、時定数CRで減衰する検出電圧は、各サンプリング時に補正され、見かけ上減衰前のコンデンサ3の電荷を表す値として算出される。
【0042】
次に、マイコン7は、5回のサンプリングにより得られたサンプリングデータを比較し、通常のA/Dフィルタ処理と同様に、最大値/最小値2データを破棄した上で、残り3データの平均をとり、この3データの平均値を、電圧源V1の電圧を示す値として算出するというソフトフィルタ処理を施す。電圧源V1の電圧を示す値として算出された値は、記憶部に記憶される。
【0043】
このように、補正後にソフトフィルタ処理を行うことにより、補正無しの場合に比べ下記のような相乗効果が見込める。
(1)最大値/最小値2データを破棄した後の補正だと、単純に1回目と5回目のサンプリングデータが破棄される可能性が高い。
(2)サンプリングデータにノイズが乗って異常に高い値になっていた場合、正常値よりもさらに多い補正値が加えられることになるため(電圧が高いほど、補正値が大きいため)、最大値データとして、より確実に破棄される方向となる。
(3)サンプリングデータにノイズが乗って異常に低い値になっていた場合、正常値よりも少ない補正値が加えられることになるため(電圧が低いほど、補正値が小さいため)、最小値データとして、より確実に破棄される方向となる。
【0044】
次に、スイッチS2およびS3を閉じると、電圧源V2、電圧検出端子T2、スイッチS2、コンデンサ3、スイッチS3および電圧検出端子T3により閉回路が形成される。それにより、電圧源V2の電圧が、電圧源V1の測定時と逆極性でコンデンサ3に充電される。
【0045】
次に、スイッチS2およびS3を開くと共に基準電圧源回路8のスイッチ8bを開き、続いて、サンプルスイッチ4のスイッチ4aおよび4bを所定期間閉じ、充電されたコンデンサ3の電荷、すなわち電圧源V2の電圧をサンプルスイッチ4および抵抗R1〜R3を介して、マイコン7の入力ポートA/D1に供給する。
【0046】
このとき、抵抗R2および抵抗R3の接続点に、基準電圧源+Vrefの電圧+AVccが印加されているので、第1の入力ポートA/D1には、基準電圧源+Vrefの電圧(+AVcc)の電圧と逆極性の電圧源V2の電圧とが供給される。そこで、マイコン7は、第1の入力ポートA/D1に供給された電圧を上述の電圧源V1の電圧計測時と同様のタイミング間隔で同一回数、すなわち、5回サンプリングする。
【0047】
マイコン7は、各サンプリングデータに対して電圧源V1の電圧計測時と同じように、放電損失換算テーブルに基づき補正値を加算し、続いてソフトフィルタ処理を施して電圧源V2の電圧を示す値として算出する。電圧源V2の電圧を示す値として算出された値は、記憶部に記憶される。
【0048】
以下同様に、スイッチS3およびS4、S4およびS5、S5およびS6の組み合わせにより、それぞれ、電圧源V3、V4およびV5の各電圧を示す値が、マイコン7の記憶部に記憶される。
【0049】
上述の測定時、奇数番目の電圧源V1,V3,V5の電圧と、偶数番目の電圧源V2,V4の電圧は、それぞれ逆極性でコンデンサ3に充電され、マイコン7に供給されるので、抵抗R2および抵抗R3の接続点に予め印加される基準電圧源+Vrefの電圧(+AVcc)またはゼロ(0)ボルトを基準電位として、奇数番目の電圧源V1,V3,V5の電圧は、入力ポートA/D1において、A/D変換のフルスケールの、ゼロ(0)ボルト(min)〜+AVcc(max)に換算され、偶数番目の電圧源V2,V4の電圧は、入力ポートA/D1において、A/D変換のフルスケールの、+AVcc(min)〜ゼロ(0)ボルト(max)に換算される。この換算の様子は、図4に示される。
【0050】
このように、(+AVcc)またはゼロ(0)ボルトを基準電圧として、奇数番目の電圧源V1,V3,V5の電圧は、ゼロ(0)ボルト〜+AVccの範囲で検出され、偶数番目の電圧源V2,V4の電圧は、(+AVcc)〜ゼロ(0)ボルトの範囲で検出される。したがって、たとえば、+Vccが5ボルトであり、+AVcc=+Vccとした場合は、奇数番目の電圧源の電圧は、0V〜5Vの範囲で検出され、偶数番目の電圧源の電圧は、5V〜0Vの範囲で検出されることになる。
【0051】
上記に説明したように、本発明によれば、以下の効果が得られる。
(1)耐ノイズ性が向上する。すなわち、分圧回路抵抗値(受け側回路インピーダンス)を小さくすることで、ノイズの影響を軽減させることができる。また、放電損失の補正によりソフトフィルタ処理が可能となり、かつフィルタ効果が補正前以上向上する。
(2)計測時間が向上する。すなわち、コンデンサ3の容量は従来通りの値であるため、計測時間を遅くする必要はない。放電損失の補正処理は、計算作業により損失を導くのではなく、予め損失分を推定した放電損失換算テーブルに用意されている補正値を参照するだけであるので、補正処理によりマイコン7の処理時間が延長されることもない。
(3)検出精度が向上する。すなわち、検出精度低下要因であるコンデンサ3の電荷の放電損失、マイコン7の記憶部に予め用意された放電損失換算テーブルで的確に補正するため、放電損失は検出精度に影響を与えない方式となる。
【0052】
以上の通り、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限らず、種々の変形、応用が可能である。
【0053】
たとえば、上述の実施形態では、マルチプレクサ1,2の各スイッチS1〜S6と、サンプルスイッチ4のスイッチ4aおよび4bと、基準電圧源回路8のスイッチ8bの開閉は、マイコン7の制御により自動的に適宜なタイミングで行われるが、これに代えて手動で開閉しても良い。
【0054】
また、マイコン7の計測フルスケール値の最大電圧または最小電圧を切り替えて供給できるように構成されているが、これに限らず、最大電圧に近い高電位電圧または最小電圧に近い低電位電圧を切り替えて供給できるように構成しても良い。
【0055】
また、上述の実施の形態では、本発明がフライングキャパシタ方式電圧測定装置に適用された場合について説明したが、これに限らず、コンデンサの充電を利用する電圧測定装置であれば、フライングキャパシタを使用しない直接計測方式電圧測定装置や多重なしの電圧測定装置等の他の形式の電圧測定装置でも適用可能である。
【0056】
また、上述の実施の形態では、マイコン7が電圧計測手段、補正手段および記憶手段として働くが、これに代えて、電圧計測手段、補正手段および記憶手段の一部または全部を同等の作用を行う他の構成部品と置換しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】先行出願で提案している電圧測定装置を示すと共に本発明に係る電圧測定方法を実施する電圧測定装置の実施の形態の構成を示す回路図である。
【図2】図1の電圧測定装置におけるコンデンサの充放電波形図を示す図である。
【図3】図1の電圧測定装置において用いられる放電損失換算テーブルを示す図である。
【図4】図1の電圧測定装置における動作を説明する図である。
【符号の説明】
【0058】
V1〜V5 電圧源
1 第1のマルチプレクサ
2 第2のマルチプレクサ
3 コンデンサ
4 サンプルスイッチ
7 マイコン(電圧計測手段、補正手段、記憶手段)
8 基準電圧源回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定すべき電圧源の電圧をコンデンサに充電し、充電された前記コンデンサの電荷を所定のサンプリング間隔で複数回計測し、得られた複数のサンプリングデータから前記電圧源の電圧を算出する電圧測定方法であって、
前記複数のサンプリングデータを、予め記憶された放電損失換算テーブルであって、検出電圧に対する複数のサンプリングデータの各々の放電損失分を補正する補正値を示す放電損失換算テーブルで補正し、補正後の前記複数のサンプリングデータの最大値および最小値を破棄するソフトフィルタ処理を施して平均化し、得られた平均値を前記電圧源の電圧を示す値として算出する
ことを特徴とする電圧測定方法。
【請求項2】
測定すべき電圧源の電圧をコンデンサに充電し、充電された前記コンデンサの電荷を所定のサンプリング間隔で複数回計測し、得られた複数のサンプリングデータから前記電圧源の電圧を算出する電圧測定装置であって、
検出電圧に対する複数のサンプリングデータの各々の放電損失分を補正する補正値を示す放電損失換算テーブルが予め記憶されている記憶手段と、
前記記憶手段に記憶されている前記放電損失換算テーブルで前記複数のサンプリングデータを補正する補正手段と、
前記補正手段で補正後の前記複数のサンプリングデータの最大値および最小値を破棄するソフトフィルタ処理を施して平均化し、得られた平均値を前記電圧源の電圧を示す値として算出する電圧計測手段と
を備えたことを特徴とする電圧測定装置。
【請求項3】
コンデンサと、直列接続されたN個の電圧源に接続された(N+1)個の電圧検出端子のうちの奇数番目の電圧検出端子を前記コンデンサに選択的に接続する第1のマルチプレクサと、前記(N+1)個の電圧検出端子のうちの偶数番目の電圧検出端子を前記コンデンサに選択的に接続する第2のマルチプレクサと、前記コンデンサの両端電圧が供給される電圧計測手段とを備え、測定すべき前記電圧源の電圧を前記コンデンサに充電し、充電された前記コンデンサの電荷を前記電圧計測手段により所定のサンプリング間隔で複数回計測し、得られた複数のサンプリングデータから前記電圧源の電圧を算出する電圧測定装置であって、
複数の抵抗を有し、前記コンデンサの電荷を分圧して前記電圧計測手段に供給する分圧回路を含み、前記分圧回路を介して前記電圧計測手段における電圧計測の基準電圧として、計測フルスケール値の高電位電圧または低電位電圧を切り替えて供給する基準電圧源回路と、
検出電圧に対する複数のサンプリングデータの各々の放電損失分を補正する補正値を示す放電損失換算テーブルが予め記憶されている記憶手段と、
前記記憶手段に記憶されている前記放電損失換算テーブルで前記複数のサンプリングデータを補正する補正手段をさらに備え、
前記第1および第2のマルチプレクサにより所望の電圧源を選択することにより、奇数番目の前記電圧源の電圧または偶数番目の前記電圧源の電圧を互いに逆極性で前記コンデンサへ充電した後に、前記第1および第2のマルチプレクサを開くと共に、奇数番目の電圧が充電されたときには前記基準電圧源回路で前記低電位電圧に切り替え、偶数番目の電圧が充電されたときには前記基準電圧源回路で前記高電位電圧に切り替えて、前記電圧源の電圧を測定し、
前記電圧計測手段は、前記補正手段で補正後の前記複数のサンプリングデータの最大値および最小値を破棄するソフトフィルタ処理を施して平均化し、得られた平均値を前記電圧源の電圧を示す値として算出する
ことを特徴とする電圧測定装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−85902(P2007−85902A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−275296(P2005−275296)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】