説明

電圧非直線性抵抗体組成物および積層バリスタ

【課題】低バリスタ電圧化、低静電容量化を実現しかつESD耐性に優れ、高周波伝送回路の用途に適したバリスタを提供することを目的とする。
【解決手段】ZnOを主成分とし、一般式(1−x)ZnO+x〔Sr1-yy1-a〔Co1-zCrz1+a3で表した時、MはCaおよびBaの少なくとも1種であり、x、y、zおよびaはモル比を表し、0.0005≦x≦0.10、0≦y≦0.8、0≦z≦0.8および−0.1≦a≦0.2である電圧非直線性抵抗体組成物であり、これにより、非常に低いバリスタ電圧、優れた非直線性、および極めて低い誘電率が実現できる。そして、この電圧非直線性抵抗体組成物を用いたバリスタは、バリスタ電圧の低圧化と小さな静電容量を得ながらもESD耐性に優れたものとなり、高周波伝送回路の用途に適した積層バリスタが実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器を静電気から保護するのに適したバリスタに用いられる電圧非直線性抵抗体組成物、およびこれを用いた積層バリスタに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器に用いられるIC等の半導体デバイスは、静電気(ESD)によって破壊や特性が劣化することがある。特に、最近の半導体デバイスはその高速動作化に伴い、ESDに対して脆弱になってきており、ESDによる半導体デバイスの破壊は、電子機器に誤動作や故障などの深刻な障害を招く。このため、各種の電子機器におけるESD対策の重要性が近年頓に増しており、その対策部品として電圧非直線性抵抗体のZnO系のバリスタが広く用いられている。
【0003】
ESD対策に用いられるバリスタとしては、当然ESDの吸収特性に優れることが望ましい。また、バリスタ自身がESDで破壊されてはならず、そのESD耐性にも優れている必要がある。さらに最近は、電子機器の小型化への強い要望から、小型形状で、なおかつ回路信号の高周波化に対応可能な、伝送特性を悪化させない数pF以下に低静電容量化したものが望まれている。
【0004】
このようなESD対策用途のZnOを主成分とする積層バリスタに関する先行技術文献情報としては、例えば、Prなどの希土類系の特許文献1、および、Bi系の特許文献2が知られている。
【特許文献1】特開2004−146675号公報
【特許文献2】特開2007−5500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の積層バリスタは、上述した特性の要求に対して充分なものではなかった。ZnO系のバリスタは、一般にバリスタ特性発現添加物によりPr系およびBi系の2種に大別される。このうちPr系の積層バリスタは、低バリスタ電圧化に適し、例えば、8〜39V程度の低いバリスタ電圧V1mA(電流値1mAのときの電圧値)で、優れたESD吸収特性とESD耐性に優れるものが得られている。しかしながら、その誘電率は一般に約700程度であるため、8〜39V程度の低いバリスタ電圧V1mAの積層バリスタでは、電極間隔が狭まるので静電容量の増大がより顕在化し低静電容量化が困難であり、高周波信号ラインの用途には不向きであるという課題がある。
【0006】
一方、Bi系の積層バリスタは、優れた電圧非直線性を有しながら約70程度の低い誘電率のものが得られている。したがって、0.5〜1pFの非常に小さな静電容量値の積層バリスタが得られているが、低静電容量化に伴う電極面積の減少は電流密度の増加を招くため、バリスタ電圧を100V以下に低圧化するとESDによる特性劣化を引き起こしやすくなる。このため、実用上のESD耐性を満足させると、100V程度の高いバリスタ電圧しか実現できず、低バリスタ電圧化は困難であり、ESD吸収特性が不十分で、機器のESD対策が不十分となりやすいという課題がある。
【0007】
このような背景から、高周波伝送用途のESD対策では、伝送特性に悪影響を与えない微小静電容量化を実現し、かつ、ESD抑制効果も大きくその耐性にも優れた積層バリスタが望まれている。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するもので、低バリスタ電圧化とともに低静電容量化を実現しかつESD耐性に優れ、高周波伝送回路の用途に適した積層バリスタ、および、この積層バリスタを作製するのに適した電圧非直線性抵抗体組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の電圧非直線性抵抗体組成物は、ZnOを主成分とし、一般式(1−x)ZnO+x〔Sr1-yy1-a〔Co1-zCrz1+a3で表した時、MはCaおよびBaの少なくとも1種であり、x、y、zおよびaはモル比を表し、0.0005≦x≦0.10、0≦y≦0.8、0<z≦0.8および−0.1≦a≦0.2である構成としたものである。
【0010】
また、本発明の積層バリスタは、内部に複数の内部電極を有するセラミック焼結体と、前記内部電極と電気的に接続され前記セラミック焼結体の表面に形成された外部電極とを有し、前記セラミック焼結体は、上記の電圧非直線性抵抗体組成物を用いて形成された構成としたものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の電圧非直線性抵抗体組成物によれば、上記した構成により、その電気特性として、非常に低いバリスタ電圧、優れた非直線性、および極めて低い誘電率が実現できる。また、微細組織のZnO結晶粒子を有するものとなる。そして、これら特性により、電圧非直線性抵抗体として、優れた電気特性を有し、優れたESD耐性を有した信頼性の高いものとすることができる。
【0012】
また、本発明の積層バリスタによれば、上記した構成により、小型形状でバリスタ電圧の低圧化と小さな静電容量を得ながらもESD耐性に優れたものとなり、高周波伝送回路の用途に適した積層バリスタが実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(実施の形態1)
以下、本発明の電圧非直線性抵抗体組成物について、一実施例に基づき詳細に説明する。
【0014】
まず、出発原料として、主成分であるZnO、および副成分であるSrCO3、Co23、CaCO3、BaCO3、Cr23さらに第2副成分であるAl23の化学的に高純度な粉末を準備した。続いて、焼結後の組成が、一般式(1−x)ZnO+x〔Sr1-yy1-a〔Co1-zCrz1+a3で表した時、x、y、zおよびaの値が各原子換算で(表1)の試料番号1〜58に示す組成比となり残部がZnOになるように出発原料を秤量し、また、一部については、上記一般式の組成物1molに対して第2副成分であるAl23を添加し、(表1)の試料番号53〜58に示す組成比になるように秤量した。
【0015】
これらの出発原料粉末をポリエチレン製ボールミルに入れ、安定化ジルコニア製の玉石および純水を加え約20時間混合した後、脱水乾燥した。この乾燥粉末を高純度アルミナ質のルツボに入れて約750℃にて2時間仮焼した。次に、この仮焼粉末を混合時と同じボールミルに入れ、安定化ジルコニア製の玉石および純水を加え約20時間粉砕した後、脱水乾燥した。
【0016】
次に、この乾燥した原料粉体に有機バインダを加え均質に混合し、32メッシュのふるいを通して整粒した後、金型と油圧プレスを用いて成形圧力2ton/cm2で成形し直径13mm、厚み1.3mmの成形体を得た。次いで、成形体の上下面に電極となるPd系の電極ペーストを印刷乾燥して形成した後、この成形体を耐熱性のジルコニアのサヤに入れて大気中にて1000〜1100℃の焼成温度で2時間焼成し、(表1)の試料番号1〜58に示す組成の電圧非直線性抵抗体を得た。
【0017】
次に、得られた試料番号1〜58の電圧非直線性抵抗体それぞれの電気特性について、バリスタ特性および誘電率を評価した。バリスタ特性は、試料に1μA〜1mAの範囲で電流を流したときの電圧値を測定して電圧電流特性を評価し、この電圧電流特性から単位厚み当たりのバリスタ電圧V1mA/mm(V)と非直線性αを求めた。バリスタ電圧V1mAは電流値が1mAのときの電圧値と定義し、試料の素子厚みから、単位厚み当たりのバリスタ電圧V1mA/mm(V)を求めた。また、非直線性αは電流値が1mAのときの電圧値V1mAと電流値が10μAのときの電圧値V10μAとの比V1mA/V10μAで評価した。したがって、非直線性αが、1に近いほど理想的で非直線性に優れた電圧非直線性抵抗体である。
【0018】
誘電率εrは、測定周波数1MHz、測定電圧1Vrms、無DCバイアス下で静電容量を測定し、この静電容量と試料の素子厚みおよび径から求めた。また、電子顕微鏡を用いた観察像からインターセプト法によりZnO粒子の平均結晶粒子径Dgを求め、試料の結晶の微細組織を評価した。
【0019】
試料番号1〜58の電圧非直線性抵抗体についての評価結果を、その組成とともに(表1)に示す。(表1)において、*印を付したものは本発明の範囲外の比較例である。
【0020】
【表1】

【0021】
以下に、本発明の電圧非直線性抵抗体組成物について、その組成範囲を限定した理由を(表1)を参照しながら詳細に説明する。
【0022】
試料番号1のように、〔Sr1-yy1-a〔Co1-zCrz1+a3のモル比xが0.0002molより少ない場合には、バリスタ特性は発現されない。バリスタ特性の発現は、試料番号2のように、xが0.0002molから見られるが、この添加量では粒子や粒界間での特性差が大きく、素子全体の特性としては、特に非直線性αが悪く、実用的な特性ではない。粒子間で特性が均一化されて実用的な非直線性αを2.0以下とするためには、試料番号3〜15のように、xが0.0005mol以上であることを要する。一方、試料番号16〜17のように、xが0.10molより多い場合には、ZnO粒子界面に2次相として過剰に析出した相が、バリスタ電圧の高圧化(V1mA/mm>500V)、非直線性の悪化(α>2.0)、および誘電率の増大(εr>50)を招く。これらの特性変化は、ESD吸収特性の低下や信号ラインの伝送品質悪化につながるものであり、本発明の目的としては実用的でなく好ましくない。
【0023】
また、試料番号5、試料番号21および試料番号31のように、〔Sr1-yy1-a〔Co1-zCrz1+a3のモル比aが−0.1molより負である場合や、試料番号10、試料番号26および試料番号36のように、モル比aが0.2molより大きい場合には、バリスタ電圧の高圧化(V1mA/mm>500V)、および平均結晶粒子径Dgの増大を招き、本発明の目的としては実用的でなく好ましくない。
【0024】
したがって、高周波伝送用の電圧非直線性抵抗体に適する組成としては、その特性として、V1mA/mmが500V以下の非常に低いバリスタ電圧、αが2.0以下の優れた非直線性、およびεrが50以下の極めて低い誘電率が得られる組成、すなわち、ZnOを主成分とし一般式(1−x)ZnO+x〔Sr1-yy1-a〔Co1-zCrz1+a3で表した時、xが0.0005mol以上0.10mol以下で、aが−0.1mol以上0.2mol以下の組成範囲が好ましい。
【0025】
また、試料番号7と比較した試料番号8〜9、試料番号23と比較した試料番号24〜25、および、試料番号33と比較した試料番号34〜35のように、
〔Sr1-yy1-a〔Co1-zCrz1+a3におけるモル比aを、0<a≦0.2の範囲として、Aサイトの〔Sr1-yy〕に比べてBサイトの〔Co1-zCrz〕を過剰とした組成のものは、低い誘電率と優れた非直線性とを維持したままでバリスタ電圧をさらに低圧化できる効果が得られる。このバリスタ電圧の低圧化は、ESD吸収効果の一層の改善につながるものである。
【0026】
また、試料番号18と比較した試料番号19、20、23および27、試料番号29と比較した試料番号30、33、37および38、並びに試料番号46〜51のように、〔Sr1-yy1-a〔Co1-zCrz1+a3におけるAサイトのSrの一部をCaおよびBaの少なくとも1種で置換した組成のものは、低い誘電率と優れた非直線性とを維持したままでバリスタ電圧をさらに低圧化できる効果が得られる。このバリスタ電圧の低圧化は、ESD吸収効果の一層の改善につながるものである。
【0027】
しかしながら、試料番号28および試料番号39のように、置換のmol比yが0.8より大きい場合には、BaおよびCaのどちらの元素種でも誘電率の増大を招く。このため、εrが50以下の非常に低い誘電率を得るためには、Aサイトの置換のmol比yは0.8以下の組成範囲が好ましい。
【0028】
なお、Aサイトの置換のmol比yを1.0として、AサイトのSr全てを完全置換した場合、特に、試料番号39のように、Baで完全置換した場合には、結晶粒子の異常成長を引き起こす傾向があり、平均結晶粒子径Dgも大きくなる。このようなZnO粒子の異常成長によって不均一化した微細組織は、粒子やその界面部での電流密度の違いに反映される。このため、非直線性だけでなく、特に粗大粒子界面部では、ESDによる電流密度の局所的集中を生じやすくなって破壊に至る始点となる。このため、微細組織も非直線性やESD耐性へ悪影響を及ぼす副次的な因子となる。一方、置換のmol比yが0.8以下の組成のものは、ZnO粒子の異常成長がなく平均結晶粒子径Dgも小さく均一であり、非直線性やESD耐性の改善を図ることができ、より信頼性を高める効果を得ることができる。
【0029】
そして、試料番号40と比較した試料番号41〜45のように、BサイトのCoの一部をCrで置換することで、低い誘電率と優れた非直線性とを維持したままでバリスタ電圧をより一層低圧化できる効果が得られる。このバリスタ電圧の一層の低圧化は、ESD吸収効果の更なる改善につながるものである。しかしながら、試料番号45のようにBサイトの置換のCrのmol比zが0.8より大きい場合には、非直線性の悪化を招き実用的でなくなる。このため、αが2.0以下の非直線性を得るためには、Bサイトの置換のCrのmol比zは0.8以下の組成範囲が好ましい。
【0030】
上述の理由により、高周波伝送用の電圧非直線性抵抗体の組成としては、その特性として、V1mA/mmが500V以下の非常に低いバリスタ電圧、αが2.0以下の優れた非直線性、およびεrをが50以下の極めて低い誘電率が得られる組成、すなわち、ZnOを主成分とし一般式(1−x)ZnO+x〔Sr1-yy1-a〔Co1-zCrz1+a3で表した時、MはCaおよびBaの少なくとも1種であり、xが0.0005mol以上0.10mol以下で、Aサイトの置換のMのmol比yが0.8以下で、Crのmol比zが0.8以下であり、aが−0.1mol以上0.2mol以下である組成が適している。
【0031】
さらに、試料番号52と比較した試料番号53〜58のように、第2副成分としてAl23を微量添加した組成のものは、より一層の結晶粒子の微粒子化、均一化に有効であり、さらに非直線性やESD耐性の改善を図ることができ、より信頼性を高める効果を得ることができる。また、セラミック組織の微粒子化、均一化は当然、機械的強度も向上させることとなるので、熱衝撃や機器の落下衝撃に対する信頼性も高まる効果もある。しかしながら、試料番号57〜58のように、添加量が多い場合には誘電率の増大を招く。このため、εrが50以下の非常に低い誘電率を得るためには、主組成1molに対するAl23の添加量は、0.003mol以下の組成範囲が好ましい。
【0032】
そして、上記の本発明の電圧非直線性抵抗体組成物について、組成分析およびX線回折により分析した結果、ZnOの結晶相のほかに、このZnO粒子間の粒界にはペロブスカイト構造の〔Sr1-yy1-a〔Co1-zCrz1+a3の固溶体相を有することが確認された。この結果から、ZnO粒子界面におけるペロブスカイト型〔Sr1-yy1-a〔Co1-zCrz1+a3化合物がバリスタ特性発現物質としての作用効果を有していることが確認できた。したがって、ペロブスカイト型〔Sr1-yy1-a〔Co1-zCrz1+a3化合物をあらかじめ合成してZnOに添加しても同様の特性を得ることができる。以上から明らかなように、上記の優れた特性は、ZnOにペロブスカイト型〔Sr1-yy1-a〔Co1-zCrz1+a3化合物を本発明の組成範囲で含有させることで得られるものである。
【0033】
以上のように、本発明の電圧非直線性抵抗体組成物は、ZnOを主成分とし、一般式(1−x)ZnO+x〔Sr1-yy1-a〔Co1-zCrz1+a3で表した時、MはCaおよびBaの少なくとも1種であり、xが0.0005mol以上0.10mol以下、yが0.8mol以下、zが0.8mol以下、aが−0.1mol以上0.2mol以下の組成のものであり、これにより、その電気特性として、V1mA/mmが500V以下の非常に低いバリスタ電圧、αが2.0以下の優れた非直線性、およびεrが50以下の極めて低い誘電率が実現できる。また、2.0μm以下の平均結晶粒子径の微細組織を有するものとなる。そして、これにより、電圧非直線性抵抗体としての非直線性やESD耐性の改善を図ることができ、より信頼性を高めることができる。
【0034】
以上説明したように、本発明の電圧非直線性抵抗体組成物はZnOを主成分とし、MがCaおよびBaの少なくとも1種である〔Sr1-yy1-a〔Co1-zCrz1+a3を含有するものであり、〔Sr1-yy1-a〔Co1-zCrz1+a3は、N型半導体のZnO粒子界面でアクセプター準位を形成させ、多結晶体組織での障壁特性(バリスタ特性)発現の起源となっている。この点では、従来のBi酸化物やPr酸化物と同じ役割を果たすものであるが、本発明の一実施例における試料のバリスタ電圧V1mA/mmと平均結晶粒子径Dgから求めた1粒界あたりの障壁高さ(Vgh)は0.4〜0.6eVであり、従来組成での一般的な0.6〜1.0eV(Pr系)、0.8〜1.4eV(Bi系)と比較して、低い値の材料特性が得られる。これは、静電気対策部品としてのバリスタ製品設計において、バリスタ電圧は粒界の数NとVghとの積であることからして、本質的に低圧化に有利となることを意味する。そして、発明者らの研究によると、Bi系バリスタにおけるBi酸化物は、約600℃程度以上から種々の状態変化(液相化や相転移)する性質を有しており、これがESDで生じる熱エネルギーによって特性変化や熱破壊につながり、素子特性劣化の原因となっている。これに対し、本発明のMがCaおよびBaの少なくとも1種である〔Sr1-yy1-a〔Co1-zCrz1+a3は、融点は1500℃以上と熱安定性に優れているため、MがCaおよびBaの少なくとも1種である〔Sr1-yy1-a〔Co1-zCrz1+a3を非直線性抵抗特性の発現物質として用いることで、非常にESD耐性に優れる電圧非直線性抵抗体を得ることができることとなる。
【0035】
また、MがCaおよびBaの少なくとも1種である〔Sr1-yy1-a〔Co1-zCrz1+a3の構成元素は、Prよりも軽元素であるので、その結晶の誘電率は一般的に小さくなるため、粒界部における空乏層領域が同じであれば、その誘電率は本質的に低いものとなる。従って、MがCaおよびBaの少なくとも1種である〔Sr1-yy1-a〔Co1-zCrz1+a3を特性発現物質に使用した粒界部では、低誘電率化されるため、電圧非直線性抵抗体素子の低静電容量化も可能となる。
【0036】
(実施の形態2)
以下、本発明の積層バリスタについて、上記実施の形態1で説明した電圧非直線性抵抗体組成物を用いて積層バリスタを作製した場合の一実施例の特性に基づき詳細に説明する。
【0037】
まず、積層バリスタを作製する電圧非直線性抵抗体組成物として、上記実施の形態1の(表1)の中から、試料番号2、7、8、11、15、16、19、23、24、33、34、39、45、49、52および55の16種類の組成を選択決定した。そして、実施の形態1と同様に、出発原料として、主成分であるZnO、および副成分であるSrCO3、Co23、CaCO3、BaCO3、Cr23、さらに第2副成分であるAl23の化学的に高純度な粉末を準備し、上記試料番号に対応する組成比となるように出発原料を秤量した。続いて、実施の形態1と同様の方法により、混合、乾燥、仮焼、粉砕、乾燥して、それぞれの試料番号の組成比の原料粉体16種類を作製し準備した。
【0038】
次に、上記16種類の原料粉体それぞれを用いて、本実施の形態2における積層バリスタを16種類作製した。積層バリスタは、以下の方法により作製した。
【0039】
まず、原料粉体に、有機バインダ、溶剤および可塑剤を加えて混合し、ドクターブレード法により成形してグリーンシートを作製し準備した。そして、このグリーンシート上に、AgPd合金(Ag70/Pd30)ペーストを用いスクリーン印刷法で内部電極となる導体層を形成した。次に、内部電極となる導体層を形成したグリーンシートを積層し加圧して、積層体ブロックを得た。次に、上記積層体ブロックを所望の寸法に切断分離して、個片の生チップとした。この生チップを大気中で約500℃に加熱して脱バインダ処理した後、大気中で1000〜1100℃まで加熱して焼成し焼結体素子を得た。
【0040】
次に、上記焼結体素子をバレル研磨して焼結体素子の両端面に内部電極を露出させた後、Agペーストを塗布乾燥し750〜850℃で焼付けした後、Ni−Snメッキを形成して、本実施の形態2における16種類の積層バリスタを作製した。作製した本実施の形態2における積層バリスタの外形寸法は、いずれも、長手方向が1.0mm、幅方向が0.5mm、厚み方向が0.5mmであった。また、いずれも、バリスタ層は、厚みが約70μm、層数が2層、1層当りの面積が約0.06mm2であった。
【0041】
これら上記の16種類の本実施の形態2における積層バリスタについて、電気特性を評価した。電気特性は、実施の形態1と同様に、バリスタ電圧V1mA、非直線性αの指標として電圧比V1mA/V10μA、および静電容量を評価した。そして、これらに加えて、ESD耐性を評価した。ESD耐性は、IEC61000−1−4に準拠したESD電圧8kV(充電容量150pF、放電抵抗330Ω)を、静電気放電シミュレータを用いて素子に印加した前後の特性変化から評価した。また、ESD耐性の評価結果として、ESD電圧を印加した後のバリスタ電圧の初期値からの変化率ΔV1mAを示す。本実施の形態2における積層バリスタの電気特性の評価結果を、その用いた組成物の試料番号とともに(表2)に示す。(表2)において、*印を付したものは本発明の範囲外の比較例である。
【0042】
【表2】

【0043】
(表2)の評価結果から明らかなように、比較例の試料番号101(試料番号2の組成)は非直線性が悪く、静電容量も大きく、また、比較例の試料番号106(試料番号16の組成)は非直線性が悪く、バリスタ電圧が高く、そして、比較例の試料番号112(試料番号39の組成)は静電容量が3pF以上と大きく、さらに、比較例の試料番号113(試料番号45の組成)は非直線性が悪く、いずれも、優れた非直線性、低バリスタ電圧、低静電容量のバリスタを目的とする電気特性を満足するものではない。また、ESD耐性は、いずれも、変化率ΔV1mAが−50%以上と大きく実用的な特性ではない。
【0044】
一方、試料番号102、103、104、105、107、108、109、110、111、114、115、および116の本発明の積層バリスタは、いずれも、バリスタ電圧V1mAが25〜44V、非直線性αが1.3以下、静電容量が0.6〜1.3pFであり、比較例に比べてバランスのとれた電気特性を有し、低バリスタ電圧、低静電容量のバリスタとして、優れた電気特性を有するものであった。また、ESD耐性も、いずれも、変化率ΔV1mAが約−25%以下と小さく、優れたESD耐性を有しているものであった。これらの電気特性は、従来のPr系、Bi系の組成では得られない特性領域の低バリスタ電圧および低静電容量値であるとともに、非常に優れたESD耐性を有することを示している。この優れたESD耐性は、バリスタ層が、熱的安定性に優れた粒界組織であることに加え、微細組織の均一化した多結晶体となっているために得られるものである。
【0045】
以上説明したように、本発明の電圧非直線性抵抗体組成物を用いて作製した本発明の積層バリスタは、低バリスタ電圧、低静電容量で、非常に優れたESD耐性を有し、各種電子機器におけるESD対策に適したバリスタが実現できる。
【0046】
また、本発明の電圧非直線性抵抗体組成物は、1000〜1100℃の焼成温度で緻密な焼結体が得られるので、安価な内部電極材料のAgPd合金ペーストを用いることができるので製造コストも安くできる。
【0047】
なお、一般的に、ESD耐性の変化率ΔV1mAが30%以内の変動であれば、実用上問題なく使用可能であるため、本発明の電圧非直線性抵抗体組成物を用いた積層バリスタにおいては、このESD耐性の変化率の許容範囲内で、さらにバリスタ電圧の低圧化、あるいは静電容量の低容量化を図ることも十分可能である。なお、バリスタ電圧の低圧化には、電極間のバリスタ層の厚みを薄くすることで、静電容量の低容量化にはバリスタ層の厚みを逆に厚くすることや電極面積によって任意に調整可能である。また、耐ESD電圧の要求レベルや用途によって、バリスタ電圧や静電容量などの電気特性を調整することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係る電圧非直線性抵抗体組成物は、その電気特性として、低いバリスタ電圧、優れた非直線性、極めて低い誘電率が得られ、また、結晶粒子も小さく均一であり、優れたESD耐性が得られる。そして、この電圧非直線性抵抗体組成物を用いた本発明に係る積層バリスタは、低バリスタ電圧、低静電容量で、非常に優れたESD耐性を有し、各種電子機器におけるESD対策に適したバリスタとして特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ZnOを主成分とし、一般式(1−x)ZnO+x〔Sr1-yy1-a〔Co1-zCrz1+a3で表した時、MはCaおよびBaの少なくとも1種であり、x、y、zおよびaはモル比を表し、0.0005≦x≦0.10、0≦y≦0.8、0<z≦0.8および−0.1≦a≦0.2である電圧非直線性抵抗体組成物。
【請求項2】
aは、0<a≦0.2の範囲である請求項1に記載の電圧非直線性抵抗体組成物。
【請求項3】
主成分のZnO粒子の粒界は、ペロブスカイト構造の固溶体相を有する請求項1に記載の電圧非直線性抵抗体組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の組成物1molに対して、AlをAl23に換算して0.003mol以下含有する電圧非直線性抵抗体組成物。
【請求項5】
平均結晶粒子径は2μm以下である請求項1に記載の電圧非直線性抵抗体組成物。
【請求項6】
BiおよびPrを含有しない請求項1に記載の電圧非直線性抵抗体組成物。
【請求項7】
内部に複数の内部電極を有するセラミック焼結体と、前記内部電極と電気的に接続され前記セラミック焼結体の表面に形成された外部電極とを有し、前記セラミック焼結体は、請求項1〜6のいずれかに記載の電圧非直線性抵抗体組成物を用いて形成された積層バリスタ。

【公開番号】特開2009−283892(P2009−283892A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311906(P2008−311906)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】