説明

電子タグ付き書籍、その刷り本及び当該書籍の製造方法

【課題】電子タグの性能低下を防止できる電子タグ付き書籍、その刷り本、及び電子タグ付き書籍の製造方法を提供する。
【解決手段】複数の折丁(42)を丁合し、その見開き頁(22)までが表紙(2)とともに中綴じされる本文(10)と、チップ(52)、このチップに接続するアンテナ(54)、並びに、これらチップ及びアンテナを支持する基板(56)をそれぞれ有し、外部通信手段(70)からの電波で非接触通信を行う電子タグ(50)と、本文のうち折丁の綴じ目になる扉(24)ののど(26)の一部を除去して形成された凹みを有しており、その内部にチップの頂上部分から底部分に亘って配置させるチップ格納部(30)とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子タグの取り付けに好適な書籍、その刷り本及び当該書籍の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の書籍を管理するシステムでは、RFID(Radio Frequency IDentification)を用いた手法が知られている。
詳しくは、当該RFIDを用いた手法では、電子タグ(ICタグ)が書籍に取り付けられている。この電子タグには、データの書き換え・追記機能を有するICチップが搭載されており、電子タグとリーダ/ライタとの間では非接触の無線通信が行われる(例えば、特許文献1〜3参照)。
【0003】
より具体的には、電子タグは基板を有し、この基板に、ICチップやこのICチップに接続するアンテナが支持される。そして、書籍に取り付けた電子タグをリーダ/ライタで読み取ると、電子タグの固有情報等が得られ、書籍の生産や在庫の他、現在の位置等の管理も可能になる。これにより、書籍の流通管理及び書籍の盗難防止に利用できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−334268号公報
【特許文献2】特許第4184824号公報
【特許文献3】特開2003−11543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の技術では、電子タグの性能が低下するという問題がある。
なぜならば、上記各技術の電子タグは、そのICチップが基板よりも突出して配置されるにも拘わらず、書籍の表紙の中央付近或いは本文の中央付近、より詳しくは、他の書籍に重なる平坦部分に取り付けられており、製本後、つまり、書籍を積み重ねた梱包作業、搬送作業や陳列作業などの際に書籍に外力が作用すると、この突出したICチップや、ICチップとアンテナとの接合部分に衝撃が直接に加わり、電子タグが破損し易くなるからである。
【0006】
すなわち、このままでは、電子タグは製本時点では正常に作動していても、書籍が市場に流通して販売されるまでに通信不能になり得る。このため何等かの措置が必要になるが、上記従来の技術では単に非接触の無線通信を行うのみであり、製本後における電子タグの故障の点については格別な配慮がなされていない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解消し、電子タグの性能低下を防止できる電子タグ付き書籍、その刷り本及び電子タグ付き書籍の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための第1の発明は、複数の折丁を丁合し、その見開き頁までが表紙とともに中綴じされる本文と、チップ、このチップに接続するアンテナ、並びに、これらチップ及びアンテナを支持する基板をそれぞれ有し、外部通信手段からの電波で非接触通信を行う電子タグと、本文のうち折丁の綴じ目になる扉ののどの一部を除去して形成された凹みを有しており、その内部にチップの頂上部分から底部分に亘って配置させるチップ格納部とを具備する。
【0009】
第1の発明によれば、電子タグ付き書籍は本文と電子タグとを備えており、この本文は、複数の折丁を丁合し、外側から表紙が被せられる。電子タグは、チップ、このチップに接続するアンテナ、並びに、これらチップ及びアンテナを支持する基板をそれぞれ有しており、外部通信手段からの電波で非接触通信を行うことができる。
【0010】
ここで、本文にはチップ格納部が形成されている。このチップ格納部は、本文のうち情報が印字されない箇所、より具体的には、折丁の綴じ目になる扉ののどの一部を除去して形成された凹みであり、その内部にチップの頂上部分から底部分に亘って配置させる。よって、チップが基板よりも突出して配置されていても、このチップ全体はチップ格納部に退避されているため、本文から突出しない。
【0011】
この結果、製本後、つまり、書籍を積み重ねた梱包作業、搬送作業や陳列作業などの際に書籍に外力が作用しても、チップやこのチップとアンテナとの接合部分への衝撃は緩和され、電子タグの性能低下を防止できる。すなわち、製本時には正常に作動していた電子タグが、書籍とともに市場に流通して販売されるまでに通信不能になってしまうという不具合を大幅に削減できる。
【0012】
しかも、上記のどは、小口の反対側に位置し、中綴じされた本文の曲面状になる部分である。より具体的には、一般に、画像、絵柄、文字情報を印刷しない箇所であり、飾り罫などが印刷される程度のスペースである。このため、電子タグを取り付けても書籍の読み手には違和感を与えない。
また、当該のどは、複数の書籍を重ねた際に、小口の反対側から視える表紙で覆われた本文の一部分に該当し、外部通信手段はこの小口の反対側から電子タグの情報を容易に読み取ることができる。
【0013】
第2の発明は、第1の発明の構成において、チップは、凹みを形成する壁面から離間した状態でチップ格納部の内部に配置されていることを特徴とする。
第2の発明によれば、第1の発明の作用に加えてさらに、チップ格納部はチップを宙に浮かせた状態で格納しており、仮に、表紙や本文に外力が作用しても、この衝撃は表紙や本文でそれぞれ吸収され、チップやこのチップとアンテナとの接合部分には直接に伝わらない。したがって、チップを確実に保護できる他、これらチップとアンテナとの接合部分の破損も確実に防止できる。
【0014】
第3の発明は、第1や第2の発明の構成において、基板は、チップ及びこのチップ周辺のアンテナを支持する支持部を有し、この支持部がチップ格納部の内部に納まるように折り曲げられていることを特徴とする。
第3の発明によれば、第1や第2の発明の作用に加えてさらに、支持部が、チップやこれらチップとアンテナとの接合部分を支持するとともに、基板を折り曲げて設けられるため、チップやこれらチップとアンテナとの接合部分をチップ格納部の内部に容易に納めることができる。
【0015】
第4の発明は、情報の印字が終了し、折丁に至る前の刷り本である。そして、折丁の綴じ目になる扉ののどの一部を貫通して穿設された複数の孔を備えており、これら各孔は、刷り本を折丁の1頁の大きさに折り畳むことにより凹みをなし、その内部に、外部通信手段からの電波で非接触通信を行う電子タグのチップの頂上部分から底部分に亘って配置させるチップ格納部を形成する。
【0016】
第4の発明によれば、刷り本には複数の孔が貫通して穿設されている。これら各孔は、折丁の綴じ目になる扉ののど、すなわち、書籍の読み手に違和感を与えないスペースに設けられている。そして、これら各孔は、刷り本を折り畳むことにより重なり合って初めて凹みをなし、電子タグの性能低下を防止するチップ格納部になる。
【0017】
このように、平坦な刷り本の時点で孔を設けておけば、チップ格納部を本文の曲面部分を直接に除去して設ける場合に比して、チップ格納部を容易に形成できるし、また、万一、孔を誤って穿設しても、刷り本を再度作成して孔を設け直せば済み、本文全体を無駄にしないため、本文の歩留まり向上にも寄与する。
【0018】
第5の発明は、外部通信手段からの電波で非接触通信を行う電子タグ付き書籍の製造方法である。そして、情報を用紙に印字して複数の刷り本を作成する工程と、刷り本のうち折丁の綴じ目になる扉ののどの一部を除去して複数の孔を設ける工程と、刷り本を折り畳んで複数の折丁を作成する工程と、折丁を丁合して本文を作成するとともに、各孔が重ね合わされて凹みをなすチップ格納部を形成する工程と、このチップ格納部の内部に電子タグのチップの頂上部分から底部分に亘って配置させる工程と、本文に表紙を被せる工程と、表紙ととともに本文の見開き頁までを連結具で固定する工程と、これら本文及び表紙の天、地、及び小口の三方を断裁して冊子を作成する工程とから構成される。
【0019】
第5の発明によれば、電子タグ付き書籍は、印刷、紙折、丁合、表紙掛け、綴じ、断裁の各工程を経て製造される。電子タグの性能低下を防止するための凹みであるチップ格納部は、紙折工程に移る前、つまり、刷り本の時点で設けられた孔を重ねて形成される。よって、チップ格納部を紙折工程から断裁工程までの間に設けた場合に比して、平坦な刷り本に容易に形成できる。
【0020】
より詳しくは、折丁の綴じ目になる扉ののどは、一般に、画像、絵柄、文字情報を印刷しない箇所であって、飾り罫などが印刷される程度のスペースであり、紙折工程から断裁工程までの作業者よりも、印刷工程の作業者が容易に確認できる空間である。したがって、当該孔は印刷工程にて容易、且つ、正確に形成可能になる。
【0021】
また、孔の穿設に失敗した刷り本だけを再度作成して孔を設け直せば済み、本文全体を無駄にしないため、本文の歩留まり向上にも寄与する。
さらに、電子タグは表紙掛け工程の前、つまり、丁合した本文に取り付けられており、表紙掛け工程から断裁工程までの間に設けた場合に比べて、表紙を捲ってから取り付けなくて済むことから、その取り付けに要する作業が簡単である。
【0022】
第6の発明は、第5の発明の構成において、電子タグは、チップに接続するアンテナ、並びに、これらチップ及びアンテナを支持する基板をそれぞれ有しており、チップ及びこのチップ周辺のアンテナをチップ格納部の内部に配置させ、続いて、チップ周辺のアンテナよりも外側に位置する基板を本文に取り付けることを特徴とする。
【0023】
第6の発明によれば、第5の発明の作用に加えてさらに、電子タグは表紙掛け工程の前、つまり、丁合した本文に取り付けられるが、まず、チップ及びこのチップ周辺のアンテナをチップ格納部の内部に配置しておき、その後、基板を本文に取り付けている。よって、初めに基板を本文に取り付けてからチップ等をチップ格納部の内部に配置した場合に比して、この初めに取り付けた基板に張力が生じてチップ等がチップ格納部の外部に飛び出すことを回避できる。このため、チップ及びこのチップ周辺のアンテナをより一層確実に保護できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、チップ格納部が本文のうち情報が印字されない箇所に設けられており、チップ全体を退避させるため、チップやチップとアンテナとの接合部分への衝撃を緩和でき、電子タグの性能低下を防止できる電子タグ付き書籍、その刷り本及び電子タグ付き書籍の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施例に係る冊子の斜視図である。
【図2】図1の表表紙を開いた状態の斜視図である。
【図3】図2のICタグの平面図である。
【図4】図2の部分拡大図である。
【図5】図4のV−V線から視た断面図である。
【図6】図1の冊子の生産フローチャートである。
【図7】図6の印刷工程における刷り本の平面図である。
【図8】図6の丁合工程における本文の斜視図である。
【図9】図6のタグ貼り付け工程における本文の斜視図である。
【図10】図6のタグ貼り付け工程の説明図である。
【図11】図6の表紙鞍掛け工程における本文及び表紙の斜視図である。
【図12】図6の針金打ち工程における本文及び表紙の斜視図である。
【図13】図1の冊子の管理説明図である。
【図14】他の実施例に係る冊子の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好適な実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1には、本実施例に係る書籍の一例としてコミック等の冊子1が示されている。本実施例の冊子1は、例えばB5版(252mm×162mm×34mm)の大きさで形成され、糸や糊を用いずに、針金(連結具)20だけで綴じられた中綴じ本である。
【0027】
より詳しくは、この冊子1は表紙2及び本文10を備え、表紙2は、その開いた状態で略長方形をなし、その中央部分に直線状の背4を有している。この背4の両側には幅広の表表紙6及び裏表紙8がそれぞれ連なっており、表表紙6には冊子1のタイトルや写真が(図1(a))、裏表紙8には広告がそれぞれ掲載される(図1(b))。また、この図1(b)で視て裏表紙8の左側、つまり、背4の近傍には冊子1のタイトルや発行所及び定価等が背4に沿って記載される。
【0028】
本実施例の表紙2は背4を境にして二つ折りされ、その閉じた状態では内側に本文10を配置するため、略U字状に形成される。
本文10は、表表紙6を開いた図2に示されるように、第1頁から最終頁までの扉24を有し、図1(a)の状態で云えば、この第1頁の扉24は表表紙6の下側に位置し、最終頁の扉24は裏表紙8の上側に位置する。
【0029】
これら扉24の天12や地14は表紙2で覆われていない。また、図2で視て本文10の左端には、同じく表紙2で覆われない小口16を有する。
第1頁の扉24や表表紙6の裏面にも広告が記載されているが、この図2で視て本文10の右端、つまり、小口16の反対側が図8等で後述する折丁42の綴じ目になる。この綴じ目は扉24ののど(喉)26に相当し(図2)、本文10のうち情報が印字されない箇所であることが分かる。
【0030】
また、図2で視てのど26の右端は、天12及び地14方向に沿って直線状に形成され、表紙2の背4で覆われている。
上記針金20は表紙2の背4に沿って打たれ、背4から本文10の見開き頁22に達しており、本文10を閉じた状態の見開き頁22には、のど26の近傍に空間が形成されている。
【0031】
そして、のど26は、当該空間を撫でるように湾曲して背4で覆われる位置に向かう。詳しくは、上記第1頁から見開き頁22までの扉24ののど26は、見開き頁22の空間の外側で曲面状をなして下方に向かう一方、見開き頁22から上記最終頁までの扉24ののど26は、同じく曲面状をなして上方に向かい、これら各のど26は背4に対峙した位置にて直線状に連なっている。
【0032】
ここで、本実施例では、表表紙6の下側に位置した第1頁の扉24ののど26に、ICタグ(電子タグ)50が貼り付けられている(図2)。
本実施例のICタグ50は、電源を有しないパッシブタイプであり、図3に示される如く、細長い略長方形の基板56に、ICチップ(チップ)52や例えばダイポールアンテナ(アンテナ)54が搭載される。なお、アンテナにはダイポールアンテナの他、ループアンテナなどの公知の構造を使用可能である。
【0033】
具体的には、基板56は可撓性を有したフィルム状に形成され、ICチップ52は、その頂上部分から底部分までの高さが約1mmに満たない略直方体で形成され、基板56の一方の面の中央部分に搭載されている。ICチップ52は、そのメモリへのデータの書き換え・追記機能を有し、さらに、後述のリーダ/ライタ(外部通信手段)70との通信機能を有する。
【0034】
ダイポールアンテナ54は、ICチップ52と同様に基板56の一方の面に搭載されており、基板56の長手方向に沿って延びている。ダイポールアンテナ54は例えばエッチングにて形成され、ICチップ52の底部分に電気的に接続される。
このように、ICタグ50の本来の形状は、平板状の基板56に、ダイポールアンテナ54やICチップ52が載置され、このICチップ52の頂上部分が基板56から最も突出したものである。
【0035】
そして、ICタグ50は、基板56の長手方向を冊子1の天12及び地14方向に合わせて第1頁の扉24ののど26に配置されるが、本実施例では、ICチップ52の頂上部分が表表紙6に接触しないように配置される。
詳しくは、図2や、この図2で視える第1頁の扉24を奥側に配置した図4に示されるように、のど26にはチップ格納穴(チップ格納部)30が形成されている。
【0036】
本実施例のチップ格納穴30は、のど26の一部、例えばその中央部分が除去して構成されており、見開き頁22に向けて窪んでいる。
具体的には、チップ格納穴30は開口32及び凹み34を有する。開口32は、例えば略楕円形の孔がのど26の中央部分を貫通して形成されており、第1頁の扉24ののど26に穿設された開口32は表表紙6の内側で覆われる。
【0037】
なお、基板56の幅(基板56の長手方向に対して直交方向)を考慮しつつ、本文10に記載の情報を邪魔しない大きさを鑑みるに、略楕円形の開口32の短半径は約3mm〜5mmの範囲が妥当である。
また、凹み34は、複数の開口32が本文10の厚み方向に重なって形成される。
【0038】
より詳しくは、本実施例の如く第1頁から順に、各扉24ののど26に開口32を穿設した場合には、のど26に穿設された開口32を本文10の厚み方向にそれぞれ重ねると、表表紙6から離間して裏表紙8に向かう凹み34が形成される。
なお、この凹み34の深さは開口32の個数で調整可能であるが、ICチップ52の頂上部分から底部分までの高さを考慮し、且つ、本文10の強度確保を鑑みると、凹み34の深さは約1mm〜5mmの範囲が望ましい。
【0039】
一方、開口32及び凹み34からなるチップ格納穴30を設けたのに対応して、ICタグ50も折り曲げている。
詳しくは、本実施例の基板56は、中央部(支持部)58、傾斜部60、及び翼部62からなり、図5にも示される如く、中央部58が基板56の中央部分に位置し、ICチップ52やICチップ52とダイポールアンテナ54との接続部66(例えば異方性導電ペースト(ACP)接続)を支持している。
【0040】
傾斜部60は中央部58の両側にそれぞれ連なり、また、翼部62は中央部58の反対側にて傾斜部60,60にそれぞれ連なっており、これら傾斜部60及び翼部62はダイポールアンテナ54を支持する。
傾斜部60の両側、つまり、中央部58との境界位置、及び翼部62との境界位置にはそれぞれ折り目が形成され、中央部58は翼部62に対して下方に配置される。換言すれば、ICチップ52及びダイポールアンテナ54との接続部66並びに中央部58はその両側の傾斜部60及び翼部62で吊られた状態にある。
【0041】
これにより、図5に示されるように、翼部62がのど26に接着剤64でそれぞれ貼り付けられると、傾斜部60が開口32の周縁から下方に向けて延びているため、中央部58が凹み34に納まり、ICチップ52の頂上部分から底部分が第1頁の扉24の開口32よりも下方に位置し、ICチップ52の頂上部分が表表紙6の内側に接触しないように配置することができる。
【0042】
また、この凹み34は、各のど26の開口32を集めた周壁(壁面)36、及びこの開口32を有しないのど26である底壁(壁面)38で形成されるが、中央部58は周壁36に接触しないように凹み34に配置され(図4,5)、さらに、この中央部58は底壁38にも接触しないように凹み34に配置される(図5)。この結果、ICチップ52やダイポールアンテナ54との接続部66を周壁36及び底壁38から離間した状態で凹み34に配置することができる。
【0043】
ところで、このICタグ50を装着した冊子1は、図6に示された工程を経て生産される。
まず、ステップS601では、図示しない印刷機にて画像、絵柄、文字情報などを大判の用紙に両面印刷し、刷り本40を作成する(図7)。この刷り本40は、折丁42の1頁の大きさに相当する扉24が複数連なっており、折丁42の山形状の折り目を境にして正しい頁順になる所定の印刷方法で印刷される。
【0044】
なお、図7の扉24は断裁前の状態であるため、本文10の扉24よりも大きく形成される。また、この図7に示す点線が折り畳まれる位置に相当し、そのうち各扉24の長手方向の点線44を跨いだ領域が折丁42の綴じ目になる。
次に、ステップS602に進み、刷り本40に孔32を穿設する。当該孔32が上述の開口32に該当する。
【0045】
具体的には、略楕円形の抜き歯(図示しない)を用いて各扉24ののど26の中央部分を打ち抜き、刷り本40の両面を貫通する孔32を設ける。そして、孔32を備えた刷り本40を複数作成し、ステップS603に進む。
ここで、当該孔32の個数は上述した凹み34の深さによって異なる。つまり、図7の刷り本には計4個の孔32が形成されているが、仮に、凹み34の底面38が見開き頁22に達しない場合には、この底面38を有する刷り本40の孔32の個数は4個未満になる。また、孔32を一切備えない刷り本40も作成されることになる。
【0046】
なお、孔32を形成する抜き歯の形状には、丸、四角、三角、多角形、楕円など種々の形状を選択できる。
また、この孔32の穿設にあたり、仮に、本文10の頁数が非常に多くなる場合には、凹み34の底面38に近い孔32は表表紙6に近い孔32よりも上記点線44に近付けて穿設する。折丁42の丁合時に各孔32の位置が容易に揃うからである。
【0047】
上記ステップS603では、刷り本40をその扉24の大きさに折り畳んで折丁42を作成する。1個の折丁42は、上記点線44を折り目の頂点とした山形状に形成され、各孔32が重なり合って凹み34の一部を構成する。他の刷り本40についても同様に折り畳み、1冊の本文10に相当する複数の折丁42を作成する。
【0048】
続いて、ステップS604に進み、複数の折丁42を重ねて丁合する。具体的には、図8に示されるように、山形状の各折丁42が開いた状態で鞍を掛けるように重ねられる。これにより、見開き頁22を境にして正しい頁順に並んで1冊の本文10になり、また、その閉じた状態の見開き頁22には、上述した空間がのど26の近傍に形成されることになる。
【0049】
この丁合により、各折丁42の孔32が総て連なって壁面36及び底面38を有した凹み34が形成され、この凹み34によるチップ格納穴30が本文10の見開き頁22に向けて窪むことになる。
なお、表紙2は、ステップS605を経てから本文10に被せられ(ステップS606)、丁合の終了時点ではまだ被せない。
【0050】
当該ステップS605では、ICチップ52をチップ格納穴30に格納できるように、ICタグ50を扉24ののど26に貼り付ける(図9)。
具体的には、まず、平坦な基板56を有したICタグ50を準備し(図10(a))、次に、中央部58と傾斜部60との境界位置を谷折りし、傾斜部60と翼部62との境界位置を山折りして中央部58を翼部62よりも下方に配置する(図10(b))。
【0051】
続いて、中央部58をICチップ52の上方から吸引しておき、中央部58を凹み34に向けて降ろし、ICチップ52の頂上部分から底部分が凹み34に納まる状態、換言すれば、ICチップ52の頂上部分を第1頁の開口32よりも下側に配置し、中央部58が凹み34の壁面36及び底面38に接触しない状態に保持する(図10(c))。
【0052】
そして、このICチップ52が凹み34の内部で浮いた状態にて、翼部62,62をのど26に貼り付ける(図10(d))。
次いで、ステップS606に進み、山形状の折丁42の外側に、二つ折りの表紙2を開いた状態で鞍を掛けるように重ね(図11)、ステップS607では、表紙2の背4の適宜位置に2個の針金20を打ち込み、折丁42を丁合した本文10と表紙2とを固定する(図12)。
【0053】
その後、ステップS608に進み、針金20で綴じられた本文10及び表紙2の三方、つまり、天12、地14及び小口16の三方裁ち(化粧裁ち)を行って一連のルーチンを抜け、図1に示す冊子1になる。
なお、この製本が完了すると、ICタグ50の通信検査が実施され、例えばICチップ52の認証番号を読み取れた場合には合格品になり、梱包後に出荷される。
【0054】
この出荷された冊子1は、例えば図13に示される如く表表紙6を上側にして平積みされ、店頭などに並べられる。その際、各冊子1に装着されたICタグ50のデータはリーダ/ライタ70で取得される。
本実施例のリーダ/ライタ70は、日本国ではおよそ950MHzのUHF帯の電波を送受信するアンテナ72や、各ICタグ50との通信を制御する通信制御部(図示しない)を有しており、情報処理端末(図示しない)に接続されている。なお、周波数の大きさについては上記値に限定されず、米国や欧州等の諸外国の規格に応じて当然に調整される。
【0055】
アンテナ72は表紙2の背4側に設置され、このアンテナ72から送信された電波は、表紙2を透過してICタグ50に送信される。当該電波はICタグ50のダイポールアンテナ54で受信され、リーダ/ライタ70からのリクエスト信号としてICチップ52に供給される。その後、ICチップ52からのアンサー信号はダイポールアンテナ54からアンテナ72に向けて送信され、リーダ/ライタ70に供給される。
【0056】
この結果、これらICタグ50とリーダ/ライタ70との間では非接触の無線通信が行われ、リーダ/ライタ70は、複数のICタグ50のデータを同時に取得できるし、書き込むこともできる。
ところで、上記実施例のICタグ50は、表表紙6の下側に位置した第1頁の扉24ののど26に装着されている。
【0057】
しかしながら、このICタグ50をさらに目立たせないためには、上記実施例で云えば第1頁の扉24とは反対側、つまり、図14に示されるように、図1(a)の冊子1で云えば裏表紙8の上側に位置した最終頁の扉24ののど26に配置しても良い。
この最終頁の扉24ののど26は、裏表紙8のうち、冊子1のタイトルや発行所及び定価等が記載された背4の近傍で覆われる箇所であり、この場合にも、上記実施例と同様にチップ格納穴30がのど26の中央部分に形成され、チップ52を保護できる。
【0058】
一方、上記各実施例のチップ格納穴30は、第1頁の扉24(図2)或いは最終頁の扉24(図14)から見開き頁22に向けて窪んでいるが、ICタグ50が扉24ののど26に装着される限り、チップ格納穴30は、見開き頁22から第1頁の扉24若しくは最終頁の扉24に向けて窪んでいても良い。この場合にはICタグ50がより一層目立たなくなるからである。
【0059】
以上のように、本実施例によれば、冊子1は本文10とICタグ50とを備えており、この本文10は、複数の折丁42を丁合し、その見開き頁22までが外側の表紙2とともに針金20で中綴じされる。ICタグ50は、ICチップ52、このICチップ52に接続するダイポールアンテナ54、並びに、これらICチップ52及びダイポールアンテナ54を支持する基板56をそれぞれ有しており、リーダ/ライタ70からの電波で非接触通信を行うことができる。
【0060】
ここで、本文10にはチップ格納穴30が形成されている。詳しくは、このチップ格納穴30は、本文10のうち扉24ののど26の一部(例えば中央部分)を除去して形成された凹み34であり、その内部にICチップ52の頂上部分から底部分に亘って配置させる。よって、ICチップ52が基板56よりも突出して配置されていても、ICチップ52全体はチップ格納穴30に退避されているため、本文10から図2,14の実施例で云えば表紙2側に突出しない。
【0061】
この結果、製本後、つまり、冊子1を積み重ねた梱包作業、搬送作業や陳列作業などの際に冊子1に外力が作用しても、ICチップ52やダイポールアンテナ54との接続部66への衝撃は緩和され、ICタグ50の性能低下を防止できる。
より詳しくは、上述の通信検査時には正常に作動していたICタグ50が、冊子1とともに市場に流通して販売されるまでに通信不能になってしまうという不具合を大幅に削減できる。
【0062】
さらに、のど26は、小口16の反対側に位置し、中綴じされた本文10の曲面状になる部分である。より具体的には、一般に、画像、絵柄、文字情報を印刷しない箇所であり、飾り罫などが印刷される程度のスペースである。このため、ICタグ50を貼付しても冊子1の読み手には違和感を与えない。また、のど26は、複数の冊子1を重ねた際に、小口16の反対側から視える表紙2で覆われた本文10の一部分に該当し、リーダ/ライタ70のアンテナ72はこの小口16の反対側からICタグ50の情報を容易に読み取ることができる。
【0063】
さらにまた、チップ格納穴30を形成する開口32の大きさや凹み34の深さはいずれも3mm以内であれば、本文10の内容を読む際にもその読み手に違和感を与えないし、本文10の強度も確保できる。
また、この凹み34は見開き頁22に向けて、或いは見開き頁22から離間して窪んでおり、その内部にICチップ52を確実に退避できる。
【0064】
さらに、チップ格納穴30はICチップ52を宙に浮かせた状態で格納しており、仮に、表紙2や本文10に外力が作用しても、この衝撃は表紙2や本文10、さらには基板56でそれぞれ吸収され、ICチップ52やダイポールアンテナ54との接続部66には直接に伝わらない。したがって、ICチップ52を確実に保護できる他、ダイポールアンテナ54との接続部66への衝撃も確実に緩和でき、この接続部66の亀裂も確実に防止できる。
【0065】
さらにまた、ICチップ52やダイポールアンテナ54との接続部66は基板56の中央部58で支持されるが、この中央部58が基板56を折り曲げて設けられるため、ICチップ52やダイポールアンテナ54との接続部66をチップ格納穴30の内部に容易に納めることができる。
また、UHF帯による通信方式を用いれば、ICタグ50が安価になり、安価な管理システムを構築できる。
【0066】
ところで、書籍1は、印刷、紙折、丁合、表紙掛け、綴じ、断裁の各工程を経て製造される。
ここで、ICタグ50の性能低下を防止するためのチップ格納穴30は、紙折工程に移る前、つまり、刷り本40の時点で設けられた孔32を重ねて形成されている。
【0067】
これら各孔32は、折丁42の綴じ目になる扉24ののど26、すなわち、冊子1の読み手に違和感を与えないスペースに設けられ、さらに、のど26は、紙折工程から断裁工程までの作業者よりも、印刷工程の作業者が容易に確認できる空間である。
このように、印刷工程、つまり、平坦な刷り本40の時点で孔32を設けておけば、チップ格納穴30を紙折工程から断裁工程までの間、若しくは製本後に本文10の曲面部分を直接に除去して設ける場合に比して、チップ格納穴30を平坦な刷り本40に容易、且つ、正確に形成できる。
【0068】
また、平坦な刷り本40の時点で孔32を設けておけば、チップ格納穴30の除去を誤って本文10全体を無駄にすることもない。孔32の穿設に失敗した刷り本40だけを再度作成して孔開けすれば済むからである。よって、本文10の歩留まり向上にも寄与する。
さらに、ICタグ50は表紙掛け工程の前、つまり、丁合した本文10に取り付けられており、表紙掛け工程から断裁工程までの間に設けた場合に比べて、表紙2を捲ってから取り付けなくて済むことから、その取り付けに要する作業が簡単である。
【0069】
さらにまた、ICタグ50は、まず、ICチップ52及びその周辺のダイポールアンテナ54をチップ格納穴30に配置しておき、その後、基板56を本文10に貼り付けている。
よって、初めに基板56の翼部62を本文10に貼り付けてからICチップ52等をチップ格納穴30に配置した場合に比して、この初めに取り付けた翼部62に張力が生じてICチップ52等がチップ格納穴30の外部に飛び出すことを回避できる。このため、ICチップ52やダイポールアンテナ54との接続部66をより一層確実に保護できる。
【0070】
本発明は、上記実施例に限定されず、特許請求の範囲を逸脱しない範囲で種々の変更を行うことができる。
例えば、上述した実施例では、本文10が直線状の背4を有する中綴じ本に具現化した例で説明されているが、本発明のチップ格納部は無線綴じ本や平綴じ本にも適用できる。
【0071】
詳しくは、これら無線綴じ本や平綴じ本の場合において、本文のうち情報が印字されない箇所とは、幅狭の背、換言すれば、第1頁の扉から最終頁の扉までの端部分が重なり合って形成され、幅狭の背表紙に覆われる部分が該当する。
すなわち、これら無線綴じ本や平綴じ本の場合には、当該幅狭の背から小口に向けて窪んだチップ格納部を設けておき、ICチップ52を搭載した基板56の中央部58を凹みの内部に配置すれば、ICチップ52やダイポールアンテナ54との接続部66を外力から保護できるからである。
【0072】
また、上記実施例ではUHF帯の電波が用いられている。しかし、本発明の電波はマイクロ波でも良く、また、通信距離の短いHF帯やLF帯(長波)の電波にも適用可能である。さらに、本発明の電子タグは、上記パッシブタイプの他、電源を有するアクティブタイプでも良い。
そして、これらいずれの場合にも上記と同様に、電子タグの性能低下を防止できるとの効果を奏する。
【符号の説明】
【0073】
1 冊子(電子タグ付き書籍)
2 表紙
10 本文
12 天
14 地
16 小口
20 針金(連結具)
22 見開き頁
24 扉
26 のど
30 チップ格納穴(チップ格納部)
32 開口、孔(孔)
34 凹み
36 周壁(壁面)
38 底壁(壁面)
40 刷り本
42 折丁
50 ICタグ(電子タグ)
52 ICチップ(チップ)
54 ダイポールアンテナ(アンテナ)
56 基板
58 中央部(支持部)
66 接続部
70 リーダ/ライタ(外部通信手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の折丁を丁合し、その見開き頁までが表紙とともに中綴じされる本文と、
チップ、このチップに接続するアンテナ、並びに、これらチップ及びアンテナを支持する基板をそれぞれ有し、外部通信手段からの電波で非接触通信を行う電子タグと、
前記本文のうち前記折丁の綴じ目になる扉ののどの一部を除去して形成された凹みを有しており、その内部に前記チップの頂上部分から底部分に亘って配置させるチップ格納部と
を具備することを特徴とする電子タグ付き書籍。
【請求項2】
請求項1に記載の電子タグ付き書籍であって、
前記チップは、前記凹みを形成する壁面から離間した状態で前記チップ格納部の内部に配置されていることを特徴とする電子タグ付き書籍。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電子タグ付き書籍であって、
前記基板は、前記チップ及びこのチップ周辺のアンテナを支持する支持部を有し、この支持部が前記チップ格納部の内部に納まるように折り曲げられていることを特徴とする電子タグ付き書籍。
【請求項4】
情報の印字が終了し、折丁に至る前の刷り本であって、
前記折丁の綴じ目になる扉ののどの一部を貫通して穿設された複数の孔を備えており、
これら各孔は、前記刷り本を前記折丁の1頁の大きさに折り畳むことにより凹みをなし、その内部に、外部通信手段からの電波で非接触通信を行う電子タグのチップの頂上部分から底部分に亘って配置させるチップ格納部を形成することを特徴とする電子タグ付き書籍用の刷り本。
【請求項5】
外部通信手段からの電波で非接触通信を行う電子タグ付き書籍の製造方法であって、
情報を用紙に印字して複数の刷り本を作成する工程と、
前記刷り本のうち折丁の綴じ目になる扉ののどの一部を除去して複数の孔を設ける工程と、
前記刷り本を折り畳んで複数の前記折丁を作成する工程と、
前記折丁を丁合して本文を作成するとともに、前記各孔が重ね合わされて凹みをなすチップ格納部を形成する工程と、
このチップ格納部の内部に前記電子タグのチップの頂上部分から底部分に亘って配置させる工程と、
前記本文に表紙を被せる工程と、
前記表紙ととともに前記本文の見開き頁までを連結具で固定する工程と、
これら本文及び表紙の天、地、及び小口の三方を断裁して冊子を作成する工程と
から構成される電子タグ付き書籍の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の電子タグ付き書籍の製造方法であって、
前記電子タグは、前記チップに接続するアンテナ、並びに、これらチップ及びアンテナを支持する基板をそれぞれ有しており、
前記チップ及びこのチップ周辺のアンテナを前記チップ格納部の内部に配置させ、続いて、当該チップ周辺のアンテナよりも外側に位置する基板を前記本文に取り付けることを特徴とする電子タグ付き書籍の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−224810(P2011−224810A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94701(P2010−94701)
【出願日】平成22年4月16日(2010.4.16)
【出願人】(000162113)共同印刷株式会社 (488)
【Fターム(参考)】