説明

電子ビーム物理蒸着装置において成膜レート制御方法、成膜レート制御機構、および電子ビーム物理蒸着装置

【課題】蒸発粒子を量的に安定発生させつつ、被成膜対象に低成膜レートで成膜する成膜レート制御方法、成膜レート制御機構、およびEB−PVD装置を提供する。
【解決手段】蒸発源5と被成膜対象との間の経路内に複数の蒸発粒子通過口13aを有しかつその通過口のサイズが大小に可変制御することが可能となっている制御プレートを配置するステップと、この制御プレートにおける上記通過口のサイズ制御により蒸発源から被成膜対象への単位時間当たりの蒸発粒子通過量を制御して、被成膜対象に対する成膜レートを制御するステップとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子ビーム物理蒸着(EB−PVD)を用いて、被成膜対象に成膜する場合において、その成膜レート(成膜速度)を制御する方法、成膜レート制御機構、およびEB−PVD装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
EB−PVD装置は、周知されるように、高真空チャンバ内において高エネルギーの電子ビーム(EB)を蒸着原料に照射することで該蒸着原料を加熱蒸発気化させ、その蒸発気化により生成した蒸発粒子(成膜成分)を基板表面に蒸着させることにより成膜を行う装置である。
【0003】
このEB−PVD装置においては、蒸着原料を蒸発源内に配置し、その蒸発源に電子ビームを照射して一定温度以上に加熱することで蒸発源内の蒸着原料を粒子状に蒸発気化させることで安定的に単位時間当たり一定量以上の蒸発粒子を発生させるようになっている。そのため、こうしたEB−PVD装置において、蒸発粒子の発生量を少なくして成膜レートを低く制御することはできず、成膜レートを低くする際には、蒸発源と基板との距離を長くし、蒸発粒子の基板表面への到達量を減らして成膜レートを低くするようにしている。なお、電子ビーム物理蒸着装置に関する特許文献を下記する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−163464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような成膜レートの低下方法では、蒸発源から蒸発気化した蒸発粒子が基板表面まで飛ぶ距離の限界あるいは飛ばせる機構上の制約により、より低成膜レートの達成にも限界が生じていた。なお、成膜レートを低くすることは、例えば基板表面に高精度に薄膜を成膜する場合に好ましい。
【0006】
本発明は、蒸発源を電子ビーム照射で一定以上の温度に加熱して蒸発粒子を量的に安定発生させながら、蒸発源と被成膜対象との距離を長くするという手法を採らず、被成膜対象に低成膜レートで成膜することを可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による電子ビーム物理蒸着装置において成膜レート制御方法は、蒸発源と被成膜対象との間の経路内に複数の蒸発粒子通過口を設定する第1ステップと、上記設定した複数の通過口のサイズを制御することにより蒸発源から被成膜対象への単位時間当たりの蒸発粒子通過量を制御して、被成膜対象に対する成膜レートを制御する第2ステップと、を含むことを特徴とするものである。
【0008】
上記複数の蒸発粒子通過口は制御プレートに設けることに限定されるものではなく、チャンバ自体に設けることでもよい。
【0009】
本発明では、各蒸発粒子通過口のサイズを大小制御することにより、蒸発源から被成膜対象への単位時間当たりの蒸発粒子通過量を制御することができるので、低成膜レートとする場合は、上記蒸発粒子通過口を小さく制御することで可能となる。これにより、本発明では、蒸発源と被成膜対象との距離を長くするという手法を採らず、被成膜対象に低成膜レートで成膜することが可能となり、従来のような蒸発源と被成膜対象との距離延長により低成膜レートとしていた手法とは異なり、より精密な低成膜レート制御で被成膜対象への高精度な薄膜形成が可能となる。
【0010】
好ましくは、上記第1ステップでは、複数の蒸発粒子通過口を備えた制御プレートを上記経路内に1枚配置し、上記第2ステップでは、上記制御プレートが備える複数の蒸発粒子通過口それぞれのサイズ制御により成膜レートを制御する。
【0011】
また、好ましくは、上記第1ステップでは、複数の蒸発粒子通過口を備えた制御プレートを上記経路内に少なくとも2枚配置し、上記第2ステップでは、各制御プレートそれぞれの複数の蒸発粒子通過口の重なり制御により成膜レートを制御する。
【0012】
本発明の電子ビーム物理蒸着装置において成膜レート制御機構は、蒸発源と被成膜対象との間の経路内に複数の蒸発粒子通過口を有しかつその通過口のサイズが大小に可変制御することが可能となっている制御プレートと、この制御プレートを駆動して上記それぞれのサイズを制御する制御プレート駆動装置とを含む、ことを特徴とする。
【0013】
好ましくは、上記制御プレートが、複数の蒸発粒子通過口を有する少なくとも2枚構成の制御プレートで構成され、各制御プレートそれぞれの蒸発粒子通過口の重なり調整により当該制御プレートでの蒸発粒子通過量を制御可能としている。
【0014】
好ましくは、上記制御プレートが、サイズ調整可能な複数の蒸発粒子通過口を備える一枚の制御プレートで構成されている。
【0015】
本発明のEB−PVD装置は、蒸発源と、被成膜対象配置部と、上記成膜レート制御機構とを含み、上記成膜レート制御機構は、上記蒸発源と被成膜対象配置部との間の経路内に配置されている、ことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、蒸発粒子を量的に安定発生させつつ、被成膜対象に低成膜レートで成膜することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、本発明の実施の形態にかかるEB−PVD装置の概略構成を示す図である。
【図2】図2(a)は、図1の成膜レート制御機構において第1制御プレートの平面構成を拡大して示す図、図2(b)は図1の成膜レート制御機構において第2制御プレートの平面構成を拡大して示す図である。
【図3】図3は、図1の成膜レート制御機構における各制御プレートの蒸発粒子通過口の重なりを調整して成膜を説明するための図であり、図3(a)は重なり最大の場合を示し、図3(b)は重なり中程度の場合を示し、図3(c)は重なり無しの場合を示す図である。
【図4】図4は、成膜レート制御機構を構成する一対の制御プレートそれぞれの蒸発粒子通過口の例を示す図であり、図4(a)は蒸発粒子通過口が平面視円形の場合を示し、図4(b)は蒸発粒子通過口が平面視矩形の場合を示す図である。
【図5】図5は、平面視矩形の蒸発粒子通過口を有する各制御プレートそれぞれの蒸発粒子通過口の重なりを示す図であり、図5(a)は重なり最大の場合を示し、図5(b)は重なり中程度の場合を示し、図5(c)は重なり無しの場合を示す図である。
【図6】図6は別の成膜レート制御機構を備えた本発明の他の実施の形態にかかるEB−PVD装置の概略構成を示す図である。
【図7】図7(a)は図6の成膜レート制御機構における制御プレートの平面構成を示す図、図7(b)は図6の成膜レート制御機構における制御プレートの断面構成を示す図である。
【図8】図8(a)は成膜レート制御機構における制御プレートが単一枚の場合の制御プレートの平面構成を示す図、図8(b)は成膜レート制御機構における制御プレートが単一枚の場合の他の制御プレート(蒸発粒子通過口が図8(a)のそれより小さい)の平面構成を示す図、図8(b)は成膜レート制御機構における制御プレートが単一枚の場合のさらに他の制御プレート(蒸発粒子通過口が図8(b)のそれより小さい)の平面構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付した図面を参照して、本発明の実施の形態に係るEB−PVD装置における成膜レート制御方法を説明する。図1を参照して実施の形態のEB−PVD装置1は、高真空チャンバ3を備える。高真空チャンバ3内の下方には蒸発源5が配置されている。蒸発源5は、その内部に、図示略の蒸着原料が収納されている。蒸発源5は、その内部の蒸着原料に対して、図示略の電子ビーム照射機構から高エネルギーの電子ビームが照射されるようになっている。高真空チャンバ3内の上方には被成膜対象配置部6が設けられる。蒸発源5内の蒸着原料は、電子ビームの照射により、加熱蒸気化される。この加熱蒸気化された蒸着原料は蒸発粒子として矢印7で示すように被成膜対象配置部6に配置された基板9表面に蒸着する。
【0019】
蒸発源5と、基板9との間の経路内には、2枚の第1、第2制御プレート11,13が上下重なり合うように配置される。この経路は、蒸発源5内で電子ビームにより加熱蒸気化された蒸着原料が蒸発粒子として被成膜対象である基板9の表面に向けて移動する経路である。
【0020】
第1、第2両制御プレート11,13は、図2(a)(b)で示すように、共に、平面視円形の穴により構成された蒸発粒子通過口11a,13aを複数有する。上記蒸発粒子は、第1、第2両制御プレート11,13それぞれの蒸発粒子通過口11a,13aの重なり調整により当該両制御プレート11,13を基板9表面に向けて通過する量を制御されるようになっている。
【0021】
両制御プレート11,13それぞれの蒸発粒子通過口11a,13aのサイズは同じであってもよいし、相違していてもよい。第2制御プレート13は位置固定されている一方、第1制御プレート11は上記経路を横切る方向に位置可変となっている。第1制御プレート11は、制御プレート駆動機構15により上記位置可変制御されるようになっている。この制御プレート駆動機構15は、マイクロコンピュータ装置17からの制御指令により、第1制御プレート11を駆動制御することができるようになっている。マイクロコンピュータ装置17は、例えば、基板9表面への成膜の膜厚に応じて蒸発粒子の蒸着量を制御する場合、膜厚と、その膜厚を高精度制御する場合の単位時間当たりの蒸着量と、その蒸着量に対応した蒸発粒子通過口11a,13aとの関係データを有し、外部からの膜厚データが入力されると、この入力に応答して、上記第1制御プレート11を位置可変させるべく、制御プレート駆動機構15を駆動制御するようになっている。
【0022】
図3を参照して両制御プレート11,13それぞれの蒸発粒子通過口11a,13aの重なり調整を説明する。図3(a)では、両制御プレート11,13それぞれの蒸発粒子通過口11a,13aが蒸発粒子通過方向において完全に重なって重なり面積が最大となると、単位時間当たりの蒸発粒子通過量は最大となる。図3(b)では、両制御プレート11,13それぞれの蒸発粒子通過口11a,13aは蒸発粒子通過方向において半分で重なることで重なり面積が半分になると、単位時間当たりの蒸発粒子通過量は最大時(図3(a)の状態)の半分となる。図3(c)では、両制御プレート11,13それぞれの蒸発粒子通過口11a,13aどうしが蒸発粒子通過方向において完全に重ならなくなって重なり面積ゼロとなると、単位時間当たりの蒸発粒子通過量はゼロとなる。なお、図解の都合で図3(a)ないし図3(c)は完全重なり、半分重なり、重なりゼロの3つで図示説明したが、もちろん、上記両制御プレート11,13の重なり調整で、完全重なりから重なりゼロまでの間で種々の重なり状態を得ることができる。
【0023】
この場合、両制御プレート11,13それぞれの蒸発粒子通過口11a,13aに、直径ばらつきや、配置位置にばらつきなど、製作精度が低い制御プレートを使用する場合では、蒸発粒子通過口11a,13aが、図3(c)の重なりゼロの状態に制御できなくなる場合がある。これを避けるため、図示を略するが、蒸発粒子通過口が無い第3制御プレートを、蒸発源5と、基板9との間の蒸発粒子通過路上に進入退避可能とし、第1、第2制御プレート11,13を重なりゼロの状態に制御して、図3(c)の重なりゼロを得ることができても、できなくても、当該第3制御プレートを上記蒸発粒子通過路上に進入させるようにして、重なりゼロの状態を得るようにしてもよい。
【0024】
なお、図中では、両制御プレート11,13それぞれの蒸発粒子通過口11a,13aの数は、図解の都合で10数個程度で示されているが、蒸発粒子通過口11a,13aの数はこの数に限定されない。
【0025】
また、制御プレート11,13を通過して基板9表面に到達する蒸発粒子の粗密は、基板9表面全体に対する均一な成膜に影響するので、その成膜の程度に応じて蒸発粒子通過口11a,13aの数を設定することが好ましい。
【0026】
蒸発粒子通過口11a,13aの平面視形状は、図4(a)で示すように円形であってもよいし、図4(b)で示すように矩形であってもよい。
【0027】
両制御プレート11,13それぞれの蒸発粒子通過口11a,13aのサイズは、同じであってもよいし、相違していてもよい。両制御プレート11,13それぞれの蒸発粒子通過口11a,13aのサイズが相違している場合、例えば図5(a)ないし(c)で示すように蒸発粒子通過口11a,13aの平面視形状を例えば矩形とする。第1制御プレート11の通過口11aは、第2制御プレート13の通過口13aよりも大きい。そして、図5(a)では、両制御プレート11,13それぞれの蒸発粒子通過口11a,13aの重なりが最大の場合、図5(b)では、両制御プレート11,13それぞれの蒸発粒子通過口11a,13aの重なりが中の場合、図5(c)では、両制御プレート11,13それぞれの蒸発粒子通過口11a,13aの重なりが全く無い場合を示す。この蒸発粒子通過口11a,13aが矩形の場合、重なり調整で蒸発粒子通過口11a,13aの重なり制御の変化が直線的になりその制御が容易になる。
【0028】
以上説明したように本実施の形態の方法では、蒸発源と基板表面との間の経路内に2枚の制御プレートを上下に重なり合うように配置するステップと、少なくとも第2制御プレートを位置可変して、それぞれの蒸発粒子通過口の重なりを調整するステップとを含み、これらステップにより、両制御プレートによる蒸発源から被成膜対象への単位時間当たりの蒸発粒子通過量を制御して、被成膜対象に対する成膜レートを制御することができる。これにより、本実施の形態では、蒸発源と被成膜対象との距離を長くするという手法を採らず、被成膜対象に低成膜レートで成膜することが可能となり、従来のような蒸発源と被成膜対象との距離延長により低成膜レートとしていた手法とは異なり、より低成膜レートすることが可能となり、被成膜対象への高精度な薄膜形成が可能となる。
【0029】
図6および図7を参照して本発明の他の実施の形態を説明する。図6は、同実施の形態にかかるEB−PVD装置の概略構成、図7(a)は制御プレートの平面構成、図7(b)は制御プレートの断面構成を示す図である。これらの図に示す実施の形態では、制御プレート19が単一枚で構成されている。この制御プレート19が備える蒸発粒子通過口19aは、そのサイズが調整可能となっている。例えば、この蒸発粒子通過口19aは、シャッタ21が設けられていて、このシャッタ21が駆動されることで、蒸発粒子通過口19aのサイズを大小に制御可能となっている。こうした場合の蒸発粒子通過口19aの大小制御は、マイクロコンピュータ装置によりシャッタ駆動制御することで可能となる。
【0030】
図8を参照して本発明の他の実施の形態を説明すると、この実施の形態では、蒸発粒子通過口のサイズや数が相違する制御プレートを準備する。例えば図8(a)で示す制御プレート23では蒸発粒子通過口23aのサイズは大きく、また、その数は少ない。図8(b)で示す制御プレート25では蒸発粒子通過口25aのサイズは中で、また、その数は中である。図8(c)で示す制御プレート27では蒸発粒子通過口27aのサイズは最小で、また、その数は最大である。こうした各制御プレート23−27を基板表面に対する成膜レートに応じて使い分けることができる。
【符号の説明】
【0031】
1 EB−PVD装置
3 高真空チャンバ
5 蒸発源
6 被成膜対象配置部
9 基板
11 第1制御プレート
11a 蒸発粒子通過口
13 第2制御プレート
13a 蒸発粒子通過口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発源と被成膜対象との間の経路内に複数の蒸発粒子通過口を設定する第1ステップと、
上記設定した複数の通過口のサイズを制御することにより蒸発源から被成膜対象への単位時間当たりの蒸発粒子通過量を制御して、被成膜対象に対する成膜レートを制御する第2ステップと、
を含むことを特徴とする電子ビーム物理蒸着装置における成膜レート制御方法。
【請求項2】
上記第1ステップでは、複数の蒸発粒子通過口を備えた制御プレートを上記経路内に1枚配置し、
上記第2ステップでは、上記制御プレートの蒸発粒子通過口のサイズ制御により成膜レートを制御する、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記第1ステップでは、複数の蒸発粒子通過口を備えた制御プレートを上記経路内に少なくとも2枚配置し、
上記第2ステップでは、各制御プレートそれぞれの複数の蒸発粒子通過口の重なり制御により成膜レートを制御する、ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
蒸発源と被成膜対象との間の経路内に複数の蒸発粒子通過口を有しかつその通過口のサイズが大小に可変制御することが可能となっている制御プレートと、この制御プレートを駆動して上記各蒸発粒子通過口のサイズを制御する制御プレート駆動装置とを含む、ことを特徴とする電子ビーム物理蒸着装置における成膜レート制御機構。
【請求項5】
上記制御プレートが、少なくとも、複数の蒸発粒子通過口を有する2枚の制御プレートで構成され、各制御プレートそれぞれの蒸発粒子通過口の重なり調整により蒸発粒子通過量を制御可能としている、ことを特徴とする請求項4に記載の機構。
【請求項6】
上記制御プレートが、サイズ調整可能な蒸発粒子通過口を備える一枚の制御プレートで構成されている、ことを特徴とする請求項4に記載の機構。
【請求項7】
蒸発源と、被成膜対象配置部と、上記請求項4ないし6のいずれかに記載の成膜レート制御機構とを含み、上記成膜レート制御機構は、上記蒸発源と被成膜対象配置部との間の経路内に配置されている、ことを特徴とする電子ビーム物理蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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