説明

電子ビーム装置

【課題】 放電原因解消のための電力遮断回数を最小にする。
【解決手段】 直流高圧発生装置16、電子銃5、電子銃5のフィラメント6とアノード8間の電圧から放電を検出する手段、放電検出手段からの放電信号が特定時間続いているか否かを検知する検知回路、検知回路からの信号に基づきトリガ信号を発生するトリガ発生回路24、フィラメント6とアノード8間の電流を遮断する遮断手段18a、両電極間の電流遮断状態を非遮断状態に戻す正常復帰信号発生回路20を備え、トリガ発生回路24からのトリガ信号に基づいて前記両電極間の電流を遮断状態にし、トリガ信号に基づいて正常復帰信号発生回路20により遮断状態を遅延して非遮断状態に戻す様に成しており、非遮断状態に戻した時に検知回路から発生される信号又はトリガ信号をカウントし、カウント値に応じて正常復帰信号発生回路20により遮断状態を非遮断状態に戻す際の遅延時間を設定する様に成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電停止装置を備えた電子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子ビーム装置の中に、真空に排気されたチャンバー内において、電子銃から放出された電子ビームを加速して処理すべき材料に衝突させることにより、電子ビームに与えられた運動エネルギーが熱エネルギーに変換される性質を利用して、材料の溶解、蒸発等に使用されているものがある。
【0003】
この様な電子ビーム装置において、例えば、材料を蒸発させる場合、電子ビームがこの材料に衝突すると、該材料に含まれている種々の物質が蒸発したり、或いは、該材料に含まれている種々のガスが発生することにより、真空チャンバー内の圧力が高くなったりして、その結果、電子ビームを加速するための高電圧がかかっている電子銃又はその近傍で放電が発生する。
【0004】
そこで、放電が発生した場合、例えば、電子銃に供給された電力を一時的に遮断し、放電に伴う前記電子銃或いはその周囲部品等の損傷を避ける様にしている。
【0005】
さて、電子ビーム蒸発源(電子ビームの照射により材料を蒸発させるもの)が備えられた真空蒸着装置やイオンプレーティング装置等においては、例えば、真空チャンバー内において、基板に蒸着すべき材料(蒸発物質)を坩堝内に収容し、該坩堝の横若しくは下側に設けられた電子銃からの電子ビームを磁場により曲線状に偏向させて該坩堝内の蒸発物質に導き、該蒸発物質を加熱蒸発させ、該蒸発粒子を前記基板に付着させる様にしている。
【0006】
図1は真空蒸着装置の主要部を成す電子ビーム蒸発源の概略を示したもので、図2は図1のA−A線断面図である。
【0007】
図中1A、1Bは、永久磁石2を挟んで平行に配置された磁極板で、前記永久磁石2によりN極とS極に励磁されている。
【0008】
該磁極板間には、蒸発物質3が収容された坩堝4が設けられており、該坩堝の下には、電子銃5が設けられている。
【0009】
該電子銃はフィラメント6、グリッド7及びアノード8から成り、該フィラメントの両端子間にフィラメント加熱電源9が、該フィラメントとアノード間(アース間)に加速電源10がそれぞれ接続されている。尚、11はグリッド支持板である。
【0010】
図中12は環状鉄心にX方向走査用偏向コイルとY方向走査用偏向コイルが巻かれた走査用電磁コイル体で、前記電子銃5からの電子ビームの通路上に配置されている。尚、この走査用電磁コイル体は、例えば、磁極1A、1Bの間で坩堝4の近くに取り付けられた非磁性製のホルダー(図示せず)によって支持されている。
【0011】
図中13は該走査用電磁コイル体に走査用の電流を流すための走査用電源である。
【0012】
図3は前記加速電源9の詳細を示したもので、放電停止装置を備えている。
【0013】
該図3において、14は商用周波数の三相交流電源、15は該交流電源からの信号を調整する電圧調整装置で、例えばスライドトランス又はサイリスタ制御装置で構成されており、直流高圧発生装置16の一次側の電圧を自由に可変出来るものである。
【0014】
該直流電圧発生装置は既知の昇圧トランス、整流器及び平滑回路から構成されている。
【0015】
17a、17bは電流遮断装置で、17aは高電圧側で電流を遮断する場合、17bは低電圧側で電流を遮断する場合の電流遮断装置で、どちらか一方が用いられる。本例では、高圧側で電流を遮断する場合を説明する。
【0016】
18a、18b、18cは放電検出装置で、18aは高電圧側の電流、18bは低電圧側の電流、18cは電子銃電圧(加速電圧)をそれぞれ検出することによって放電検出を行う装置で、何れかの一つが用いられる。本例では、電子銃電圧を検出する場合を説明する。
【0017】
19は放電制御装置で、前記放電検出装置18cからの検出信号により前記電流遮断装置17a又は前記電圧調整装置15、及び、正常復帰信号発生回路20を制御するものである。
【0018】
該放電制御装置は図4に示す様に、前記放電検出装置18cで電子銃電圧(加速電圧)を分圧した信号を放電検出のための閾値Vrefと比較して、分圧信号が閾値を下回った時に放電検出パルスを発生するコンパレータ21、該パルスを一定時間遅らせるパルス遅延回路22、該パルスと前記コンパレータ21の放電検出パルスが供給されるAND回路23、該AND回路の出力によってトリガ信号を発生するトリガ発生回路24、及び、該トリガ発生回路からのトリガ信号を予め設定された所定時間遅延させて前記正常復帰信号発生回路20に送るトリガ遅延回路25から構成されている。尚、この予め設定された所定時間は、通常、前記電子銃5への電力供給を遮断してから数msec以内には放電原因が解消して放電が停止するので、数msec以内の固定した遅延時間が前記トリガ遅延回路25に設定されている。
【0019】
尚、前記正常復帰信号発生回路は、該トリガ遅延回路25からの遅延信号に基づいて前記電流遮断装置17a又は前記電圧調整装置12を元の定常運転状態に戻すための信号を発するものである。
【0020】
又、前記図1及び図2には、蒸発粒子が付着される基板、前記各素子を収容した真空チャンバー、該真空チャンバー内を真空排気するための排気手段等は特に図示しなかった。
【0021】
この様な装置において、前記電子銃5のフィラメント6から発生された電子ビームは、前記アノード8によって加速され、前記グリッド7とアノード8のビーム通過孔7H、8Hを通過する。この際、グリッド7とアノード8のビーム通過孔7H、8Hにより電子ビームの開き角が決定される。
【0022】
そして、前記アノード8のビーム通過孔8Hを出た電子は、前記磁極1A、1Bが作る磁場によりラーモア円を描く様に、270°前後曲げられ坩堝4内に収容された蒸発物質3に照射される。この際、前記電子銃5からの電子ビームは前記走査用電磁コイル体12が作る二次元方向走査用磁場を通過するので、電子ビームは前記蒸発物質3上を二次元方向に走査することになる。
【0023】
この結果、前記蒸発物質3は電子ビームにより加熱されて蒸発し、その蒸発粒子が、例えば、前記坩堝4上方に配置された基板(図示せず)上に付着する。
【0024】
さて、この様な真空蒸着装置において、放電が生じた場合、前記放電検出装置18cに電子銃電圧(加速電圧)の異常に減少した電圧、即ち、放電電圧として検出される(図5のステップ1(S1))。
【0025】
該放電電圧は前記コンパレータ21から放電検出パルスとして取り出され、一定時間、前記パルス遅延回路22にて送らせた後、該放電検出パルスは前記コンパレータ21のパルスと共に前記AND回路23に供給される。
【0026】
この時、放電が前記一定時間経過しても持続している場合、前記AND回路23から持続放電検出パルスが発生され、該パルスは前記トリガ発生回路24に供給される。
【0027】
該トリガ発生回路は前記AND回路23の出力によりトリガ信号を発生(図5のステップ2(S2))し、該トリガ信号を正常運転時にオフの状態になっていた前記電流遮断装置17a又はオンの状態になっていた電圧調整装置15、及び、トリガ遅延回路25を介して正常復帰信号発生回路20にそれぞれ供給するので、該電流遮断装置はオンの状態、又は前記電圧調整装置15はオフの状態となって一次側電流が遮断状態となる。
【0028】
その為、前記電子銃5に供給される電力が遮断される(図5のステップ3(S3))。
【0029】
その後、通常、数msec以内には放電原因が解消して該放電が停止しする。この時、前記正常復帰信号発生回路20には前記トリガ遅延回路25から、予め設定された所定時間遅れて前記トリガ発生回路24からのトリガ信号が供給されているので、該正常復帰信号発生回路20は、前記トリガ発生回路24からのトリガ信号発生時から予め設定されている所定時間後に前記電流遮断装置14a又は電圧調整装置15に信号を送り、再び、前記電流遮断装置14aをオフの状態又は電圧調整装置15をオンの状態にする。
【0030】
この結果、前記電子銃5への電力供給が再開される(図5のステップ4(S4))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0031】
【特許文献1】特開昭62− 208534号公報
【特許文献2】特開平02− 33846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0032】
さて、前記真空蒸着装置において、前記チャンバー内の圧力が著しく上昇した場合(例えば、蒸発粒子と反応させて反応物質の膜を基板に付けるために、チャンバー内に反応性ガスを導入している場合など)、前記チャンバー内の圧力は短時間では下がりにくい状態にあるので、前記した様に、前記電子銃5に供給される電力を予め設定された所定時間遮断しても、該所定時間内に前記チャンバー内の圧力は、放電が起きにくい圧力まで達していないことが多い。
【0033】
所で、電子銃への電力供給遮断時間が長い程、成膜状態に与える悪影響が大きくなることから、前記予め設定される所定時間は、出来るだけ短い時間に設定されており、通常、当該真空蒸着装置の加速電源の性能に基づいて成し得る最小時間に設定されている。
【0034】
従って、前記電子銃5への電力供給を再開した時、再び放電が起き、前記放電検出(S1)〜電子銃への電力供給再開(S4)のステップが何度も繰り返されてしまい、成膜プロセスに悪影響を与えるばかりか、アーク放電へ移行してしまい、当該真空蒸着装置自身の稼働を停止せざるを得なくなる。
【0035】
さりとて、前記予め設定される所定遮断時間を著しく長くすると、放電の大きさに拘わらず何時でも成膜プロセスへ悪影響が大きくなってしまう。
【0036】
本発明は、この様な問題を解決する新規な電子ビーム装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0037】
本発明の電子ビーム装置は、高電圧発生回路、該高電圧発生回路からの高電圧が印加される二つの電極、該二つの電極間の電圧又は両電極間に流れる電流を検出して実質的に両電極間の放電を検出する手段、該放電検出手段からの放電信号が特定時間続いているかどうかを検知する検知回路、該放電信号が該特定時間続いた時に発生される該検知回路からの信号に基づきトリガ信号を発生するトリガ信号発生回路、前記両電極間への印加電圧を遮断するか又は両電極間に流れる電流を遮断する手段、及び、前記両電極間への印加電圧遮断状態を非遮断状態に戻すか又は両電極間の電流遮断状態を非遮断状態に戻す正常復帰手段を備え、前記トリガ信号発生回路からのトリガ信号に基づいて前記印加電圧遮断手段又は電流遮断手段により前記両電極間の印加電圧又は電流を遮断の状態にし、前記トリガ信号に基づいて前記正常復帰手段により該遮断状態を遅延して非遮断状態に戻す様に成した電子ビーム装置において、前記非遮断状態に戻した時に前記検知回路から発生される信号又は前記トリガ信号をカウントし、該カウント値に応じて前記正常復帰手段により該遮断状態を非遮断状態に戻す際の遅延時間を設定する様に成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、チャンバー内に発生した放電の原因を該チャンバー内に設けられた電子銃への電力遮断により解消する様に成した電子ビーム装置において、チャンバー内の圧力が著しく上昇した場合でも、電力遮断回数を最小にすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】真空蒸着装置の主要部分を成す電子ビーム蒸発源の概略を示したものである。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】図1に示す加速電源9の詳細を示したものである。
【図4】図3に示す放電制御装置の詳細を示したものである。
【図5】放電検出ステップ〜電子銃への電力供給再開ステップへの流れを示したものである。
【図6】本発明の電子ビーム装置の一例である真空蒸着装置の主要部を成す電子ビーム蒸発源の加速電源9の一部を成す放電制御装置の概略を示す。
【図7】放電検出ステップ〜電子銃への電力供給再開ステップへの流れを示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
先ず、本発明の原理について説明する。
【0041】
前記真空蒸着装置において、前記チャンバー内の圧力が著しく上昇した場合(例えば、蒸発粒子と反応させて反応物質の膜を基板に付けるために、チャンバー内に反応性ガスを導入している場合など)、前記チャンバー内の圧力は短時間では下がりにくい状態にあるので、前記した様に、前記電子銃5に供給される電力を予め設定された所定時間(真空蒸着装置の加速電源の性能に基づいて成し得る最小時間に対応する時間)遮断しても、該所定時間内に前記チャンバー内の圧力は、放電が起きにくい圧力まで達していないことが多い。
【0042】
さて、前記電子銃5への電力遮断後に該電子銃へ電力を供給した時、即ち、前記電子銃5のフィラメント6とアノード8間に加速電圧を印加した時、該フィラメントとアノードから該電極成分粒子とガスが発生する。
【0043】
従って、前記チャンバー内の圧力が著しく上昇した場合においては、前記電子銃への電力供給を再開した時、前記チャンバー内、取り分け、前記電子銃周辺の圧力は、再び同じ時間電力遮断を行っても、放電が起きにくい圧力まで達しないことが多く、電子銃への電力遮断と電力供給の再開を限りなく続けてしまう可能性がある。
【0044】
従って、一回目の電力遮断で放電が停止しない場合には、二回目の電力遮断時間を少し長くして電力遮断を行い、該二回目の電力遮断で放電が停止しない場合には、三回目の電力遮断を更に少し長くして電力遮断を行い、該三回目の電力遮断で放電が停止しない場合には、四回目の電力遮断を更に少し長くして電力遮断を行い、以後、同様に、行えば、前記チャンバー内の圧力が著しく上昇した場合に該チャンバー内の圧力は短時間では下がりにくい状態にあっても、電力遮断回数を最小にすることが出来る筈である。
【0045】
即ち、一回目の電力遮断時間が使用真空蒸着装置の加速電源の性能に基づいて成し得る最小時間Tに設定されているとした場合、二回目の電力遮断時間はT+α、三回目の電力遮断時間は(T+α)+α、即ち、T+2α、……、N回目の電力遮断時間はT+(N−1)αとなる様にすれば、チャンバー内の圧力が著しく上昇した場合に該チャンバー内の圧力は短時間では下がりにくい状態にあっても、電力遮断回数を最小にすることが出来る筈である。尚、α<Tとする。
【0046】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0047】
図6は本発明の電子ビーム装置の一例である真空蒸着装置の主要部を成す電子ビーム蒸発源の加速電源9の一部を成す放電制御装置の概略を示す。
【0048】
図中、前記図4で使用されている記号と同一記号の付されたものは同一構成要素を示す。
【0049】
該図6に示されている放電制御装置が前記図4で示されている放電制御装置と異なる所は、次の二点である。
【0050】
一つは、AND回路23の出力数を数えてカウントアップするカウンタ26と該カウンタのカウント値をリセットするための放電継続判別回路27が新たに設けられた点である。
【0051】
もう一つは、図4でのトリガ遅延回路25はトリガ発生回路24からのトリガ信号を常に予め設定された所定時間遅延させて正常復帰信号発生回路20に送る様に成っていたが、図6のトリガ遅延回路250は、前記カウンタ26からの出力、即ち、連続する放電回数に対応した信号に基づいた遅延時間を演算して、該算出した遅延時間、前記トリガ発生回路24からのトリガ信号を遅延させて正常復帰信号発生回路20に送る様に成っている。
【0052】
即ち、該トリガ遅延回路250は、真空蒸着装置の加速電源の性能に基づいて成し得る最小遅延時間をT、該Tよりも小さい適宜時間をα、連続する放電回数をNとすると、T+(N−1)αの式により遅延時間を演算し、該算出された遅延時間、前記トリガ発生回路24からのトリガ信号を遅らせて前記正常復帰信号発生回路20に送る。
【0053】
以上説明した構成の放電制御装置を有する加速電源9を備えた電子ビーム蒸発源を主要部とする真空蒸着装置において、前記基板(図示せず)への成膜中、放電が生じた場合、前記放電検出装置18cに電子銃電圧(加速電圧)の異常減少電圧、即ち、放電電圧として検出される(図7のステップ1(S1))。
【0054】
該放電電圧は前記コンパレータ21にパルスとして取り出され、このパルスを一定時間、前記パルス遅延回路22にて送らせた後、該パルスを前記コンパレータ21の出力と共に前記AND回路23に供給する。
【0055】
この時、放電が前記一定時間経過しても持続している場合、前記AND回路23は前記トリガ発生回路24と前記カウンタ26及び前記放電継続判別回路27にトリガ信号を供給する。
【0056】
該トリガ発生回路は前記AND回路23の出力によりトリガ信号を発生(図7のステップ2(S2))し、該トリガ信号を定常運転時にオフの状態になっていた前記電流遮断装置17a又はオンの状態になっていた電圧調整装置15、及び、トリガ遅延回路250に供給する。
【0057】
すると、該電流遮断装置はオンの状態、又は前記高電圧発生装置13はオフの状態となって一次側電流が遮断状態となり、前記電子銃5に供給される電力が遮断される(図7のステップ3(S3))。
【0058】
一方、前記カウンタ26は前記AND回路23からの出力をカウントし、1回目の放電回数である事を知らせる放電回数信号を前記トリガ遅延回路250に供給する。
【0059】
該トリガ遅延回路には前記トリガ発生回路24からトリガ信号も同時に供給されているので、該トリガ遅延回路はT+(N−1)αの式により遅延時間を演算し、算出された遅延時間(T)、前記トリガ発生回路24からのトリガ信号を遅らせて前記正常復帰信号発生回路20に供給する。
【0060】
その為、該正常復帰信号発生回路は、前記トリガ発生回路24からのトリガ信号発生時から前記遅延時間(T)後に前記電流遮断装置14a又は電圧調整装置12に正常復帰信号を送り、再び、前記電流遮断装置14aをオフの状態又は電圧調整装置12をオンの状態にする。
【0061】
この結果、前記電子銃5への電力供給が再開される(図7のステップ4(S4))。
【0062】
この時、放電が発生していなければ、装置は定常運転を続け(図7のステップS5)、同時に、前記正常復帰信号発生回路20からの正常復帰信号と前記AND回路23からの出力を前記放電継続判別回路27に送り、前記カウンタ26は、前記放電継続判別回路27からの信号によりカウント値(1)をリセットする。
【0063】
さて、前記チャンバー内の圧力が著しく上昇した場合(例えば、蒸発粒子と反応させて反応物質の膜を基板に付けるために、チャンバー内に反応性ガスを導入している場合など)においては、前記電子銃への電力供給を再開しても、放電原因が解消せず、待ち時間の間に放電が再度起きてしまう。
【0064】
この様な場合、再び、前記放電検出(S1)〜電子銃への電力供給遮断(S3)のステップが行われ、前記カウンタ26は前記AND回路23からのパルスを引き続きカウントし、2回目の放電回数である事を知らせる放電回数信号を前記トリガ遅延回路250に供給する。
【0065】
すると、該トリガ遅延回路には前記トリガ発生回路24からトリガ信号も同時に供給されているので、該トリガ遅延回路はT+(N−1)αの式により遅延時間を演算し、算出された遅延時間(T+α)、前記トリガ発生回路24からのトリガ信号を遅らせて前記正常復帰信号発生回路20に供給する。
【0066】
その為、該正常復帰信号発生回路は、前記トリガ発生回路24からのトリガ信号発生時から前記遅延時間(T+α)後に前記電流遮断装置14a又は電圧調整装置12に信号を送り、再び、前記電流遮断装置14aをオフの状態又は電圧調整装置12をオンの状態にする。
【0067】
この結果、前記電子銃5への電力供給が再開される(図7のステップ4(S4))。この時、放電が発生していなければ、装置は定常運転を続け(図7のステップS5)、同時に、前記カウンタ26は前記放電継続判別回路27からの信号によりカウント値(2)をリセットする。
【0068】
しかし、放電が発生していれば、再び、前記放電検出(S1)〜電子銃への電力供給遮断(S3)のステップが行われ、前記カウンタ26は前記AND回路23からの出力を引き続きカウントし、3回目の放電回数である事を知らせる放電回数信号を前記トリガ遅延回路250に供給する。
【0069】
すると、該トリガ遅延回路には前記トリガ発生回路24からトリガ信号も同時に供給されているので、該トリガ遅延回路はT+(N−1)αの式により遅延時間を演算し、算出された遅延時間(T+2α)、前記トリガ発生回路24からのトリガ信号を遅らせて前記正常復帰信号発生回路20に供給する。
【0070】
その為、該正常復帰信号発生回路は、前記トリガ発生回路24からのトリガ信号発生時から前記遅延時間(T+2α)後に前記電流遮断装置14a又は電圧調整装置12に信号を送り、再び、前記電流遮断装置14aをオフの状態又は電圧調整装置12をオンの状態にする。
【0071】
この結果、前記電子銃5への電力供給が再開される(図7のステップ4(S4))。この時、放電が発生していなければ、装置は定常運転を続け(図7のステップS5)、同時に、前記カウンタ26は前記放電継続判別回路27からの信号によりカウント値(2)をリセットする。
【0072】
しかし、放電が発生していれば、前記カウンタ26のカウント値(2)はリセットされず、前記と同様なステップが繰り返される。
【0073】
この様に、電子銃への電力遮断から電力供給再開する際、連続して放電が発生する場合、その放電の回数に応じて、電力遮断時間を長くする様にしたので、チャンバー内の圧力が著しく上昇して、該チャンバー内の圧力は短時間では下がりにくい状態にあっても、従来の様に電子銃への電力遮断から電力供給再開を永遠に繰り返すことなく、遮断回数を最小にすることが出来る。
【0074】
上記説明では、カウンタ26でAND回路23の出力をカウントしたが、トリガ発生回路24からのトリガ信号をカウントするようにしても良い。
【0075】
尚、前記本発明の実施例として、真空蒸着装置について説明したが、電子ビームの照射により金属材料を溶解する装置等にも本発明は応用可能である。
【符号の説明】
【0076】
1A、1B…磁極板
2…永久磁石
3…蒸発物質
4…坩堝
5…電子銃
6…フィラメント
7…グリッド
8…アノード
9…フィラメント加熱電源
10…加速電源
11…グリッド支持板
12…走査用電磁コイル体
13…走査用電源
14…三相交流電源
15…電圧調整装置
16…直流高電圧発生装置
17a、17b…電流遮断装置
18a、18b、18c…放電検出装置
19…放電制御装置
20…正常復帰信号発生回路
21…コンパレータ
22…パルス遅延回路
23…AND回路
24…トリガ発生回路
25…トリガ遅延回路
26…カウンタ
27…放電継続判別回路
250…トリガ遅延回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧発生回路、該高電圧発生回路からの高電圧が印加される二つの電極、該二つの電極間の電圧又は両電極間に流れる電流を検出して実質的に両電極間の放電を検出する手段、該放電検出手段からの放電信号が特定時間続いているかどうかを検知する検知回路、該放電信号が該特定時間続いた時に発生される該検知回路からの信号に基づきトリガ信号を発生するトリガ信号発生回路、前記両電極間への印加電圧を遮断するか又は両電極間に流れる電流を遮断する手段、及び、前記両電極間への印加電圧遮断状態を非遮断状態に戻すか又は両電極間の電流遮断状態を非遮断状態に戻す正常復帰手段を備え、前記トリガ信号発生回路からのトリガ信号に基づいて前記印加電圧遮断手段又は電流遮断手段により前記両電極間の印加電圧又は電流を遮断の状態にし、前記トリガ信号に基づいて前記正常復帰手段により該遮断状態を遅延して非遮断状態に戻す様に成した電子ビーム装置において、前記非遮断状態に戻した時に前記検知回路から発生される信号又は前記トリガ信号をカウントし、該カウント値に応じて前記正常復帰手段により該遮断状態を非遮断状態に戻す際の遅延時間を設定する様に成した電子ビーム装置。
【請求項2】
前記カウント値が0の場合の遅延時間をT、該カウント値をN、遅延時間を変化させる時間をαとした場合、T+(N−1)αに従って前記遅延時間を設定する様に成した請求項1記載の電子ビーム装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−76733(P2011−76733A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223922(P2009−223922)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】