説明

電子レンジで加熱調理される卵含有加熱ゲル化食品

【課題】
加熱調理方法として電子レンジを用いた場合であっても、突沸、凝固ムラや「す」を生じることなく、均一で滑らかな外観、食感を有する卵含有加熱ゲル化食品を提供する。
【解決手段】
電子レンジを用いた卵含有加熱ゲル化食品の製造方法において、ワキシーコーンスターチを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子レンジで加熱調理される、卵含有加熱ゲル化食品に関する。
具体的には、茶碗蒸しやカスタードプリンなどの、加熱によってゲル化する卵含有食品を、電子レンジを用いて簡便に製造する技術に関する。本発明は、本技術分野において、電子レンジを用いた加熱調理であっても、「す(表面や内部に気泡が入った状態)」の発生が顕著に抑制され、均一で滑らかな食感や外観を有する卵含有加熱ゲル化食品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
茶碗蒸しやカスタードプリンなどの、卵を含有して加熱によりゲル化する食品は、卵本来の風味と滑らかな食感が特徴的であり、子供から大人まで広く好まれている。
通常、これら卵含有加熱ゲル化食品は、加熱ムラや「す」の発生を防止するために、蒸し器や、湯を張ったオーブンで温度管理を厳密に行いながら加熱調理される。
しかし、本加熱調理法は、加熱に数十分程度の時間を要する上、温度管理が必要となり、調理に手間がかかり、特に外食産業においては、注文から料理提供までに時間を要することが課題視されていた。
【0003】
調理方法の簡便化を図る一手段として、電子レンジを用いた加熱調理方法が挙げられる。
例えば、カードランを用いた茶碗蒸しの電子レンジ調理方法(特許文献1)、粉末油脂組成物を用いた茶碗蒸しの電子レンジ調理方法(特許文献2)等の技術が知られている。
また、卵含有加熱ゲル化食品を調製する容器に着目した技術として、容器の内側面と内底面の交差部を曲面に形成してある上面開放容器に具材を加えた希釈卵液を満杯充填し、かつマイクロ波遮断材からなる蓋を被せて密閉する方法(特許文献3)、容器に収容した液体状原料の表面をマイクロ波遮断材で被覆し、棒状突起物を該容器の上面、側面及び底面から選択される少なくとも1の面から容器内部に向けて突出するように該液体状原料が加熱されにくい位置に配置する方法(特許文献4)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平02−411号公報
【特許文献2】特許第2747974号公報
【特許文献3】特開平07−39344号公報
【特許文献4】特許第3246063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子レンジを用いた加熱調理方法は、厳密な温度管理を必要とせず、簡便にかつ短時間でゲル化食品を提供できる点で極めて利便性が高い。
しかし、電子レンジによる加熱調理方法は内部から食品を加熱するため、蒸し器や湯煎による加熱と異なり熱伝導が速く、特許文献1及び2に開示された技術では、加熱ムラが生じる、卵が凝固する前にミックス液が突沸して容器から噴き出す、部分的に卵が凝固して均一な組織ができない、「す」が生じて均一に固化できないといった課題を抱えていた。
更に、起泡性粉末油脂組成物を用いる特許文献2の技術は、ゲル化食品の食感が油っぽくなる、調製時に乳化剤を用いるため、粉末油脂組成物自体の風味が悪いといった問題も抱えていた。さらに保存による油脂の酸化に由来する風味の劣化も問題であった。
一方、容器に着目した特許文献3及び4の技術は、特別な容器を用いなければならず、外食産業など、店舗によって用いる容器が異なる販売形態では極めて汎用性が低いといった課題を抱えていた。
【0006】
上記従来技術に鑑み、本発明では加熱調理方法として電子レンジを用いた場合であっても、均一で滑らかな外観、食感を有する卵含有加熱ゲル化食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記のごとき課題を解決すべく鋭意研究した結果、ワキシーコーンスターチという特定の澱粉を用いることで、上記課題を解決した卵含有加熱ゲル化食品を提供できることを見出し、本発明に至った。
【0008】
本発明は以下の態様を有する卵含有加熱ゲル化食品の製造方法に関する;
項1.ワキシーコーンスターチを含有することを特徴とする、電子レンジを用いた卵含有加熱ゲル化食品の製造方法。
項2.卵及びワキシーコーンスターチを含有する液状ミックスを、電子レンジを用いて加熱することを特徴とする、卵含有加熱ゲル化食品の製造方法。
項3.ワキシーコーンスターチを含有することを特徴とする、電子レンジ調理される卵含有加熱ゲル化食品用のミックス。
項4.卵含有加熱ゲル化食品が、茶碗蒸し又はカスタードプリンである、項3に記載のミックス。
項5.増粘多糖類含量が0.4質量%以下である、項3に記載の卵含有加熱ゲル化食品用のミックス。
【発明の効果】
【0009】
加熱調理方法として電子レンジを用いた場合であっても、突沸、凝固ムラや「す」を生じることなく、均一で滑らかな外観、食感を有する卵含有加熱ゲル化食品を提供できる。
これにより、茶碗蒸しやカスタードプリンなどを、極めて簡便な調理方法で提供することが可能となった。更に本発明は、特殊な容器を用いる必要もなく、極めて汎用性の高い技術である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、電子レンジを用いた卵含有加熱ゲル化食品の製造方法において、ワキシーコーンスターチを添加することを特徴とする。
本発明で用いるワキシーコーンスターチは、ワキシーコーン(糯種)を由来とする澱粉であり、一般的な澱粉がアミロース及びアミロペクチンで構成されているのに対し、アミロースを含まず、アミロペクチンのみで構成されているという特殊性を有する。
【0011】
現在市販されている澱粉の種類としては、馬鈴薯澱粉(アミロース含量約20〜25%)、コーンスターチ(アミロース含量約25%)、ハイアミロースコーンスターチ(アミロース含量約50〜90%)、小麦澱粉(アミロース含量約25%)、米澱粉(アミロース含量約15〜20%)、豆澱粉(アミロース含量約30〜35%)、甘藷澱粉(アミロース含量約15〜20%)タピオカ澱粉(アミロース含量約15%)等が知られているが、ワキシーコーンスターチ以外の、アミロースを含有する澱粉を用いても本発明の効果は得られない。
【0012】
卵含有加熱ゲル化食品へのワキシーコーンスターチの具体的な添加量は、好ましくは0.3〜10質量%、更に好ましくは0.5〜5質量%である。
ワキシーコーンスターチの添加量が0.3質量%より少ないと、電子レンジ調理した際に突沸を抑制する効果が弱く、均一な組織を形成するのが難しい場合がある。一方、10質量%を超えると、ボディーが重くなり、極めて口溶けの悪い食感を有する卵含有加熱ゲル化食品になる。
【0013】
本発明では、ワキシーコーン由来の澱粉(ワキシーコーンスターチ)であれば、澱粉の加工方法は問わない。例えば、天然澱粉の他に、α化澱粉、エステル化澱粉(酢酸エステル化、オクテニルコハク酸エステル化、リン酸エステル化)、エーテル化澱粉(ヒドロキシプロピルエーテル化、カルボキシメチルエーテル化)、アセチル化澱粉、酸化澱粉、架橋澱粉等の各種澱粉を利用できる。好ましくは、アセチル化澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉若しくは架橋澱粉、又はこれら1種以上の加工処理(例えば、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉等)が施された澱粉を利用できる。
【0014】
本発明が対象とする電子レンジを用いた卵含有加熱ゲル化食品とは、蒸し器やオーブン等を用いた加熱調理とは異なり、電子レンジによる加熱でゲル化させる食品をいう。具体的には、茶碗蒸しやカスタードプリン、卵豆腐、だし巻き卵などの、卵を含有し、電子レンジによる加熱でゲル化する食品であれば特に制限されず、各種ゲル化食品に応用可能である。
特には、卵を加熱した際に生じる凝固作用を利用したゲル化食品が望ましく、ゲル化食品中の卵含量としては3〜70質量%、好ましくは5〜50質量%を例示できる。本発明では卵として全卵、卵黄等を使用できる。
【0015】
本発明の卵含有加熱ゲル化食品は、好ましくは、増粘多糖類含量が0.4質量%以下、更には0.3質量%以下となるように調製することが望ましい。
例えば、増粘多糖類として、キサンタンガム、グァーガム、ローカストビーンガム、サイリウムシードガム、カラギナン、ジェランガム、グルコマンナン、寒天、ゼラチン、カードラン、ペクチン等の多糖類が挙げられる。かかる多糖類の中でも、キサンタンガム、グァーガムや寒天を使用することで、ワキシーコーンスターチを単独で使用した場合よりも、卵含有加熱ゲル化食品に更に滑らかな食感を付与することが可能となる。しかし、併用する増粘多糖類の添加量が0.4質量%を超えると、電子レンジ調理してもゲル化しない、得られた卵含有加熱ゲル化食品の保形性が弱く、目的とする固さを付与できない場合がある。また、ヌメりが生じる場合もある。
【0016】
本発明は、電子レンジ調理であっても、均一で滑らかな外観、食感を有する卵含有加熱ゲル化食品を提供できる点に特徴があり、本発明の具体的な実施態様としては、例えば下記形態が考えられる。
(1)卵、ワキシーコーンスターチ、その他食品の原材料(水、調味料等)を含有した卵含有加熱ゲル化食品ミックス(液状)を調製する。調理時に本ミックスを電子レンジで加熱して、卵含有加熱ゲル化食品を製造する。
(2)ワキシーコーンスターチ、その他食品の原材料(調味料等)を含有した卵含有加熱ゲル化食品ミックス(粉末状)を調製する。調理時に本粉末状のミックスに卵、水等を添加して液状とした後に、電子レンジで加熱して、卵含有加熱ゲル化食品を製造する。
かかる点で、本発明は、ワキシーコーンスターチを含有することを特徴とする、電子レンジ調理される卵含有加熱ゲル化食品用のミックスに関する発明でもある。
【0017】
なお、上記(1)の実施形態においては、卵含有加熱ゲル化食品ミックス液は冷凍流通され、食する前に解凍する。その後、容器に充填して電子レンジ調理されるケースが多い。本発明では、かかるように冷凍解凍したミックス液を用いて電子レンジ調理した場合であっても、突沸、凝固ムラや「す」を生じることなく、均一で滑らかな外観、食感を有する卵含有加熱ゲル化食品を提供できるという利点も有する。
【0018】
本発明の卵含有加熱ゲル化食品は、上記具体的態様(1)、(2)に記載したように、安定剤としてワキシーコーンスターチを添加し、加熱条件として電子レンジを用いる以外は常法に従って製造可能である。電子レンジの加熱条件としては、500Wで2分間相当が目安である。
【実施例】
【0019】
以下に、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明する。ただし、これらの例は本発明を制限するものではない。なお、実施例中の「部」「%」は、それぞれ「質量部」「質量%」、文中「*」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、文中「※」印は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを意味する。
【0020】
実験例1 卵含有加熱ゲル化食品の調製(1)
表1及び表2の処方に基づき、卵含有加熱ゲル化食品(茶碗蒸し)を調製した。具体的には、表2に示す安定剤を添加した溶液、卵(全卵)、食塩、調味料、色素を混合後、全量が100部となるように水を加えて撹拌した。その後、電子レンジで加熱して(500W、2分間)、卵含有加熱ゲル化食品を調製した。得られた卵含有加熱ゲル化食品について、突沸、「す」の発生、ゲル化食品の均一性、食感を評価した。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
注)実験例1(実施例1〜4、比較例2〜6)では澱粉として、ヒドロキシプロピル化澱粉を使用した。
【0024】
(評価基準)
突沸 :突沸が有意に抑制されていたものから順に◎>○>△>×の4段階で評価した。
「す」:「す」の発生が有意に抑制されていたものから順に◎>○>△>×の4段階で評価した。
均一性:卵含有加熱ゲル化食品の組織が均一なものから順に◎>○>△>×の4段階で評価した。
食感:卵含有加熱ゲル化食品の組織が滑らかなものから順に◎>○>△>×の4段階で評価した。
【0025】
本発明の卵含有加熱ゲル化食品(実施例1〜4:ワキシーコーンスターチ単品又はキサンタンガム併用)は、電子レンジ調理中の突沸が起こらず、「す」が入ってない均一なゲル状組織を持つ、茶碗蒸しを調製できた。また、食すると滑らかで、口溶けの良い食感を有していた。一方、安定剤を使用してない比較例1、多糖類を使用した比較例7〜9は、電子レンジで加熱調理中に、突沸が起きて、調製した溶液が容器から、噴出してしまった。また、電子レンジを止めて、調理中の食品を観察したところ、部分的に液体の状態で残っており、均一なゲル化組織を得ることができなかった。また、ワキシーコーンスターチ以外の澱粉(比較例2〜6)は、ブランク(比較例1)よりも、やや突沸が抑えられたものの、沸騰を抑えることができなかった。そのため、得られた食品は、「す」が入り、部分的に液状の部分もあり、均一なゲル化組織を得ることができなかった。
【0026】
実験例2 卵含有加熱ゲル化食品の調製(2)
ワキシーコーンスターチとして、加工処理が異なる澱粉を用いて卵含有加熱ゲル化食品(茶碗蒸し)を調製した。具体的には、表3に示すワキシーコーン、卵(全卵)、調味料、食塩、色素を混合後、全量が100部となるように水を加えて撹拌した。その後、電子レンジで加熱して(500W、2分間)、卵含有加熱ゲル化食品を調製した。得られた卵含有加熱ゲル化食品について、突沸、「す」の発生、ゲル化食品の均一性、食感を評価した。結果を表4に示す。
【0027】
【表3】

【0028】
【表4】

【0029】
本発明の卵含有加熱ゲル化食品(実施例5〜8)は、電子レンジ調理中の突沸が起こらず、「す」が入ってない均一なゲル状組織を持つ、茶碗蒸しを調製できた。特に、アセチル化アジピン酸架橋澱粉(実施例5)、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(実施例6)は、「す」が入りにくく、均一なゲル状組織を持っていた。
【0030】
実施例9 卵含有加熱ゲル化食品の調製(3)
表5に示す処方に従って、卵含有加熱ゲル化食品(カスタードプリン)を調製した。具体的には、水にワキシーコーンスターチを加えて80℃で10分間攪拌することで調製した安定剤を20℃まで冷却した。そこに、牛乳、脱脂粉乳、卵(全卵)、砂糖、スクラロースを混合後、撹拌した。その後、電子レンジで加熱して(500W、2分間)、卵含有加熱ゲル化食品を調製した。得られた卵含有加熱ゲル化食品について、突沸、「す」の発生、ゲル化食品の均一性、食感を評価した。
【0031】
【表5】

【0032】
本発明の卵含有加熱ゲル化食品(実施例9)は、電子レンジ調理中の突沸が起こらず、「す」が入ってない均一なゲル状組織を持ち、滑らかな食感を有するカスタードプリンであった。一方、ワキシーコーンスターチを添加していない比較例10のカスタードプリンは、電子レンジで加熱調理中に突沸が起き、液体が容器から噴出した。そのため、均一なゲル状組織を作ることが出来ず、カスタードプリンを調製することが困難であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワキシーコーンスターチを含有することを特徴とする、電子レンジを用いた卵含有加熱ゲル化食品の製造方法。
【請求項2】
卵及びワキシーコーンスターチを含有する液状ミックスを、電子レンジを用いて加熱することを特徴とする、卵含有加熱ゲル化食品の製造方法。
【請求項3】
ワキシーコーンスターチを含有することを特徴とする、電子レンジ調理される卵含有加熱ゲル化食品用のミックス。
【請求項4】
卵含有加熱ゲル化食品が、茶碗蒸し又はカスタードプリンである、請求項3に記載のミックス。
【請求項5】
増粘多糖類含量が0.4質量%以下である、請求項3に記載の卵含有加熱ゲル化食品用のミックス。

【公開番号】特開2013−42741(P2013−42741A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−184970(P2011−184970)
【出願日】平成23年8月26日(2011.8.26)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】