説明

電子写真現像剤用キャリア芯材およびその製造方法、電子写真現像剤用キャリア、並びに電子写真現像剤

【課題】高強度のキャリア芯材およびその製造方法、当該キャリア粉を含む電子写真現像剤を提供する。
【解決手段】 真比重が4.90〜5.05g/cmであり、比表面積が0.05〜0.2m/gであり、SiOを1.3〜4wt%含有し、且つBが0.0001〜0.005wt%含有している電子写真現像剤用キャリア芯材を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高耐久、長寿命化を実現した電子写真現像剤用キャリア芯材およびその製造方法、電子写真現像剤用キャリア、並びに電子写真現像剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真の乾式現像法は、電子写真現像剤である粉体のトナーを感光体上の静電潜像に付着させ、当該付着したトナーを所定の紙等の媒体へ転写して現像する方法である。この方法は、電子写真現像剤として、トナーのみを含む1成分系現像剤を用いる方法と、トナーと磁性キャリアとを含む2成分系現像剤を用いる方法に大別される。近年では、トナーの荷電制御が容易で安定した高画質を得ることができ、かつ高速現像が可能な2成分系現像剤が電子写真現像剤の主流となっている。
【0003】
2成分系現像剤を用いた現像方法においては、キャリアは現像機内でトナーと撹拌、混合され、トナーは所望の電荷を付与され、磁気ブラシはマグネットロール上に形成され、帯電したトナーは、感光体上へ搬送される。マグネットロール上に残ったキャリアは、再び現像機内に戻り、新たなトナーと撹拌、混合され、一定期間繰り返して使用される。
【0004】
そして、オフィスのネットワーク化が進むとともにサービス体制が充実し、サービスマンが現像剤を交換するようなシステムから、メンテナンスフリーの時代へシフトしており、現像剤の高耐久、長寿命化に対する要求がより一層高まってきている。
【0005】
近年、電子写真現像機は、フルカラー化、高画質化、高速化の傾向にあり、特に高速化に伴って現像機内で撹拌負荷が増加し、撹拌ストレスにより磁性キャリアの割れ、欠けが発生する問題が生じている。その結果、割れ、欠け粒子がキャリア飛散の原因となり、画質劣化を発生する。
【0006】
上記課題を解決するために、特許文献1では、スラリーの粒径を一定範囲以下にし、仮焼成と本焼成とを限定した条件で製造することを提案している。
また、特許文献2では焼結助剤を用いず、脱バインダー工程を行い、キャリア芯材の表面性の粒子間ばらつきを改善すること等により、高強度のキャリアを得、キャリア飛散を低減することが提案されている。
【0007】
一方、特許文献3は、キャリア芯材へホウ素を0.001〜0.1wt%、珪素を0.01〜0.5wt%の範囲内で意図的に添加することにより、結晶の成長過程を制御すること、当該結晶の成長過程を制御の結果、現像機内の撹拌ストレスによるキャリアの亀裂や割れによる二次微粉の発生を抑制させることを提案している。
【0008】
【特許文献1】特開2007−271663号公報
【特許文献2】特開2007−273505号公報
【特許文献3】特許3997291号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者等の検討によると、例えば、特許文献1、2に記載されている磁性キャリアの破砕前後の平均粒径の変化率は、それぞれ74%以上、85%以上であった。これでは、現像機内での撹拌ストレスにより、磁性キャリアの割れ・欠け粒子が発生
し、キャリア付着を発生するため、磁性キャリアのさらなる高強度化が必要であることを知見した。
ここで、さらに研究を進め、磁性キャリアの粒子強度は、当該粒子の表面性のばらつきが問題なのではなく、当該粒子内部の構造が重要であるとの画期的な知見を得た。つまり、上述した特許文献2では、磁性キャリア製造の為、1400℃までの高温で焼成を行っているが、該高温焼結過程で異常粒成長を招き、内部空孔の偏析を生じているのであると考えられる。
【0010】
一方、本発明者らは、特許文献3に記載されているマグネタイトキャリアについて鋭意検討を行った。その結果、キャリア芯材としてマグネタイトを用いた場合、特許文献3に示されるホウ素および珪素を意図的に添加して製造したキャリアは、従来の複写機、プリンターの現像剤として十分な強度を有していることがわかった。しかしながら、現在から今後にかけて開発される高性能複写機、プリンターの現像剤としては、十分な強度を有していないことがわかった。
【0011】
本発明は、上述の状況の下で成されたものであり、その解決しようとする課題は、高強度で、現像機内で割れ、欠け粒子がほとんど発生しない電子写真現像剤用キャリア芯材(以下、単に「キャリア芯材」と記載する場合がある。)およびその製造方法、当該電子写真現像剤用キャリア芯材を用いた電子写真現像剤用キャリア並びに電子写真現像剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述の課題を解決するため、本発明者等は研究を進め、従来の技術に係るキャリア芯材に比較して画期的な強度を発揮する、高いSiO濃度と低いホウ素濃度とを有するキャリア芯材粒子を見出し、本発明を完成した。
【0013】
即ち、上述の課題を解決する第1の発明は、
真比重が、4.90〜5.05g/cmであり、
比表面積が、0.05〜0.2m/gであり、
SiOを1.3〜4wt%、且つ、ホウ素を0.0001〜0.005wt%含有しているマグネタイト粒子を含むことを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材である。
【0014】
第2の発明は、
前記マグネタイト粒子が、平均粒径(D50)25〜40μmであることを特徴とする第1の発明に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材である。
【0015】
第3の発明は、
Fe原料と、SiO原料と、ホウ素化合物と、カーボンとを混合して、固形分濃度75wt%以上のスラリーを得る工程と、
前記スラリーを噴霧乾燥させて造粒物を得る工程と、
前記造粒物を960℃以上、1130℃以下の温度にて焼成し、磁性相を有する焼成物を得る工程と、
得られた焼成物に解粒処理を行って粉末化し、その後に所定の粒度分布を持たせる工程とを、有することを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法である。
【0016】
第4の発明は、
第1または第2の発明に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の表面が、樹脂で被覆されていることを特徴とする電子写真現像剤用キャリアである。
【0017】
第5の発明は、
第4の発明に記載の電子写真現像剤用キャリアと、トナーとを含むことを特徴とする電子写真現像剤である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材は、機械的強度が高い。そして、当該電子写真現像剤用キャリア芯材を用いて製造した本発明に係る電子写真現像剤用キャリアは、電子写真現像機内での撹拌ストレスに対する抵抗性が高い。その為、高性能な電子写真現像機やMFP(マルチ・ファンクション・プリンター)において、当該電子写真現像剤用キャリアを含む本発明に係る電子写真現像剤を用いることで、安定して良好な画質特性を発揮できる上、当該電子写真現像剤交換寿命を延ばすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明に係る電子写真現像剤用キャリア芯材は、真比重が、4.90〜5.05g/cmであり、比表面積が、0.05〜0.2m/gであり、SiOを1.3〜4wt
%、且つ、ホウ素を0.0001〜0.005wt%含有しているマグネタイト粒子である。
本発明者等は、当該キャリア芯材を構成するマグネタイト粒子が、SiOを1.3〜4wt%含有していることで、焼結時に当該結晶の異常粒成長の発生を防ぐことができ、且つ、焼結時の焼結不足による低強度の粒子を減らすことができたのだと考えている。一方、当該キャリア芯材が、ホウ素を0.0001〜0.005重量%含有していることで粒子内部の焼結が均一に進み、焼結時に生成する過剰に焼結した低強度の粒子を減らすことができたのではないかと考ている。
さらに、当該SiO添加とホウ素添加との相乗効果により、当該キャリア芯材の表面及び内部の適度なグレイン成長と過度な焼結を抑制することが出来、さらに、当該キャリア芯材粒子の内部にある程度の均一で微細な内部空孔を含ませることが出来たことで、真比重が、4.90〜5.05g/cmの範囲に入り、比表面積が0.05〜0.2m
/gの範囲に入ったことも、当該キャリア芯材の機械的強度を向上させたのではないかと考えている。
【0020】
さらに、当該キャリア芯材が、平均粒径(D50)が25〜40μmのマグネタイト粒子であることにより、キャリア粒子ひとつひとつの磁化が確保されるため、キャリア付着現象が抑制され、且つ、電子写真現像した際に所望の画質特性が得られ好ましいことを知見した。
【0021】
以下、本発明について、1.電子写真現像剤用キャリア芯材、2.電子写真現像剤用キャリア、3.電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法、4.電子写真現像剤用キャリアの製造方法、5.電子写真現像剤、の順で説明する。
【0022】
1.電子写真現像剤用キャリア芯材
<物性>
本発明に係るキャリア芯材は、真比重が、4.90〜5.05g/cmであり、比表面積が、0.05〜0.2m/gであるマグネタイト粒子である。当該マグネタイト粒
子において、真比重が4.90g/cm以上あることで、当該マグネタイト粒子が内部空孔を多く含むことによる強度低下を防ぐことができるので、好ましい。一方、真比重5.05g/cm以下であれば、当該マグネタイト粒子内における異常粒成長による内部空孔の低下、強度の低下を防ぐことができるので、好ましい。
【0023】
また、本発明に係るキャリア芯材を構成するマグネタイト粒子の比表面積が、0.05m/g以上あることで、粒子同士の焼結や過剰焼結によるグレインの粗大化を防ぐことができるので好ましい。一方、マグネタイト粒子の比表面積が0.2m/g以下であれ
ば、該マグネタイト粒子表面に開口した空孔(オープンポア)が少ない粒子であり、当該オープンポアに起因する割れ、欠け粒子の発生を防ぐことができるので、好ましい。
さらに本発明に係るキャリア芯材において、SiOを1.3wt%以上含有することで、焼結時に当該マグネタイト結晶の異常粒子成長の発生を防ぐことができる。一方、SiOが4wt%以下であれば、焼結時の焼結不足による低強度のマグネタイト粒子を減らすことができるのだと、考えられる。
さらに、ホウ素が0.0001重量%以上であれば、粒子内部の焼結を均一に進めることができ、ホウ素が0.005重量%以下であれば、焼結時において過剰に焼結した結果、低強度となる粒子を減らすことができるのだと考えられる。
【0024】
<粒径>
本発明に係るキャリア芯材は、平均粒径(D50)が25μm以上、40μm以下であることが好ましい。
キャリア芯材の粒径が25μm以上あれば、キャリア粒子ひとつひとつの磁化が確保されキャリア付着現象が抑制され好ましい。また粒径が40μm以下であれば電子写真現像した際に、所望の画質特性が得られ好ましい。
【0025】
<磁気特性>
本発明に係るキャリア芯材は、外部磁場1000Oe下における磁化:σ1000が、30emu/g以上であることが好ましい。これは、キャリア芯材のσ1000が、30emu/g以上であることで、電子写真現像機内で形成される磁気ブラシの保持力が強くなり、キャリア付着現象が抑制されるためである。
【0026】
2.電子写真現像剤用キャリア
得られた本発明に係るキャリア芯材をシリコーン系樹脂やアクリル樹脂等で被覆し、帯電性の付与および耐久性の向上させることで電子写真現像剤用キャリア(本発明において、単に、キャリアと記載する場合がある。)を得ることが出来る。当該シリコーン系樹脂やアクリル樹脂等の被覆方法は、公知の手法により行うことができる。
【0027】
<キャリアの強度>
本発明者らは、キャリアが、電子写真現像機内で撹拌ストレスを受けることにより微粉を発生させる問題について検討した。その結果、キャリアを構成するキャリア芯材を破砕試験機に投入して破砕したとき、当該破砕前後において、当該キャリア芯材の22μm以下の破砕片における粒径の累積値の変化率(以下、微粉増加率と記載する場合がある。)を測定することで、当該キャリアの電子写真現像機内での撹拌ストレスによる微粉の発生状態、および、当該微粉による電子写真画像への影響を評価出来ることに想到した。具体的には、前記微粉増加率が2.0%以下であれば、電子写真現像150K枚後においても、キャリア付着を殆ど生じず、良好な電子写真画質が得られた。
つまり、本発明に係るキャリア芯材で構成されるキャリアは、電子写真現像機内での撹拌ストレスを受けても、画像へ影響するほどの微粉を発生しないことを示している。従って、当該キャリアと公知のトナーとを含む電子写真現像剤を電子写真現像機に適用した際、微粉が殆ど発生し得ず、当該微粉に起因するキャリア飛散等の画質低下が起きない。
【0028】
3.電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法
本発明に係るキャリア芯材の製造方法について、キャリア芯材の原料、造粒工程、焼成工程の順に説明する。
【0029】
<キャリア芯材の原料>
本発明に係るキャリア芯材を構成するマグネタイト粒子のFe原料は、金属鉄またはその酸化物であればよい。具体的には、常温常圧下で安定に存在するFe23やFe
、Feなどが好適に用いられる。
一方、マグネタイト粒子に含有させるSiO原料は、非晶質シリカ、結晶シリカ、コロイダルシリカなどが好適に用いられる。
また、マグネタイト粒子に含有させるホウ素は、HBO(オルトホウ酸)、HBO(メタホウ酸)、H(四ホウ酸)等のホウ酸類、Bを代表とする酸化ホウ素、等のホウ素化合物のかたちで添加することが好ましい。
【0030】
尚、本発明に係るキャリア芯材の製造方法では、還元反応を進める。そこで、上述したスラリー原料へ、さらに還元剤を添加してもよい。当該還元剤としてはカーボンを用いるが、当該カーボンのかたちとしては、カーボン粉末やポリカルボン酸系有機物、ポリアクリル酸系有機物、マレイン酸、酢酸、ポリビニルアルコール系有機物、およびそれらの混合物が好適に用いられる。
還元剤としてカーボン粉末を用いる場合、添加するカーボン量は0.6〜1.4wt%が好ましい。添加するカーボン量が0.6〜1.4wt%であれば、キャリア芯材の原料が酸素濃度1%以下、焼成温度960〜1130℃でマグネタイト化するため好ましい。
【0031】
上述したスラリー原料に水を加え混合攪拌して、形分濃度を75wt%以上、好ましくは77wt%以上とする。スラリー原料の固形分濃度が75wt%以上であれば、造粒時のペレットの空孔が均一になり、焼成後のキャリア芯材中の真比重が、4.90〜5.05g/cmの範囲になり、高強度のキャリアを得ることができるので好ましい。
【0032】
<造粒工程>
上記混合攪拌して得られたスラリーの造粒は、噴霧乾燥機を用いて行う。尚、当該スラリーに対し、当該造粒前に、さらに湿式粉砕を施すことも好ましい。
噴霧乾燥時の雰囲気温度は100〜300℃程度とすればよい。これにより、概ね、粒子径が10〜200μmの造粒粉を得ることができる。得られた造粒粉は製品最終粒径を考慮し、振動ふるい等を用いて、粒子径が100μm以上の粗大粒子や、15μm以下の微粉を除去し、粒度調整することが望ましい。
【0033】
<焼成工程>
得られた造粒粉を、960〜1130℃程度に加熱した炉に投入し1〜24時間保持して焼成して、目的とする焼成物を生成させる。このとき、焼成炉内の酸素濃度は、好ましくは1%以下、より好ましくは0.3%以下となるよう導入ガスの酸素濃度を調整し、焼成を行う必要がある。
炉内の酸素濃度が1%以下であれば、造粒粉中の還元剤が有効に作用し、ヘマタイトからマグネタイトへの還元が進み、焼成物の磁力の低下を回避できる。
【0034】
焼成温度に関しては、先の還元剤の調整によりフェライト化に必要な還元雰囲気に到達できる。
尤も、工業化時に十分な生産性を確保できる反応速度を得る観点からは、960℃以上の温度が好ましい。一方、当該焼成温度が、1130℃以下であれば、粒子同士の過剰焼結が起こらず、粉体の形態で焼成物を得ることが出来る。当該観点から、焼成温度は960〜1130℃の範囲にあることが好ましい。当該温度で焼成することで、焼成後の粒子中の真比重が4.90〜5.05g/cm3となり十分な強度を持つため良好な形態とな
る。
得られた焼成物は、この段階で粒度調整をすることが望ましい。例えば、焼成物をハンマーミル等で粗解粒し、振動篩などで分級を行うことにより、所望の粒径を持ったキャリア芯材の粒子を得ることが出来る。
【0035】
4.電子写真現像剤用キャリアの製造方法
得られた本発明に係るキャリア芯材をシリコーン系樹脂やアクリル樹脂等で被覆し、帯電性の付与および耐久性の向上させることで電子写真現像剤用キャリアを得ることが出来る。当該シリコーン系樹脂やアクリル樹脂等の被覆方法は、公知の手法により行うことができる。
【0036】
得られた電子写真現像剤用キャリアを、公知のトナーと混合して電子写真現像剤を調製した。当該電子写真現像剤を現像機に設置して画像評価を行い、キャリア付着の状態を目視で観察した。
すると、前記微粉増加率が2.0%以下であれば、電子写真においてキャリア付着を生じず、良好な画質が得られた。
本発明に係るキャリアが電子写真現像機内での撹拌ストレスに対しても、画像へ影響するほどの微粉を発生しないことを示している。従って、当該キャリアとトナーとを含む電子写真現像剤を電子写真現像機に適用した際、微粉が殆ど発生し得ず、当該微粉に起因するキャリア飛散等の画質低下が起きない。
【0037】
5.電子写真現像剤
本発明に係る電子写真現像剤用キャリアは、適宜な公知のトナーとを混合することで、本発明に係る電子写真現像剤を得ることが出来る。
【0038】
当該電子写真現像剤を現像機に設置して画像評価を行い、キャリア付着の状態を目視で観察した。
本発明に係る電子写真現像剤によれば、初期、50K枚、100K枚、150K枚時の画像にキャリア付着が観察されないか、されてもキャリア付着が1〜10個観察されるレベルであり、キャリア飛散は十分に抑制されていた。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明に係る電子写真用現像剤キャリア芯材の製造方法について、実施例を参照しながら具体的に説明する。
本発明の実施例を示すにあたり、まず、各物性値の測定方法について記述する。
【0040】
<SiO含有量の分析>
キャリア芯材のSiO含有量は、JIS M8214−1995記載の二酸化珪素重量法に準拠して定量分析を行った。本発明に記載したキャリア芯材のSiO含有量は、当該二酸化珪素重量法で定量分析し得られたSiO量である。
【0041】
<ホウ素含有量の分析>
キャリア芯材のホウ素含有量は、JIS G1258−0−1995記載のホウ素定量方法−酸分解・炭酸ナトリウム融解法に準拠して定量分析を行った。本発明に記載したキャリア芯材のホウ素含有量は、当該ホウ素定量方法−酸分解・炭酸ナトリウム融解法で定量分析し、得られたホウ素量である。
【0042】
<粒度分布>
キャリア芯材の粒度分布は、マイクロトラック(日機装株式会社製、Model:9320−X100)を用いて測定した。得られた粒度分布より、体積率50%までの積算粒径(本発明においてD50と記載する場合がある。)を算出した。尚、本発明においては、当該D50の値を芯材の平均粒径として記述した。
【0043】
<磁気特性>
キャリア芯材の磁気特性は、VSM(東英工業株式会社製、VSM−P7)を用いて磁化の測定を行い、外部磁場1000Oeにおける磁化σ1000(emu/g)を得た。
【0044】
<真比重、体積空孔率>
キャリア芯材の体積空孔率は、当該キャリア芯材の理論比重の値と、真比重の値との差を、空孔として評価した。具体的には、体積空孔率を下記式から求めた。当該粉砕粉のキャリア芯材の真比重は、気体置換型ピクノメーター(クァンタクローム社製ウルトラピクノメータ1000)にて測定を行った。
体積空孔率は下記式1にて計算を行った。尚、体積空孔率をP、真比重をρ1、理論比重をρ2とした。
P(%)=(ρ2−ρ1)/ρ2×100・・・・・(式1)
ここでは、ρ2は、マグネタイトの理論比重(5.24g/ml)とした。
【0045】
<比表面積>
キャリア芯材の比表面積(BET)は、JISZ8830−2001に基づいて測定を行った。
【0046】
<キャリアの強度測定>
本発明に係るキャリア30gをサンプルミル(協立理工株式会社SK―M10型)に投入し、回転数14000rpmで90秒間破砕試験を行った。
そして、当該破砕前と破砕後との、22μm以下の破砕片における累積値の変化率を微粉増加率として、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装株式会社製マイクロトラック、Model 9320−X100)により測定した。
【0047】
<キャリア飛散の評価>
本発明に係る電子写真現像剤用キャリアと、公知のトナーとを、V型混合機などで混合し、電子写真現像剤試料製造する。
次に、当該電子写真現像剤試料を用いて画像評価試験を行った。そして、初期、50K枚、100K枚、150K枚時の画像にキャリア飛散が観察されなければ◎、キャリア飛散が1〜10個観察されれば○、キャリア飛散が10個以上観察されれば×と評価した。
【0048】
(実施例1)
Fe(平均粒径:0.6μm)10kgを純水2.5kg中に投入し、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウム分散剤を100g、還元剤としてカーボンブラックを100g、SiO原料としてコロイダルシリカ530g、ホウ素化合物としてオルトホウ酸(HBO)を0.5gを添加して混合物とした。当該混合物の固形分濃度を測定した結果78%であった。当該混合物を、湿式ボールミル(メディア径2mm)により粉砕処理し混合スラリーを得た。
【0049】
このスラリーを、スプレードライヤーにて約130℃の熱風中に噴霧し、粒径10〜100μmの乾燥造粒粉を得た。尚、粒径が100μmを超えるような造粒粉は、篩により除去した。得られた造粒粉を、電気炉に投入し1050℃で3時間焼成し焼成物とした。このとき電気炉内の酸素濃度が0.05%となるよう、調整した雰囲気を電気炉内にフローした。得られた焼成物を解粒し、さらに篩を用いて分級して平均粒径35μmとし、実施例1に係るキャリア芯材を得た。
【0050】
得られた実施例1に係るキャリア芯材の、SiO含有量は2.5wt%、ホウ素含有量は0.0010wt%であった。
当該キャリア芯材の物質的特性、磁気的特性および電気的特性を表1に示す。表1より、実施例1に係るキャリア芯材の微粉増加率は1.07%と小さく、キャリアの強度が高いことが判明した。
【0051】
(実施例2)
オルトホウ酸(HBO)を1g添加した以外は、実施例1と同様の処理を行い、実施例2に係るキャリア芯材を得た。
実施例2に係るキャリア芯材のSiO含有量は2.5wt%、ホウ素含有量は0.0020wt%であった。
当該キャリア芯材の物質的特性、磁気的特性および電気的特性を表1に示す。表1より、実施例2に係るキャリア芯材の微粉増加率は1.00%と小さく、キャリアの強度が高いことが判明した。
【0052】
(実施例3)
オルトホウ酸(HBO)の添加量を2gとした以外は、実施例2と同様の処理を行い、実施例3に係るキャリア芯材を得た。
実施例3に係るキャリア芯材のSiO含有量は2.5wt%、ホウ素含有量は0.0034wt%であった。
当該キャリア芯材の物質的特性、磁気的特性および電気的特性を表1に示す。表1より、実施例3に係るキャリア芯材の微粉増加率は0.77%と小さく、キャリアの強度が高いことが判明した。
【0053】
(実施例4)
オルトホウ酸(HBO)の添加量を3gとした以外は、実施例2と同様の処理を行い、実施例4に係るキャリア芯材を得た。
実施例4に係るキャリア芯材のSiO含有量は2.6wt%、ホウ素含有量は0.0043wt%であった。
当該キャリア芯材の物質的特性、磁気的特性および電気的特性を表1に示す。表1より、実施例4に係るキャリア芯材の微粉増加率は0.83%と小さく、キャリアの強度が高いことが判明した。
【0054】
(実施例5)
コロイダルシリカの添加量を265g、オルトホウ酸(HBO)の添加量を2gとした以外は、実施例2と同様の処理を行い、実施例5に係るキャリア芯材を得た。
実施例5に係るキャリア芯材のSiO含有量は1.3wt%、ホウ素含有量は0.0037wt%であった。
当該キャリア芯材の物質的特性、磁気的特性および電気的特性を表1に示す。表1より、実施例5に係るキャリア芯材の微粉増加率は0.87%と小さく、キャリアの強度が高いことが判明した。
【0055】
(実施例6)
コロイダルシリカの添加量を795g、オルトホウ酸(HBO)の添加量を2gとした以外は、実施例2と同様の処理を行い、実施例6に係るキャリア芯材を得た。
実施例6に係るキャリア芯材のSiO含有量は3.8wt%、B含有量は0.0034wt%であった。
当該キャリア芯材の物質的特性、磁気的特性および電気的特性を表1に示す。表1より、実施例6に係るキャリア芯材の微粉増加率は0.96%と小さく、キャリアの強度が高いことが判明した。
【0056】
(比較例1)
コロイダルシリカの添加量を530g、オルトホウ酸(HBO)を添加しなかった以外は、実施例1と同様の処理を行い、比較例1に係るキャリア芯材を得た。
このときのSiO含有量は0.03wt%であった。
当該キャリア芯材の物質的特性、磁気的特性および電気的特性を表1に示す。表1より
、比較例1に係るキャリア芯材の微粉増加率は3.10%と大きく、キャリアの強度が低いことが判明した。
【0057】
(比較例2)
コロイダルシリカの添加量を530g、オルトホウ酸(HBO)の添加量を5gとした以外は、実施例2と同様の処理を行い、比較例2に係るキャリア芯材を得た。
比較例2に係るキャリア芯材のSiO含有量は2.5wt%、ホウ素含有量は0.070wt%であった。
当該キャリア芯材の物質的特性、磁気的特性および電気的特性を表1に示す。表1より、比較例2に係るキャリア芯材の微粉増加率は2.68%と大きく、キャリアの強度が低いことが判明した。
【0058】
(比較例3)
コロイダルシリカの添加量を1060g、オルトホウ酸(HBO)の添加量を2gとした以外は、実施例2と同様の処理を行い、比較例3に係るキャリア芯材を得た。
比較例3に係るキャリア芯材のSiO含有量は5.2wt%、ホウ素含有量は0.0034wt%であった。
当該キャリア芯材の物質的特性、磁気的特性および電気的特性を表1に示す。表1より、比較例3に係るキャリア芯材の微粉増加率は3.62%と大きく、キャリアの強度が低いことが判明した。
【0059】
(比較例4)
オルトホウ酸(HBO)の添加量を2g、コロイダルシリカの添加量を添加しなかった以外は、実施例2と同様の処理を行い、比較例4に係るキャリア芯材を得た。
比較例4に係るキャリア芯材のホウ素含有量は、0.004wt%であった。
当該キャリア芯材の物質的特性、磁気的特性および電気的特性を表1に示す。表1より、比較例3に係るキャリア芯材の微粉増加率は7.78%と大きく、キャリアの強度が低いことが判明した。
【0060】
(実施例1〜5および比較例1〜4のまとめ)
表1のデータから、縦軸に微粉増加率、横軸に真比重をとったグラフである図1と、縦軸に微粉増加率、横軸に比表面積をとったグラフである図2、さらに、縦軸に微粉増加率、横軸にSiO含有量をとったグラフである図3、縦軸に微粉増加率、横軸にホウ素含有量をとったグラフである図4を作成した。そして、図1〜4に、実施例1〜5および比較例1〜4に係るキャリア芯材のデータをプロットした。
【0061】
図1より、実施例に係るキャリア芯材の真比重が4.90〜5.05g/cmであり、比表面積が、0.05〜0.2m/gであるとき、微粉増加率が著しく低下しており、キャリア芯材として高強度であることが判明した。
また、図3、4より、キャリア芯材が、SiOを1.3〜4Wt%含有しており、かつホウ素を0.0001〜0.005wt%含有しているとき、微粉増加率が著しく低下しており、キャリア芯材として高強度であることが判明した。
以上より、本発明から、キャリア芯材においてSiOを1.3〜4wt%含有し、かつホウ素を0.0001〜0.005wt%含有して、真比重及び比表面積を制御することが、高強度を有するキャリア芯材を得るために重要であることが判明した。
【0062】
次に、得られた実施例1〜5および比較例1〜4に係るキャリア芯材へ、それぞれ樹脂コーティングを行って、実施例1〜5および比較例1〜4に係る磁性キャリアとした。該磁性キャリアを、画像評価試験に装填し、画像評価試験を行った。
【0063】
具体的には、シリコーン系樹脂(商品名:KR251、信越化学製)をトルエンに溶解させてコーティング樹脂溶液を準備した。そして、前記実施例1〜5および比較例1〜5に係るキャリア芯材と、該樹脂溶液とを、それぞれ重量比でキャリア芯材:樹脂溶液=9:1の割合にて撹拌機に装填し、キャリア芯材を樹脂溶液に浸漬しながら150℃〜250℃にて3時間加熱撹拌した。
【0064】
該撹拌により、該シリコーン系樹脂が、それぞれのキャリア芯材重量に対し1.0wt%の割合でコーティングされた。この樹脂被覆されたキャリア芯材を熱風循環式加熱装置に設置し、250℃で5時間加熱を行い、該被覆樹脂層を硬化させて、実施例1〜5および比較例1〜5に係る磁性キャリアを得た。
【0065】
得られた実施例1〜5および比較例1〜4に係る磁性キャリアを用いて、画像評価試験結を行った結果、次のことが判明した。
まず、初期画像特性においては、実施例1〜5、比較例1〜3では「非常に良好」、比較例4は「良好」なレベルであった。次に、50K枚において、実施例1〜6、比較例2は、「非常に良好」なレベルを維持したが、比較例1、3は「良好」なレベルを維持し、比較例4では、使用不可レベルとなった。100K枚においては、実施例1〜5は、「非常に良好」、実施例5、比較例2、3は「良好」なレベルであった。これに対し、比較例1、4では、使用不可レベルとなり、交換時期を超過していることが判明した。さらに、150K枚においては、実施例1、3は、「非常に良好」、実施例2、4、5は「良好」なレベルであった。これに対し、比較例1〜4では、使用不可レベルとなり、交換時期を超過していることが判明した。
【0066】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明に係るキャリア芯材における真比重と微粉増加率との関係である。
【図2】本発明に係るキャリア芯材における比表面積と微粉増加率との関係である。
【図3】本発明に係るキャリア芯材におけるSiO含有量と微粉増加率との関係である。
【図4】本発明に係るキャリア芯材におけるホウ素含有量と微粉増加率との関係である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真比重が、4.90〜5.05g/cmであり、
比表面積が、0.05〜0.2m/gであり、
SiOを1.3〜4wt%、且つ、ホウ素を0.0001〜0.005wt%含有しているマグネタイト粒子を含むことを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項2】
前記マグネタイト粒子の平均粒径(D50)が、25〜40μmであることを特徴とする請求項1に記載の電子写真現像剤用キャリア芯材。
【請求項3】
Fe原料と、SiO原料と、ホウ素化合物と、カーボンとを混合して、固形分濃度75wt%以上のスラリーを得る工程と、
前記スラリーを噴霧乾燥させて造粒物を得る工程と、
前記造粒物を960℃以上、1130℃以下の温度にて焼成し、磁性相を有する焼成物を得る工程と、
得られた焼成物に解粒処理を行って粉末化し、その後に所定の粒度分布を持たせる工程とを、有することを特徴とする電子写真現像剤用キャリア芯材の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2のいずれかに記載の電子写真現像剤用キャリア芯材の表面が、樹脂で被覆されていることを特徴とする電子写真現像剤用キャリア。
【請求項5】
請求項4に記載の電子写真現像剤用キャリアと、トナーとを含むことを特徴とする電子写真現像剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−85761(P2010−85761A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−255459(P2008−255459)
【出願日】平成20年9月30日(2008.9.30)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【出願人】(000224802)DOWA IPクリエイション株式会社 (96)
【Fターム(参考)】