説明

電子制御装置

【課題】マルチプレクサの切り替えによってフィルタ回路の収束時間が変化したとしても正確な出力信号を取得することができる電子制御装置を提供する。
【解決手段】電子制御装置は、複数の信号を選択的に出力信号として出力するマルチプレクサ27を備えている。また、マルチプレクサ27の後段に接続され、マルチプレクサ27が前回出力した出力信号が示す電圧値とマルチプレクサ27が今回出力した出力信号が示す電圧値との電圧差に応じた収束時間で今回の出力信号を出力するフィルタ回路28を備えている。さらに、マルチプレクサ27の切り替え制御を行ってフィルタ回路28から出力信号を取得するマイコン24を備えている。そして、マイコン24は、マルチプレクサ27の切り替えにおけるフィルタ回路28の収束時間に合わせて、マルチプレクサ27の接続先毎に異なる切り替え時間を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチプレクサの後段にフィルタ回路を備えた電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数のセンサに単一のA/D変換器を共有させる多重化信号調整器が、例えば特許文献1で提案されている。具体的に、特許文献1では、複数のセンサからそれぞれ信号が入力されるマルチプレクサと、マルチプレクサの後段に接続されると共にマルチプレクサを通過した信号を所定の帯域で通過させるアンチエイリアシングフィルタと、を備えた構成が提案されている。一般的に、フィルタは、抵抗とコンデンサで構成されたRCフィルタ回路として構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−90822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の技術では複数のセンサに対してマルチプレクサを共通で使用する構成になっているので、マルチプレクサにおける前回の接続先の出力信号が示す電圧値と今回の接続先の出力信号が示す電圧値との差が何らかの理由で大きいときには、今回の信号を通過させる際のフィルタの応答時間が増加してしまうという問題がある。これについて図9を参照して説明する。
【0005】
図9は、マルチプレクサにおける前回の接続先の出力信号が示す電圧値と今回の接続先の出力信号が示す電圧値との時間に対する変化を示している。図9では、前回の信号の波形を破線で示し、今回の信号の波形を実線で示している。
【0006】
例えば、マルチプレクサで選択された前回の接続先の出力信号が示す電圧値が0Vであり、今回の接続先の出力信号が示す電圧値が数Vである。このように電圧差が大きい場合、図9に示されるように、マルチプレクサの切り替えタイミングまでは前回のフィルタ回路の出力が0Vであったものが、今回は数Vまで上昇する。このため、フィルタ回路の影響によって今回の出力信号の収束時間が増加してしまうので、収束時間が経過するまでは正確な信号の電圧値が得られない。
【0007】
本発明は上記点に鑑み、マルチプレクサの切り替えによってフィルタ回路の収束時間が変化したとしても正確な出力信号を取得することができる電子制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、電子制御装置は、複数入力された信号を選択的に出力信号として出力するマルチプレクサ(27)を有する。また、マルチプレクサ(27)の後段に接続されると共に、マルチプレクサ(27)が前回出力した出力信号が示す電圧値とマルチプレクサ(27)が今回出力した出力信号が示す電圧値との電圧差に応じた収束時間で今回の出力信号を出力するフィルタ回路(28)を有する。さらに、マルチプレクサ(27)の切り替えを行うと共に、フィルタ回路(28)から出力信号を取得する制御手段(24)と、を有する。
【0009】
そして、制御手段(24)は、マルチプレクサ(27)の接続先の切り替え時におけるフィルタ回路(28)の収束時間に合わせて、マルチプレクサ(27)の接続先毎に切り替え時間を設定することを特徴とする。
【0010】
これによると、制御手段(24)は、フィルタ回路(28)の収束時間に合わせて個別にマルチプレクサ(27)の切り替え時間を設定しているので、マルチプレクサ(27)の切り替えに応じてフィルタ回路(28)の収束時間が変化したとしても正確な出力信号を取得することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明のように、制御手段(24)は、フィルタ回路(28)を介して取得した出力信号が示す電圧値を記憶し、記憶した電圧値に基づいて切り替え時間を設定することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明では、制御手段(24)は、フィルタ回路(28)を介して取得した出力信号が示す電圧値を記憶し、記憶した電圧値に基づいてマルチプレクサ(27)の接続先の切り替え順を設定し、設定した切り替え順に従ってマルチプレクサ(27)を切り替えることを特徴とする。
【0013】
このように、マルチプレクサ(27)による切り替え順が変更されるので、次の接続先の切り替え時間がそれぞれ短くなるようにすることができる。これに伴い、トータルの切り替え時間および信号取得時間を短くすることができる。
【0014】
請求項4に記載の発明のように、マルチプレクサ(27)に複数入力される信号の一部は、複数の電池によって構成される組電池における複数の温度状態を示す信号であり、制御手段(24)は、マルチプレクサ(27)およびフィルタ回路(28)を介して出力信号を取得することにより、複数の温度状態を検知することができる。
【0015】
請求項5に記載の発明では、制御手段(24)は、予め設定した切り替え時間に従って取得した今回の出力信号が示す電圧値と閾値との比較により当該出力信号が異常であると判定した場合、次回の出力信号を取得するための切り替え時間を変更することを特徴とする。これにより、今回の出力信号の値が充分安定したタイミングで今回の出力信号を取得することができる。
【0016】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る電池監視ユニットを含んだ電池監視システムの全体構成図である。
【図2】図1に示される電池監視ユニットの構成を示した図である。
【図3】マルチプレクサの周辺の回路図である。
【図4】マルチプレクサの切り替え時間を設定する内容を示したフローチャートである。
【図5】AD1〜AD5の各切り替え時間を示したタイミングチャートである。
【図6】前回の接続先から今回に切り替えたときの信号の収束時間を説明するための図である。
【図7】信号の異常検出の内容を示したフローチャートである。
【図8】他の実施形態を説明するための図である。
【図9】課題を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。本発明に係る電子制御装置は、例えば車両に搭載される電池監視システムの一部である電池監視ユニットとして適用されるものである。以下、電子制御装置を電池監視ユニットとして説明する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態に係る電池監視ユニットを含んだ電池監視システムの全体構成図である。この図に示されるように、電池監視システムは、電池ユニット10と、電池監視ユニット20と、ECU30と、を備えて構成されている。
【0020】
電池ユニット10は、最小単位である電池セル11が直列に複数接続されて構成された電池群である。電池セル11として充電可能なリチウムイオン二次電池が用いられる。組電池セル11はハイブリッド車等の電気自動車に搭載されて駆動源となると共に、モータジェネレータ等の負荷を駆動するための電源や電子機器の電源等に用いられる。
【0021】
また、電池ユニット10には、電池セル11の温度を検出するための複数の温度センサ12が備えられている。温度センサ12は例えばサーミスタであり4箇所(4ch)設けられている。サーミスタは例えば0〜無限大Ωに設定されている。
【0022】
電池監視ユニット20は、電池ユニット10の各電池セル11を監視するように構成されたシステムである。このため、電池監視ユニット20は、個別電池電圧検出部21、電池温度検出部22、電流検出部23、マイクロコンピュータ24(以下、マイコン24という)、および電流センサ25を備えている。
【0023】
個別電池電圧検出部21は、複数の電池セル11のセル電圧をそれぞれ検出する回路部である。電池温度検出部22は、上記の温度センサ12から電池セル11の温度を検出する回路部である。電流検出部23は電流センサ25により電池セル11に流れる電流を検出して電流信号を出力する回路部である。マイコン24は、個別電池電圧検出部21、電池温度検出部22、および電流検出部23に対する指令を行う制御回路であり、入力される信号の異常判定を行う機能も備えている。電流センサ25は、電池セル11に流れる電流を検出するセンサである。
【0024】
ECU30は、電池監視ユニット20の上位ECUとして機能するものであり、マイコン24から電池監視の結果等を受ける。その他、ECU30は電池セル11を冷却するための図示しない冷却ファンを制御するための指令も行う。
【0025】
次に、電池監視ユニット20の構成について、図2を参照して説明する。図2に示されるように、電池監視ユニット20は、上記の個別電池電圧検出部21およびマイコン24に他、電源部26a、通信部26b、フィルタ26c、リレー駆動部26d、およびマルチプレクサ27を備えている。
【0026】
電源部26aは電池監視ユニット20を動作させるための電圧を生成してマイコン24等に供給する電源回路である。通信部26bは、上位のECU30と通信するための通信回路である。
【0027】
フィルタ26cは、個別電池電圧検出部21とマイコン24との間に設けられたノイズ除去回路である。フィルタ26cは例えば抵抗とコンデンサで構成されたローパスフィルタである。リレー駆動部26dは、個別電池電圧検出部21においてセル電圧を検出したい電池セル11に接続を切り替える切替回路である。
【0028】
マルチプレクサ27は、複数入力された信号を選択的に出力信号として出力する選択回路である。マルチプレクサ27は、複数の温度センサ12のそれぞれの出力信号と、電流センサ25の電圧を監視する監視信号と、のいずれかを選択的にマイコン24に出力する。
【0029】
マイコン24は、図示しないCPU、ROM、EEPROM、RAM等を備え、ROM等に記憶されたプログラムに従って各電池セル11の状態を監視する制御回路である。このため、マイコン24は、電流センサ25からの電流情報の入力や、各電池セル11のセル電圧を取得するための個別電池電圧検出部21およびリレー駆動部26dへの指令や、ECU30から受けた電池冷却ファンの指令に従って図示しない冷却ファンの制御を行う。また、マイコン24は、マルチプレクサ27に切替信号を出力して接続先の切り替えを行う。
【0030】
図2では、マルチプレクサ27とマイコン24との間を模式的に示しているが、実際にはフィルタ回路が設けられている。図3にマルチプレクサ27の周辺の回路図を示す。
【0031】
図3に示されるように、マルチプレクサ27には、電流センサ25からの監視信号(AD1)と、各温度センサ12からの4つの温度状態を示す出力信号(AD2〜AD5)と、の5つの信号がそれぞれ入力される。マルチプレクサ27は、出力がAD1→AD2→AD3→AD4→AD5となるようにマイコン24によって切り替えられる。
【0032】
ここで、4つの温度センサ12の出力信号(AD2〜AD5)は、5Vを抵抗26eで分圧した電圧値としてそれぞれマルチプレクサ27に入力される。つまり、この抵抗分圧によって各温度センサ12の出力信号がデジタル信号に変換される。なお、マルチプレクサ27と各温度センサ12とを結ぶ配線には静電気対策用のコンデンサ26fがそれぞれ接続されている。
【0033】
また、マルチプレクサ27の後段にはフィルタ回路28(図3のRCフィルタ回路)が設けられている。フィルタ回路28は、マルチプレクサ27の出力端子とマイコン24の入力端子とを接続する抵抗28aと、抵抗28aとマイコン24との接続点とグランドとを結ぶコンデンサ28bと、によってローパスフィルタとして構成されている。フィルタ回路28の出力を「AD」とする。
【0034】
フィルタ回路28は、上記のように抵抗26eとコンデンサ26fとで構成されているので、これらの抵抗値と容量値に応じた収束時間(つまり時定数)で信号を出力する。すなわち、フィルタ回路28は、マルチプレクサ27が前回出力した出力信号が示す電圧値とマルチプレクサ27が今回出力した出力信号が示す電圧値との電圧差に応じた収束時間で今回の出力信号を出力する。後で説明するが、前回と今回との電圧差が大きい場合には収束時間は長くなり、前回と今回との電圧差が小さい場合には収束時間は短くなる。
【0035】
したがって、マイコン24は、マルチプレクサ27の切り替えにおけるフィルタ回路28の収束時間に合わせて、マルチプレクサ27の接続先毎に切り替え時間を設定し、各信号が示す電圧値が安定したタイミングで各信号をそれぞれ取得する。これにより、マイコン24はフィルタ回路28を介して入力される信号が示す正確な情報(電圧値)を取得することができる。ここで、「切り替え時間」とはマルチプレクサ27の接続先のスイッチをONしている時間のことである。また、接続先によっては切り替え時間が接続先毎に異なることもある。
【0036】
マイコン24はフィルタ回路28の収束時間に合わせてマルチプレクサ27の切り替え時間を設定するために、フィルタ回路28を介して取得した出力信号や監視信号が示す電圧値を記憶し、記憶した電圧値に基づいて切り替え時間を設定する。すなわち、前回と今回の電圧差が大きい場合には切り替え時間を長く設定し、前回と今回の電圧差が小さい場合には切り替え時間を短く設定する。
【0037】
また、マイコン24は前のルーチンで設定した切り替え時間に基づいて信号を取得することから、取得した信号は正確な値であると考えられる。したがって、マイコン24は、この正確な値であると考えられる出力信号や監視信号が示す電圧値と閾値とを比較することにより異常を判定する。そして、マイコン24は、異常であると判定した場合、予め設定した切り替え時間を変更する。具体的には、温度センサ12等の故障であると考えられ、信号が充分収束した値となるところでマイコン24が信号を取得できるように切り替え時間を長く設定する。
【0038】
次に、マイコン24におけるマルチプレクサ27の切り替え時間の設定について、図4のフローチャートを参照して説明する。このフローチャートは電池監視ユニット20に電源が供給されてマイコン24の動作が開始するとスタートする。
【0039】
また、図4に示されるフローチャートとは別のシーケンスによってマルチプレクサ27の切り替えと出力信号および監視信号の取得がマイコン24で随時行われ、各信号が示す電圧値が随時記憶されていく。本実施形態では、マルチプレクサ27においてAD1→AD2→AD3→AD4→AD5→AD1→・・・の順に接続先を切り替えるとする。
【0040】
なお、以下における「前回」や「今回」とはマルチプレクサ27の接続順番の先か後かを示している。例えば「前回」とはAD1とフィルタ回路28とを接続することを意味し、「今回」とはAD2とフィルタ回路28とを接続することを意味している。
【0041】
まず、ステップ100では、初期設定が行われる。すなわち、図3に示されるマルチプレクサ27の接続先は5箇所であるが、接続先におけるマルチプレクサ27の切り替え時間は初期段階ではすべて同じ時間に設定されている。例えば、切り替え時間(tAD1〜5)の初期値はそれぞれ最も短い10msに設定され、各接続先が切り替えられたときのON時間がそれぞれ10msに設定される。
【0042】
続いて、ステップ110では、マルチプレクサ27が前回出力した信号が示す電圧値(AD(n−1))とマルチプレクサ27が今回出力した信号が示す電圧値(AD(n))との電圧差の絶対値が例えば2V以上であるか否かが判定される。つまり、マルチプレクサ27において接続先が切り替えられたときの信号の電圧差が2V以上であるかが判定される。
【0043】
ステップ110で上記の条件を満たす場合、ステップ120に進み、今回の切り替え時の切り替え時間を12msに設定する。これにより、マルチプレクサ27において前回の接続先から今回の接続先に切り替わったときのマルチプレクサ27のON時間が2ms長く設定される。一方、ステップ110で条件を満たさない場合、切り替え時間は変化せずにステップ130に進む。
【0044】
次に、ステップ130では、マルチプレクサ27が前回出力した信号が示す電圧値(AD(n−1))とマルチプレクサ27が今回出力した信号が示す電圧値(AD(n))との電圧差の絶対値が例えば4V以上であるか否かが判定される。
【0045】
ステップ130で上記の条件を満たす場合はステップ140に進み、切り替え時間を16msに設定する。これにより、切り替え時間が6ms長くなる。一方、ステップ130で条件を満たさない場合、切り替え時間は変化せずにステップ150に進む。
【0046】
ステップ150では、マルチプレクサ27が前回出力した信号が示す電圧値(AD(n−1))とマルチプレクサ27が今回出力した信号が示す電圧値(AD(n))との電圧差の絶対値が例えば2V未満であるか否かが判定される。つまり、本ステップでは電位差が小さいか否かが判定される。
【0047】
ステップ150で上記の条件を満たす場合はステップ160に進み、今回の切り替え時間を初期値である10msに設定する。すなわち、前回と今回の電圧差が小さいので、切り替え時間を長くする必要がないので、切り替え時間が最も短い初期値に設定される。そして、ステップ170にて切り替え時間のデータ取得が実施され、ステップ110に戻る。
【0048】
一方、ステップ150で条件を満たさない場合は、ステップ170に進み、切り替え時間のデータ取得が実施され、ステップ110に戻る。
【0049】
電圧差が大きい場合にはステップ120やステップ140で所定の時間が加算された切り替え時間が設定され、電圧差が小さい場合にはステップ110、ステップ130、およびステップ150を経てステップ160において最も短い切り替え時間に設定される。
【0050】
上記のようにマルチプレクサ27の接続先毎の切り替え時間が変更されると、変更された切り替え時間は次回のマルチプレクサ27の切り替え時に反映される。このように、ステップ150の後(NOの場合)もしくはステップ160の後から変更された切り替え時間が適用される。
【0051】
切り替え時間の変更後に再びステップ110に戻ると、今回の信号が前回の信号となり、新たな「今回の信号」との電圧差について、各ステップ110、130、150でそれぞれ条件を満たすかが判定され、条件に従って切り替え時間が加算される。そして、図4に示されるフローチャートが繰り返し実行されることで、接続先毎に最適な切り替え時間が設定される。なお、ステップ170は、ステップ110から再びこのステップ110に戻ってくるまでのループ180の中であれば、ステップ110、ステップ130、およびステップ150のいずれかの前に組み込まれていれば良い。
【0052】
図5は、AD1〜AD5の各切り替え時間を示したタイミングチャートである。AD1は電流監視の監視信号であり、この信号が示す電圧値は例えば1V程度である。また、AD2〜AD5は温度センサ12の出力信号であり、この信号が示す電圧値は例えば2〜3V程度である。このように、AD1とAD2〜AD5とには電圧差がある。一方、電池セル11の電池温度には大きな差がないため、AD2〜AD5には電圧差がほとんどない。
【0053】
マルチプレクサ27に入力される信号の大きさが上記のような場合、図4に示されるフローチャートが実行されると、AD1とAD2との電圧差が大きいので、今回の信号に対応するAD2の信号の収束時間が図9に示されるように長くなる。このため、図5のようにマルチプレクサ27におけるAD2の切り替え時間が長く設定される。
【0054】
これに対し、AD2とAD3との電圧変動つまり電圧差は小さいので、図6に示されるように、フィルタ回路28の収束時間が短くなる。このため、図5に示されるように、マルチプレクサ27におけるAD3の切り替え時間が短く設定される。AD3とAD4、AD4とAD5も同様である。
【0055】
なお、図5における「ON」や「OFF」はマルチプレクサ27のスイッチの切り替えを示し、「↓」はマイコン24における信号の取得タイミングを示している。また、「AD出力」はマルチプレクサ27の接続先から出力される信号を指し、「AD入力」はマイコン24がフィルタ回路28から入力する信号を指している。
【0056】
マルチプレクサ27によってAD1からAD5まで順に切り替えられると、再びAD1に切り替えられる。この場合、AD5とAD1の電圧差は大きいので、図9に示されるようにフィルタ回路28の収束時間も長くなる。したがって、AD1とAD2の切り替えと同様にAD1の切り替え時間が長く設定される。
【0057】
上記のように設定された切り替え時間によってマルチプレクサ27が切り替えられることで、マイコン24はフィルタ回路28を介して電流監視の監視信号を取得すると共に温度センサ12の各出力信号を取得して複数の温度状態を検知する。
【0058】
次に、信号の異常検出の処理について、図7のフローチャートを参照して説明する。図7のフローチャートは、マイコン24がセル電圧の検出や上記の切り替え時間の設定の処理とは別に実行する内容である。
【0059】
まず、ステップ200では、初期設定が行われる。例えば、tAD1,2=15ms、tAD3,4,5=10msに設定される。この初期設定はもちろん一例である。
【0060】
続いて、ステップ210では、取得した信号が示す電圧値(AD(n))が0.5V未満であるか、もしくは、取得した信号が示す電圧値(AD(n))が4.5Vを超える電圧であるかが判定される。すなわち、信号が示す電圧値が0Vや5Vに張り付いた状態(つまり、温度センサ12であるサーミスタが故障した状態)であるかが判定される。
【0061】
ステップ210において上記の条件を満たさない場合は、ステップ230に進み、切り替え時間のデータ取得が実施され、ステップ210に戻る。
【0062】
ステップ210において上記の条件を満たすと判定されると、ステップ220に進み、次の信号の切り替え時間が20msに設定される。例えば、今回がAD3の信号であってこの信号が示す電圧値が0Vであり、次の接続先であるAD4の信号が示す電圧が数Vであるとすると、今回と次回の電圧差が大きくなる。このため、マルチプレクサ27においてAD3からAD4の信号が出力されるようにスイッチが切り替えられると、図9に示されるように収束時間が長くなる。したがって、AD4の信号が示す電圧値が収束するであろう時間まで切り替え時間を長くすることにより、AD4の信号を正確に取得することができる。そして、ステップ220の後、ステップ230にて切り替え時間のデータ取得が実施され、ステップ210に戻る。
【0063】
以上のような異常検出は、マイコン24がステップ230にて各信号の今回値を取得する度に行う。そして、ステップ230は、ステップ210から再びこのステップ210に戻ってくるまでのループ240の中であれば、ステップ210の前に組み込むことでも実現できる。これにより、前の信号が異常を示していたとしても、次の信号が検出できないという事態を回避することができる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態では、マイコン24は、マルチプレクサ27において前回の接続先の信号が示す電圧値と今回の接続先の信号が示す電圧値との電圧差に応じたフィルタ回路28の収束時間に合わせて切り替え時間すなわち今回の接続先とフィルタ回路28との接続を継続する時間を設定し、設定した切り替え時間でマルチプレクサ27を制御して今回の接続先の接続を行うことを特徴としている。
【0065】
このように、マイコン24は、フィルタ回路28の収束時間に合わせてマルチプレクサ27の接続先毎に切り替え時間を個別に設定しているので、マルチプレクサ27の切り替えに応じてフィルタ回路28の収束時間が変化したとしても正確な値の信号をそれぞれ取得することができる。
【0066】
特に、AD3〜AD5では、各温度センサ12から出力される信号が示す電圧値にほとんど差がないので、AD3〜AD5の信号がフィルタ回路28を通過する際の収束時間が短い。このように、電圧差が小さい信号を順に取得するようにマルチプレクサ27のシーケンスを設定しているので、マルチプレクサ27が接続先を順に切り替えるトータルの切り替え時間を短くすることができる。
【0067】
また、マイコン24は取得した信号が故障を示す信号であると判定すると、その信号の次の接続先の切り替え時間を長くすることを特徴としている。これは、異常信号と今回の信号との電圧差が大きいと考えられるからである。これにより、次の接続先の信号がフィルタ回路28に入力されたときの収束時間を充分に確保することができる。すなわち、次の接続先の信号が安定する前に信号が検出されてしまうことを回避でき、正確な値の信号を取得することができる。
【0068】
なお、本実施形態の記載と特許請求の範囲の記載との対応関係については、電流センサ25から出力された監視信号および各温度センサ12から出力された各出力信号が特許請求の範囲の「複数入力された信号」に対応し、電流監視の監視信号および温度センサ12の各出力信号が特許請求の範囲の「出力信号」に対応する。また、マイコン24が特許請求の範囲の「制御手段」に対応する。
【0069】
(他の実施形態)
上記各実施形態で示された電池監視ユニット20の構成は一例であり、上記で示した構成に限定されることなく、本発明を実現できる他の構成とすることもできる。例えば、上記の実施形態では、AD1=1V、AD2〜AD5=数Vであったが、さらに電源監視電圧AD5=3Vや電源監視電圧AD6=4Vをマルチプレクサ27に接続して選択させても良い。
【0070】
上記の実施形態では、電子制御装置である電池監視ユニット20は各電池セル11を監視するものとして構成されていたが、これは一例であり、電子制御装置は電池セル11を監視するものとして構成されていなくても良い。
【0071】
具体的には、本発明は複数の信号をマルチプレクサ27で選択的に出力してフィルタ回路28を介してマイコン24に入力する構成に適用することができる。「複数の信号」の一部には、空気の流れを検出する複数のエアフロセンサの信号を取り扱うこともできる。このように、マルチプレクサ27には電圧差が小さい複数の信号が入力される他に、これらの信号が示す電圧との差が大きい信号が入力され、電圧差が大きい信号の切り替え時には後の信号のマルチプレクサ27における切り替え時間を変動(長く)させれば良い。
【0072】
また、上述の電圧の大きさが大小さまざまな信号がマルチプレクサ27に入力される場合、電圧差が小さくなるようにマルチプレクサ27の接続順番をマイコン24が制御するようにしても良い。これについて、図8を参照して説明する。
【0073】
例えば、図8(a)に示されるように、AD1=1V、AD2=4V、AD3=1V、AD4=3V、AD5=3Vとすると、AD1からAD2への切り替えやAD2からAD3への切り替えは電圧差が3Vと大きいので、AD2やAD3を選択したときの切り替え時間が長くなり、トータルの信号取得時間が長くなる。
【0074】
そこで、マイコン24は一通りの信号を取得した後、マルチプレクサ27の切り替え順を図8(b)に示されるようにAD1(1V)→AD3(1V)→AD4(3V)→AD5(3V)→AD2(4V)とする。これにより、AD1からAD3への切り替えは電圧差が0Vであるので、AD3の切り替え時間を最も短くできる。また、AD3からAD4への切り替えは2Vの電圧差があるのでAD4の切り替え時間は少し長くなるが、AD4からAD5への切り替えは電圧差が0Vであるので切り替え時間を最も短くできる。AD5からAD2への切り替えも電圧差が1Vであるので切り替え時間が少し長くなるだけで済む。
【0075】
このように、AD(1V)→AD2(4V)という切り替え順序を維持せずに、各信号が示す電圧が例えば小さい順に接続先を変更することでトータルの切り替え時間および信号取得時間を短くすることができる。なお、マルチプレクサ27の切り替えにおいて前回と今回の信号の電圧差が小さくなっていれば良いので、信号が示す電圧を大きい順に変更しても良い。このように、マイコン24は、記憶した電圧値に基づいてマルチプレクサ27の接続先の順序を変更することができ、変更した切り替え順で接続先を切り替えることができる。
【0076】
上記では、切り替え前後の各接続先の電圧の電圧差が小さい順番になるように接続先の順序を変更しているが、これは接続先の順序を変更する一例を示したものである。すなわち、接続先の順序を変更するだけでも精度向上効果があり、トータルの切り替え時間を短くすることができる。
【符号の説明】
【0077】
12 温度センサ
20 電池監視ユニット
24 マイコン(制御手段)
25 電流センサ
27 マルチプレクサ
28 フィルタ回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数入力された信号を選択的に出力信号として出力するマルチプレクサ(27)と、
前記マルチプレクサ(27)の後段に接続されると共に、前記マルチプレクサ(27)が前回出力した出力信号が示す電圧値と前記マルチプレクサ(27)が今回出力した出力信号が示す電圧値との電圧差に応じた収束時間で前記今回の出力信号を出力するフィルタ回路(28)と、
前記マルチプレクサ(27)の切り替えを行うと共に、前記フィルタ回路(28)から前記出力信号を取得する制御手段(24)と、を有する電子制御装置であって、
前記制御手段(24)は、前記マルチプレクサ(27)の接続先の切り替え時における前記フィルタ回路(28)の収束時間に合わせて、前記マルチプレクサ(27)の接続先毎に切り替え時間を設定することを特徴とする電子制御装置。
【請求項2】
前記制御手段(24)は、前記フィルタ回路(28)を介して取得した出力信号が示す電圧値を記憶し、記憶した電圧値に基づいて前記切り替え時間を設定することを特徴とする請求項1に記載の電子制御装置。
【請求項3】
前記制御手段(24)は、前記フィルタ回路(28)を介して取得した出力信号が示す電圧値を記憶し、記憶した電圧値に基づいて前記マルチプレクサ(27)の接続先の切り替え順を設定し、設定した切り替え順に従って前記マルチプレクサ(27)を切り替えることを特徴とする請求項1または2に記載の電子制御装置。
【請求項4】
前記マルチプレクサ(27)に複数入力される信号の一部は、複数の電池によって構成される組電池における複数の温度状態を示す信号であり、
前記制御手段(24)は、前記マルチプレクサ(27)および前記フィルタ回路(28)を介して前記出力信号を取得することにより、前記複数の温度状態を検知することを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1つに記載の電子制御装置。
【請求項5】
前記制御手段(24)は、予め設定した切り替え時間に従って取得した今回の出力信号が示す電圧値と閾値との比較により当該出力信号が異常であると判定した場合、次回の出力信号を取得するための切り替え時間を変更することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1つに記載の電子制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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