説明

電子放出源用ペースト

【課題】ゲート電極上やエミッタホール周辺、さらにはエミッタホール内などにカーボンナノチューブを含む残渣が少ない電子放出源用ペーストおよびそれを用いた電子放出素子を提供する。
【解決手段】カーボンナノチューブと無機粉末、感光性有機成分を含む電子放出源用ペーストであって、感光性有機成分が少なくとも紫外線吸収剤および/または重合禁止剤を含む電子放出源用ペースト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出源用ペーストおよびそれを用いた電子放出素子に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは物理的・化学的耐久性に優れているだけでなく、電界放出に適した先鋭な先端形状と大きなアスペクト比を持っている。そのため、カーボンナノチューブを電子放出源とした電界放出型ディスプレイ(FED)、電界放出を用いた液晶用バックライトや照明等の研究が盛んに行われている。
【0003】
このカーボンナノチューブを用いた電子放出源を作製する方法の一つに、カーボンナノチューブをペーストにして印刷することにより、カソード電極上にカーボンナノチューブを有する膜を作製する方法がある(特許文献1参照)。この方法は、カソード電極上にカーボンナノチューブを含むペーストをスクリーン印刷し、その後焼成することによってペースト中の有機成分を分解し、さらにレーザー法、プラズマ法、テープ剥離法等の起毛処理を、カーボンナノチューブを有する膜に行うことによって電子放出源を作製するものである。しかしながら、本方法ではスクリーンマスクのメッシュ限界により、100μm以下の微細な電子放出源のパターンを形成することが困難であった。
【0004】
その他の技術として、カーボンナノチューブを含むペーストに感光性有機成分を加えることで、フォトリソグラフィーによって微細なパターンを一括形成することができる電子放出源の作製方法が提案されている(特許文献2、3参照)。この方法によれば、光重合開始剤と光硬化可能なモノマーを含むペーストをカソード電極上に全面印刷した後、乾燥させたペーストに光を照射して現像し、微細な電子放出源のパターンを形成することが可能である。しかし、本方法を用いて電子放出源のパターンを形成した場合に、現像後にゲート電極上やエミッタホール周辺、さらにはエミッタホール内などにカーボンナノチューブを含む残渣が残るという課題があった。この現像後の残渣はカーボンナノチューブを含むため導電性があり、カソード電極とゲート電極のショートの原因となる。
【0005】
一方、感光性有機成分と無機粉末からなる感光性ペーストにおいて、紫外線吸収剤を添加することでペースト内部での光散乱を抑制し、シャープなパターンが得られる方法が提案されている。(特許文献4参照)しかしながら、特許文献4に記載されたペーストは、ピンホールなどの欠陥が発生するために膜厚が3μm未満の薄い膜を均一に形成することが困難で、このペーストにCNTを添加しただけでは、元来薄膜形成を必要とする電子放出源に用いることは困難であった。
【特許文献1】特開2001−176380号公報(第8段落)
【特許文献2】特表2004−504690号公報(第18段落)
【特許文献3】特開2005−56818号公報(請求項7)
【特許文献4】特開2006−210044号公報(第45段落)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題に着目し、ゲート電極上やエミッタホール周辺、さらにはエミッタホール内などにカーボンナノチューブを含む残渣が発生せず、薄膜でもピンホールなどの欠陥がない均一な膜を形成できる電子放出源用ペーストおよびそれを用いた電子放出素子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明はカーボンナノチューブと無機粉末、感光性有機成分を含む電子放出源用ペーストであって、感光性有機成分が少なくとも紫外線吸収剤および/または重合禁止剤を含み、カーボンナノチューブの含有量がペーストの全体量に対し0.1〜20重量%である電子放出源用ペーストおよび、それを用いた電子放出素子である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、紫外線吸収剤および/または重合禁止剤を含有することによって、ゲート電極上やエミッタホール周辺、さらにはエミッタホール内に残るカーボンナノチューブを含む残渣を格段に減少させ、薄膜でもピンホールなどの欠陥がない均一な膜を形成することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、カーボンナノチューブと無機粉末、感光性有機成分を含む電子放出源用ペーストであって、感光性有機成分が紫外線吸収剤および/または重合禁止剤を含む電子放出源用ペーストである。
【0010】
一般に電界放出型ディスプレイに用いられる電子放出源には、モリブデンに代表される金属材料や、カーボンナノチューブ、ダイアモンド、ダイアモンドライクカーボン、グラファイト、カーボンブラックに代表される炭素系材料があり、炭素系材料は低い仕事関数特性によって低電圧駆動が可能であるが、本発明ではカーボンナノチューブを用いる。カーボンナノチューブは高アスペクト比であるために良好な電気放出特性を持つことからより好ましい。
【0011】
本発明で用いるカーボンナノチューブには単層、または2層、3層等の多層カーボンナノチューブがある。層数の異なるカーボンナノチューブの混合物としてもよいし、未精製カーボンナノチューブ粉末はアモルファスカーボンや触媒金属等の不純物を含むことがあるため、精製することによって純度を高めて使用することもできる。また、カーボンナノチューブの長さを調整するため、ボールミルやビーズミル等でカーボンナノチューブ粉末を粉砕してもよい。
【0012】
電子放出源用ペースト全体に対するカーボンナノチューブの含有量は0.1〜20重量%である。また0.1〜10重量%であることが好ましく、0.5〜5重量%であることがさらに好ましい。カーボンナノチューブの含有量が0.1重量%未満であると、ペーストの塗布性が低下して均一で緻密な電子放出源用ペーストの塗布膜が得られなくなり、塗布膜中にピンホールが発生したり、電子放出源からの電子放出量が小さくなり、輝度が低下する。ここでいうピンホールとは、電子放出源用ペーストの塗布膜中において生じる塗布膜に覆われずに下部の基板が露出している部分を意味する。カーボンナノチューブの含有量が20重量%を越えると、電子放出源用ペースト中でのカーボンナノチューブの分散性が悪くなり、ペーストの塗布性が低下することや均一なパターン形成性が得られなくなる。特に一般的な電子放出源は1〜5μm程度の薄膜であり、また膜厚の薄い範囲ではピンホールなどの欠陥が生じるため、膜の優れた均一性や緻密性を得ることは容易ではないが、本発明はカーボンナノチューブの含有量を適切な範囲にすることによって、ピンホールなどの欠陥がない均一な電子放出源を得ることができる。
【0013】
本発明の電子放出源用ペーストは、紫外線吸収剤および/または重合禁止剤を有する。この電子放出源用ペーストを用いて電子放出源パターンの加工を行うことで、現像後にゲート電極上やエミッタホール周辺、さらにはエミッタホール内などに残るカーボンナノチューブを含む残渣を大幅に減少させることができる。ここでいう残渣とは、現像時に取り除くことができなかった電子放出源パターン以外の部分に残る電子放出源用ペーストを示す。
【0014】
本発明の電子放出源用ペーストに用いる紫外線吸収剤としては、波長領域300〜550nmの範囲に紫外線吸収がある有機系染料が好ましく、紫外線吸収スペクトルの最大吸収波長(λmax)が波長300〜550nmの範囲にある有機系染料がさらに好ましい。これらの波長領域に紫外線吸収を持つ有機系染料を用いることで、紫外線照射時の電子放出源用ペースト内部での光散乱を抑制することが可能となる。これにより、非紫外線照射部の光硬化が抑制されるため、電子放出源パターン以外の部分でのカーボンナノチューブを含む残渣を大幅に減少させることができる。
【0015】
紫外線吸収剤の具体的な例としては、アゾ系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、クマリン系、キサテン系、キノリン系、アントラキノン系、ベンゾエート系、ベンゾイン系、ケイ皮酸系、サリチル酸系、ヒンダードアミン系、シアノアクリレート系、トリアジン系、アミノ安息香酸系、キノン系などが挙げられ、1種または複数を組み合わせて用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
また、紫外線吸収剤は窒素を含有する化合物であることが好ましく、電子放出源用ペーストの焼成時に消失することから、紫外線吸収剤は有機窒素化合物であることがより好ましい。さらに有機窒素化合物には、窒素原子が有する非共有電子対が存在しており、非共有電子対があることによって有機窒素化合物はカーボンナノチューブの表面に容易に付着する。カーボンナノチューブ表面に有機窒素化合物が存在するとカーボンナノチューブ同士の凝集を抑制することができ、有機窒素化合物を用いると電子放出源用ペースト中におけるカーボンナノチューブの安定した分散状態が得られるという効果もある。
【0017】
また芳香環構造を有する有機窒素化合物は芳香環のπ電子を有しているため、カーボンナノチューブへの付着性および感光性有機成分との親和性が良く、感光性有機成分中でのカーボンナノチューブの安定した分散状態が得られることから、好ましく用いられる。さらにアゾ結合を有する有機窒素化合物は、紫外線の吸収波長吸収領域が広く、熱分解性が良いことから特に好ましく用いられる。芳香環構造およびアゾ結合を有する化合物の具体的な例としては、“スダンI”、“スダンブラックB”、“スダンレッド7B”、“スダンII”、“スダンIV”(いずれも商品名、東京化成工業(株)製)、アゾベンゼン、アミノアゾベンゼン、ジメチルアミノアゾベンゼン、ヒドロキシアゾベンゼンなどが挙げられ、1種または複数を組み合わせて用いることができる。また、ベンゾトリアゾール構造を有する有機窒素化合物は紫外線の吸収波長領域が広く、昇華性を有することから特に好ましく用いられる。不活性ガス雰囲気中において電子放出源用ペーストを焼成する場合には、紫外線吸収剤が有機物残渣として電子放出素子中に残る場合が多いが、ベンゾトリアゾール構造を有する紫外線吸収剤を用いることで電子放出源用ペーストを焼成して得られる電子放出素子中の有機物残渣を低減することが可能である。ベンゾトリアゾール構造を有する紫外線吸収剤の昇華温度は150℃以上400℃未満であることが好ましい。昇華温度を150℃以上にすることで電子放出源用ペーストの乾燥時に紫外線吸収剤が昇華することを防止することができ、400℃未満にすることで電子放出素子中に紫外線吸収剤の有機物残渣が残らない。ベンゾトリアゾール構造を有する有機窒素化合物の具体的な例としては、“SEESORB701”、“SEESORB703”、“SEESORB704”、“SEESORB709”(いずれも商品名、シプロ化成工業(株)製)、“TINUVIN−R”、“TINUVIN−326”、“TINUVIN−329”、“TINUVIN−PS”(いずれも商品名、チバ・スペシャリティケミカルズ社製)、“EVERSORB70”、“EVERSORB71”、“EVERSORB72”、“EVERSORB73”、“EVERSORB74”、“EVERSORB75”(いずれも商品名、株式会社ソート)などが挙げられ、1種または複数を組み合わせて用いることができる。
【0018】
本発明で用いる紫外線吸収剤は、その分子量が500以下であることが好ましい。分子量が500を超えると、熱分解温度が高温側にシフトすることがあり、電子放出源用ペーストの焼成時に分解できなくなる。電子放出源中に未分解の有機物が残ると、本発明の電子放出源用ペーストにより作製された電子放出素子を用いたディスプレイパネル内やバックライトパネル内の真空度の悪化を招き、電子放出素子の寿命を悪化させる。
【0019】
電子放出源用ペースト中の感光性有機成分に対する紫外線吸収剤の含有量は0.001〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.01〜5重量%である。0.001重量%未満では紫外線吸収剤の添加効果が減少し、10重量%を越えると露光光の透過率が低下することがあり、その場合は膜厚を小さくすることになる。膜厚が小さくなると十分な量のカーボンナノチューブが電子放出源内に残らない。
【0020】
本発明は紫外線吸収剤だけでなく重合禁止剤を用いてもよく、その具体的な例としては、ヒドロキノン、ヒドロキノンのモノエステル化物、N−ニトロソジフェニルアミン、フェノチアジン、p−t−ブチルカテコール、N−フェニルナフチルアミン、2,6−ジ−t−ブチル−p−メチルフェノール、クロラニール、ピロガロールなどが挙げられ、1種または複数を組み合わせて用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
本発明で用いる重合禁止剤の分子量は500以下であることが好ましい。分子量が500を超えると、紫外線吸収剤と同様、熱分解温度が高温側にシフトすることがあり、電子放出源用ペーストの焼成時に分解できなくなる。電子放出源中に未分解の有機物が残ると、本発明のペーストにより作製された電子放出素子を用いたディスプレイパネル内やバックライトパネル内の真空度の悪化を招き、電子放出素子の寿命を悪化させる。
【0022】
電子放出源用ペースト中の感光性有機成分に対する重合禁止剤の含有量は0.01〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.02〜5重量%である。0.01重量%未満では重合禁止剤の効果が得られず、10重量%を超えると光重合が阻害されることがある。
【0023】
本発明の電子放出源用ペーストは、紫外線吸収剤と重合禁止剤を組み合わせることで、紫外線吸収剤が吸収できずに散乱した紫外線によって発生するラジカルを、重合禁止剤が捕捉することで非紫外線照射部の光硬化が抑制されるため、電子放出源パターン以外の部分でのカーボンナノチューブを含む残渣を大幅に減少させることができるため好ましい。
【0024】
紫外線吸収剤と重合禁止剤を組み合わせて用いる場合、電子放出源用ペースト中の感光性有機成分に対する紫外線吸収剤の含有量は0.05〜5重量%が好ましく、さらに好ましくは0.1〜2重量%であり、重合禁止剤の含有量は0.1〜10重量%が好ましく、さらに好ましくは0.5〜5重量%である。感光性有機成分に対する紫外線吸収剤と重合禁止剤の全含有量は0.01〜10重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜5重量%であって、紫外線吸収剤と重合禁止剤の重量比率は1:10〜10:1の範囲であると、相乗効果が得られるため好ましい。
【0025】
このような紫外線吸収剤と重合禁止剤の好ましい組み合わせとしては、電子放出源用ペースト中でのカーボンナノチューブの分散性、紫外線吸収剤や重合禁止剤の熱分解性または昇華性の良さという観点から、アゾ系染料とヒドロキノンまたはヒドロキノンのモノエステル化合物、アゾ系染料とフェノチアジン、ベンゾトリアゾール系染料とヒドロキノンまたはヒドロキノンのモノエステル化合物、ベンゾトリアゾール系染料とフェノチアジンの組み合わせなどが挙げられる。紫外線吸収剤と重合禁止剤の好ましい組み合わせの具体的な例としては、“スダンIV”(商品名、東京化成工業(株)製)とヒドロキノンモノメチルエーテル、“スダンIV”とフェノチアジン、アミノアゾベンゼンとヒドロキノンモノメチルエーテル、アミノアゾベンゼンとフェノチアジン、“SEESORB704”(商品名、シプロ化成工業(株)製)とヒドロキノンモノメチルエーテル、“SEESORB704”とフェノチアジン、“SEESORB709”(商品名、シプロ化成工業(株)製)とヒドロキノンモノメチルエーテル、“SEESORB709”とフェノチアジンなどがある。
【0026】
本発明の電子放出源用ペーストに含まれる無機粉末としては、金属、金属酸化物、セラミックス、ガラスなどが挙げられる。特に電子放出源とカソード電極との接着性を付与するためにガラス粉末を含むことが好ましい。
【0027】
本発明で用いるカーボンナノチューブの熱分解温度は500〜600℃であることから、電子放出源用ペーストの焼成温度は500℃以下であることが好ましく、カーボンナノチューブの分解を抑制するためには450℃以下であることがさらに好ましい。従って、電子放出源用ペースト中に含まれるガラス粉末の軟化点は500℃以下であることが好ましく、450℃以下であることがさらに好ましい。ガラスの軟化点が500℃を超えると、電子放出源とカソード電極との密着性が悪くなることがあり、好ましくない。
【0028】
このようなガラス粉末としては、Biを45〜86重量%含有することで、ガラス軟化点を450℃以下に下げることができる。Biはガラスの軟化点を下げることができる。Biが45重量%より少ないと軟化点が高くなりすぎ、86重量%より多いとガラスが不安定になりやすいため好ましくない。より好ましくは、70〜85重量%である。
【0029】
ここでいうガラスの軟化点は示差熱分析(DTA)法を用いてガラス試料100mgを20℃/分、空気中で加熱し、横軸に温度、縦軸に熱量をプロットして得られるDTA曲線より得られる。
【0030】
ガラス粉末は、Biを45〜86重量%含有されていれば、その他の組成は特に限定されない。好ましくは、45〜86重量%のBi、0.5〜8重量%のSiO、3〜25重量%のB、0〜25重量%のZnOを有するガラス粉末がガラスの安定性と軟化点の制御のしやすさという点で好ましい。
【0031】
SiOの含有量を0.5〜8重量%とすることでガラスの安定性を向上させることができる。0.5重量%より少ないとその効果が不十分であり、8重量%より多いとガラスの軟化点が高くなりすぎる。より好ましくは0.5〜2重量%である。
【0032】
の含有量もまた3〜25重量%とすることでガラスの安定性を向上させることができる。3重量%より少ないとその効果が不十分であり、25重量%より多いとガラスの軟化点が高くなりすぎる。より好ましくは3〜10重量%である。
【0033】
ZnOは含まなくともよいが、25重量%まで含有させることで軟化点を下げることができる。25重量%より多いとガラスが不安定になる。より好ましくは5〜15重量%である。その他にもAl、NaO、CaO、MgO、CeO、KO等を含むことができる。
【0034】
電子放出源とカソード電極は強固に接着している必要があるが、電子放出源用ペーストに含まれるカーボンナノチューブとガラス粉末の比は、カーボンナノチューブ100重量部に対し、ガラス粉末が200〜8000重量部であると、優れた接着性を得ることができる。200重量部未満だと十分な接着性が得られない。8000重量部より大きいとペースト粘度が高くなりすぎる。
【0035】
ここで接着性は次のように評価する。電子放出源用ペーストをベタ印刷し、焼成して形成した電子放出源に所定の剥離接着強さを持つテープを貼り、ゆっくりと引き剥がすときに電子放出源に剥離がみられるかどうかで判断することができる。多く剥離が見られるときは好ましくなく、剥離がないものが好ましい。
【0036】
ガラス粉末の平均粒径は2μm以下が好ましい。さらに好ましくは1μmより小さいことである。ガラス粉末の平均粒径が2μm以下であると、電子放出源用ペーストに紫外線を照射したときに起こるペースト内部でのガラス粉末による光散乱を抑制することができ、電子放出源パターン以外の部分でのカーボンナノチューブを含むペースト残渣を大幅に減少させることができるため好ましい。また、ガラス粉末の粒径が小さくなるとガラス粉末が軟化しやすくなるため、より少ないガラス粉末の含有量で電子放出源とカソード電極の接着性を得ることができる。そのため、ガラスの平均粒径が1〜2μmのときはカーボンナノチューブ100重量部に対してガラス粉末が3000〜8000重量部が好ましく、ガラスの平均粒径が1μmより小さいときは、カーボンナノチューブ100重量部に対してガラス粉末が200〜3000重量部であることが好ましい。
【0037】
ここで平均粒径とは、累積50%粒径(D50)のことをさす。これは一つの粉体の集団の全体積を100%として体積累積カーブを求めたとき、その体積累積カーブが50%となる点の粒径を表したものであり、累積平均径として一般的に粒度分布を評価するパラメータの1つとして利用されているものである。なお、ガラス粉末の粒度分布の測定はマイクロトラック法(日機装(株)製マイクロトラックレーザー回折式粒度分布測定装置による方法)で測定することができる。
【0038】
本発明の電子放出源用ペーストは、カーボンナノチューブと無機粉末の他に感光性有機成分を含む。感光性有機成分としては、紫外線を照射した時に化学的な変化が生じることによって、紫外線照射前には現像液に可溶であったものが露光後は現像液に不溶になるネガ型感光性有機成分と、紫外線照射前には現像液に不溶であったものが露光後は現像液に可溶になるポジ型感光性有機成分のいずれかを選ぶことができるが、本発明は特にネガ型感光性有機成分を用いた場合に好適に使用することができる。ネガ型の場合の感光性有機成分はバインダーポリマー、光硬化性モノマー、光重合開始剤、溶媒等を含み、必要に応じて増感剤、増感助剤、可塑剤、増粘剤、酸化防止剤、分散剤、有機あるいは無機の沈殿防止剤やレベリング剤等の添加成分を含んでもよい。ここで、感光性有機成分に用いるバインダーポリマーとしては、非感光性のバインダーポリマーと、感光性を付与したバインダーポリマーを用いることができる。ポジ型の場合の感光性有機成分はバインダーポリマー、光酸発生剤、溶剤等を含み、必要に応じて増感剤、増感助剤、可塑剤、増粘剤、酸化防止剤、分散剤、有機あるいは無機の沈殿防止剤やレベリング剤等の添加成分を含んでもよい。
【0039】
非感光性のバインダーポリマーの具体的な例としては、セルロース系樹脂(エチルセルロース、メチルセルロース、ニトロセルロース、アセチルセルロース、セルロースプロピオネート、ヒドロキシプロピルセルロース、ブチルセルロース、ベンジルセルロース、変性セルロースなど)、アクリル系樹脂(アクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、プロピルアクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルアクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、n−ブチルメタクリレート、tert−ブチルアクリレート、tert−ブチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ベンジルアクリレート、ベンジルメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、イソボルニルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、アクリルアミド、メタアクリルアミド、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルなど単量体のうち少なくとも1種からなる重合体)、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、プロピレングリコール、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂、フェノール樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、シリコーン樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。
【0040】
感光性のバインダーポリマーとしては、酸性基を有する重合体が好ましく用いられる。酸性基を有する重合体は、酸性基を有していればどのようなものでも構わないが、好ましくはカルボキシル基を有する重合体であり、より好ましくは側鎖にエチレン性不飽和基とカルボキシル基を有する重合体である。側鎖にエチレン性不飽和基を有することでパターン形成性が向上し、また側鎖にカルボキシル基を含有することにより、アルカリ水溶液での現像を可能にする。このような重合体は例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、酢酸ビニルまたはこれらの酸無水物などのカルボキシル基含有モノマーおよびメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、2−ヒドロキシエチルアクリレートなどのモノマーを選択し、ラジカル重合開始剤を用いて重合または共重合させて重合体を得たのち、ポリマー中の活性水素含有基であるメルカプト基、アミノ基、水酸基やカルボキシル基に対して、グリシジル基やイソシアネート基を有するエチレン性不飽和化合物やアクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライドまたはアリルクロライドを付加反応させることにより得られるが、これらに限定されるものではない。グリシジル基を有するエチレン性不飽和化合物としては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、クロトン酸グリシジル、イソクロトン酸グリシジルなどがある。イソシアネート基を有するエチレン性不飽和化合物としては、アクリロイルイソシアネート、メタアクリロイルイソシアネート、アクリロイルエチルイソシアネート、メタアクリロイルエチルイソシアネートなどがある。また、グリシジル基やイソシアネート基を有するエチレン性不飽和化合物やアクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライドまたはアリルクロライドは、ポリマー中の活性水素含有基に対して0.05〜0.95モル当量付加させることが好ましい。活性水素含有基がメルカプト基、アミノ基、水酸基の場合にはその全量を側鎖基の導入に利用することもできるが、カルボキシル基の場合には、バインダーポリマーの酸価が好ましい範囲になるよう付加量を調整することが好ましい。
【0041】
バインダーポリマーを用いる場合、その含有量は、全感光性有機成分に対し、好ましくは1〜90重量%の範囲で含有され、より好ましくは、10〜80重量%である。バインダーポリマーの量が少なすぎるとカーボンナノチューブや無機粉末の分散不良を引き起こす。バインダーポリマーの量が多すぎる場合には未露光部の現像液に対する溶解性が低下したり、焼成時に脱バインダー不良を引き起こすおそれがある。
【0042】
酸性基を有する重合体の酸価は50〜200mgKOH/gであることが好ましい。酸価を50mgKOH/g以上とすることで、可溶部分の現像液に対する溶解性が低下することがなく、200mgKOH/g以下とすることで、現像許容幅を広くすることができる。なお、酸価の測定は、バインダーポリマー1gをエタノール100mLに溶解した後、0.1N水酸化カリウム水溶液を用いた滴定を行い、求める。
【0043】
さらに用いるバインダーポリマーの重量平均分子量は5000〜100000が好ましく、より好ましくは15000〜75000である。重量平均分子量が5000を下回るとペーストの印刷性が悪くなるおそれがある。重量平均分子量が100000を上回ると現像液への溶解性が悪くなるおそれがある。バインダー樹脂の重量平均分子量はテトラヒドロフランを移動相としたサイズ排除クロマトグラフィーにより測定した。カラムはShodex KF−803を用い、重量平均分子量はポリスチレン換算により計算した。
【0044】
また、カーボンナノチューブの熱分解温度は500〜600℃であることから、バインダーポリマーの熱分解温度は500℃以下であること、さらには450℃以下であることが好ましい。熱分解温度が500℃以上のバインダーポリマーを用いると、電子放出素子中に有機物の残渣が残りやすくなるため好ましくない。バインダーポリマーの熱分解温度を調整する手法は、共重合成分のモノマーを選択することで可能となる。特に低温で熱分解するモノマーを共重合成分とすることで共重合体の熱分解温度を低くできる。このように低温で熱分解する成分として、例えばメチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、α−メチルスチレン等を挙げることができる。カルボキシル基を有するバインダーポリマーとしては、焼成時の熱分解温度が低いことから、(メタ)アクリル酸エステルおよび(メタ)アクリル酸を共重合成分とするコポリマーが好ましく用いられる。とりわけ、スチレン/メタクリル酸メチル/メタクリル酸共重合体が好ましく用いられる。
【0045】
熱分解温度は、TG測定装置(TGA−50、(株)島津製作所(株)製)にて約5mgの試料をセットし、空気または窒素雰囲気で流量20ml/min、昇温速度20〜0.6℃/minで700℃まで昇温する。その結果、温度(縦軸)と重量変化(横軸)の関係がプロットされたチャートを印刷し、分解前(横軸に平行な部分)の部分と分解中の部分の接線を引き、その交点の温度を熱分解温度とする、等の方法で測定できる。
【0046】
光硬化性モノマーの具体的な例としては、光反応性を有する炭素−炭素不飽和結合(エチレン性不飽和基)を含有する化合物を用いることができ、例えばアルコール類(例えば、エタノール、プロパノール、ヘキサノール、オクタノール、シクロヘキサノール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトールなど)のアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル、カルボン酸(例えば、酢酸プロピオン酸、安息香酸、アクリル酸、メタクリル酸、コハク酸、マレイン酸、フタル酸、酒石酸、クエン酸など)とアクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、アリルグリシジル、またはテトラグリシジルメテキシリレンジアミンとの反応生成物、アミド誘導体(例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、メチレンビスアクリルアミドなど)、エポキシ化合物とアクリル酸またはメタクリル酸との反応物などを挙げることができる。また、多官能の光硬化性モノマーにおいて、不飽和基は、アクリル、メタクリル、ビニル、アリル基が混合して存在してもよい。本発明では、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0047】
光硬化性モノマーを用いる場合、その含有量は、全感光性有機成分に対し、好ましくは1〜50重量%の範囲で含有され、より好ましくは、5〜30重量%である。光硬化性モノマーの量が少なすぎると光硬化不足になりやすく、露光部の感度が低下したり、現像耐性が低下したりする。光硬化性モノマーの量が多すぎる場合には未露光部の現像液に対する溶解性が低下したり、架橋密度が高すぎるために焼成時に脱バインダー不良を引き起こすおそれがある。
【0048】
光重合開始剤を用いる場合は、ラジカル種を発生するものから選んで用いられる。光重合開始剤としては、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、1−フェニル−1,2−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、2−メチル−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4−フェニルベンゾフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルサルファイド、アルキル化ベンゾフェノン、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−N,N−ジメチル−N−[2−(1−オキソ−2−プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4−ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド、2−ヒドロキシ−3−(4−ベンゾイルフェノキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロペンアミニウムクロリド一水塩、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン、2−ヒドロキシ−3−(3,4−ジメチル−9−オキソ−9H−チオキサンテン−2−イロキシ)−N,N,N−トリメチル−1−プロパナミニウムクロリド、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキサイド、2,2’−ビス(o−クロロフェニル)−4,5,4’,5’−テトラフェニル−1,2−ビイミダゾール、10−ブチル−2−クロロアクリドン、2−エチルアンスラキノン、ベンジル、9,10−フェナンスレンキノン、カンファーキノン、メチルフェニルグリオキシエステル、η5−シクロペンタジエニル−η6−クメニル−アイアン(1+)−ヘキサフルオロホスフェイト(1−)、ジフェニルスルフィド誘導体、ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム、4,4−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、4−ベンゾイル−4−メチルフェニルケトン、ジベンジルケトン、フルオレノン、2,3−ジエトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニル−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、p−t−ブチルジクロロアセトフェノン、ベンジルメトキシエチルアセタール、アントラキノン、2−t−ブチルアントラキノン、2−アミノアントラキノン、β−クロルアントラキノン、アントロン、ベンズアントロン、ジベンズスベロン、メチレンアントロン、4−アジドベンザルアセトフェノン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)シクロヘキサン、2,6−ビス(p−アジドベンジリデン)−4−メチルシクロヘキサノン、2−フェニル−1,2−ブタジオン−2−(o−メトキシカルボニル)オキシム、1,3−ジフェニルプロパントリオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム、N−フェニルグリシン、テトラブチルアンモニウム(+1)n−ブチルトリフェニルボレート(1−)、ナフタレンスルホニルクロライド、キノリンスルホニルクロライド、N−フェニルチオアクリドン、4,4−アゾビスイソブチロニトリル、ベンズチアゾールジスルフィド、トリフェニルホスフィン、四臭素化炭素、トリブロモフェニルスルホン、過酸化ベンゾイルおよびエオシン、メチレンブルー等の光還元性の色素とアスコルビン酸、トリエタノールアミン等の還元剤の組み合わせ等が挙げられる。本発明では、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0049】
光重合開始剤を用いる場合、その含有量は、感光性有機成分に対し、0.05〜10重量%の範囲で含有され、より好ましくは、0.1〜10重量%である。光重合開始剤の量が少なすぎると光感度が不良となり、光重合開始剤の量が多すぎる場合には露光部の残存率が小さくなるおそれがある。
【0050】
光重合開始剤と共に増感剤を使用し、感度を向上させたり、反応に有効な波長範囲を拡大することができる。
【0051】
増感剤の具体例としては、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2,3−ビス(4−ジエチルアミノベンザル)シクロペンタノン、2,6−ビス(4−ジメチルアミノベンザル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4−ジメチルアミノベンザル)−4−メチルシクロヘキサノン、ミヒラーケトン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジメチルアミノ)カルコン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)カルコン、p−ジメチルアミノシンナミリデンインダノン、p−ジメチルアミノベンジリデンインダノン、2−(p−ジメチルアミノフェニルビニレン)イソナフトチアゾール、1,3−ビス(4−ジメチルアミノフェニルビニレン)イソナフトチアゾール、1,3−ビス(4−ジメチルアミノベンザル)アセトン、1,3−カルボニルビス(4−ジエチルアミノベンザル)アセトン、3,3−カルボニルビス(7−ジエチルアミノクマリン)、トリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、N−フェニル−N−エチルエタノールアミン、N−フェニルエタノールアミン、N−トリルジエタノールアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸メチル、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、ジエチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2−ジメチルアミノ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(n−ブトキシ)エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸2−エチルヘキシル、3−フェニル−5−ベンゾイルチオテトラゾール、1−フェニル−5−エトキシカルボニルチオテトラゾール等が挙げられる。本発明ではこれらを1種または2種以上使用することができる。
【0052】
なお、増感剤の中には光重合開始剤としても使用できるものがある。増感剤が本発明の感光性ペーストに含まれる場合、その含有量は感光性有機成分に対して通常0.05〜10重量%、より好ましくは0.1〜10重量%である。増感剤の量が少なすぎれば光感度を向上させる効果が発揮されず、増感剤の量が多すぎれば露光部の残存率が小さくなるおそれがある。
【0053】
溶媒はバインダーポリマー等有機成分を溶解するものが好ましい。例えば、エチレングリコールやグリセリンに代表されるジオールやトリオールなどの多価アルコール、アルコールをエーテル化および/またはエステル化した化合物(エチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、エチレングリコールアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールモノアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、プロピレングリコールアルキルエーテルアセテート)などが挙げられる。具体的には、テルピネオール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジプロピルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、ブチルカルビトールアセテートなどやこれらのうちの1種以上を含有する有機溶媒混合物が用いられる。
【0054】
溶媒を用いる場合、その含有量は、全感光性有機成分に対し、好ましくは10〜90重量%の範囲で含有され、より好ましくは、20〜80重量%である。溶媒の量が少なすぎると電子放出源用ペーストの分散安定性が悪くなり、ゲル化するおそれがある。溶媒の量が多すぎる場合には電子放出源用ペーストの印刷特性が悪くなり、膜を形成できなくなるおそれがある。
【0055】
電子放出源用ペースト中で無機粉末やカーボンナノチューブをさらに十分に分散させるために、分散剤を用いてもよい。分散剤はアミン系くし形ブロックコポリマーが好ましい。アミン系くし形ブロックコポリマーとしては、たとえば、アビシア(株)製のソルスパース13240、ソルスパース13650、ソルスパース13940、ソルスパース24000SC、ソルスパース24000GR、ソルスパース28000(いずれも商品名)などが挙げられる。
【0056】
本発明の電子放出源用ペーストは、各種成分を所定の組成になるよう調合した後、3本ローラー、ボールミル、ビーズミル等の混練機で均質に混合分散することによって作製することができる。ペースト粘度は、ガラス粉末、増粘剤、有機溶媒、可塑剤および沈殿防止剤等の添加割合によって適宜調整されるが、その範囲は2〜200Pa・sである。例えば、基板への塗布をスリットダイコーター法やスクリーン印刷法以外にスピンコート法やスプレー法で行う場合は、0.001〜5Pa・sが好ましい。
【0057】
以下に、本発明の感光性電子放出源用ペーストを用いたトライオード型とダイオード型のフィールドエミッション用電子放出素子の作製方法について説明する。なお、電子放出素子の作製は、その他の公知の方法を用いてもよく、後述する作製方法に限定されない。
【0058】
はじめにトライオード型電子放出素子用背面基板の作製方法を説明する。ガラス基板上にITO等の導電性膜を成膜しカソード電極を形成する。次いで、絶縁材料を印刷法により5〜15μm積層し絶縁層を作製する。次に、絶縁層上に真空蒸着法によりゲート電極層を形成する。ゲート電極層上にレジスト塗布し、露光、現像によりゲート電極および絶縁層をエッチングすることによって、エミッタホールパターンを作製する。この後、電子放出源用ペーストをエミッタホールパターン上にスクリーン印刷またはスリットダイコーター等により塗布した後、熱風オーブンなどで乾燥する。乾燥後の電子放出源用ペーストに対して、上面(電子放出源用ペースト側)からフォトマスクを通じて紫外線を照射するか、もしくはカソード電極にITO等の透明な導電性膜を用いた場合は、背面(ガラス基板側)から直接電子放出源用ペーストに紫外線を照射する。露光後はアルカリ水溶液などで現像し、エミッタホール内に電子放出源パターンを形成し、400〜500℃で焼成して電子放出源を作製する。最後にレーザー照射法やテープはく離法により電子放出源の起毛処理を行う。
【0059】
次に、前面基板を作製する。ガラス基板上にITOを成膜しアノード電極を形成する。アノード電極上に赤緑青の蛍光体を印刷法により積層する。背面基板と前面基板をスペーサーガラスをはさんで貼り合わせ、容器に接続した排気管により真空排気することによりトライオード型電子放出素子を作製することができる。電子放出状態を確認するために、アノード電極に1〜5kVの電圧を供給することで、カーボンナノチューブから電子が放出され蛍光体発光を得ることができる。
【0060】
ダイオード型電子放出素子用前面板を作製する場合は、カソード電極上に電子放出源用ペーストをスクリーン印刷またはスリットダイコーター等により所定のパターンで印刷後、大気中400〜500℃の温度で加熱し、電子放出源を得て、これをテープはく離法やレーザー処理法により起毛処理を行う。新たにITOをスパッタしたガラス基板上に蛍光体を印刷し、アノード電極を作製し、これら2枚のガラス基板をスペーサーを挟んで貼り合わせ、容器に接続した排気管で真空排気することによりダイオード型電子放出素子を作製することができる。電子放出状態を確認するために、アノード電極に1〜5kVの電圧を供給することで、カーボンナノチューブから電子が放出され蛍光体発光を得ることができる。
【実施例】
【0061】
以下に、本発明を実施例に具体的に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。実施例に用いたカーボンナノチューブ、無機粉末および感光性有機成分は次の通りである。
【0062】
A.カーボンナノチューブ
多層カーボンナノチューブ(シンセンナノテクポート社製)
B.無機粉末
ガラス粉末I:Bi(84重量%)、B(7重量%)、SiO(1重量%)、ZnO(8重量%)の組成のものを用いた。このガラス粉末の軟化点は380℃、平均粒径は0.5μmのものを用いた。
【0063】
ガラス粉末II:Bi(85重量%)、B(4重量%)、SiO(1.5重量%)、ZnO(9.5重量%)の組成のものを用いた。このガラス粉末の軟化点は415℃、平均粒径は0.8μmのものを用いた。
【0064】
ガラス粉末III:ガラス粉末IIの平均粒径1.3μm品
ガラス粉末IV:Bi(50重量%)、B(21重量%)、SiO(7重量%)、ZnO(22重量%)の組成のものを用いた。このガラス粉末の軟化点は447℃、平均粒径は1.7μmのものを用いた。
【0065】
ガラス粉末V:ガラス粉末Iの平均粒径2.3μm品
C.有機成分
バインダーポリマーI:エチルセルロース
バインダーポリマーII:メタクリル酸/メタクリル酸メチル/スチレン=40/40/30重量部からなる共重合体のカルボキシル基に対して0.4当量のグリシジルメタクリレートを付加反応させたもの(重量平均分子量43000、酸価100mgKOH/g)
バインダーポリマーIII:2−エチルヘキシルアクリレート/ブチルメタクリレート/アクリル酸=40/40/20重量部からなる共重合体のカルボキシル基に対して0.2当量のグリシジルメタクリレートを付加反応させたもの(重量平均分子量36000、酸価100mgKOH/g)
光硬化性モノマーI:テトラプロピレングリコールジメタクリレート
光硬化性モノマーII:ポリエチレングリコールジアクリレート
光重合開始剤I:“イルガキュア369”(チバ・スペシャリティケミカルズ社製)
光重合開始剤II:“イルガキュア819”(チバ・スペシャリティケミカルズ社製)
紫外線吸収剤I:“スダンIV”(東京化成工業(株)製)
紫外線吸収剤II: アミノアゾベンゼン
紫外線吸収剤III:p−アミノ安息香酸
紫外線吸収剤IV: ベンゾフェノン
紫外線吸収剤V:“SEESORB704”(2−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ペンチルフェニル)ベンゾトリアゾール、シプロ化成(株)製)
紫外線吸収剤VI:“SEESORB709” (2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、シプロ化成(株)製)
紫外線吸収剤VII:“TINUVIN−R”(2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、チバ・スペシャリティケミカルズ社製)
紫外線吸収剤VIII:“TINUVIN−326”(2−(3−tert−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−クロロベンゾトリアゾール、チバ・スペシャリティケミカルズ社製)
重合禁止剤I:ハイドロキノンモノメチルエーテル
重合禁止剤II:フェノチアジン
分散剤:“ソルスパース24000GR”(アビシア(株)製)
溶剤:テルピネオール 。
【0066】
D.ガラス軟化点の測定
用いたガラス粉末のガラス転移温度を熱機械分析装置(セイコーインスツル(株)製、EXTER6000 TMA/SS)を用いて測定した。ガラス粒子を800℃で溶融し、直径5mm、高さ2cmの円柱状に加工して測定サンプルとした。
【0067】
E.ガラス粉末の平均粒径測定
用いたガラス粉末の累積50%粒径を粒子径分布測定装置(日機装(株)製、マイクロトラック9320HRA)を用いて測定した。
【0068】
F.残渣評価
20μmφのエミッタホールが40μmの間隔で縦横10個ずつ並んだ合計100個のエミッタホールを有するトライオード型電子放出素子用背面基板上に、電子放出源用ペーストをスクリーン印刷により10mm角の膜を印刷して85℃で15分間乾燥し、膜厚2μmの膜を得た。この膜に対して、上面からフォトマスクを通じで紫外線を照射した後にアルカリ水溶液で現像し、エミッタホール内に電子放出源パターンを形成した。この時、各エミッタホール内に形成された電子放出源パターンについて、光学顕微鏡を用いて残渣が発生しているエミッタホールの数を調べて、下記の式から残渣発生割合を求めた。ここで残渣が発生したエミッタホールとは、エミッタホール内に形成された電子放出源パターンの大きさが20μmφのエミッタホールサイズを越えているものや、その周辺に電子放出源用ペーストが残っているものを示す。
残渣発生割合(%)=(残渣が発生したエミッタホール数)/(エミッタホール総数)×100
G.分散性の評価
ガラス基板上に電子放出源用ペーストをスクリーン印刷により10mm角の膜を印刷して85℃で15分間乾燥し、膜厚2μmの膜を得た。この膜について光学顕微鏡を用いて粒径10μm以上のカーボンナノチューブ凝集体の数を観察した。電子放出源用ペーストで作製した膜中に、光学顕微鏡で観察された凝集体の数が10個未満であれば分散状態は○、10個以上50個未満であれば分散状態は△、100個以上であれば分散状態は×とした。
【0069】
H.ピンホール発生数の評価
ガラス基板上に電子放出源用ペーストをスクリーン印刷により10mm角の膜を印刷して85℃で15分間乾燥し、膜厚2μmの膜を得た。この膜について光学顕微鏡およびレーザー顕微鏡を用いて口径10μm以上のピンホール発生数を観察した。
【0070】
実施例1
多層カーボンナノチューブ(シンセンナノテクポート社製)を直径3mmのジルコニアボールを用いたボールミルにより粉砕し、0.5μmφのガラス粉末I、バインダーポリマーII、光硬化性モノマーI、紫外線吸収剤I、分散剤、溶剤を表1に示す組成比で添加して3本ローラーにて混練し、電子放出源用ペーストを作製した。
【0071】
次に、20μmφのエミッタホールが40μmの間隔で縦横10個ずつ並んだ合計100個のエミッタホールを有するトライオード型電子放出素子用背面基板上に、電子放出源用ペーストをスクリーン印刷により10mm角の膜を印刷した後、85℃で15分間乾燥した。乾燥後の電子放出源用ペーストの膜厚を走査型電子顕微鏡で測定した結果、膜厚は2μmであった。乾燥後の電子放出源用ペーストに対して、ネガ型クロムマスク(20μmφ、40μm間隔)を用いて上面から50mW/cm出力の超高圧水銀灯で1J/cmの紫外線を照射した。その後、炭酸ナトリウム1重量%水溶液をシャワーで150秒間かけることにより現像し、シャワースプレーを用いて水洗浄して光硬化していない部分を除去した。現像後、光学顕微鏡を用いて各エミッタホールの電子放出源パターンの残渣を調べたところ、残渣発生割合は10%であった。また、電子放出源用ペースト中でのカーボンナノチューブの分散性の評価結果は○であった。
【0072】
実施例2〜10
実施例1と同様に、表1に示す組成比の電子放出源用ペーストを作製し、トライオード型電子放出素子用背面基板上に電子放出源用ペーストを印刷して、露光、現像を行って電子放出源パターンを作製した。結果を表1に示した。
【0073】
【表1】

【0074】
実施例11〜16
実施例1と同様に、表2に示す組成比の電子放出源用ペーストを作製し、トライオード型電子放出素子用背面基板上に電子放出源用ペーストを印刷して、露光、現像を行って電子放出源パターンを作製した。結果を表2に示した。
【0075】
【表2】

【0076】
比較例1
多層カーボンナノチューブ(シンセンナノテクポート社製)を直径3mmのジルコニアボールを用いたボールミルにより粉砕し、0.5μmφのガラス粉末、バインダーポリマーII、光硬化性モノマーI、分散剤、溶剤を表3に示す組成比で添加して3本ローラーにて混練し、電子放出源用ペーストを作製した。
【0077】
次に、20μmφのエミッタホールが40μmの間隔で縦横10個ずつ並んだ合計100個のエミッタホールを有するトライオード型電子放出素子用背面基板上に、電子放出源用ペーストをスクリーン印刷により10mm角の膜を印刷した後、85℃で15分間乾燥した。乾燥後の電子放出源用ペーストの膜厚を走査型電子顕微鏡で測定した結果、膜厚は2μmであった。乾燥後のペーストにネガ型クロムマスク(20μmφ、40μm間隔)を用いて上面から50mW/cm出力の超高圧水銀灯で1J/cmの紫外線を照射した。その後、炭酸ナトリウム1重量%水溶液をシャワーで150秒間かけることにより現像し、シャワースプレーを用いて水洗浄して光硬化していない部分を除去した。現像後、光学顕微鏡を用いて各エミッタホールの電子放出源パターンの残渣を調べたところ、残渣発生割合は81%であった。また、電子放出源用ペースト中でのカーボンナノチューブの分散性の評価結果は×であった。
【0078】
比較例2〜5
比較例1と同様に、表3に示す組成比の電子放出源用ペーストを作製し、トライオード型電子放出素子用背面基板上に電子放出源用ペーストを印刷して、露光、現像を行って電子放出源パターンを作製した。結果は表3に示した。
【0079】
【表3】

【0080】
実施例17〜24
実施例1と同様に、表4に示す組成比の電子放出源用ペーストを作製し、トライオード型電子放出素子用背面基板上に電子放出源用ペーストを印刷して、露光、現像を行って電子放出源パターンを作製した。結果を表4に示した。
【0081】
【表4】

【0082】
実施例25〜32
実施例1と同様に、表5に示す組成比の電子放出源用ペーストを作製し、トライオード型電子放出素子用背面基板上に電子放出源用ペーストを印刷して、露光、現像を行って電子放出源パターンを作製した。結果を表5に示した。
【0083】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブと無機粉末、感光性有機成分を含む電子放出源用ペーストであって、感光性有機成分が紫外線吸収剤および/または重合禁止剤を含み、カーボンナノチューブの含有量がペーストの全体量に対し0.1〜20重量%である電子放出源用ペースト。
【請求項2】
紫外線吸収剤が有機窒素化合物である請求項1記載の電子放出源用ペースト。
【請求項3】
紫外線吸収剤である有機窒素化合物が芳香環構造を有する請求項2記載の電子放出源用ペースト。
【請求項4】
紫外線吸収剤である有機窒素化合物が芳香環構造およびアゾ結合を有する請求項2記載の電子放出源用ペースト。
【請求項5】
紫外線吸収剤である有機窒素化合物がベンゾトリアゾール構造を有する請求項2記載の電子放出源用ペースト。
【請求項6】
無機粉末がガラス粉末を含む請求項1記載の電子放出源用ペースト。
【請求項7】
ガラス粉末の平均粒径が2μm以下である請求項6記載の電子放出源用ペースト。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか記載の電子放出源用ペーストを用いた電子放出素子。

【公開番号】特開2008−117757(P2008−117757A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248826(P2007−248826)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】