説明

電子放出素子およびマルチ電子源の製造方法および製造装置

【課題】電子放出素子の通電活性化において、階段状の電流計測パルスを用いて素子のI−V特性を適切に把握する方法、及び、予め測定した素子の特性に基づいて電流遅延の影響を算出し、通電活性化を効率的に実行する電子放出素子の製造方法を提供する。
【解決手段】量産前に予め活性化電流と電流遅延量の関係が一定以上の相関関係を持つ範囲を求めておく。量産時には活性化電流値が範囲に含まれる場合に素子の特性を計測するパルスの印加時間を短くすることができ、製造時のプロセスタクトが改善できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出素子およびマルチ電子源の製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子放出素子として熱陰極素子と冷陰極素子の2種類が知られている。この
うち冷陰極素子では、たとえば表面伝導放型出素子や、電界放出型素子(以下FE型と記す)や、金属/絶縁層/金属型放出素子(以下MIMと記す)などが知られている。
【0003】
FE型の例として例えば、W.P.Duke & W.W.Dolan, "Field emission", Advance in Electron Physics, 8, 89 (1956)(非特許文献1)がある。また、C.A.Spindt, "Physical properties of thin-film field emission cathodes with molybdenium cones", J. Apple. Phys., 47, 5248 (1976)(非特許文献2)も知られている。又、MIM型の例としては、例えば、C.A Mead, "Operation of tunnel-emission Devices, J.Appl. Phys., 32,646
(1961)(非特許文献3)などが知られている。電子放出素子としては、例えば、M.I.Elinson, Radio E-ng. Electron Phys., 10, 1290, (1965)(非特許文献4)や、後述する他の例が知られている。
【0004】
電子放出素子は、基板上に形成された小面積の薄膜に、膜面と平行に電流を流すことにより電子放出が生ずる現象を利用するものである。この電子放出素子としては、前記エリンソン(Elinson)等によるSnO2薄膜を用いたものの他に、Au薄膜によるもの[G.Dittmer : "Thin Solid Films" , 9,317 (1972)](非特許文献5)がある。また、In2O3/SnO2
膜によるもの[M.Hartwell and C.G.Fonstad : "IEEE Trans. ED Cinf. ", 519 (1975)](非特許文献6)がある。また、カーボン薄膜によるもの[荒木久ほか:真空、第26巻、第
1号、 22 (1983)](非特許文献7)等が報告されている。
【0005】
図15に、電子放出素子の典型的な構成例を示す。これは前述の非特許文献6における素子の平面図である。まず基板3001上に、スパッタリングによって金属酸化物よりなる導電性薄膜3004が、H字形の平面形状に形成されている。この導電性薄膜3004に後述する通電フォーミングと呼ばれる通電処理を施すことにより、電子放出部3005が形成される。図中の間隔Lは0.5〜1mm、幅Wは0.1mmに設定されている。尚、図示の便宜から電子放出部3005は導電性薄膜3004の中央に矩形の形状で示したが、これは模式的なものであり、実際の電子放出部の位置や形状を忠実に表現しているわけではない。
【0006】
なお、通電フォーミングとは、前記導電性薄膜3004の両端に電圧を印加して通電し、導電性薄膜3004を局所的に破壊もしくは変形もしくは変質させ、電気的に高抵抗な状態の電子放出部3005を形成することである。印加する電圧としては、一定の直流電圧、もしくは、たとえば1V/分程度の非常にゆっくりとしたレートで昇圧する直流電圧が使用できる。なお、局所的に破壊もしくは変形した導電性薄膜3004の一部には亀裂が発生する。この通電フォーミング後に導電性薄膜3004に適宜の電圧を印加した場合には、前記亀裂付近において電子放出が行われる。
【0007】
電子放出素子は、冷陰極素子のなかでも特に構造が単純で製造も容易であることから、大面積において多数の素子を形成できる利点がある。そこで例えば本願出願人による特開昭64−31332号公報(特許文献1)において開示されるように、多数の素子を配列して駆動するための方法が研究されている。又電子放出素子の応用については、例えば画像表示装置、画像記録装置などの画像形成装置や、荷電ビーム源、等が研究されている。
特に画像表示装置への応用としては例えば本願出願人による米国特許第5,066,883号明細書(特許文献2)や特開平2−257551号公報(特許文献3)や特開平4−28137号公報(特許文献4)において開示されている。これらは電子放出素子と電子ビームの照射により発光する蛍光体とを組み合わせて用いた画像表示装置についての研究である。このような電子放出素子と蛍光体とを組み合わせて用いた画像表示装置は、従来の他の方式の画像表示装置よりも優れた特性が期待されている。例えば近年普及してきた液晶表示装置と比較しても、自発光型であるためバックライトを必要しない点や、視野角が広い点が優れている。
【0008】
出願人らは、上記従来技術に記載したものを始めとして、種種の材料、製法、構造の冷陰極素子の製造を試みてきた。更に、多数の冷陰極素子を配列したマルチ電子源、並びにこのマルチ電子源を応用した画像表示装置について研究を行ってきた。
【0009】
例として、図16に示すマルチ電子源について説明する。これは、冷陰極素子を2次元的に多数個配列し、これらの素子を図示のようにマトリクス状に配線したマルチ電子源である。図中、冷陰極素子4001は、行配線4002および列配線4003を用いてマトリクス状に配置されている。行配線4002及び列配線4003は、実際には有限の電気抵抗を有するものであるが、図においては配線抵抗4004及び4005として示されている。このような配線方法を、単純マトリクス配線と呼ぶ。尚、図示の便宜上縦6列、横6行のマトリクスで示しているが、マトリクスの規模はこれに限ったわけではなく、例えば画像表示装置用のマルチ電子源の場合には、所望の画像表示を行うのに必要なだけの素子を配置し配線することができる。
【0010】
冷陰極素子を単純マトリクス配線したマルチ電子源において所望の電子ビームを出力させるためには、行配線4002及び列配線4003に適宜の電気信号を印加する。例えば、マトリクスにおける任意の1行の冷陰極素子を駆動するには、選択する行の行配線4002には選択電圧Vsを印加し、同時に非選択の行の行配線4002には非選択電圧Vnsを印加する。これと同期して列配線4003に電子ビームを出力するための駆動電圧Veを印加する。この方法によれば、配線抵抗4004及び4005による電圧降下を無視すれば、選択する行の冷陰極素子には、(Ve−Vs)の電圧が印加される。又、非選択行の冷陰極素子には(Ve−Vns)の電圧が印加される。
【0011】
ここで、これらVe、Vs、Vnsの電圧値を適宜の大きさの電圧にすれば、選択する行の冷陰極素子だけから所望の強度の電子ビームが出力される。また列配線4003の各々に異なる駆動電圧Veを印加すれば、選択する行の素子の各々から異なる強度の電子ビームが出力される。又、冷陰極素子の応答速度は高速であるため、駆動電圧Veを印加する時間の長さを変えれば、電子ビームが出力される時間の長さも変えることができる。
【0012】
冷陰極素子を単純マトリクス配線したマルチ電子源がこのような特徴を持つことから、例えば、画像表示装置用の電子源として使用可能である。この場合、画像情報に応じた電気信号を適宜印加することにより画像を表示できる。
【0013】
一方で出願人らは、特に表面伝導型放出素子の特性を改善するための研究を鋭意行った結果、製造工程において通電活性化を行うことが効果的であることを見出した。すでに述べたように、表面伝導型放出素子の電子放出部を形成する際には通電フォーミング処理を行う。その後さらに通電活性化を行うことにより電子放出特性を大幅に改善することが可能である。ここで通電活性化とは、通電フォーミング処理により形成された電子放出部に適宜の条件で通電を行って、その近傍に炭素もしくは炭素化合物を堆積させる処理のことを言う。たとえば、適宜の分圧の有機物が存在する、全圧が1.0×10−4〜1.0×10−5torr(1.33×10−2〜1.33×10−3Pa)の真空雰囲気中にお
いて、電子放出部に電圧パルスを定期的に印加する。この処理により、電子放出部の近傍に単結晶グラファイト、多結晶グラファイト、非晶質カーボンのいずれか、もしくはその混合物を500オングストローム(50nm)以下の膜厚で堆積させる。ただし、この条件は一例であり、表面伝導型放出素子の材質や形状により適宜変更することができる。なお、通電活性化終了後には、真空雰囲気中の有機物の分圧を低減させるのが望ましい。
【0014】
この様な通電活性化を放出電流が目標値に達するまで繰り返し実行することにより、通電フォーミング直後と比較して、同じ印加電圧における放出電流を典型的には100倍以上に増加させることが可能である。従って、多数の表面伝導型放出素子を単純マトリクス配線したマルチ電子源を製造する際には、各素子に複数回の通電活性化を行うのが望ましい。
【0015】
ここで、通電活性化において素子に印加する電圧値は、素子に計測用パルスを印加した時に流れる活性化電流値に基づく演算により決定される。したがって、放出される電流値を増大させマルチ電子源上の各素子が均一な特性を持つよう形成するためには、印加した電圧に対する活性化電流値を正確に計測する必要がある。
【0016】
出願人らは、通電活性化時の活性化電流値を計測する方法として、例えば特開2000−251672号公報(特許文献5)に記載の手段を用いてきた。すなわち、まず通電活性化のときと同じ電圧値のパルスを電子放出素子に印加し、活性化電流値を計測する。かかる方法により通電活性化と並行して活性化電流値を計測できるので、この計測値に基づいて次回の通電活性化で印加する電圧を決定している。しかし、電子放出素子のI−V特性をより詳細に把握できれば、素子に印加すべき電圧を細かく調整でき、更に適切に通電活性化の工程を制御することが可能になると考えられる。
【特許文献1】特開昭64−31332号公報
【特許文献2】米国特許第5,066,883号明細書
【特許文献3】特開平2−257551号公報
【特許文献4】特開平4−28137号公報
【特許文献5】特開2000−251672号公報
【非特許文献1】W.P.Duke & W.W.Dolan, "Field emission", Advance in Electron Physics,8,89(1956)
【非特許文献2】C.A.Spindt, "Physical properties of thin-film field emission cathodes with molybdenium cones", J.Apple.Phys., 47,5248(1976)
【非特許文献3】C.A.Mead, "Operation if tunnel-emission Devices", J.Appl.Phys., 32,646(1961)
【非特許文献4】M.I.Elinson,Radio E-ng. Electron Phys.,10,1290(1965)
【非特許文献5】G.Ditter,"Thin Solid Films",9,317(1972)
【非特許文献6】M.Hartwell & C.G.Fonstad,"IEEE Trans.ED Cinf.",519(1975)
【非特許文献7】荒木久ほか "真空"第26巻、第1号、22(1983)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、電子放出素子のI−V特性を適切に把握し、通電活性化を効率的に実行できるような、電子放出素子及びマルチ電子源の製造方法および製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記目的を達成するために本発明の第一の発明は以下の構成を採用する。すなわち、
電子放出部を有する電子放出素子を用意するステップと、
複数回の通電活性化ステップとを含み、
前記通電活性化ステップは、
前記電子放出素子に、前記電子放出部からの放出電流を増加させるための活性化パルスを印加するサブステップと、
互いに異なる電圧値を持つ複数の部分パルスを連続させたパルスである計測パルスを、所定の印加時間だけ前記電子放出素子に印加し、前記電子放出素子に流れる電流である活性化電流を、各々の前記部分パルスごとに計測する計測サブステップと、
前記計測サブステップで得られた前記活性化電流の計測値、および、前記部分パルスの電圧値に基づいて、前記電子放出素子のI−V特性を推定する推定サブステップと、
次回の通電活性化ステップにおける前記活性化パルスの電圧値を、前記I−V特性に応じて決定するサブステップとを有する
ことを特徴とする電子放出素子の製造方法である。
【0019】
また、本発明の第二の発明は以下の構成を採用する。すなわち、
複数の行配線および複数の列配線を用いて複数の電子放出素子をマトリクス状に配置したマルチ電子源の製造方法であって、
前記複数の電子放出素子を前記第一の発明に記載の方法により製造したことを特徴とする、マルチ電子源の製造方法である。
【0020】
また、本発明の第三の発明は以下の構成を採用する。すなわち、
電子放出部を有する電子放出素子の製造装置であって、
前記電子放出素子に、前記電子放出部からの放出電流を増加させるための活性化パルス、および、互いに異なる電圧値を持つ複数のパルスが連続した計測パルスを印加する印加手段と、
前記印加手段が前記計測パルスを印加した時に前記電子放出素子に流れる活性化電流の電流値を計測する計測手段と、
所定の条件を満たすまで前記印加手段に対して前記活性化パルスおよび前記計測パルスの印加を繰り返し指令し、前記印加手段により印加した各々の前記部分パルスの電圧値および前記計測手段により得られた活性化電流の計測値から前記電子放出素子のI−V特性を推定し、次回の活性化パルス印加の際は前記I−V特性に基づいて活性化パルスの電圧値を決定する制御手段とを備える
ことを特徴とする電子放出素子の製造装置である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、電子放出素子の通電活性化において、当該電子放出素子のI−V特性を正確に把握し、通電活性化を効率的に実行することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に図面を参照して、この発明の好適な実施の形態を例示的に詳しく説明する。以下に示す実施の形態では、本発明の通電活性化方法をマトリクス状に配置された表面伝導型放出素子(以下、電子放出素子と記す)に適用した場合について説明している。
【0023】
図1は、以下の実施例における通電活性化処理を行うための駆動回路の製造装置の構成を示すブロック図である。本図に基づいて、各ブロックの機能と制御用データの流れを説明する。
【0024】
まず、パネル1は複数の電子放出素子を備えるパネルである。パネル1のガラス基板上には印刷配線等により行配線Dy1〜Dynおよび列配線Dx1〜Dxmからなるマトリクスが構成され、その交点部に電子放出素子が用意されている。
【0025】
列配線側ドライバー2は、列配線Dx1〜Dxmまでを駆動するドライバーである。列
配線側ドライバー2は、後述するパルス発生制御回路5が作成した垂直同期信号と、Xパルス波高値制御回路7が設定する列配線側の活性化パルスの波高値及びパルス長(パルス幅)データとを受け取る。次いで、駆動用ドライバー(不図示)を通して列配線Dx1〜Dxmに列配線側の活性化パルスを出力する。
【0026】
行配線側ドライバー3は、行配線Dy1〜Dynを駆動するドライバ−である。行配線側ドライバー3は、後述するパルス発生制御回路5が作成した水平同期信号と、Yパルス波高値制御回路6が設定する行配線側の活性化パルスの波高値及びパルス長(パルス幅)データとを受け取る。次いで、駆動用ドライバー(不図示)を通して行配線Dy1〜Dynに行配線側の活性化パルスを出力する。
【0027】
行配線側ドライバー3および列配線側ドライバー2の中には、パネル1の行配線および列配線それぞれ1本につき、1つのドライバーが構成されている。行配線側には、数A程度の駆動能力を持ったアンプ回路(不図示)がある。列配線側には、数百mA程度のアンプ回路(不図示)がある。又各ドライバー回路内にはアンプ回路用の電源系も存在する。
【0028】
次に、パルス発生制御回路5は、後述する制御回路8から波形データ信号Twを受け取っている。ここで、波形データ信号Twには、制御回路8内にて決定された活性化電圧データと、行配線及び列配線側の同期タイミングを取るための同期信号とが含まれる。活性化電圧データは、行方向と列方向のそれぞれに印加するパルスの波高値及びパルス長データのデータ列からなり、シリアル通信により高速転送される。本実施例では、差動型シリアル通信によるデータ転送を行い、数百Mpbsの通信レートを用いている。パルス発生制御回路5に入力された波形データ信号Twは、パラレルデータに変換後、パルス波高値用のメモリとパルス長用のメモリにそれぞれ格納される。さらに、同期信号を水平同期と垂直同期に分離した後、それぞれの同期信号に応じて波高値メモリとパルス長メモリから、行配線側にはY側パルス制御信号、列配線側にはX側パルス制御信号がパラレルに出力される。出力されたX側及びY側の各パルス制御信号には活性化パルスのデジタル信号データが含まれている。
【0029】
Y側パルス制御信号はYパルス波高値制御回路6に、X側パルス制御信号はXパルス波高値制御回路7に、それぞれ入力される。Yパルス波高値制御回路6とXパルス波高値制御回路7内には、D/Aコンバータ等のデジタル・アナログ変換回路と変換タイミングを行う回路を備えている。これにより、行配線側にはYp信号、列配線側にはXp信号の各アナログデータとして行、列のドライバーに出力されている。
【0030】
電流検出回路4は、行配線側ドライバー3と列配線側ドライバー2内に構成された電流検知回路から出力される活性化電流値のデータを受け取る。このデータは、通電活性化処理で電圧を印加したことによりマトリクスの行配線及び列配線に流れる活性化電流値を示す。行配線及び列配線電流検出回路4は、これらの活性化電流値をデータ変換して、それぞれ制御回路8に出力する。本実施例では、各ドライバー内にA/Dコンバータが存在し、電流データをデジタルデータとしてシリアル転送して電流検出回路4に入力した後、行、列の電流値データを行用及び列用のメモリに一旦ストアする。また、制御回路8からの要求によって所定の電流データを出力するようなインターフェイス回路も設けている。
【0031】
制御回路8は、CPU9、到達活性化電流用データメモリ10、および電流遅延量データメモリ11によって構成されている。CPU9は、一連の処理において行配線、列配線側に印加する活性化電圧及びパルス長の演算決定とその指令、更に各ブロックの駆動制御を行っている。活性化電圧の演算決定においては、計測された活性化電流値をもとにしている。又、到達活性化電流用データメモリ10は、予め各部分パルスのパルス長を充分長くした場合に行配線側に流れる電流の収束値である到達活性化電流値Ifと、電流遅延量
τとの相関データをストアするためのメモリである。又、電流遅延量データメモリ11は、各部分パルスのパルス長を短縮した場合の、活性化電流Ifbと前記電流遅延量τとの相関データをストアするためのメモリである。該相関データは、CPU9が、前記到達活性化電流用メモリ10にストアした電流遅延量τから演算によって求めたものである。
【0032】
<実施例1>
実際の通電活性化においては、行配線については、活性化パルスと階段状の計測パルスを印加し、列配線に対しては、行配線と極性を逆にした同位相のパルスを印加する。これにより選択中の行に対する通電活性化がなされる。続いて、走査駆動によって選択対象の行配線を切り替え、順次パルスを印加していく。このような制御を行うことで、マトリクス状に構成されたマルチ電子源の個々の素子におけるI−V特性等を詳細に求めることができる。又I−V特性から素子内の亀裂に印加される電界値(β値)をも算出することが可能となる。この制御シーケンスについて、図2を参照しつつ詳細に説明する。
【0033】
通電活性化においては、行配線Dy1〜Dynに対して、いわゆる走査駆動を行う。すなわち、各行に対応した行配線側ドライバー3が、順次、パルスを一波形づつ印加していく。ここで、Dy1〜DysはCPU9により選択された任意の行配線ライン番号に相当し、走査駆動をDy1〜Dysまで行う時間を1周期としている。例えば1波形を200μsecとし、Dysを10ラインと設定し走査駆動を行うと、1周期は1波形×10ライン=2msecとなる。
【0034】
例えば行配線の全ライン数を1000ラインとし、上記のように行配線の10ラインを1グループの単位として走査駆動を行う場合は、走査する順番としては、1グループ、2グループ、・・・100グループの順で駆動することになる。このときの走査駆動時間の合計は、1周期×100グループ分となる。なお、制御シーケンスはこの例に限られるものではなく、プロセスレシピにおいて任意に変更することができる。例えば、1グループ内のライン数を変更したり、ライン番号を連続的ではなく分散して選択しても良い。
【0035】
列配線側については、前述の走査駆動により選択した行配線に対して、列配線駆動ラインDx1〜Dxmの全てから活性化パルスを印加する。また、行配線側の活性化パルス印加と列配線側の活性化パルス印加は常に同期しているため、列配線側は全ラインに渡ってほぼ定常的に電圧出力がされていることになる。
【0036】
次に、行配線側の活性化パルス波高値を決定する方法について説明する。例えばラインDy1について見ると、まず行配線にパルスを印加し、活性化電流値を計測する。続いて電流計測の矢印が示すように、計測電流値は、電流検出回路4を通してCPU9に取り込まれる。続いてCPU9は、1周期後に再度Dy1の行配線に印加すべきパルス波高値を決定するための計算処理を行う。続いてCPU9は、電圧指令の矢印が示すように、計算した電圧値のパルスを印加するよう指令を出す。以上の一連の処理を、活性化電流値が所定の値に達するまで繰り返すことにより所望の特性を持つ電子放出素子を形成することができる。CPU9はまた、Dy2、Dy3、・・Dysにおいても同様に、上記の電流計測と計算処理を繰り返し行っている。
【0037】
ここで、行配線及び列配線に印加するパルスの形状について説明する。図3に、一波形で印加するパルスを模式的に示した。一波形は一回の通電活性化ステップに当たり、活性化パルスと計測パルスからなっている。活性化パルスは電子放出部からの放出電流を増加させる目的で印加され、計測パルスは印加時に素子に流れる活性化電流を計測する目的で計測サブステップにおいて印加される。
【0038】
計測パルスの形状は本実施例に特徴的なものである。計測パルスは、互いに異なる電圧
値を持つ部分パルスがV1からV5まで連続した形状をしている。また、各部分パルスの電圧値はV1からV5へと移行するにつれて漸次低下して階段状の波形となっている。
【0039】
また、行配線と列配線とで、それぞれ極性反転したパルスを印加することにより、マトリクス上の交点に構成された電子放出素子に適切な活性化電圧が印加される。
【0040】
活性化パルスV0を印加した時に計測された電流値I0は、選択された行配線での電子放出素子の、活性化加工処理時の電流値として取り込まれる。このI0と、各部分パルスV1〜V5を印加した時の電流値I1〜I5は、各電子放出素子のI−V特性を測定するための電流値として利用される。
【0041】
続いてCPU9は推定サブステップとして、各部分パルスの電圧値V1〜V5と活性化電流の計測値I1〜I5とに基づいて、電子放出素子のI−V特性を推定する。
【0042】
次にCPU9は、推定したI−V特性に応じて電子放出素子に印加する活性化パルスの電圧値を決定するための計算処理を行う。又、I0で測定された電流値から、マトリクス配線内の抵抗値が原因で生じる電圧降下分を見込んで電圧を補正するフィードバック制御も行っている。これらの制御により、各電子放出素子に印加する活性化パルスおよび各部分パルスの電圧値は、最適な値となっている。
【0043】
図4に、本実施例の制御シーケンスを実行した場合の活性化電流値プロファイルの一例を示す。図4では、横軸に活性化時間および活性化パルス数を示し、縦軸に各行配線側に流れる電流値を、活性化電流値(図3におけるI0値)として示した。また、活性化時間に応じた活性化電圧(図3におけるV0値)をプロットした。活性化電流値は活性化時間もしくは活性化パルス数の増加に伴い徐々に増加する傾向を示しており、電子放出素子のインピーダンスが変化していることがわかる。活性化の終了条件としては、活性化電流値が所定の電流値に達したことを確認した場合もしくは、活性化時間や活性化パルス数によって条件を設定することができる。
【0044】
このように本実施例では、階段状の計測パルスを用いることにより、各部分パルスの電圧値に対応した複数の電流値を得られるので、電子放出素子のI−V特性を正確に把握することが可能になる。それにより活性化パルスの波高値が最適になるように決定できる。
【0045】
<実施例2>
(通電活性化時の電流遅延)
階段状の波形を用いた通電活性化の制御において、以下に説明するような現象が起きる。ここで図5に、通電活性化時に計測パルスを印加して計測された電流波形を示す。ここで横軸は時間を、縦軸は電圧印加時に行配線に流れる電流値を表し、図中のI1〜I5はそれぞれ図3における部分パルスV1〜V5に対応している。
【0046】
この計測結果から、電圧印加に対して電流の上昇が遅延していることが判明した。また、電流の遅延量は、電圧波高値に応じて変化していることがわかる。これは、通電活性化時に行配線に印加する電圧が大きい程、素子に流れる電流値が増加するため電流遅延量も大きくなってしまうからである。図5において、電圧V1〜V5印加時の電流値I1〜I5に応じて、電流遅延量τの各値τ1〜τ5が変化している。
【0047】
ここで、電流遅延量τは時定数と等価であるものとする。時定数とは、一般的にL成分とR成分によって決定される電気的な過渡電流の変化の速さを表したものである。本制御方法においては、マトリクス配線のL、R値及び表面伝導型放出素子のR値、更に制御装置内の駆動配線が持つL、R値によって決まると考えられる。本制御方法において、制御
装置内の駆動配線のL、R値、及びマトリクス配線のL、R値は一定である。
【0048】
このように電流計測において電流遅延が発生することから、その影響をなくすための対応が必要となる。例えば図5では、I1において電流遅延量τ=16μsecが計測されている。この時に印加する電圧パルスは、電流遅延量に対して充分長いパルス長が必要である。具体的には、τの値に対して約5倍のパルス長を印加してやることで電流遅延の影響をなくすことが可能である。つまり、I1においては16×5=80μsecの長さのパルスを印加する必要がある。I2〜I5についても同様にパルス長を長くして電流遅延の影響を取り除いた場合、計測パルス全体では数百μsecのパルス長が必要となる。これは素子を活性化させるための通電活性化パルスのパルス長と比べて、同等もしくはそれ以上の長さである。
【0049】
通電活性化では各素子の電流値が安定した領域になるまで繰り返し処理を行う必要があり、合計で数万〜数十万の活性化パルスを印加する場合もある。従って、上記のように電流計測のパルス長を長くした場合、合計すると完了までのプロセスタクトが大幅に遅延してしまう。量産時にはこの様なプロセスタクトを長くする要因を極力取り除く必要がある。そこで本実施例において、電流遅延量を計算し、通電活性化に要する時間を短縮する方法を説明する。なお、製造装置の構成や各部の機能、基本的な駆動制御などは実施例1と同様であり、記載を省略する。
【0050】
(電流遅延量の測定方法)
まず準備として、電子放出素子の電流遅延量を予め測定するための方法について説明する。図6に一回の処理で行配線方向に印加する電圧の波形と、行配線に流れ込む電流の波形を示した。活性化波形は、図3と同様に活性化パルス(V0)と、活性化電流を計測するための階段波形状の計測パルス(V1〜V5)が印加される。
【0051】
本実施の形態において、マトリクス上に構成された電子放出素子における、各々の活性化電流値に対応した電流遅延量τの計測を行う。そのために、まず、電流が収束するのに必要な時間を確保できるように、各部分パルスのパルス長を数十μsec程度とした計測パルスを印加する。次に、各部分パルスの印加に対応して素子に流れる電流値を計測する。
【0052】
例えば、V1における電流値I1の中に、I1a〜I1eまでの5箇所の計測ポイントを設ける。このように複数の計測ポイントで電流を計測することによって電流値I1における電流遅延量τを正確に求めることができる。計測ポイントは、V1の全体のパルス長に対して、印加後の20%の位置にI1aを設定する。同様にI1bを40%、I1cを60%、I1dを80%、I1eを100%の位置に設定する。
【0053】
活性化時での電流遅延は、電子放出素子のR成分、マトリクス配線でのL、R成分、および装置上における駆動配線ケーブル分のL、Rによって決定される。これは、いわゆるL−R直列回路と等価とみなすことができる。従って電圧を印加したパルス波形に対する電流変化の式としてはi=I(1-et/τ)が成り立つ。ここで、tはパルスの印加時間(sec)を示す。また、Iは印加した電圧値に対応して流れる電流値を示し、I1eの位置で計測された電流値である。又、τは電流遅延量で、τ=L/Rの値に近似される。以上の様
に、5つの計測ポイントで求められた各電流値iから、上記の式に沿って演算もしくは各電流値をフィッティングすることで、電流遅延量τを求めることが可能である。
【0054】
上記の方法で電圧値V0〜V5において計測を行うことで、活性化電流値I0〜I5のそれぞれの電流遅延量τ0〜τ5を求めることができる。以上の計測を行った結果を図7に示す。図7は横軸に計測した活性化電流値I0〜I5、縦軸に電流遅延量τ0〜τ5を
プロットし、フィッティングしたグラフである。横軸の活性化電流値は充分な収束時間が経過した後の収束値を取るものとし、例えば電圧値V1の部分パルスに対しては、I1eの値を採用する。このグラフから、電流遅延量τは、活性化電流が比較的小さい場合の変化と、比較的大きい場合の変化に違いがあることがわかる。特に活性化電流値が所定の値以上のとき(図7ではI2以上の値を示した時)、グラフほぼ直線であることがわかる。
【0055】
(パルス長短縮時の電流遅延量の演算方法)
次に、フィッティングによって求められたτの値を用いて、パルス長を短くした時の活性化電流値に対する電流遅延量τの関係を求める。図8は一例であり、パルス長が10μsec程度の場合の、活性化電流値と電流遅延量τの関係式を演算によって求め、グラフ化したものである。パルス長を短くした場合での活性化電流値は、前記した式i=I(1-et/
τ)の関係から求めることができる。パルス長を短くしたときの印加時間tには10μs
ecを代入し、電流遅延量τと到達活性化電流値Iは図7から求められるので、演算により図8のようなグラフを得ることができる。パルス長を短くした場合の活性化電流値に対する電流遅延量τも、パルス長が充分長い場合と同様に活性化電流値が所定の値以上となったときにほぼ直線で推移している。
【0056】
次に、図9は図8で示した電流遅延量τのグラフから、所定の値以上で活性化電流が流れた時に変化する電流遅延量τを拡大プロットしたものである。このグラフから電流遅延量τは、活性化電流値が所定の値以上の場合には、直線に近似できることがわかった。従って近似式y=Ax+Bを求めることで、活性化電流値が所定の値以上に計測された場合には
、上記の近似式を用いて電流遅延量τを求めることが可能である。
【0057】
以上の様に、あらかじめ、各部分パルスのパルス長が充分長い計測パルスを印加し、複数の計測ポイントの電流計測値から電流遅延量τを求める。次に、電流計測値と電流遅延量τとの関係を求める。次に、実際に活性化プロセスで印加しうる短いパルス長に対しての活性化電流値と電流遅延量τの関係を演算する。そして、演算結果から、電流遅延量τの変化が直線近似できる活性化電流値の範囲(関係式有効範囲)と当該直線近似式(関係式)を求める。これにより、活性化プロセスで印加しうる短いパルス長の各部分パルスでの電流遅延量τを決定することが可能となる。本実施例では、プロセス上で印加される各部分パルスのパルス長は、予め到達活性化電流を計測した時のパルス長よりも充分短いものである。
【0058】
なお、図6や図3における活性化パルスV0は、活性化処理を行う加工パルスである。V0のパルス長は固定値であり、電流遅延量τに対して充分長い波形が印加されている。
【0059】
又、前述したように、図7にて得られる電流遅延量τの特性は、電子放出素子のR成分、マトリクス配線でのL、R成分、および装置上における駆動配線ケーブル分のL、R成分によって決定される。ここで、生産時のプロセス等で電子放出素子のR成分(素子膜厚や素子形状)やマトリクス配線でのL、R値(配線幅、配線膜厚、材料等)が工程上管理されている場合には、電流遅延量τがパネルごとのプロセスで変動する要因がほとんどない。従って、生産ロット単位で見た場合には、例えば最初の1枚目のパネルプロセスで、図6で示した波形を用いて電流遅延量τを計測しておけば、パネルごとに計測する必要はなく、前回のデータが以後のパネルプロセスで流用できる。
【0060】
(通電活性化の具体的手順)
次に、本実施例で行った通電活性化について説明する。まず図10のフローチャートを用いて、量産に先立って予めロット内の1パネルに対して所定の計測を行い、電子放出素子の特性を求める手順について述べる。これは本発明の準備ステップに相当する。
【0061】
まず、P01において、各部分パルスのパルス長を充分長くした計測パルスを印加する。本実施例において各部分パルスV1〜V5のパルス長(以後Pwと記す)は、Pw=100μsecとした。これは、活性化電流値I1〜I5が収束するのに充分な長さを見込んだものである。
【0062】
次に、P02において、計測した到達活性化電流値Ifに基づいて電流遅延量τを求める。前述した図6と同様に、部分パルスごとに計測ポイントを設定して電流値を計測し、得られた電流値から電流遅延量τを算出する。なお、本実施例においても図6の説明と同様に、計測ポイントは5カ所とし、部分パルス印加開始からの時間も図6と同じとした。以上の様にして求めたグラフを、図11に示す。各部分パルスに応じて流れる活性化電流値Ifと電流遅延量τとの関係をプロットし、フィッティングすることにより、活性化電流に対する電流遅延量τを求めることができる。本実施例によれば、電流遅延量τは20μsec以下で収まることが判り、設定したPw=100μsecは電流が飽和するのに充分な値であることが確認できた。
【0063】
次に、P03において、この相関データを到達活性化電流用データメモリ10にストアする。
【0064】
次に、P04において、P02で得られた電流遅延量τと到達活性化電流Ifの相関データに基づいて、パルス長Pw=10μsec時での活性化電流値を求める。この結果を図12に示す。演算手段としては、前述した式i=I(1-et/τ)を使って求める方法を用いた。これにより、部分パルスのパルス長を10μsecに短縮した場合の電流遅延量τを求めることができる。
【0065】
次に、P05において、P04で得られた相関データを電流遅延量データメモリ11にストアする。
【0066】
次に、P06において、相関データが直線で近似できる領域を求める。ここで図12のグラフを見ると、活性化電流値が1A以上の領域では、当該活性化電流値と電流遅延量τがほぼ比例していることが判る。図13に、活性化電流値>1Aの部分を抜き出したグラフを示す。これによると、電流遅延量τは1A以上の活性化電流値でほぼ直線的に変化しており、グラフより直線近似式を求めることができる。活性化電流値をx、電流遅延量をyとすると、近似式は、y=0.8879x+15.013となる。又この直線近似の相関係数はR=0.985となり、近似式に対する誤差が2%以下と小さい。以上より、上記の関係式中、活性化電流値1A以上の値域においては、直線近似式を用いて電流遅延量τを決定することについて精度上問題ないことを確認した。なお、本発明における所定以上の相関があるような関係式有効範囲とは、上記1A以上の値域をいう。
【0067】
以上のように予め準備ステップP01〜P06で、10μsecのパルス印加時の活性化電流値と電流遅延量τとの関係式を求めた上で、通電活性化を実行する。これを図14のフローチャートを用いて説明する。
【0068】
まず、S01において、電子放出素子に放出電流を増加させるための活性化パルスを印加する。
【0069】
次に、S02において、電子放出素子に各部分パルスのパルス長Pw=80μsecとして計測パルスを印加する。計測パルス全体では5×80μsec=400μsecとなる。複数回の通電活性化のうち初期の段階では活性化電流値が充分に上がっていない。そのため、図11に示すように活性化電流値の変化に対する電流遅延量τの変化が大きく、敏感度が高いことがわかる。そこで、プロセス初期の活性化電流が所定の電流値になるま
での間は、部分パルスのパルス長を電流の収束時間に対して充分に長くする必要がある。具体的には、各部分パルスのパルス長での電流遅延量τに対して約5倍程度とする。電流計測ポイントは、パルスの立ち上がりからほぼ100%の位置(図6においてはI1eの位置)に設定することとした。それにより得られる活性化電流値の収束値を、各部分パルスの設定電圧における到達活性化電流値とする。又、活性化開始時に行配線側に印加する電圧は、V0=−22v、V1=−21v、V2=−20.7v、V3=−20v、V4=−19.5、V5=−11vとした。S02は本発明の計測サブステップに当たり、S02を含む通電活性化は第二の通電活性化ステップに該当する。
【0070】
次に、S03において、計測された活性化電流値の値に基づいて、次回の通電活性化ステップにおける部分パルスのパルス長を決定する。具体的には、電圧値V0における活性化電流値が2A以上なのか2Aより小さいのかを判定する。ここで図13に示した活性化電流値と電流遅延量τの関係から、活性化電流値が1.0A以上であれば、Pw=10μsecでの電流遅延量τを直線の関係式で近似できることが判っている。この値からS1で印加したパルス長に相当する活性化電流値を算出すると、If=2Aとなる。従って判定結果がIf>=2Aであれば、以後の各部分パルスのパルス長をPw=10μsecとして設定できる。この場合、以降の通電活性化ステップは本発明における第一の通電活性化ステップとなる。かかる判断は、本発明においては計測時間制御ステップにおいてなされるものである。また、本発明に言う切り替え条件は活性化電流値と2Aとの比較結果に当たる。
【0071】
If<2Aであり第二の通電活性化ステップを継続する場合、次に、S04においてI−V特性の推定が、S05において活性化電圧の決定がなされる。方法は図2を用いた制御シーケンスの説明に記載したものと同様である。まず、選択したラインに対して次の選択がなされる間(1周期)に、各部分パルスでの活性化電圧値と測定した電流値とに基づいて素子のI−V特性を求める。続いてI−V特性に基づいて最適な活性化パルスの電圧値を算出する。この際にはマトリクス内の配線抵抗による電圧降下分の補償も勘案される。
【0072】
次に、S01に戻り、S05で決定した電圧値を持つ活性化パルスを印加し、第二の通電活性化ステップを繰り返す。
【0073】
一方If>=2Aとなり第一の通電活性化ステップに移行する場合、次に、S06において、活性化パルスを印加する。電圧値V0における活性化パルス長はS1と同じとする。
【0074】
次に、S07において、各部分パルスのパルス長Pw=10μsecとして計測パルスを印加する。計測パルス全体としては5×10=50μsecとなる。したがって、S02で設定した400μsecの計測パルス長に対して、350μsecが短縮される。本発明における第一の時間とは、本実施例においては10μsecとなる。
【0075】
次に、S08において、電圧値V0に対する活性化電流値が電子放出素子の目標値に到達したかどうか判定する。到達していれば当該素子に対する通電活性化は終了する。
【0076】
一方到達していなければ、通電活性化を続行する。次に、S09において、上で設定したPw=10μsecに対する行配線の活性化電流を計測し、電流遅延量τを算出する。電流計測の際は、サンプリング数及び電流計測ポイントはS02と同様で、部分パルスのPw=10μsecとした。この計測値を、図10のP05で求めておいた直線近似式(図13)に当てはめることで、電流遅延量τを決定する。例えば、S07における活性化電流の測定値が1Aの場合には、電流遅延量τはτ=15.9μsecになる。
【0077】
次に、S10において、到達活性化電流値Ifを求める。具体的には、図10のP03においてデータメモリ10にストアした電流遅延量τと活性化電流値との関係式(図11)に、S09で求めた電流遅延量τを当てはめて算出する。上記τ=15.9μsecの電流遅延量に対しては、電流が収束した場合の活性化電流値が2.4Aとなることが判る。
【0078】
次に、S11において、この様にして求めた活性化電流の収束値を用いてI−V特性を求める。次に、S12において、次回に印加する活性化パルスの電圧値を決定する。
【0079】
次に、S06に戻り、S12で決定した電圧値を持つ活性化パルスを印加し、第一の通電活性化ステップを繰り返す。
【0080】
以上の様に、電流計測における部分パルスのパルス長を短縮することで、活性化処理の時間を短縮することが可能となり、量産時でのプロセスタクトが短縮される。具体的なプロセスタクト短縮効果を、電流を収束させるために充分な部分パルスのパルス長を確保した場合と、部分パルスのパルス長を短縮した場合との比較により計算する。前者では、1回の通電活性化ステップに要する時間は約500μsecであるのに対して、後者では約300μsecである。すなわち、約40%のプロセスタクトの短縮が実現する。
【0081】
なお、本実施例では部分パルスのPw=10μsecしたが、特にこれに限定されるものではなく、予め測定した電流遅延量τと活性化電流値との関係に基づいて変更しても良い。又、各部分パルスのパルス長を必ずしも統一する必要はない。例えば活性化電流値が非常に小さいV5においては、もともとの電流遅延量が2μsec程度であることから、S1の時からパルス長を10μsecに設定することも可能である。
【0082】
<実施例3>
次に実施例3について説明する。実施例3が実施例2と異なる点は、図14のステップS03における判定を、素子に印加した活性化処理時間の合計が所定の時間に達したかどうかによって行う点である。
【0083】
図4の活性化プロファイルを参照して活性化処理時間の合計と到達活性化電流値の関係を検討すると、合計時間が約15min(B点)に達した時に、電流値が2Aに到達することが分かる。そこで、電流値と合計時間を直線近似できるかどうかの判定基準として、合計時間が15minに達したかどうかを用いることができる。すなわち、活性化処理時間の合計が15minを超えていれば、部分パルスのパルス長を10μsecに短縮することが可能である。
【0084】
なお、当該S03ステップの判定基準以外は、活性化における駆動回路や制御方法はいずれも実施例2と同じであり、説明を省略する。
【0085】
以上の様に、活性化処理の合計時間を判定基準にして、合計が一定以上の時間に達したのちの部分パルスのパルス長を短縮できる。これにより活性化電流を計測する時間を短縮し、量産時のプロセスタクトを改善することができる。
【0086】
<実施例4>
次に実施例4について説明する。実施例4が実施例2と異なる点は、図14のステップS03における判定を、素子に印加した活性化パルス数の合計が所定の回数に達したかどうかによって行う点である。
【0087】
図4の活性化プロファイルを参照して活性化パルスの合計数と到達活性化電流値の関係を検討すると、合計回数が約13000回(C点)に達した時に、電流値が2Aに到達することが分かる。そこで、電流値と合計時間を直線近似できるかどうかの判定基準として、合計数が13000回に達したかどうかを用いることができる。すなわち、活性化パルスの合計数が13000回を超えていれば、部分パルスのパルス長を10μsecに短縮することが可能である。
【0088】
なお、当該S03ステップの判定基準以外は、活性化における駆動回路や制御方法はいずれも実施例2と同じであり、説明を省略する。
【0089】
以上の様に、活性化パルスの合計数を判定基準にして、合計が一定以上の回数に達したのちの部分パルスのパルス長を短縮できる。これにより活性化電流を計測する時間を短縮し、量産時のプロセスタクトを改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】通電活性化処理を行うための駆動回路を表すブロック図。
【図2】通電活性化処理の駆動方法を表すタイミングチャート。
【図3】通電活性化処理において行配線および列配線側に印加する波形を示す図。
【図4】通電活性化処理での活性化電流プロファイルを表すグラフ。
【図5】電流計測の際に階段波形部での電流遅延データを示すグラフ。
【図6】通電活性化処理および電流計測における電圧と電流のプロファイルを表すグラフ。
【図7】電流遅延量τと活性化電流値の関係を表すグラフ。
【図8】パルス長を短縮したときの電流遅延量を示すグラフ。
【図9】電流遅延量τと活性化電流値の関係が直線的に近似される領域を表すグラフ。
【図10】実施例2の通電活性化処理の準備を表すフローチャート。
【図11】実施例2での電流遅延量τと行配線側の到達活性化電流値をプロットしたグラフ。
【図12】実施例2でのパルス長10μsecでの電流遅延量τを示したグラフ。
【図13】実施例2でのパルス長10μsecでの電流遅延量τを近似したグラフ。
【図14】実施例2の通電活性化処理を表すフローチャート。
【図15】従来技術である電子放出素子の典型例を表す模式図。
【図16】従来のマルチ電子源のマトリクス配線図。
【符号の説明】
【0091】
1 パネル
2 列配線側ドライバー
3 行配線側ドライバー
4 行配線及び列配線電流検出回路
8 制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子放出部を有する電子放出素子を用意するステップと、
複数回の通電活性化ステップとを含み、
前記通電活性化ステップは、
前記電子放出素子に、前記電子放出部からの放出電流を増加させるための活性化パルスを印加するサブステップと、
互いに異なる電圧値を持つ複数の部分パルスを連続させたパルスである計測パルスを、所定の印加時間だけ前記電子放出素子に印加し、前記電子放出素子に流れる電流である活性化電流を、各々の前記部分パルスごとに計測する計測サブステップと、
前記計測サブステップで得られた前記活性化電流の計測値、および、前記部分パルスの電圧値に基づいて、前記電子放出素子のI−V特性を推定する推定サブステップと、
次回の通電活性化ステップにおける前記活性化パルスの電圧値を、前記I−V特性に応じて決定するサブステップとを有する
ことを特徴とする電子放出素子の製造方法。
【請求項2】
前記複数の部分パルスの電圧値は、部分パルスごとに漸次低下していく
ことを特徴とする請求項1に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項3】
前記複数回の通電活性化ステップは、部分パルスの印加時間を、前記部分パルスを印加してから活性化電流が収束するまでの収束時間よりも短い時間である第一の時間とした、第一の通電活性化ステップを含み、
前記第一の通電活性化ステップにおける前記推定サブステップは、
前記第一の時間における活性化電流の値と電流遅延量との間の、予め求められている関係式を用いて、前記活性化電流の計測値から収束値を算出し、
前記活性化電流の収束値、および、前記部分パルスの電圧値に基づいて、前記電子放出素子の前記I−V特性を推定する
ことを特徴とする請求項2に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項4】
前記複数回の通電活性化ステップは、前記収束時間よりも前記部分パルスの印加時間のほうが長い第二の通電活性化ステップを含み、
所定の切り替え条件が満たされた場合に前記第二の通電活性化ステップから前記第一の通電活性化ステップへ切り替える制御を行う計測時間制御ステップをさらに有する
ことを特徴とする請求項3に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項5】
通電活性化ステップに先立って、前記関係式、および、前記関係式中で前記活性化電流の値と前記電流遅延量との間に所定以上の相関があるような前記活性化電流の値域である関係式有効範囲を求める準備ステップをさらに有し、
前記所定の切り替え条件とは、前記計測ステップで得られた活性化電流の計測値が、前記関係式有効範囲に含まれることである
ことを特徴とする請求項4に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項6】
前記計測時間制御ステップにおける前記所定の切り替え条件は、
前回の通電活性化ステップが完了するまでに、電子放出素子に印加した前記活性化パルスの合計数が所定の値に達したことである
ことを特徴とする請求項4に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項7】
前記計測時間制御ステップにおける前記所定の切り替え条件は、
前回の通電活性化ステップが完了するまでに、電子放出素子に印加した前記活性化パルスの合計時間が所定の値に達したことである
ことを特徴とする請求項4に記載の電子放出素子の製造方法。
【請求項8】
複数の行配線および複数の列配線を用いて複数の電子放出素子をマトリクス状に配置したマルチ電子源の製造方法であって、
前記複数の電子放出素子を請求項1ないし7のいずれかに記載の方法により製造することを特徴とするマルチ電子源の製造方法。
【請求項9】
電子放出部を有する電子放出素子の製造装置であって、
前記電子放出素子に、前記電子放出部からの放出電流を増加させるための活性化パルス、および、互いに異なる電圧値を持つ複数のパルスが連続した計測パルスを印加する印加手段と、
前記印加手段が前記計測パルスを印加した時に前記電子放出素子に流れる活性化電流の電流値を計測する計測手段と、
所定の条件を満たすまで前記印加手段に対して前記活性化パルスおよび前記計測パルスの印加を繰り返し指令し、前記印加手段により印加した各々の前記部分パルスの電圧値および前記計測手段により得られた活性化電流の計測値から前記電子放出素子のI−V特性を推定し、次回の活性化パルス印加の際は前記I−V特性に基づいて活性化パルスの電圧値を決定する制御手段とを備える
ことを特徴とする電子放出素子の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−259633(P2009−259633A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−107921(P2008−107921)
【出願日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】