説明

電子機器および発振ユニット

【課題】特定の視聴者のみに充分な音量の音波を提供することができる携帯電話機などの電子機器を提供する。
【解決手段】携帯電話機100は、視聴者CUの位置を画像認識してスピーカユニット110の高指向性の音波の出力方向を制御する。このため、周囲に騒音を発生することなく、特定の視聴者CUのみに充分な音量の音波を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話機などの電子機器に関し、特に、スピーカユニットを備えた電子機器、その発振ユニット、に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機やノート型コンピュータなどの携帯型の電子機器の需要が拡大している。このような電子機器では、テレビ電話や動画再生、ハンズフリー電話などの音響機能を商品価値とした薄型の携帯端末の開発が進められている。このような開発の中、音響部品である電気音響変換器(スピーカ装置)に対し、プライバシー音源を実現する手法として超音波を利用したパラメトリックスピーカが開発されている。このスピーカは超音波が発振されるため指向性が高く視聴者がいる特定方向のみに音波情報を伝達することができる。
【0003】
現在、上述のような発振装置として各種の提案がある(特許文献1,2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再特WO2005−076661号公報
【特許文献2】特開2007−007172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したパラメトリックスピーカは、特定の方位角に音波が集中するため、視聴者は最適な位置になるように自身で位置の移動や方向を調整する必要があった。
【0006】
本発明は上述のような課題に鑑みてなされたものであり、特定の視聴者のみに充分な音量の音波を適切に提供することができる携帯電話機などの電子機器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の電子機器は、高指向性の音波の出力方向を制御自在なスピーカユニットと、視聴者の画像を撮像する画像撮像デバイスと、撮像された視聴者の位置を画像認識する画像認識手段と、画像認識された視聴者の位置に対応してスピーカユニットの音波の出力方向を制御する指向性制御手段と、を有する。
【0008】
本発明の発振ユニットは、本発明の電子機器の発振ユニットであって、高指向性の音波の出力方向を制御自在なスピーカユニットと、画像認識された視聴者の位置に対応してスピーカユニットの音波の出力方向を制御する指向性制御手段と、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電子機器では、視聴者の位置を画像認識してスピーカユニットの高指向性の音波の出力方向を制御する。このため、周囲に騒音を発生することなく、特定の視聴者のみに充分な音量の音波を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態の電子機器である携帯電話機の回路構造を示す模式的なブロック図である。
【図2】携帯電話機によるスピーカユニットの制御方法を示す模式図である。
【図3】スピーカユニットの圧電振動子の構造を示す縦断側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。本実施の形態の電子機器である携帯電話機100は、図1に示すように、高指向性の音波の出力方向を制御自在なスピーカユニット110と、視聴者CUの画像を撮像する画像撮像デバイス120と、視聴者CUの位置を画像認識する画像認識部130と、画像認識された視聴者CUの位置に対応してスピーカユニット110の音波の出力方向を制御する指向性制御部140と、を有する。
【0012】
画像認識部130は、視聴者CUの顔面の方向を画像認識し、指向性制御部140は、認識された顔面の方向に対応してスピーカユニット110の音波の出力方向を制御する。
【0013】
より詳細には、スピーカユニット110は、ステレオ音波を出力し、画像認識部130は、視聴者CUの一対の耳ERの位置を画像認識し、指向性制御部140は、認識された一対の耳ERの位置に対応してスピーカユニット110の一対のステレオ音波の出力方向を制御する。
【0014】
なお、スピーカユニット110は、図2に示すように、複数の圧電振動子111がマトリクス状に配列されたパラメトリックスピーカからなり、指向性制御部140は、認識された一対の耳ERの位置に対応して複数の圧電振動子111を選択的に駆動する。
【0015】
より具体的には、本実施の形態の携帯電話機100は、図2に示すように、縦長の本体ハウジング101の前面にディスプレイユニット102とスピーカユニット110とが配置されている。
【0016】
画像認識部130と指向性制御部140とは、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等のLSI(Large Scale Integration)などからなる。画像認識部130は、CCD(Charge Coupled Device)カメラ等からなる画像撮像デバイス120の撮像画像から視聴者CUの一対の耳ERの位置と方向を画像認識する。指向性制御部140は、図2に示すように、画像認識された一対の耳ERの位置と方向に対応してスピーカユニット110の複数の圧電振動子111を選択的に駆動することで、高指向性のステレオ音波を所望の方向に出力する。
【0017】
圧電振動子111は、図3に示すように、支持フレーム112、この支持フレーム112で支持されている弾性部材113、この弾性部材113に一面が拘束されている圧電素子114、からなる。なお、圧電素子114は、圧電効果を有する材料であれば、無機材料、有機材料ともに特に限定されないが、電気機械変換効率が高い材料、例えば、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT:lead Zirco-titanate)や、チタン酸バリウム(BaTiO)などの材料が使用できる。
【0018】
また、圧電素子114の厚みは、特に限定されないが、10μm以上500μm以下であることが好ましい。例えば、脆性材料であるセラミック材料として厚み10μm未満の薄膜を使用した場合、取り扱い時に機械強度の弱さから、欠けや破損などが生じて、取り扱いが困難となる。また、厚み500μmを超えるセラミックを使用した場合は電気エネルギから機械エネルギに変換する変換効率が著しく低下し、スピーカユニット110として充分な性能が得られない。
【0019】
一般的に、電気信号の入力により電歪効果を発生させる圧電セラミックにおいては、その変換効率は電界強度に依存する。この電界強度は分極方向に対する厚み/入力電圧で表されることから、厚みの増加は必然的に変換効率の低下を招いてしまう問題がある。本発明の圧電素子114には、電界を発生させるために主面に上部/下部電極層(図示せず)が形成されている。
【0020】
上部/下部電極層は、電気伝導性を有する材料であれば特に限定されないが、銀や銀/パラジウムを使用することが好ましい。銀は低抵抗な汎用的な電極層として使用されており、製造プロセスやコストなどに利点がある。また、銀/パラジウムは耐酸化に優れた低抵抗材料であるため、信頼性の観点から利点がある。また、上部/下部電極層の厚みについては、特に限定されないが、その厚みが1μm以上100μm以下であるのが好ましい。
【0021】
例えば、厚み1μm未満では、膜厚が薄いため、均一に成形できず、変換効率が低下する可能性がある。なお、薄膜状の上部/下部電極層を形成する技術として、ペースト状にして塗布する方法もある。しかし、圧電素子114がセラミックのような多結晶では表面状態が梨地面であるため、塗布時の濡れ状態が悪く、ある程度の厚みがないと均一な電極膜が形成できない問題点がある。一方、上部/下部電極層の膜厚が100μmを超える場合は、製造上は特に問題はないが、上部/下部電極層が圧電素子114である圧電セラミック材料に対して拘束面となり、エネルギ変換効率を低下させてしまう問題点がある。
【0022】
本実施の形態のスピーカユニット110の圧電素子114は、その片側の主面が弾性部材113によって拘束されている。弾性部材113は、圧電素子114の基本共振周波数を調整する機能を持つ。機械的な圧電振動子111の基本共振周波数fは、以下の式で示されるように、負荷重量と、コンプライアンスに依存する。
【0023】
[数1]
f=1/(2πL√(mC))
なお、"m"は質量、"C"はコンプライアンス、"L"は波長、である。
【0024】
言い換えれば、コンプライアンスは圧電振動子111の機械剛性であるため、このことは圧電素子114の剛性を制御することで基本共振周波数を制御できることを意味する。例えば、弾性率の高い材料の選択や、弾性部材113の厚みを低減することで、基本共振周波数を低域にシフトさせることが可能となる。この一方で、弾性率の高い材料を選択することや、弾性部材113の厚みを増加させることで基本共振周波数を高域にシフトさせることができる。
【0025】
従来は、圧電素子114の形状や材質により基本共振周波数を制御していたところから設計上の制約やコスト、信頼性に問題があったが、本発明のように、構成部材である弾性部材113を変更することで所望の基本共振周波数に容易に調整できることから、工業上の価値は大きい。なお、弾性部材113には、金属や樹脂など脆性材料であるセラミックに対して高い弾性率を持つ材料であれば特に限定されないが、加工性やコストの観点からリン青銅やステンレスなどの汎用材料が使用される。
【0026】
また、弾性部材113の厚みについては、5μm以上1000μm以下であることが好ましい。厚みが5μm未満の場合、機械強度が弱く、拘束部材として機能を損なうことや、加工精度の低下により、製造ロット間で圧電素子114の機械振動特性の誤差が生じてしまう。また、厚みが1000μmを超える場合は、剛性増による圧電素子114への拘束が強まり、振動変位量の減衰を生じさせてしまう問題点がある。また、本実施の形態の弾性部材113は、材料の剛性を示す指標である縦弾性係数が、1GPa以上500GPa以下であることが好ましい。上述のように、弾性部材113の剛性が過度に低い場合や、過度に高い場合は、機械振動子として特性や信頼性を損なう問題点がある。
【0027】
以下に本実施の形態のスピーカユニット110の動作原理を説明する。本実施の形態のスピーカユニット110は、AM(Amplitude Modulation)変調やDSB(Double Sideband modulation)変調、SSB(Single-Sideband modulation)変調、FM(Frequency Modulation)変調をかけた超音波を空気中に放射し、超音波が空気中に伝播する際の非線形特性により、可聴音が出現する原理で音響再生を行っている。
【0028】
非線形としては、流れの慣性作用と粘性作用の比で示されるレイノルズ数が大きくなると、層流から乱流に推移する現象が挙げられる。すなわち、音波は流体内で微少にじょう乱しているため、音波は非線形で伝播している。しかしながら、低周波数帯域での音波の振幅は非線形でありながら、振幅差が非常に小さく、通常、線形理論の現象として取り扱っている。これに対して、超音波では非線形性が容易に観察でき、空気中に放射した場合、非線形性に伴う高調波が顕著に発生する。概略すれば、音波は空気中に分子集団が濃淡に混在する疎密状態であり、空気分子が圧縮よりも復元するのに時間が生じた場合、圧縮後に復元できない空気が、連続的に伝播する空気分子と衝突し、衝撃波が生じて可聴音が発生する原理である。
【0029】
そして、本実施の形態の携帯電話機100は、指向性制御部140が視聴者CUの位置を画像認識してスピーカユニット110の高指向性の音波の出力方向を制御する。このため、周囲に騒音を発生することなく、特定の視聴者CUのみに充分な音量の音波を提供することができる。
【0030】
しかも、本実施の形態の携帯電話機100では、視聴者CUの位置をリアルタイムで検出しつづけ、スピーカユニット110の高指向性の音波の出力方向をリアルタイムに調節する。このため、音楽の視聴中などに視聴者CUの位置や方向が変動しても、その視聴者CUに高指向性の音波を的確に提供することができる。
【0031】
特に、図2に示すように、スピーカユニット110は、ステレオ音波を出力し、画像認識部130は、視聴者CUの一対の耳ERの位置を画像認識する。そして、指向性制御部140は、認識された一対の耳ERの位置に対応してスピーカユニット110にマトリクス状に配列されている複数の圧電振動子111を選択的に駆動する。
【0032】
より詳細には、スピーカユニット110は、マトリクス状に配列されている複数の圧電振動子111を二組に分割して駆動することで右側音波と左側音波からなるステレオ音波を出力するパラメトリックスピーカからなる。画像認識部130は、視聴者CUの一対の耳ERの位置を画像認識し、指向性制御部140は、認識された一対の耳ERの位置に対応して複数の圧電振動子111を右側音波用と左側音波用とに設定する。
【0033】
例えば、図2(a)に示すように、視聴者CUの一対の耳ERがスピーカユニット110に対して左右に位置する場合には、スピーカユニット110が左右に二分されて駆動される。一方、図2(c)に示すように、視聴者CUの一対の耳ERがスピーカユニット110に対して前後に位置する場合には、スピーカユニット110が前後に二分されて駆動される。そして、図2(b)に示すように、視聴者CUの一対の耳ERがスピーカユニット110に対して斜めに位置する場合には、スピーカユニット110が斜めに二分されて駆動される。このため、視聴者CUの位置に対応してステレオ音波を常時良好に提供することができる。
【0034】
さらに、本実施の形態の携帯電話機100は、圧電振動子111を用いて超音波を発振する。超音波の特徴である高指向性を利用して音波を伝播させることで特定方向のみに限定した音場の形成が可能となる。従来の携帯電話から発せられる音波は低周波数帯域を利用していたため並進性が高く全方向に音場が放射されていた。
【0035】
また、本実施の形態の携帯電話機100は、視聴者CUのポジションを正確に認識するために画像認識を用いる。例えば、携帯電話に搭載されるカメラを利用してあらかじめデータベース化された視聴者CUの輪郭情報から耳ERの位置をリアルタイムで画像により認識をおこなう。
【0036】
さらに、本実施の形態の携帯電話機100は、視聴者CUの耳ERの位置をリアルタイムで認識する。リアルタイムで視聴者CUの耳ERの位置へステレオ音源を送出することを可能とする。視聴姿勢を気にすることなくステレオ音源を供給されることでストレスフリーなどの視聴者CUへの訴求効果がある。画像撮像デバイス120としては携帯電話機100に搭載するCCDカメラを利用できるため、新たなデバイスの実装がなくコストへの影響も小さい。
【0037】
なお、本発明は本実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で各種の変形を許容する。また、上述した実施の形態では、各部の構造などを具体的に説明したが、その構造などは本願発明を満足する範囲で各種に変更することができる。
【符号の説明】
【0038】
100 携帯電話機
101 本体ハウジング
102 ディスプレイユニット
110 スピーカユニット
111 圧電振動子
112 支持フレーム
113 弾性部材
114 圧電素子
120 画像撮像デバイス
130 画像認識部
140 指向性制御部
CU 視聴者
ER 耳

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高指向性の音波の出力方向を制御自在なスピーカユニットと、
視聴者の画像を撮像する画像撮像デバイスと、
撮像された前記視聴者の位置を画像認識する画像認識手段と、
画像認識された前記視聴者の位置に対応して前記スピーカユニットの前記音波の出力方向を制御する指向性制御手段と、
を有する電子機器。
【請求項2】
前記画像認識手段は、前記視聴者の顔面の方向を画像認識し、
前記指向性制御手段は、認識された前記顔面の方向に対応して前記スピーカユニットの前記音波の出力方向を制御する請求項1に記載の電子機器。
【請求項3】
前記画像認識手段は、前記視聴者の耳の位置を画像認識し、
前記指向性制御手段は、認識された前記耳の位置に対応して前記スピーカユニットの前記音波の出力方向を制御する請求項1または2に記載の電子機器。
【請求項4】
前記スピーカユニットは、マトリクス状に配列されている複数の圧電振動子を二組に分割して駆動することで右側音波と左側音波からなるステレオ音波を出力するパラメトリックスピーカからなり、
前記画像認識手段は、前記視聴者の一対の耳の位置を画像認識し、
前記指向性制御手段は、認識された一対の前記耳の位置に対応して複数の前記圧電振動子を前記右側音波用と前記左側音波用とに設定する請求項3に記載の電子機器。
【請求項5】
請求項1ないし4の何れか一項に記載の電子機器の発振ユニットであって、
高指向性の音波の出力方向を制御自在なスピーカユニットと、
画像認識された前記視聴者の位置に対応して前記スピーカユニットの前記音波の出力方向を制御する指向性制御手段と、
を有する発振ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−134589(P2012−134589A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282659(P2010−282659)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(310006855)NECカシオモバイルコミュニケーションズ株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】