説明

電子機器操作部用の消音シート

【課題】電子機器操作部に適用される消音シートにおいて、耐熱性に優れ、電子機器の操作性を損なうことなく消音効果を向上させることができる電子機器操作部用の消音シートを提供する。
【解決手段】シリコーンエラストマーからなり、電子機器操作部に適用される消音シートであって、該シートは、動的粘弾性測定により、周波数10Hz、温度20℃で測定した損失係数(tanδ)が0.1〜0.6の範囲にあり、厚みが30μm〜500μmの範囲にあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定のエラストマー性のシートからなる電子機器操作部用の消音シートに関し、より詳しくは、耐熱性に優れ、電子機器使用時の操作性を損なうことなく消音効果を向上させた電子機器操作部用の消音シートに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、高速道路及び電車等の各交通機関、並びに工事現場等の大きな音を立てる場所では、防音対策として、種々の防音装置、例えば防音壁及び防音シートが用いられている。しかしながら、静寂な環境下、例えばオフィスで使用する電子機器においても、機器自体から発する稼働音のみならず、機器の操作部における操作音についてもその低減が求められている。操作音としては、例えばパーソナルコンピュータのポインティングデバイスを構成するボタンの打鍵音、及びボタンが戻る際のケースとの接触音(戻り音)が挙げられる。
【0003】
従来、電子機器の操作部において用いられる消音シートとしては、不織布、例えばロックウール、グラスウール、及びフェルト等が知られている。具体的には、特許文献1に開示される消音シートが挙げられる。特許文献1の消音シートは、ケースとその中に嵌め込まれたキーボタンからなる押しボタンスイッチにおいて、ケースとキーボタンの接触部に消音シート、例えば不織布、フェルト等を配し、キーボタンとケースの接触音(キーボタンの戻り音)を吸収する。この消音シートにあっては、音がシートを構成する繊維表面を衝突しながら通り抜ける際に摩擦熱として消費することで、音のエネルギーの吸収がなされる。しかしながら、この消音シートでは、十分な消音性を確保しようとしたとき、ミリ単位(例えば1〜30mm)の厚みが必要となる。特許文献1に開示される消音シートは、特に小型化傾向にある電子機器においては、その嵩高性により、少なからず操作部における操作性に影響を与えるという問題があった。
【0004】
例えば、不織布以外の消音シートとして特許文献2に開示されるシートが挙げられる。特許文献2のシートは、アルミニウム箔等の高弾性拘束層、オレフィン系エラストマー等の中弾性拘束層、及びアクリル系の低弾性粘着層の多層から構成される。これは、各層を構成する粘弾性物質の特性を利用して、粘弾性物質の伸縮変形による内部発熱を利用して、被制振体の振動減衰を図りながら消音効果を発揮する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開平7−16337号公報
【特許文献2】特開平5−220883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献2に開示されるシートは、熱可塑性エラストマーを使用しており、耐熱性が十分でない。そのため、発熱する電子機器において容易に適用することができないという問題があった。また、特許文献2のシートは、薄膜性が十分でなく、小型化・薄型化傾向にある電子機器内において、操作性に影響を与えることなく適用することが容易でないという問題があった。
【0007】
本発明は、本発明者らの鋭意研究の結果、所定の特性を有するシリコーンエラストマーを用いることにより、耐熱性に優れ、電子機器の操作性を損なうことなく消音効果を向上させることができることを見出したことに基づくものである。
【0008】
本発明の目的とするところは、電子機器操作部に適用される消音シートにおいて、耐熱性に優れ、電子機器の操作性を損なうことなく消音効果を向上させることができる電子機器操作部用の消音シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的を達成するために、請求項1に記載の電子機器操作部用の消音シートは、シリコーンエラストマーからなるシートであって、該シートは、動的粘弾性測定により、周波数10Hz、温度20℃で測定した損失係数(tanδ)が0.1〜0.6の範囲にあり、厚みが30μm〜500μmの範囲にあることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の電子機器操作部用の消音シートにおいて、前記シートは、10量体以下の環状シロキサンの含有量が2000ppm以下であることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の電子機器操作部用の消音シートにおいて、前記シートの少なくとも片面は、前記シリコーンエラストマー由来の粘着性を有していることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電子機器操作部用の消音シートにおいて、前記シートの少なくとも片面は、エンボス加工が施されていることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電子機器操作部用の消音シートにおいて、前記操作部は、ポインティングデバイスの操作ボタンであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電子機器操作部に適用される消音シートにおいて、耐熱性に優れ、電子機器の操作性を損なうことなく消音効果を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】押しボタン本体の斜視図。
【図2】押しボタン本体の平面図
【図3】押しボタン本体の蓋部13を外したときの平面図。
【図4】押しボタン本体の図2のA−A断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の電子機器操作部に適用される消音シートを具体化した実施形態を説明する。
本実施形態の電子機器操作部に適用される消音シート(以下、「消音シート」とする)は、耐熱性を向上させるためにシリコーンエラストマーのシートから構成される。消音シートを構成するシリコーンエラストマーは、例えば次に示すようなシロキサン骨格を有するポリオルガノシロキサンを架橋することにより得られるシリコーンエラストマーが使用できる。
【0017】
【化1】

このシリコーンエラストマーは、Rのすべてがメチル基であるポリジメチルシロキサンをはじめ、メチル基の一部が他のアルキル基、ビニル基、フェニル基、フルオロアルキル基などの一種あるいはそれ以上と置換された各種のポリオルガノシロキサンを単独又は二種類以上ブレンドしたものを使用することができる。
【0018】
架橋方法は特に限定されるものではなく、従来より公知の方法が適用できる。例えば、ポリオルガノシロキサンのメチル基あるいはビニル基をラジカル反応で架橋する方法が挙げられる。また、シラノール末端ポリオルガノシロキサンと、加水分解可能な官能基を有するシラン化合物との縮合反応で架橋する方法や、ビニル基へのヒドロシリル基の付加反応で架橋する方法などが挙げられる。また、放射線架橋する方法を使用してもよい。放射線としては、γ線、電子線、X線などが好適に使用できる。
【0019】
さらに、シリコーンエラストマーには、シリコーンエラストマー組成物に従来添加することが知られている添加剤を本発明の物性を損なわない範囲で添加してもよい。フュームドシリカ、沈殿シリカ、ケイソウ土、石英粉などの補強性充填剤や各種加工助剤、耐熱性向上剤などの他、エラストマーとしての機能性を持たせる各種添加剤を含有するものである。この機能性添加剤としては、難燃性付与剤、放熱性フィラー、導電性フィラー等が挙げられる。
【0020】
消音シートの厚さは、下限値が30μm、好ましくは100μm、より好ましく150μmであり、上限値が500μm、好ましくは300μm、より好ましくは250μmである。消音シートの厚みが、30μm未満であると消音性が低下するとともに、取り扱い性(ハンドリング)が悪くなり、製造コストが上昇するおそれがある。一方、消音シートの厚みが、500μmを超えると、接触音を発する接触部、例えばケースとボタンの接触部に消音シートを配した場合、操作性に影響を与えるおそれがある。また、嵩の増加により製造コストが上昇するおそれがある。
【0021】
消音シートは、動的粘弾性測定により周波数10Hz、温度20℃で測定した損失係数(tanδ)が0.1〜0.6の範囲、好ましくは0.2〜0.4にあるシリコーンエラストマーのシートが使用されている。損失係数(tanδ)が0.1未満であると、消音性が低下する。一方、損失係数(tanδ)が0.6を超えるとべたつきが強くなり取り扱い性が低下する。損失係数(tanδ)は、ポリオルガノシロキサンの分子構造及び架橋状態の影響を受ける物性値であり、例えば原料ゴムの分子構造及び架橋条件を選択することにより調整することができる。その分子構造としては、ポリジメチルシロキサンのメチル基の一部を適当量、他の官能基に置換して、その結晶性を低減させたものを例として挙げることができる。架橋方法としては、ビニル基とヒドロシリル基との付加反応を利用する方法であって、シリコーンゲルを得るための公知の官能基の比率及び架橋条件を選定して架橋させる手法が挙げられる。尚、本発明の消音シートの製造方法は、それらの内容に限定されるものではない。
【0022】
消音シートは、10量体以下の環状シロキサンの含有量が、好ましくは2000ppm以下、より好ましくは1500ppm以下に規定される。10量体以下の環状シロキサン成分が2000ppmを超えると、その成分が電子機器に移行するおそれがある。シロキサン成分の低減方法は、公知の方法を適宜採用することができ、例えば原料の重合方法の検討、成形時の熱処理、原料の溶剤抽出処理等の方法を挙げることができる。
【0023】
消音シートは、少なくとも片面に粘着性を付与してもよい。かかる構成により、電子機器操作部の音の発生源、例えばボタンとケースの接触部、及びスイッチとケースの接触部等に容易に固定することができる。粘着力の範囲は、操作部の固定箇所、目的等により適宜設定することができる。例えば消音シートを再剥離させることなく完全に固定することを目的とする場合、その粘着力の下限は好ましくは5N/cm、より好ましくは8N/cmであり、上限は好ましくは20N/cmである。シートを再利用又は廃棄の際の分別等を目的として再剥離させる場合、粘着力の範囲は、好ましくは0.01N/cm以上且つ5N/cm以下、より好ましくは0.1N/cm以上且つ3N/cm以下である。尚、粘着力の測定法は、JISZ0237の粘着テープ・粘着シート試験方法に基づいて、180°引きはがし粘着力を測定することにより求めることができる。
【0024】
消音シートに対する粘着性の付与は、シート原料であるシリコーンエラストマー由来の粘着性であってもよく、粘着剤層を別途積層してもよい。これらのうち、粘着剤層を別途積層する工程が必要なく、シートの厚みの増加を抑制することができる観点から、シリコーンエラストマー由来の粘着性を付与する方法が好ましい。消音シートにシリコーンエラストマー由来の粘着性を付与する方法は公知の方法を適宜採用することができる。例えば、ポリオルガノシロキサンの種類及び分子量、各種フィラーの配合量を変えて、シリコーンエラストマーの組成と架橋度を適当に調整することによって上記粘着力範囲の粘着性を付与することができる。尚、本発明でシリコーンエラストマー由来粘着性とは、シートの粘着性(粘着力)がある表面が、シリコーンエラストマーと同じ組成であることをいう。前記組成を確かめる方法として、例えば元素分析により確かめる方法が挙げられる。
【0025】
消音シートに粘着剤層を別途積層する方法は、公知の方法を適宜採用することができる。例えば、シリコーンエラストマーシート上に粘着剤をコーティングすることにより、粘着剤層を設けることができる。また、予め離型性のある基材、例えばフィルム及びシート上に粘着剤層を設けておき、その後、離型性のある基材から粘着剤層をシリコーンエラストマーシート上に転写することにより、粘着剤層を設けてもよい。また、生産性の観点から粘着剤層を有する粘着テープをシリコーンエラストマーシート上に貼り付ける方法を用いてもよい。粘着テープとしては、粘着剤層の単層からなるもの、粘着剤層とテープ基材とテープの貼り付け面を構成する粘着層の複層からなるもの等いずれを用いてもよい。テープ基材としては、公知のプラスチックフィルムを用いることができる。粘着剤層としては、例えば耐熱性に優れる公知のシリコーン系粘着剤を挙げることができる。シリコーン系粘着剤層の単層からなる粘着テープを好ましく適用することができる。また、粘着剤層は、シリコーンエラストマーシート上に公知の方法を用いてプライマー処理することによりアクリル系粘着剤を用いて形成することもできる。
【0026】
消音シートの粘着性は、上述したように、例えばシリコーンエラストマーの組成と架橋度を適当に調整することによって行うことができるが、その他粘着面にエンボス加工を施してもよい。エンボス(表面粗さ)の程度を調節することにより、粘着力を調整することができる。フィルムの表面にエンボス加工を施す方法は、公知の方法を適宜採用することができる。例えばフィルム成形後にフィルム表面にブラスト処理やレーザー処理を施してもよく、フィルム成形時にエンボスロールの模様を転写させたり、エンボスフィルムの模様を転写させたりしてもよい。
【0027】
消音シートは、電子機器の操作部に用いることができる。電子機器としては、特に限定されないが、好ましくは静音性が要求される電子機器に適用される。電子機器の操作部としては、例えばパーソナルコンピュータのポインティングデバイス、携帯電話及びゲーム機器等の打鍵部、押しボタン又はスイッチ等が挙げられる。パーソナルコンピュータのポインティングデバイスとしては、例えばマウス、キーボード、及びジョイスティック等が挙げられる。消音シートは、操作部の操作音発生源に配される。例えば押しボタン入力の際又は押しボタンが戻る際のボタンとケースの接触音発生箇所に配される。それにより、操作部を使用するときの操作音(接触音)を低減又は抑制することができる。
【0028】
本実施形態の消音シートを例えばマウス内部の押しボタン本体に配した場合の作用について説明する。
図1,2に示されるように、押しボタン本体11は、基台12、蓋部13及びその蓋部13の表面に設けられる押しボタン14から構成される。押しボタン本体11は、通常最終製品ではマウス本体に収容され、押しボタン14は、マウス本体の表面に設けられる操作ボタンにより操作(クリック)される。
【0029】
押しボタン本体11の内部は、図3,4に示されるように基台12上に押しボタン部15、屈曲板16、及び通電部17が配されている。押しボタン部15は、金属板から構成され、一方の端部が基台12上に固定されるとともに、他方の端部は上下方向に可動可能な作動部15aを構成する。作動部15aは、その下部に配される板バネ15bによって上方に付勢されている。作動部15aは、非操作時においては板バネ15bの付勢力により基台12上に固定される屈曲板16の接点部16aと当接している。押しボタン部15は、その上面において押しボタン14の下端部と当接しており、押しボタン14下方への力により、作動部15aは上方への付勢力に抗して下方へ可動する。通電部17は、作動部15aとの接触により通電する。消音シート18は作動部15a上の接点部16aとの接触箇所に接着固定される。それにより、消音シート18は、作動部15aと接点部16aとが離間した後の戻り音、つまり作動部15aと接点部16aの当接音を低減又は抑制することができる。
【0030】
本実施形態の消音シートによれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態の消音シートでは、損失係数(tanδ)が0.1〜0.6の範囲にあり、厚みが30μm〜500μmの範囲にあるシリコーンエラストマーからなるシートを使用した。したがって、薄膜化に優れ、電子機器の操作性を損なうことなく消音効果を向上させることができる。
【0031】
(2)また、上記構成によりフィルムの製造時又はフィルムを電子機器に取り付ける際の取り扱い性を低下させることがないので、製造コストの上昇を抑制することができる。
(3)また、上記構成により小型化及び薄型化傾向にある電子機器に容易に適用することができる。
【0032】
(4)本実施形態の消音シートでは、シリコーンエラストマーを使用した。したがって、耐熱性及び耐寒性を有する(例えば−40〜200℃の雰囲気下で使用できる)とともに、電気絶縁性等に優れ、多くの種類の電気・電子機器を様々な雰囲気下で使用することができる。
【0033】
(5)本実施形態の消音シートでは、好ましくは10量体以下の環状シロキサン成分として10量体以下の環状シロキサンの含有量が2000ppm以下のシートが用いられる。したがって、シート中の10量体以下の環状シロキサン成分が電子機器に移行するおそれがない。
【0034】
(6)本実施形態の消音シートでは、好ましくはシートの少なくとも片面は、シート原料であるシリコーンエラストマー由来の粘着性を有している。したがって、消音シートの表面に粘着剤層を塗布又は積層する必要がなく、接着面を形成することができる。よって、シートの薄層状態を維持することができるとともに、製造コストの上昇を抑制することができる。
【0035】
(7)本実施形態の消音シートでは、好ましくはシートの少なくとも片面は、エンボス加工が施されていることを特徴とする。したがって、エンボス加工の程度により、粘着性の有無、粘着力等を容易に調節することができる。
【0036】
(8)本実施形態の消音シートは、薄く且つ消音性に優れるため、例えばポインティングデバイスの操作ボタンに好ましく適用される。したがって、操作ボタンの操作性に影響を与えることなく、操作ボタン入力時の接触音、例えば戻り音等を効果的に消音することができる。
【0037】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
・本発明においては、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとし、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとする。
【0038】
・上記実施形態では、本発明の効果を損なわない範囲においてシリコーンエラストマー中に抗菌剤、酸化防止剤、光安定剤等の添加剤を配合してもよい。
【実施例】
【0039】
以下、実施例及び比較例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
ミラブルタイプのシリコーン原料X−30−1193−U(信越化学工業社製)を使用し、離型フィルムとしてのフラットPET(ポリエチレンテレフタレート)シートでサンドイッチした状態で架橋させ、厚さ200μmのシリコーンエラストマーシートを得た。なお、このエラストマーシートは、損失係数が0.2〜0.4になるよう架橋度を調整しながら製造した。その後、片面のPETシートを剥がしてから130℃×1時間の熱処理を行った。熱処理により低分子シロキサン成分の一部が蒸発除去される。このシートの10量体以下の環状シロキサン成分の含有量を下記に記載の方法に従って測定した。その結果、10量体以下の環状シロキサン成分の含有量は、1843ppmであり、2000ppm以下であった。なお、このシートの動的粘弾性測定により、周波数10Hz、温度20℃で測定した損失係数(tanδ)は0.32であった。
【0040】
(実施例2)
シリコーンエラストマーシートの厚さを30μmに設定した以外は、実施例1と同様にしてシリコーンエラストマーシートを製造した。このシートの損失係数(tanδ)及び10量体以下の環状シロキサン成分の含有量は、いずれも実施例1の場合と同じであった。
【0041】
(実施例3)
シリコーンエラストマーシートの厚さを500μmに設定した以外は、実施例1と同様にしてシリコーンエラストマーシートを製造した。このシートの損失係数(tanδ)及び10量体以下の環状シロキサン成分の含有量は、いずれも実施例1の場合と同じであった。
【0042】
(実施例4)
シリコーン原料として、ミラブルタイプのKE−571U(信越化学工業社製)を使用した以外は、実施例1と同様にして製造し、厚さ200μmのシリコーンエラストマーシートを得た。なお、このシートの動的粘弾性測定により、周波数10Hz、温度20℃で測定した損失係数(tanδ)は0.13であり、10量体以下の環状シロキサン成分の含有量は1141ppmであり、2000ppm以下であった。
【0043】
(実施例5)
シリコーン原料として、シリコーンを主原料とするゲル状素材βゲル(タイカ社製)を使用し、厚さ200μmのシート状にカットして使用した。また、このシートの動的粘弾性測定により、周波数10Hz、温度20℃で測定した損失係数(tanδ)は0.56であり、10量体以下の環状シロキサン成分の含有量は1015ppmであった。
【0044】
(実施例6)
シリコーンエラストマーシートに対し熱処理を行わなかった点以外は、実施例1と同様にしてシリコーンエラストマーシートを製造した。このシートの損失係数(tanδ)は、実施例1の場合と同じであった。このシートの10量体以下の環状シロキサン成分の含有量は、15000ppmであった。
【0045】
(比較例1)
シリコーン原料としてミラブルタイプのシリコーン原料KE−9510U(信越化学工業社製)を使用した以外は、実施例1と同様にして製造し、厚さ200μmのシリコーンエラストマーシートを得た。また、このシートの動的粘弾性測定により、周波数10Hz、温度20℃で測定した損失係数(tanδ)は0.034であった。このシートの10量体以下の環状シロキサン成分の含有量は、815ppmであった。
【0046】
(比較例2)
シリコーンエラストマーシートの厚さを600μmに設定した以外は、実施例1と同様にしてシリコーンエラストマーシートを製造した。このシートの損失係数(tanδ)及び10量体以下の環状シロキサン成分の含有量は、いずれも実施例1の場合と同じであった。
【0047】
(比較例3)
厚さ250μmの不織布(日本バイリーン社製)を使用した。
(比較例4)
厚さ500μmの不織布(日本バイリーン社製)を使用した。
【0048】
前記実施例及び比較例において作製したシリコーンエラストマーシート又は不織布を消音シートとして使用した。各消音シートについて、10量体以下の環状シロキン成分の含有量及び音のレベルは次のようにして測定した。
【0049】
(音のレベルの測定方法及び吸音性(消音性))
まず、各例のシリコーンエラストマーシート又は不織布を図4に示されるマウスの操作ボタンを構成する作動部15aと接点部16aの間(接触部)の作動部15a側に固定した。シリコーンエラストマーからなる消音シートは、接着剤や粘着剤等を要することなく、シリコーンエラストマー由来の粘着性を利用して作動部15aに固定した。不織布からなる消音シートは、作動部15aに固定せず、作動部15aと接点部16aの間に挟み込んだ。
【0050】
次に、表面に押しボタン14を有する蓋部13を基台12上に取り付け、押しボタン本体11を構成した。騒音計(リオン社製:NL−04)のマイク部を押しボタン本体11表面の押しボタン14から約30mmの距離に置き、該押しボタン14をクリックし、作動部15aと接点部16aとの当接音の音レベル(dB)の測定を行った。同じ環境下で、10秒間に約50回クリックし、その時の平均を算出した。尚、消音シートを使用しなかった場合の音レベルの平均値は22.9dBであった。また、測定後、蓋部13を開け作動部15aと接点部16aの間のシリコーンエラストマーシート及び不織布を確認したところ、作動部15aに固定しなかった不織布に多少の位置ズレが確認できた。
【0051】
(シート厚の測定)
各例のシリコーンエラストマーシート又は不織布を平坦になるように固定し、定圧厚さ測定器(ミツトヨ社製:電気マイクロメータ)にて測定した。
【0052】
吸音性(消音性)の評価として、消音シート不使用時の音レベル(22.9dB)を100%とした場合、45%未満のものを○(優れる)、45%以上且つ60%未満のものを△、60%以上のものを×として評価した。
【0053】
(打鍵性(操作性))
押しボタン本体11の押しボタン14を指でクリックした際の感触について、下記の基準に従い打鍵性(操作性)として評価した。クリック感があり実用性に問題ない場合を良好:○、クリック感がやや劣るが実用性に問題はない場合をやや悪い:△、クリック感が無く実用性に問題がある場合を悪い:×として評価した。
【0054】
(取り扱い性(ハンドリング性))
各例の消音シートについて、取り扱い性を下記の基準により評価した。べとつき及び強い粘着力がなく実用性に問題ない場合を良好:○、べとつき又は粘着力がやや強いが実用性に問題ない場合をやや悪い:△、べとつき又は粘着力が強く実用性に問題がある場合を悪い:×として評価した。
【0055】
(10量体以下の環状シロキサン成分の含有量の測定)
測定方法:試料1.00gを10mLのアセトンに25℃で16時間浸漬し、浸漬液をガスクロマトグラフにより分析した。
【0056】
装置:キャピラリーガスクロ パーキンエルマーAutoSystemXL
カラム:DB−5カラム
温度:70℃から320℃に昇温速度3℃/分で行った。
【0057】
試料注入温度:300℃
キャリアガス:He(1mL/分)
検出器:FID
注入量:2μL
(10量体以下の環状シロキサン成分(オイル)の移行性)
10量体以下の環状シロキサン成分の移行性は、10量体以下の環状シロキサン成分が作動部15a又は接点部16aへ移行するか否かの評価であり、1ヵ月通常使用した後の作動部15a又は接点部16aを目視(又はルーペ)で観察を行い、下記の基準に従い評価を行った。作動部15a及び接点部16aの表面にシロキサン成分の移行がない場合を良好:○、作動部15a又は接点部16aの表面にシロキサン成分由来の光沢が僅かにあるが、アルコール(エタノール)で表面を拭くと光沢がなくなった場合をやや悪い:△、作動部15a又は接点部16aの表面にシロキサン成分由来の明瞭な光沢があるが、アルコール(エタノール)で表面を拭くと光沢はなくなった場合を悪い:×として評価した。尚、表中では「低分子量成分の移行性」と表記する。
【0058】
【表1】

表1に示されるように、実施例1は全ての評価が良好であった。
【0059】
実施例2はシート厚が実施例1より薄いため、吸音性の評価が実施例1よりもやや劣るが実用性に問題はない。また、実施例2は実施例1よりフラットPETからフィルムを剥がしづらく、その際、手にややまとわりつくため取り扱い性が実施例1よりもやや劣るが実用性に問題はない。
【0060】
実施例3は、シート厚が500μであり実施例1より厚いため、押しボタン14をクリックした際の感触が実施例1よりもやや劣るが、実施例1と同じ力で押す事ができ、実用性に問題はなかった。
【0061】
実施例4は、tanδの値が0.1付近であるため、実施例1よりも吸音性がやや劣るが、実用性に問題はなかった。
実施例5は、実施例の中で吸音性が最も優れる。実施例5のシートは、実施例1よりも軟らかくべたつきがあり、取り扱い性がやや劣るが実用性に問題はない。
【0062】
実施例6は、10量体以下の環状シロキサン成分の含有量が15000ppmのため、10量体以下の環状シロキサン成分(オイル)の移行性が他の実施例に比べ劣る結果となった。
【0063】
比較例1は、損失係数が0.1以下であるため吸音性が実施例1よりも悪い評価となった。
比較例2は、シートの厚みが500μmを超えるため、実施例1よりもクリック感が悪く、また実施例3よりも強い力で押す必要があり、実用性はないと評価した。
【0064】
比較例3,4は、消音効果が各実施例に対し悪い結果となった。また、比較例4は、厚みが500μmであり実施例1に対し打鍵性がやや劣る結果となった。
次に、上記実施形態及び別例から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに以下に追記する。
【0065】
(a)シリコーン原料を2枚の離型フィルムで挟み込んだ状態で架橋させ、シリコーンエラストマーシートを得る工程、次に片面の離型フィルムを剥がしてから熱処理を行う工程からなる電子機器操作部用の消音シートの製造方法。従って、この(a)に記載の発明によれば、耐熱性に優れ、電子機器の操作性、さらには操作部における通電性(接触性)を損なうことなく消音効果を向上させることができる消音シートを容易に得ることができる。
【符号の説明】
【0066】
11…押しボタン本体、12…基台、13…蓋部、14…押しボタン、15…押しボタン部、15a…作動部、15b…板バネ、16…屈曲板、16a…接点部、17…通電部、18…消音シート。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーンエラストマーからなるシートであって、該シートは、動的粘弾性測定により、周波数10Hz、温度20℃で測定した損失係数(tanδ)が0.1〜0.6の範囲にあり、厚みが30μm〜500μmの範囲にあることを特徴とする電子機器操作部用の消音シート。
【請求項2】
前記シートは、10量体以下の環状シロキサンの含有量が2000ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子機器操作部用の消音シート。
【請求項3】
前記シートの少なくとも片面は、前記シリコーンエラストマー由来の粘着性を有していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の電子機器操作部用の消音シート。
【請求項4】
前記シートの少なくとも片面は、エンボス加工が施されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の電子機器操作部用の消音シート。
【請求項5】
前記操作部は、ポインティングデバイスの操作ボタンであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の電子機器操作部用の消音シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−267494(P2010−267494A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117946(P2009−117946)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】