説明

電子線放射装置

【課題】 電子線発生の電流値を低くすることができる電子線放出装置を提供する。
【解決手段】 給電体(カソード)1と金属板(アノード)2との間に50kVの直流電圧を印加し、給電体(カソード)1とグリッド電極3との間に1kVの直流電圧を印加する。すると、給電体(カソード)1とグリッド電極3との間に印加した電圧によって電子が引き出され、グリッド電極3で絞られた電子は給電体(カソード)1と金属板(アノード)2との間に印加した電圧によって加速せしめられて窓部12のベリリウム箔13を透過して外部に放出される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子放出体(エミッタ)から発生した電子線を集束させ、X線の発生を内部に遮蔽し、そのまま外部に放射する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子線をタングステンなどの金属に衝突させることでX線が発生する。また電子線は粒子線としての性質を有し、X線は光としての性質を有する。物性が異なるため両者の用途も異なり、X線は非破壊検査装置とかX線CT装置などに利用され、一方電子線は物質中の分子に作用してイオン種やラジカル種などの反応活性種を生成するため、ラジカル反応やグラフト重合反応、レジスト膜の改質の他に、殺菌などにも利用されている。
【0003】
上記の電子線放射装置としては特許文献1に開示されるものが知られている。この電子線放射装置はカソード電極(陰極)上に電子放出層を形成し、このカソード電極と対向するアノード電極(陽極)との間に、前記電子放出層から電子を引き出すためのゲート電極を配置し、ゲート電極とカソード電極との間に印加する電圧と、アノード電極とカソード電極との間に印加する電圧とを個別に管理している。
【0004】
また、電子放出体として、特許文献2に示されるカーボンナノチューブや特許文献3に示されるグラフェンシートが多層に重なった尖頭形状の炭素膜が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−093307号公報
【特許文献2】特開2006−290691号公報
【特許文献3】特開2008−150253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
図6は従来の電子放出体(エミッタ)と陽極との関係を示す図であり、ステンレスなどからなる陽極には窓部が形成され、この窓部は軽元素であるベリリウム箔で大気・真空間を封止されている。最近の低電圧・超低電圧電子管では電子放出体と陽極との間には100kV以下の加速電圧が印加される。そして、電圧が印加されると電子放出体から陽極に向けて電子が放出されるが、電子はある程度の広がりをもって放出されるため、その一部が陽極に当たる。陽極はステンレスからなるため電子が衝突するとX線を発生してしまう。
【0007】
電子線がX線に変換されると、外部に放射される事による煩雑さ、食品の殺菌などにはX線は好ましくない。そこで、特許文献1ではゲート電極を設け、ゲート電極で透過する電子線を絞り、陽極の窓部のみに電子線が照射されるようにしている。
【0008】
しかしながら、特許文献1にあってもゲート電極と電子放出体との間に印加する電圧は40kV程度で、ゲート電極と電子放出体との間隔を4mmとすると、10kV/mmの電界がエミッタにかかることになる。一方、通常のエミッタの電界特性は1〜1.5kV/mmが閾値で、これ以上になると急激に電流が流れることになり、10kV/mmの電界では数10〜数100mAの電流が流れてしまう。このような大電流が流れると窓即ち陽極ロスが多大となり窓の冷却能力を超えてしまい最後には窓が破損する。
【0009】
また、特許文献2、3に開示される炭素膜を電子放出面に形成しても、電子放出面に作用する電界強度を下げることにはならず、好ましい電流値(0.1〜1mA/cm)に調整することができない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明に係る電子線放射装置は、直流電源の陰極側に接続される給電体(カソード)に給電部が形成され、直流電源の陽極側に接続される金属板(アノード)には電子線が透過する薄い金属箔で塞がれた窓部が形成され、前記給電部には電子放出チップ(エミッタ)が着脱自在に取り付けられ、この電子放出チップは導電性材料からなるチップ本体を備え、このチップ本体には前記給電体に対する結合部が設けられ、またチップ本体の先部は環状をなすガード電極とされ、このガード電極で囲まれる内側部でガード電極よりも引っ込んだ位置に炭素膜を形成した電子放出面が設けられた構成とした。
【0011】
前記電子放出チップと陽極となる金属板との間で且つ電子放出チップに近い位置にグリッド電極を配置し、前記電子放出チップとグリッド電極との間に印加する電圧を、前記電子放出チップと陽極との間に印加する電圧に比較して小さくすることで、更に実効電界を下げることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る電子線放射装置によれば、内部に組み込む電子放出チップの構造として、給電体(カソード)に対する結合部を設けたため、交換が容易であり、多数の電子放出チップを給電体(カソード)に取り付ける場合に有利である。
【0013】
電子放出チップと陽極との間の電界強度は、電子放出チップの先端と陽極との間隔で決定され、本発明にあっては、電子放出チップ先端はガード電極の先端となっており、電子放出面はこのガード電極の先端よりも引っ込んでいるので、電子放出面での電界強度は弱くなり大電流が流れるのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る電子線放出装置の構成図
【図2】陰極側に接続される給電体の正面図
【図3】電子放出チップを給電体に結合した状態の断面図
【図4】電子放出チップの先部の拡大図
【図5】(a)乃至(c)は電子放出チップの別実施例を示す図
【図6】従来の課題を説明した図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の好適な実施例を添付図面に基づいて説明する。図1に示すように、電子線放射装置は真空容器内に直流電源の陰極側に接続される給電体(カソード)1と、直流電源の陽極側に接続される金属板(アノード)2と、これら給電体1と金属板2との間に配置されるグリッド電極3を備える。
【0016】
前記給電体1には給電部としての複数の雌ネジ穴4が形成され、この雌ネジ穴4に電子放出チップ(エミッタ)5の雄ネジ部6が螺合している。
【0017】
電子放出チップ5はステンレスなどの導電性材料からなるチップ本体7を備え、このチップ本体7の先部は環状をなすガード電極8とされ、このガード電極8で囲まれる内側部には基板9が埋め込まれ、この基板9の表面は凹面10とされている。
【0018】
この凹面10は一定の曲率半径R0を有し、平行な光線が入射したと仮定すると収束する焦点Fが存在する。焦点Fは例えば金属板(アノード)2の位置になるように設定する。
【0019】
前記凹面10の表面には電子放出用の炭素膜11が数μm〜数十μmの厚さで形成されている。この炭素膜11は多数の突起が面状に展開して構成され、更に前記突起は凹面10の表面に形成される隆起部とこの隆起部から伸びる針状部からなる。
【0020】
また前記ガード電極8は前記炭素膜11よりも突出している。即ち電子放出面である炭素膜11はガード電極8の先端よりも引っ込んだ位置にある。
【0021】
ここで、ガード電極8の外周側の曲率半径R1は炭素膜2側の曲率半径R2以上に設定されている。このようにガード電極3の形状をR1≧R2とすることで、炭素膜2面での局部的な電界集中を抑制し、熱劣化に伴う電流劣化や放電現象が起こらないようにすることができる。また前記凹面10の曲率半径R0についてはR0≧R1としている。R0≧R1とすることで、電子放出チップへの電界集中を制限し、また各チップ間の電界印加を平均化している。このことにより、実際の印加電圧において、電子放出体へは必要な電流に制御できる効果がある。
【0022】
前記金属板(アノード)2は例えばステンレスからなり、各電子放出チップ5に対応する箇所に窓部12が形成され、これら窓部12をベリリウム箔13で閉塞している。
【0023】
以上において、給電体(カソード)1と金属板(アノード)2との間に50kVの直流電圧を印加し、給電体(カソード)1とグリッド電極3との間に1kVの直流電圧を印加する。
【0024】
すると、給電体(カソード)1とグリッド電極3との間に印加した電圧によって電子が引き出され、グリッド電極3で絞られた電子は給電体(カソード)1と金属板(アノード)2との間に印加した電圧によって加速せしめられて窓部12のベリリウム箔13を透過して外部に放出される。
【0025】
ここで、グリッド電極3を設けない2極構造とすることも考えられる。この場合、図4に示すように、金属板(アノード)2とガード電極8との距離をd、印加電圧をVとすると、電界の強さEは、E=V/dとなる。そして、ガード電極8の先端部から電子放出面である凹面10(炭素膜11)を引っ込めることで、凹面10(炭素膜11)にかかる電界が小さくなる。電子線の場合には高電圧を必要としないので、凹面10(炭素膜11)をガード電極8の先端から後退(h)させて0.1〜1mA程度の電流が流れるようにしている。後退量は0.5〜2.0mmが好ましい。
【0026】
図に示した3極構造の場合は給電体(カソード)1とグリッド電極3との間に印加電圧を1kV程度に落とすことができるので、大電流が流れるおそれはないが、この場合でも凹面10(炭素膜11)をガード電極8の先端から後退させることで、安定して電子を発生せしめることができる。
【0027】
図5(a)〜(c)は電子放出チップ5の別実施例を示し、(a)に示す電子放出チップ5は、給電体1の雌ネジ穴4に螺合する雄ネジ部14をチップの背面側に設けている。
【0028】
図5(b)に示す電子放出チップ5は、雌ネジ部15を形成し、給電体1にはこの雌ネジ部15が螺合する雄ネジ部を設けるようにしている。
【0029】
図5(c)に示す電子放出チップ5は、長尺状をなし、全体の周縁にガード電極8が設けられている。この実施例にあっては、給電体1にスライドさせて係合するための凸部16が長さ方向に沿って形成され、給電体1にはこの凸部16が係合する溝(蟻溝)を設ける。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明に係る電子放出装置は化学反応の促進や、殺菌などに応用することができる。
【符号の説明】
【0031】
1…給電体(カソード)、2…金属板(アノード)、3…グリッド電極、4…雌ネジ穴、5…電子放出チップ(エミッタ)、6…雄ネジ部、7…チップ本体、8…ガード電極、9…基板、10…凹面、11…炭素膜、12…窓部、13…ベリリウム箔、14…雄ネジ部、15…雌ネジ部、16…凸部、R0…凹面の曲率半径、R1…ガード電極の外周側の曲率半径、R2…ガード電極の内周側の曲率半径、。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源の陰極側に接続される給電体に給電部が形成され、直流電源の陽極側に接続される金属板には電子線が透過する薄い金属箔で塞がれた窓部が形成され、前記給電部には電子放出チップが着脱自在に取り付けられ、この電子放出チップは導電性材料からなるチップ本体を備え、このチップ本体には前記給電体に対する結合部が設けられ、またチップ本体の先部は環状をなすガード電極とされ、このガード電極で囲まれる内側部でガード電極よりも引っ込んだ位置に炭素膜を形成した電子放出面が設けられていることを特徴とする電子線放射装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電子線放射装置において、前記電子放出チップと陽極となる金属板との間で且つ電子放出チップに近い位置にグリッド電極を配置し、前記電子放出チップとグリッド電極との間に印加する電圧を、前記電子放出チップと陽極との間に印加する電圧に比較して小さくしたことを特徴とする電子線放射装置。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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