説明

電子線殺菌装置

【課題】電子線殺菌装置を環境空気から分離する電子線透過膜を洗浄時に保護する。
【解決手段】電子線殺菌装置は、電子線発生部と、電子線発生部の発生する電子線が通過する真空室と、環境の気体が真空室に侵入することを妨げ且つ真空室を通過した電子線を透過して環境に供給する透過膜と、環境に散布される液体が透過膜に接する量を低減する遮蔽部とを備える。遮蔽部は、板状部材によるシャッター、またはエアカーテンである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線を用いて殺菌を行う殺菌装置に関する。
【0002】
食品容器、医療機器等、衛生が重視される製品の工場において、無菌状態を維持する技術が重要である。通常、過酸化水素に例示される薬剤を用いた殺菌(ウェット殺菌と呼ばれる)により、製品及び工場環境が無菌状態にされる。
【0003】
薬剤の使用に代えて電子線を用いて殺菌する技術が検討されている。電子線を用いた殺菌(ドライ殺菌と呼ばれる)は、薬剤を使用しないことから、薬剤のコストが不要となること、薬剤をすすぐ工程が不要となること等の点で優れている。電子線殺菌によって製品を殺菌する工場において、無菌状態をさらに向上する技術が望まれる。
【背景技術】
【0004】
特許文献1には、金属で覆われた無菌チャンバー内に収容された電子線照射装置から電子線を照射して金属部に電子線を当てて変換X線を生じさせ、該変換X線を無菌チャンバー内全体に行き渡らせて無菌チャンバー内を殺菌することを特徴とする電子線照射による無菌チャンバー殺菌方法が記載されている。
【特許文献1】特開平8‐89562号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、電子線を用いたドライ環境で殺菌を行う殺菌装置において、設備の内部環境を高度な無菌状態に維持することを可能にする電子線殺菌装置を提供することである。
本発明の他の目的は、電子線殺菌装置を環境空気から分離する電子線透過膜が洗浄時に保護される電子線殺菌装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、[発明を実施するための最良の形態]で使用される番号を括弧付きで用いて、課題を解決するための手段を説明する。これらの番号は、[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための最良の形態]との対応関係を明らかにするために付加されたものである。ただし、それらの番号を、[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0007】
本発明による電子線殺菌装置は、電子線を発生する電子線発生部(20)と、電子線発生部(20)の発生する電子線が通過する真空室(22)と、環境の気体が真空室(22)に侵入することを妨げ且つ真空室(22)を通過した電子線を透過して環境に供給する透過膜(28)と、環境に散布される液体(33)が透過膜(28)に接する量を低減する遮蔽部(30,34)とを具える。
【0008】
本発明による電子線殺菌装置において、透過膜(28)はチタンを含む。
【0009】
本発明による電子線殺菌装置において、遮蔽部は、所定の入力信号に応答して開閉する遮蔽板(30)を備える。
【0010】
本発明による電子線殺菌装置において、遮蔽部は、所定の入力信号に応答して、透過膜(28)に対して環境に曝された側にエアカーテンを生成するエア噴射部(34)を備える。
【0011】
本発明による電子線殺菌装置は、気体を取り込んで殺菌して無菌エアを生成し、エアカーテンを生成するために無菌エアをエア噴射部(34)に供給する無菌エア供給部(36)を具える。
【0012】
本発明による電子線殺菌装置において、エア噴射部(34)は、透過膜(28)が配置される殺菌室(4)の外部(19)から受信する制御信号に応答して第1状態と第2状態とを取る。第1状態(図6(a))においてエア噴射部(34)は透過膜(28)にエアを吹きつける。第2状態(図6(b))においてエア噴射部(34)は第1状態とは異なる方向にエアを吹き出すことによってエアカーテンを生成する。
【0013】
本発明による電子線殺菌装置において、所定の入力信号は、透過膜(28)が配置される殺菌室(4)の外部(19)から送信される。
【0014】
本発明による電子線殺菌装置は、透過膜(28)が配置される殺菌室の外部(19)からの遠隔操作によって当該電子線殺菌装置の環境に接する部分に洗浄剤(33)を供給する洗浄剤供給部(32)を具える。
【0015】
本発明による電子線殺菌システムは、透過膜(28)が配置される殺菌室(4)と、殺菌室(4)の内部に配置され、電子線発生部(20)の発生する電子線の照射範囲を通って殺菌対象物を搬送する搬送装置(15)とを具える。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電子線を用いたドライ環境で殺菌を行う殺菌装置において、設備の内部環境を高度な無菌状態に維持することを可能にする電子線殺菌装置が提供される。
更に本発明によれば、電子線殺菌装置を環境空気から分離する電子線透過膜が洗浄時に保護される電子線殺菌装置が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態について説明する。本実施の形態における電子線殺菌装置は、ペットボトルの殺菌を行う設備の内部環境を殺菌するために使用される。
【0018】
図1は、本実施の形態における電子線殺菌装置が適用される食品容器充填システムの構成を示す。食品容器充填システム2は、食品容器の流れに沿って上流側から順に、殺菌室4、すすぎリンサ室6、充填室8及びキャッパ室10を備える。これらの室はすべてクリーンルームである。
【0019】
殺菌室4は、飲料が充填されるペットボトルを殺菌室4に導入するためのボトル入口12と、ボトル入口12から導入されるペットボトルをすすぎリンサ室6の入口まで所定のボトル経路に沿って搬送する搬送装置15とを備える。ボトル経路の途中には、ペットボトルに電子線を照射して殺菌するための殺菌部16が設置される。殺菌部16には制御装置18が接続される。制御装置18は、入力装置を備えた操作部19に接続される。操作部19は殺菌室4、すすぎリンサ室6、充填室8及びキャッパ室10を含む無菌環境が維持されているスペースの外に設置される。
【0020】
すすぎリンサ室6は、殺菌室4から搬送されたペットボトルを水、空気等によってすすぐ装置と、すすがれたペットボトルを充填室8に搬送する搬送装置とを備える。充填室8は、すすぎリンサ室6から搬送されたペットボトルに飲料を充填する充填装置と、飲料が充填されたペットボトルをキャッパ室10に搬送する搬送装置とを備える。キャッパ室10は、充填室8から搬送されたペットボトルにキャップを装着するキャッパ装置と、キャップが装着されたペットボトルをボトル出口14に搬送する搬送装置とを備える。
【0021】
図2は、殺菌部16の構成を示す正面図である。図示されている直交座標系のz軸の正方向は鉛直方向上向きである。殺菌部16は、電子線を供給する電子線供給部20を備える。殺菌部16は更に、内部に真空室22を形成するスキャンホーン24を備える。スキャンホーン24は開口26を有している。開口26は電子線を透過する透過膜28によって塞がれている。透過膜28によって、真空室22は殺菌室4の雰囲気から分離されている。すなわち、殺菌室4の空気は真空室22に流入しない。透過膜28は、電子線の進行を妨げることが少ないことが好ましい。且つ、透過膜28は破損又は変質の可能性が小さいように丈夫であることが好ましい。こうした条件を満たす材料としては、チタン薄膜が好適に用いられる。
【0022】
殺菌部16は、シャッター30、シャッター30を駆動する開閉装置31及び開閉装置31を制御する制御装置18aを備えている。
【0023】
殺菌部16は、スキャンホーン24の外側に設置される洗浄剤供給部32を備える。洗浄剤供給部32は、過酸化水素、過酢酸に例示される殺菌洗浄剤33を殺菌室4の内部環境に供給する。殺菌洗浄剤33は、透過膜28の方向にも供給される。洗浄剤供給部32は、制御装置18aによって制御される。
【0024】
図3は、シャッター30の付近の構成を示す下面図である。制御装置18によって制御される開閉装置31によってシャッター30は閉位置と開位置とを取りうる。閉位置のとき、シャッター30は透過膜28の外側、即ち透過膜28に対して真空室の反対の側を覆う。開位置のとき、シャッターは透過膜の外側を妨げない。図3には開位置にあるシャッター30が示されている。
【0025】
通常の運転モードのとき、シャッター30は開状態に設定される。ペットボトルが搬送装置15によって搬送される。電子線供給部20は電子線を供給する。電子線は透過膜28を透過し、所定の照射範囲に照射される。ペットボトルは照射範囲を通過して電子線により殺菌される。
【0026】
殺菌室4の内部環境を殺菌処理する環境殺菌モードにおいて、オペレータはシャッター30を閉じるために操作部19に対して所定の入力動作を行う。操作部19から閉信号が制御装置18aに送信される。制御装置18aは、閉信号を受信すると、開閉装置31を制御してシャッター30を閉位置に移動する。制御装置18aにはシャッター30が閉位置にあることを示すシャッター位置情報が記憶される。
【0027】
シャッター30が閉位置に移動された後、オペレータは殺菌洗浄剤33を供給するために操作部19に対して所定の入力操作を行う。操作部19から洗浄剤供給信号が制御装置18aに送信される。制御装置18aは、洗浄剤供給信号を受信し、かつシャッター位置情報にシャッター30が閉状態にあることが記憶されていると、洗浄剤供給部32を制御して殺菌洗浄剤33を殺菌室4の内部環境に供給する。殺菌室4の内部環境、特に開口部26の付近が殺菌される。シャッター30により、殺菌洗浄剤33が透過膜28に向けて供給されたときに透過膜28が保護される。そのため、殺菌洗浄剤33の供給量を多くすることができる。または、殺菌洗浄剤33を開口部26に向けてより強く吹き付けることができる。または、透過膜28を薄く設計することができ、電子線の透過膜によるエネルギー減衰が小さくなるので効率が上がる。
【0028】
以上に説明された殺菌部16におけるシャッターに代えて、エアカーテンを用いることも可能である。図4は、そのような殺菌部16bの構成を示す正面図である。電子線供給部20、真空室22、スキャンホーン24、開口部26、透過膜28及び洗浄剤供給部32の構成は図2と同じである。
【0029】
殺菌部16は、無菌エアマニホールド34、エアを殺菌して無菌エアを生成して無菌エアマニホールド34に供給する無菌エア供給部36及び洗浄剤供給部32と無菌エアマニホールド34とを制御する制御装置18bとを備えている。制御装置18bは、操作部19に接続される。
【0030】
図5は、無菌エアマニホールド34の付近の構成を示す下面図である。無菌エアマニホールド34は、z軸方向に開口部26と同じ高さ又は少し下方に無菌エア噴出孔38を有する。開口部26の長手方向、即ち電子線の走査方向をy方向とすると、無菌エアマニホールド34は、開口部26にx軸正方向に隣接する位置に設置される。無菌エア噴出孔38は、開口部26の方向に向けて設けられる。無菌エア噴出孔38は、開口部26の走査方向の一端付近から他端付近までy軸方向に沿って多数設けられる。
【0031】
図6は、殺菌部16bの側面図である。無菌エアマニホールドは、制御装置18bの制御に応答して、冷却モード又はエアカーテンモードを取る。図6(a)は冷却モードの場合を示す。無菌エアマニホールド34が供給する無菌エア40の速度は、x軸負方向の成分を有し、かつz軸正方向の成分を有する。これにより、無菌エア40が透過膜28の表面(透過膜28の真空室22に面している側と反対側の面)に吹き付けられる。
【0032】
図6(b)はエアカーテンモードの場合を示す。無菌エアマニホールド34は、概ね透過膜28の表面の延長方向に平行な速度成分を有する無菌エア40を供給する。この無菌エア40により、透過膜28の表面と殺菌室4の内部環境とを相対的に分離するエアカーテンが形成される。
【0033】
通常の運転モードのとき、制御部18bは無菌エアマニホールド34が冷却モードであるように設定する。ペットボトルが搬送装置によって搬送される。電子線供給部20は電子線を供給する。電子線は透過膜28を透過し、所定の照射範囲に照射される。ペットボトルは照射範囲を通過して電子線により殺菌される。透過膜28は電子線によって加熱される。図6(a)に示されるように無菌エア40が透過膜28の表面に対して供給されることにより、透過膜が冷却される。
【0034】
殺菌室4の内部環境を殺菌処理する環境殺菌モードにおいて、オペレータはエアカーテンを使用するために操作部19に対して所定の入力動作を行う。操作部19からエアカーテン信号が制御装置18bに送信される。制御装置18bは、エアカーテン信号を受信すると、無菌エアマニホールド34を制御してエアカーテンモードにする。制御装置18bには無菌エアマニホールド34がエアカーテンを形成していることを示すエアカーテン形成情報が記憶される。
【0035】
オペレータは殺菌洗浄剤33を供給するために操作部19に対して所定の入力操作を行う。操作部19から洗浄剤供給信号が制御装置18aに送信される。制御装置18aは、洗浄剤供給信号を受信し、かつエアカーテン形成情報にエアカーテンが形成されていることが記憶されていると、洗浄剤供給部32を制御して殺菌洗浄剤33を殺菌室4の内部環境に供給する。殺菌室4の内部環境、特に開口部26の付近が殺菌される。無菌エア40により、殺菌洗浄剤33が透過膜28に向けて供給されたときに透過膜28が保護される。そのため、殺菌洗浄剤33の供給量を多くすることができる。または、殺菌洗浄剤33を開口部26に向けてより強く吹き付けることができる。または、透過膜28を薄く設計することができ、透過膜によるエネルギー減衰が小さくなるので効率が上がる。こうした構成によれば、通常運転時に透過膜28を冷却する無菌エアマニホールド34が環境洗浄時の透過膜の保護に兼用される。そのため、設備費が低く、装置がコンパクトである。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】図1は、食品容器充填システムの構成を示す。
【図2】図2は、殺菌部の正面図である。
【図3】図3は、シャッターの付近の下面図である。
【図4】図4は、殺菌部の正面図である。
【図5】図5は、無菌エアマニホールドの付近の下面図である。
【図6】図6は、殺菌部の側面図である。
【符号の説明】
【0037】
2…食品容器充填システム
4…殺菌室
6…すすぎリンサ室
8…充填室
10…キャッパ室
12…ボトル入口
14…ボトル出口
15…搬送装置
16…殺菌部
18…制御装置
19…操作部
20…電子線供給部
22…真空室
24…スキャンホーン
26…開口部
28…透過膜
30…シャッター
31…開閉装置
32…洗浄剤供給部
33…殺菌洗浄剤
34…無菌エアマニホールド
36…無菌エア供給部
38…無菌エア噴出孔
40…無菌エア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線を発生する電子線発生部と、
前記電子線発生部の発生する電子線が通過する真空室と、
環境の気体が前記真空室に侵入することを妨げ且つ前記真空室を通過した電子線を透過して前記環境に供給する透過膜と、
前記環境に散布される液体が前記透過膜に接する量を低減する遮蔽部
とを具備する
電子線殺菌装置。
【請求項2】
請求項1に記載された電子線殺菌装置であって、
前記透過膜はチタンを含む
電子線殺菌装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載された電子線殺菌装置であって、
前記遮蔽部は、所定の入力信号に応答して開閉する遮蔽板を備える
電子線殺菌装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載された電子線殺菌装置であって、
前記遮蔽部は、所定の入力信号に応答して、前記透過膜に対して前記環境に曝された側にエアカーテンを生成するエア噴射部を備える
電子線殺菌装置。
【請求項5】
請求項4に記載された電子線殺菌装置であって、
更に、気体を取り込んで殺菌して無菌エアを生成し、前記エアカーテンを生成するために前記無菌エアを前記エア噴射部に供給する無菌エア供給部
を具備する
電子線殺菌装置。
【請求項6】
請求項4又は5において、
前記エア噴射部は、前記透過膜が配置される殺菌室の外部から受信する制御信号に応答して第1状態と第2状態とを取り、
前記第1状態において前記エア噴射部は前記透過膜にエアを吹きつけ、
前記第2状態において前記エア噴射部は前記第1状態とは異なる方向にエアを吹き出すことによって前記エアカーテンを生成する
電子線殺菌装置。
【請求項7】
請求項3乃至6に記載された電子線殺菌装置であって、
前記所定の入力信号は、前記透過膜が配置される殺菌室の外部から送信される
電子線殺菌装置。
【請求項8】
請求項1乃至7に記載された電子線殺菌装置であって、
更に、前記透過膜が配置される殺菌室の外部からの遠隔操作によって当該電子線殺菌装置の前記環境に接する部分に洗浄剤を供給する洗浄剤供給部
を具備する
電子線殺菌装置。
【請求項9】
請求項1乃至8に記載された電子線殺菌装置と、
前記透過膜が配置される殺菌室と、
前記殺菌室の内部に配置され、前記電子線発生部の発生する電子線の照射範囲を通って殺菌対象物を搬送する搬送装置
とを具備する
電子線殺菌システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−125119(P2007−125119A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318748(P2005−318748)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】