説明

電子線源用フィラメント構造体

【課題】フィラメント支持部材間に架け渡すフィラメントの交換作業を経済的に行え、フィラメント支持部材の強度も大きくできる電子線源用フィラメント構造体を提供する。
【解決手段】フィラメント支持部材32間に、フィラメント33を架け渡すフィラメント構造体30は、絶縁基板31に所定の間隔を保って固定する二つのフィラメント支持部材32に、グラッシーカーボンを用いている。各フィラメント支持部材32の先端部に、断面がU字状の接合チップ34を着脱自在に取り付けている。この接合チップ34を用いて、フィラメント支持部材32間にフィラメント33を着脱自在に接続している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子線源用フィラメント構造体に係り、フィラメントの交換が容易に行える電子線源用フィラメント構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、食品の充填に用いる樹脂フィルム等のシート材料は、食品充填前に滅菌処理を施し、雑菌付着のない無菌状態としてから使用される。シート材料の滅菌処理は、従来から簡便な薬剤を使用する方法が用いられてきた。食品に使用するシート材料では、滅菌処理に使用した薬剤の残留をなくして完全に除去することが望まれるから、滅菌装置に薬剤除去装置を設けるとなると、全体が大型となる。
【0003】
このため最近では薬剤の滅菌処理に代え、図4に示すような殺菌用電子線照射装置を用い、食品の充填前に移動するシート材料に対して電子線を照射し、連続して滅菌処理を行うことが提案されている(例えば特許文献1参照)。この殺菌用電子線照射装置は例えば図6示すように、真空ポンプVP等の減圧手段を備えて内部を予め定めた減圧状態を維持する電子線照射室1に、電子線源を有する電子線照射手段2を設けている。
【0004】
シート材料3は、ローラー4等によって図4中に矢印で示す如く、電子線照射室1の内部を、右側の工程側から左側の工程側に連続して移動させる。この移動中のシート材料3面に対して、電子線照射手段2から電子線EBを照射し、滅菌処理を行っている。
【0005】
電子線照射室1に設ける電子線照射手段2は、例えば図5に示す如く電子線発生室2A内に配置する電子線源5を使用し、電子線EBを発生させる。電子線発生室2A内は、電子線照射室1と同様に真空ポンプVP等の各種の減圧手段を用いて高真空状態を維持できるようにしている。なお、高真空の電子線発生室2A内に設ける電子線源5の例としては、例えば特許文献2がある。
【0006】
電子線源5は、電子線を発生させるカソード6と、発生した電子線を真空空間で加速するアノード9とを有している。カソード6は、通電加熱時に熱電子を放出するフィラメント7と、フィラメント7で発生した熱電子を制御するグリッド8を備えている。フィラメント7は、多数のフィラメントを所定の間隔をおいて一直線上に配置し、例えば5本を1組として5組を作り、各組は5本のフィラメントを直列に接続して使用する。
【0007】
フィラメント7には、図5に示すようにケーブル14により電源ユニット10のフィラメント電源12と接続し、フィラメント7を加熱して熱電子を発生させる。また、フィラメント7とグリッド8との間には、電圧を印加して熱電子を制御するため、電源ユニット10のグリッド電源13が同様にケーブル14で接続している。更に、グリッド8と照射窓2Bとの間には、照射窓2Bを通過して電子線照射室1内に入る電子線EBを加速する加速電圧を印加するため、電源ユニット10の高電圧直流電源11をケーブルで接続している。
【0008】
通常、フィラメント7はタングステンの如き高融点金属により線状に形成され、フィラメント支持部材間に掛け渡される。フィラメント7が損傷時の交換を容易にするため、例えば特許文献3に記載されたフィラメント支持構造体が提案されている。この特許文献3のものは、モリブデン(Mo)等の高融点金属製のフィラメント支持板を用い、これを絶縁台に互いに間隔をあけて相対向させて取り付け、このフィラメント支持板間に線状のフィラメントを支持させている。そして、フィラメントの交換の際は、そこの両端部を各フィラメント支持板の先端部付近間に引っ掛けることによって架け渡して取り付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−230668号公報
【特許文献2】特開昭62−198045号公報
【特許文献3】特開2001−228300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記した殺菌用電子線照射装置の電子線照射手段に使用する電子線源のフィラメントは、一定時間使用すると寿命がきて焼損する。このため、食品の製造工程中に設ける殺菌用電子線照射装置は、予め定めた運転時間を経過すると定期的に交換を行い、フィラメント7の焼損のために食品の製造装置全体を緊急停止することのないようにしている。
【0011】
電子線源のフィラメントの交換は、簡単にしかも短時間に行えて交換部品も少なくすることが望まれている。上記特許文献3のフィラメント支持構造体は、フィラメント支持板の自由端に形成したフィラメントの根元が入る切り込み溝及び先端部が入る穴を用いて、フィラメントを架け渡す構造であるため、フィラメント支持板の加工が難しい欠点がある。また、フィラメント支持板は熱伝達率λの大きなモリブデン(Mo)等を用いているから、幅の広いフィラメント支持板では熱損失を少なくするのが難しく、幅を狭くすると機械的強度が低下する問題がある。
【0012】
本発明の目的は、フィラメント支持部材間に架け渡すフィラメントの交換作業を経済的に行え、フィラメント支持部材の強度も大きくできる電子線源用フィラメント構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の電子線源用フィラメント構造体は、絶縁基板に二つのフィラメント支持部材を所定の間隔を保って固定し、前記フィラメント支持部材間に線状のフィラメントを架け渡して構成する際に、前記フィラメント支持部材にはグラッシーカーボンを用い、前記フィラメント支持部材の先端部に、断面がU字状の接合チップを着脱自在に取り付け、前記接合チップにより前記フィラメント支持部材間に前記フィラメントを着脱自在に接続して構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の電子線源用フィラメント構造体によれば、フィラメント支持部材の先端部に着脱自在に取り付ける接合チップを活用してフィラメントを架け渡して接続したので、フィラメントのみの部品の交換で済むため、短時間に極めて経済的に行える。また、絶縁基板に固定するフィラメント支持部材にグラッシーカーボンを用いたので、従来ものに比べて熱伝達率が大幅に少ないため、フィラメント支持部材を太くして機械的強度を大きくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の電子線源用フィラメント構造体を使用する電子線源の線源ブロックを示す平面図である。
【図2】図1を一部断面して示す側面図である。
【図3】本発明の一実施例である電子線源用フィラメント構造体を示す側面図である
【図4】シート材料の殺菌用電子線照射装置を示す概略縦断面図である。
【図5】図4に用いる電子線源を示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の電子線源用フィラメント構造体では、絶縁基板に所定の間隔を保って固定する二つのフィラメント支持部材に、グラッシーカーボンを用いている。これらフィラメント支持部材間に、フィラメントを架け渡して接続するため、各フィラメント支持部材の先端部に、断面がU字状の接合チップを着脱自在に取り付け、接合チップによりフィラメントを着脱自在に接続する。以下、本発明を図1から図3を用いて説明する。
【実施例1】
【0017】
本発明の電子線源用フィラメント構造体は、図1から図2に示す線源ブロック20に使用している。板状取付枠体21には開口21aを形成しており、この上面の両側に絶縁支持柱22を設けている。板状取付枠体21上の絶縁支持柱22を利用して、複数のフィラメント構造体30を保持して結合する下枠板23と上枠板24の左右の端部を、固定手段として用いるボルト等の固定材27により取り付けて結合し、板状取付枠体21上に構成する線源ブロック20の一部としている。
【0018】
下枠板23と上枠板24部分には、これらの長手方向に所定の間隔をおいて双方に設ける凹溝を合わせた形の複数の保持空間部26を形成している。各保持空間部26には、それぞれフィラメント構造体30の絶縁基板31を配置している。フィラメント構造体30を配置した状態で下枠板23と上枠板24は、連結部材となる複数の連結ボルト25によって上下に結合し、絶縁基板31を保持している。
【0019】
下枠板23と上枠板24間に設ける複数の保持空間部26の間隔は、保持空間部26のそれぞれにフィラメント構造体30を配置したとき、電子線が滅菌の処理対象物に均等に照射できるように形成する。
【0020】
板状取付枠体21の上面に、線源ブロック20を構成するグリット28を取り付けている。グリット28は、各フィラメント構造体30と対向する位置に照射穴28aを設けており、電子線は照射穴28a電子線照射室内に入って、処理対象物を滅菌処理する。
【0021】
このグリット28は、絶縁間隔片29aを介在させて固定ボルト29bを用いて板状取付枠体21上に着脱可能に固定している。これによって、所定の間隔を保って対向させたフィラメント構造体30側と組み合わさり、板状取付枠体21上に線源ブロック20を一体に構成されている。
【0022】
本発明に用いるフィラメント構造体30は、図3(a)に示すようにボロン(BN)を含んだ合成樹脂を用いて形成した絶縁基板31に、二つのフィラメント支持部材32を固定している。フィラメント支持部材32の一方の先端部間に、高融点金属製の線状のフィラメント33を架け渡して接続し、他方側をフィラメント電源に連なるケーブルのコネクタを挿入するリ−ド線として兼用させている。
【0023】
そして、各フィラメント支持部材32は、熱伝達率λが著しく小さなグラッシーカーボンを用いて作っている。グラッシーカーボン材は、この熱伝達率λが一般に用いられるモリブデン(Mo)に比べて約1/20以下と小さい。このため、グラッシーカーボン製のフィラメント支持部材32は、モリブデン製のものに比べて熱損失を小さくできる。
【0024】
逆にいえば、グラッシーカーボン製のフィラメント支持部材32は、モリブデン製支持部材の熱伝導を同等しても良いときには太くすることができる。この場合、フィラメント支持部材32の機械的強度を大きくすることができるし、グラッシーカーボン製のリ−ド線を兼用部分にフィラメント電源に連なるコネクタの挿入も問題なく行える。また、グラッシーカーボン製のフィラメント支持部材32を使用すると、後述する接合チップ34を取り付けたとしても、フィラメント支持部材32の熱損失を同じくらいにすることができる。
【0025】
フィラメント33を架け渡して接続するため、各フィラメント支持部材32の先端部に、断面がU字状に形成した接合チップ34を着脱自在に取り付けている。接合チップ34は、これに螺着する押圧ねじ35を用いており、押圧ねじ35によりフィラメント支持部材32側を押圧し、着脱自在に接合チップ34を固定する。
【0026】
フィラメント33は、接合チップ34とフィラメント支持部材32間に挟んで架け渡し接続できるから、フィラメント33のみを交換すれば良いため、経済的にしかも短時間に行うことができる。
【0027】
なお、接合チップ34や押圧ねじ35は、耐熱性や熱伝達性を考慮した金属材料、例えばチタン材を用いて製作して使用する。
【符号の説明】
【0028】
30…フィラメント構造体、31…絶縁基板、32…フィラメント支持部材、33…フィラメント、34…接合チップ、35…押圧ねじ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基板に二つのフィラメント支持部材を所定の間隔を保って固定し、前記フィラメント支持部材間に線状のフィラメントを架け渡した電子線源用フィラメント構造体において、前記フィラメント支持部材にはグラッシーカーボンを用い、前記フィラメント支持部材の先端部に、断面がU字状の接合チップを着脱自在に取り付け、前記接合チップにより前記フィラメント支持部材間に前記フィラメントを着脱自在に接続して構成したことを特徴とする電子線源用フィラメント構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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