説明

電子線照射装置用電子線源

【課題】フィラメントの交換に要するフィラメントとグリッドとの位置調整時間を短縮し、殺菌用の電子線照射装置の運転中断を短くできる電子線照射装置用電子線源を提供する。
【解決手段】下枠板23と上枠板24を用い、これらに所定間隔で複数のフィラメント本体30の保持空間部26を形成している。下枠板23と上枠板24は、各保持空間部26内にそれぞれフィラメント本体30の絶縁基板31部分を配置した状態で連結ボルト25によって結合している。下枠板23には、照射穴28aを設けたグリット28を着脱可能に固定し、フィラメント本体30とグリッド28を線源ブロック20として一体に構成している。下枠板23に螺着する複数個の位置調整ねじ33を設け、これらを保持空間部26内の絶縁基板31の下面に設けた位置決め穴34にそれぞれ係合させ、フィラメント本体30とグリット28間の寸法調節を可能にしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子線照射装置用電子線源に係り、特にフィラメント交換時のフィラメントとグリッド間の位置調整の作業を短時間に行える電子線照射装置用電子線源に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、食品の充填に用いる樹脂フィルム等のシート材料は、食品充填前に滅菌処理を施し、雑菌付着のない無菌状態としてから使用される。シート材料の如き処理対象物の滅菌処理は、従来から簡便な薬剤を使用する方法が用いられてきた。食品に使用するシート材料では、滅菌処理に使用した薬剤の残留をなくして完全に除去することが望まれるから、滅菌装置に薬剤除去装置を設けるとなると、全体が大型となる。
【0003】
このため最近では薬剤の滅菌処理に代え、図5に示すような殺菌用電子線照射装置を用い、食品の充填前に移動するシート材料に対して電子線を照射し、連続して滅菌処理を行うことが提案されている(例えば特許文献1参照)。この殺菌用電子線照射装置は例えば図5に示す如く、真空ポンプVP等の減圧手段を備えて内部を予め定めた減圧状態を維持する電子線照射室1に、電子線源を有する電子線照射手段2を設けている。
【0004】
シート材料3は、ローラ4等によって図5中に矢印で示す如く、電子線照射室1の内部を、右側の工程側から左側の工程側に連続して移動させる。この移動中のシート材料3面に対して、電子線照射手段2から電子線EBを照射し、滅菌処理を行っている。
【0005】
電子線照射室1に設ける電子線照射手段2は、例えば図6に示す如く電子線発生室2A内に配置する電子線源5を使用し、電子線EBを発生させる。電子線発生室2A内は、電子線照射室1と同様に真空ポンプVP等の各種の減圧手段を用いて高真空状態を維持できるようにしている。なお、高真空の電子線発生室2A内に設ける電子線源5の例としては、例えば特許文献2がある。
【0006】
電子線源5は、電子線を発生させるカソード6と、発生した電子線を真空空間で加速するアノード9とを有している。カソード6は、通電加熱時に熱電子を放出するフィラメント7と、フィラメント7で発生した熱電子を制御するグリッド8を備えている。フィラメント7は、複数本のフィラメントを所定の間隔をおいて一直線上に配置し、例えば5本を1組として5組を作り、各組は5本のフィラメントを直列に接続して使用する。
【0007】
フィラメント7には、図6に示すようにケーブル14により電源ユニット10のフィラメント電源12と接続し、フィラメント7を加熱して熱電子を発生させる。また、フィラメント7とグリッド8との間には、電圧を印加して熱電子を制御するため、電源ユニット10のグリッド電源13が同様にケーブル14で接続している。更に、グリッド8と照射窓2Bとの間には、照射窓2Bを通過して電子線照射室1内に入る電子線EBを加速する加速電圧を印加するため、電源ユニット10の高電圧直流電源11をケーブルで接続している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−230668号公報
【特許文献2】特開昭62−198045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記した電子線源5のフィラメント7は、一定時間使用すると寿命がきて焼損する。このため、高真空の電子線発生室2A内に電子線源5を設けている殺菌用の電子線照射装置では、予め定めた運転時間を経過すると定期的に交換を行い、フィラメント7の焼損のため装置全体を緊急停止することのないようにしている。
【0010】
通常、電子線源5のフィラメント7とグリッド8とは、分離されている構造になっているのが一般的である。それ故、電子線源5のフィラメント7を交換する際には、その都度フィラメント7とグリッド8間の位置調整を行う必要がある。しかし、これら両者間の位置調整は非常に難しいため、フィラメント7の交換作業に著しく時間が掛かり、空中の浮遊塵埃が電子線発生室内に混入してしまう欠点がある。また、殺菌用の電子線照射装置の運転中断時間が長くなると、食品の製造工程の全体に影響を及ぼしてしまい、食品製造の稼働率も低下してしまうという問題が生ずることになる。
【0011】
本発明の目的は、電子線源のフィラメントの交換に要するフィラメントとグリッドとの位置調整時間を短縮し、殺菌用の電子線照射装置の運転中断を短くできる電子線照射装置用電子線源を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の電子線照射装置用電子線源は、連結部材で結合する下枠板と上枠板とを有し、前記下枠板と上枠板の長手方向に所定の間隔をおいて複数の保持空間部を形成し、前記各保持空間部にそれぞれフィラメント本体の絶縁基板を配置して保持させ、前記下枠板には照射穴を形成したグリットを所定の絶縁間隔を保って一体にして線源ブロックを構成したことを特徴としている。
【0013】
好ましくは、前記フィラメント本体は、絶縁基板に二つのフィラメント支持部材を固定し、前記フィラメント支持部材の一方の先端部間に線状のフィラメントを懸架して接続すると共に、他方側をフィラメント電源に連なるリ−ド線として兼用させて構成したことを特徴としている。
【0014】
また好ましくは、前記下枠板に螺着する複数個の位置調整ねじを設け、前記各位置調整ねじは、前記保持空間部内に配置したフィラメント本体の絶縁基板の下面に係合させて構成したことを特徴としている。
【0015】
更に好ましくは、前記フィラメント本体の絶縁基板の下面に複数個の位置決め穴を設け、前記各位置決め穴に前記各位置調整ねじをそれぞれ係合させて構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
本発明の電子線照射装置用電子線源は、フィラメントとグリッドを一体にして線源ブロックを構成したので、フィラメントとグリッド間の位置調整時間を省略できるから、フィラメント交換時の作業時間を大幅に短縮でき、電子線発生室内に空中の浮遊塵埃が混入するのを抑制できる。したがって、本発明の電子線源を組み合わせた電子線照射装置は、処理対象物の滅菌処理運転の中断が短く、速やかに運転再開できるから運転効率を著しく向上できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に一実施例である電子線照射装置用電子線源の線源ブロックを示す平面図である。
【図2】図1を一部断面して示す側面図である。
【図3】図2のA部の縦断面図である。
【図4】(a)は、図2のA部を拡大して示す縦断面図、(b)は(a)をB−B線から見た底面図である。
【図5】シート材料の殺菌用電子線照射装置を示す概略縦断面図である。
【図6】図5に用いる電子線源を示す概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の電子線照射装置用電子線源は、複数のフィラメント本体を配置する保持空間部を設けて結合する下枠板と上枠板を、板状のグリットに所定の間隔を隔てて一体にした線源ブロックを用いている。以下、本発明を図1から4を用いて順に説明する。
【実施例1】
【0019】
本発明の電子線照射装置用電子線源は、図1から図3に示す如く板状取付枠体21上に一体に構成する線源ブロック20を用いている。板状取付枠体21には開口21aを形成しており、この上面の両側に絶縁支持柱22を設けている。
【0020】
板状取付枠体21上の絶縁支持柱22を利用して、複数のフィラメント本体30を保持して結合する下枠板23と上枠板24の左右の端部を、固定手段として用いるボルト等の固定材27により取り付けて結合し、板状取付枠体21上に構成する線源ブロック20の一部としている。
【0021】
下枠板23と上枠板24部分には、これらの長手方向に所定の間隔をおいて双方に設ける凹溝を合わせた形の複数の保持空間部26を形成している。各保持空間部26には、それぞれフィラメント本体30の絶縁基板31を配置しており、この状態で下枠板23と上枠板24は、連結部材となる複数の連結ボルト25によって上下に結合し、絶縁基板31を保持している。
【0022】
下枠板23と上枠板24間に設ける複数の保持空間部26の間隔は、保持空間部26のそれぞれにフィラメント本体30を配置したとき、電子線が滅菌の処理対象物に均等に照射できるように形成する。
【0023】
なお、各連結ボルト25は、図1及び図2に示したようにフィラメント本体30間に配置して、下枠板23と上枠板24とを連結すると、後述するようにフィラメント本体30を位置調節するときに、上枠板24が押し上げられて下枠板23から離れることがなくなる。
【0024】
下枠板23は、この下面に絶縁間隔片29aを介在させて所定の間隔を保って、線源ブロック20の一部であるグリット28を、固定ボルト29bによって着脱可能に固定している。このため、下枠板23は上枠板24よりも幅広の板材を用いている。下枠板23にグリット28を一体にしたことにより、下枠板23と上枠板24の保持空間部26に保持された複数のフィラメント本体30は、絶縁間隔片29aによって確保された間隔を保ってグリット28と対向させ、板状取付枠体21の上に線源ブロック20が一体に構成されている。
【0025】
下枠板23に取り付けるグリット28は、図2及び図3に示す如く各フィラメント本体30と対向する位置に照射穴28aを設けており、照射穴28aを通った電子線が電子線照射室内に入り、処理対象物を滅菌処理する。
【0026】
滅菌の処理対象物がシート材料である電子線照射装置に、上記の如く板状取付枠体21上に一体に構成した線源ブロック20を用いる場合は、シート材料の全幅を電子線が照射できるようにするため、高真空の電子線発生室内に複数の本数分を並置する。線源ブロック20を設けた板状取付枠体21は、電子線照射室と電子線発生室間を区画するチタン箔やグラファイトシート等の箔膜が取り付けられる照射窓に対応させて配設され、箔膜を通過した電子線でシート材料の全幅を滅菌処理できるようにする。
【0027】
フィラメント本体30は、図4(a)に示すようにセラミック製或いはやボロン(BN)等を含んだ合成樹脂製の絶縁基板31に、二つのフィラメント支持部材32を固定している。フィラメント支持部材32は、これらの一方の先端部間にタングステン等の高融点金属で作った線状のフィラメント33を懸架して接続し、他方側をフィラメント電源に連なるリ−ド線として兼用させている。
【0028】
また、本発明の板状取付枠体21上に一体に構成する線源ブロック20は、フィラメントの定期的な交換や緊急交換の際、グリット28とフィラメント33間の寸法調整を容易にするため、下枠板23に寸法調整手段を備え、フィラメント本体30の位置を変えることができるようにしている。
【0029】
この寸法調整手段として、図4(a)、(b)の例では120度の間隔で下枠板23に螺着する3個の位置調整ねじ35を用いている。位置調整ねじ35は、下枠板23からフィラメント本体30の絶縁基板31の下面側に突出して係合する所謂ねじジャッキとして作用し、保持空間部26内でフィラメント本体30を上下に移動させる。
【0030】
各位置調整ねじ35の先端は、図4(b)のように絶縁基板31の下面に設けた各位置決め穴34にそれぞれ係合させている。それ故、絶縁基板31の下面に接した位置調整ねじ35を、下枠板23とグリット28間の空間から操作して回して先端を上下させると、フィラメント本体30が保持空間部26内を移動するので、グリット28フィラメント33間の寸法を容易に微調整することができる。
【0031】
なお、絶縁基板31の下面に、図4(b)の例では3個の位置決め穴34を設けているが、各位置調整ねじ35を絶縁基板31の平坦な面に直接接触させる構造とすることもできる。この場合、例えばフィラメント本体30の絶縁基板31の外面に係合突起を形成し、係合突起を保持空間部26内に設けた凹部に係合させるようにすれば、定めた位置に配置できるから位置決め穴34を省略することができる。また、位置調整ねじ35は、図4(b)に示す如く3個に限るものではなく、位置調整が容易で短時間に作業できる個数を選定することができる。
【0032】
フィラメント本体30は、上枠板24側の保持空間部26内に、ゴム板の如き弾性体を介在させて配置することもできる。このようにすると、フィラメント本体30の絶縁基板31が各位置調整ねじ33の先端で押し上げられても、自由に移動するのを適切に抑制することができる。
【0033】
下枠板23と上枠板24部分に設けるフィラメント本体30を、グリッド28と一体化して線源ブロック20を構成すると、フィラメント33の交換に要する作業時間を大幅に短縮でき、電子線発生室が開放される時間が短いので、空中の浮遊塵埃が内部に混入することが極めて少なくなる。しかも、下枠板23の設ける位置調整ねじ33を使用すると、フィラメント本体30のフィラメント33を交換する際に、グリッド21とフィラメント33間の寸法の調整も容易に行える。それ故、本発明の線源ブロック20を用いた殺菌用の電子線照射装置は、運転中断時間を著しく短くすることができる。
【0034】
上記した電子線照射装置用電子線源は、滅菌する処理対象物がシート材料の場合で説明したが、これに限らずにペットボトルやそのキャップの如き他の処理対象物に使用する電子線照射装置に適用できることは明らかである。
【符号の説明】
【0035】
20…線源ブロック、22…支持柱、23…下枠板、24…上枠板、25…連結ボルト、26…保持空間部、28…グリット、28a…照射穴、30…フィラメント本体、31…絶縁基板、32…フィラメント支持部材、33…フィラメント、34…位置決め穴、35…位置調整ねじ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
連結部材で結合する下枠板と上枠板とを有し、前記下枠板と上枠板の長手方向に所定の間隔をおいて複数の保持空間部を形成し、前記各保持空間部にそれぞれフィラメント本体の絶縁基板を配置して保持させ、前記下枠板には照射穴を形成したグリットを所定の絶縁間隔を保って一体にして線源ブロックを構成したことを特徴とする電子線照射装置用電子線源。
【請求項2】
請求項1において、前記フィラメント本体は、絶縁基板に二つのフィラメント支持部材を固定し、前記フィラメント支持部材の一方の先端部間に線状のフィラメントを懸架して接続すると共に、他方側をフィラメント電源に連なるリ−ド線として兼用させて構成したことを特徴とする電子線照射装置用電子線源。
【請求項3】
請求項1において、前記下枠板に螺着する複数個の位置調整ねじを設け、前記各位置調整ねじは、前記保持空間部内に配置したフィラメント本体の絶縁基板の下面に係合させて構成したことを特徴とする電子線照射装置用電子線源。
【請求項4】
請求項3において、前記フィラメント本体の絶縁基板の下面に複数個の位置決め穴を設け、前記各位置決め穴に前記各位置調整ねじをそれぞれ係合させて構成したことを特徴とする電子線照射装置用電子線源。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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