説明

電子線照射装置

【課題】 カーテン状に電子線を照射できる電子線照射装置を提供する。
【解決手段】 エミッタ14とゲート電極15間の電圧を数kV、グリッド電極19と金属膜(陽極)18間の電圧を約40kVとすると、エミッタ14から電子線16が発生し、発生した電子線16は電極15によって方向が定められ、グリッド電極19によって範囲が絞られ、窓部17から外部に向かってカーテン状に照射される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直管チューブ型の電子線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハやガラス基板の表面に塗布したレジスト液の硬化、或いは刷版の硬化の手段として、UV(紫外線)による重合開始剤をレジスト液や刷版内に含有させている。しかしながら、UV硬化法は材質の劣化を伴うため、最近では電子線照射によって硬化させることが考えられている。
【0003】
真空中でエミッタ(陰極)と陽極との間に高電圧を印加することで電子線が発生する。陽極をタングステンなどのターゲットとした場合にはX線が発生する。
【0004】
特許文献1には筐体の一面に絶縁体を介してエミッタを取り付けた構成が開示され、特許文献2にあっては面板に形成した溝部にエミッタ(炭素系電子放出材料)を入れ込み、面板にゲート電極を設けた構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−305565号公報
【特許文献2】国際公開第2007/135812号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2ともガラス製の直管型チューブを用いておらず、従来の電子線照射装置を用いて線状に電子を照射したい場合には、チューブの一端を電子線の照射窓とした複数個の照射装置を、線に沿って配置することになり、コスト的にもメンテナンスの面でも問題がある。
【0007】
また特許文献1には、エミッタの両側にゲート電極は存在せず、電子線を効率よく窓部から照射させることができず、特許文献2のように溝部内にエミッタを入れてしまうと、溝部の角にチャージアップが発生してしまい、これはゲート電極を設けることでは解消できない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明に、減圧雰囲気に維持されたチューブ内に電子ビームを放出するエミッタを配設した電子線照射装置において、前記チューブはガラス製の直管型チューブとされるとともに複数の窓部がチューブの長さ方向に沿って貫通して形成されるとともに金属膜で外側から気密に閉じられ、また前記エミッタは棒状をなすナノカーボン電極であって前記窓部を形成したチューブ内面と対向するチューブ内面に寄った位置にチューブの長さ方向に沿って配置され、このエミッタの両脇で前記窓部と対向するチューブ内面に寄った位置にチューブの長さ方向に沿って棒状をなすゲート電極が配置され、前記エミッタと窓部との間にグリッド電極が配置された構成とした。
【0009】
上記構成とすることで、エミッタで発生した電子線はゲート電極で方向が定められ、グリッド電極で絞られて窓部から線状(カーテン状)に放射される。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る電子線照射装置は、塗布液の硬化以外にも、殺菌(滅菌)にも使用することができる。この場合も点照射ではなく、一定の幅で電子線を照射できるので、効率がよい。
【0011】
上記の他に本発明に係る電子線照射装置は、ガンマー線やUVのような材質劣化、着色、臭気を伴わず温度上昇が5℃程度と殆どないので、食品加工や薬品製造において有利である。
【0012】
また、電子線はガンマー線やUVに比較して殺菌(滅菌)処理時間は短く(1/10程度)てすみ、電子線は物質を透過するため、最終梱包状態での処理が可能であり、更に殺菌(滅菌)判定を電子線の照射量(線量)で行うことができるので、別途検査が不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る電子線照射装置を適用したガラス基板搬送ラインの側面図
【図2】本発明に係る電子線照射装置の斜視図
【図3】本発明に係る電子線照射装置の断面図
【図4】(a)は本発明に係る電子線照射装置の要部の拡大断面図、(b)は(a)を下から見た図
【図5】本発明に係る電子線照射装置のエミッタとゲート電極とグリッド電極の位置関係を示す斜視図
【図6】エミッタとしてのナノカーボン電極表面の拡大写真
【図7】別実施例を示す図3と同様の図
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1において、本実施例に係る電子線照射装置11は直管型チューブとなっている。直管型チューブとしては、パイレックス(登録商標)などのガラス製を用いる。
【0015】
電子線照射装置11は直管型チューブの上方及び側方を保護ケース12で覆われ、搬送ラインは多数のローラ100を平行に配置して構成され、このローラ100上をガラス基板(半導体ウェーハ)Wが搬送される。
【0016】
電子線照射装置11からはガラス基板(半導体ウェーハ)W上に塗布されたレジスト液にカーテン状に電子線が照射されレジスト液が硬化する。
【0017】
前記電子線照射装置11は図2および図3に示すように、減圧状態(1〜10−6Torr)に維持されたチューブ13内にエミッタ14を挿入している。エミッタ14はステンレスなどの棒状電極の表面に、ナノカーボン層を形成している。このナノカーボン層は図6に示すように、先端が尖っており、この先端から電子が大量且つ容易に放出される。
【0018】
図6に示すようなナノカーボン層を形成するには、プラズマ雰囲気中にCH4+H2ガスを導入し、プラズマによってCH4を活性化し、基体表面にナノカーボン層を形成する。
【0019】
また、エミッタ14の両脇には棒状をなすゲート電極15、15を配置し、エミッタ14から放出される電子ビーム16の幅をコントロールしている。ゲート電極15としては、図7に示すように、エミッタ14の背後にチャージアップ防止用の別のゲート電極15を配置してもよい。
【0020】
前記チューブ13には複数の窓部17がチューブの13長さ方向に沿って貫通して形成されるとともに金属膜(陽極)18で外側から気密に閉じられている。前記棒状をなすエミッタ14は前記窓部17を形成したチューブ13内面と対向するチューブ内面に寄った位置にチューブの長さ方向に沿って配置され、前記ゲート電極15はエミッタの両脇で前記窓部17と対向するチューブ内面に寄った位置にチューブの長さ方向に沿って配置されている。
【0021】
前記窓部17の径は200〜800μm、チューブ13の厚みは0.5〜1.0mmとし、金属膜(陽極)18の厚みはチューブ13の厚みより薄く且つチューブ13内の真空が破壊されない厚みを確保している。
【0022】
また、前記エミッタ14およびゲート電極15、15と窓部17との間にグリッド電極19が配置されている。このグリッド電極19は図5に示すように板状をなすとともに、電子線を絞るためのスリット20を長さ方向に形成している。
【0023】
以上において、エミッタ14に−40kV〜−70kVの電圧を印加し、エミッタ14からの電流制御のためゲート電極15に必要な電流となるように−20kV〜−70kVの電圧を加える。
【0024】
グリッド電極19は電界レンズとして機能し、窓部17の領域以外に電子が照射されない役目をする。そのために0(接地)〜−10kVの電圧を印加する。グリッド電極19で集束した電子はそのまま薄いBe製の窓部17を通り抜け、外気に放出される。したがって、集束された電子によりX線の発生は殆んどない。
【0025】
またグリッド電極19のスリット20を適当な大きさにし、バイアス電圧の印加によりレンズ効果を作ることで対象物に対し、制御された電子ビーム(カーテン状)が照射される。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明に係る電子線照射装置は、半導体(電子回路)製造工程、食品や薬品の殺菌(滅菌)工程などにおいて利用することができる。
【符号の説明】
【0027】
11…電子線照射装置、12…保護ケース、13…チューブ、14…エミッタ、15…ゲート電極、16…電子ビーム、17…窓部、18…金属膜(陽極)、19…グリッド電極、20…スリット、100…ローラ、W…ガラス基板(半導体ウェーハ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
減圧雰囲気に維持されたチューブ内に電子ビームを放出するエミッタを配設した電子線照射装置において、前記チューブはガラス製の直管型チューブとされるとともに複数の窓部がチューブの長さ方向に沿って貫通して形成されるとともに金属膜で外側から気密に閉じられ、また前記エミッタは棒状をなすナノカーボン電極であって前記窓部を形成したチューブ内面と対向するチューブ内面に寄った位置にチューブの長さ方向に沿って配置され、このエミッタの両脇で前記窓部と対向するチューブ内面に寄った位置にチューブの長さ方向に沿って棒状をなすゲート電極が配置され、前記エミッタと窓部との間にグリッド電極が配置されていることを特徴とする電子線照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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