電子線装置及び画像表示装置
【課題】電子放出効率が高く、同時にゲートとカソード間の静電容量の小さな電子線装置を提供する。
【解決手段】絶縁部材2の側面2a上に形成したゲート5とカソード4と、Z方向の延長上に配置したアノードと、を備えた電子線装置において、ゲート5とカソード4のアノードへの正射影が互いに重ならないように、ゲート5とカソード4とをY方向においてずらせて配置する。
【解決手段】絶縁部材2の側面2a上に形成したゲート5とカソード4と、Z方向の延長上に配置したアノードと、を備えた電子線装置において、ゲート5とカソード4のアノードへの正射影が互いに重ならないように、ゲート5とカソード4とをY方向においてずらせて配置する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイに用いられる、電子を放出する電子放出素子を備えた電子線装置と、該電子線装置を用いてなる画像表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、カソードとゲートとを近接して配置してなる電子放出素子と、該カソードから放出された電子を加速するためのアノードとを備えた電子線装置が知られている。係る電子線装置においては、アノードの後方に発光部材を配置しておき、カソードとゲート間に高電圧を印加して該カソードから電子を放出させ、該電子をアノードに衝突させて発光部材を発光させる。特許文献2には、簡易な構成で電子放出効率の高い電子放出素子とこれを備えた画像表示装置が開示されている。係る電子放出素子は、基板上の絶縁面に凹部を設けて、その凹部を挟んでカソードとゲートとを形成することで、カソードから電子放出を可能とする。そして係る文献には、寄生容量を低減せしめるために、絶縁層を厚くする構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−167693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した電子線装置を用いた画像表示装置において、消費電力の削減や高コントラスト比の実現のためには、より低い駆動電圧での駆動が望ましい。低駆動電圧で、電子放出に必要な電界強度を得るためには、ゲートとカソードとの間隔を小さくすることが必要となる。しかしながら、ゲートとカソード間の距離を小さくした場合、カソードから放出された電子がゲートに衝突することなどが原因で、アノードまで到達する確率(電子放出効率)が低くなることがわかっている。さらに、ゲートとカソードの間隔を小さくすることにより電子放出部の静電容量が増加してしまい、これにより、駆動波形のなまりやクロストークの発生、さらには充放電電流の増加に伴う消費電力の増加といった課題が同時に生じてしまう。
【0005】
本発明の課題は、電子放出効率が高く、同時にゲートとカソード間の静電容量の小さな電子線装置を構成し、該電子線装置を用いて低消費電力で高コントラストの画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1は、第1の方向と、該第1の方向に直交する第2の方向とに平行な表面を有する絶縁部材と、
前記絶縁部材の前記表面に位置し、前記第1の方向に平行な端辺を有する少なくとも1個の短冊状のカソードと、
前記第2の方向の延長上に位置し、該カソードの第1の方向に平行な端辺に対向配置するアノードと、
前記絶縁部材の前記表面上であって、前記アノードと前記カソードとの間に位置し、前記第1の方向に平行な端辺を有する少なくとも1個の短冊状のゲートと、を有し、
前記アノードへの、ゲートの正射影がカソードの正射影と重ならないことを特徴とする電子線装置である。
【0007】
本発明の第2は、本発明の第1の電子線装置と、前記アノードに積層して位置する発光部材とを有することを特徴とする画像表示装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電子線装置においては、ゲートとカソードとが特定の配置で構成されているため、電子放出効率が向上すると同時に静電容量が減少する。よって、係る電子線装置を用いた本発明の画像表示装置においては、消費電力が低減すると同時に高コントラストを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の電子線装置の一実施形態の電子放出素子を示す模式図である。
【図2】本発明の電子線装置の一実施形態の模式図である。
【図3】図1に示した電子放出素子のゲートとカソードの部分拡大図である。
【図4】本発明に係る電子放出素子のゲートでの電子の散乱を示した模式図である。
【図5】本発明に係る電子放出素子のゲートとカソードの配置例を示した模式図である。
【図6】本発明に係る電子放出素子の絶縁部材の形状を示した模式図である。
【図7】本発明の電子線装置の他の実施形態の電子放出素子の模式図である。
【図8】図7の電子放出素子の製造工程を示した模式図である。
【図9】本発明の画像表示装置の一実施形態の構成を示す模式図である。
【図10】本発明の実施例に係る電子放出素子の製造工程を示した模式図である。
【図11】本発明の比較例に係る電子放出素子の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の電子線装置はカソードとゲートとを絶縁部材とを備えた電子放出素子と、該電子放出素子から放出された電子を衝突させるアノードとを備えたものである。また、本発明の画像表示装置は、上記本発明の電子線装置と、該電子線装置のアノードに発光部材を配置してなるものである。以下、本発明の電子線装置及び画像表示装置について、実施形態を挙げて説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は本発明の電子線装置の一実施形態の電子放出素子を示す模式図であり、(a)は斜視図、(b)は正面図(X方向から見た図)、(c)は平面図(Z方向から見た図)である。尚、以下の説明においては、便宜上、本発明に係る第1の方向をY方向、第2の方向をZ方向とし、該第1及び第2の方向に直交する方向をX方向とする。図中、1は絶縁性基板、2は絶縁部材、2aは絶縁部材の側面、4はカソード、5はゲート、6はゲートへの給電ライン、7はカソードへの給電ラインである。
【0012】
本発明に係る電子放出素子の基本構成は、絶縁部材2とカソード4、ゲート5であり、カソード4とゲート5とは絶縁部材2のY方向及びZ方向に平行な表面(本例では側面)2aに配置されている。カソード4及びゲート5はそれぞれ、Y方向に平行な端辺を有し、互いに該端辺が絶縁部材2の表面上で近接して配置している。通常、係る素子は絶縁性基板1上に形成される。尚、本例においては、絶縁性基板1はX方向及びY方向に平行な表面(XY表面)を有し、カソード4及びゲート5が配置された絶縁部材2の側面2aはXY表面に直交している。しかしながら、本発明ではこれに限定されるものではなく、側面2aが絶縁性基板1の表面に対して傾いて形成されていても良い。
【0013】
絶縁性基板1としては、石英ガラス、Na等の不純物含有量を減少させたガラス、青板ガラスや、アルミナ等のセラミックス等の絶縁材料から適宜選択される。また絶縁部材2は、SiO2やSi3N4などの絶縁材料を、スパッタ法やCVD法などの一般的な方法で基板1上に成膜した後に、フォトリソグラフィ等を用いてパターニングすることによって形成することができる。絶縁部材2の厚さ(Z方向の高さ)は50nm乃至5mmの範囲で形成される。
【0014】
この絶縁部材2の側面2aにカソード4及びゲート5を形成するが、そのためには蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術、及びフォトリソグラフィ技術などを用いることができる。ゲート5及びカソード4の材料としては、例えば、Be,Mg,Ti,Zr,HF,V,Nb,Ta,Mo,W,Al,Cu,Ni,Cr,Au,Pt,Pd等の金属または合金材料、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物が挙げられる。また、HfB2,ZrB2,CeB7,Yb5,GdB5等の硼化物、Tin,ZrN、HfN等の窒化物、Si,Ge等の半導体、有機高分子材料なども挙げられる。さらに、アモルファスカーボン、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等が適宜選択される。カソード4とゲート5は同種の材料で形成しても良いし、異種材料を組み合わせて形成しても良い。また、ゲート5及びカソード4の厚さは、50nm乃至5mmの範囲で設定され、好ましくは50nmから5μmの範囲で各々選択される。さらにゲート5とカソード4は、各々電源からの給電ライン6,7に接続されている。本例では、給電ライン6,7とカソード4,ゲート5とを同時に形成しても良い。
【0015】
図2は、本発明の電子線装置を用いた画像表示装置の構成を模式的に示す図であり、図1におけるY方向から見た図に相当する。尚、図2においては、図1の給電ライン6,7は省略する。図中、10は基板、11はアノード、12は発光部材である。
【0016】
本発明の電子線装置においては、図2に示すように、Z方向の延長上に、カソード4のY方向に平行な端辺に対して電子を加速するためのアノード11が対向配置している。本例ではアノード11は基板1から距離H離れて該基板1に対向配置している。また、絶縁部材2の側面2a上であって、アノード11とカソード4との間に、Y方向に平行な端辺を有するゲート5が配置している。本発明では、図2に示すように、Y方向から見た際に、Z方向においてカソード4,ゲート5,アノード11がこの順で配置する。本発明の画像表示装置としては、図2に示すように、アノード11に電子放出素子から放出された電子の衝突により発光する発光部材12が積層される。図中、Vgはゲート5とカソード4の間に印加される電圧を、Ifはこの時流れる素子電流を、Vaはカソード4とアノード11の間に印加される電圧、及びIeは電子放出素子からアノード11へ流れる電子放出電流をそれぞれ意味する。
【0017】
本発明においては、図1(b)、(c)から明らかなように、アノード11へのゲート5の正射影がカソード4の正射影と重ならないことを特徴とする。言い換えれば、従来はアノード11への正射影が互いに重複するように対向配置していたカソード4とゲート5とが互いにY方向にずれて配置している。以下に、係る構成による作用効果について説明する。
【0018】
本発明の電子線装置の駆動時においては、ゲート5とカソード4との間に電圧Vgを印加することにより、カソード4の表面に電界が誘起される。図3は図1の電子放出素子のゲート5及びカソード4の一部を拡大した模式図であり、両電極間に電圧Vgが印加された時の等電位線の様子を模式的に示したものである。図3に示されるように、ゲート5及びカソード4の近接点で最も等電位線の密度が高く、近接点近傍の電極端部に電界が集中する。ここで、カソード4の表面の電界強度がある閾値を超えると、カソード4の表面からトンネリングにより電子が放出される。電子放出するための電界強度の閾値は電極の材料や、表面の形状等の条件で変化するが、おおよそ1×109V/m以上の値である。本発明に係る電子放出素子においては、ゲート5とカソード4との間に電圧Vgを印加した場合に、カソード4のゲート5に近い端部において電界が最も強くなるため、係る端部から電子放出が生じる。
【0019】
カソード4の端部から放出された電子は、加速されながら飛翔し、一部は直接アノード11に衝突し、また一部はゲート5の表面に衝突する。ゲート5に衝突した電子のうち一部はゲート5に吸収されるが、残りの電子はゲート5表面で等方的に散乱される。散乱された電子のうちの一部は再びゲート5表面に衝突するが、一部はアノード11へ向けて飛翔し、アノード11に到達する。電子放出素子から直接、或いはゲート5で散乱された後にアノード11に到達した電子は、例えば図2に示すような画像表示装置においては、発光部材を発光させて、画像を形成するために用いられる。
【0020】
カソード4から放出された電子のうち、アノード11へ到達した電子の割合Ie/(If+Ie)を、電子の放出効率ηとすると、放出効率ηはゲート5での散乱回数に強く依存している。電子の放出効率ηは高いほど望ましいが、そのためにはできるだけ散乱回数が少ないことが好ましい。即ち、電子放出素子から直接アノード11へ到達する場合が最も効率ηが高くなり、ゲート5に衝突する場合はより少ない散乱回数でアノード11へ到達することが望ましい。
【0021】
ゲート5での散乱回数は、カソード4から飛翔してきた電子が最初に散乱される位置によって大きく変化する。ここで図4を用いてゲート5での衝突位置により散乱回数に差が生じる原因を説明する。図4(a)に示すように、アノード11に対する正射影が、カソード4とゲート5とで重なる場合、ゲート5の下面(カソード4に対向する面)で散乱された電子は、電界による電子の軌道を遮る形でゲート5が存在するため、何度もゲート5に衝突しやすくなる。一方、図4(b)に示すように、アノード11に対する正射影がカソード4とゲート5で重ならない場合、ゲート5の側面(Y方向に向いた面)に衝突した電子は、アノード11へ向けて加速されるため、少数回の散乱でアノード11に到達しやすい。
【0022】
以上より、電子の放出効率ηを向上させるためには、第1にゲート5に衝突することなく直接アノード11へ到達する電子を増やすこと、第2にゲート5の側面に最初に衝突する電子を増やすことが重要となる。
【0023】
本発明においては、アノード11への正射影が互いに重ならないように、ゲート5とカソード4を互いにY方向にずらせる(オフセットする)ことによって、カソード4の電子放出位置とアノード11との間にゲート5が存在しない構成となっている。そのため、ゲート5の下面に衝突する電子が大幅に減少し、ゲート5に衝突することなく直接アノード11へ到達する電子が増加する。この作用により電子放出効率の大幅な向上を実現することができる。
【0024】
ここでゲート5とカソード4のオフセット量は大きいほどアノード11へ直接到達する電子数が増加するため、効率が向上する。しかしながら、ゲート5とカソード4との距離が離れると、必要な電界強度を得るためのVgが高くなってしまう。よって、係る距離は実際の電子線装置の駆動条件によって適宜選択される。
【0025】
本発明において、ゲート5とカソード4とはそれぞれ少なくとも1個形成されるが、ゲート5とカソード4は必ずしも各々同数の1対で形成される必要は無く、図5に示すように両者が異なる数で形成される場合もある。例えば図5(a)に示すように2つのゲート5で挟むように1つのカソード4を配置したり、逆に(b)に示すように1つのゲート5の両側にカソード4を配置しても良い。前者はカソード4の両端部を電子放出部として利用できることから、電子放出部を高密度に配置させる場合に有利である。また後者はカソード4当たりの電流量を抑制できることから、電極の耐久性等の点で有利である。さらには(c)乃至(e)に示すように(a)、(b)の組み合わせにより、任意の複数のゲート5とカソード4を配置して、電子放出素子を形成しても良い。
【0026】
本発明に係るゲート5及びカソード4の形状は短冊状であるが、係るゲート5及びカソード4を給電ライン6,7と連絡する際に、別途電極を介在させても良く、係る電極とゲート5、カソード4との全体形状が短冊状とならなくても構わない。
【0027】
ゲート5とカソード4は前述したように絶縁性基板1上に形成された絶縁部材2の側面2aに形成される。この絶縁部材2の側面2aは、絶縁性基板1上に絶縁膜を成膜した後に、フォトリソグラフィ等の技術を用いて該絶縁膜をパターニングすることによって形成することができる。その際、図6(a)に示すように島状に絶縁部材2を残しても良いし、或いは、図7(b)に示すように絶縁部材2に貫通孔(凹部)2bを形成し、その内壁面をカソード4,ゲート5を配置する側面2aとして利用しても良い。島状部或いは凹部の断面形状は正方形や円形や星型、長方形や長円形といった様々な形態をとることができる。さらにはそれらを組み合わせて、複数の島状部や凹部からなる領域を形成しても良く、必要な数のゲート5とカソード4を形成できるだけの壁面を形成すればよい。
【0028】
さらに、電子放出素子においては、例えば駆動信号の高周波化や、低消費電力化といった課題に対応するために、その静電容量を削減することが求められている。一方、特に画像表示装置等においては、高いコントラスト比を得るために、より低い駆動電圧での駆動が必要である。よって、そうした条件下で必要な電界強度を得るためには、ゲート5とカソード4との間の距離を近づける必要があり、その結果として静電容量が増加してしまうという問題を抱えている。
【0029】
本発明の電子線装置は、ゲート4とカソード5がY方向にずれた構造をとっているため、両電極間に生じる静電容量を大幅に減少することが可能であり、電子放出効率の向上と静電容量の削減という2つの課題に対して、好適な効果を同時に実現することができる。
【0030】
(第2の実施形態)
次に本発明の第2の実施形態について説明する。
【0031】
図7は第2の実施形態における電子放出素子の構造を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は正面図(X方向から見た図)、(c)は平面図(Z方向から見た図)である。図7において、2a乃至2cは絶縁層であり、図1の装置と同じ部材には同じ符号を付した。
【0032】
本例は、図1における絶縁部材2が側面2aにY方向に延びる凹部を有し、ゲート5のY方向に平行な端辺とカソード4のY方向に平行な端辺とが、該凹部の相対する縁にそれぞれ沿って配置している以外は図1の装置と同様の構成である。また、本例では、絶縁部材2に凹部を形成するため、該絶縁部材2を絶縁層2c乃至2eの3層構成としているが、本例はこれに限定されず、図1に示した絶縁部材2に凹部を形成しても良い。
【0033】
絶縁層2c乃至2eはいずれも、SiO2やSi3N4等の絶縁材料をスパッタ法等の一般的な真空成膜法、CVD法、真空蒸着法等によって形成される。絶縁層2cの厚さは5nmから50μmの範囲で設定され、好ましく50nmから500nmの範囲で選択される。絶縁層2dの厚さは5nmから500nmの範囲で設定され、好ましくは5nmから30nmの範囲で選択される。また、絶縁層2eの厚さは、5nmから50μmの範囲で設定され、好ましくは50nmから500nmの範囲で選択される。ここで、絶縁層2dは、絶縁層2cや2eに対して、あるエッチャントにより選択的にエッチングできる材料であることが好ましい。また、絶縁層2eは絶縁層2dとのエッチング時の選択性を考慮して選択することが好ましく、絶縁層2cと同じ材料で形成しても良い。係る絶縁層2a乃至2dからなる絶縁部材2の形成方法について説明する。
【0034】
絶縁性基板1上に、絶縁膜21乃至23をスパッタ法等の一般的な真空成膜法、CVD法、真空蒸着法等によって順次成膜し〔図8(a)〕、フォトリソグラフィ技術等を用いて積層膜をパターニングすることにより、側面2aを有する絶縁部材2を形成する。具体的には、例えばフォトレジストのスピンコーティング、マスクパターンの露光及び現像を行い、ウェットエッチング或いはドライエッチングで3層の積層膜を取り除くことによって絶縁層2c乃至2eからなる絶縁部材2が形成される〔図8(b)〕。このエッチング工程においては、平滑なエッチング面が形成されることが好ましく、それぞれの層の材料に応じてエッチング方法を選択すればよい。また絶縁部材2は絶縁性基板1上に島状に積層膜を残すことで形成しても良いし、積層膜に貫通孔を形成しその内壁面を用いるようにしても良い。
【0035】
次いで、絶縁層2dの側面を、絶縁層2c、2eの側面よりも凹んだ位置にあるように、ウェットエッチング等の技術を用いて後退させて、凹部25を形成する〔図8(c)〕。
【0036】
エッチングの方法としては、例えば絶縁層2cの材料としてSiO2、絶縁層2eの材料としてPSG(リン酸10%)、絶縁層2dの材料として2cと同じくSiO2を選択する。この場合、エッチャントとしてHF(48%):NH4F(40%)=1:10の割合の溶液を純水で1%に希釈した物を用いてエッチングすると、絶縁層2eが選択的にエッチングされ、絶縁層2dの側面のみが後退して、凹部25が形成される。
【0037】
この他、例えば絶縁層2c,2eとしてSi3N4を、絶縁層2dとしてSiO2を選択し、バッファードフッ酸(BHF)でエッチングすることによっても同様の形状を形成することが出来るなど、各層の材料とエッチャントを適宜選択すればよい。また、凹部25は絶縁部材2を形成するエッチングの過程で同時に形成することも可能である。
【0038】
凹部25を形成した後に、凹部25を有する側面2aにゲート5及びカソード4を形成する。ゲート5及びカソード4は、導電性の薄膜をスパッタや蒸着等の方法で成膜した後に、フォトリソグラフィ等の技術を用いてパターニングすることで形成することができる。この時、本発明の電子線装置においては、第1の実施形態と同様に、ゲート5とカソード4が、アノード11に正射影した時に、互いに重複しないようにオフセットして配置する。
【0039】
ここで本例の電子線装置においては、凹部25が形成されることにより、ゲート5とカソード4が凹部25で分断され、その結果、電子放出部となる微小な間隙が、自動的に形成される。そして、ゲート5及びカソード4は、それぞれ電源からの給電ライン6,7に接続されており、所定の電圧がゲート5とカソード6との間に印加されることで、係る間隙に高電界が生じ、カソードから電子が放出される。凹部25はこのように、電子放出部となる間隙を自動的に形成するだけでなく、ゲート5とカソード4との間の沿面距離を長くすることにより、電子線装置の駆動時に両電極間を流れるリーク電流を低減させ、電子放出効率を増加させる効果もある。
【0040】
凹部25の深さ(X方向の長さ)としては、深くなるほどリーク電流の減少効果が高くなり望ましいが、一方で深くなり過ぎると凹部25の上部の絶縁層2eが変形、或いは崩れ落ちる可能性があるため、そうした点を考慮して適宜設定される。
【0041】
次に本発明の電子線装置を用いた画像表示装置について説明する。前記したように、本発明の画像表示装置は、本発明の電子線装置のアノードに発光部材を配置してなるが、この時、本発明に係る電子放出素子を基板上に複数個配列して電子源とし、複数画素を構成して画像表示を行うことができる。
【0042】
一般的に、画像表示装置においては、電子放出素子をX方向及びY方向に行列状に複数個配置する。そして、同じ行に配置された複数の電子放出素子のカソード4或いはゲート5をX方向の配線に共通に接続し、同じ列に配置された電子放出素子のゲート5或いはカソード4をY方向の配線に共通に接続する、いわゆる単純マトリクス配置を採用することが出来る。
【0043】
本発明にかかる電子放出素子においては、ゲート5とカソード4との間に閾値電圧以上の電圧を印加することにより電子が放出される。放出される電子の量は、電極間に印加するパルス状電圧の波高値とパルス幅とで制御される。一方、閾値電圧以下ではほとんど電子が放出されないため、X方向配線及びY方向配線に対してパルス状の信号を印加することで、必要な電子放出素子を選択して、電子放出量の制御を行うことが出来る。
【0044】
次に、このような単純マトリクス配置の電子源を用いて構成した電子線装置について、図9を用いて説明する。図9は本発明の電子線装置を用いた画像表示装置の表示パネルの一例を示す模式図である。図9において、31は電子放出素子を複数配した電子源基体(図1の基板1に相当)、41は電子源基体31を固定したリアプレートである。46はガラス基板43(図2の基板10に相当)の内面に発光部材12として蛍光膜44とアノード11としてのメタルバック45等が形成されたフェースプレートである。また、42は支持枠であり、この支持枠42には、リアプレート41、フェースプレート46がフリットガラス等の封止部材を用いて接続されている。47は外囲器であり、例えば大気中或いは、窒素中で、400乃至500℃の温度範囲で10分以上焼成することで、封着して構成される。また、34は、図1における電子放出素子に相当するものであり、32,33は、電子放出素子のカソード4及びゲート5に接続されたX方向配線及びY方向配線(図1の給電ライン6,7に相当)である。外囲器47は、上述の通り、フェースプレート46、支持枠42、リアプレート41で構成される。ここで、リアプレート41は主に基体31の強度を補強する目的で設けられるため、基体31自体で十分な強度を持つ場合には、基体31に直接支持枠42を接続し、フェースプレート46,支持枠42及び基体31で外囲器47を構成しても良い。さらに必要に応じて、フェースプレート46とリアプレート41との間に、スペーサとよばれる不図示の支持体を設置することにより、大気圧に対して十分な強度を持つ外囲器47を構成することもできる。
【0045】
係る表示パネルにおいては、X方向配線32、Y方向配線33に、それぞれ走査信号、変調信号、またメタルバック45への高電圧印加により、放出された電子を加速して蛍光体へと照射することによって、画像表示を実現する。
【0046】
尚、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、本発明の目的を達成するものであれば各構成要素が代用物や均等物に置換されたものであってもよい。
【実施例】
【0047】
以下に具体的な実施例を挙げて本発明を詳しく説明する。尚、本発明がこれら実施例の形態に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
[電子放出素子作製]
図1に示した電子放出素子を備えたリアプレート41を作製した。尚、給電ライン6,7は走査配線、信号配線とし、信号配線である給電ライン7は基板1に溝を形成し、埋め込み配線とした。図10に本例におけるリアプレート41の作製工程を示す。図10において、52は基板1に設けられた溝部であり、図1と同じ部材には同じ符号を付した。
【0049】
先ず、基板1にウェットエッチングにより溝部52を形成した〔図10(a)〕。その後めっき法にてCuを溝部52に埋め込み、ケミカルメカニカルポリッシング(CMP)にて基板表面を平滑に成形することによって、走査配線7を形成した〔図10(b)〕。次いで全面に絶縁層54としてSi3N4膜を500nmの膜厚になるようスパッタ法で形成した。〔図10(c)〕。次に、フォトリソグラフィ工程で、フォトレジストをフォトマスクパターンで露光、現像し、走査配線7領域の露出用開口を持つ、レジストパターンを形成した。このレジストパターンをマスクとして、絶縁層54のSi3N4膜をCF4系のガスを用いてRIEでエッチングすることで走査配線7上のSi3N4膜を除去した。また同時に、絶縁部材2を形成した。〔図10(d)〕。続いて、リフトオフ用パターンをフォトレジストで形成し、スパッタ法でCu膜を成膜、リフトオフにてパターニングを行って信号配線6を形成した〔図10(e)〕。
【0050】
最後に、ゲート5及びカソード4を形成し、それぞれ、信号配線6,走査配線7に接続した〔図10(f)〕。当該工程では、先ずEB斜方蒸着により厚さ10nmのMoを斜め45°上方から選択的に堆積した。次に、フォトリソグラフィ工程で、フォトレジストをフォトマスクパターンで露光、現像し、ゲート5及びカソード4用のレジストパターンを櫛歯状に形成した。櫛歯はY方向において5μm幅で5μmの間隔を空けて等間隔に形成し、ゲート用レジストパターンとカソード用レジストパターンは、正面方向から見て入れ子構造となるように形成した。その後、パターニングをしたフォトレジストをマスクとし、Mo膜をCF4ガスを用いてドライエッチングして、ゲート5、カソード4を、それぞれ短冊形状に加工した。
【0051】
[画像表示装置の作製]
上記電子放出素子の作製工程により、基板上に複数個の電子放出素子を作製し、図9に示すような画像表示装置を作製した。
【0052】
先ず、基板41の2mm上方にフェースプレート46を、支持枠42を介して真空中で封着し、外囲器47を形成した。また、基板41とフェースプレート46との間には、厚さ2.0mm、幅200μmのスペーサ(不図示)を配置し、大気圧に耐えられる構造とした。本例において、使用したスペーサの本数は2本である。また、外囲器47内には容器内の高真空を保つためのゲッター(不図示)を配置した。基板41と支持枠42とフェースプレート46の接合にはインジウムを用いた。
【0053】
(比較例1)
次に、比較例として、図11に示す構造の電子放出素子を備えた画像表示装置を作製した。図11において、(a)は斜視図、(b)は正面図(X方向から見た図)、(c)は平面図(Z方向から見た図)である。本例は、アノードへの正射影がカソード4とゲート5とで一部重なっている以外は実施例1と同じ構成である。ゲートは実施例1と同様にして、カソードのY方向の幅が6μmでカソードとゲートの重複領域が0.5μmの電子放出素子を作製し、画像表示装置を構成した。それ以外の作製方法は実施例1と同様であるので説明を省略する。
【0054】
(評価結果)
以上のようにして作製した画像表示装置において、カソード4とゲート5間に各配線を通じて電圧を印加した。更に高圧端子を通じて、フェースプレート46のメタルバック45に電圧を印加して、画像を表示した。この時、信号配線(Y方向配線43)には0乃至+10V、走査配線(X方向配線42)には0乃至−20V、メタルバック45には、5乃至15KVを印加した。この駆動条件で実施例1と比較例1の電子線装置のIf及びIeを測定し、電子放出効率Ie/Ifを求めた。測定は100個の素子に対して行い、その平均値を比較した。またゲート5とカソード4間の静電容量を測定した。
【0055】
実施例1の電子放出素子のIfは、1素子当たり210μAとなり、比較例1の測定値と比べても、Ifの値はほぼ変わらなかった。これに対し、Ieの値は実施例1が1素子当たり17μAとなり、比較例1の測定値の8.4μAの2倍程度となり、電子放出効率が2倍となっていることが確認された。さらに実施例1の電子放出素子においては、静電容量が1素子当たり0.38pFとなり、比較例1の測定値0.44pFと比べて、およそ1乃至2割小さくなっており、本発明の効果を確認することができた。
【0056】
(実施例2)
電子放出素子の構成を、図2に示す凹部を備えた構成とした以外は実施例1と同様にして画像表示装置を作製した。尚、絶縁部材2は図8の工程で作製した。
【0057】
実施例1と同様にして走査配線4を形成した基板1上に、スパッタ法により絶縁膜21、22、23として厚さ500nmのSi3N4膜、厚さ20nmのSiO2膜、厚さ50nmのSi3N4膜を連続して堆積した〔図8(a)〕。次に、フォトリソグラフィ工程で、フォトレジストをフォトマスクパターンで露光、現像し、走査配線7領域の露出用開口を持つ、レジストパターンを形成した。その後、パターニングしたフォトレジストをマスクとして、絶縁膜21,22,23を、CF4ガスを用いてドライエッチングして、基板1で停止させ、絶縁部材2を形成した〔図8(b)〕。次に、絶縁部材2にBHFをエッチング液として11分間エッチングを施し、絶縁層2dを選択的にエッチングして、側面2aから100nm程度、絶縁層2dの側面を後退させ、凹部25を形成した〔図8(c)〕。その後、実施例1と同様の工程を行い、電子放出素子、さらには画像表示装置を作製した。
【0058】
(比較例2)
比較例1と同様に、カソード4の幅が6μm、ゲートの重複領域が0.5μmである以外は実施例2と同様の構成の電子放出素子を作製し、画像表示装置を構成した。
【0059】
(評価結果)
以上のように構成された画像表示装置において、実施例1と同じ駆動条件で駆動し、電子放出素子のIf及びIeを測定し、電子放出効率Ie/Ifを求めた。測定は100個の素子に対して行い、その平均値を比較した。またカソード4とゲート5間の静電容量を測定した。
【0060】
その結果、実施例2の電子放出素子のIfは、1素子当たり210μAとなり、比較例2の測定値と比べても、Ifの値はほぼ変わらなかった。これに対し、実施例2のIeの値は1素子当たり21μAとなり、比較例2の測定値の11μAの2倍程度となり、電子放出効率が2倍となっていることが確認された。さらに実施例2の電子放出素子においては、静電容量が1素子当たり0.34pFとなり、比較例2の測定値0.39pFと比べて、およそ1乃至2割小さくなっており、本発明の効果を確認することができた。
【符号の説明】
【0061】
1:基板 2:絶縁部材 4:カソード 5:ゲート 11:アノード 12:発光部材
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイに用いられる、電子を放出する電子放出素子を備えた電子線装置と、該電子線装置を用いてなる画像表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、カソードとゲートとを近接して配置してなる電子放出素子と、該カソードから放出された電子を加速するためのアノードとを備えた電子線装置が知られている。係る電子線装置においては、アノードの後方に発光部材を配置しておき、カソードとゲート間に高電圧を印加して該カソードから電子を放出させ、該電子をアノードに衝突させて発光部材を発光させる。特許文献2には、簡易な構成で電子放出効率の高い電子放出素子とこれを備えた画像表示装置が開示されている。係る電子放出素子は、基板上の絶縁面に凹部を設けて、その凹部を挟んでカソードとゲートとを形成することで、カソードから電子放出を可能とする。そして係る文献には、寄生容量を低減せしめるために、絶縁層を厚くする構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−167693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記した電子線装置を用いた画像表示装置において、消費電力の削減や高コントラスト比の実現のためには、より低い駆動電圧での駆動が望ましい。低駆動電圧で、電子放出に必要な電界強度を得るためには、ゲートとカソードとの間隔を小さくすることが必要となる。しかしながら、ゲートとカソード間の距離を小さくした場合、カソードから放出された電子がゲートに衝突することなどが原因で、アノードまで到達する確率(電子放出効率)が低くなることがわかっている。さらに、ゲートとカソードの間隔を小さくすることにより電子放出部の静電容量が増加してしまい、これにより、駆動波形のなまりやクロストークの発生、さらには充放電電流の増加に伴う消費電力の増加といった課題が同時に生じてしまう。
【0005】
本発明の課題は、電子放出効率が高く、同時にゲートとカソード間の静電容量の小さな電子線装置を構成し、該電子線装置を用いて低消費電力で高コントラストの画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1は、第1の方向と、該第1の方向に直交する第2の方向とに平行な表面を有する絶縁部材と、
前記絶縁部材の前記表面に位置し、前記第1の方向に平行な端辺を有する少なくとも1個の短冊状のカソードと、
前記第2の方向の延長上に位置し、該カソードの第1の方向に平行な端辺に対向配置するアノードと、
前記絶縁部材の前記表面上であって、前記アノードと前記カソードとの間に位置し、前記第1の方向に平行な端辺を有する少なくとも1個の短冊状のゲートと、を有し、
前記アノードへの、ゲートの正射影がカソードの正射影と重ならないことを特徴とする電子線装置である。
【0007】
本発明の第2は、本発明の第1の電子線装置と、前記アノードに積層して位置する発光部材とを有することを特徴とする画像表示装置である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の電子線装置においては、ゲートとカソードとが特定の配置で構成されているため、電子放出効率が向上すると同時に静電容量が減少する。よって、係る電子線装置を用いた本発明の画像表示装置においては、消費電力が低減すると同時に高コントラストを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の電子線装置の一実施形態の電子放出素子を示す模式図である。
【図2】本発明の電子線装置の一実施形態の模式図である。
【図3】図1に示した電子放出素子のゲートとカソードの部分拡大図である。
【図4】本発明に係る電子放出素子のゲートでの電子の散乱を示した模式図である。
【図5】本発明に係る電子放出素子のゲートとカソードの配置例を示した模式図である。
【図6】本発明に係る電子放出素子の絶縁部材の形状を示した模式図である。
【図7】本発明の電子線装置の他の実施形態の電子放出素子の模式図である。
【図8】図7の電子放出素子の製造工程を示した模式図である。
【図9】本発明の画像表示装置の一実施形態の構成を示す模式図である。
【図10】本発明の実施例に係る電子放出素子の製造工程を示した模式図である。
【図11】本発明の比較例に係る電子放出素子の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の電子線装置はカソードとゲートとを絶縁部材とを備えた電子放出素子と、該電子放出素子から放出された電子を衝突させるアノードとを備えたものである。また、本発明の画像表示装置は、上記本発明の電子線装置と、該電子線装置のアノードに発光部材を配置してなるものである。以下、本発明の電子線装置及び画像表示装置について、実施形態を挙げて説明する。
【0011】
(第1の実施形態)
図1は本発明の電子線装置の一実施形態の電子放出素子を示す模式図であり、(a)は斜視図、(b)は正面図(X方向から見た図)、(c)は平面図(Z方向から見た図)である。尚、以下の説明においては、便宜上、本発明に係る第1の方向をY方向、第2の方向をZ方向とし、該第1及び第2の方向に直交する方向をX方向とする。図中、1は絶縁性基板、2は絶縁部材、2aは絶縁部材の側面、4はカソード、5はゲート、6はゲートへの給電ライン、7はカソードへの給電ラインである。
【0012】
本発明に係る電子放出素子の基本構成は、絶縁部材2とカソード4、ゲート5であり、カソード4とゲート5とは絶縁部材2のY方向及びZ方向に平行な表面(本例では側面)2aに配置されている。カソード4及びゲート5はそれぞれ、Y方向に平行な端辺を有し、互いに該端辺が絶縁部材2の表面上で近接して配置している。通常、係る素子は絶縁性基板1上に形成される。尚、本例においては、絶縁性基板1はX方向及びY方向に平行な表面(XY表面)を有し、カソード4及びゲート5が配置された絶縁部材2の側面2aはXY表面に直交している。しかしながら、本発明ではこれに限定されるものではなく、側面2aが絶縁性基板1の表面に対して傾いて形成されていても良い。
【0013】
絶縁性基板1としては、石英ガラス、Na等の不純物含有量を減少させたガラス、青板ガラスや、アルミナ等のセラミックス等の絶縁材料から適宜選択される。また絶縁部材2は、SiO2やSi3N4などの絶縁材料を、スパッタ法やCVD法などの一般的な方法で基板1上に成膜した後に、フォトリソグラフィ等を用いてパターニングすることによって形成することができる。絶縁部材2の厚さ(Z方向の高さ)は50nm乃至5mmの範囲で形成される。
【0014】
この絶縁部材2の側面2aにカソード4及びゲート5を形成するが、そのためには蒸着法、スパッタ法等の一般的な真空成膜技術、及びフォトリソグラフィ技術などを用いることができる。ゲート5及びカソード4の材料としては、例えば、Be,Mg,Ti,Zr,HF,V,Nb,Ta,Mo,W,Al,Cu,Ni,Cr,Au,Pt,Pd等の金属または合金材料、TiC,ZrC,HfC,TaC,SiC,WC等の炭化物が挙げられる。また、HfB2,ZrB2,CeB7,Yb5,GdB5等の硼化物、Tin,ZrN、HfN等の窒化物、Si,Ge等の半導体、有機高分子材料なども挙げられる。さらに、アモルファスカーボン、グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、ダイヤモンドを分散した炭素及び炭素化合物等が適宜選択される。カソード4とゲート5は同種の材料で形成しても良いし、異種材料を組み合わせて形成しても良い。また、ゲート5及びカソード4の厚さは、50nm乃至5mmの範囲で設定され、好ましくは50nmから5μmの範囲で各々選択される。さらにゲート5とカソード4は、各々電源からの給電ライン6,7に接続されている。本例では、給電ライン6,7とカソード4,ゲート5とを同時に形成しても良い。
【0015】
図2は、本発明の電子線装置を用いた画像表示装置の構成を模式的に示す図であり、図1におけるY方向から見た図に相当する。尚、図2においては、図1の給電ライン6,7は省略する。図中、10は基板、11はアノード、12は発光部材である。
【0016】
本発明の電子線装置においては、図2に示すように、Z方向の延長上に、カソード4のY方向に平行な端辺に対して電子を加速するためのアノード11が対向配置している。本例ではアノード11は基板1から距離H離れて該基板1に対向配置している。また、絶縁部材2の側面2a上であって、アノード11とカソード4との間に、Y方向に平行な端辺を有するゲート5が配置している。本発明では、図2に示すように、Y方向から見た際に、Z方向においてカソード4,ゲート5,アノード11がこの順で配置する。本発明の画像表示装置としては、図2に示すように、アノード11に電子放出素子から放出された電子の衝突により発光する発光部材12が積層される。図中、Vgはゲート5とカソード4の間に印加される電圧を、Ifはこの時流れる素子電流を、Vaはカソード4とアノード11の間に印加される電圧、及びIeは電子放出素子からアノード11へ流れる電子放出電流をそれぞれ意味する。
【0017】
本発明においては、図1(b)、(c)から明らかなように、アノード11へのゲート5の正射影がカソード4の正射影と重ならないことを特徴とする。言い換えれば、従来はアノード11への正射影が互いに重複するように対向配置していたカソード4とゲート5とが互いにY方向にずれて配置している。以下に、係る構成による作用効果について説明する。
【0018】
本発明の電子線装置の駆動時においては、ゲート5とカソード4との間に電圧Vgを印加することにより、カソード4の表面に電界が誘起される。図3は図1の電子放出素子のゲート5及びカソード4の一部を拡大した模式図であり、両電極間に電圧Vgが印加された時の等電位線の様子を模式的に示したものである。図3に示されるように、ゲート5及びカソード4の近接点で最も等電位線の密度が高く、近接点近傍の電極端部に電界が集中する。ここで、カソード4の表面の電界強度がある閾値を超えると、カソード4の表面からトンネリングにより電子が放出される。電子放出するための電界強度の閾値は電極の材料や、表面の形状等の条件で変化するが、おおよそ1×109V/m以上の値である。本発明に係る電子放出素子においては、ゲート5とカソード4との間に電圧Vgを印加した場合に、カソード4のゲート5に近い端部において電界が最も強くなるため、係る端部から電子放出が生じる。
【0019】
カソード4の端部から放出された電子は、加速されながら飛翔し、一部は直接アノード11に衝突し、また一部はゲート5の表面に衝突する。ゲート5に衝突した電子のうち一部はゲート5に吸収されるが、残りの電子はゲート5表面で等方的に散乱される。散乱された電子のうちの一部は再びゲート5表面に衝突するが、一部はアノード11へ向けて飛翔し、アノード11に到達する。電子放出素子から直接、或いはゲート5で散乱された後にアノード11に到達した電子は、例えば図2に示すような画像表示装置においては、発光部材を発光させて、画像を形成するために用いられる。
【0020】
カソード4から放出された電子のうち、アノード11へ到達した電子の割合Ie/(If+Ie)を、電子の放出効率ηとすると、放出効率ηはゲート5での散乱回数に強く依存している。電子の放出効率ηは高いほど望ましいが、そのためにはできるだけ散乱回数が少ないことが好ましい。即ち、電子放出素子から直接アノード11へ到達する場合が最も効率ηが高くなり、ゲート5に衝突する場合はより少ない散乱回数でアノード11へ到達することが望ましい。
【0021】
ゲート5での散乱回数は、カソード4から飛翔してきた電子が最初に散乱される位置によって大きく変化する。ここで図4を用いてゲート5での衝突位置により散乱回数に差が生じる原因を説明する。図4(a)に示すように、アノード11に対する正射影が、カソード4とゲート5とで重なる場合、ゲート5の下面(カソード4に対向する面)で散乱された電子は、電界による電子の軌道を遮る形でゲート5が存在するため、何度もゲート5に衝突しやすくなる。一方、図4(b)に示すように、アノード11に対する正射影がカソード4とゲート5で重ならない場合、ゲート5の側面(Y方向に向いた面)に衝突した電子は、アノード11へ向けて加速されるため、少数回の散乱でアノード11に到達しやすい。
【0022】
以上より、電子の放出効率ηを向上させるためには、第1にゲート5に衝突することなく直接アノード11へ到達する電子を増やすこと、第2にゲート5の側面に最初に衝突する電子を増やすことが重要となる。
【0023】
本発明においては、アノード11への正射影が互いに重ならないように、ゲート5とカソード4を互いにY方向にずらせる(オフセットする)ことによって、カソード4の電子放出位置とアノード11との間にゲート5が存在しない構成となっている。そのため、ゲート5の下面に衝突する電子が大幅に減少し、ゲート5に衝突することなく直接アノード11へ到達する電子が増加する。この作用により電子放出効率の大幅な向上を実現することができる。
【0024】
ここでゲート5とカソード4のオフセット量は大きいほどアノード11へ直接到達する電子数が増加するため、効率が向上する。しかしながら、ゲート5とカソード4との距離が離れると、必要な電界強度を得るためのVgが高くなってしまう。よって、係る距離は実際の電子線装置の駆動条件によって適宜選択される。
【0025】
本発明において、ゲート5とカソード4とはそれぞれ少なくとも1個形成されるが、ゲート5とカソード4は必ずしも各々同数の1対で形成される必要は無く、図5に示すように両者が異なる数で形成される場合もある。例えば図5(a)に示すように2つのゲート5で挟むように1つのカソード4を配置したり、逆に(b)に示すように1つのゲート5の両側にカソード4を配置しても良い。前者はカソード4の両端部を電子放出部として利用できることから、電子放出部を高密度に配置させる場合に有利である。また後者はカソード4当たりの電流量を抑制できることから、電極の耐久性等の点で有利である。さらには(c)乃至(e)に示すように(a)、(b)の組み合わせにより、任意の複数のゲート5とカソード4を配置して、電子放出素子を形成しても良い。
【0026】
本発明に係るゲート5及びカソード4の形状は短冊状であるが、係るゲート5及びカソード4を給電ライン6,7と連絡する際に、別途電極を介在させても良く、係る電極とゲート5、カソード4との全体形状が短冊状とならなくても構わない。
【0027】
ゲート5とカソード4は前述したように絶縁性基板1上に形成された絶縁部材2の側面2aに形成される。この絶縁部材2の側面2aは、絶縁性基板1上に絶縁膜を成膜した後に、フォトリソグラフィ等の技術を用いて該絶縁膜をパターニングすることによって形成することができる。その際、図6(a)に示すように島状に絶縁部材2を残しても良いし、或いは、図7(b)に示すように絶縁部材2に貫通孔(凹部)2bを形成し、その内壁面をカソード4,ゲート5を配置する側面2aとして利用しても良い。島状部或いは凹部の断面形状は正方形や円形や星型、長方形や長円形といった様々な形態をとることができる。さらにはそれらを組み合わせて、複数の島状部や凹部からなる領域を形成しても良く、必要な数のゲート5とカソード4を形成できるだけの壁面を形成すればよい。
【0028】
さらに、電子放出素子においては、例えば駆動信号の高周波化や、低消費電力化といった課題に対応するために、その静電容量を削減することが求められている。一方、特に画像表示装置等においては、高いコントラスト比を得るために、より低い駆動電圧での駆動が必要である。よって、そうした条件下で必要な電界強度を得るためには、ゲート5とカソード4との間の距離を近づける必要があり、その結果として静電容量が増加してしまうという問題を抱えている。
【0029】
本発明の電子線装置は、ゲート4とカソード5がY方向にずれた構造をとっているため、両電極間に生じる静電容量を大幅に減少することが可能であり、電子放出効率の向上と静電容量の削減という2つの課題に対して、好適な効果を同時に実現することができる。
【0030】
(第2の実施形態)
次に本発明の第2の実施形態について説明する。
【0031】
図7は第2の実施形態における電子放出素子の構造を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は正面図(X方向から見た図)、(c)は平面図(Z方向から見た図)である。図7において、2a乃至2cは絶縁層であり、図1の装置と同じ部材には同じ符号を付した。
【0032】
本例は、図1における絶縁部材2が側面2aにY方向に延びる凹部を有し、ゲート5のY方向に平行な端辺とカソード4のY方向に平行な端辺とが、該凹部の相対する縁にそれぞれ沿って配置している以外は図1の装置と同様の構成である。また、本例では、絶縁部材2に凹部を形成するため、該絶縁部材2を絶縁層2c乃至2eの3層構成としているが、本例はこれに限定されず、図1に示した絶縁部材2に凹部を形成しても良い。
【0033】
絶縁層2c乃至2eはいずれも、SiO2やSi3N4等の絶縁材料をスパッタ法等の一般的な真空成膜法、CVD法、真空蒸着法等によって形成される。絶縁層2cの厚さは5nmから50μmの範囲で設定され、好ましく50nmから500nmの範囲で選択される。絶縁層2dの厚さは5nmから500nmの範囲で設定され、好ましくは5nmから30nmの範囲で選択される。また、絶縁層2eの厚さは、5nmから50μmの範囲で設定され、好ましくは50nmから500nmの範囲で選択される。ここで、絶縁層2dは、絶縁層2cや2eに対して、あるエッチャントにより選択的にエッチングできる材料であることが好ましい。また、絶縁層2eは絶縁層2dとのエッチング時の選択性を考慮して選択することが好ましく、絶縁層2cと同じ材料で形成しても良い。係る絶縁層2a乃至2dからなる絶縁部材2の形成方法について説明する。
【0034】
絶縁性基板1上に、絶縁膜21乃至23をスパッタ法等の一般的な真空成膜法、CVD法、真空蒸着法等によって順次成膜し〔図8(a)〕、フォトリソグラフィ技術等を用いて積層膜をパターニングすることにより、側面2aを有する絶縁部材2を形成する。具体的には、例えばフォトレジストのスピンコーティング、マスクパターンの露光及び現像を行い、ウェットエッチング或いはドライエッチングで3層の積層膜を取り除くことによって絶縁層2c乃至2eからなる絶縁部材2が形成される〔図8(b)〕。このエッチング工程においては、平滑なエッチング面が形成されることが好ましく、それぞれの層の材料に応じてエッチング方法を選択すればよい。また絶縁部材2は絶縁性基板1上に島状に積層膜を残すことで形成しても良いし、積層膜に貫通孔を形成しその内壁面を用いるようにしても良い。
【0035】
次いで、絶縁層2dの側面を、絶縁層2c、2eの側面よりも凹んだ位置にあるように、ウェットエッチング等の技術を用いて後退させて、凹部25を形成する〔図8(c)〕。
【0036】
エッチングの方法としては、例えば絶縁層2cの材料としてSiO2、絶縁層2eの材料としてPSG(リン酸10%)、絶縁層2dの材料として2cと同じくSiO2を選択する。この場合、エッチャントとしてHF(48%):NH4F(40%)=1:10の割合の溶液を純水で1%に希釈した物を用いてエッチングすると、絶縁層2eが選択的にエッチングされ、絶縁層2dの側面のみが後退して、凹部25が形成される。
【0037】
この他、例えば絶縁層2c,2eとしてSi3N4を、絶縁層2dとしてSiO2を選択し、バッファードフッ酸(BHF)でエッチングすることによっても同様の形状を形成することが出来るなど、各層の材料とエッチャントを適宜選択すればよい。また、凹部25は絶縁部材2を形成するエッチングの過程で同時に形成することも可能である。
【0038】
凹部25を形成した後に、凹部25を有する側面2aにゲート5及びカソード4を形成する。ゲート5及びカソード4は、導電性の薄膜をスパッタや蒸着等の方法で成膜した後に、フォトリソグラフィ等の技術を用いてパターニングすることで形成することができる。この時、本発明の電子線装置においては、第1の実施形態と同様に、ゲート5とカソード4が、アノード11に正射影した時に、互いに重複しないようにオフセットして配置する。
【0039】
ここで本例の電子線装置においては、凹部25が形成されることにより、ゲート5とカソード4が凹部25で分断され、その結果、電子放出部となる微小な間隙が、自動的に形成される。そして、ゲート5及びカソード4は、それぞれ電源からの給電ライン6,7に接続されており、所定の電圧がゲート5とカソード6との間に印加されることで、係る間隙に高電界が生じ、カソードから電子が放出される。凹部25はこのように、電子放出部となる間隙を自動的に形成するだけでなく、ゲート5とカソード4との間の沿面距離を長くすることにより、電子線装置の駆動時に両電極間を流れるリーク電流を低減させ、電子放出効率を増加させる効果もある。
【0040】
凹部25の深さ(X方向の長さ)としては、深くなるほどリーク電流の減少効果が高くなり望ましいが、一方で深くなり過ぎると凹部25の上部の絶縁層2eが変形、或いは崩れ落ちる可能性があるため、そうした点を考慮して適宜設定される。
【0041】
次に本発明の電子線装置を用いた画像表示装置について説明する。前記したように、本発明の画像表示装置は、本発明の電子線装置のアノードに発光部材を配置してなるが、この時、本発明に係る電子放出素子を基板上に複数個配列して電子源とし、複数画素を構成して画像表示を行うことができる。
【0042】
一般的に、画像表示装置においては、電子放出素子をX方向及びY方向に行列状に複数個配置する。そして、同じ行に配置された複数の電子放出素子のカソード4或いはゲート5をX方向の配線に共通に接続し、同じ列に配置された電子放出素子のゲート5或いはカソード4をY方向の配線に共通に接続する、いわゆる単純マトリクス配置を採用することが出来る。
【0043】
本発明にかかる電子放出素子においては、ゲート5とカソード4との間に閾値電圧以上の電圧を印加することにより電子が放出される。放出される電子の量は、電極間に印加するパルス状電圧の波高値とパルス幅とで制御される。一方、閾値電圧以下ではほとんど電子が放出されないため、X方向配線及びY方向配線に対してパルス状の信号を印加することで、必要な電子放出素子を選択して、電子放出量の制御を行うことが出来る。
【0044】
次に、このような単純マトリクス配置の電子源を用いて構成した電子線装置について、図9を用いて説明する。図9は本発明の電子線装置を用いた画像表示装置の表示パネルの一例を示す模式図である。図9において、31は電子放出素子を複数配した電子源基体(図1の基板1に相当)、41は電子源基体31を固定したリアプレートである。46はガラス基板43(図2の基板10に相当)の内面に発光部材12として蛍光膜44とアノード11としてのメタルバック45等が形成されたフェースプレートである。また、42は支持枠であり、この支持枠42には、リアプレート41、フェースプレート46がフリットガラス等の封止部材を用いて接続されている。47は外囲器であり、例えば大気中或いは、窒素中で、400乃至500℃の温度範囲で10分以上焼成することで、封着して構成される。また、34は、図1における電子放出素子に相当するものであり、32,33は、電子放出素子のカソード4及びゲート5に接続されたX方向配線及びY方向配線(図1の給電ライン6,7に相当)である。外囲器47は、上述の通り、フェースプレート46、支持枠42、リアプレート41で構成される。ここで、リアプレート41は主に基体31の強度を補強する目的で設けられるため、基体31自体で十分な強度を持つ場合には、基体31に直接支持枠42を接続し、フェースプレート46,支持枠42及び基体31で外囲器47を構成しても良い。さらに必要に応じて、フェースプレート46とリアプレート41との間に、スペーサとよばれる不図示の支持体を設置することにより、大気圧に対して十分な強度を持つ外囲器47を構成することもできる。
【0045】
係る表示パネルにおいては、X方向配線32、Y方向配線33に、それぞれ走査信号、変調信号、またメタルバック45への高電圧印加により、放出された電子を加速して蛍光体へと照射することによって、画像表示を実現する。
【0046】
尚、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、本発明の目的を達成するものであれば各構成要素が代用物や均等物に置換されたものであってもよい。
【実施例】
【0047】
以下に具体的な実施例を挙げて本発明を詳しく説明する。尚、本発明がこれら実施例の形態に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
[電子放出素子作製]
図1に示した電子放出素子を備えたリアプレート41を作製した。尚、給電ライン6,7は走査配線、信号配線とし、信号配線である給電ライン7は基板1に溝を形成し、埋め込み配線とした。図10に本例におけるリアプレート41の作製工程を示す。図10において、52は基板1に設けられた溝部であり、図1と同じ部材には同じ符号を付した。
【0049】
先ず、基板1にウェットエッチングにより溝部52を形成した〔図10(a)〕。その後めっき法にてCuを溝部52に埋め込み、ケミカルメカニカルポリッシング(CMP)にて基板表面を平滑に成形することによって、走査配線7を形成した〔図10(b)〕。次いで全面に絶縁層54としてSi3N4膜を500nmの膜厚になるようスパッタ法で形成した。〔図10(c)〕。次に、フォトリソグラフィ工程で、フォトレジストをフォトマスクパターンで露光、現像し、走査配線7領域の露出用開口を持つ、レジストパターンを形成した。このレジストパターンをマスクとして、絶縁層54のSi3N4膜をCF4系のガスを用いてRIEでエッチングすることで走査配線7上のSi3N4膜を除去した。また同時に、絶縁部材2を形成した。〔図10(d)〕。続いて、リフトオフ用パターンをフォトレジストで形成し、スパッタ法でCu膜を成膜、リフトオフにてパターニングを行って信号配線6を形成した〔図10(e)〕。
【0050】
最後に、ゲート5及びカソード4を形成し、それぞれ、信号配線6,走査配線7に接続した〔図10(f)〕。当該工程では、先ずEB斜方蒸着により厚さ10nmのMoを斜め45°上方から選択的に堆積した。次に、フォトリソグラフィ工程で、フォトレジストをフォトマスクパターンで露光、現像し、ゲート5及びカソード4用のレジストパターンを櫛歯状に形成した。櫛歯はY方向において5μm幅で5μmの間隔を空けて等間隔に形成し、ゲート用レジストパターンとカソード用レジストパターンは、正面方向から見て入れ子構造となるように形成した。その後、パターニングをしたフォトレジストをマスクとし、Mo膜をCF4ガスを用いてドライエッチングして、ゲート5、カソード4を、それぞれ短冊形状に加工した。
【0051】
[画像表示装置の作製]
上記電子放出素子の作製工程により、基板上に複数個の電子放出素子を作製し、図9に示すような画像表示装置を作製した。
【0052】
先ず、基板41の2mm上方にフェースプレート46を、支持枠42を介して真空中で封着し、外囲器47を形成した。また、基板41とフェースプレート46との間には、厚さ2.0mm、幅200μmのスペーサ(不図示)を配置し、大気圧に耐えられる構造とした。本例において、使用したスペーサの本数は2本である。また、外囲器47内には容器内の高真空を保つためのゲッター(不図示)を配置した。基板41と支持枠42とフェースプレート46の接合にはインジウムを用いた。
【0053】
(比較例1)
次に、比較例として、図11に示す構造の電子放出素子を備えた画像表示装置を作製した。図11において、(a)は斜視図、(b)は正面図(X方向から見た図)、(c)は平面図(Z方向から見た図)である。本例は、アノードへの正射影がカソード4とゲート5とで一部重なっている以外は実施例1と同じ構成である。ゲートは実施例1と同様にして、カソードのY方向の幅が6μmでカソードとゲートの重複領域が0.5μmの電子放出素子を作製し、画像表示装置を構成した。それ以外の作製方法は実施例1と同様であるので説明を省略する。
【0054】
(評価結果)
以上のようにして作製した画像表示装置において、カソード4とゲート5間に各配線を通じて電圧を印加した。更に高圧端子を通じて、フェースプレート46のメタルバック45に電圧を印加して、画像を表示した。この時、信号配線(Y方向配線43)には0乃至+10V、走査配線(X方向配線42)には0乃至−20V、メタルバック45には、5乃至15KVを印加した。この駆動条件で実施例1と比較例1の電子線装置のIf及びIeを測定し、電子放出効率Ie/Ifを求めた。測定は100個の素子に対して行い、その平均値を比較した。またゲート5とカソード4間の静電容量を測定した。
【0055】
実施例1の電子放出素子のIfは、1素子当たり210μAとなり、比較例1の測定値と比べても、Ifの値はほぼ変わらなかった。これに対し、Ieの値は実施例1が1素子当たり17μAとなり、比較例1の測定値の8.4μAの2倍程度となり、電子放出効率が2倍となっていることが確認された。さらに実施例1の電子放出素子においては、静電容量が1素子当たり0.38pFとなり、比較例1の測定値0.44pFと比べて、およそ1乃至2割小さくなっており、本発明の効果を確認することができた。
【0056】
(実施例2)
電子放出素子の構成を、図2に示す凹部を備えた構成とした以外は実施例1と同様にして画像表示装置を作製した。尚、絶縁部材2は図8の工程で作製した。
【0057】
実施例1と同様にして走査配線4を形成した基板1上に、スパッタ法により絶縁膜21、22、23として厚さ500nmのSi3N4膜、厚さ20nmのSiO2膜、厚さ50nmのSi3N4膜を連続して堆積した〔図8(a)〕。次に、フォトリソグラフィ工程で、フォトレジストをフォトマスクパターンで露光、現像し、走査配線7領域の露出用開口を持つ、レジストパターンを形成した。その後、パターニングしたフォトレジストをマスクとして、絶縁膜21,22,23を、CF4ガスを用いてドライエッチングして、基板1で停止させ、絶縁部材2を形成した〔図8(b)〕。次に、絶縁部材2にBHFをエッチング液として11分間エッチングを施し、絶縁層2dを選択的にエッチングして、側面2aから100nm程度、絶縁層2dの側面を後退させ、凹部25を形成した〔図8(c)〕。その後、実施例1と同様の工程を行い、電子放出素子、さらには画像表示装置を作製した。
【0058】
(比較例2)
比較例1と同様に、カソード4の幅が6μm、ゲートの重複領域が0.5μmである以外は実施例2と同様の構成の電子放出素子を作製し、画像表示装置を構成した。
【0059】
(評価結果)
以上のように構成された画像表示装置において、実施例1と同じ駆動条件で駆動し、電子放出素子のIf及びIeを測定し、電子放出効率Ie/Ifを求めた。測定は100個の素子に対して行い、その平均値を比較した。またカソード4とゲート5間の静電容量を測定した。
【0060】
その結果、実施例2の電子放出素子のIfは、1素子当たり210μAとなり、比較例2の測定値と比べても、Ifの値はほぼ変わらなかった。これに対し、実施例2のIeの値は1素子当たり21μAとなり、比較例2の測定値の11μAの2倍程度となり、電子放出効率が2倍となっていることが確認された。さらに実施例2の電子放出素子においては、静電容量が1素子当たり0.34pFとなり、比較例2の測定値0.39pFと比べて、およそ1乃至2割小さくなっており、本発明の効果を確認することができた。
【符号の説明】
【0061】
1:基板 2:絶縁部材 4:カソード 5:ゲート 11:アノード 12:発光部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向と、該第1の方向に直交する第2の方向とに平行な表面を有する絶縁部材と、
前記絶縁部材の前記表面に位置し、前記第1の方向に平行な端辺を有する少なくとも1個の短冊状のカソードと、
前記第2の方向の延長上に位置し、該カソードの第1の方向に平行な端辺に対向配置するアノードと、
前記絶縁部材の前記表面上であって、前記アノードと前記カソードとの間に位置し、前記第1の方向に平行な端辺を有する少なくとも1個の短冊状のゲートと、を有し、
前記アノードへの、ゲートの正射影がカソードの正射影と重ならないことを特徴とする電子線装置。
【請求項2】
前記絶縁部材が前記表面に第1の方向に延びる凹部を有し、前記ゲートの第1の方向に平行な端辺と前記カソードの第1の方向に平行な端辺とが、該凹部の相対する縁にそれぞれ沿って配置している請求項1に記載の電子線装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電子線装置と、前記アノードに積層して位置する発光部材とを有することを特徴とする画像表示装置。
【請求項1】
第1の方向と、該第1の方向に直交する第2の方向とに平行な表面を有する絶縁部材と、
前記絶縁部材の前記表面に位置し、前記第1の方向に平行な端辺を有する少なくとも1個の短冊状のカソードと、
前記第2の方向の延長上に位置し、該カソードの第1の方向に平行な端辺に対向配置するアノードと、
前記絶縁部材の前記表面上であって、前記アノードと前記カソードとの間に位置し、前記第1の方向に平行な端辺を有する少なくとも1個の短冊状のゲートと、を有し、
前記アノードへの、ゲートの正射影がカソードの正射影と重ならないことを特徴とする電子線装置。
【請求項2】
前記絶縁部材が前記表面に第1の方向に延びる凹部を有し、前記ゲートの第1の方向に平行な端辺と前記カソードの第1の方向に平行な端辺とが、該凹部の相対する縁にそれぞれ沿って配置している請求項1に記載の電子線装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電子線装置と、前記アノードに積層して位置する発光部材とを有することを特徴とする画像表示装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−244960(P2010−244960A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−94716(P2009−94716)
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]