説明

電子装置及び電子装置の放射ノイズ低減方法

【課題】 電子装置からの放射ノイズを簡単な構成で確実に低減させる。
【解決手段】 直流的に互いが非導通な2系統の電源パターン10,12を介して別々の動作電圧Vmain,Vsub が供給される2つのIC1,2が、信号線6を介して通信を行うように構成された電子装置30において、上記2つの電源パターン10,12の間にコンデンサCを接続する。この電子装置30によれば、一方のICが送信することで、その送信側のICの電源パターンの電荷量が落ち込むと共に、受信側のICの電源パターンの電荷量が信号線6に伝達される信号のオーバーシュートによって過剰となる現象が生じる際に、受信側のICの電源パターンの過剰な電荷がコンデンサCによって送信側のICの電源パターンへ戻される。よって、2つのIC1,2が通信を行う際に両IC1,2の動作電圧Vmain,Vsub が変動して発生する放射ノイズを、確実に低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、信号線を介して通信を行う2つのICを備えた電子装置に関し、特に、その2つのICの各々に対して、直流的に互いが非導通の2系統の電源パターンにより個別の動作電圧を供給するように構成された電子装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来より、例えば自動車のエンジンやトランスミッション等を制御する車載用の電子装置として、信号線を介して通信を行う2つのICを備えると共に、その2つのICの各々に対して、直流(DC)的に互いが非導通の2系統の電源パターンを介し個別の動作電圧を供給するように構成されたものがある。
【0003】ここで、こうした電子装置の構成の一例について、図7を用い具体的に説明する。図7に示すように、この例の車載用電子装置100は、車両のイグニッションスイッチ102がオンされている場合にのみバッテリ104のプラス端子(+)に接続される第1の電源線+B1 と、バッテリ104のプラス端子(+)に常時接続された第2の電源線+B2 と、バッテリ104のマイナス端子(−)及び車両のボディに接続された接地(グランド:GND)線E1 とに接続されている。
【0004】そして、この電子装置100は、2つのIC1,2と、イグニッションスイッチ102がオンされている場合に第1の電源線+B1 を介して供給されるバッテリ電圧(バッテリ104のプラス端子の電圧であり、通常12V)から、IC1が動作するための第1動作電圧Vmain(この例では5V)を生成して出力するための第1のトランジスタTr1 と、この第1のトランジスタTr1 によって出力される第1動作電圧Vmainから、IC2が動作するための第2動作電圧Vsub (この例では5Vよりも若干低い電圧)を生成して出力するための第2のトランジスタTr2 と、上記2つのトランジスタTr1 ,Tr2 を制御する電源制御IC4とを備えている。
【0005】尚、この例の電子装置100では、上記2つのIC1,2のうち、一方のIC1がマイクロコンピュータであり、他方のIC2がRAMである。そして、その2つのIC1,2は、複数の信号線6からなるバス8によって互いに接続されており、そのバス8の各信号線6を介してデータ転送のための通信を行う。
【0006】このように構成された電子装置100において、イグニッションスイッチ102がオンされている場合には、電源制御IC4が、自己の端子P1 からの出力電圧により第1のトランジスタTr1 のベース電流を制御して、その第1のトランジスタTr1 のコレクタから第1動作電圧Vmainを出力させる。そして、その第1動作電圧Vmainは、当該電子装置100を構成するプリント配線基板に形成された第1の電源パターン10を介してIC1に供給される。
【0007】そして更に、イグニッションスイッチ102がオンされている場合には、電源制御IC4が、自己の端子P2 からの出力電圧により第2のトランジスタTr2のベース電流を制御して、その第2のトランジスタTr2 のコレクタから第2動作電圧Vsub を出力させる。そして、その第2動作電圧Vsub は、当該電子装置100を構成する上記プリント配線基板に形成された第2の電源パターン12を介してIC2に供給される。
【0008】また、イグニッションスイッチ102がオフされると、第1のトランジスタTr1 から第1動作電圧Vmainが出力されなくなる。そして、それに伴い、第2のトランジスタTr2 からも第2動作電圧Vsub が出力されなくなるが、この場合には、RAMであるIC2に記憶された制御データを継続して保持するために、電源制御IC4が、第2の電源線+B2 から自己の端子P3 に入力されるバッテリ電圧を元にIC2用の上記第2動作電圧Vsub を内部で生成し、その生成した第2動作電圧Vsub を自己の端子P4 から上記第2の電源パターン12へ出力する。尚、電源制御IC4は、イグニッションスイッチ102がオフされると、2つのトランジスタTr1 ,Tr2 を共にオフさせる。
【0009】一方、図7に例示した電子装置100とは異なる構成の電子装置として、例えば図8のような構成の電子装置106も考えられる。即ち、図8に例示する電子装置106では、図7の電子装置100と比較して、第2のトランジスタTr2 のエミッタが、第1のトランジスタTr1 のコレクタではなく、第2の電源線+B2 に接続されている。そして、この電子装置106において、イグニッションスイッチ102がオンされている場合には、電源制御IC4が、第1のトランジスタTr1と第2のトランジスタTr2 とを両方共にオンさせて、第1の電源線+B1 から供給されるバッテリ電圧を元に第1動作電圧Vmainを生成させると共に、第2の電源線+B2 から供給されるバッテリ電圧を元に第2動作電圧Vsub を生成させる。また、電源制御IC4は、イグニッションスイッチ102がオフされると、第1のトランジスタTr1 はオフさせるが、第2のトランジスタTr2 はオンさせたままにする。尚、図8に例示する電子装置106の場合、電源制御IC4の端子P4 は、第2動作電圧Vsub の電圧値をモニタするための入力端子として用いられる。
【0010】そして、図8のような電子装置106によっても、図7の電子装置100と同様に、イグニッションスイッチ102がオフされてIC1への第1動作電圧Vmainの供給が停止されても、IC2へは第1の電源パターン10とDC的に非導通である別系統の第2の電源パターン12により継続して第2動作電圧Vsub が供給されることとなり、IC2内の制御データを常時保持(所謂メモリバックアップ)することができる。
【0011】ところで、図7及び図8に例示した電子装置100,106のように、2系統の電源パターン10,12を介して別々の動作電圧Vmain,Vsub が供給される2つのIC1,2が、信号線6を介して高速通信を行う構成の場合には、両IC1,2が通信を行うことにより、各動作電圧Vmain,Vsub が変動してノイズが発生し、そのノイズが電子装置から外部への放射ノイズとなる。
【0012】この放射ノイズの発生メカニズムについて具体的に説明すると、例えば、図7及び図8に例示した電子装置100,106において、IC1が信号線6にハイレベルの信号を出力する際には、図9に示すように、IC1内の出力部14を構成するPチャネルMOSトランジスタTa とNチャネルMOSトランジスタTbとのうちでPチャネルMOSトランジスタTa の方がオンされることとなるが、そのハイレベルの信号を出力するための電流は、図9における実線の矢印で示すように、第1動作電圧Vmainから得ることとなる。
【0013】そのため、第1動作電圧VmainをIC1に供給する第1の電源パターン10の電荷量は、図10(A)に示すように、IC1がハイレベルを出力する毎に安定電荷状態から落ち込み、それに伴い第1動作電圧Vmainが変動することとなる。しかも、図9に示すように、IC1の出力部14から出力される信号には、実際には電源電圧(第1動作電圧Vmain)以上の電圧を伴ったオーバーシュートと呼ばれる高周波成分が含まれている。よって、IC2側で信号を受ける際には、IC2内の入力部16に備えられた2つの入力保護ダイオードDa ,Db のうちでカソードが第2動作電圧Vsub に接続された方の入力保護ダイオードDa を通って、図9における一点鎖線の矢印で示すように、上記高周波成分が第2動作電圧Vsub に混入することとなる。
【0014】このため、第2動作電圧Vsub をIC2に供給する第2の電源パターン12の電荷量は、図10(B)に示すように、IC1がハイレベルの信号を出力する毎に安定電荷状態からパルス的に増大し、それに伴い第2動作電圧Vsub が変動することとなる。
【0015】そして、このように第1動作電圧Vmainと第2動作電圧Vsub が変動すると、その各動作電圧Vmain,Vsub の電源系全体の回路で電気的に不安定な状態となり、元の安定した状態へ戻るために、ノイズ放射という形でエネルギーのバランスを取ることとなる。そして、これが電子装置からの放射ノイズの原因となる。
【0016】尚、図9及び図10は、IC1が信号を送信し、その信号をIC2が受信する場合を表しているが、上記放射ノイズの発生メカニズムは、IC2が信号を送信し、その信号をIC1が受信する場合でも同様である。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】ここで、上記のように2つのICが通信を行うことによって発生する放射ノイズレベルを低減するための方法としては、まず、従来から採用されているように、各ICの電源パターンとグランドパターンとの間に、バイパスコンデンサと呼ばれるコンデンサを夫々設けて、各動作電圧の安定化を図ることが考えられる。
【0018】具体例を挙げると、図7及び図8に示すように、IC1側の第1の電源パターン10とグランドパターン(バッテリ104のマイナス端子に接続されている配線パターン)18との間にバイパスコンデンサとしてのコンデンサ20を接続し、同様に、IC2側の第2の電源パターン12とグランドパターン18との間にバイパスコンデンサとしてのコンデンサ22を接続する。
【0019】しかしながら、このようなバイパスコンデンサを設ける従来の方法では、各IC自身が動作することだけに起因して発生する動作電圧の変動を抑制するのには効果があるが、他のICと信号線を介して高速通信を行うことで発生する各動作電圧の変動に対しては、充分な効果を発揮することができない。
【0020】特に、この方法の場合には、各IC毎に設けられるバイパスコンデンサの容量や接続位置等を適宜調整して、放射ノイズ対策を行うこととなるが、例えば車両用の電子装置においては、電子装置単体での電源パターンとグランドパターンとの間のインピーダンスと、車両搭載状態での電源パターンとグランドパターンとの間のインピーダンスとには差が生じるため、調整がうまくとれない。つまり、各IC毎に設けたバイパスコンデンサの容量等を電子装置が単体の状態で調整しても、電子装置を車両に搭載した状態では条件が違ってしまい、放射ノイズを容易且つ確実に低減することができない。
【0021】一方、放射ノイズを低減するための別の方法として、2つのICを接続する信号線に対して直列に抵抗器或いはインダクタンスを挿入する方法もある。つまり、この方法では、信号を出力する側のICからの流出電流を抑制することで、そのICの動作電圧の安定化を図る効果と、信号線に流れる電流を抑制することで、その信号線の周囲で形成される電流変化に起因した磁界変化を抑える効果とにより、放射ノイズを低減させるのである。
【0022】しかしながら、この方法では、2つのIC間に信号線が多数ある場合に、その各信号線に対して抵抗器或いはインダクタンスを挿入しなければならず、近年における電子装置の小型化及び高集積化の傾向を考慮すると、不利な面が大きい。特に、車載用の電子装置では、図7及び図8に例示したように、2つのICはバスを形成する複数の信号線によって互いに接続される場合が多く、しかも、車載用の電子装置は、自動車という限られた空間内に配置されるため、その大きさには制限がある。よって、信号線に対して抵抗器或いはインダクタンスを挿入する方法は、車両用の電子装置に採用できない場合が多い。
【0023】一方、プリント配線基板における電源パターンとグランドパターンの面積を拡大することも、放射ノイズを低減させるための1つの方法として考えられる。つまり、電源パターンとグランドパターンの静電容量を増大させて、動作電圧の変動を抑制するのである。
【0024】しかしながら、この方法も、近年における電子装置の小型化及び高集積化の傾向を考慮すると、電源パターンとグランドパターンの面積を拡大するのには限度があるため、充分な効果を得ることができない。本発明は、こうした問題に鑑みなされたものであり、電子装置からの放射ノイズを簡単な構成で確実に低減させることを目的としている。
【0025】
【課題を解決するための手段、及び発明の効果】上記目的を達成するためになされた本発明の電子装置は、信号線により互いに接続されて通信を行う2つのICと、その各ICに夫々対応して設けられ、対応する方のICが動作するための動作電圧を出力する2つの電力供給手段と、直流的に互いが非導通に形成され、前記2つの電力供給手段から夫々出力される動作電圧の各々を、前記2つのICのうちで該当する方のICに供給する2つの電源パターンとを備えているが、特に、前記2つの電源パターンの間にコンデンサが接続されている。
【0026】つまり、本発明の電子装置では、図7及び図8に例示した電子装置100,106と同様に、直流的に非導通な2系統の電源パターンを介して2つのICの各々へ別々の動作電圧が供給され、その2つのICが信号線を介して通信を行うように構成されているが、各ICへ動作電圧を供給する2つの電源パターンを、コンデンサによって交流(AC)的に結合するようにしている。
【0027】このような本発明の電子装置によれば、図9及び図10を用いて前述したように、一方のICが送信することで、その送信側のICの電源パターンの電荷量が落ち込むと共に、受信側のICの電源パターンの電荷量が信号線に伝達される信号のオーバーシュートによって過剰となる現象が生じる際に、受信側のICの電源パターンの過剰な電荷がコンデンサによって送信側のICの電源パターンへ戻されることとなる。
【0028】つまり、2つの電源パターン間に接続されたコンデンサにより、図4における点線の矢印で示すように、送信側のICの電源パターンから受信側のICの電源パターンに移動する過剰な電荷を元の位置へ戻す経路が形成され、その結果、各ICの動作電圧の変動が相殺されることとなる。
【0029】よって、本発明の電子装置によれば、2つのICが通信を行う際に両ICの動作電圧が変動して発生する放射ノイズを、確実に低減することができる。しかも、2つのICの各動作電圧は、当該電子装置に設けられた2つの電力供給手段から一定電圧として出力されるため、2つの電源パターンのコンデンサによる結合(コンデンサ結合)は、当該電子装置の外部における配線状態等の外部条件の影響を受け難いものとなる。このため、当該電子装置単体で、コンデンサの容量や接続位置等を調整しても、実際の使用状態と大差なく放射ノイズの低減効果を発揮することができ、装置の開発時間を短縮することができる。
【0030】また更に、本発明の電子装置によれば、放射ノイズの低減効果だけではなく、外来ノイズの照射を受けた場合にも、効果を発揮することができる。つまり、外来ノイズによって各ICの動作電圧が変動するような場合に、コンデンサには、その電圧変動を平滑するように電流が流れることとなり、コンデンサによって交流的には各電源パターンの面積及び静電容量を大きくしたのと同様の電圧変動抑制効果が得られるからである。
【0031】このように本発明の電子装置によれば、当該装置からの放射ノイズを簡単な構成で確実に低減することができ、外来ノイズの影響も受け難くなる。ところで、送信側のICと受信側のICとが決まっているのであれば、コンデンサとしては極性の有るコンデンサを用いることができるが、請求項2に記載のように、コンデンサとして、電流を双方向に流すことができる極性の無いコンデンサを用いれば、2つのICが送受信を行う場合であっても、信頼性を損ねることなく前述した放射ノイズ低減効果を得ることができる。
【0032】尚、極性の無いコンデンサとしては、一般的にフィルムコンデンサや積層セラミックコンデンサがある。また、アルミ電解コンデンサの中にも、種類によっては極性が無いものがある。一方、電源パターン上での電圧変動は、水面に波紋が広がるのと同様に、発生源を中心にして放射状に拡散する傾向がある。
【0033】そこで、請求項3に記載のように、前記コンデンサ(2つの電源パターンの間に接続されるコンデンサ)を複数個備え、その各コンデンサを、当該電子装置を構成するプリント配線基板における複数箇所に夫々設けるようにすれば、ICの動作電圧の変動を効率的に抑制して放射ノイズをより確実に低減させることができる。
【0034】また、請求項4に記載のように、前記コンデンサと直列に抵抗器或いはインダクタンスを接続するように構成すれば、外来ノイズの影響を一層抑制することができる。つまり、外来ノイズの照射を受けて不安定になった動作電圧を平滑にするようにコンデンサに流れる電流を、抵抗器或いはインダクタンスによって熱に変換することができ、ノイズ耐量を向上させることができるからである。
【0035】一方、本発明の放射ノイズ低減方法は、請求項5に記載のように、信号線により互いに接続され、該信号線を介して通信を行う2つのICと、その各ICに夫々対応して設けられ、対応する方のICが動作するための動作電圧を出力する2つの電力供給手段と、直流的に互いが非導通に形成され、前記2つの電力供給手段から夫々出力される動作電圧の各々を、前記2つのICのうちで該当する方のICに供給する2つの電源パターンとを備えた電子装置に用いられ、該電子装置から放射される放射ノイズを低減するための方法であって、前記2つの電源パターンの間にコンデンサを接続することを特徴としている。
【0036】そして、この放射ノイズ低減方法によれば、請求項1に記載の電子装置を得ることができ、前述したように、放射ノイズを簡単な構成で確実に低減できると共に、外来ノイズの影響を受け難い電子装置を得ることができる。
【0037】
【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施形態について、図面を用いて説明する。まず図1は、第1実施形態の電子装置30の主要部を表す回路図である。尚、本第1実施形態の電子装置30は、図7及び図8に例示した電子装置100,106と同様に、自動車に搭載されてエンジンやトランスミッション等の制御対象を制御するものであり、その全体構成及び外部配線は図7の電子装置100と同じである。そして、図1は、2つのIC1,2を中心にして回路図を示したものである。また、以下に説明する図1を始めとする各図において、前述した図7〜図10と同じ構成要素及び電圧名については、同一の符号を付しているため、詳しい説明は省略する。
【0038】図1に示すように、本第1実施形態の電子装置30は、図7に示した従来の電子装置100と比較して、第1のトランジスタTr1 から出力される第1動作電圧VmainをIC1に供給する第1の電源パターン10と、第2のトランジスタTr2 或いは電源制御IC4の端子P4 から出力される第2動作電圧Vsub をIC2に供給する第2の電源パターン12との間に、コンデンサCが接続されている。
【0039】尚、前述したように、第1の電源パターン10と第2の電源パターン12は、DC的に非導通である。これは、第1動作電圧Vmainが落ちている際に(つまり、イグニッションスイッチ102のオフ時に)、第2の電源パターン12から第1の電源パターン10へ第2動作電圧Vsub が回り込んでIC1が動作することがないようにするためである。そして、放射ノイズ発生の主要素であるAC成分だけを流すために、コンデンサCが選ばれている。
【0040】また、本実施形態では、図7に示されている第1のトランジスタTr1 が、IC1に対応する方の電力供給手段に相当し、第2のトランジスタTr2 と電源制御IC4(特に、端子P4 から第2動作電圧Vsub を出力する部分)が、IC2に対応する方の電力供給手段に相当している。
【0041】ここで、本第1実施形態において、上記コンデンサCは、実際には4個のコンデンサC1 〜C4 からなり、その4個のコンデンサC1 〜C4 は、図2のイメージ図のように実装されている。即ち、図2に示すように、当該電子装置30を構成するプリント配線基板32においては、IC2の周囲に第2の電源パターン12が長方形状に形成されており、更に、その第2の電源パターン12を囲むようにして第1の電源パターン10が形成されている。そして、上記4個の各コンデンサC1〜C4 は、第2の電源パターン12の4辺の各々に配置されて、第2の電源パターン12と第1の電源パターン10とを交流的に結合(コンデンサ結合)している。尚、プリント配線基板32は、実際には多層基板であり、第1の電源パターン10と第2の電源パターン12との両方或いは一方は、基板32の表面ではなく基板32の内部の層に形成されている。
【0042】また、本第1実施形態において、コンデンサC1 〜C4 としては、放射ノイズの問題としてよく取り上げられる数10MHz〜数GHzの周波数帯域で良好な特性を示すと共に、極性の無い(つまり、電流を双方向に流すことができる)チップ積層セラミックコンデンサを用いている。
【0043】このように構成された本第1実施形態の電子装置30によれば、例えばIC1の方が信号を送信する場合には、従来の電子装置100,106と同様に、ハイレベルの信号を出力するための電流が第1動作電圧Vmainから供給されるため、第1の電源パターン10の電荷量が落ち込もうとし、また、受信側であるIC2側の第2の電源パターン12の電荷量は信号線6に伝達される信号のオーバーシュートによって過剰になろうとするが、その際には、前述した図9と同様の図3における二点鎖線の矢印で示すように、コンデンサC(C1 〜C4 )によって、IC1側の第1の電源パターン10からIC2側の電源パターン12に移動する過剰な電荷を元の位置(即ち、第1の電源パターン10)へ戻す経路が形成される。
【0044】そして、このようなコンデンサC(C1 〜C4 )の作用は、IC2が信号を送信し、その信号をIC1が受信する場合についても全く同様である。これは、前述したように、コンデンサC(C1 〜C4 )として、極性の無いコンデンサを用いているからである。
【0045】このため、本第1実施形態の電子装置30によれば、一方のICが信号を送信することで、その送信側のICの電源パターンの電荷量が落ち込むと共に、受信側のICの電源パターンの電荷量が信号線6に伝達される信号のオーバーシュートによって過剰となる現象が生じる際に、図4における点線の矢印で示す如く、受信側のICの電源パターン(図4では第2動作電圧Vsub の電源パターン12)の過剰な電荷がコンデンサC(C1 〜C4 )によって送信側のICの電源パターン(図4では第1動作電圧Vmainの電源パターン10)へ戻されて、各IC1,2の動作電圧Vmain,Vsub の変動が相殺されることとなる。
【0046】よって、本第1実施形態の電子装置30によれば、2つのIC1,2が通信を行う際に両IC1,2の動作電圧Vmain,Vsub が変動して発生する放射ノイズを、確実に低減することができる。しかも、2つのIC1,2の各動作電圧Vmain,Vsub は、当該電子装置30に設けられた2つのトランジスタTr1 ,Tr2 及び電源制御IC4によって一定電圧として生成・出力されるため、2つの電源パターン10,12のコンデンサC(C1 〜C4 )による結合は、当該電子装置30の外部における配線状態等の影響を受け難いものとなる。このため、当該電子装置30単体で、コンデンサC(C1 〜C4 )の容量や接続位置等を調整しても、実際の使用状態と大差なく放射ノイズの低減効果を発揮することができ、装置の開発時間を短縮することができる。
【0047】また更に、本第1実施形態の電子装置30によれば、放射ノイズの低減効果だけではなく、外部からの外来ノイズによって各IC1 ,2の動作電圧Vmain,Vsub が変動するような場合に、コンデンサC(C1 〜C4 )には、その電圧変動を平滑するように電流が流れることとなり、コンデンサC(C1 〜C4 )によって交流的には各電源パターン10,12の面積及び静電容量を大きくしたのと同様の電圧変動抑制効果が得られる。よって、外来ノイズに対してもIC1 ,2の誤動作等を防ぐことができる。
【0048】このように本第1実施形態の電子装置30によれば、当該装置30からの放射ノイズを簡単な構成で確実に低減することができ、外来ノイズの影響も受け難くなる。また、一般に、電源パターン10,12上での電圧変動は、発生源を中心にして放射状に拡散する傾向にあるが、本第1実施形態の電子装置30では、図2に示したように、第1の電源パターン10の内側にて長方形状に形成された第2の電源パターン12の各辺に、4個の各コンデンサC1 〜C4 を実装するようにしているため、IC1 ,2の動作電圧Vmain,Vsub の変動を効率的に抑制して放射ノイズをより確実に低減させることができる。
【0049】次に、第2実施形態の電子装置について説明する。図5に示すように、第2実施形態の電子装置34は、第1実施形態の電子装置30と比較して、2つの電源パターン10,12の間に接続されるコンデンサC(C1 〜C4 )に対し直列に抵抗器Rが接続されている。つまり、2つの電源パターン10,12は、コンデンサC1 〜C4 の各々と抵抗器Rとからなる4組のRC直列回路によって接続されている。そして、それ以外の構成については、第1実施形態の電子装置30及び図7の電子装置100と同じである。
【0050】このような第2実施形態の電子装置34によれば、外来ノイズの照射を受けて不安定になった動作電圧Vmain,Vsub を平滑にするようにコンデンサC1 〜C4 に流れる電流を、抵抗器Rによって熱に変換できるため、外来ノイズに対するノイズ耐量を向上させることができる。
【0051】次に、第3実施形態の電子装置について説明する。図6に示すように、第3実施形態の電子装置36は、第1実施形態の電子装置30と比較して、2つの電源パターン10,12の間に接続されるコンデンサC(C1 〜C4 )に対し直列にインダクタンスLが接続されている。つまり、第2実施形態の電子装置34における抵抗器RをインダクタンスLに置換した構成であり、2つの電源パターン10,12は、コンデンサC1 〜C4 の各々とインダクタンスLとからなる4組のLC直列回路によって接続されている。そして、それ以外の構成については、第1実施形態の電子装置30及び図7の電子装置100と同じである。
【0052】このような第3実施形態の電子装置36によっても、外来ノイズの照射を受けて不安定になった動作電圧Vmain,Vsub を平滑にするようにコンデンサC1 〜C4 に流れる電流を、インダクタンスLによって熱に変換できるため、外来ノイズに対するノイズ耐量を向上させることができる。
【0053】以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。例えば、上記各実施形態の電子装置30,34,36は、本発明を図7に例示した従来の電子装置100に適用したものであったが、本発明は、図8の電子装置106やそれ以外の構成の電子装置に対しても全く同様に適用することができる。
【0054】また、上記各実施形態の電子装置30,34,36では、一方のIC1がマイクロコンピュータであり、他方のIC2がRAMであったが、2つのIC1 ,2の種類は、例えば、IC1とIC2とが共にマイクロコンピュータであるといった具合に、他の組み合わせでも良い。
【0055】一方、上記各実施形態の電子装置30,34,36では、2つの電源パターン10,12間に4個のコンデンサC(C1 〜C4 )を接続するようにしたが、コンデンサCの数は適宜決定することができる。また、上記第2及び第3実施形態の電子装置34,36では、4個全てのコンデンサC1 〜C4 に対して抵抗器R或いはインダクタンスLを直列に接続するようにしたが、複数個のコンデンサCのうちの何れかのみに抵抗器R或いはインダクタンスLを接続するようにしても良い。
【0056】また更に、上記各実施形態の電子装置30,34,36は、車両用の電子装置であったが、本発明は、車両用に限らず、それ以外の民生用機器や医療用機器等に用いられる電子装置に対しても同様に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 第1実施形態の電子装置の主要部を表す回路図である。
【図2】 第1実施形態の電子装置におけるコンデンサの実装状態を表すイメージ図である。
【図3】 第1実施形態の電子装置において2つのICが通信を行う場合の動作状態を表す説明図である。
【図4】 第1実施形態の電子装置の放射ノイズ低減作用を説明する説明図である。
【図5】 第2実施形態の電子装置の主要部を表す回路図である。
【図6】 第3実施形態の電子装置の主要部を表す回路図である。
【図7】 従来の車載用電子装置の一構成例を表す回路図である。
【図8】 従来の車載用電子装置の他の構成例を表す回路図である。
【図9】 図7及び図8の電子装置において2つのICが通信を行う場合の動作状態を説明する説明図である。
【図10】 従来の電子装置における放射ノイズの発生メカニズムを説明する説明図である。
【符号の説明】
1,2…IC 4…電源制御IC 6…信号線 8…バス
Tr1 …第1のトランジスタ Tr2 …第2のトランジスタ
10…第1の電源パターン 12…第2の電源パターン
14…出力部 16…入力部 18…グランドパターン
30,34,36,100,106…電子装置
32…プリント配線基板 C(C1 〜C4 )…コンデンサ
R…抵抗器 L…インダクタンス 102…イグニッションスイッチ
104…バッテリ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 信号線により互いに接続され、該信号線を介して通信を行う2つのICと、前記各ICに夫々対応して設けられ、対応する方のICが動作するための動作電圧を出力する2つの電力供給手段と、直流的に互いが非導通に形成され、前記2つの電力供給手段から夫々出力される動作電圧の各々を、前記2つのICのうちで該当する方のICに供給する2つの電源パターンと、を備えた電子装置において、前記2つの電源パターンの間にコンデンサが接続されていること、を特徴とする電子装置。
【請求項2】 請求項1に記載の電子装置において、前記コンデンサは、極性の無いコンデンサであること、を特徴とする電子装置。
【請求項3】 請求項1又は請求項2に記載の電子装置において、前記コンデンサを複数個備え、その各コンデンサは、当該電子装置を構成するプリント配線基板における複数箇所に夫々設けられていること、を特徴とする電子装置。
【請求項4】 請求項1ないし請求項3の何れかに記載の電子装置において、前記コンデンサと直列に、抵抗器或いはインダクタンスが接続されていること、を特徴とする電子装置。
【請求項5】 信号線により互いに接続され、該信号線を介して通信を行う2つのICと、前記各ICに夫々対応して設けられ、対応する方のICが動作するための動作電圧を出力する2つの電力供給手段と、直流的に互いが非導通に形成され、前記2つの電力供給手段から夫々出力される動作電圧の各々を、前記2つのICのうちで該当する方のICに供給する2つの電源パターンと、を備えた電子装置に用いられ、該電子装置から放射される放射ノイズを低減するための放射ノイズ低減方法であって、前記2つの電源パターンの間にコンデンサを接続すること、を特徴とする電子装置の放射ノイズ低減方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2000−91784(P2000−91784A)
【公開日】平成12年3月31日(2000.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平10−252902
【出願日】平成10年9月7日(1998.9.7)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】