説明

電子部品

【課題】鉛フリーのめっき材料を採用しながら、端子15の表面に形成しためっき層16でウィスカが成長するのを抑制でき、防湿性にも優れた端子を持つ電子部品を得る。
【解決手段】端子15を有する電子部品10において、端子15の表面にめっき層16を形成し、その表面に前記めっき層16から発生するウィスカよりも高い機械的強度を持つ硬質薄膜(例えば、DLC薄膜)17が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電子部品、特にICチップをリードフレームに搭載した半導体装置のような、端子を有する電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えばICチップをリードフレームに搭載した半導体装置のような電子部品は一層の小型化が求められており、結果として、その端子間の間隔は数百μm程度まで狭くなってきている。半導体装置のような電子部品において、前記端子の母材には黄銅、銅合金、42アロイなどが用いられるが、素地のままでは端子表面が酸化して導通不良(はんだ付け不良等による)を引き起こす恐れがあるので、通常、めっき等により端子表面に保護膜が形成される。めっき層の材料としては、主にSnやSn合金が用いられる。
【0003】
めっき層の材料として、従来から鉛(Pb)を含む合金が用いられてきたが、近年、環境負荷を軽減する観点から鉛フリー化が求められるようになり、端子のめっき層材料にも、例えば、Sn,Sn−Cu,Sn−Ag,Sn−Biのように、鉛を含まない材料が使用されるようになっている。しかし、鉛フリーの材料で電子部品の端子表面をめっき処理すると、ウィスカが発生することが知られており、前記のように端子間の間隔が数百μm程度と狭い場合には、発生したウィスカにより端子間ショートが発生する恐れがあるので、その対策が求められている。
【0004】
特許文献1には、その対策として、芯材表面にSn系めっき層が形成されているリード線の表面に酸化Sn形成処理を行うことによってウィスカの発生を抑制するようにした電解コンデンサ用タブ端子が記載されている。特許文献2には、はんだ付けの濡れ性とウィスカの発生を防止することができるものとして、基材である金属材料上にSn系合金からなるめっき層を形成し、その表面にSn層を形成した電子部品用材料が記載されている。また、端子に形成しためっき層の表面に、防湿のための絶縁コーティング(例えば、ポリオレフィン膜、アクリル膜、ポリウレタン膜等)を形成することも行われている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−311950号公報
【特許文献2】特開2002−53981号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、鉛フリーであるSn系めっき層に生成するウィスカに関して多くの実験と研究を行ってきているが、Sn系めっき層の表面に酸化Sn層を形成しても高いウィスカ抑制効果が得られないことを経験した。その理由として、ウィスカの発生原因の1つにめっき層表面の腐食(酸化)による内部応力増加が挙げられるが、酸化Sn層の形成はむしろ内部応力増加に寄与しているためと考えられる。
【0007】
また、めっき層の表面にSn層を形成する、あるいはポリオレフィン膜のような防湿のための絶縁コーティンクを形成することは、結果的にめっき層表面の腐食(酸化)を抑制することができてウィスカの発生を抑制できることが期待できるが、ウィスカの発生を完全には抑制することはできず、一旦生成したウィスカは、金属の単結晶に近いことから機械的強度が強く、表面に形成したSn層や絶縁コーティンクを破壊して、さらに成長することも経験した。
【0008】
本発明は、上記の事情を考慮してなされたものであり、端子表面のめっき層からウィスカが発生しかつ成長するのを阻止することができ、かつ端子表面が腐食するのも有効に防止することのできる電子部品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による電子部品は、母材表面にめっき層を有する端子を備えた電子部品であって、前記端子のめっき層の表面には、めっき層から発生するウィスカよりも高い機械的強度を持つ硬質薄膜が形成されていることを特徴とする。前記硬質薄膜の例としては、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)薄膜、窒化シリコン薄膜、または窒化炭素薄膜、等が挙げられるが、コーティングの利便性等の理由からDLC薄膜は特に好ましい。
【0010】
後の実施例に示すように、本発明による電子部品では、めっき層の表面に、めっき層から発生するウィスカよりも高い機械的強度を持つ硬質薄膜を形成したことで、該薄膜がウィスカの成長に対してバリア層として機能し、めっき層から発生するウィスカの本数は大きく減少する。さらに、端子の防湿性も改善される。
【0011】
めっき層を形成する鉛フリー材料は、Sn系合金あるいはZn系合金を挙げることができる。純Snあるいは純Znであってもよい。好ましくはSn系合金であり、例として、Sn−Cu,Sn−Ag,Sn−Bi,Sn−Zn,Sn−In合金、等が挙げられる。端子を構成する母材は、従来の電子部品で端子素材に用いられてきた金属材料をそのまま用いることができ、例として、黄銅、銅合金、42アロイなどが挙げられる。電子部品の種類に応じて、適宜選択する。
【0012】
本発明による電子部品は、半導体装置など端子を有する任意の電子部品を対象とする。一例として、ICチップと該ICチップを搭載したリードフレームを有し、前記端子は前記リードフレームの一部であるような電子部品を挙げることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、鉛フリーの材料をめっき層に採用しながら、端子母材の表面に形成しためっき層にウィスカが発生しかつ成長するのを阻止することができ、かつ端子表面の防湿性をも向上させた電子部品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の実施の形態の一例を、図1を参照しながら説明する。
図1は、本発明による電子部品の一例である半導体装置10を断面で示している。図において、11はICチップであり、該ICチップ11がダイパット12を備えたリードフレーム13に搭載されている。リードフレーム13は、通常銅合金であり、厚さは100〜500μm程度である。半導体装置10は、全体がエポキシやシリコーンのような封止樹脂14で覆われており、リードフレーム13の端部が端子15として、外部に露出している。
【0015】
端子15の母材表面には鉛フリー材料であるめっき層16が形成されている。めっき層は、純Snめっき層でもよく、Sn−Cu,Sn−Bi,Sn−Ag合金等の、1〜5%のCu,Bi,Agを含むSn系合金によるめっき層であってもよい。Zn系合金からなるめっき層であってもよい。また、めっき層16の厚さに制限はないが、通常、5〜15μm程度である。
【0016】
前記めっき層16の表面には、厚さがほぼ300nm〜1000nm程度の範囲である、めっき層16から発生するウィスカよりも高い機械的強度を持つ硬質薄膜17が形成される。そのような硬質薄膜17の例として、DLC薄膜が挙げられる。めっき層16の表面に前記硬質薄膜を形成するには、マグネトロンスパッター法などの適宜の手法を用いることができる。
【0017】
上記の電子部品(半導体装置10)において、端子15の表面に形成されているめっき層16の表面が、めっき層から発生するウィスカよりも高い機械的強度を持つ硬質薄膜17により覆われているので、めっき層16の表面腐食(酸化)が抑制され、結果として、めっき層16にウィスカが成長するのは抑制される。生成したとしても、硬質薄膜17がバリア層として機能することにより成長が抑止されるので、ウィスカが硬質薄膜17を突き抜けて飛び出すことはない。
【0018】
その結果、端子間が狭い場合であっても、端子間ショートが発生するのを確実に阻止することがきる。また、DLC等の硬質薄膜17は対水蒸気・酸素のバリア性に勝るので、端子15の表面の腐食防止にも有効となる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例と比較例により本発明を説明する。
[実施例1]
ICのリードフレーム材料として使用されている厚さ200μmの42アロイ(Ni42wt%−Fe)に電解めっきによりSn−3wt%Cu材料からなる厚さ10μmのめっき層を形成してテストピースとした。形成したSn−Cuめっき層の表面に対して、マグネトロンスパッター法により厚さ500nmのDLC薄膜を形成した。
【0020】
DLC薄膜を形成したテストピースに対して、最もウィスカが発生しやすい条件の1つと考えられている、55℃、85%RHの環境内に2000時間放置する高温高湿試験を行い、ウィスカの成長状態(ウィスカ長:μm)を観察した。DLC薄膜から50μm以上に成長したウィスカの本数を計測し、その結果を図2のグラフに「本実施例(DLC−コーティング)」として示した。なお、例えばICリードフレームを想定した場合、50μm以上にウィスカが成長すると、端子間でショートする恐れがあることから、ウィスカ長50μmは測定上の1つの目安となっている。
【0021】
[比較例1]
実施例1で用いたテストピースのめっき層に対して、厚さ3μmのアクリル薄膜を防湿コーティングとして施した試料を準備した。それに対して実施例1と同じ高温高湿試験を行い、防湿コーティング膜から50μm以上に成長したウィスカの本数を計測した。その結果を図2のグラフに「従来例(防湿コーティング)」として示した。
【0022】
[実施例2]
実施例1のテストピースに形成したDLC薄膜の機械的強度(引っ張り強さMPa)を測定した。また、実施例1で50μm以上に成長したウィスカの機械的強度(引っ張り強さMPa)を同じ手法で測定した。その結果を図3のグラフに示した。
【0023】
[比較例2]
比較例1で準備した試料における防湿コーティングの機械的強度(引っ張り強さMPa)を同じ手法で測定した。その結果を図3のグラフに示した。
【0024】
[実施例3]
実施例1のテストピースに形成したDLC薄膜の水蒸気(HO)透過率(ml/m・Day)を、JIS−Z−0208に即して測定した。その結果を図4のグラフに「DLC」として示した。
【0025】
[比較例3]
比較例1で準備した試料における防湿コーティングの水蒸気(HO)透過率(ml/m・Day)を実施例3と同様にして測定した。その結果を図4のグラフに「従来技術・防湿コート」として示した。
【0026】
[評価]
図2に示すように、実施例1のものは従来例のものと比較して50μm超のウィスカの本数は大幅に減少しており、本発明の優位性が示される。減少した理由は、図3に示すように、DLCの機械的強度がウィスカの機械的強度よりも勝るため、DLC薄膜層がバリア層として機能したことによると考えられる。また、従来の防湿コーティングの機械的強度はウィスカの機械的強度よりも劣っているために、ウィスカの成長を抑制する機能は果たさないと考えられる。
【0027】
さらに、図4に示すように、DLC薄膜は従来の防湿コーティングよりも水蒸気透過率が小さく、DLC薄膜が腐食防止機能も備えることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明による電子部品の一例である半導体装置を断面で示す図。
【図2】実施例と比較例での50μm以上のウィスカの本数を示すグラフ。
【図3】実施例と比較例での、DLC,ウィスカ、防湿コーティングの機械的強度を示すグラフ。
【図4】実施例と比較例での、DLCと防湿コーティングの水蒸気透過率を示すグラフ。
【符号の説明】
【0029】
10…本発明による電子部品の一例である半導体装置、11…ICチップ、12…ダイパット、13…リードフレーム、14…封止樹脂、15…端部、16…めっき層、17…硬質薄膜(DLC薄膜)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材表面にめっき層を有する端子を備えた電子部品であって、前記端子のめっき層の表面には、めっき層から発生するウィスカよりも高い機械的強度を持つ硬質薄膜が形成されていることを特徴とする電子部品。
【請求項2】
前記硬質薄膜は、DLC薄膜、窒化シリコン薄膜、または窒化炭素薄膜のいずれかであることを特徴とする請求項1に記載の電子部品。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電子部品であって、前記電子部品はICチップと該ICチップを搭載したリードフレームを有し、前記端子は前記リードフレームの一部であることを特徴とする電子部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−147589(P2008−147589A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−336148(P2006−336148)
【出願日】平成18年12月13日(2006.12.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】