説明

電子顕微鏡による測定条件決定方法

【課題】電子線照射による形状・寸法変化が生じる試料において、最適な測定条件を迅速にかつ簡便に決定する。
【解決手段】測定条件を変えて寸法の測定を反復する。シュリンク量と測定再現性が予め設定された基準値を見たすまで、加速電圧等の測定条件を変化させて測定を実施し、最適な測定条件を探す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子顕微鏡を用いた試料測定方法に関し、特に半導体デバイスのような微細な部分の寸法を測定するのに適した試料測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年の半導体デバイスの加工精度は0.1μm以下となっており、性能評価のための寸法管理に走査型電子顕微鏡を使用している。それら試料の中で最新の半導体デバイスで使用されているArF(波長193nm)露光機対応レジスト(ArFレジスト)は、電子顕微鏡による観察・測定の際、電子線によるダメージにより形状・寸法の変化(シュリンク)を受けやすい試料である。しかし、レジストの解像性向上(透明性)とシュリンク軽減(耐エッチング性)はトレードオフの関係であり、レジストメーカ側では解像性向上を最優先に開発を行っているためシュリンク対策は進んでいないのが現状である。
【0003】
そこで、電子顕微鏡による観察・測定において、ArFレジストのシュリンク量を抑えるためには、試料に照射する電子線のドーズ量をなるべく少なくする必要があるが、ドーズ量を低下させると、試料から発生する2次電子信号量も減少するため測定値の確からしさ(測定再現性)の低下を招き、実デバイスで要求される高精度な寸法管理が困難となる。電子顕微鏡において最適な測定条件を提供する装置及び測定法について、特開2003−303567号公報に記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開2003−303567公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2003−303567号公報は最適な測定条件のみを提供するものであって、試料の寸法変化を考慮した上で最適な測定条件を提供するものではない。
【0006】
本発明の目的は、ArFレジストなど電子線照射により寸法変化が生じる試料に対して、最適な測定条件を迅速にかつ簡便に決定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明では、試料上の同一箇所に対して同じ測定条件で所定回数の測定を行うステップと、測定値の変化量が予め設定された基準値を満たしているかどうかを判定する第1の判定ステップと、測定再現性が予め設定された基準値を満たしているかどうかを判定する第2の判定ステップとを有し、第1の判定で測定値の変化量が予め設定された基準値を満たしていない場合には、試料上の新しい測定箇所に移動し、ドーズ量を少なくするように測定条件を変更して前記ステップを反復し、第2の判定で測定再現性が予め設定された基準値を満たしていない場合には、試料上の新しい測定箇所に移動し、ドーズ量を多くするように測定条件を変更して前記ステップを反復して、測定値の変化量及び測定再現性が予め設定された基準値を満たす測定条件を探索する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電子線照射による寸法変化が生じる試料に対して、最適な測定条件を迅速にかつ簡便に決定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
電子顕微鏡において、ArFレジストのシュリンク量を軽減し、かつ良好な測定再現性を得るためには、ある条件において同一箇所を繰り返し測定しシュリンク量及び測定再現性を算出する必要がある。図4に、ある条件におけるArFレジストのラインパターンの測定結果を示す。この例では、シュリンク量を示す指標として繰り返し測定における1回目及び2回目の測定値の差分を用いた。また、測定再現性に関しては、繰り返し測定における1回目から20回目までの測定値を用いて近似曲線を作成し、各測定値と近似曲線との差分のばらつきを測定再現性としている。
【0010】
この例からもわかる通り、ArFレジストは同一箇所を繰り返して測定すると電子線照射によりレジスト表面がシュリンクするため、繰り返し測定における初期の段階では、測定値が減少する。しかし、レジスト表面が全てシュリンクすると測定値が減少しなくなる。場合によっては測定回数を重ねるとレジスト表面に付着するコンタミネーションのため寸法が増加する場合もある。
【0011】
図4の例に示すように、繰り返し測定を行うことにより、ある条件におけるシュリンク量及び再現性を求めることが可能であるが、測定するレジストの種類により、加速電圧・倍率・試料照射電流値、画像積算数(フレーム数)に挙げられる電子線ドーズによる影響が異なるため、シュリンク量を少なくかつ再現性が良い測定条件を見出すためには、これらの条件を複数組み合わせた状態で測定を行う必要がある。
【0012】
一般的には、加速電圧を高くする・倍率を高くする・電流値を増加させる・画像積算数を増加させる等、試料に照射される電子線のドーズ量を増加させると、測定再現性が向上するかわりにシュリンク量が増加する。また、加速電圧を低くする・倍率を低くする・電流値を減少させる・画像積算数を減少させる等、試料に照射される電子線のドーズ量を減少させるとシュリンク量が減少するかわりに測定再現性が低下する。
【0013】
しかしながら、実際の測定例では必ずしもそうならない場合が多い。図5、図6に、あるArFレジストにおいて測定条件を変更した場合の測定例を示す。図5は加速電圧・電流値・倍率を一定にした状態で画像積算数を変化させた場合の測定結果である。この例では、画像積算数を増やすと、シュリンク量は増加するが、測定再現性が向上していることがわかる。図6は加速電圧・電流値・画像積算数を一定にした状態で倍率を変化させた場合の測定結果である。この例では、倍率を高くすると、シュリンク量は増加するが、測定再現性には大きな変化がない。
【0014】
上記例からもわかるとおり、最適測定条件を見出すためには、測定するArFレジストの種類に応じて、加速電圧・倍率・試料照射電流値、画像積算数あるいは積算時間などの測定条件を複数組み合わせた状態で測定を行い、その結果得られたシュリンク量及び測定再現性の値から次の測定条件を決定するなど、試行錯誤を行いながら条件を選択する必要があるため、最終的に到達する最適な測定条件を決定するのに要する時間が膨大になっていた。
【0015】
図1は、本発明による走査型電子顕微鏡の構成例を示す図である。走査型電子顕微鏡の鏡体1において、電子源であるフィラメント2から発生する1次電子線3はウェーネルト4及びアノード5により制御され加速される。これらによって、1次電子線3の試料への照射速度である加速電圧や1次電子線3の試料への照射電流量であるプローブ電流が制御される。加速された1次電子線3は、コンデンサレンズ6及び対物レンズ7によって試料8に収束される。1次電子線3が試料8に収束される際に発生する非点収差はスティグマコイル9により、1次電子線3のレンズ中心からのずれはアライメントコイル10により補正される。1次電子線3は偏向コイル11により2次元的に偏向され、試料8は2次元的に走査される。1次電子線3により走査された試料8からは2次電子や反射電子、X線等が発生するが、そのうち例えば2次電子12は2次電子検出器13によって検出され、電気信号に変換される。この電気信号は画像取り込み装置14に導入される。また、偏向コイル11の走査信号も画像取り込み装置14に導入されるため、画像取り込み装置14には試料8の1次電子線3による走査と同期した形で画像取り込み装置14に2次電子像として記憶される。
【0016】
偏向コイル11は試料8上の走査領域を変化させることにより倍率を制御する。また、通常は2次電子像に含まれるノイズを抑えるために、偏向コイル11による試料8上の走査を繰り返し行い、その際に得られた2次電子像を画像保存装置15に保存した後、画像上のノイズを低減させた形で出力する。もちろんこの保存された2次電子像はモニタ16等の外部出力に表示することができる。2次電子像を取得するために試料8上を繰り返し走査し画像の取り込みを行うための回数は通常、画像積算数と呼ばれる。寸法測定装置17は、画像保存装置15から読み出された2次電子像をもとにして試料8を特徴づける特徴値として試料8の所望部分の寸法を測定する。この点はよく知られている技術であるため、その詳細については説明を省略する。
【0017】
試料8の同一箇所において上記の動作を繰り返し行い、それによって得られるその箇所における異なる時点での測定値は、寸法測定装置17に接続されたデータ保存装置18に保存される。データ保存装置18に接続されたデータ演算装置19ではデータ保存装置18に保存されている、異なる時点での測定値にもとづいて測定値の演算・評価を行う。得られた評価結果に対して予めコンピュータ20に記憶された設定値やマウス21等で入力された設定値を満たす場合は測定を終了するが、結果を満足しない場合は状況に応じてフィラメント2、ウェーネルト4、アノード5を制御して加速電圧やプローブ電流の変更、偏向コイル11を制御して倍率の変更、2次電子像を取得する際の画像取り込み回数を制御して画像積算数の変更を行うなど測定条件を変更する。測定条件の変更の際に生じるスティグマやアライメント等のずれは、コンピュータ20によりスティグマコイル9やアライメントコイル10を制御し、自動的に補正する。この点はよく知られている技術であるので、その詳細については説明を省略する。
【0018】
また、予めコンピュータ20に記憶された試料8の上にある測定箇所の情報をもとにステージ22を制御し、電子線が照射されていない新しい測定箇所に移動し、新しい観察条件を用いて寸法測定値を取得し評価を行う。この作業は予め登録されている条件を満たすまで繰り返され、評価結果が満たされた場合は、その場合における観察条件や測定結果をコンピュータ20内に格納及びモニタ16やプリンタ23に出力し、処理を終了する。
【0019】
図2は、図1の装置を用いて電子線照射によって形状・寸法が変化する試料に対する測定条件を決定するための手順を示すフローチャートである。ステップ1において、シュリンク量及び測定再現性の基準値を入力する。ここでは、シュリンク量を示す指標として繰り返し測定における1回目及び2回目の測定値の差分を用いている。また、測定再現性に関しては繰り返し測定における1回目からn回目(nは任意の自然数であり、通常2〜100くらいの値が用いられることが多い)までの測定値を用いて近似曲線を作成し、各測定値と近似曲線との差分のばらつきを測定再現性としている。
【0020】
ステップ2において加速電圧・プローブ電流・倍率・画像積算数等の測定条件を選択し、ステップ3で設定された条件において予め保存されていた条件を読み込み、測定条件の調整を行う。ステップ4において、予め登録されている測定点の情報にもとづいて測定箇所に移動する。ステップ5では測定箇所において、2次電子信号による2次電子像を形成する。通常は2次電子像に含まれるノイズによる測定値の変動を抑えるために、試料上を数回走査し、ステップ6でその際に得られた画像を保存し、ステップ7で測定を行う場合使用する画像においてノイズの低減を図る。ステップ7では、ステップ6で用いられた画像をもとにして測定位置の選択及び測定値の取得を行う。ステップ8では、ステップ7で得られた測定値の保存を行う。なお、ステップ2からステップ8の処理は、一般的な走査電子顕微鏡で行われている処理と同等である。
【0021】
本発明においての評価対象であるシュリンク量及び測定再現性の値を得るためには、同一箇所を繰り返し測定する必要がある。そのため、ステップ9において指定された回数を満たすまでステップ5からステップ8の処理を繰り返し、その度に測定値は保存される。
【0022】
ステップ10では、シュリンク量について保存された測定値がステップ1で入力された基準値を満たすか否かの判定を行う。選択された測定条件にもとづいて得られた測定値が基準値を満たす場合は、ステップ11に進み、測定再現性について、保存された測定値がステップ1で入力された基準値を満たすか否かの判定を行う。ステップ11においても、選択された測定条件にもとづいて得られた測定値が基準値を満たす場合は、ステップ12において測定結果の出力を行った後、処理を終了する。
【0023】
また、ステップ10において、選択された測定条件にもとづいて得られた測定値が基準値を満たさない場合は、ステップ13の通り、ドーズ量が少なくなるように加速電圧・画像積算数・プローブ電流・倍率等の測定条件を変更する。ステップ14では、測定装置において、変更された条件が実行可能か否かを判断し、実行可能である場合はステップ3の処理に戻り測定条件を変更し、新たな測定値を得る。同様に、ステップ11において、選択された測定条件にもとづいて得られた測定値が基準値を満たさない場合は、ステップ15の通り、ドーズ量が多くなるように加速電圧・画像積算数・プローブ電流・倍率等の測定条件を変更する。測定条件の変更を行う。その後、ステップ14の判断を行い、測定装置において、変更された条件が実行可能である場合はステップ3の処理に戻り測定条件を変更し、新たな測定値を得る。
【0024】
なお、ステップ14において、ステップ13もしくはステップ15において変更された測定条件が実行不可能な場合は、ステップ12においてそれまでに得られた結果を出力し、処理を終了する。
【0025】
上記では、測定装置に走査型電子顕微鏡を用いているが、本発明は透過型電子顕微鏡やその他の電子線応用装置においても利用できる。上記の形態において試料から検出される情報は2次電子情報であるが、検出される情報は反射電子やX線等であっても良い。また、画像取り込み装置14、画像保存装置15、寸法測定装置17、データ保存装置18、データ演算装置19はそれぞれ個別の装置として説明したが、コンピュータ20内に格納されているプログラムでこれらの処理を行っても良い。
【0026】
上記では、試料にArFレジストを使用した場合について説明したが、試料の種類については電子線照射により形状変化が生じる他の試料においても適用可能である。上記では、シュリンク量の定義として、繰り返し測定における1回目と2回目の測定値の差分を用いているが、シュリンク量の定義としては1回目と10回目の測定値の差分を用いるなど、他の回数の差分を用いて定義しても良い。また、上記では、測定再現性の定義として、繰り返し測定における1回目からn回目までの測定値を用いて近似曲線を作成し、各測定値と近似曲線との差分のばらつきを測定再現性としているが、シュリンクによる寸法変化が無くなった状態(回数)から後の数値を用いて、測定再現性を定義しても良い。また、同一条件において複数点の測定を行い、各点ごとのシュリンク量を計算し、各点におけるシュリンク量のばらつきを測長再現性として定義しても良い。再現性として一般に定義されている手法を用いることができる。
【0027】
[実施例]
図3は、測定条件決定の実施例を示す図である。本実施例ではシュリンク量を示す指標として繰り返し測定における1回目及び2回目の測定値の差分を用いた。また、測定再現性に関しては、繰り返し測定における1回目から20回目までの測定値を用いて近似曲線を作成し、各測定値と近似曲線との差分のばらつきを測定再現性とした。図2のステップ1で示す評価基準値をシュリンク量2.0nm、測定再現性1.0nmと設定した。
【0028】
測定1において、加速電圧500V、プローブ電流5pA、倍率200k倍、画像積算数4枚の条件でシュリンク量及び測定再現性を評価したところ、シュリンク量が2.2nm測定再現性が0.6nmといった結果を得た。この結果を図2のステップ10の判定条件に照らすと、シュリンク量が評価基準値を超えているため、ドーズ量を減らす条件を設定した。ここでは、測定2に示すように倍率を100k倍に下げて再度測定を実施した。その結果、シュリンク量が0.9nm・測定再現性が1.0nmといった値を得た。子の結果を図2のステップ11の判定条件に照らすと、測定再現性が評価基準値を超えているため、ドーズ量を増やす条件を再設定した。測定3に示すように、画像積算数を増やすことによりドーズ量を増やして測定を実施したところ、シュリンク量が1.4nm、測定再現性が0.7nmという結果を得ることができたため、図3に示す結果を出力して測定を終了した。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明による走査型電子顕微鏡の構成例を示す図。
【図2】測定条件を決定する手順を示すフローチャート。
【図3】測定条件決定の実施例を示す図。
【図4】電子顕微鏡を用いて、ArFレジストを繰り返し測定した測定結果を示す図。
【図5】画像積算数を変更してArFレジストを評価した場合の測定結果を示す図。
【図6】倍率を変更してArFレジストを評価した場合の測定結果を示す図。
【符号の説明】
【0030】
1:鏡体、2:フィラメント、3:1次電子線、4:ウェーネルト、5:アノード、6:コンデンサレンズ、7:対物レンズ、8:試料、9:スティグマコイル、10:アライメントコイル、11:偏向コイル、12:2次電子、13:2次電子検出器、14:画像取り込み装置、15:画像保存装置、16:モニタ、17:寸法測定装置、18:データ保存装置、19:データ演算装置、20:コンピュータ、21:マウス、22:ステージ、23:プリンタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線照射によって形状が変化する試料を、電子顕微鏡を用いて測定する際の測定条件決定方法において、
試料上の同一箇所に対して同じ測定条件で所定回数の測定を行うステップと、
測定値の変化量が予め設定された基準値を満たしているかどうかを判定する第1の判定ステップと、
測定再現性が予め設定された基準値を満たしているかどうかを判定する第2の判定ステップとを有し、
前記第1の判定で測定値の変化量が予め設定された基準値を満たしていない場合には、試料上の新しい測定箇所に移動し、ドーズ量を少なくするように測定条件を変更して前記ステップを反復し、
前記第2の判定で測定再現性が予め設定された基準値を満たしていない場合には、試料上の新しい測定箇所に移動し、ドーズ量を多くするように測定条件を変更して前記ステップを反復して、
測定値の変化量及び測定再現性が前記予め設定された基準値を満たす測定条件を探索することを特徴とする測定条件決定方法。
【請求項2】
請求項1記載の測定条件決定方法において、測定条件の変更は、電子線の加速電圧、倍率、試料照射電流、画像積算数の少なくとも1つを変更することによって行うことを特徴とする測定条件決定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−170924(P2006−170924A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−367015(P2004−367015)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】