説明

電極カテーテル

【課題】リング状電極とコネクタの端子との間の配線操作が容易で生産性に優れ、導線の破断を防止でき、ルーメンにおいて導線を引き通すための空間を必要としない電極カテーテルを提供すること。
【解決手段】カテーテルチューブ10と、制御ハンドル20と、コネクタ70と、リング状電極32と、チューブ10の管壁内に配置されたFPC基板40とを備えてなり;FPC基板40は、チューブ10の管壁内に延びる長尺フィルム部41と、拡幅フィルム42部と、拡幅フィルム42部の上に形成された接点層43と、長尺フィルム部41上に形成された導線層44とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チューブ部材の先端領域の外周面にリング状電極が固定されてなる電極カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、心臓の不整脈を診断または治療するための電極カテーテルとして、カテーテルの面内でたわむ先端部分を有するものが紹介されている(特許文献1参照)。
この電極カテーテルは、図8に示すように、カテーテル本体110と、制御ハンドル116と、カテーテル先端部分114と、複数のリング状電極140と、先端電極138と、コネクタ118とを備えている。また、この電極カテーテルの内部にはカテーテル先端部分114を面内で撓ませるための引張ワイヤおよびたわみ構造体(板バネ)が配置されている。
【0003】
図9は、図8に示した電極カテーテルのカテーテル先端部分114を示す断面図であり、同図において、120はカテーテル先端部分114の管壁に形成された側孔、117はたわみ構造体(断面が矩形の板)、130は導線、126および127はルーメン、129は注入管である。
【0004】
先端電極138およびリング状電極140は、それぞれ、別個の導線130に接続されている。これらの導線130は金属芯線を樹脂被覆してなる。リング状電極140に接続されている導線130は、それぞれの先端部分において、リング状電極140の内周面にスポット溶接されるとともに、カテーテル先端部分114の管壁に形成された側孔120からルーメン126に進入し、このルーメン126、カテーテル本体110のルーメンおよび制御ハンドル116の内孔に延在し、それぞれの後端部分においてコネクタ118に接続されている。
【0005】
リング状電極140をカテーテル先端部分114に装着する方法としては、カテーテル先端部分114の管壁に形成された側孔120に導線130を通してルーメン126に挿入すると共に、導線130の先端部分の被覆樹脂を剥離して露出させた金属芯線をリング状電極138の内周面にスポット溶接し、次に、このリング状電極138をカテーテル先端部分114の外周に摺動可能に嵌合し、側孔120の開口を塞ぐことのできる位置まで、カテーテル先端部分114の軸方向に沿って摺動(スライド)させ、当該位置においてポリウレタン接着剤などを用いて固定する方法が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−255401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記の特許文献1で紹介されたものを含めて従来公知の電極カテーテルには、下記のような問題がある。
カテーテルのルーメンに導線を引き通す操作は煩雑であり、この操作中に、導線が破断(断線)してしまうことがある。
また、リング状電極の内周面に対し導線の先端部分を溶接する操作も煩雑であり、また、溶接(スポット溶接)によって十分な接合強度を確保することができない場合があり、リング状電極から導線が外れてしまうことがある。
更に、カテーテルのルーメンには、先端偏向操作のための偏向機構(引張ワイヤおよび板バネ)などが配置されており、導線を引き通すための十分な空間を確保することができない。特に、多数の電極が装着されている電極カテーテルにおいて、これらの電極の各々に接続された多数の導線を狭いルーメンに引き通すことはきわめて困難である。
また、ルーメン内に引き通した導線が引張ワイヤなどで擦られることによって損傷し、当該導線が破断することがある。
【0008】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものである。
本発明の第1の目的は、リング状電極とコネクタの端子とを電気的に接続するための配線操作を容易に行うことができ、生産性に優れた電極カテーテルを提供することにある。 本発明の第2の目的は、リング状電極とコネクタの端子とを電気的に接続する導線の破断を防止することができる電極カテーテルを提供することにある。
本発明の第3の目的は、リング状電極に対する導線の接合強度が高い電極カテーテルを提供することにある。
本発明の第4の目的は、ルーメンにおいて導線を引き通すための空間を必要とせず、ルーメンを有効に利用することができる電極カテーテルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の電極カテーテルは、絶縁性のチューブ部材と、
前記チューブ部材の基端側に接続された制御ハンドルと、
前記制御ハンドルに固定され、前記制御ハンドル内において端子を有するコネクタと、 前記チューブ部材の先端領域の外周面に固定されたリング状電極と、
前記チューブ部材の管壁内に配置されたFPC基板とを備えてなり;
前記FPC基板は、前記チューブ部材の管壁内を管軸方向に延びる長尺フィルム部と、 前記チューブ部材の円周方向に延び、前記リング状電極の固定位置において前記チューブ部材に巻き付けられた拡幅フィルム部と、
前記拡幅フィルム部上に形成された金属箔からなり、前記リング状電極の内周面が固着される接点層と、
前記長尺フィルム部上に形成された金属箔からなり、その先端が前記接点層に接続され、前記チューブ部材の管壁内を管軸方向に延びて、その後端が前記コネクタの端子と電気的に接続される導線層と
を有していることを特徴とする。
【0010】
(2)本発明の電極カテーテルにおいて、絶縁性のチューブ部材と、
前記チューブ部材の基端側に接続された制御ハンドルと、
前記制御ハンドルに固定され、前記制御ハンドル内において複数の端子を有するコネクタと、
前記チューブ部材の先端領域の外周面に各々が離間して固定された複数のリング状電極と、
前記チューブ部材の管壁内に配置されたFPC基板とを備えてなり;
前記FPC基板は、前記チューブ部材の管壁内を管軸方向に延びる長尺フィルム部と、 前記チューブ部材の円周方向に延び、前記リング状電極の各々の固定位置において前記チューブ部材に巻き付けられた複数の拡幅フィルム部と、
前記拡幅フィルム部の各々の上に形成された金属箔からなり、前記リング状電極の各々の内周面が固着される複数の接点層と、
前記長尺フィルム部上に形成された金属箔からなり、各々の先端が前記接点層の各々に接続され、前記チューブ部材の管壁内を互いに絶縁された状態で管軸方向に延び、各々の後端が前記コネクタの端子の各々と電気的に接続される複数の導線層と
を有していることが好ましい。
【0011】
上記のような構成の電極カテーテルによれば、カテーテルのルーメンに導線を引き通したり、リング状電極の内周面に導線の先端部分を溶接したりする煩雑な操作を行う必要がないので、リング状電極とコネクタの端子とを電気的に接続するための配線操作を容易に行うことができる。
また、FPC基板の導線層は、長尺フィルム部上に形成された金属箔からなるので破断されにくい。従って、本発明の電極カテーテルの製造時および使用時において、この導線層が破断(断線)することを防止することができる。
また、拡幅フィルム部上に形成された金属箔からなる接点層を介して、リング状電極と導線層とが接続されているので、両者の接合面積を十分に確保することができ、リング状電極に対する導線層の接合強度を高くすることができる。
また、FPC基板を構成する導線層が、チューブ部材の管壁内に延びていて、リング状電極に接続された導線をチューブ部材のルーメンに引き通す必要はないので、チューブ部材のルーメン(空間)を有効に利用することができる。
【0012】
(3)本発明の電極カテーテルにおいて、前記チューブ部材は、内管部(内層)と外管部(外層)とにより構成され、
前記FPC基板は、前記内管部と前記外管部との間に配置され、
前記外管部の壁材の一部が除去されて露出した前記FPC基板の接点層に、前記リング状電極の内周面が固着されることにより、前記リング状電極が前記チューブ部材の先端領域の外周面に固定されていることが好ましい。
【0013】
このような構成によれば、FPC基板の導線層をチューブ部材の管壁内に延在させることができるとともに、FPC基板の接点層に対してリング状電極の内周面を確実に固着させることができる。
【0014】
(4)複数のリング状電極を備えた本発明の電極カテーテルにおいて、前記FPC基板は、前記制御ハンドルの内部において、前記チューブ部材の管壁内から延び出し、前記FPC基板の導線層の各々の後端は、前記コネクタの端子の各々と電気的に接続されていることが好ましい。
【0015】
このような構成によれば、リング状電極とコネクタの端子とを接続するための配線操作を更に容易に行うことができる。
また、制御ハンドルの内部空間を有効に利用することができる。
【0016】
(5)この場合において、前記コネクタの端子の各々に接続された金属箔からなる複数の導線層を有するコネクタ側FPC基板を備えてなり、
前記チューブ部材の管壁内から延び出した前記FPC基板と、前記コネクタ側FPC基板とを介して、前記リング状電極の各々と、前記コネクタの端子の各々とが電気的に接続されていることが好ましい。
【0017】
(6)また、前記チューブ部材の管壁内から延び出した前記FPC基板と、前記コネクタ側FPC基板とが、雄雌コネクタを介して連結されていることが好ましい。
【0018】
上記のような構成によれば、FPC基板の導線層の各々と、コネクタの端子の各々とを接続する煩雑な工程を回避することができる。
【0019】
(7)複数のリング状電極を備えた本発明の電極カテーテルにおいて、前記FPC基板において先端からn番目(但し、nは2以上の整数である)に位置する前記接点層が、少なくとも、先端から(n−1)番目に位置する前記接点層に接続された前記導線層によって分断されていることが好ましい。
【0020】
このようなパターン構成により、複数のリング状電極相互間の絶縁状態を確保することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の電極カテーテルによれば、リング状電極とコネクタの端子とを接続するための配線操作を容易に行うことができ、その生産性に優れている。
本発明の電極カテーテルによれば、リング状電極とコネクタの端子とを接続する導線(導線層)の破断(断線)を防止することができる。
本発明の電極カテーテルによれば、リング状電極に対する導線(導線層)の接合強度を高くすることができ、リング状電極から導線(導線層)が外れてしまうこと防止することができる。
本発明の電極カテーテルによれば、従来の電極カテーテルのように、ルーメンに導線を引き通す必要がないので、カテーテルチューブのルーメンを有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係る電極カテーテルを示す斜視図である。
【図2A】図1に示した電極カテーテルの先端部を示す縦断面図である。
【図2B】図1に示した電極カテーテルの先端部を示す縦断面図であり、偏向機構の図示を省略している。
【図3A】図2Bの IIIA− IIIA断面図である。
【図3B】図2Bの IIIB− IIIB断面図である。
【図3C】図2Bの IIIC− IIIC断面図である。
【図4】図1に示した電極カテーテルの基端部を示す縦断面図である。
【図5】図1に示した電極カテーテルを構成するFPC基板を示す説明図である。
【図6】図1に示した電極カテーテルの製造方法(リング状電極の装着工程)の一例を示す説明図である。
【図7】図1に示した電極カテーテルの製造方法の他の例を示す説明図である。
【図8】従来の電極カテーテルを示す斜視図である。
【図9】図8に示した電極カテーテルの先端部を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の電極カテーテルについて図面を用いて説明する。
<実施形態>
図1〜図4に示す本実施形態の電極カテーテル100は、例えば、心臓における不整脈の診断または治療に用いられるものである。
【0024】
本実施形態の電極カテーテル100は、内管部10A(内層)および外管部10B(外層)により構成されたカテーテルチューブ10(チューブ部材)と、カテーテルチューブ10の基端側に接続された制御ハンドル20と、制御ハンドル20の基端側に固定され、この制御ハンドル20内において複数の端子を有するコネクタ70と、カテーテルチューブ10の先端に固定された先端電極31と、先端電極31に接続された導線46と、カテーテルチューブ10の先端領域の外周面に各々が離間して固定された4個のリング状電極32と、リング状電極32の各々とコネクタ70の端子の各々とを電気的に接続するために、カテーテルチューブ10の管壁内(内管部10Aと外管部10Bとの間)に配置(埋設)されるとともに、制御ハンドル20の内部において、カテーテルチューブ10の管壁内から延び出しているFPC基板40と、カテーテルチューブ10の先端部分におけるルーメンに延在する板バネ55と、カテーテルチューブ10の中心軸から偏心してルーメンに延在し、その後端が引張可能である引張ワイヤ50と、コネクタ70の端子の各々に接続された金属箔からなる4本の導線層84を有するコネクタ側FPC基板80とを備えてなる。
【0025】
本実施形態の電極カテーテル100を構成するFPC基板40は、カテーテルチューブ10の管壁内を管軸方向に延びる長尺フィルム部41と、カテーテルチューブ10の円周方向に延び、リング状電極32の各々の固定位置においてカテーテルチューブ10(内管部10A)に巻き付けられた4つの拡幅フィルム部42と、拡幅フィルム部42の各々の上に形成された金属箔からなり、リング状電極32の内周面が固着される4つの接点層43と、長尺フィルム部41上に形成された金属箔からなり、各々の先端が接点層43の各々に接続され、カテーテルチューブ10の管壁内を互いに絶縁された状態で管軸方向に延び、各々の後端がコネクタ70の端子の各々と電気的に接続される4本の導線層44とを有し、
FPC基板40(導線層44)と、コネクタ側FPC基板80(導線層84)とを介して、リング状電極32の各々と、コネクタ70の端子の各々とが電気的に接続されている。
【0026】
カテーテルチューブ10は、内管部10A(内層)および外管部10B(外層)により構成されたシングルルーメン構造のチューブである。
カテーテルチューブ10(内管部10Aおよび外管部10B)は管軸方向に沿って同じ特性のチューブで構成してもよいが、比較的可撓性に優れた先端部分と、先端部分に対して管軸方向に一体に形成され、先端部分よりも比較的に剛性のある基端部分とを有していることが好ましい。
カテーテルチューブ10(内管部10Aおよび外管部10B)の構成材料としては、例えばポリオレフィン、ポリアミド、ポリエーテルポリアミド、ポリウレタンなどの合成樹脂を挙げることができる。
【0027】
カテーテルチューブ10(外管部10B)の外径は、通常0.6〜3.0mmとされ、好ましくは1.3〜3.0mmとされる。
カテーテルチューブ10(内管部10A)の内径は、通常0.5〜2.5mmとされ、好ましくは1.0〜1.5mmとされる。
カテーテルチューブ10の長さは、通常400〜1500mmとされ、好ましくは700〜1200mmとされる。
【0028】
カテーテルチューブ10の先端部分は、引張ワイヤ50を引っ張ることによって撓む(曲がる)ことができる。可撓性のある先端部分の長さは、例えば30〜200mmとされる。
【0029】
カテーテルチューブ10の基端側には制御ハンドル20が接続されている。
図1において、21はグリップ、22はノブである。
制御ハンドル20のノブ22を、図1に示すX方向(先端側または後端側)にスライドさせることにより、引張ワイヤ50の後端が引っ張られ、カテーテルチューブ10の先端部分を図1に示すA方向に撓ませることができる。また、制御ハンドル20を回転させることにより、その回転トルクをカテーテルチューブ10に伝達することができる。
従って、制御ハンドル20を操作することにより、カテーテルチューブ10の先端部分を目的部位に誘導することができる。
【0030】
制御ハンドル20の基端側の内部には、複数の端子を有するコネクタ70が配置されている。コネクタ70の端子の各々は、先端電極31およびリング状電極32の各々と電気的に接続される。
【0031】
カテーテルチューブ10の先端には先端電極31が固定されている。
先端電極31は、例えばアルミニウム、銅、ステンレス、金、白金など、電気伝導性の良好な金属で構成される。なお、X線に対する造影性を良好に持たせるためには、白金などで構成されることが好ましい。先端電極31の外径は、特に限定されないが、カテーテルチューブ10の外径と同程度であることが好ましい。
先端電極31の外径は特に限定されないが、カテーテルチューブ10の外径と同程度であることが好ましく、通常0.6〜3mm程度である。
先端電極31には導線46が接続されている。先端電極31に接続された導線46は、金属芯線を樹脂被覆してなり、カテーテルチューブ10のルーメン、制御ハンドル20の内孔に延在し、コネクタ70の端子に接続される。
【0032】
先端電極31の内側凹部には、導線46、板バネ55および引張ワイヤ50を先端電極31に接続固定するためのはんだ60が充填されている。
はんだ60の材質は特に限定されるものではなく、例えばSn−Pbが一般的に用いられるが、Sn−Pb−AgやSn−Pb−Cuが用いられてよく、更にPbフリーのSn−Ag−Cu、Sn−Cu、Sn−Ag、Sn−Ag−Cu−Biなどを用いることができる。
【0033】
カテーテルチューブ10の先端領域の外周面には、4個のリング状電極32が固定されている。
リング状電極32の構成材料としては、先端電極31の構成材料として例示したものと同一の金属を挙げることができ、白金などが好ましい。
リング状電極32の外径は特に限定されないが、カテーテルチューブ10の外径と同程度であることが好ましく、通常0.6〜3mm程度である。
【0034】
本実施形態の電極カテーテル100において、リング状電極32の電極幅(カテーテルチューブ10の管軸方向における長さ)は、電極の目的などによっても異なるが、0.3〜4.0mmとされ、好適な一例を示せば1.0mmである。
【0035】
図2A、図2B、図3A、図3Bおよび図3Cに示すように、カテーテルチューブ10の管壁の内部(内管部10Aと外管部10Bとの間)には、FPC(Flexible Pattern Circuit)基板40が配置(埋設)されている。
FPC基板40は、4個のリング状電極32の各々と、コネクタ70の端子の各々とを電気的に接続するための手段であり、FPC基板40がコネクタ側FPC基板80と連結されることにより、リング状電極32の各々とコネクタ70の端子の各々との電気的接続を確保することができる。
【0036】
図5に示すように、本実施形態の電極カテーテルを構成するFPC基板40は、絶縁性フィルムである長尺フィルム部41および4つの拡幅フィルム部42と、これらの絶縁性フィルム上にパターン形成された接点層43(431〜434)および4本の導線層44とにより構成されている。同図において、45は、FPC基板40の基端側に取り付けられた中間コネクタ(例えば雄コネクタ)である。
【0037】
FPC基板40を構成する長尺フィルム部41は、カテーテルチューブ10の管壁内(内管部10Aと外管部10Bとの間)を管軸方向に延びるよう配置されている。
【0038】
FPC基板40を構成する4つの拡幅フィルム部42は、カテーテルチューブ10の円周方向(長尺フィルム部の延びる方向とは垂直な両方向)に延び、カテーテルチューブ10におけるリング状電極32の各々の固定位置において内管部10Aに巻き付けられている。拡幅フィルム部42の巻き付け角度(図3Aにおけるθ42)としては180〜360°とされ、好ましくは270〜355°とされる。
【0039】
FPC基板40を構成する4つの接点層43は、拡幅フィルム部42(絶縁性フィルム)の各々の上に形成された金属箔(導体箔)からなる。
接点層43の各々には、リング状電極32の内周面が固着されるため、拡幅フィルム部42を内管部10Aに巻き付けるときには、接点層43を、拡幅フィルム部42の外側に位置させる。
カテーテルチューブ10の円周方向における接点層43の形成範囲(図3Aにおけるθ43)としては180〜360°とされ、好ましくは270〜355°とされる。
【0040】
FPC基板40を構成する4本の導線層44は、長尺フィルム部41(絶縁性フィルム)上に形成された線状の金属箔(導体箔)からなる。
4本の導線層44は、各々の先端が接点層43の各々に接続され、カテーテルチューブ10の管壁内(内管部10Aと外管部10Bとの間)を互いに絶縁された状態で管軸方向に延びている。
なお、導線層44が形成されている長尺フィルム部41の表面には、図示しない絶縁性薄膜が形成されており、導線層44の各々は、絶縁性材料によって完全に被覆されている。
【0041】
また、図5に示したように、FPC基板40において、先端から2番目に位置する接点層43(432)は、先端から1番目に位置する接点層43(431)に接続された導線層44により分断され、先端から3番目に位置する接点層43(433)は、先端から1番目および第2番目に位置する接点層43(431,432)に接続された導線層44によって分断され、先端から4番目に位置する接点層43(434)は、先端から1番目乃至第3番目に位置する接点層43(431,432,433)に接続された導線層44によって分断されている。
【0042】
このようなパターン構成によれば、接点層43(431,432,433,434)間の絶縁性、延いては、4個のリング状電極32の相互の絶縁性を確保することができる。なお、接点層43(431,432,433,434)間の絶縁性を確保するためのパターン構成は、図5に示したものに限定されるものではなく、後端側の接点層を避けるように導線層を迂回させるようなパターン構成によっても絶縁性を確保することができる。
【0043】
電極カテーテル100を構成するカテーテルチューブ10は、リング状電極32の各々が固定される部分(内管部10Aの外周に拡幅フィルム部42を巻き付けて接点層43を配置した部分)において、接点層43を被覆する外管部10Bの壁材が除去されている(形成されていない)。
これにより、露出する接点層43に対してリング状電極32の内周面を確実に固着させることができ、カテーテルチューブ10の先端領域の外周面にリング状電極32を確実に固定することができる。
【0044】
カテーテルチューブ10の外周面にリング状電極32を固定する方法としては、例えば図6に示すように、(1)カテーテルチューブ10を構成する内管部10Aを準備し、(2)内管部10Aの外周の所定の位置(リング状電極32の固定位置)に拡幅フィルム部42の各々を巻き付けて、内管部10Aの外周にFPC基板40を配置し、(3)FPC基板40を配置した内管部10Aの外周を外管部10Bで被覆し、(4)FPC基板40の接点層43の各々を被覆している部分の外管部10Bの壁材をレーザなどにより剥離することにより接点層43を露出させ、(5)リング状電極32を、カテーテルチューブ10(内管部10Aおよび外管部10B)に挿入して接点層43の位置までスライドさせ、接点層43と、リング状電極32(内周面)とを固着させる方法を挙げることができる。 接点層43と、リング状電極32(内周面)との固着方法としては、特に限定されるものではないが、はんだによる固着が好適である。この場合において、接点層43の表面にはんだ層を形成し、リング状電極32の外周面から加熱することにより、十分に固着することができる。
【0045】
また、カテーテルチューブ10の外周面にリング状電極32を固定する他の方法として、図7に示すように、(1)カテーテルチューブ10を構成する内管部10Aを準備し、(2)接点層43の各々にリング状電極32(内周面)を予め固着させたFPC基板40を、内管部10Aの外周に配置し、(3)リング状電極32が固着されたFPC基板40を配置した内管部10Aの外周を外管部10Bで被覆した後、(4)リング状電極32の各々を被覆している部分の外管部10Bの壁材をレーザなどで剥離することにより、リング状電極32を露出させる方法を採用することもできる。
【0046】
図4に示すように、カテーテルチューブ10の基端部は、制御ハンドル20の内部に挿入され、これにより、カテーテルチューブ10と制御ハンドル20とが接続されている。そして、カテーテルチューブ10の管壁内に埋設されていたFPC基板40は、カテーテルチューブ10が挿入されている制御ハンドル20の内部において、カテーテルチューブ10の管壁内から基端側に延び出して、制御ハンドル20の内部に延在している。
一方、制御ハンドル20の内部に配置されたコネクタ70にも、FPC基板(コネクタ側FPC基板80)が接続されている。
コネクタ側FPC基板80は、コネクタ70の端子の各々に、各々の基端側が接続された4本の導線層(金属箔)84が絶縁性フィルム上に形成されてなる。
また、コネクタ側FPC基板80の先端側には、中間コネクタ85(例えば雌コネクタ)が取り付けられている。
【0047】
そして、カテーテルチューブ10の管壁内から基端側に延び出したFPC基板40(導線層44の各々)に取り付けられた中間コネクタ45と、コネクタ側FPC基板80(導線層84の各々)に取り付けられた中間コネクタ85とが結合することにより、リング状電極32の各々と、コネクタ70の端子の各々との電気的な接続が確保される。
【0048】
図2Aに示したように、本実施形態の電極カテーテル100は、カテーテルチューブ10の先端領域を撓ませるための偏向機構として、板バネ55および引張ワイヤ50を備えている。
偏向機構を構成する板バネ55は、撓み方向に変形可能な首振り部材である。
板バネ55は、カテーテルチューブ10の中心軸に沿って、カテーテルチューブ10の先端部分におけるルーメンに延在し、その先端は、内側凹部に充填したはんだ60によって先端電極31に固定されている。
板バネ55の軸方向長さは、特に限定されず、例えば40〜300mmである。板バネ55の幅は、カテーテルチューブ10の内部に収まる程度であれば特に限定されるものではない。
板バネ55の材質も特に限定されず、例えばステンレス、Ni−Ti合金、Co−Ni合金などの金属材料、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂などの高分子材料などを挙げることができる。
【0049】
また、偏向機構を構成する引張ワイヤ50は、カテーテルチューブ10の中心軸から偏心し、かつ、カテーテルチューブ10のルーメンにおいて管軸方向に移動自在に延在している。引張ワイヤ50の先端は、内側凹部に充填されたはんだ60によって先端電極31に固定されている。なお、引張ワイヤ50の先端は板バネ55の先端部に固定されていてもよい。
引張ワイヤ50の後端は、制御ハンドル20の内部に固定され、引張可能となっている。
引張ワイヤ50は、例えばステンレスやNi−Ti系超弾性合金製などの金属で構成することができるが、必ずしも金属で構成する必要はなく、例えば、高強度の非導電性ワイヤなどで構成してもよい。引張ワイヤを非導電性ワイヤで構成することにより、高周波ノイズの原因を低減することができる。
【0050】
オペレータが制御ハンドル20のノブ22をX方向(先端側または後端側)にスライドさせると、制御ハンドル20内の図示しないピストン機構によって、カテーテルチューブ10に対して引張ワイヤ50の後端が引っ張られる。これにより、カテーテルチューブ10の先端部分を撓ませることができる。
なお、偏向機構は、このようなものに限定されるものではないことは勿論である。
【0051】
本実施形態の電極カテーテル100によれば、カテーテルチューブ10の管壁内に配置され、制御ハンドル20の内部において、カテーテルチューブ10の管壁内から基端側に延び出しているFPC基板40(接点層43および導線層44)と、コネクタ側FPC基板80(導線層84)とを介して、リング状電極32の各々と、コネクタ70の端子の各々とが電気的に接続されているので、電極カテーテル100を製造する際に、カテーテルチューブのルーメンに導線を引き通したり、リング状電極の内周面に導線の先端部を溶接したりする煩雑な操作を行う必要がなく、リング状電極32の各々とコネクタ70の端子の各々とを接続するための配線操作を容易に行うことができ、生産性に優れている。
【0052】
また、FPC基板40を構成する導線層44は、長尺フィルム部41(絶縁性フィルム)上に形成された金属箔からなるので、従来の電極カテーテルで使用していた導線と比較して破断強度が格段に高く、かつ、長尺フィルム部41とともにカテーテルチューブ10の管壁内に埋設されているので、本実施形態の電極カテーテル100の製造時および使用時において、導線層44が破断(断線)することはない。
さらに、導線を使用していた従来の電極カテーテルでは、導線同士の絡みや擦れによる磨耗、各導線のキンクなどの問題があったが、絶縁性フィルム上に導線がプリントされてなるFPC基板40を使用する本実施形態の電極カテーテル100によれば、そのような問題が起こる虞はない。
【0053】
また、拡幅フィルム部42上に形成された金属箔からなる接点層43を介して、リング状電極32と導線層44とが接合されているので、両者の接合面積を十分に確保することができ、リング状電極32に対する導線(導線層44)の接合強度を高くすることができる。この結果、リング状電極32から導線(導線層44)が外れてしまうようなことはない。
【0054】
また、FPC基板40の導線層44が、カテーテルチューブ10の管壁内に延びていて、カテーテルチューブ10のルーメンに引き通される導線は、先端電極31に接続された導線46のみであるので、カテーテルチューブ10のルーメン(空間)を有効に利用することができる。
【0055】
また、制御ハンドル20の内部において、カテーテルチューブ10の管壁内から延び出したFPC基板40と、コネクタ側FPC基板80とが配置され、FPC基板40(導線層44の各々の基端)と、コネクタ側FPC基板80(導線層84の各々の先端)とが、中間コネクタ45および中間コネクタ85とを介して結合されていることにより、FPC基板40の導線層44の各々と、コネクタ70の端子の各々とを導線などで接続する工程を回避することができ、配線操作の更なる容易化を図ることができ、また、制御ハンドル20の内部空間を有効に利用することができる。
【0056】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の電極カテーテルは、これらに限定されるものでなく、種々の偏向が可能である。
例えば、リング状電極の数としては、4個に限定されるものではないことは勿論であり、カテーテルの種類に応じて適宜設定することができる。ここに、リング状電極の数としては、例えば1〜20とされ、好ましくは4〜19とされる。
なお、リング状電極の数が多くなる場合には、FPC基板を複数使用することも可能である。
【符号の説明】
【0057】
10 カテーテルチューブ
10A 内管部
10B 外管部
20 制御ハンドル
21 グリップ
22 ノブ
31 先端電極
32 リング状電極
40 FPC基板
41 長尺フィルム部
42 拡幅フィルム部
43 接点層
44 導線層
45 中間コネクタ
46 導線
50 引張ワイヤ
55 板バネ
60 はんだ
70 コネクタ
80 コネクタ側FPC基板 84 導線層
85 中間コネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性のチューブ部材と、
前記チューブ部材の基端側に接続された制御ハンドルと、
前記制御ハンドルに固定され、前記制御ハンドル内において端子を有するコネクタと、 前記チューブ部材の先端領域の外周面に固定されたリング状電極と、
前記チューブ部材の管壁内に配置されたFPC基板とを備えてなり;
前記FPC基板は、前記チューブ部材の管壁内を管軸方向に延びる長尺フィルム部と、 前記チューブ部材の円周方向に延び、前記リング状電極の固定位置において前記チューブ部材に巻き付けられた拡幅フィルム部と、
前記拡幅フィルム部上に形成された金属箔からなり、前記リング状電極の内周面が固着される接点層と、
前記長尺フィルム部上に形成された金属箔からなり、その先端が前記接点層に接続され、前記チューブ部材の管壁内を管軸方向に延びて、その後端が前記コネクタの端子と電気的に接続される導線層と
を有していることを特徴とする電極カテーテル。
【請求項2】
絶縁性のチューブ部材と、
前記チューブ部材の基端側に接続された制御ハンドルと、
前記制御ハンドルに固定され、前記制御ハンドル内において複数の端子を有するコネクタと、
前記チューブ部材の先端領域の外周面に各々が離間して固定された複数のリング状電極と、
前記チューブ部材の管壁内に配置されたFPC基板とを備えてなり;
前記FPC基板は、前記チューブ部材の管壁内を管軸方向に延びる長尺フィルム部と、 前記チューブ部材の円周方向に延び、前記リング状電極の各々の固定位置において前記チューブ部材に巻き付けられた複数の拡幅フィルム部と、
前記拡幅フィルム部の各々の上に形成された金属箔からなり、前記リング状電極の各々の内周面が固着される複数の接点層と、
前記長尺フィルム部上に形成された金属箔からなり、各々の先端が前記接点層の各々に接続され、前記チューブ部材の管壁内を互いに絶縁された状態で管軸方向に延び、各々の後端が前記コネクタの端子の各々と電気的に接続される複数の導線層と
を有していることを特徴とする請求項1に記載の電極カテーテル。
【請求項3】
前記チューブ部材は、内管部と外管部とにより構成され、
前記FPC基板は、前記内管部と前記外管部との間に配置され、
前記外管部の壁材の一部が除去されて露出した前記FPC基板の接点層に、前記リング状電極の内周面が固着されることにより、前記リング状電極が前記チューブ部材の先端領域の外周面に固定されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の電極カテーテル。
【請求項4】
前記FPC基板は、前記制御ハンドルの内部において、前記チューブ部材の管壁内から延び出し、前記FPC基板の導線層の各々の後端は、前記コネクタの端子の各々と電気的に接続されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の電極カテーテル。
【請求項5】
前記コネクタの端子の各々に接続された金属箔からなる複数の導線層を有するコネクタ側FPC基板を備えてなり、
前記チューブ部材の管壁内から延び出した前記FPC基板と、前記コネクタ側FPC基板とを介して、前記リング状電極の各々と、前記コネクタの端子の各々とが電気的に接続されていることを特徴とする請求項4に記載の電極カテーテル。
【請求項6】
前記チューブ部材の管壁内から延び出した前記FPC基板と、前記コネクタ側FPC基板とが、雄雌コネクタを介して連結されていることを特徴とする請求項5に記載の電極カテーテル。
【請求項7】
前記FPC基板において先端からn番目(但し、nは2以上の整数である)に位置する前記接点層が、少なくとも、先端から(n−1)番目に位置する前記接点層に接続された前記導線層によって分断されていることを特徴とする請求項2乃至請求項6の何れかに記載の電極カテーテル。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−192005(P2012−192005A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57079(P2011−57079)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(594170727)日本ライフライン株式会社 (83)
【Fターム(参考)】