説明

電極基体の回収方法

【課題】不溶性金属電極を構成する電極基体と不溶性電極物質被覆とを、前記電極基体に損傷を与えることなく分離して回収する方法の提供。
【解決手段】チタニウム及び/チタニウム合金で形成されたなる電極基体と白金、パラジウムイリジウム等の金属及び/又は該金属の酸化物を含む不溶性電極物質被覆とからなる不溶性金属電極を、フッ化カリウム等のアルカリフッ化物と硫酸カリウム等の無機酸塩を含有する混合水溶液に接触させることからなる電極基体に損傷を与える事なく回収する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極基体の回収方法に関し、更に詳しくはめっき及び電気分解等に使用される不溶性金属電極から、不溶性金属の残渣がなく、しかも損耗量の殆どないように、電極基体を回収する電極基体の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
めっき及び電気分解等に使用される不溶性金属電極は、電極基体とその表面に形成された不溶性電極物質被覆とを有する。前記不溶性金属電極は主として工業的電気分解の分野で広汎に使用されている。一般に、前記不溶性金属電極は、使用中に前記不溶性電極物質被覆が徐々に消耗あるいは劣化して、平均して2〜3年、長くても10年、短いときは1年で、必要とされる前記不溶性金属電極としての性能を維持することができなくなり、新しい前記不溶性金属電極と交換される。
【0003】
このようにして新品と交換された使用済みの前記不溶性金属電極の前記不溶性電極物質被覆には尚相当量の高価な貴金属成分が不溶性電極物質として含まれており、前記不溶性電極物質被覆を形成する前記不溶性電極物質を使用済の前記不溶性金属電極を構成する前記電極基体から分離して回収したのち、前記不溶性電極物質被覆の成分として再利用することは、工業上重要である。
また、前記電極基体の代表的な素材である金属チタニウムは、その化学的安定性と軽量の故に、従来の電気化学的用途である不溶性金属分野にとどまらず、近年においては航空機、医療機器、装飾品の各分野にもその用途が拡大しつつあり、金属資源として希少化しつつある。かかる状況下で、前記不溶性金属電極を構成する前記不溶性電極物質を前記電極基体から分離して回収したあとに残された前記電極基体をできるだけそのまま加工をすることなしに、新たな前記不溶性金属電極を構成する前記電極基体として再生利用することは、工業上非常に有意義である。
【0004】
従来、かかる使用済みの前記不溶性金属電極を構成する前記不溶性電極物質被覆と前記電極基体とを分離するための方法が種々提案されている。
まず、物理的な方法として、機械的研削、ブラスト等の研削により前記不溶性金属電極を構成する前記不溶性電極物質被覆と前記電極基体とを分離する方法が知られている。
また、化学的方法として、特許文献1には、前記不溶性金属電極に塗布した苛性アルカリを加熱溶融したのち、塩酸等の無機酸に浸漬することを特徴とする前記電極基体と前記不溶性電極物質被覆とを分離して回収する方法が開示されている。
さらに、別の化学的方法として、特許文献2には、前記電極基体をルテニウム等により被覆してなる前記不溶性金属電極を、酸化剤をふくむアルカリ金属水酸化物溶融塩に浸漬等させることを特徴とする前記不溶性電極物質被覆を前記電極基体から剥離する方法が開示されている。
【0005】
しかし、上記研削等による物理的方法は前記不溶性金属電極の前記電極基体に与える損傷が大きいため、前記不溶性電極物質被覆から分離されたあとの前記電極基体をそのまま再使用することはできず、また、研削に用いる研磨材と前記不溶性電極物質被覆に含まれる貴金属成分とを分離することが困難という問題もあった。特に、前記不溶性金属電極の形状が、網目状、円筒状、あるいは突起を有する形状のような複雑なものであるときは、かかる研削による前記電極基体と前記不溶性電極物質被覆との分離は、一層困難となる。
【0006】
この点、前記化学的方法は、前記物理的方法に比して比較的前記電極基体に与える損傷は軽微であるが、特許文献1に記載の方法における、高温度下で強アルカリ性の苛性ソーダをとりあつかう工程は、その作業性および安全性の確保に特別の注意を払う必要があるという問題がある。また、特許文献2に記載の方法は、その用いられるアルカリ金属水酸化物の溶融温度である350〜600℃の高温下で使用可能な大型の溶融溶解炉が必要とされ、かかる溶解炉の管理、維持が容易でないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−81837号公報
【特許文献2】特開昭59−123730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、温和な条件下で、かつ簡単な設備により、使用済み前記不溶性金属電極から、前記電極基体に損傷を与えることなく、前記電極基体と前記不溶性電極物質被覆とを分離して前記電極基体を回収することのできる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記課題を解決するための手段は、
(1)電極基体と、その表面に形成されると共に、不溶性電極物質を含有する不溶性電極物質被覆とを有する不溶性金属電極を、アルカリフッ化物と無機酸塩との混合水溶液に接触させることを特徴とする電極基体の回収方法であり、
(2)前記電極基体がチタニウム及び/又はチタニウム合金で形成されてなることを特徴とする(1)に記載の電極基体の回収方法であり、
(3)前記不溶性電極物質が、貴金属及び/又は貴金属酸化物であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の電極基体の回収方法であり、
(4)前記アルカリフッ化物が、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、及びフッ化アンモニウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であることを特徴とする(1)から(3)までのいずれか一つに記載の電極基体の回収方法であり、
(5)前記混合水溶液中の前記アルカリフッ化物の濃度が、0.3質量%以上でかつ30質量%以下の範囲であることを特徴とする(1)から(4)までのいずれか一つに記載の電極基体の回収方法であり、
(6)前記無機酸塩が、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸アンモニウム、アミド硫酸カリウム、アミド硫酸ナトリウム、及びアミド硫酸アンモニウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であることを特徴とする(1)から(5)までのいずれか一つに記載の電極基体の回収方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、取り扱いの容易な塩の水溶液を用いて、安全かつ簡単な設備により使用済み前記不溶性金属電極を構成する前記電極基体と前記不溶性電極物質被覆とを容易に分離して前記電極基体を回収することができ、回収された前記電極基体はそのまま前記不溶性金属電極の前記電極基体として再利用することができ、同じく回収された前記電極性物質被覆からも既存の方法により前記不溶性電極物質を回収して再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、使用済み前記不溶性金属電極の写真である。
【図2】図2は、本発明の方法により分離して回収された金属(チタニウム)基体の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における前記不溶性金属電極は、前記電極基体の表面に、前記不溶性電極物質を含有する不溶性電極物質被覆が形成されたものである。
【0013】
ここで、前記電極基体の素材は、特に制限はなく、金属チタニウム、金属タンタル、金属ニオブ、及び金属ジルコニウムを例としてあげることができるが、化学的安定性及び軽量性の観点から金属チタニウムが好ましい。かかる前記金属チタニウムには、金属チタニウム単体のほか、必要に応じて本発明の奏する効果を損なわない程度に他の成分が含まれていても良く、特に、チタニウム合金を素材とする前記電極基体を有する前記不溶性電極についても本発明の回収法を適用することができる。
【0014】
本発明の前記不溶性電極物質被覆には前記不溶性電極物質として、例えば、白金、パラジウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム、及びロジウム等の貴金属、並びに前記貴金属の酸化物からなる群から選ばれる1以上の前記貴金属または前記貴金属酸化物が含有されている。
【0015】
また、前記不溶性電極物質被覆には、前記貴金属及び貴金属酸化物以外にも、前記不溶性金属電極としての性能を向上させる目的で、例えば、タンタル、チタニウム、ニオブ、レニウム、モリブデン、タングステン、及びケイ素、並びにこれらの酸化物からなる群から選らばれる1以上の物質が含有されていてもよい。
【0016】
前記不溶性金属電極は、前記電極基体の表面に、前記不溶性電極物質からなる前記不溶性電極被覆を、例えば、刷毛塗り、スプレー、浸漬、またはローラー刷毛塗り等の既存の手法により形成することで得られるものである。前記既存の手法として、溶射法またはスパッタリング法を用いて前記不溶性電極物質被覆が形成された前記不溶性金属電極についても本発明の回収法を適用することができる。
【0017】
本発明に用いられる前記アルカリフッ化物は、アルカリ金属の水酸化物およびアンモニア水とフッ酸との反応により得られる塩であり、例えば、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウムのほかフッ化アンモニウムを挙げることができる。この中でも、取り扱い易さの観点から、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、およびフッ化アンモニウムが、好適に用いられ、特に、前記不溶性金属電極の前記電極基体の素材として金属チタニウムが用いられている場合、より効果的に、前記不溶性電極性物質被覆と前記電極基体とを分離させることができる、フッ化ナトリウムおよびフッ化カリウムが更に好適に用いられる。
本発明では、前記列挙されたアルカリフッ化物からなる群より選ばれる1以上の前記アルカリフッ化物を用いることができる。
【0018】
本発明に用いられる前記無機酸塩は、塩酸、硝酸、硫酸、及びアミド硫酸とアルカリ金属の水酸化物またはアンモニア水との反応により得られる塩であり、例えば塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化アンモニウム、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸アンモニウム、硫酸カリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸アンモニウム、アミド硫酸カリウム、アミド硫酸ナトリウム、アミド硫酸アンモニウムを用いることができる。この中でも、前記アルカリフッ化物の不溶性金属に対する腐食作用を緩和する効果が高い硫酸根及びアミド硫酸根を有するため、より温和な条件で本発明の方法を実施できる硫酸塩、硫酸水素塩、及びアミド硫酸塩が好ましく、この中でも、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸アンモニウム、アミド硫酸カリウム、アミド硫酸ナトリウム、及びアミド硫酸アンモニウムがより好ましい。
本発明では、前記列挙された無機酸塩からなる群より選ばれる1以上の前記無機酸塩を用いることができる。
【0019】
本発明の前記混合水溶液は、前記アルカリフッ化物及び前記無機酸塩を溶質とする水溶液である。本発明の電極基体の回収法において、前記無機酸塩のみを溶質とする水溶液を用いた場合、当該水溶液と前記不溶金属電極を接触させても前記電極基材と前記不溶性電極物質との分離が進まず、前記電極基体を回収することが困難となる。また、前記アルカリフッ化物のみを溶質とする水溶液を用いたときは、当該水溶液と前記不溶性金属電極を接触させたときの前記電極基体の損傷が激しく、回収された前記電極基体をそのまま再利用することが困難となる。
前記混合水溶液は、前記アルカリフッ化物と前記無機酸塩とを既存の手法により所定の濃度になるよう水に溶解させることにより調製することができる。
【0020】
前記アルカリフッ化物の前記混合水溶液中における濃度は、用いられる前記アルカリフッ化物の溶解度以下であれば特に制限はなく、用いられる前記アルカリフッ化物の種類、前記不溶性金属電極の形状、前記不溶性電極物質の組成に応じて適宜決定することができる。一般に、前記混合水溶液中における前記アルカリフッ化物の濃度が低いほど使用済の前記不溶性金属電極を長時間前記混合水溶液に接触させる必要がある。前記接触時間の短縮化の観点から、前記混合水溶液中における前記アルカリフッ化物の濃度は、0.3質量%以上でかつ30質量%以下の範囲が好ましく、さらに好ましくは、0.5質量%以上でかつ10質量%以下の範囲である。
【0021】
前記無機酸塩の前記混合水溶液中における濃度は、用いられる前記無機酸塩の溶解度以下であれば特に制限はなく、用いられる前記無機酸塩の種類、前記不溶性金属電極の形状、前記不溶性電極物質の組成、前記アルカリフッ化物の種類および濃度に応じて適宜決定することができる。一般に、前記混合水溶液中における前記無機酸塩の濃度が低いほど前記不溶性金属電極を前記混合水溶液に接触させたときに、前記電極基体が損傷を受け易くなる。前記電極基体の損傷の抑制の観点から、前記混合水溶液中における前記無機酸塩の濃度は、0.5質量%以上でかつ20質量%以下の範囲が好ましく、更に好ましくは、0.8質量%以上でかつ10質量%以下の範囲である。
【0022】
本発明において使用済みの不溶性金属電極を接触させる前記混合水溶液の温度は、前記混合水溶液の凝固点以上でかつ沸点以下であれば特に制限はなく、用いられる前記不溶性金属電極の形状、前記電極物質の組成、前記アルカリフッ化物の種類および濃度、前記無機酸塩の種類および濃度に応じて適宜決定することができる。一般に、前記混合水溶液の温度が低いほど使用済の前記不溶性金属電極を長時間前記混合水溶液に接触させる必要がある。一方、前記混合水溶液の温度が高すぎると前記混合水溶液の取り扱いが困難となり、前記不溶性金属電極を構成する前記電極基体と前記不溶性電極物質被覆との分離及び回収の作業性が悪化する。前記浸漬時間の短縮化および作業性の観点から、前記混合水溶液の温度は、10℃以上でかつ70℃以下の範囲が好ましく、更に好ましくは、15℃以上でかつ40℃以下の範囲である。
【0023】
前記使用済みの不溶性金属電極の前記混合水溶液への接触時間は、用いられる前記不溶性金属電極の形状、前記不溶性電極物質の組成、前記アルカリフッ化物の種類および濃度、前記無機酸塩の種類および濃度に応じて適宜決定することができる。一般に、前記接触時間が長いほど、前記電極基体と前記不溶性電極物質被覆との分離が促進されるが、長すぎる前記浸漬時間は、他の条件によっては、前記電極基体の損傷を招く恐れがある。かかる前記電極基体と前記不溶性電極物質被覆との分離の促進および前記電極基体の損傷の抑制の観点から、好ましい前記浸漬時間は、1分以上でかつ72時間以下の範囲であり、更に好ましくは、30分以上でかつ5時間以下の範囲である。
【0024】
本発明における、前記不溶性金属電極を前記混合水溶液に接触させる方法は、前記接触に起因して、前記不溶性金属電極を構成する前記電極基体と前記不溶性電極物質被覆との分離が生ずる態様であれば特に制限はなく、前記不溶性金属電極の前記混合水溶液への浸漬する浸漬法のほか、前記不溶性金属電極への前記混合水溶液の噴霧等の手法を用いてもよい。作業の容易性の観点から、前記浸漬法が好ましい。
前記浸漬法による場合、より具体的には、前記不溶性金属電極を収容できる充分な容積を有する浸漬槽に、前記不溶性金属電極を配置し、前記浸漬槽内に充分な量の前記混合水溶液を注入し前記不溶性金属電極全体が前記混合水溶液の液面下に浸漬されるようにしてもよい。または、あらかじめ充分な容積を有する槽に、充分な量の前記混合水溶液を張っておき、これに、前記不溶性金属電極全体を浸漬するようにしてもよい。
【0025】
本発明の回収法においては、前記不溶性金属電極が前記混合水溶液に接触している間に、前記不溶性電極物質被覆を形成している前記不溶性電極物質が、前記電極基体の表面から剥離脱落し、前記浸漬法の場合には、黒色を呈する粉状体として前記混合水溶液内に沈殿する。
本発明の方法においては、前記不溶電極物質が剥離した後に残された前記電極基体を回収し、この表面に再度前記不溶性電極物質被覆を形成して新たな前記不溶性金属電極を再生することができる。
また、前記電極基体を回収した後に、前記沈殿した前記不溶性電極物質を含む前記混合水溶液をろ過することにより、前記不溶性電極物質を前記混合水溶液から分離回収することができる。
【0026】
本発明の方法により分離して回収された前記貴金属または貴金属酸化物等を含む前記不溶性電極物質からは、通常の方法、例えば、特開2002−088494号公報に開示の方法により、前記貴金属または貴金属酸化物を分離回収し、これから前記不溶性電極物質被覆を再生することができる。
【0027】
以下、実施例および比較例においてさらに詳細に本発明を説明する。尚、本発明の実施の態様は、これら実施例により開示された態様のみに制限されるものではない。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
アルカリフッ化物としてフッ化ナトリウム、及び無機酸塩として硫酸ナトリウムを水に溶解した前記混合水溶液を調製した。前記混合水溶液中の前記フッ化ナトリウムの濃度は、0.8質量%であり、前記硫酸ナトリウムの濃度は、9.2質量%であった。
フレキシブル配線基板の硫酸銅めっき工程で4年間使用された、前記電極基体としての金属チタニウム基体の表面に前記貴金属としてイリジウムおよびタンタルを前記不溶性電極物質として含有する前記不溶性電極物質被覆が形成された前記不溶性金属電極を200Lの前記混合水溶液に浸漬した。このときの前記不溶性金属電極の形状は、厚さ3mm、縦40cm、横60cmであった。また、前記混合水溶液の温度は35℃であり、前記浸漬時間は5時間であった。
【0029】
前記浸漬後、前記混合水溶液から取り出し水洗された前記不溶性金属電極の表面を目視により観察したところ、一様に金属チタニウム色を呈しており、黒色を呈する前記不溶性電極物質の残存は認められなかった。また、このとき前記混合水溶液中に黒色を呈する前記不溶性電極物質からなる沈殿物が観察された。これにより、前記混合水溶液への浸漬中に、前記不溶性金属電極を構成する前記金属チタニウム基体から、前記不溶性電極物質が剥離していることが確認された。
上記、回収された前記金属チタニウム基体の重量分析より、前記金属チタニウム基体の厚み換算で、4ミクロンの金属チタニウムが磨耗していた。また、混合水溶液中の黒色沈殿物をろ別して水洗乾燥したものをSEM・EDX分析した結果、前記沈殿物の主な組成は、タンタル18質量%、イリジウム76質量%、チタニウム4.0質量%であった。
【0030】
(実施例2)
図1に示す、前記電極基体としての厚さ1mmのチタニウム製エクスパンドメッシュ(5X10メッシュ)の表面に、前記貴金属としてイリジウム及び白金を前記不溶性電極物質として含有する前記不溶性電極物質被覆を形成してなる使用済みの前記不溶性金属電極の一部を前記フッ化カリウムと前記硫酸水素ナトリウムを水に溶解して調製した前記混合水溶液に浸漬した。前記混合水溶液における前記フッ化カリウムの濃度は、2.0質量%、前記硫酸水素ナトリウムの濃度は、8.0質量%、前記混合水溶液の温度は、40℃、前記浸漬時間は2時間であった。
図2に示す前記浸漬後の前記不溶性金属電極表面のうち、浸漬により前記混合水溶液と接触していた部分1は、当該表面から前記不溶性電極物質が剥離脱落し、金属チタニウム特有の灰白色を呈しており、前記エクスパンドメッシュから、前記不溶性電極物質がほぼ完全に剥離しているのが、目視により観察された。一方、前記不溶性金属電極表面のうち、前記混合水溶液に浸漬されなかった部分2には、図1に示されている、前記不溶電極物質被覆が残存していることが確認された。また、前記エクスパンドメッシュを取り除いた後の前記混合水溶液には前記不溶性電極物質特有の黒色を呈する沈殿物の存在が目視により確認された。
【0031】
(実施例3)
アルミコンデンサー製造用電極として10ヶ月間使用された、前記金属チタニウム基体表面に前記貴金属酸化物としてイリジウム酸化物を前記不溶性電極物質として含有する前記不溶性電極物質被覆を形成してなる前記不溶性金属電極を前記アルカリフッ化物としてフッ化ナトリウム、前記無機酸塩としてアミド硫酸ナトリウムおよび硫酸水素ナトリウムを水に溶解した前記混合水溶液に浸漬した。前記不溶性金属電極の形状は、厚さ5.0mm、幅50cm、高さ1.0mであり、前記混合水溶液における前記フッ化ナトリウムの濃度は、1.0質量%、前記アミド硫酸ナトリウムの濃度は、5.0質量%、前記硫酸水素ナトリウムの濃度は、5.0質量%、前記混合水溶液の前記温度は、55℃、前記浸漬時間は、7分であった。
浸漬後に前記混合水溶液から取り出された前記不溶性金属電極の表面において、前記不溶性電極物質が、前記金属チタニウム基体を残してほぼ完全に剥離しているのが観察された。また、このときの前記混合水溶液中に前記不溶電極物質特有の黒色を呈する沈殿物の存在が確認された。
【0032】
(実施例4)
前記実施例3において前記不溶性金属電極から分離回収された前記金属チタニウム基体の表面に所定の方法に従い前記不溶性電極物質被覆を形成してあらたな前記不溶性金属電極を10本形成した。この再生された各々の前記不溶性金属電極を用いて、電気分解の加速試験を10回実施した。具体的には、40℃以上でかつ55℃以下の範囲に保たれた、2モル/Lの硫酸に、前記再生された不溶性金属電極のうちの1つを浸漬し、これに電流密度200A/dmで電流を通じて、前記不溶性金属電極を含む電気回路の電気抵抗値を測定した。通電開始時の電気抵抗値に対して1.6倍の電気抵抗値が測定された時点で、前記不溶性金属電極に必要とされる電極としての性能が失われたものとして、前記通電開始時から前記電極としての性能が失われた時点までの時間を、前記再生された不溶性金属電極の耐久時間として評価した。前記耐久時間が長いほど前記不溶性金属電極として優れた耐久性を有していることを示す。
前記10本の不溶性金属電極についての試験の結果、新品の前記不溶性金属電極の耐久時間を100としたとき、前記再生不溶性金属電極の耐久時間は、98以上でかつ106以下の範囲であり、その平均は101であった。
【0033】
(比較例1)
実施例1に用いた前記使用済不溶性金属電極を、前記フッ化ナトリウムのみを水に溶解させて調製した水溶液に浸漬した。前記水溶液における前記フッ化ナトリウムの濃度は、8.0g/L、前記水溶液の温度は、35℃、前記浸漬時間は5時間であった。
前記浸漬時間経過後に前記水溶液から回収して水洗した前記不溶性金属電極表面は、金属チタニウム特有の灰白色を呈していたが、その表面が不均一に磨耗していることが目視により観察され、その重量分析により前記金属チタニウム基体の厚み換算で、26ミクロン相当量の金属チタニウムの磨耗が観測された。
【符号の説明】
【0034】
1 使用済み不溶性金属電極表面のうち、混合水溶液と接触していた部分
2 使用済み不溶性金属電極表面のうち、混合水溶液に浸漬されなかった部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極基体と、その表面に形成されると共に、不溶性電極物質を含有する不溶性電極物質被覆とを有する不溶性金属電極を、アルカリフッ化物と無機酸塩との混合水溶液に接触させることを特徴とする電極基体の回収方法。
【請求項2】
前記電極基体がチタニウム及び/又はチタニウム合金で形成されてなることを特徴とする請求項1に記載の電極基体の回収方法。
【請求項3】
前記不溶性電極物質が、貴金属及び/又は貴金属酸化物であることを特徴とする請求項1または2に記載の電極基体の回収方法。
【請求項4】
前記アルカリフッ化物が、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、及びフッ化アンモニウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の電極基体の回収方法。
【請求項5】
前記混合水溶液中の前記アルカリフッ化物の濃度が、0.3質量%以上でかつ30質量%以下の範囲であることを特徴とする請求項1から4までのいずれか一項に記載の電極基体の回収方法。
【請求項6】
前記無機酸塩が、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸水素ナトリウム、硫酸アンモニウム、アミド硫酸カリウム、アミド硫酸ナトリウム、及びアミド硫酸アンモニウムよりなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物であることを特徴とする請求項1から5までのいずれか一項に記載の電極基体の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−53341(P2013−53341A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192134(P2011−192134)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(510144513)マテックス・ジャパン株式会社 (2)
【Fターム(参考)】