説明

電極材料及びその製造方法並びに電気化学センサ、燃料電池用電極、酸素還元触媒電極及びバイオセンサ

【課題】白金等の触媒金属の使用量を減らすことができる電極材料及びその製造方法並びに電気化学センサ、燃料電池用電極、酸素還元触媒電極及びバイオセンサを提供する。
【解決手段】グラッシーカーボンを作用電極12とし、白金線を対極14とし、銀―塩化銀電極を基準電極16として、0.8Vから1.3Vの間の一定電位で1時間、0.1Mのカルバミン酸アンモニウム水溶液を電解酸化した。これにより、グラッシーカーボンの表面にアミノ基を共有結合させた電極材料を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材料及びその製造方法並びに電気化学センサ、燃料電池用電極、酸素還元触媒電極及びバイオセンサの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、黒鉛構造を有する導電性炭素材料は、電池用電極、電気化学センサ用電極等として広く用いられている。しかし、その酸化還元特性は必ずしも満足できるものではなく、出来るだけ迅速な電解酸化還元を行うために触媒担持等の技術が開発されている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、白金等の金属微粒子が多孔質炭素膜の細孔表面壁に分散担持された燃料電池用電極が開示されている。
【特許文献1】特開2004−335459号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来の技術においては、高価な白金を触媒として使用するので、コストが高くなるという問題があった。そこで、白金等の高価な触媒金属の使用量を減らし、または使用しなくても電極の酸化還元特性を維持、向上できれば上記問題は解決する。
【0005】
本発明は、上記従来の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、白金等の触媒金属の使用量を減らすことができる電極材料及びその製造方法並びに電気化学センサ、燃料電池用電極、酸素還元触媒電極及びバイオセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、電極材料であって、炭素材料の表面に含窒素官能基が共有結合していることを特徴とする。
【0007】
また、上記電極材料において、前記含窒素官能基はアミノ基であるのが好適である。
【0008】
また、上記電極材料において、前記炭素材料は、導電性を有する炭素材料であるのが好適であり、特にグラッシーカーボン、カーボンナノチューブ、カーボンフェルト、プラスチック成型カーボンまたはダイヤモンド電極のいずれかであるのが好適である。
【0009】
また、本発明は、電極材料の製造方法であって、カルバミン酸を含む水溶液を炭素電極を使用して電解酸化し、炭素電極の表面に含窒素官能基を共有結合させることを特徴とする。
【0010】
また、上記電極材料の製造方法において、前記含窒素官能基はアミノ基であるのが好適である。
【0011】
また、上記電極材料の製造方法において、前記カルバミン酸を含む水溶液は、カルバミン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムまたは炭酸水素アンモニウムであるのが好適である。
【0012】
また、本発明は、電気化学センサであって、上記電極材料または上記電極材料の製造方法により製造した電極材料を使用したことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、燃料電池用電極であって、上記電極材料または上記電極材料の製造方法により製造した電極材料を使用したことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、酸素還元触媒電極であって、上記電極材料または上記電極材料の製造方法により製造した電極材料を使用したことを特徴とする。
【0015】
また、上記酸素還元触媒電極において、前記貴金属触媒は白金であるのが好適である。
【0016】
また、本発明は、バイオセンサであって、上記電極材料または上記電極材料の製造方法により製造した電極材料を使用したことを特徴とする。
【0017】
また、上記バイオセンサにおいて、前記分子認識剤は、酵素、生体触媒、抗原または抗体であるのが好適である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、炭素材料の表面の炭素原子に含窒素官能基が共有結合しているので、電極の酸化還元特性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、実施形態という)を、図面に従って説明する。
【0020】
本発明は、炭素材料の表面の炭素原子に含窒素官能基を共有結合させることにより、酸化還元特性を向上させた電極材料である点を特徴としている。
【0021】
上記本発明にかかる電極材料の実施形態としては、含窒素官能基をアミノ基とすることが好適である。また、このアミノ基を酸化してニトロ基またはニトロソ基を形成してもよい。また、本実施形態の炭素材料は、電極材料として必要な導電性を有するものであり、黒鉛等が好ましい。例えば、グラッシーカーボン、カーボンナノチューブ、カーボンフェルト、プラスチック成型カーボンまたはダイヤモンド電極等を使用することができる。
【0022】
アミノ基を炭素材料の表面の炭素原子に共有結合させるには、炭素材料を電極としてカルバミン酸を含む水溶液を電解酸化することによりカルバミン酸を炭素材料の表面の炭素原子に直接共有結合させ、その後脱炭酸してアミノ基を炭素材料の表面の炭素原子に共有結合で直接導入する方法が好適である。上記カルバミン酸を含む水溶液としては、カルバミン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムまたは炭酸水素アンモニウムを好適に使用することができる。
【0023】
以上のようにしてアミノ基を炭素材料の表面の炭素原子に直接共有結合させた例が以下に示される。
【化1】

【0024】
上記構造式に示されるように、炭素材料の表面にはアミノ基のほかに水酸基やカルボン酸などの含酸素官能基も結合している。このため、炭素材料の表面に共存する含酸素官能基群と含窒素官能基群との相互作用により酸化還元特性等の電極特性を向上することができる。このため、白金等の触媒金属の使用量を削減しても電極の電解酸化還元能力を維持することができる。
【0025】
これに対して、炭素材料の表面の水酸基にクロロシランやアルコキシシランなどのアミノ基を有する有機ケイ素化合物を反応させてアミノ基を導入したもの、すなわち炭素材料の表面に結合させた分子鎖の先端にアミノ基をペンダントした状態で導入したものは、上記含酸素官能基群との相互作用が低く、酸化還元特性等の電極特性を十分に向上させることができない。
【0026】
また、本実施形態にかかる電極材料は、上記の通り酸化還元特性等の電極特性が向上されているので、電気化学センサ、燃料電池用電極、酸素還元触媒電極、バイオセンサ等に使用するのが好適である。なお、上記バイオセンサにおいては、電極材料の表面に共有結合したアミノ基等の含窒素官能基に、酵素、生体触媒、抗原または抗体等の分子認識剤を化学的に固定することにより構成する。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の具体例を実施例として説明する。なお、この実施例は本発明の一例であり、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0028】
実施例1.
以下の手順により、炭素材料の表面の炭素原子に含窒素官能基を共有結合させた。
【0029】
炭素材料としてグラッシーカーボンを選択し、これを作用電極として用いて、0.1M(モル/リットル)のカルバミン酸アンモニウム水溶液を電解酸化した。
【0030】
図1には、上記カルバミン酸アンモニウム水溶液の電解酸化装置の構成例が示される。図1において、直径2.5cm深さ5cmのプラスチック容器10に電解液として0.1Mカルバミン酸アンモニウム水溶液を入れ、作用電極12として直径3mmのグラッシーカーボン電極(ビーエーエス株式会社製)、対極14として0.5mmの白金線、基準電極16として銀―塩化銀電極(Ag/AgCl)を用いた3電極法で定電位電解酸化を行った。作用電極12はサブミクロンのアルミナ微粒子で研磨してから洗浄して用いた。カルバミン酸アンモニウムはメルク社製特級を用いた。定電位電解は、ボルタメトリックアナライザー(北斗電工製HZ3000)をポテンショスタット18として用い、作用電極12に、基準電極16に対して一定電位(0.8Vから1.3Vの間)を印加して1時間行った。なお、定電位電解中はスターラー20によりカルバミン酸アンモニウム水溶液を攪拌した。電解酸化処理後、作用電極12を蒸留水で洗浄し、含窒素官能基であるアミノ基が結合した炭素電極を作製した。
【0031】
図2には、上記カルバミン酸アンモニウム水溶液の電解酸化を実施した場合の電解酸化電流の経時変化が示される。図2において、電解時間の経過とともにカルバミン酸の電解酸化電流が大きくなっていることがわかる。これは、グラッシーカーボン電極の表面にカルバミン酸が電解化学修飾されて電極の酸化触媒活性が徐々に上昇しているからである。
【0032】
図3(a)、(b)には、グラッシーカーボン電極の表面をX線光電子スペクトロフォトメトリー(XPS)で測定した結果が示される。なお、図3(a)は、カルバミン酸アンモニウム水溶液の電解酸化処理を行っていないグラッシーカーボン電極であり、図3(b)は、電解酸化処理を行ったグラッシーカーボン電極である。また、図3(a)、(b)では、横軸に検出された電子のエネルギーが原子核に対する束縛エネルギーとして示され、縦軸に検出された電子の数が示されている。
【0033】
電解酸化処理を行った図3(b)では、電解酸化処理を行っていない図3(a)には無いN1sのピークが観測されるが、このピークが炭素と窒素との間の共有結合を示している。これにより、カルバミン酸の電解酸化によってグラッシーカーボン電極の表面に窒素原子が直接導入されたことがわかる。
【0034】
図4には、カルバミン酸の窒素原子がグラッシーカーボン電極の表面に共有結合によって導入される機構が示される。図4において、カルバミン酸の一電子ラジカルがグラッシーカーボン電極の表面の炭素原子に共有結合し、カルボン酸が二酸化炭素として脱離する。この結果、グラッシーカーボン電極の表面にはアミノ基が導入される。
【0035】
グラッシーカーボン電極の表面にアミノ基が導入されていることは、カテコールのサイクリックボルタンメトリーを行うことにより確認した。すなわち、カテコールは電気化学的に酸化されて1,2−ベンゾキノンになるが、この物質はアミノ基と結合してカテコールとは別の電位に酸化還元波を示すことが分かっている(文献Electroanalysis,10巻 647ページ,1998年)。そこで、上記電解酸化処理を行ったグラッシーカーボン電極でカテコールのサイクリックボルタンメトリーを行った。
【0036】
図5(a)、(b)には、上記グラッシーカーボン電極で行ったカテコールのサイクリックボルタンメトリーの結果が示される。図5(a)は、電解酸化処理を行ったグラッシーカーボン電極を用いて得られたリン酸緩衝液のサイクリックボルタモグラムであり、図5(b)は、図5(a)で用いたグラッシーカーボン電極を純水で洗浄した後電極として用いて得られたリン酸緩衝液のサイクリックボルタモグラムである。なお、図5(a)、(b)の横軸はAg/AgCl基準電極に対する電位であり、縦軸は電流である。
【0037】
図5(a)では、カテコールの酸化還元波(IaとIc)とは別の酸化還元波が観察された(IIaとIIc)。これは、カテコールが電気化学的に酸化されて生じた1,2−ベンゾキノンとグラッシーカーボン電極の表面に存在するアミノ基とが結合した物質の酸化還元波である。また、この酸化還元波は、上記グラッシーカーボン電極を純水で洗浄してから得られたサイクリックボルタモグラムによってより明瞭にされる(図5(b)のIIaとIIc)。この結果から、カルバミン酸の電解酸化によりグラッシーカーボン電極の表面にアミノ基が導入されていることが確認された。
【0038】
実施例2.
実施例1と同様にしてアミノ基を表面の炭素原子に共有結合させたグラッシーカーボン電極についてサイクリックボルタンメトリーを実施し、酸素の還元電位を測定した。なお、比較例として、表面の炭素原子にアミノ基を共有結合させていないグラッシーカーボン電極についても同様に測定した。
【0039】
上記サイクリックボルタンメトリーは、電解対象物質を含む0.1Mリン酸緩衝液(pH7)中に、表面にアミノ基を導入したグラッシーカーボン電極、白金線対極及び銀―塩化銀基準電極を入れ、−1.0Vから+1.0Vの電位範囲で実施した。電位の掃引速度は100mV/秒で行い、測定は常温で行った。なお、電解セルは図1と同じものを用いた。
【0040】
図6には、上記還元電位の測定結果が示される。図6において、曲線Aがカルバミン酸の電解酸化処理を実施していないグラッシーカーボン電極での測定結果であり、曲線Bがカルバミン酸の電解酸化処理を実施したグラッシーカーボン電極での測定結果であり、曲線Cがカルバミン酸の電解酸化処理を実施した後白金を担持させたグラッシーカーボン電極での測定結果である。
【0041】
カルバミン酸の電解酸化処理を実施していない場合には、図6の曲線Aに示されるように、酸素の還元波Icが約−0.4V(vs.Ag/AgCl)付近で立ち上がっているが、カルバミン酸の電解酸化処理を実施した場合には、曲線Bに示されるように、酸素の還元波Icが約−0.2V(vs.Ag/AgCl)付近で立ち上がっており、曲線Aの場合に対して約0.2V程度正電位側にシフトしている。これは、主として酸素が電解還元して生成するスーパーオキシドアニオン(O)が電解還元分解して過酸化水素イオンを生成するからである。また、カルバミン酸の電解酸化処理を実施した後白金を担持させた場合には、曲線Cに示されるように、酸素の還元波Icが+0.25V(vs.Ag/AgCl)付近で立ち上がっており、さらに正電位側にシフトしている。これは、白金微粒子の酸素還元触媒機能によるためである。なお、曲線CのIIaとIIcはそれぞれ水素の酸化波と水素イオンの還元波である。これらは白金坦持したことによって現れた波である。従って白金坦持した電極同士の場合、酸素の還元波CのIcと水素の酸化波CのIIaの組み合わせで起電力が発生する。またアミノ基導入電極と白金坦持電極を陰極と陽極に用いた場合同様にBのIcとCのIIaの組み合わせで起電力が発生する。
【0042】
以上のように、グラッシーカーボン電極等の炭素電極の表面に、共有結合によりアミノ基を導入すると、酸素の還元電位が正電位側にシフトする。このため、酸素還元触媒である白金の担持量を減少させても、高い電位に酸素の還元波をシフトでき、例えば燃料電池用の電極のコストを低減しながら電池の発生電圧を高く維持することができる。
【0043】
実施例3.
炭素電極としてカーボンフェルト電極を使用し、サイクリックボルタンメトリーを実施して酸素の還元電位を測定した。サイクリックボルタンメトリーの実施条件は、実施例2と同様とした。なお、電解対象物質を含む0.1Mリン酸緩衝液は、溶存酸素が有るものと、窒素パージして溶存酸素が無いものとを準備した。
【0044】
カーボンフェルト電極としては、直径5mmの円形カーボンフェルト電極(日本カーボン株式会社製 GC−20−5F、厚さ5mm)を使用し、これに白金線を連結し、他の条件は実施例1と同様にしてカルバミン酸アンモニウム水溶液を電解酸化して表面の炭素原子にアミノ基を共有結合させた。また、比較例として、アミノ基の導入を行わないカーボンフェルト電極も使用した。
【0045】
図7にはアミノ基導入をおこなわないカーボンフェルト電極を使用した酸素の還元電位の測定結果が示される。図7において、電解対象物質を含む0.1Mリン酸緩衝液中に溶存酸素がある場合(曲線B)、0V付近の小さな酸化還元波Icと−0.4V付近からの大きな波が現れている。一方、窒素パージして除酸素したリン酸緩衝液で得たサイクリックボルタモグラム(曲線A)には、0V付近に極めて小さい還元波が現れたのに対し、−0.4V付近に還元波は全く現れていない。
【0046】
また、図8には、アミノ基を表面の炭素原子に共有結合させたカーボンフェルト電極を使用した酸素の還元電位の測定結果が示される。リン酸緩衝液中に溶存酸素なしのデータ(曲線A)では、図7のIcと同じ還元波aの他に図7には現れなかった還元波bが現れた。これはアミノ基導入処理により新たに酸素の還元メディエーターとなる酸化還元種が導入されたことを示している。このことは、リン酸緩衝液中に溶存酸素がある場合(曲線B)に、上記bと同じ位置に酸素の新しい大きな還元波が観察される(IIc)ことによっても示される。また、上記還元波aの原因となっている酸素の還元メディエーターは、グラッシーカーボンでは全く観察されないメディエーターであり、カーボンフェルト特有の現象である。さらに、この還元波aにより示される酸素還元活性はアミノ基導入により大きく増幅されている。このことは、図8における溶存酸素がある場合の曲線Bの還元波Icの大きさが図7における曲線Bの還元波Icより大きくなっている点からわかる。
【0047】
さらに、図8の曲線Bと図7の曲線Bとを比較すると、上述したように、アミノ基を導入処理することによって酸素の還元波Icが増幅されることが分かる。この増幅された還元波Icの半波電位は約+0.05V(vs.Ag/AgCl)である。一方、水素還元反応の標準酸化還元電位は−1.05V(vs.Ag/AgCl)であるので、窒素原子を導入したカーボンフェルト電極を用いると、水素と酸素の酸化還元電位の差は約1.10Vとなり、現在普及している白金担持カーボン電極を用いた燃料電池と同じ起電力を示すことになる。そこで、白金を担持させなくても従来の白金担持カーボン電極と同じ起電力を発現させることが可能となる。
【0048】
図9には、アミノ基導入カーボンフェルト電極と白金坦持カーボンフェルト電極との酸素還元電流の比較結果が示される。図9において、曲線Aは図8の曲線Bと同じデータであり、曲線Bは白金坦持カーボンフェルト電極のデータである。図9に示されるように、白金坦持することにより酸素の還元波Ic及びIIcは白金坦持しないときのデータ(図7のB)よりも大きくなったが、アミノ基を導入したカーボンフェルト電極の還元波Ic及びIIcより小さくなった。この結果、アミノ基導入による酸素の還元波を大きくする効果の方が白金坦持による効果よりも大きいことが分かる。なお、アミノ基導入後に白金坦持したカーボンフェルト電極は図9のBとほぼ同じデータとなり、アミノ基導入効果を白金が阻害する結果が得られた。
【0049】
実施例4.
実施例1と同様にしてアミノ基を表面の炭素原子に共有結合させたグラッシーカーボン電極を使用して過酸化水素の酸化還元電位を測定した。
【0050】
図10には、過酸化水素の酸化還元電位の測定結果が示される。なお、図10において、曲線Aはアミノ基を表面の炭素原子に共有結合させていないグラッシーカーボン電極を使用した場合を、曲線Bはアミノ基を表面の炭素原子に共有結合させたグラッシーカーボン電極を使用した場合をそれぞれ示している。
【0051】
上記曲線A、Bから分かるように、アミノ基の表面への導入の有無により過酸化水素還元電流値が大きく異なり、アミノ基を導入したグラッシーカーボン電極では過酸化水素還元の立ち上がり電位が酸素還元の立ち上がり電位とほぼ同じ−0.2V(vs.Ag/AgCl)にシフトすることがわかる。これによれば、例えば燃料電池中において、酸素還元電位と同じ電位でカーボンや隔膜を劣化させる過酸化水素を、その電位で還元できるので、過酸化水素による劣化を回避することができる。
【0052】
また、アミノ基を導入したグラッシーカーボン電極では、過酸化水素の電解酸化電流(Ia)も大幅に増大し、直接電解酸化が可能であることがわかる。したがって、この電極は、過酸化水素の還元及び酸化の両方を促進することができることがわかる。
【0053】
図11には、実施例1と同様にしてアミノ基を表面の炭素原子に共有結合させたグラッシーカーボン電極を使用して、過酸化水素の定電位電解電流測定を行った結果が示される(A)。なお、比較例として、リン酸緩衝液を電解処理したグラッシーカーボン電極(B)及び電解処理を実施しない(アミノ基導入をしない)グラッシーカーボン電極(C)を使用した過酸化水素の定電位電解電流測定も行った。ここで、使用した過酸化水素は0.088Mの濃度であり、これを順次添加して、添加量がa:50マイクロリットル(μL)、b:100μL、c:150μL、d:200μL、e:500μL、f:500μL、g:1mLである場合の定電位電解電流を測定した。定電位電解は、Ag/AgCl基準電極に対して+0.85Vの電位で行った。
【0054】
図11において、アミノ基を表面の炭素原子に共有結合させたグラッシーカーボン電極(A)は、比較例B、Cに較べ大きな電解電流を与えることが明らかとなった。この結果から、過酸化水素の検出限界は約1μM(マイクロモル/リットル)程度に設定できることがわかる。このため、本実施例のアミノ基を表面の炭素原子に共有結合させたグラッシーカーボン電極は、過酸化水素の電解酸化電流を検出する方式の電気化学センサやバイオセンサに適用できる。従来、このような電気化学センサやバイオセンサは、電極に金や白金などの貴金属を用いていたが、本実施例によれば貴金属を用いる必要がなく、低コストの電気化学センサやバイオセンサを実現できる。
【0055】
実施例5.
炭素電極としてカーボンフェルト電極を使用し、過酸化水素のサイクリックボルタンメトリーを実施した。
【0056】
図12には、上記過酸化水素のサイクリックボルタモグラムが示される。図12において、曲線Aは電極表面にアミノ基の導入を行わないカーボンフェルト電極を使用した結果であり、曲線Bは実施例1と同様にしてアミノ基の導入を行ったカーボンフェルト電極を使用した結果である。なお、カーボンフェルト電極としては、日本カーボン株式会社製カーボンフェルト(GC−20−5F)を使用した。
【0057】
図12に示されるように、Ag/AgCl基準電極に対して+0.3V付近から還元される波Icと −0.2V付近から還元される波IIcに分離している。これにより、酸素の還元電位をさらに高電位側にシフトさせることができ、燃料電池等の起電力を大きくすることができる。
【0058】
実施例6.
実施例1と同様の方法で、カルバミン酸アンモニウム水溶液の電解酸化時間を3時間として表面にアミノ基を導入したグラッシーカーボン電極を用い、次亜塩素酸イオンの電解還元波を測定した。
【0059】
図13には、上記測定された次亜塩素酸イオンの電解還元波が示される。図13において、曲線Aは比較例としてアミノ基を導入していないグラッシーカーボン電極を用いた場合であり、曲線Bはアミノ基を導入したグラッシーカーボン電極を用いた場合である。
【0060】
図13に示されるように、アミノ基を導入していないグラッシーカーボン電極の場合には、次亜塩素酸イオンの還元波Icが0V以下に現れ、酸素の還元波IIcと重なってしまうので高選択的な次亜塩素酸イオンセンサを作製することが極めて困難である。これに対して、アミノ基を導入したグラッシーカーボン電極を用いると、Ag/AgCl基準電極に対して+0.6Vの電位から還元できることがわかる。このため、本実施例のグラッシーカーボン電極によれば、高選択的な次亜塩素酸イオンセンサを作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】カルバミン酸アンモニウム水溶液の電解酸化装置の構成例を示す図である。
【図2】カルバミン酸アンモニウム水溶液の電解酸化を実施した場合の電解酸化電流の経時変化を示す図である。
【図3】グラッシーカーボン電極の表面をX線光電子スペクトロフォトメトリーで測定した結果を示す図である。
【図4】カルバミン酸の窒素原子がグラッシーカーボン電極の表面に共有結合によって導入される機構を示す図である。
【図5】グラッシーカーボン電極で行ったカテコールのサイクリックボルタンメトリーの結果を示す図である。
【図6】グラッシーカーボン電極を使用した酸素の還元電位の測定結果を示す図である。
【図7】アミノ基の導入を行わないカーボンフェルト電極を使用した酸素の還元電位の測定結果を示す図である。
【図8】アミノ基を表面の炭素原子に共有結合させたカーボンフェルト電極を使用した酸素の還元電位の測定結果を示す図である。
【図9】アミノ基を表面の炭素原子に共有結合させたカーボンフェルト電極と白金坦持カーボンフェルト電極の酸素還元電流の比較結果を示す図である。
【図10】アミノ基を表面の炭素原子に共有結合させたグラッシーカーボン電極を使用した過酸化水素の酸化還元電位の測定結果を示す図である。
【図11】アミノ基を表面の炭素原子に共有結合させたグラッシーカーボン電極を使用した過酸化水素の定電位電解電流測定を行った結果を示す図である。
【図12】カーボンフェルト電極を使用した過酸化水素のサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【図13】アミノ基を表面の炭素原子に共有結合させたグラッシーカーボン電極を使用した次亜塩素酸イオンの電解還元波の測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0062】
10 プラスチック容器、12 作用電極、14 対極、16 基準電極、18 ポテンショスタット、20 スターラー。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料の表面に含窒素官能基が共有結合していることを特徴とする電極材料。
【請求項2】
請求項1記載の電極材料において、前記含窒素官能基はアミノ基であることを特徴とする電極材料。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の電極材料において、前記炭素材料は、導電性を有する炭素材料であることを特徴とする電極材料。
【請求項4】
請求項3記載の電極材料において、前記炭素材料は、グラッシーカーボン、カーボンナノチューブ、カーボンフェルト、プラスチック成型カーボンまたはダイヤモンド電極のいずれかであることを特徴とする電極材料。
【請求項5】
カルバミン酸を含む水溶液を炭素電極を使用して電解酸化し、炭素電極の表面に含窒素官能基を共有結合させることを特徴とする電極材料の製造方法。
【請求項6】
請求項5記載の電極材料の製造方法において、前記含窒素官能基はアミノ基であることを特徴とする電極材料の製造方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6記載の電極材料の製造方法において、前記カルバミン酸を含む水溶液は、カルバミン酸アンモニウム、炭酸アンモニウムまたは炭酸水素アンモニウムであることを特徴とする電極材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1から請求項4のいずれか一項記載の電極材料または請求項5から請求項7のいずれか一項記載の電極材料の製造方法により製造した電極材料を使用したことを特徴とする電気化学センサ。
【請求項9】
請求項1から請求項4のいずれか一項記載の電極材料または請求項5から請求項7のいずれか一項記載の電極材料の製造方法により製造した電極材料を使用したことを特徴とする燃料電池用電極。
【請求項10】
請求項1から請求項4のいずれか一項記載の電極材料または請求項5から請求項7のいずれか一項記載の電極材料の製造方法により製造した電極材料に貴金属触媒を担持させたことを特徴とする酸素還元触媒電極。
【請求項11】
請求項10記載の酸素還元触媒電極において、前記貴金属触媒は白金であることを特徴とする酸素還元触媒電極。
【請求項12】
請求項1から請求項4のいずれか一項記載の電極材料または請求項5から請求項7のいずれか一項記載の電極材料の製造方法により製造した電極材料の表面に共有結合した含窒素官能基に、分子認識剤を化学的に固定したことを特徴とするバイオセンサ。
【請求項13】
請求項12記載のバイオセンサにおいて、前記分子認識剤は、酵素、生体触媒、抗原または抗体であることを特徴とするバイオセンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−19120(P2008−19120A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−191514(P2006−191514)
【出願日】平成18年7月12日(2006.7.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 電気化学会第73回大会 主催者 社団法人電気化学会 開催日 2006年4月1日、2日、3日
【出願人】(504465996)
【Fターム(参考)】