説明

電極活物質及びそれを含む電気化学セル

【課題】プロトンを電荷キャリアとする二次電池又はキャパシタ等の電気化学セルに適用可能で、高エネルギー密度化を可能とする電極活物質を提供する。
【解決手段】電気化学セルに、一般式(1)のビス(フェニルアミノ)テレフタル酸を電極活物質に用いる。ここで、R1〜R5は、水素、ハロゲン、低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、アリールないしアリールオキシ、アミノ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、ニトロ又はシアノ基を、R6は、水素、低級アルキル又はアリールを、Xは、酸素、窒素又は硫黄原子を、nはXが酸素、硫黄の場合1を、窒素の場合2を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池又はキャパシタに関し、より詳しくは、電極活物質にビス(フェニルアミノ)テレフタル酸化合物あるいはその酸化物(脱水素化物)を用いた電気化学セルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロエレクトロニクスの進歩により蓄電デバイスの需要が高まっている。蓄電デバイスは、より小型、薄型であって、かつ、その容量が大きいことが要求されている。かかる蓄電デバイスとして注目されているのがリチウム二次電池と、電気二重層キャパシタに代表される高容量キャパシタである。一般に、リチウム二次電池の容量は大きいが、短時間で入出力を行う特性については良好とはいえない。
【0003】
電気二重層キャパシタは、短時間における入出力特性が優れていることから期待されているが、エネルギー密度が小さいという問題点を有する。電気二重層キャパシタの活物質として多孔質の黒鉛が用いられており、電気二重層は電解液と活物質との界面で生じるため、活物質である黒鉛の表面積が大きいほどキャパシタの容量は大きくなる。黒鉛の表面積を大きくするためには、黒鉛の細孔の大きさを小さくすればよく、細孔を小さくして黒鉛の表面積を大きくするほどキャパシタの容量は大きくなることが知られている。しかしながら、細孔を小さくすると電解液の移動度は小さくなる。そのため、キャパシタの内部抵抗は上昇し、大きなレートでの入出力が困難になる。すなわち、容量を大きくしようとすると、本来有していた入出力特性が低下してしまうことになる。したがって、入出力特性に優れ、かつ大容量である電気二重層キャパシタを実現することは非常に困難である。
【0004】
一方、入出力特性に優れる2次電池として、プロトンを電荷キャリアとするニ次電池が特許文献1、2や非特許文献1に提案されている。しかしながら、これらは容量、信頼性の観点から、現在の要求特性に応えられるものではない。
【0005】
このような状況の中で、リチウムイオン電池等の欠点である高速電流特性等を改良する目的で、特許文献3、4には安全性、信頼性、電流特性に優れ、長寿命なプロトンを電荷キャリアとする二次電池が提案されている。
【0006】
これら信頼性、入出力特性に優れるプロトンを電荷キャリアとする二次電池に使用される電極活物質としては、ポリピリジン系、ポリピリミジン系、スルホン酸側鎖系、ヒドロキノン系高分子、マンガン酸化物、インドール系高分子などが開示されている。これらの化合物はプロトンの挿入/放出を容易に行えるため、安全性、急速充放電特性に優れた二次電池を得ることができるが、電池のエネルギー密度が従来の電池に対して劣っており、エネルギー密度アップが切望されている。
【0007】
一方、このような電池に使用される電極活物質の有用性を評価する一般的な方法としてサイクリックボルタンメトリー(CV)法が挙げられる。CV法による評価では、活物質の酸化還元電位(V)及び電極容量密度(C/g)などを測定することができ、このようにして測定された活物質の電極容量密度の大小は、活物質を使用して電池あるいはキャパシタを形成した際に出力可能なエネルギー密度を反映する重要な指標の一つである。すなわち電極容量密度の大きな電極活物質を用いれば高エネルギー密度の電池あるいはキャパシタを得ることができる。
【0008】
【特許文献1】特開昭61−214371号公報
【特許文献2】特開平2−220373号公報
【特許文献3】特開平10−289617号公報
【特許文献4】特開2003−142098号公報
【非特許文献1】Bull. Chem. Soc. Jpn., 57, p2254(1984)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような状況の中で、二次電池あるいはキャパシタの高エネルギー密度化を可能とするため、優れた電極容量密度を有する新しい電極活物質の開発が切望されている。
本発明の目的は、プロトンを電荷キャリアとする二次電池又はキャパシタにおいて、優れた電極容量密度を有する電極活物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、従来技術が抱えている上述の課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のビス(フェニルアミノ)テレフタル酸化合物誘導体がプロトンを電荷キャリア媒体とする二次電池あるいはキャパシタの電極活物質として有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、二次電池あるいはキャパシタの電極反応に関与する電極活物質であって、電極活物質又は電極活物質の電極反応における反応生成物が下記一般式(1)で表わされるビス(フェニルアミノ)テレフタル酸化合物であることを特徴とする電極活物質に関する。
【0012】
【化1】

(ただし、R1〜R5はそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、置換若しくは無置換のアリールあるいはアリールオキシ、置換若しくは無置換のアミノ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、ニトロ又はシアノ基を示し、R6はそれぞれ独立に、水素、低級アルキル又は置換若しくは無置換のアリールを示す。Xはそれぞれ独立に、酸素、窒素又は硫黄原子を示し、酸素、硫黄の場合はnは1を窒素の場合はnは2を示す。)
あるいは、一般式(1)で表される化合物のうち、一部又は全部のR3が下記一般式(2)で表わされる基である化合物が好適である。
【化2】

(ただし、式中、R7はそれぞれ独立に、水素、低級アルキル、置換若しくは無置換のアリール、アシル、低級アルコキシカルボニルを示す。)
【0013】
まず、本発明で電極活物質として使用するビス(フェニルアミノ)テレフタル酸化合物の詳細について説明する。この電極活物質は、二次電池あるいはキャパシタの電極反応に関与して、その電極反応前又は電極反応後における反応生成物が2,5−ビス(フェニルアミノ)テレフタル酸化合物骨格を有するビス(フェニルアミノ)テレフタル酸化合物(以下、ビス(フェニルアミノ)テレフタル酸化合物という)構造を有するものである。
【0014】
具体的には、式(3)の反応式で表されるように、プロトンと電子の授受を伴う酸化あるいは還元反応が行われ、二次電池あるいはキャパシタに充放電される。
【化3】

【0015】
以下、還元体のビス(フェニルアミノ)テレフタル酸化合物について説明する。還元体のビス(フェニルアミノ)テレフタル酸化合物は、前述の一般式(1)で示される。
【0016】
式中、R1〜R5はそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、置換若しくは無置換のアリールあるいはアリールオキシ、置換若しくは無置換のアミノ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、ニトロ又はシアノ基を示す。ここでいう低級アルキルとは、炭素数1〜7からなる直鎖状、分岐状、環状のアルキル基である。また、低級アルコキシとは、炭素数1〜7からなる直鎖状、分岐状、環状の脂肪族アルコキシである。また、置換若しくは無置換のアリールとは、好ましくは置換基を有するかあるいは有しない環数が1〜3からなる炭素環式芳香族基を表し、さらに好ましくはフェニル、ナフチル、アントラニル、フェナントリルである。また、窒素、硫黄、酸素等の原子を1〜2個含む環数が1〜3からなる複素環式芳香族基でも良く、ピリジル、フリル、ベンゾフリル、チエニル、ベンゾチエニル、キノリルが好ましい。置換若しくは無置換のアミノは、アミノ基の1又は2の水素がそれぞれ独立して、炭素数1〜6の直鎖状、分岐状、環状の脂肪族炭化水素、あるいは環数が1〜3の炭素環式芳香族基、あるいは炭素数1〜7のアシル基で置換されたアミノ基が好ましい。低級アルコキシカルボニルは、炭素数1〜6の直鎖状、分岐状、あるいは環状の脂肪族アルコキシ基とカルボニル基が結合した基が好ましい。
【0017】
好ましいR1〜R5としては、水素、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、t−ブチル、ヒドロキシ、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、t−ブトキシ、フェニル、ナフチル、アントラニル、フェナントリル、ピリジル、フリル、ベンゾフリル、チエニル、ベンゾチエニル、キノリル、アミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、エチルアミノ、ジエチルアミノ、ベンジルアミノ、ホルミルアミノ、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノが例示される。中でも、好ましくは、一般式(2)で表わされる置換若しくは無置換のアミノ基である。
【0018】
式中、R6はそれぞれ独立に、水素、低級アルキル、置換若しくは無置換のアリールを示す。ここで、低級アルキル、置換若しくは無置換のアリールは、上記R1で説明した低級アルキル、置換若しくは無置換のアリールと同じ意味を有し、好ましい基も同様である。
また、一般式(1)で表される化合物のうち、一部又は全部のR3が上記一般式(2)で表わされる化合物がさらに好ましく例示される。
ただし、R7はそれぞれ独立に、水素、低級アルキル、置換若しくは無置換のアリール、アシル、低級アルコキシカルボニルを示す。ここでいう低級アルキルとは、炭素数1〜7からなる直鎖状、分岐状、環状のアルキル基である。また、置換若しくは無置換のアリールとは、置換基を有するかあるいは有しない環数が1〜3からなる炭素環式芳香族基を表し、好ましくはフェニル、ナフチル、アントラニル、フェナントリルである。また、窒素、硫黄、酸素等の原子を1〜2個含む環数が1〜3からなる複素環式芳香族基でも良く、ピリジル、フリル、ベンゾフリル、チエニル、ベンゾチエニル、キノリルが好ましい。また、アシルとは、炭素数の合計が1〜7からなる直鎖状、分岐状、環状のアルキルカルボニル基を表し、好ましくはホルミル、アセチル、プロパニル、イソプロパニルである。低級アルコキシカルボニルとは、炭素数1〜6の直鎖状、分岐状、あるいは環状の脂肪族アルコキシ基とカルボニル基が結合した基を示す。
【0019】
また、Xはそれぞれ独立に、酸素、窒素、硫黄原子を示すが、Xが酸素、硫黄原子の場合はn=1であり、Xが窒素原子の場合はn=2となる。
【0020】
6とXの組み合わせで表される具体的な基としては、ヒドロキシ、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、イソプロポキシ、n−ブトキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、t−ブトキシ、フェノキシ、ナフトキシ、メルカプト、メチルチオ、エチルチオ、n−プロピルチオ、イソプロピルチオ、n−ブチルチオ、イソブチルチオ、sec−ブチルチオ、t−ブチルチオ、フェニルチオ、アミノ、メチルアミノ、エチルアミノ、n−プロピルアミノ、イソプロピルアミノ、フェニルアミノ、ベンジルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジn−プロピルアミノ、ジイソプロピルアミノ、ジフェニルアミノ、ジベンジルアミノが例示される。
【0021】
次に、本発明で使用するビス(フェニルアミノ)テレフタル酸化合物の合成方法について説明する。ビス(フェニルアミノ)テレフタル酸化合物の合成方法については、例えば、Tetrahedron, 55(43), pp12577-12594 (1999)にしたがって合成することができる。具体的には、下式(4)に示される方法で合成することができる。
【化4】

【0022】
すなわち、容易に入手可能な2,5−ジオキソシクロヘキサンカルボン酸誘導体を適当な溶媒に溶解し、適当な酸を混入してアニリン誘導体と適当な反応温度で一定時間縮合反応させることで合成する。この反応において使用する溶媒としては、2,5−ジオキソシクロヘキサンカルボン酸誘導体に対して溶解度をもつものであれば特に制約はないが、例えばn−ヘキサンなどの鎖状炭化水素、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、アセトン、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブチルアルコール、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、ベンゼン、トルエン、キシレン、ピリジン、キノリンが望ましく、より好ましくはギ酸、酢酸、プロピオン酸である。また必要に応じてこれらを任意の比率で混合した溶媒を使用することもできる。溶媒の使用量については2,5−ジオキソシクロヘキサンカルボン酸誘導体1重量部に対して0.1〜100重量部が適当であり、より好ましくは10〜30重量部である。また、所望により無溶媒で反応させることもできる。
【0023】
使用するアニリン誘導体は、2,5−ジオキソシクロヘキサンカルボン酸誘導体1モルに対して、0.5〜10モルが好ましく、より好ましくは1.5〜2.5モルである。
【0024】
酸としては、好ましくは、塩酸、硫酸、硝酸などのブレンステッド酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、酢酸、クエン酸などの有機酸、塩化アルミニウム、フッ化ホウ素、塩化亜鉛(II)などのルイス酸であるが、より好ましくはギ酸、酢酸、プロピオン酸である。また、必要に応じてこれらを任意の比率で混合した酸を使用することもできる。
【0025】
反応温度は−80〜250℃が適当であり、より好ましくは50〜120℃である。反応時間は0.1〜48時間が適当であり、より好ましくは0.5〜5時間である。
【0026】
反応式(4)で示される反応により生成したビス(フェニルアミノ)テレフタル酸化合物を単離・精製する方法は、通常の有機反応後の後処理における操作方法、例えば分液操作、ろ過操作、カラム操作、再結晶などを使用することができる。なお、X及びR6が上記と異なるビス(フェニルアミノ)テレフタル酸化合物についても、上記方法に準じて又は他の公知の方法により製造することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば電極容量密度が大きな電極活物質、また、第一集電体及び第二集電体上にそれぞれ形成された正極材料層及び負極材料層がセパレータを挟んで対向配置された構造を有する電気化学セルにおいて正極材料層又は負極材料層に上記電極活物質を存在させた電気化学セルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
二次電池又はキャパシタを作成する場合の電気化学セルの一実施形態の断面構造を示す図1により本発明を説明する。
集電体1及び6上にそれぞれ形成された正極材料層2及び負極材料層4がセパレータ3を挟んで対向配置され、セパレータ3を介して正極材料層2及び負極材料層4が積層された積層体の両側面には絶縁ゴム等からなるガスケット5が設けられている。正極材料層2(正電極)及び負極材料層4(負電極)にはプロトンを含有する電解液を含浸させている。本発明の化合物は、正極材料層2(正電極)あるいは負極材料層4(負電極)に含まれる電極活物質として使用する。
【0029】
正極材料層2(正電極)あるいは負極材料層4(負電極)には、導電性を確保するために必要に応じて導電補助材を添加することができる。導電補助材としては、結晶性カーボン、カーボンブラック、グラファイト等の導電材料が挙げられる。また、電極の成形性を維持したり、これらの材料を集電体上に固定するために、必要に応じてバインダーを添加してもよい。
【0030】
電極の構成材料の混合比は所望の特性が得られる限り任意であるが、単位質量又は単位容量当たりの効率を考慮すると、ビス(フェニルアミノ)テレフタル酸化合物が30〜95質量%、導電補助材が5〜50質量%、バインダーが0〜20質量%の範囲が望ましい。
電極の作成方法は所望の特性が得られる限り任意であるが、所望の割合で混合されたビス(フェニルアミノ)テレフタル酸化合物、導電補助剤、バインダーを混練し、その混合物を圧縮成形することで得られる。この際、成形性を向上させるために適当量の溶剤を混合しても良い。また、所望の割合で混合されたビス(フェニルアミノ)テレフタル酸化合物、導電補助剤、バインダーに適当量の溶剤を加えて混練することでペーストとし、そのペーストを集電体上に塗布し、乾燥させることで成型することもできる。使用する溶剤は特に制限はないが、ジメチルホルムアミド、エチレンカーボナート、プロピレンカーボナート、ジメチルカーボナートなどが好ましい。また、諸特性の向上のため、混練の際に、塩あるいは界面活性剤を添加してもよい。なお、必要により他の電極活物質を配合してもよい。
【0031】
電解液としては、ビス(フェニルアミノ)テレフタル酸化合物の電荷キャリアとしてプロトンが用いられるため、プロトンを含有する水溶液又は非水溶液を用いることが好ましい。また、電解液のプロトン濃度は10-3mol/L〜18mol/Lであることが好ましい。また、電解液には、電気伝導性を向上させるため、あるいは諸特性の向上のため、塩あるいは界面活性剤を添加してもよい。
【0032】
セパレータとしては、電気的絶縁性を持ち、イオン導電性を有する或いは付与し得るものであればよく、例えばポリエチレンやフッ素樹脂等の多孔質フィルムが挙げられ、電解液を含浸させて用いられる。あるいは、このようなセパレータに代えて、ゲル電解質や固体電解質などの電解質を電極間に介在させてもよい。
【実施例】
【0033】
次に、合成例、実施例によって更に詳しく説明するが、本発明は、以下の実施例の記載に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。
合成した化合物の分析データについては特にことわらない限り、1H−NMRは日本電子社製JNM−LA400(400MHz)を使用した。マススペクトルは日本電子社製JMS−AX505HAを使用した。
【0034】
合成例1
温度計、ジムロートを具備した1L三ッ口フラスコに、アニリン13.3g(0.143モル)、1,4−シクロヘキサンー2,5−ジカルボン酸ジメチルエステル14.83g(0.065モル)及び酢酸300gを投入し、内温100℃にて3時間撹拌した。反応混液を冷却後、析出した沈殿をろ取した。得られた沈殿をメタノール100gで洗浄し、一昼夜、減圧乾燥した。2,5−ビス(フェニルアミノ)テレフタル酸ジメチル18.0gを得た。
1H−NMR(400MHz、DMSO−d6、室温)
δ(ppm):8.54(2H、s)、7.79(2H、s)、7.29(4H、d、J=7Hz)、7.12(4H、d、J=7Hz)、6.97(2H、t、J=7Hz)、3.77(6H、s)
FD−MS(M/z):376(M+、base)
【0035】
合成例2
合成例1のアニリンのかわりに2,4−ジメトキシアニリンを使用した以外、同様の操作を行い、2,5−ビス(2,4−ジメトキシフェニルアミノ)テレフタル酸ジメチル11.6gを得た。
1H−NMR(400MHz、CDCl3、室温)
δ(ppm):8.46(2H、br s)、7.74(2H、s)、7.21(2H、d、J=8Hz)、6.54(2H、d、J=3Hz)、6.47(2H、dd、J=8、3Hz)、3.83(3H、s)、3.82(3H、s)、3.81(3H、s)
FD−MS(M/z):496(M+、base)
【0036】
合成例3
合成例1のアニリンのかわりに4−アセチルアミノアニリンを使用した以外、同様の操作を行い、2,5−ビス(4−アセチルアミノフェニルアミノ)テレフタル酸ジメチル13.7gを得た。
1H−NMR(400MHz、DMSO−d6、80℃)
δ(ppm):9.67(2H、br s)、8.32(2H、br s)、7.67(2H、s)、7.50(4H、d、J=8Hz)、7.05(4H、d、J=8Hz)、3.80(6H、s)、2.02(6H、s)
FD−MS(M/z):490(M+、base)
【0037】
合成例4
合成例1のアニリンのかわりに4−シアノアニリンを使用した以外、同様の操作を行い、2,5−ビス(4−シアノフェニルアミノ)テレフタル酸ジメチル8.1gを得た。
1H−NMR(400MHz、DMSO−d6、室温)
δ(ppm):8.65(2H、s)、7.68(2H、s)、7.56(4H、d、J=8Hz)、6.92(4H、d、J=8Hz)、3.75(6H、s)
FD−MS(M/z):426(M+、base)
【0038】
合成例5
合成例1のアニリンのかわりに4−ブロモアニリンを使用した以外、同様の操作を行い、2,5−ビス(4−ブロモフェニルアミノ)テレフタル酸ジメチル14.8gを得た。
1H−NMR(400MHz、DMSO−d6、室温)
δ(ppm):8.55(2H、s)、7.74(2H、s)、7.43(4H、d、J=8Hz)、7.06(4H、d、J=8Hz)、3.78(6H、s)
FD−MS(M/z):534(M+、base)
【0039】
合成例6
合成例1のアニリンのかわりに4−メトキシアニリンを使用した以外、同様の操作を行い、2,5−ビス(4−メトキシフェニルアミノ)テレフタル酸ジメチル0.6gを得た。
1H−NMR(400MHz、DMSO−d6、室温)
δ(ppm):8.33(2H、s)、7.57(2H、s)、7.10(4H、d、J=8Hz)、6.92(4H、d、J=8Hz)、3.77(6H、s)、3.69(6H、s)
FD−MS(M/z):436(M+、base)
【0040】
合成例7
合成例1のアニリンのかわりに4−ヒドロキシアニリンを使用した以外、同様の操作を行い、2,5−ビス(4−ヒドロキシフェニルアミノ)テレフタル酸ジメチル11.2gを得た。
1H−NMR(400MHz、DMSO−d6、室温)
δ(ppm):9.24(2H、s) 、8.24(2H、s)、7.49(2H、s)、6.98(4H、d、J=8Hz)、6.75(4H、d、J=8Hz)、3.76(6H、s)
FD−MS(M/z):408(M+、base)
【0041】
このように合成した化合物について、サイクロックボルタンメトリー(CV)法により、化合物の評価を行った。なお、以下の記述においては二次電池の電極材料に適用した場合について説明しているが、容量や充放電速度等を適宜設定することにより電気二重層キャパシタなどの他の電気化学セルとして好適な構成にすることもできる。
【0042】
実施例1〜7
CV測定は、北斗電工社製HZ−3000を使用した。3極式のガラス製セルを用い、作用極をサンプル極とし、対極にPt、参照極にAg/AgCl電極、電解液として20〜40wt%の硫酸水溶液を使用した。200〜1500mVの範囲について掃引速度20mV/secにて掃引し、得られたCV曲線から、活物質1g当りのの電極容量(C/g)を算出した。
【0043】
サンプル極は次のようにして作製したものを用いた。活物質として、合成例1〜7で得た化合物70wt%に、導電補助剤として気相成長炭素繊維(VGCF)30wt%を加えた後、適当量の溶媒を添加し、混錬することでペースト状とした。このペーストを一定の面積のカーボンシートに均一に塗布し、一昼夜、減圧乾燥した。
【0044】
結果を表1に示す。表1において、R1〜R5及びR6は一般式(1)の2つのR1〜R5及びR6を示した。なお、R1〜R5ついて記載のないR1〜R5は全て水素である。
【0045】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】電気化学セルの断面構造を示す図
【符号の説明】
【0047】
1:集電体、2:正極材料層、3:セパレータ、4:負極材料層、5:ガスケット、6:集電体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池あるいはキャパシタの電極反応に関与する電極活物質であって、電極反応前又は後における化合物が、下記一般式(1)で表されるビス(フェニルアミノ)テレフタル酸化合物であることを特徴とする電極活物質。
【化1】

(ただし、R1〜R5はそれぞれ独立に、水素、ハロゲン、低級アルキル、ヒドロキシ、低級アルコキシ、置換若しくは無置換のアリールあるいはアリールオキシ、置換若しくは無置換のアミノ、カルボキシ、低級アルコキシカルボニル、ニトロ又はシアノ基を示し、R6はそれぞれ独立に、水素、低級アルキル又は置換若しくは無置換のアリールを示す。Xはそれぞれ独立に、酸素、窒素又は硫黄原子を示し、酸素、硫黄の場合、nは1を、窒素の場合、nは2を示す。)
【請求項2】
一般式(1)において、一部又は全部のR3が下記一般式(2)で表わされる基である請求項1記載の電極活物質。
【化2】

(ただし、式中、R7はそれぞれ独立に、水素、低級アルキル、置換若しくは無置換のアリール、アシル、低級アルコキシカルボニルを示す。)
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電極活物質を含む電気化学セル。

【図1】
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【公開番号】特開2008−204766(P2008−204766A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−38896(P2007−38896)
【出願日】平成19年2月20日(2007.2.20)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】