説明

電極用ペースト、電極、膜−電極接合体及び燃料電池

【課題】発電性能が高く、触媒層での亀裂の発生が抑制され、燃料電池用として好適な電極の提供。
【解決手段】白金担持カーボン13b、白金ブラック及びプロトン伝導性材料13aが配合されてなることを特徴とする電極用ペースト;かかる電極用ペーストが加熱及び固化されてなる触媒層を備えたことを特徴とする電極10;かかる電極が、電解質膜のカソード側に配置されてなることを特徴とする膜−電極接合体1;かかる膜−電極接合体を備えたことを特徴とする燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池への適用に好適な電極用ペースト、電極及び膜−電極接合体、並びにこれらを使用した燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、固体高分子形燃料電池は、電解質膜の両側に電極が配置された膜−電極接合体を、燃料ガス流路又は酸化剤ガス流路が形成されたセパレータで挟み込むことで単セルを構成し、これらが複数個積層されることで構成されている。固体高分子形燃料電池では、燃料としては水素や改質ガスが使用され、酸化剤としては空気や酸素ガスが使用されているが、携帯機器用として開発されている燃料電池ではメタノールが使用され、このような燃料電池は、直接メタノール型燃料電池と呼ばれている。
【0003】
燃料電池において使用される電極は、触媒を担持させた電子伝達性物質(触媒担持電子伝達性物質)と、酸基を有するプロトン伝導性材料とが配合されてなる触媒層を必須の構成要素とする。触媒担持電子伝達性物質としては様々なものが使用されているが、触媒としては白金を、電子伝達性物質としてはカーボン粉末を、それぞれ使用した白金担持カーボンが主流である。また、プロトン伝導性材料は、電解質膜であるスルホン化フッ素系樹脂(例えば、デュポン社製、ナフィオン(登録商標))を使用したものが主流であり、それ以外にも炭化水素系化合物、有機ケイ素化合物系を使用したもの等が開発されている。
【0004】
電極は、例えば、以下のような方法で製造できる。すなわち、プロトン伝導性材料をアルコール等の溶媒に溶解させた溶液を電極用バインダとし、これと白金担持カーボンとを混合して、電極用ペーストを作製する。そして、このペーストをカーボンペーパー等のガス拡散層上に直接塗布したり、ポリテトラフオロエチレン(PTFE)シート等に塗布してから、ガス拡散層上や電解質膜上に転写したりすることで製造できる。
【0005】
一方、燃料電池の発電性能の向上は、重要な課題である。そして、通常は、電極の単位面積あたりの白金含有量を増やすことで発電性能を向上させる。しかし、白金担持カーボンの白金担持量は最大でも70質量%程度であり、このような白金担持量で十分な発電性能を得ようとした場合には、白金担持カーボンの使用量を多くせざるを得ず、電極の触媒層は厚くなってしまう。この場合、触媒層に亀裂が発生することがあり、発電性能が不安定になり、出力が低くなってしまうという問題点があった。
これに対して、電子伝達性物質に担持されていない白金ブラックを使用した電極の製造方法(特許文献1参照)が開示されている。白金ブラックは、白金担持カーボンよりも白金比率が高いため、触媒層を厚くせずに単位面積あたりの白金含有量を増やすことができ、触媒層に亀裂が発生し難い。一方、亀裂が発生してしまった触媒層に対して、小さい粒子状の白金担持カーボンが配合されたペーストを塗布して、亀裂を埋めて修復する方法(特許文献2参照)も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−29005号公報
【特許文献2】特開2006−286477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の方法では、触媒層が緻密になり、ガス拡散性が低下するため、直接メタノール型燃料電池のアノード電極とした場合には問題ないが、酸化剤であるガスが供給されるカソード電極とした場合には、発電性能が低くなるという問題点があった。
また、特許文献2に記載の方法では、異なる材料を二種類準備してそれを塗布する必要があるため、手間を要するという問題点があった。また、亀裂の発生自体を抑制する方法でもない。
したがって、発電性能が高くても触媒層に亀裂が発生し難い電極が望まれるが、このような条件を十分に満たす電極が無いのが実情である。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、発電性能が高く、触媒層での亀裂の発生が抑制され、燃料電池用として好適な電極を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、白金担持カーボン、白金ブラック及びプロトン伝導性材料が配合されてなることを特徴とする電極用ペーストである。
請求項2にかかる発明は、前記白金担持カーボンの配合量1質量部あたりの、前記白金ブラックの配合量が、0.1〜5質量部であることを特徴とする請求項1に記載の電極用ペーストである。
請求項3にかかる発明は、前記白金担持カーボン及び白金ブラックの総配合量1質量部あたりの、前記プロトン伝導性材料の配合量が、0.1〜1質量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電極用ペーストである。
請求項4にかかる発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の電極用ペーストが加熱及び固化されてなる触媒層を備えたことを特徴とする電極である。
請求項5にかかる発明は、単位面積あたりの白金含有量が2mg/cm以上であることを特徴とする請求項4に記載の電極である。
請求項6にかかる発明は、請求項4又は5に記載の電極が、電解質膜のカソード側に配置されてなることを特徴とする膜−電極接合体である。
請求項7にかかる発明は、請求項6に記載の膜−電極接合体を備えたことを特徴とする燃料電池である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、発電性能が高く、触媒層での亀裂の発生が抑制され、燃料電池用として好適な電極を提供できる。また、かかる電極を使用することで、発電性能に優れた燃料電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の電極と、これを備えた膜−電極接合体を例示する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳しく説明する。
<電極用ペースト>
本発明の電極用ペーストは、白金担持カーボン、白金ブラック及びプロトン伝導性材料が配合されてなることを特徴とする。
以下、電極用ペーストに配合される各成分について説明する。
【0013】
(白金担持カーボン)
白金担持カーボンは、触媒として白金(Pt)を担持した電子伝達性物質である。
カーボンは、粒子状であることが好ましく、カーボンブラックが好適である。
担持させる白金は、粒子状であることが好ましく、その平均粒子径が小さいものほど好ましく、取り扱い性も考慮すると、平均粒子径が1〜5nmであることが好ましい。平均粒子径は透過型電子顕微鏡で測定できる。このような微粒子を使用することで、触媒の合計表面積を大きくでき、反応を促進する一層優れた効果が得られる。
白金担持カーボンとしては、市販品を使用しても良い。
【0014】
白金担持カーボン中の白金の含有率は、50質量%以上であることが好ましく、60〜80質量%であることがより好ましい。
【0015】
白金担持カーボンは、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すれば良い。なお、ここでは、白金及びカーボンの少なくとも一方の形状や平均粒子径が互いに異なる場合、又は白金含有量が互いに異なる場合には、「白金担持カーボンの種類が異なる」ことを指すものとする。
【0016】
(白金ブラック)
白金ブラックは、電子伝達性物質に担持されておらず、白金担持カーボンよりも白金比率が高いものである。ここで、電子伝達性物質としては、カーボン及び各種金属が例示できる。
白金ブラックとしては、市販品を使用しても良い。
【0017】
白金ブラック中の白金の含有率は、90質量%以上であることが好ましく、94質量%以上であることがより好ましく、96質量%以上であることが特に好ましい。上限値は、本発明の効果を妨げない限り、特に限定されない。
【0018】
白金ブラックは、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すれば良い。なお、ここでは、白金の形状や平均粒子径が互いに異なる場合、又は白金含有量が互いに異なる場合には、「白金ブラックの種類が異なる」ことを指すものとする。
【0019】
電極用ペーストにおいて、白金担持カーボンの配合量1質量部あたりの、白金ブラックの配合量は、0.1〜5質量部であることが好ましく、0.2〜3質量部であることがより好ましく、0.3〜2質量部であることが特に好ましい。下限値以上とすることで、触媒層の厚さを一層薄くでき、上限値以下とすることで、発電性能を一層向上させることができる。
【0020】
(プロトン伝導性材料)
プロトン伝導性材料は、燃料電池分野において使用される公知のもので良く、特に限定されない。具体的には、スルホン酸基(スルホ基)、カルボン酸基(カルボキシル基)、リン酸基、ホスホン酸基若しくはホスフィン酸基等の酸基を有するフッ素樹脂又は炭化水素樹脂等が例示でき、プロトン伝導性膜と同様の材質であることが好ましい。
プロトン伝導性材料としては、市販品を使用しても良く、酸基を有するフッ素樹脂であれば、好ましいものとして、ナフィオン(デュポン社製、(登録商標))が例示できる。
【0021】
電極用ペーストにおいて、白金担持カーボン及び白金ブラックの総配合量1質量部あたりの、プロトン伝導性材料の配合量は、0.1〜1質量部であることが好ましく、0.15〜0.8質量部であることがより好ましく、0.2〜0.7質量部であることが特に好ましい。下限値以上とすることで、プロトン伝導性の向上により、電極の発電性能が一層向上する。また、上限値以下とすることで、プロトン伝導性材料によるガス拡散経路の閉塞が抑制され、抵抗が一層低減される。
【0022】
(溶媒)
電極用ペーストには、白金担持カーボン、白金ブラック及びプロトン伝導性材料以外に、さらに、配合成分を溶解又は分散させるための溶媒が別途配合されていることが好ましい。
溶媒としては、配合成分と反応しないものであれば任意に選択できるが、水、アルコールが好ましい。アルコールとしては、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコールが例示できる。
溶媒は、一種を単独で使用しても良いし、二種以上を併用しても良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率は目的に応じて適宜選択すれば良い。
好ましい溶媒としては、水及びアルコールの混合溶媒が例示できる。
【0023】
(その他の成分)
電極用ペーストには、白金担持カーボン、白金ブラック、プロトン伝導性材料及び溶媒以外に、本発明の効果を妨げない範囲内で、さらに、これら以外のその他の成分が配合されていても良い。前記その他の成分の配合量は、配合成分の種類に応じて適宜調節すれば良い。
そして、電極用ペーストは、白金担持カーボン、白金ブラック及びプロトン伝導性材料、並びに必要に応じて溶媒のみが配合されてなるものでも良い。
【0024】
電極用ペーストにおいて、固形分の総配合量1質量部あたりの、溶媒の配合量は、2〜20質量部であることが好ましく、4〜12質量部であることがより好ましい。このような範囲とすることで、電極用ペーストの取り扱い性が一層向上する。
【0025】
電極用ペーストが溶媒を含有する場合、電極用ペースト中の白金担持カーボン及び白金ブラックの総配合量は、2〜30質量部であることが好ましく、5〜15質量部であることがより好ましい。このような範囲とすることで、電極は本発明の効果に一層優れたものとなる。
【0026】
<電極用ペーストの製造方法>
前記電極用ペーストは、白金担持カーボン、白金ブラック及びプロトン伝導性材料、並びに必要に応じて溶媒及び/又は前記その他の成分を配合することで製造できる。各成分は配合後、各種手段により十分に混合することが好ましい。
前記各成分を配合する方法は特に限定されないが、白金担持カーボン及び白金ブラックは、水を添加して湿潤化させてから配合することが好ましい。さらに、必要に応じて配合時に、前記溶媒を別途添加しても良い。
各成分の配合は、混合しながら行っても良いし、全成分を配合してからこれを混合しても良く、配合成分を均一に分散させることができれば良い。
前記各成分の混合方法は特に限定されず、例えば、ボールミル、スターラー、超音波分散機、超音波ホモジナイザー、自公転ミキサー等を使用する公知の方法を適用すれば良い。混合条件は、各種方法により適宜設定すれば良いが、混合時の温度は、10〜30℃であることが好ましい。混合時間は混合方法に応じて適宜設定すれば良いが、通常は5〜40分間であることが好ましい。
【0027】
<電極、膜−電極接合体>
本発明の電極は、上記本発明の電極用ペーストが加熱及び固化されてなる触媒層を備えたことを特徴とする。
また、本発明の膜−電極接合体は、上記本発明の電極が、電解質膜のカソード側に配置されてなることを特徴とする。
ここで、図面を参照しながら、電極及び膜−電極接合体について説明する。
【0028】
図1は本発明の電極と、これを備えた膜−電極接合体とを例示する概略図である。なお、本発明の電極及び膜−電極接合体は、ここに示すものに限定されず、本発明の効果を損なわない範囲内において、適宜構成の一部を変更できることは言うまでもない。
電解質膜11の両面には触媒層13が設けられ、触媒層13上にはガス拡散層14が設けられて、膜−電極接合体1が構成されている。そして、触媒層13及びガス拡散層14により、電極10が構成される。ただし、ガス拡散層14は、必須の構成要素ではなく、必要に応じて設ければ良い。したがって、触媒層13のみで電極が構成されることもある。
触媒層13は、プロトン伝導性材料の硬化物13a中に、白金担持カーボン又は白金ブラック13bが分散した構造を有する。白金担持カーボン又は白金ブラック13bは、電解質膜11とガス拡散層14との間で、互いに接触した状態で連続して存在する。
なお、図1では、膜−電極接合体1のうち、電解質膜11の一方の表面11a側の構造のみを例示しているが、該表面11aとは反対側も同様の構造を有しており、ここでは図示を省略する。
以下、各構成について、さらに詳しく説明する。
【0029】
[電解質膜]
電解質膜11は、公知のものを使用でき、プロトン伝導性膜が特に好適である。なかでも、電解質膜11としては、直接メタノール型燃料電池用の電解質膜が好ましく、市販品であれば、ナフィオン(登録商標)(デュポン社製)が例示できる。
【0030】
[電極(触媒層)]
触媒層13は、上記本発明の電極用ペーストが、加熱及び固化されてなるものである。
触媒層13は、電極10の必須の構成要素である。本発明においては、上記本発明の電極用ペーストを使用することで、白金含有量が高い触媒層を形成できる。その結果、触媒層は発電性能が高いので、従来の触媒層よりも厚さを薄くでき、触媒層での亀裂の発生が抑制できる。
触媒層13は、単位面積あたりの白金含有量が、2mg/cm以上であることが好ましい。このようにすることで、触媒層13は、厚さが薄くても発電性能が一層高くなる。
触媒層13の白金含有量は、電極用ペーストの使用量で調節できる。
【0031】
触媒層13の厚さは、10〜80μmであることが好ましく、20〜60μmであることがより好ましい。下限値以上とすることで、発電性能が一層向上し、上限値以下とすることで、亀裂の発生が一層抑制できる。
【0032】
[ガス拡散層]
ガス拡散層14は、気体、又はメタノールや水等の液体の拡散を最適化させるためのものであり、例えば、多孔質導電シートで構成される。
また、ガス拡散層14は、撥水化されたものが好ましい。特に、カソード側の電極では、生成された水によってフラッディングを起こしてしまうことがあるが、ガス拡散層14を撥水化することで、生成水を排除でき、フラッディングの発生を効果的に抑制できる。
ガス拡散層14の厚さは、50〜500μmであることが好ましく、100〜400μmであることがより好ましい。
【0033】
また、ガス拡散層14と触媒層13との間には、さらに導電性中間層(図示略)を設けても良い。導電性中間層としては、撥水性材料であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と、電子伝達性媒体であるカーボンブラックとの混合体が好ましい。この場合、カーボンブラックとPTFEの混合比(カーボンブラック:PTFE、質量比)は、3:7〜7:3であることが好ましく、4:6〜6:4であることがより好ましい。
導電性中間層の厚さは、上限が0.1mmであることが好ましい。このようにすることで、抵抗値の上昇を抑制でき、出力を一層向上させることができる。一方、厚さの下限は、導電性中間層の強度等を考慮して適宜設定すれば良い。
また、カーボンブラックとしては、比表面積が10m/g以上のものが好ましい。
【0034】
<電極の製造方法、膜−電極接合体の製造方法>
電極10(触媒層13)及び膜−電極接合体1は、例えば、以下の方法で製造できる。
すなわち、ガス拡散層14上に電極用ペーストを塗布し、これを加熱して固化させることで電極10(触媒層13)を形成させる。次いで、このような電極10を二つ使用して、そのガス拡散層14側とは反対側の面(触媒層13の表面)を、電解質膜11の両面にそれぞれ一つずつ接触させて加熱し、接合させることで、膜−電極接合体1が得られる。
または、電解質膜11の両面に電極用ペーストをそれぞれ塗布し、加熱して接合させ、次いで、接合された電極用ペーストの接合面とは反対側の面(露出面)をそれぞれ、ガス拡散層14上に接触させて加熱し、固化させることで電極10(触媒層13)及び膜−電極接合体1を同時に形成させても良い。
【0035】
電極用ペーストは公知の方法で塗布すれば良く、塗布方法として具体的には、ペースト法、バーコート法、スプレー法、スクリーン印刷法等が例示できる。
電極10形成時の電極用ペーストの加熱温度は、固化(硬化)が十分に進行する限り特に限定されないが、50℃以上であることが好ましい。また、加熱温度の上限は、膜やガス拡散層の物性が損なわれない範囲であれば特に限定されないが、通常は200℃であることが好ましい。
電極用ペーストの加熱時には、同時に加圧しても良い。このように加熱プレスすることで、白金担持カーボン又は白金ブラック13b同士の密着性が向上し、電子伝達性が向上する。加圧時の圧力は、加圧方法や電極の種類に応じて適宜調節することが好ましいが、通常は、0.1kN/cm以上であることが好ましい。また圧力の上限は、電極が破壊されない範囲であれば特に限定されない。
電極10形成時の電極用ペーストの加熱時間は、加熱温度や加圧の有無に応じて適宜設定すれば良いが、加圧しない場合には10分以上であることが好ましく、加圧する場合には2分以上であることが好ましい。
【0036】
さらに、電極用ペーストは対象箇所に直接塗布せずに、別の基材上に塗布して加熱及び固化させた後、これを対象箇所に押圧するなどして転写しても良い。このような方法で、例えば、図1におけるガス拡散層14及び電解質膜11のいずれにも転写できる。
【0037】
ここでは、ガス拡散層を備える電極及び膜−電極接合体の製造方法について説明したが、ガス拡散層を備えない場合には、ガス拡散層を使用しないこと以外は上記と同様の方法で、電極及び膜−電極接合体を製造すれば良い。
【0038】
このように本発明の電極(触媒層)は、本発明の電極用ペーストを使用して、これを固化させることで製造でき、簡便に且つ低コストで製造できる。しかも、得られる電極は、発電性能が高く、触媒層での亀裂の発生が抑制されたものとなる。
【0039】
<燃料電池及びその製造方法>
本発明の燃料電池は、上記本発明の膜−電極接合体を備えたことを特徴とする。そして、本発明の燃料電池は、本発明の膜−電極接合体を使用すること以外は、公知の方法で製造できる。
燃料電池として、具体的には、膜−電極接合体の外側に、燃料及び空気(酸素)の通路となる一対のセパレータが設置され、さらにこれらセパレータの外側に、電流を取り出すための集電板が設置された形態のものが例示できる。
また、膜−電極接合体を単位セルとして、その外側に、燃料及び酸素(空気)の通路となる一対のセパレータが設置され、隣り合う複数の単位セルが相互に連結された形態のものが例示できる。
本発明の燃料電池は、本発明の電極を備えたことにより、発電性能に優れる。さらに、電極が安価なので、低コストで製造できる。
【実施例】
【0040】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
<電極用ペースト、電極及び膜−電極接合体の作製>
[実施例1]
(1)カソード電極用ペースト、カソード電極の作製
白金担持カーボン(田中貴金属社製TEC10E70TPM、Pt70質量%)0.2gと白金ブラック(田中貴金属社製TEC90330、Pt97質量%)0.1gの混合物に、水0.7gを加えて湿潤させた。これに、ナフィオン分散溶液(濃度20質量%、デュポン社製)0.57gと2−プロパノール1.8gを加えた後、超音波分散機により20〜25℃で20分間処理をして、カソード電極用ペーストを作製した。ペースト中の成分の配合量を表1及び2に示す。
作製したカソード電極用ペーストを、白金含有量が3.0mg/cmになるまで、ガス拡散層(SGLカーボン社製GDL25BC、導電性中間層付き、厚さ220μm)上に薄く均一に塗布した。次いで、これを80℃で30分間加熱することで、カソード電極を作製した。
【0042】
(2)アノード電極用ペースト、アノード電極の作製
白金−ルテニウムブラック(田中貴金属社製TEC90110、Pt60質量%、Ru31質量%)0.2gに、水0.5gを加えて湿潤させた。これに、ナフィオン分散溶液(濃度20質量%、デュポン社製)0.33gと2−プロパノール0.8gを加えた後、超音波分散機により20〜25℃で20分間処理をして、アノード電極用ペーストを作製した。
作製したアノード電極用ペーストを、白金含有量が3.0mg/cmになるまで、ガス拡散層(東レ社製TGP−H−120、厚み200μm)上に薄く均一に塗布した。次いで、これを80℃で30分間加熱することで、アノード電極を作製した。
【0043】
(3)膜−電極接合体の作製
前記カソード電極とアノード電極を25mm角に切断し、これを、電解質膜であるナフィオン117(登録商標)(デュポン社製)を50mm角に切断したものと接合して、膜−電極接合体を作製した。この時の接合は、熱プレス機(新東工業社製)で140℃−1kNの条件で3分間加圧することで行った。
【0044】
[実施例2]
白金担持カーボンの使用量を0.15g、白金ブラックの使用量を0.15gとしたこと以外は、実施例1と同様に、カソード電極用ペーストを作製した。そして、実施例1と同様に、カソード電極、アノード電極及び膜−電極接合体を作製した。
【0045】
[実施例3]
ナフィオン分散溶液(濃度20質量%、デュポン社製)の使用量を0.72gとしたこと以外は、実施例1と同様に、カソード電極用ペーストを作製した。そして、実施例1と同様に、カソード電極、アノード電極及び膜−電極接合体を作製した。
【0046】
[比較例1]
(1)カソード電極用ペースト、カソード電極の作製
白金担持カーボン(田中貴金属社製TEC10E70TPM、Pt70質量%)0.35gに、水1.0gを加え湿潤させた。これに、ナフィオン分散溶液(濃度20質量%、デュポン社製)0.8gと2−プロパノール2.7gを加えた後、超音波分散機により20〜25℃で20分間処理をして、カソード電極用ペーストを作製した。ペースト中の成分の配合量を表1及び2に示す。
作製したカソード電極用ペーストを、白金含有量が3.0mg/cmになるまで、ガス拡散層(SGLカーボン社製GDL25BC、導電性中間層付き、厚さ220μm)上に薄く均一に塗布した。次いで、これを80℃で30分間加熱することで、カソード電極を作製した。
【0047】
(2)アノード電極用ペースト、アノード電極の作製
実施例1と同様の方法で、アノード電極用ペースト、アノード電極を作製した。
【0048】
(3)膜−電極接合体の作製
実施例1と同様の方法で、膜−電極接合体を作製した。
【0049】
[比較例2]
(1)カソード電極用ペースト、カソード電極の作製
白金ブラック(田中貴金属社製TEC90330、Pt97質量%)0.25gに、水0.5gを加え湿潤させた。これに、ナフィオン分散溶液(濃度20質量%、デュポン社製)0.4gと2−プロパノール0.8gを加えた後、超音波分散機により20〜25℃で20分間処理をして、カソード電極用ペーストを作製した。ペースト中の成分の配合量を表1及び2に示す。
作製したカソード電極用ペーストを、白金含有量が3.0mg/cmになるまでガス拡散層(SGLカーボン社製GDL25BC、導電性中間層付き、厚さ220μm)上に薄く均一に塗布した。次いで、これを80℃で30分間加熱することで、カソード電極を作製した。
【0050】
(2)アノード電極用ペースト、アノード電極の作製
実施例1と同様の方法で、アノード電極用ペースト、アノード電極を作製した。
【0051】
(3)膜−電極接合体の作製
実施例1と同様の方法で、膜−電極接合体を作製した。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
<電極、膜−電極接合体及び燃料電池の評価>
(I)電極の外観評価
実施例1〜3及び比較例1〜2の膜−電極接合体における、カソード電極の触媒層の厚さを測定し、外観を目視で評価した。触媒層の厚さはマイクロメーターにより電極の厚さを測定し、これから事前に測定した拡散層の厚さを差し引くことで求めた。結果を表3に示す。
【0055】
表3に示すように、実施例1〜3の膜−電極接合体では、カソード電極の触媒層に亀裂は見られず、良好な状態であった。これに対して、比較例1では、カソード電極の触媒層に多数の亀裂が見られた。比較例2では、触媒層に亀裂は見られなかったものの、電極用ペーストの拡散層への染み込みが多いことが確認された。実施例1〜3のカソード電極では、電極用ペーストの拡散層への染み込みは認められなかった。
【0056】
【表3】

【0057】
(II)発電性能評価
実施例1〜3及び比較例1〜2の膜−電極接合体を、燃料電池用単セル(JARI標準セル)に規定の方法でセットした。このセルを燃料電池発電評価装置(エヌエフ回路ブロック設計社製As−510)にセットし、セルの温度を70℃、メタノールの濃度を3質量%、流量を毎分1ml、空気の流量を毎分600mlに設定して運転し、セルのI−Vを計測して最大出力を比較した。結果を表4に示す。
【0058】
表4に示すように、実施例1〜3の膜−電極接合体では、いずれも十分な発電性能を発現していることが確認できた。
これに対して、比較例1の膜−電極接合体では、カソード電極の触媒層に亀裂が多いため、発電性能が低くなっており、不安定であった。比較例2の膜−電極接合体では、カソード側で電極ペーストの拡散層への染み込みが多いため、発電性能が低くなった。
【0059】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、固体高分子形燃料電池に利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
1・・・膜−電極接合体、10・・・電極、11・・・電解質膜、11a・・・電解質膜の一方の表面、13・・・触媒層、13a・・・プロトン伝導性材料の硬化物、13b・・・白金担持カーボン及び白金ブラック、14・・・ガス拡散層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
白金担持カーボン、白金ブラック及びプロトン伝導性材料が配合されてなることを特徴とする電極用ペースト。
【請求項2】
前記白金担持カーボンの配合量1質量部あたりの、前記白金ブラックの配合量が、0.1〜5質量部であることを特徴とする請求項1に記載の電極用ペースト。
【請求項3】
前記白金担持カーボン及び白金ブラックの総配合量1質量部あたりの、前記プロトン伝導性材料の配合量が、0.1〜1質量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電極用ペースト。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の電極用ペーストが加熱及び固化されてなる触媒層を備えたことを特徴とする電極。
【請求項5】
単位面積あたりの白金含有量が2mg/cm以上であることを特徴とする請求項4に記載の電極。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の電極が、電解質膜のカソード側に配置されてなることを特徴とする膜−電極接合体。
【請求項7】
請求項6に記載の膜−電極接合体を備えたことを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−204448(P2011−204448A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−70150(P2010−70150)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】