説明

電極用ペースト組成物及び太陽電池

【課題】銀の使用量を低減し且つ抵抗率の上昇を抑えた電極を形成可能な電極用ペースト組成物、又は鉛フリーガラスを用いても抵抗率の低い電極が形成可能な電極用ペースト組成物の提供。更に、該電極用ペースト組成物を用いて形成された電極を有する太陽電池の提供。
【解決手段】本発明の第一の電極用ペースト組成物は、銀合金粒子、ガラス粒子、樹脂、及び溶剤を含む。また、本発明の第二の電極用ペースト組成物は、銅粒子、銀又は銀合金粒子、P及びVを含むガラス粒子、樹脂、及び溶剤を含み、銀又は銀合金粒子に対する銅粒子の含有率が9質量%〜88質量%である。更に、本発明の太陽電池セルは、上記電極用ペースト組成物を用いて形成された電極を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極用ペースト組成物及び太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に結晶シリコン系太陽電池には表面電極が設けられており、この表面電極の配線抵抗や接触抵抗は変換効率に関連する電圧損失に関連し、また配線幅や形状は太陽光の入射量に影響を与える(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
太陽電池の表面電極は通常以下のようにして形成される。すなわち、p型シリコン基板の受光面側にリン等を高温で熱的に拡散させることにより形成されたn型半導体層上に、導電性組成物をスクリーン印刷等により塗布し、これを800〜900℃で焼成することで表面電極が形成される。この表面電極を形成する導電性組成物には、導電性金属粉末、ガラス粒子、および種々の添加剤等が含まれる。
【0004】
前記導電性金属粉末としては、銀粉末が一般的に用いられているが、種々の理由から銀粉末以外の金属粉末を用いることが検討されている。例えば、銀とアルミニウムを含む太陽電池用電極を形成可能な導電性組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また銀を含む金属ナノ粒子と銀以外の金属粒子を含む電極形成用組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−313744号公報
【特許文献2】特開2008−226816号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】濱川圭弘著、「太陽光発電 最新の技術とシステム」、CMC出版社、2001年、p26−27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に電極形成に用いられる銀は貴金属であり、資源の問題からも、また地金自体が高価であることから銀含有導電性組成物(銀含有ペースト)に代わるペースト材料の提案が望まれている。
そこで、本発明の第一の課題は、銀の使用量を低減し且つ抵抗率の上昇が抑えられた電極を形成可能な電極用ペースト組成物、および、該電極用ペースト組成物を用いて形成された電極を有する太陽電池を提供することである。
【0008】
また、導電性組成物中に含まれるガラス粒子としては、環境に対する影響を考慮すると、鉛を実質的に含まない鉛フリーガラスを用いることが好ましい。鉛フリーガラスとしては、低接触抵抗率の観点から、五酸化二リンを含むガラス(リン酸ガラス、P系ガラス)からなることが好ましく、五酸化二リンに加えて五酸化二バナジウムを更に含むガラス(P−V系ガラス)からなることがより好ましい。五酸化二バナジウムを更に含むことで、耐酸化性がより向上し、電極の抵抗率がより低下する。これは、例えば、五酸化二バナジウムを更に含むことでガラスの軟化点が低下することに起因すると考えることができる。
【0009】
しかしながら、V(五酸化二バナジウム)は、導電性金属粉末として含有される銀と反応してしまい、形成される電極の抵抗率が高くなることが明らかとなった。
そこで本発明の第二の課題は、鉛フリーガラスを用いても抵抗率の低い電極が形成可能な電極用ペースト組成物、および、該電極用ペースト組成物を用いて形成された電極を有する太陽電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、銀合金粒子、ガラス粒子、樹脂、及び溶剤を含む電極用ペースト組成物である。この電極用ペースト組成物は、銀粒子をさらに含むことが好ましい。さらにガラス粒子は、P及びVを含むガラスであることが好ましい。また、この電極用ペースト組成物は、前記銀合金粒子および前記銀粒子の総含有率が70質量%以上94質量%以下であって、前記ガラス粒子の含有率が0.1質量%以上10質量%以下であって、前記溶剤および前記樹脂の総含有率が3質量%以上29.9質量%以下であることが好ましい。
【0011】
本発明の第2の態様は、銅粒子、銀又は銀合金粒子、P及びVを含むガラス粒子、樹脂、及び溶剤を含み、前記銀又は銀合金粒子に対する銅粒子の含有率が、9質量%〜88質量%である電極用ペースト組成物である。
【0012】
本発明の第3の態様は、前記電極用ペースト組成物をシリコン基板に塗布した後に焼成されてなる電極を有する太陽電池である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、銀の使用量を低減し且つ抵抗率の上昇が抑えられた電極を形成可能な電極用ペースト組成物、および、該電極用ペースト組成物を用いて形成された電極を有する太陽電池を提供することができる。
また、本発明によれば、鉛フリーガラスを用いても抵抗率の低い電極が形成可能な電極用ペースト組成物、および、該電極用ペースト組成物を用いて形成された電極を有する太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明にかかる太陽電池の断面図である。
【図2】本発明にかかる太陽電池の受光面側を示す平面図である。
【図3】本発明にかかる太陽電池の裏面側を示す平面図である。
【図4】(a)本発明にかかるセルバックコンタクト型太陽電池のAA断面構成を示す斜視図である。(b)本発明にかかるセルバックコンタクト型太陽電池の裏面側電極構造を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書において「〜」はその前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0016】
<第一の態様の電極用ペースト組成物>
本発明の第一の態様の電極用ペースト組成物は、銀合金粒子、ガラス粒子、樹脂、及び溶剤を含む。銀合金粒子とすることで、銀の使用量が低減でき且つ抵抗率の上昇を抑えた電極を形成可能とする。
以下では、第一の態様の電極用ペースト組成物を構成する各成分について詳細に説明する。
【0017】
(銀合金粒子)
本発明に係る銀合金粒子は、少なくとも銀を含む合金であり、銀以外の構成元素としては、Cu、P、Zn、Mn、Mg、V、Sn、Zr、W、Mo、Ti、Co、Sb及びNiなどが挙げられ、それぞれ1種単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0018】
また、銀は、不可避的に混入する他の原子をさらに含んでいてもよい。不可避的に混入する他の原子としては、例えば、Sb、Si、K、Na、Li、Ba、Sr、Ca、Mg、Be、Zn、Pb、Cd、Tl、V、Sn、Al、Zr、W、Mo、Ti、Co、Ni、およびAu等を挙げることができる。
【0019】
好適な銀合金の組成は、Ag−Cu、Ag−Cu−P、Ag−Cu−Mn、Ag−Cu−Zn、Ag−Cu−Mg、Ag−Cu−V、Ag−Cu−Sn、Ag−Cu−Ti、Ag−Cu−Co、Ag−Cu−Sb、Ag−Cu−P−Mn、Ag−Cu−P−Zn、Ag−Cu−P−Mg、Ag−Cu−P−V、Ag−Cu−P−Sn、Ag−Cu−P−Ti、Ag−Cu−P−Co、Ag−Cu−P−Sbなどである。
例えば、Ag−Cu合金の場合には、Agの含有率が12〜91質量%で、Cuの含有率が9〜88質量%の場合が好ましく、Agの含有率が23〜83質量%で、Cuの含有率が17〜77質量%の場合がより好ましい。
また、Ag−Cu−P合金の場合には、Agの含有率が12〜91質量%で、Cuの含有率が1〜87.99質量%で、Pの含有率が0.01〜8質量%の場合が好ましく、Agの含有率が23〜83質量%で、Cuの含有率が9.5〜76質量%で、Pの含有率が1〜7.5質量%の場合がより好ましい。
【0020】
本発明における銀合金粒子中の銀の含有率は、銀合金粒子の全質量中に12〜91質量%であることが好ましく、23〜83質量%であることがより好ましい。
上記範囲内の場合には、銀の使用量の低減効果があり、且つ電極の低効率の上昇が抑えられる。
【0021】
銀合金は、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
前記銀合金粒子の粒子径としては特に制限はないが、積算した質量が50%の場合における粒子径(以下、「D50%」と略記することがある)として、0.4μm〜10μmであることが好ましく、1μm〜7μmであることがより好ましい。0.4μm以上とすることでより効果的に耐酸化性が向上する。また10μm以下であることで電極中における銀合金粒子どうしの接触面積が大きくなり、抵抗率がより効果的に低下する。
また前記銀合金粒子の形状としては特に制限はなく、略球状、扁平状、ブロック状、板状、および鱗片状等のいずれであってもよいが、耐酸化性と低抵抗率の観点から、略球状、扁平状、または板状であることが好ましい。
【0023】
銀合金は、通常用いられる方法で製造することができる。また、銀合金粒子は、所望の銀含有率となるように調製した銀合金を用いて、金属粉末を調製する通常の方法を用いて調製することができ、例えば、水アトマイズ法を用いて定法により製造することができる。水アトマイズ法は金属便覧(丸善(株)出版事業部)等に記載されている。
具体的には例えば、銀合金を溶解し、これをノズル噴霧によって粉末化した後、得られた粉末を乾燥、分級することで、所望のリン含有銅合金粒子を製造することができる。また、分級条件を適宜選択することで所望の粒子径を有する銀合金粒子を製造することができる。
【0024】
本発明の電極用ペースト組成物に含まれる前記銀合金粒子の含有率、また後述する銀粒子を含む場合の銀合金粒子と銀粒子の総含有率としては、例えば、70〜94質量%とすることができ、耐酸化性と低抵抗率の観点から、72〜90質量%であることが好ましく、74〜88質量%であることがより好ましい。
前記銀合金粒子および前記銀粒子の総含有量が70質量%以上であることで、電極用ペースト組成物を付与する際に好適な粘度を容易に達成することができる。また前記銀合金粒子および前記銀粒子の総含有量が94質量%以下であることで、電極用ペースト組成物を付与する際のかすれの発生をより効果的に抑制することができる。
【0025】
さらに本発明においては、耐酸化性と電極の低抵抗率の観点から、銀含有率が12〜91質量%である銀合金粒子の含有率、また後述する銀粒子を含む場合には12〜91質量%の銀含有率の銀合金粒子と銀粒子の総含有率が、電極用ペースト組成物中に70〜94質量%であることが好ましく、銀含有率が23〜83質量%である銀合金粒子、また後述する銀粒子を含む場合には23〜83質量%の銀含有率の銀合金粒子と銀粒子の総含有率を、電極用ペースト組成物中に74〜88質量%含むことがより好ましい。
また本発明においては、前記銀合金粒子以外の導電性の粒子を組み合わせて用いても良い。このような導電性粒子としては、後述の銀粒子等が挙げられる。
【0026】
(ガラス粒子)
本発明の第一の態様の電極用ペースト組成物は、ガラス粒子の少なくとも1種を含む。電極用ペースト組成物がガラス粒子を含むことにより、電極形成温度において、いわゆるファイアースルーによって反射防止膜である窒化ケイ素膜が取り除かれ、電極とシリコン基板とのオーミックコンタクトが形成される。
【0027】
前記ガラス粒子は、電極形成温度で軟化・溶融し、接触した窒化ケイ素膜を酸化し、酸化された二酸化ケイ素を取り込むことで、反射防止膜を除去可能なものであれば、当該技術分野において通常用いられるガラス粒子を特に制限なく用いることができる。
本発明においては、耐酸化性と電極の低抵抗率の観点から、ガラス軟化点が600℃以下であって、結晶化開始温度が600℃を超えるガラスを含むガラス粒子であることが好ましい。更にガラス軟化点は450℃以下であることが電極の低抵抗率の観点からより好ましい。
尚、前記ガラス軟化点は、熱機械分析装置(TMA)を用いて通常の方法によって測定され、また前記結晶化開始温度は、示差熱−熱重量分析装置(TG−DTA)を用いて通常の方法によって測定される。
【0028】
一般に電極用ペースト組成物に含まれるガラス粒子は、二酸化ケイ素を効率よく取り込み可能であることから鉛を含むガラスから構成される。このような鉛を含むガラスとしては、例えば、特許第03050064号公報等に記載のものを挙げることができ、本発明においてもこれらを好適に使用することができる。
また本発明においては、環境に対する影響を考慮すると、鉛を実質的に含まない鉛フリーガラスを用いることが好ましい。鉛フリーガラスとしては、例えば、特開2006−313744号公報の段落番号0024〜0025に記載の鉛フリーガラスや、特開2009−188281号公報等に記載の鉛フリーガラスを挙げることができ、これらの鉛フリーガラスから適宜選択して本発明に適用することもまた好ましい。
【0029】
また前記ガラス粒子は、低接触抵抗率の観点から、五酸化二リンを含むガラス(リン酸ガラス、P系ガラス)からなることが好ましく、五酸化二リンに加えて五酸化二バナジウムを更に含むガラス(P−V系ガラス)からなることがより好ましい。五酸化二バナジウムを更に含むことで、耐酸化性がより向上し、電極の抵抗率がより低下する。これは、例えば、五酸化二バナジウムを更に含むことでガラスの軟化点が低下することに起因すると考えることができる。
【0030】
前記ガラス粒子が、五酸化二リン−五酸化二バナジウム系ガラス(P−V系ガラス)からなる場合、五酸化二バナジムの含有率としては、ガラスの全質量中に1質量%以上であることが好ましく、1〜70質量%であることがより好ましい。
【0031】
また前記五酸化二リン−五酸化二バナジウム系ガラスは、必要に応じてその他の成分を更に含むことができる。その他の成分としては酸化バリウム(BaO)、二酸化マンガン(MnO)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)、二酸化ジルコニウム(ZrO)、三酸化タングステン(WO)、酸化テルル(TeO)、三酸化モリブデン(MoO)、三酸化二アンチモン(Sb)等を挙げることができる。その他の成分を更に含むことで、窒化ケイ素に由来する二酸化ケイ素を、より効率よく取り込むことができる。また軟化・溶解温度をより低下させることができる。さらに銅含有粒子や必要に応じて含まれる銀粒子との反応を抑制することができる。
【0032】
なお、ガラス粒子が五酸化二バナジウムを含む場合には、銀とバナジウムとの反応が進行するが、銀合金とすることで前記反応が抑制され、電極の体積抵抗がより低下する。また、太陽電池としたときのエネルギー変換効率向上を目的とした電極形成シリコン基板のフッ酸水溶液処理において、電極材の耐フッ酸水溶液性(フッ酸水溶液によって電極材がシリコン基板から剥離しない性質)が向上する。
【0033】
前記ガラス粒子の含有率としては、第一の態様の電極用ペースト組成物の全質量中に0.1〜10質量%であることが好ましく、0.5〜8質量%であることがより好ましく、1〜7質量%であることがさらに好ましい。かかる範囲の含有率でガラス粒子を含むことにより、より効果的に耐酸化性、電極の低抵抗率および低接触抵抗が達成される。
【0034】
本発明においては、ガラス粒子として、P−V系ガラスからなるガラス粒子を第一の態様の電極用ペースト組成物の全質量中に0.1〜10質量%で含むことが好ましく、Vの含有量が0.1質量%以上であるP−V系ガラスからなるガラス粒子を1〜7質量%含むことがより好ましい。
【0035】
(溶剤および樹脂)
本発明の第一の態様の電極用ペースト組成物は、溶剤の少なくとも1種と樹脂の少なくとも1種とを含む。これにより本発明の電極用ペースト組成物の液物性(例えば、粘度、表面張力等)を、シリコン基板に付与する際の付与方法に応じて必要とされる液物性に調整することができる。
【0036】
前記溶剤としては特に制限はない。例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエンなどの炭化水素系溶剤;ジクロロエチレン、ジクロロエタン、ジクロロベンゼンなどの塩素化炭化水素系剤;テトラヒドロフラン、フラン、テトラヒドロピラン、ピラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、トリオキサンなどの環状エーテル系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤;エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系化合物;2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノプロピオレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノブチレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、2,2,4−トリエチル−1,3−ペンタンジオールモノアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどの多価アルコールのエステル系溶剤;ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテルなとの多価アルコールのエーテル系溶剤;α−テルピネン、α−テルピネオール、ミルセン、アロオシメン、リモネン、ジペンテン、α−ピネン、β−ピネン、ターピネオール、カルボン、オシメン、フェランドレンなどのテルペン系溶剤、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0037】
本発明における前記溶剤としては、電極用ペースト組成物をシリコン基板に形成する際の塗布性、印刷性の観点から、多価アルコールのエステル系溶剤、テルペン系溶剤、および多価アルコールのエーテル系溶剤から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、多価アルコールのエステル系溶剤およびテルペン系溶剤から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
本発明において前記溶剤は1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
また前記樹脂としては焼成によって熱分解されうる樹脂であれば、当該技術分野において通常用いられる樹脂を特に制限なく用いることができる。具体的には例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂;ポリビニルアルコール類;ポリビニルピロリドン類;アクリル樹脂;酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体;ポリビニルブチラール等のブチラール樹脂;フェノール変性アルキド樹脂、ひまし油脂肪酸変性アルキド樹脂のようなアルキド樹脂;エポキシ樹脂;フェノール樹脂;ロジンエステル樹脂等を挙げることができる。
【0039】
本発明における前記樹脂としては、焼成時における消失性の観点から、セルロース系樹脂、およびアクリル樹脂から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、セルロース系樹脂から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
本発明において前記樹脂は1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0040】
本発明の第一の態様の電極用ペースト組成物において、前記溶剤と前記樹脂の含有量は、所望の液物性と使用する溶剤および樹脂の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、溶剤と樹脂の総含有量が、第一の態様の電極用ペースト組成物の全質量中に3〜29.9質量%であることが好ましく、5〜25質量%であることがより好ましく、7〜20質量%であることがさらに好ましい。
溶剤と樹脂の総含有量が前記範囲内であることにより、電極用ペースト組成物をシリコン基板に付与する際の付与適性が良好になり、所望の幅および高さを有する電極をより容易に形成することができる。
【0041】
(銀粒子)
本発明の第一の態様の電極用ペースト組成物は、銀粒子の少なくとも1種を更に含むことが好ましい。銀粒子を含むことで耐酸化性がより向上し、電極としての抵抗率がより低下する。さらに太陽電池モジュールとした場合のはんだ接続性が向上するという効果も得られる。
【0042】
前記銀粒子を構成する銀は、不可避的に混入する他の原子を含んでいてもよい。不可避的に混入する他の原子としては、例えば、Sb、Si、K、Na、Li、Ba、Sr、Ca、Mg、Be、Zn、Pb、Cd、Tl、V、Sn、Al、Zr、W、Mo、Ti、Co、Ni、およびAu等を挙げることができる。
【0043】
本発明における銀粒子の粒子径としては特に制限はないが、積算した重量が50%である場合における粒子径(D50%)が、0.4μm〜10μmであることが好ましく、焼結を促進させる観点から0.4μm〜2.0μmであることが好ましい。
銀粒子の粒子径を0.4μm以上とすることでより効果的に耐酸化性が向上する。また10μm以下であることで電極中における銀粒子および銅含有粒子等の金属粒子どうしの接触面積が大きくなり、抵抗率がより効果的に低下する。
【0044】
本発明の電極用ペースト組成物において、前記銀合金粒子の粒子径(D50%)と前記銀粒子の粒子径(D50%)の関係としては特に制限はないが、いずれか一方の粒子径(D50%)が他方の粒子径(D50%)よりも小さいことが好ましく、いずれか一方の粒子径に対する他方の粒子径の比が1〜10であることがより好ましい。これにより、電極の抵抗率がより効果的に低下する。これは例えば、電極内における銀合金粒子および銀粒子等の金属粒子どうしの接触面積が大きくなることに起因すると考えることができる。
【0045】
また本発明の第一の態様の電極用ペースト組成物における銀粒子の含有率としては、耐酸化性と電極の低抵抗率の観点から、電極用ペースト組成物中に8.4〜85.5質量%であることが好ましく、8.9〜80.1質量%であることがより好ましい。
【0046】
さらに本発明においては、耐酸化性と電極の低抵抗率の観点から、前記銀合金粒子と前記銀粒子の総量を100質量%としたときの銀合金粒子の含有率が9〜88質量%となることが好ましく、17〜77質量%となることがより好ましい。
前記銀合金粒子の含有率が9質量%以上となることで、例えば、前記ガラス粒子が五酸化二バナジウムを含む場合に銀とバナジウムとの反応が抑制され、電極の体積抵抗がより低下する。また、太陽電池としたときのエネルギー変換効率向上を目的とした電極形成シリコン基板のフッ酸水溶液処理において、電極材の耐フッ酸水溶液性(フッ酸水溶液によって電極材がシリコン基板から剥離しない性質)が向上する。
また前記銀合金粒子の含有率が88質量%以下となることで、電極の接触抵抗がより低下する。
【0047】
さらに本発明の第一の態様の電極用ペースト組成物においては、耐酸化性と電極の低抵抗率の観点から、前記銀合金粒子および前記銀粒子の総含有率が70〜94質量%であって、前記ガラス粒子の含有率が0.1〜10質量%であって、前記溶剤および前記樹脂の総含有率が3〜29.9質量%であることが好ましく、前記銀合金粒子および前記銀粒子の総含有率が74〜88質量%であって、前記ガラス粒子の含有率が1〜7質量%であって、前記溶剤および前記樹脂の総含有率が7〜20質量%であることがより好ましい。
【0048】
(その他の成分)
さらに本発明の第一の態様の電極用ペースト組成物は、上述した成分に加え、必要に応じて、当該技術分野で通常用いられるその他の成分をさらに含むことができる。その他の成分としては、例えば、可塑剤、分散剤、界面活性剤、無機結合剤、金属酸化物、セラミック、有機金属化合物等を挙げることができる。
【0049】
(電極用ペースト組成物の製造方法)
本発明の第一の態様の電極用ペースト組成物の製造方法としては特に制限はない。前記銀合金粒子、ガラス粒子、溶剤、樹脂、および必要に応じて含まれる銀粒子等を、通常用いられる分散・混合方法を用いて、分散・混合することで製造することができる。
【0050】
(電極用ペースト組成物を用いた電極の製造方法)
本発明の電極用ペースト組成物を用いて電極を製造する方法としては、前記電極用ペースト組成物を電極を形成する領域に付与し、乾燥後に、焼成することで所望の領域に電極を形成することができる。前記電極用ペースト組成物を用いることで、酸素の存在下(例えば、大気中)で焼成処理を行っても、抵抗率の低い電極を形成することができる。
具体的には例えば、前記電極用ペースト組成物を用いて太陽電池用電極を形成する場合、電極用ペースト組成物はシリコン基板上に所望の形状となるように付与され、乾燥後に、焼成されることで、抵抗率の低い太陽電池電極を所望の形状に形成することができる。また前記電極用ペースト組成物を用いることで、酸素の存在下(例えば、大気中)で焼成処理を行っても、抵抗率の低い電極を形成することができる。
電極用ペースト組成物をシリコン基板上に付与する方法としては、例えば、スクリーン印刷、インクジェット法、ディスペンサー法等を挙げることができるが、生産性の観点から、スクリーン印刷による塗布であることが好ましい。
【0051】
本発明の第一の態様の電極用ペースト組成物をスクリーン印刷によって塗布する場合、80〜1000Pa・sの範囲の粘度を有することが好ましい。尚、電極用ペースト組成物の粘度は、ブルックフィールドHBT粘度計を用いて25℃で測定される。
【0052】
前記電極用ペースト組成物の付与量は、形成する電極の大きさに応じて適宜選択することができる。例えば、電極用ペースト組成物付与量として2〜10g/mとすることができ、4〜8g/mであることが好ましい。
【0053】
また本発明の第一の態様の電極用ペースト組成物を用いて電極を形成する際の熱処理条件(焼成条件)としては、当該技術分野で通常用いられる熱処理条件を適用することができ、一般には、熱処理温度(焼成温度)としては800〜900℃である。
また熱処理時間は、熱処理温度等に応じて適宜選択することができ、例えば、1秒〜20秒とすることができる。
【0054】
<第二の態様の電極用ペースト組成物>
本発明の第二の態様の電極用ペースト組成物は、銅粒子、銀又は銀合金粒子、P及びVを含むガラス粒子、樹脂、及び溶剤を含み、前記銀又は銀合金粒子に対する銅粒子の含有率が、9質量%〜88質量%である。
【0055】
上述の通り、P及びVを含む鉛フリーのガラス粒子を電極用ペースト組成物に用いた場合、この中に含まれるV(五酸化二バナジウム)が、導電性金属粉末として含有される銀と反応してバナジン酸銀を生成するため、形成される電極の抵抗率が上昇してしまう。そこで、導電性金属粉末として銀以外の金属を検討したところ、銅(Cu)を銀(Ag)と特定の比率で併用することが、抵抗率の上昇を抑えた電極の形成に有効であることが明らかとなった。
【0056】
特に、銀又は銀合金粒子に対する銅粒子の含有率が9質量%〜88質量%の電極用ペースト組成物とすると、電極の抵抗率の上昇が抑えられる。銀又は銀合金粒子に対する銅粒子の含有率が9質量%未満の場合には、V(五酸化二バナジウム)とAg(銀)とが反応して生成するバナジン酸銀による高抵抗率化を抑制する効果が低く、他方、含有率が88質量%を超える場合には、銅の酸化により生成した酸化銅によって電極が高抵抗率化する。
【0057】
ここで、銅粒子の銀粒子との併用により銅の酸化が抑えられる現象について説明する。
一般に電極形成温度領域である600℃から900℃の温度領域では、銅中への銀の少量の固溶、および銀中への銅の少量の固溶が生じ、銅と銀との界面に銅−銀固溶体の層(固溶領域)が形成される。銅含有粒子と銀粒子の混合物を高温に加熱後、室温へゆっくりと冷却した場合、固溶領域は生じないと考えられるが、電極形成時には高温域から常温に数秒で冷却されることから、高温での固溶体の層は、非平衡な固溶体相または銅と銀の共晶組織として銀粒子および銅含有粒子の表面を覆うと考えられる。このような銅−銀固溶体層は、電極形成温度における銅含有粒子の耐酸化性に寄与すると考えることができる。
【0058】
また銅−銀固溶体層は、300℃から500℃以上の温度で形成され始める。従って、示差熱−熱重量同時測定において最大面積を示す発熱ピークのピーク温度が280℃以上である銅含有粒子に、銀粒子を併用することで、より効果的に銅含有粒子の耐酸化性を向上することができ、形成される電極の抵抗率がより低下すると考えることができる。
【0059】
このように、銀又は銀合金粒子に対する銅粒子の含有率が88質量%を超える場合には、Ag粒子が不足し、Cu−Ag固溶体層が粒子間を十分埋めることができず、Cuの酸化が顕著に生じてしまう。
以下では、第二の態様の電極用ペースト組成物を構成する各成分について詳細に説明する。
【0060】
(銅粒子)
本発明における銅粒子は、純銅のほか、本発明の効果を損なわない範囲で他の原子を含んでもよい実質的に銅からなる金属粒子であっても、銅および銅に耐酸化性を付与する成分を含む金属粒子であってもよい。
【0061】
前記実質的に銅からなる金属粒子における他の原子としては、例えば、Sb、Si、K、Na、Li、Ba、Sr、Ca、Mg、Be、Zn、Pb、Cd、Tl、V、Sn、Al、Zr、W、Mo、Ti、Co、Ni、およびAu等を挙げることができる。中でも、耐酸化性、融点等の特性調整の観点から、Alを含むことが好ましい。
また前記銅含有粒子に含まれる他の原子の含有率は、例えば、前記銅含有粒子中に3質量%以下とすることができ、耐酸化性と低抵抗率の観点から、1質量%以下であることが好ましい。
【0062】
前記銅粒子の粒子径としては特に制限はないが、積算した重量が50%の場合における粒子径(以下、「D50%」と略記することがある)として、0.4μm〜10μmであることが好ましく、1μm〜7μmであることがより好ましい。0.4μm以上とすることで耐酸化性がより効果的に向上する。また10μm以下であることで電極中における銅粒子どうしの接触面積が大きくなり、抵抗率がより効果的に低下する。尚、銅粒子の粒子径は、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装社製、MT3300型)によって測定される。
また前記銅粒子の形状としては特に制限はなく、略球状、扁平状、ブロック状、板状、および鱗片状等のいずれであってもよいが、耐酸化性と低抵抗率の観点から、略球状、扁平状、または板状であることが好ましい。
【0063】
本発明の第二の態様の電極用ペースト組成物に含まれる銅粒子、銀粒子及び銀合金粒子(銀含有粒子)の総含有率としては、例えば、70〜94質量%とすることができ、耐酸化性と低抵抗率の観点から、72〜90質量%であることが好ましく、74〜88質量%であることがより好ましい。
前記銅粒子および前記銀含有粒子の総含有量が70質量%以上であることで、電極用ペースト組成物を付与する際に好適な粘度を容易に達成することができる。また前記銅粒子および前記銀含有粒子の総含有量が94質量%以下であることで、電極用ペースト組成物を付与する際のかすれの発生をより効果的に抑制することができる。
【0064】
また本発明においては、銅粒子、銀粒子及び銀合金粒子以外の導電性の粒子を組み合わせて用いても良い。
【0065】
(銀粒子又は銀合金粒子)
本発明の電極用ペースト組成物は、銀粒子又は銀合金粒子(以下「銀含有粒子」という場合がある)の少なくとも1種を更に含む。
銀粒子及び銀合金粒子としては、純銀のほか、不可避的に混入する他の原子を含む実質的に銀のみからなる金属粒子であっても、銀合金粒子であってもよい。
【0066】
前記実質的に銀のみからなる金属粒子における不可避的に混入する他の原子としては、例えばSb、Si、K、Na、Li、Ba、Sr、Ca、Mg、Be、Zn、Pb、Cd、Tl、V、Sn、Al、Zr、W、Mo、Ti、Co、Ni、およびAu等を挙げることができる。
【0067】
銀合金粒子としては、上記第一の態様の電極用ペースト組成物で説明した銀合金粒子を適用でき、好適な範囲も同様である。
【0068】
銀含有粒子の粒子径としては、積算した質量が50%である場合における粒子径(D50%)が、0.4μm〜10μmであることが好ましく、1μm〜5μmであることがより好ましい。
0.4μm以上とすることでより効果的に耐酸化性が向上する。また10μm以下であることで電極中における銀含有粒子および銅粒子等の金属粒子どうしの接触面積が大きくなり、抵抗率がより効果的に低下する。
【0069】
本発明の第二の態様の電極用ペースト組成物において、銀又は銀合金粒子に対する銅粒子の含有率は、9〜88質量%であり、17〜77質量%であることが好ましい。
【0070】
(P及びVを含むガラス粒子)
本発明の第二の態様の電極用ペースト組成物は、環境に対する影響を考慮して、P及びVを含むガラス粒子(「P−V系ガラス粒子」と称する場合がある)の少なくとも1種を用いる。電極用ペースト組成物がガラス粒子を含むことによって、電極形成温度において、いわゆるファイヤースルーによって反射防止膜である窒化ケイ素膜が取り除かれ、電極金属とシリコン基板とのオーミックコンタクトが形成される。
【0071】
本発明に係るガラス粒子は五酸化二リンを含有するので、低接触抵抗率化が図られる。また、五酸化二リンに加えて五酸化二バナジウムを含むので、ガラスの軟化点が低下して耐酸化性がより向上し、電極の抵抗率がより低下する。
【0072】
本発明においては、V(五酸化二バナジウム)とAg(銀)とが反応して生成するバナジン酸銀による高抵抗率化が、銅粒子の添加により抑制されるため、P−V系ガラス粒子中における五酸化二バナジウムの含有率は特に限定されない。好ましくは、P−V系ガラス粒子中における五酸化二バナジウムの含有率は、1〜70質量%である。
【0073】
またP−Vガラス粒子は、必要に応じてその他の成分を更に含むことができる。その他の成分としては酸化バリウム、二酸化マンガン、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化亜鉛、二酸化ジルコニウム、三酸化タングステン、酸化テルル、酸化アンチモン、酸化鉄等を挙げることができる。その他の成分を更に含むことで、窒化ケイ素に由来する二酸化ケイ素をより効率よく取り込むことができる。また軟化・溶解温度をより低下させることができる。さらに銅粒子や銀粒子又は銀合金粒子との反応を抑制することができる。
【0074】
前記P−V系ガラス粒子の含有率としては、第二の態様の電極用ペースト組成物の全質量中に0.1〜10質量%であることが好ましく、0.5〜8質量%であることがより好ましく、1〜7質量%であることがさらに好ましい。かかる範囲の含有率でガラス粒子を含むことにより、より効果的に耐酸化性、電極の低抵抗率および低接触抵抗が達成される。
【0075】
(樹脂、及び溶剤)
本発明の第二の態様の電極用ペースト組成物は、溶剤の少なくとも1種と樹脂の少なくとも1種とを含む。これにより本発明の電極用ペースト組成物の液物性(例えば、粘度、表面張力等)を、シリコン基板に付与する際の付与方法に応じて必要とされる液物性に調整することができる。
【0076】
第二の態様の電極用ペースト組成物に適用し得る溶剤及び樹脂は、第一の態様の電極用ペースト組成物で説明した溶剤及び樹脂と同様であり、好適な範囲や、含有率についても同様であるため、説明を省略する。
【0077】
さらに本発明の電極用ペースト組成物においては、耐酸化性と電極の低抵抗率の観点から、前記銅粒子および前記銀含有粒子の総含有率が70〜94質量%であって、銀含有粒子に対する銅粒子の含有率が、9質量%〜88質量%であって、前記P−V系ガラス粒子の含有率が0.1〜10質量%であって、前記溶剤および前記樹脂の総含有率が3〜29.9質量%であることが好ましく、前記銅粒子および前記銀含有粒子の総含有率が74〜88質量%であって、銀含有粒子に対する銅粒子の含有率が、17質量%〜77質量%であって、前記P−V系ガラス粒子の含有率が1〜7質量%であって、前記溶剤および前記樹脂の総含有率が7〜20質量%であることがより好ましい。
【0078】
(その他の成分)
さらに本発明の第二の態様の電極用ペースト組成物は、上述した成分に加え、必要に応じて、当該技術分野で通常用いられるその他の成分をさらに含むことができる。その他の成分としては、例えば、可塑剤、分散剤、界面活性剤、無機結合剤、金属酸化物、セラミック、有機金属化合物等を挙げることができる。
【0079】
(電極用ペースト組成物の製造方法)
本発明の第二の態様の電極用ペースト組成物の製造方法としては特に制限はない。前記銅粒子、銀粒子又は銀合金粒子、ガラス粒子、溶剤、樹脂、および必要に応じて含まれる銀粒子等を、通常用いられる分散・混合方法を用いて、分散・混合することで製造することができる。
【0080】
(電極用ペースト組成物を用いた電極の製造方法)
本発明の第二の電極用ペースト組成物を用いて電極を製造する方法としては、前記電極用ペースト組成物を電極を形成する領域に付与し、乾燥後に、焼成することで所望の領域に電極を形成することができる。前記電極用ペースト組成物を用いることで、酸素の存在下(例えば、大気中)で焼成処理を行っても、抵抗率の低い電極を形成することができる。
具体的には例えば、前記電極用ペースト組成物を用いて太陽電池用電極を形成する場合、電極用ペースト組成物はシリコン基板上に所望の形状となるように付与され、乾燥後に、焼成されることで、抵抗率の低い太陽電池電極を所望の形状に形成することができる。また前記電極用ペースト組成物を用いることで、酸素の存在下(例えば、大気中)で焼成処理を行っても、抵抗率の低い電極を形成することができる。
【0081】
本発明の第二の態様の電極用ペースト組成物をスクリーン印刷によって塗布する場合、80〜1000Pa・sの範囲の粘度を有することが好ましい。尚、電極用ペースト組成物の粘度は、ブルックフィールドHBT粘度計を用いて25℃で測定される。
【0082】
前記電極用ペースト組成物の付与量は、形成する電極の大きさに応じて適宜選択することができる。例えば、電極用ペースト組成物付与量として2〜10g/mとすることができ、4〜8g/mであることが好ましい。
【0083】
また本発明の第二の態様の電極用ペースト組成物を用いて電極を形成する際の熱処理条件(焼成条件)としては、当該技術分野で通常用いられる熱処理条件を適用することができる。
一般に、熱処理温度(焼成温度)としては800〜900℃であるが、本発明の電極用ペースト組成物を用いる場合には、より低温での熱処理条件を適用することができ、例えば、600〜850℃の熱処理温度で良好な特性を有する電極を形成することができる。
また熱処理時間は、熱処理温度等に応じて適宜選択することができ、例えば、1秒〜20秒とすることができる。
【0084】
<太陽電池>
本発明の太陽電池は、シリコン基板上に付与された前記電極用ペースト組成物を、酸素の存在下で焼成して形成された電極を有する。これにより、良好な特性を有する太陽電池が得られ、該太陽電池の生産性に優れる。
【0085】
以下、本発明の太陽電池の具体例を、図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
代表的な太陽電池素子の一例の断面図、受光面及び裏面の概要を図1、図2及び図3に示す。
通常、太陽電池素子の半導体基板130には、単結晶または多結晶Siなどが使用される。この半導体基板130には、ホウ素などが含有され、p形半導体を構成している。受光面側は、太陽光の反射を抑制するために、エッチングにより凹凸(テクスチャー、図示せず)が形成されている。その受光面側にはリンなどがドーピングされ、n型半導体の拡散層131がサブミクロンオーダーの厚みで設けられているとともに、p形バルク部分との境界にpn接合部が形成されている。さらに受光面側には、拡散層131上に窒化シリコンなどの反射防止層132が蒸着法などによって膜厚100nm前後で設けられている。
【0086】
次に受光面側に設けられた受光面電極133と、裏面に形成される集電電極134及び出力取出し電極135について説明する。受光面電極133と出力取出し電極135は、前記電極用ペースト組成物から形成されている。また集電電極134はガラス粉末を含むアルミニウム電極ペースト組成物から形成されている。これらの電極は、前記ペースト組成物をスクリーン印刷等にて所望のパターンに塗布した後、乾燥後に、大気中600〜850℃程度で焼成されて形成される。
【0087】
その際に、受光面側では、受光面電極133を形成する前記電極用ペースト組成物に含まれるガラス粒子と、反射防止層132とが反応して(ファイヤースルー)、受光面電極133と拡散層131が電気的に接続(オーミックコンタクト)される。
本発明においては、前記電極用ペースト組成物を用いて受光面電極133が形成されることで、導電性金属として銅を含みながら、銅の酸化が抑制され、低抵抗率の受光面電極133が優れた生産性で形成される。
【0088】
また、裏面側では、焼成の際に集電電極134を形成するアルミニウム電極ペースト組成物中のアルミニウムが半導体基板130の裏面に拡散して、電極成分拡散層136を形成することによって、半導体基板130と集電電極134、出力取出し電極135との間にオーミックコンタクトを得ることができる。
【0089】
また本発明の別の態様である太陽電池素子の一例の受光面及びAA断面構造の斜視図(a)、ならびに裏面側電極構造の平面図(b)を図4に示す。
図4に示すようにp型半導体のシリコン基板からなるセルウェハ1には、レーザドリルまたはエッチング等によって、受光面側および裏面側の両面を貫通したスルーホールが形成されている。また受光面側には光入射効率を向上させるテクスチャ(図示せず)が形成されている。さらに受光面側にはn型化拡散処理によるn型半導体層3と、n型半導体層3上に反射防止膜(図示せず)が形成されている。これらは従来の結晶Si型太陽電池セルと同一の工程により製造される。
【0090】
次に、先に形成されたスルーホール内部に、本発明の電極用ペースト組成物が印刷法やインクジェット法により充填され、さらに受光面側には同じく本発明の電極用ペースト組成物がグリッド状に印刷され、スルーホール電極4および集電用グリッド電極2を形成する組成物層が形成される。
ここで、充填用と印刷用に用いるペーストでは、粘度を始めとして、それぞれのプロセスに最適な組成のペーストを使用するのが望ましいが、同じ組成のペーストで充填、印刷を一括で行ってもよい。
【0091】
一方、受光面の反対側(裏面側)には、キャリア再結合を防止するための高濃度ドープ層5が形成される。ここで高濃度ドープ層5を形成する不純物元素として、ボロン(B)やアルミニウム(Al)が用いられ、p層が形成されている。この高濃度ドープ層5は、例えばBを拡散源とした熱拡散処理が、前記反射防止膜形成前のセル製造工程において実施されることで形成されていてもよく、あるいは、Alを用いる場合には、前記印刷工程において、反対面側にAlペーストを印刷することで形成されていてもよい。
【0092】
その後、650から850℃において焼成され、前記スルーホール内部と受光面側に形成された反射防止膜上に充填、印刷された前記電極用ペースト組成物は、ファイヤースルー効果により、下部n型層とのオーミックコンタクトが達成される。
【0093】
また反対面側には、図4(b)の平面図で示すように、本発明による電極用ペースト組成物をそれぞれn側、p側共にストライプ上に印刷、焼成することによって、裏面電極6、7が形成されている。
【0094】
本発明においては、前記電極用ペースト組成物を用いて、スルーホール電極4、集電用グリッド電極2、裏面電極6および裏面電極7が形成されることで、導電性金属として銅を含みながら、銅の酸化が抑制され、低抵抗率のスルーホール電極4、集電用グリッド電極2、裏面電極6および裏面電極7が、優れた生産性で形成される。
なお、本発明の電極用ペースト組成物は、上記したような太陽電池電極の用途に限定されるものではなく、例えば、プラズマディスプレイの電極配線及びシールド配線、セラミックスコンデンサ、アンテナ回路、各種センサー回路、半導体デバイスの放熱材料等の用途にも好適に使用することができる。
【実施例】
【0095】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0096】
<実施例1>
(a)銀合金粒子の準備
Ag63%、Cu35%、P2%を含む銀合金を調製し、これを溶解して水アトマイズ法により粉末化した後、乾燥、分級した。分級した粉末をブレンドして、脱酸素・脱水分処理し、銀合金粒子を作製した。尚、銀合金粒子の粒子径(D50%)は1.5μmであった。
【0097】
(b)銀粒子の準備
銀粒子として、粒子径(D50%)が0.4μm、1.1μm、1.7μmの市販の3種類の試薬(三井金属製)を用意した。
【0098】
(c)ガラス粒子の準備
ガラス粒子として、2種類作製した。
ガラス1組成(P19)は、酸化バナジウム(V)が32重量部、酸化リン(P)が26重量部、酸化バリウム(BaO)が10重量部、酸化マンガン(MnO)が8重量部、酸化ナトリウム(NaO)が1重量部、酸化カリウム(KO)が3重量部、酸化亜鉛(ZnO)が10重量部、酸化タングステン(WO)が10重量部であった。このガラスの軟化点は447℃、結晶化温度は600℃以上であった。
ガラス2組成(AY1)は、酸化バナジウム(V)45部、酸化リン(P)24.2部、酸化バリウム(BaO)20.8部、酸化アンチモン(Sb)5部、酸化タングステン(WO)5部からなり、粒子径(D50%)が1.7μmであった。またこのガラスの軟化点は492℃、結晶化温度は600℃を超えていた。
【0099】
(d)電極用ペースト組成物の調製
前記銅粉末及びAg粉末を表1の配合比となるように秤量・混合し、更に表1に示す配合比となるように銀合金粒子、銀粒子、ガラス粒子、溶剤及び樹脂を秤量し、メノウ製乳鉢の中で20分間かき混ぜ、電極用ペースト組成物1を調製した。
【0100】
なお、溶剤にはジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(以下、BCA)、樹脂にはエチルセルロース(以下、EC)を使用して、ECを4%含むBCAを調製し、スクリーン印刷に適するようにペーストの粘度が80〜200Pa・sとなるように溶剤量を調整した。
【0101】
(d)太陽電池セルの作製
受光面にn型半導体層、テクスチャーおよび反射防止膜(窒化珪素膜)が形成された膜厚190μmのp型半導体基板を用意し、125mm×125mmの大きさに切り出した。その受光面にスクリーン印刷法を用い、上記で得られた電極用ペースト組成物1を図2に示すような電極パターンとなるように印刷した。電極のパターンは150μm幅のフィンガーラインと1.1mm幅のバスバーで構成され、焼成後の膜厚が20μmとなるよう、印刷条件(スクリーン版のメッシュ、印刷速度、印圧)を適宜調整した。これを150℃に加熱したオーブンの中に15分間入れ、溶剤を蒸散により取り除いた。
【0102】
続いて、裏面にアルミニウム電極ペーストを同様にスクリーン印刷で全面に印刷した。焼成後の膜厚が40μmとなるよう印刷条件は適宜調整した。これを150℃に加熱したオーブンの中に15分間入れ、溶剤を蒸散により取り除いた。
続いて、赤外線急速加熱炉内で大気雰囲気下、850℃で2秒間の加熱処理(焼成)を行って、所望の電極が形成された太陽電池セル1を作製した。
【0103】
<実施例2〜13>
実施例1において、銀合金粒子及び銀粒子の配合比率、銀粒子の粒子径(D50%)、ガラス粒子の種類および含有量、を表1に示したように変更したこと以外は、実施例1と同様にして太陽電池セル2〜13を作製した。
【0104】
<比較例1>
実施例1において、銀合金粒子を含有しないで電極用ペースト組成物を調製した以外は実施例1と同様にして、比較の太陽電池セル1を作製した。
【0105】
<太陽電池素子の評価>
作製した太陽電池素子の評価は、擬似太陽光として(株)ワコム電創製WXS−155S−10、電流―電圧(I−V)評価測定器としてI−V CURVE TRACER MP−160(EKO INSTRUMENT製)の測定装置を組み合わせて行った。表1に実施例と比較例で作製したペーストの太陽電池としての発電性能結果を併記する。
太陽電池としての発電性能についての各測定値を、比較例1の測定値を100.0とした相対値として表1に示した。なお、太陽電池としての発電性能を示すEff(変換効率)、FF(フィルファクター)、Voc(開放電圧)およびJsc(短絡電流)は、それぞれJIS−C−8912、JIS−C−8913およびJIS−C−8914に準拠して測定を行なうことで得られたものである。
【0106】
【表1】



【0107】
(結果と考察)
表1の結果に示されるように、銀合金を含む実施例1〜13の電極用ペースト組成物では、銀の使用量が低減され、且つ電気特性を著しく低下させなかった。
【0108】
実施例1〜13の電極用ペースト組成物は、銀合金粒子および前記銀粒子の総含有率が70質量%以上94質量%以下であり、ガラス粒子の含有率が0.1質量%以上10質量%以下であり、溶剤および前記樹脂の総含有率が3質量%以上29.9質量%以下であって、良好な電気特性が得られた。この原因を考察すると、FF値が上昇していることから、電極と基板との接触抵抗が低下していると思われる。これは、VとAgとの反応が、銀合金粒子の存在によって抑えられ、その結果、接触抵抗が低下した可能性がある。
【0109】
以上より、実施例1〜13の本発明の電極用ペースト組成物は、太陽電池セルの電極を形成するのに好適であることが分かった。また、高価な銀の使用量を低減できることから、コスト低減にも貢献することができる。
さらに、実施例1〜13の電極用ペースト組成物に用いたガラス粒子は鉛成分を含まないため、環境に対する影響を低減することが可能である。
【0110】
なお、銀粒子の粒子径は、1.1μmよりも0.4μmにおいて良好な電気特性が得られた。これは、銀粒子を小さくすることで、焼結が促進し、体積抵抗率が低下したものと考えられる。
また、実施例1、11の結果から、ガラス粒子の軟化点は低い方が電気特性が良好であり、好ましくは450℃以下であることが明らかとなった。
【0111】
<実施例14>
上記で得られた電極用ペースト組成物9を用いて、図4に示したような構造を有する太陽電池セル14を作製した。尚、加熱処理は750℃、10秒間で行った。
得られた太陽電池セルについて上記と同様にして評価したところ、上記と同様に良好な特性を示すことが分かった。
【符号の説明】
【0112】
130 半導体基板
131 拡散層
132 反射防止層
133 受光面電極
134 集電電極
135 出力取出し電極
136 電極成分拡散層
1 p型シリコン基板からなるセルウェハ
2 集電用グリッド電極
3 n型半導体層
4 スルーホール電極
5 高濃度ドープ層
6 裏面電極
7 裏面電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀合金粒子、ガラス粒子、樹脂、及び溶剤を含む電極用ペースト組成物。
【請求項2】
前記ガラス粒子は、P及びVを含むガラスである請求項1に記載の電極用ペースト組成物。
【請求項3】
銀粒子をさらに含む請求項1又は請求項2に記載の電極用ペースト組成物。
【請求項4】
前記銀合金粒子および銀粒子の総含有率が70質量%以上94質量%以下であり、前記ガラス粒子の含有率が0.1質量%以上10質量%以下であり、前記溶剤および前記樹脂の総含有率が3質量%以上29.9質量%以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の電極用ペースト組成物。
【請求項5】
銅粒子、銀又は銀合金粒子、P及びVを含むガラス粒子、樹脂、及び溶剤を含み、
前記銀又は銀合金粒子に対する銅粒子の含有率が、9質量%〜88質量%である電極用ペースト組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の電極用ペースト組成物をシリコン基板に塗布した後に焼成されてなる電極を有する太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−171273(P2011−171273A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222204(P2010−222204)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】