説明

電極用ペースト組成物及び太陽電池

【課題】焼成時における銅の酸化が抑制され、抵抗率の低い電極を形成可能な電極用ペー
スト組成物、及び、該電極用ペースト組成物を用いて形成された電極を有する太陽電池を
提供する。
【解決手段】電極用ペースト組成物を、リン含有率が6質量%以上8質量%以下であるリン含有銅合金粒子と、ガラス粒子と、溶剤と、樹脂と、を含んで構成する。また、該電極用ペースト組成物を用いて形成された電極を有する太陽電池である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極用ペースト組成物及び太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に結晶シリコン系太陽電池には表面電極が設けられており、この表面電極の配線抵抗や接触抵抗は変換効率に関連する電圧損失に関連し、また配線幅や形状は太陽光の入射量に影響を与える(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
太陽電池の表面電極は通常以下のようにして形成される。すなわち、p型シリコン基板の受光面側にリン等を高温で熱的に拡散させることにより形成されたn型半導体層上に、導電性組成物をスクリーン印刷等により塗布し、これを800〜900℃で焼成することで表面電極が形成される。この表面電極を形成する導電性組成物には、導電性金属粉末、ガラス粒子、及び種々の添加剤等が含まれる。
【0004】
前記導電性金属粉末としては、銀粉末が一般的に用いられているが、種々の理由から銀粉末以外の金属粉末を用いることが検討されている。例えば、銀とアルミニウムを含む太陽電池用電極を形成可能な導電性組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また銀を含む金属ナノ粒子と銀以外の金属粒子を含む電極形成用組成物が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−313744号公報
【特許文献2】特開2008−226816号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】濱川圭弘著、「太陽光発電 最新の技術とシステム」、CMC出版社、2001年、p26−27
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に電極形成に用いられる銀は貴金属であり、資源の問題からも、また地金自体が高価であることから銀含有導電性組成物(銀含有ペースト)に代わるペースト材料の提案が望まれている。銀に代わる有望な材料としては、半導体配線材料に適用されている銅が挙げられる。銅は資源的にも豊富で、地金コストも銀の約100分の1と安価である。しかしながら、銅は200℃以上の高温で酸化されやすい材料であり、例えば、特許文献2に記載の電極形成用組成物では、導電性金属として銅を含む場合、これを焼成して電極を形成するために、窒素等の雰囲気下で焼成するという特殊な工程が必要であった。
【0008】
本発明は、焼成時における銅の酸化が抑制され、抵抗率の低い電極を形成可能な電極用ペースト組成物、及び、該電極用ペースト組成物を用いて形成された電極を有する太陽電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の態様は、リン含有率が6質量%以上8質量%以下であるリン含有銅合金粒子と、ガラス粒子と、溶剤と、樹脂と、を含み、前記リン含有銅合金粒子の粒子径が0.4μm〜10μmである電極用ペースト組成物である。
【0010】
前記ガラス粒子は,ガラス軟化点が600℃以下であって、結晶化開始温度が600℃を超えることが望ましい。
【0011】
前記電極用ペースト組成物は、銀粒子を含むことがさらに好ましく、前記リン含有銅合金粒子と前記銀粒子の総量を100質量%としたときの銀粒子の含有率が5質量%以上65質量%以下であることがより好ましい。
【0012】
前記リン含有銅合金粒子及び前記銀粒子の総含有率は、70質量%以上94質量%以下であることが好ましく、前記ガラス粒子の含有率が0.1質量%以上10質量%以下であって、前記溶剤及び前記樹脂の総含有率が3質量%以上29.9質量%以下であることがさらに好ましい。
【0013】
本発明の第2の態様は、シリコン基板上に付与された前記電極用ペースト組成物を焼成して形成された電極を有する太陽電池である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、焼成時における銅の酸化が抑制され、抵抗率の低い電極を形成可能な電極用ペースト組成物、及び、該電極用ペースト組成物を用いて形成された電極を有する太陽電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明にかかる太陽電池の断面図である。
【図2】本発明にかかる太陽電池の受光面側を示す平面図である。
【図3】本発明にかかる太陽電池の裏面側を示す平面図である。
【図4】(a)本発明にかかるバックコンタクト型太陽電池セルのAA断面構成を示す斜視図である。(b)本発明にかかるバックコンタクト型太陽電池セルの裏面側電極構造を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において「〜」は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示すものとする。
【0017】
<電極用ペースト組成物>
本発明の電極用ペースト組成物は、リン含有率が6質量%以上8質量%以下であるリン含有銅合金粒子と、ガラス粒子の少なくとも1種と、溶剤の少なくとも1種と、樹脂の少なくとも1種と、を含み、前記リン含有銅合金粒子の粒子径が0.4μm〜10μmである。かかる構成であることにより、焼成時における銅の酸化が抑制され、抵抗率の低い電極が形成可能である。
【0018】
(リン含有銅合金粒子)
本発明の電極用ペースト組成物は、リン含有率が6質量%以上8質量%以下であるリン含有銅合金粒子を含む。
本発明におけるリン含有銅合金に含まれるリン含有率は、耐酸化性と低抵抗率の観点から、リン含有率が6質量%以上8質量%以下であり、6.3質量%以上7.8質量%以下であることが好ましく、6.5質量%以上7.5質量%以下であることがより好ましい。リン含有銅合金に含まれるリン含有率が8質量%以下であることで、より低い抵抗率を達成可能であり、また、リン含有銅合金の生産性に優れる。また6質量%以上であることで、より優れた耐酸性を達成できる。
【0019】
リン含有銅合金としては、リン銅ろう(リン濃度:通常7質量%程度以下)と呼ばれるろう付け材料が知られている。リン銅ろうは、銅と銅との接合剤としても用いられるものである。本発明の電極用ペースト組成物においてリン含有銅合金粒子を用いることで、リンの銅酸化物に対する還元性を利用し、耐酸化性に優れ、抵抗率の低い電極を形成することができる。さらに電極の低温焼成が可能となり、プロセスコストを削減できるという効果を得ることができる。
【0020】
前記リン含有銅合金粒子は、銅とリンを含む合金であるが、他の原子をさらに含んでいてもよい。他の原子としては、例えば、Ag、Mn、Sb、Si、K、Na、Li、Ba、Sr、Ca、Mg、Be、Zn、Pb、Cd、Tl、V、Sn、Al、Zr、W、Mo、Ti、Co、Ni、及びAu等を挙げることができる。
また前記リン含有銅合金粒子に含まれる他の原子の含有率は、例えば、前記リン含有銅合金粒子中に3質量%以下とすることができ、耐酸化性と低抵抗率の観点から、1質量%以下であることが好ましい。
【0021】
また本発明において、前記リン含有銅合金粒子は、1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
前記リン含有銅合金粒子の粒子径としては特に制限はないが、積算した重量が50%の場合における粒子径(以下、「D50%」と略記することがある)として、0.4μm〜10μmであり、1μm〜7μmであることがより好ましい。0.4μm以上とすることで耐酸化性がより効果的に向上する。また10μm以下であることで電極中におけるリン含有銅合金粒子どうしの接触面積が大きくなり、抵抗率がより効果的に低下する。尚、リン含有銅合金粒子の粒子径は、マイクロトラック粒度分布測定装置(日機装社製、MT3300型)によって測定される。
【0023】
また前記リン含有銅合金粒子の形状としては特に制限はなく、略球状、扁平状、ブロック状、板状、及び鱗片状等のいずれであってもよい。前記リン含有銅合金粒子の形状は、耐酸化性と低抵抗率の観点から、略球状、扁平状、または板状であることが好ましい。
【0024】
本発明の電極用ペースト組成物に含まれる前記リン含有銅合金粒子の含有率、また後述する銀粒子を含む場合のリン含有銅合金粒子と銀粒子の総含有率としては、例えば、70〜94質量%とすることができ、耐酸化性と低抵抗率の観点から、72〜90質量%であることが好ましく、74〜88質量%であることがより好ましい。
【0025】
リン銅合金は、通常用いられる方法で製造することができる。また、リン含有銅合金粒子は、所望のリン含有率となるように調製したリン含有銅合金を用いて、金属粉末を調製する通常の方法を用いて調製することができ、例えば、水アトマイズ法を用いて定法により製造することができる。尚、水アトマイズ法の詳細は金属便覧(丸善(株)出版事業部)等に記載されている。
具体的には例えば、リン含有銅合金を溶解し、これをノズル噴霧によって粉末化した後、得られた粉末を乾燥、分級することで、所望のリン含有銅合金粒子を製造することができる。また、分級条件を適宜選択することで所望の粒子径を有するリン含有銅合金粒子を製造することができる。
【0026】
(ガラス粒子)
本発明の電極用ペースト組成物は、ガラス粒子の少なくとも1種を含む。電極用ペースト組成物がガラス粒子を含むことにより、焼成時に電極部と基板との密着性が向上する。また。電極形成温度において、いわゆるファイアースルーによって反射防止膜である窒化ケイ素膜が取り除かれ、電極とシリコン基板とのオーミックコンタクトが形成される。
【0027】
前記ガラス粒子は、電極形成温度で軟化・溶融し、接触した窒化ケイ素膜を酸化し、酸化された二酸化ケイ素を取り込むことで、反射防止膜を除去可能なものであれば、当該技術分野において通常用いられるガラス粒子を特に制限なく用いることができる。
本発明においては、耐酸化性と電極の低抵抗率の観点から、ガラス軟化点が600℃以下であって、結晶化開始温度が600℃を超えるガラスを含むガラス粒子であることが好ましい。尚、前記ガラス軟化点は、熱機械分析装置(TMA)を用いて通常の方法によって測定され、また前記結晶化開始温度は、示差熱−熱重量分析装置(TG−DTA)を用いて通常の方法によって測定される。
【0028】
一般に電極用ペースト組成物に含まれるガラス粒子は、二酸化ケイ素を効率よく取り込み可能であることから鉛を含むガラスから構成されることが好ましい。このような鉛を含むガラスとしては、例えば、特許第03050064号公報等に記載のものを挙げることができ、本発明においてもこれらを好適に使用することができる。
また本発明においては、環境に対する影響を考慮すると、鉛を実質的に含まない鉛フリーガラスを用いることが好ましい。鉛フリーガラスとしては、例えば、特開2006−313744号公報の段落番号0024〜0025に記載の鉛フリーガラスや、特開2009−188281号公報等に記載の鉛フリーガラスを挙げることができ、これらの鉛フリーガラスから適宜選択して本発明に適用することもまた好ましい。
【0029】
本発明の電極用ペースト組成物に用いられるガラス成分は、二酸化ケイ素(SiO)、酸化リン(P)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ホウ素(B)、酸化バナジウム(V)、酸化カリウム(KO)、酸化ビスマス(Bi)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化リチウム(LiO)、酸化バリウム(BaO)、酸化ストロンチウム(SrO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ベリリウム(BeO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化鉛(PbO)、酸化カドミウム(CdO)、酸化スズ(SnO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化タングステン(WO)、酸化モリブデン(MoO)、酸化ランタン(La)、酸化ニオブ(Nb)、酸化タンタル(Ta)、酸化イットリウム(Y)、酸化チタン(TiO)、酸化ゲルマニウム(GeO)、酸化テルル(TeO)、酸化ルテチウム(Lu)、酸化アンチモン(Sb)、酸化銅(CuO)、酸化鉄(FeO)、酸化銀(AgO)及び酸化マンガン(MnO)が挙げられる。
【0030】
中でも、SiO、P、Al、B、V、Bi、ZnO、及びPbOから選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。具体的には、ガラス成分として、SiO、PbO、B、Bi及びAlを含むものが挙げられる。このようなガラス粒子の場合には、軟化点が効果的に低下し,さらにリン含有銅合金粒子及び必要に応じて添加された銀粒子との濡れ性が向上するため,焼成過程での前記粒子間の焼結が進み,抵抗率の低い電極を形成することができる。
【0031】
他方、低接触抵抗率の観点からは、五酸化二リンを含むガラス粒子(リン酸ガラス、P系ガラス粒子)であることが好ましく、五酸化二リンに加えて五酸化二バナジウムを更に含むガラス粒子(P−V系ガラス粒子)であることがより好ましい。五酸化二バナジウムを更に含むことで、耐酸化性がより向上し、電極の抵抗率がより低下する。これは、例えば、五酸化二バナジウムを更に含むことでガラスの軟化点が低下することに起因すると考えることができる。五酸化二リン−五酸化二バナジウム系ガラス粒子(P−V系ガラス粒子)を用いる場合、五酸化二バナジムの含有率としては、ガラスの全質量中に1質量%以上であることが好ましく、1〜70質量%であることがより好ましい。
【0032】
前記ガラス粒子の含有率としては電極用ペースト組成物の全質量中に0.1〜10質量%であることが好ましく、0.5〜8質量%であることがより好ましく、1〜7質量%であることがさらに好ましい。かかる範囲の含有率でガラス粒子を含むことにより、より効果的に耐酸化性、電極の低抵抗率化、及び低接触抵抗化が達成される。
【0033】
(溶剤及び樹脂)
本発明の電極用ペースト組成物は、溶剤の少なくとも1種と樹脂の少なくとも1種とを含む。これにより本発明の電極用ペースト組成物の液物性(例えば、粘度、表面張力等)を、シリコン基板に付与する際の付与方法に応じて必要とされる液物性に調整することができる。
【0034】
前記溶剤としては特に制限はない。例えば、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエンなどの炭化水素系溶剤;ジクロロエチレン、ジクロロエタン、ジクロロベンゼンなどの塩素化炭化水素系剤;テトラヒドロフラン、フラン、テトラヒドロピラン、ピラン、ジオキサン、1,3−ジオキソラン、トリオキサンなどの環状エーテル系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤;ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶剤;エタノール、2−プロパノール、1−ブタノール、ジアセトンアルコールなどのアルコール系化合物;2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノアセテート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノプロピオレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノブチレート、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート、2,2,4−トリエチル−1,3−ペンタンジオールモノアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどの多価アルコールのエステル系溶剤;ブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテルなとの多価アルコールのエーテル系溶剤;α−テルピネン、α−テルピネオール、ミルセン、アロオシメン、リモネン、ジペンテン、α−ピネン、β−ピネン、ターピネオール、カルボン、オシメン、フェランドレンなどのテルペン系溶剤、及びこれらの混合物が挙げられる。
【0035】
本発明における前記溶剤としては、電極用ペースト組成物をシリコン基板に形成する際の塗布性、印刷性の観点から、多価アルコールのエステル系溶剤、テルペン系溶剤、及び多価アルコールのエーテル系溶剤から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、多価アルコールのエステル系溶剤及びテルペン系溶剤から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
本発明において前記溶剤は1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
また前記樹脂としては焼成によって熱分解されうる樹脂であれば、当該技術分野において通常用いられる樹脂を特に制限なく用いることができる。具体的には例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂;ポリビニルアルコール類;ポリビニルピロリドン類;アクリル樹脂;酢酸ビニル−アクリル酸エステル共重合体;ポリビニルブチラール等のブチラール樹脂;フェノール変性アルキド樹脂、ひまし油脂肪酸変性アルキド樹脂のようなアルキド樹脂;エポキシ樹脂;フェノール樹脂;ロジンエステル樹脂等を挙げることができる。
【0037】
本発明における前記樹脂としては、焼成時における消失性の観点から、セルロース系樹脂、及びアクリル樹脂から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、セルロース系樹脂から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
本発明において前記樹脂は1種単独でも、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
また本発明における前記樹脂の重量平均分子量は5000以上500000以上が好ましい。前記樹脂の重量平均分子量が5000以上の場合には、電極用ペースト組成物の粘度の増加を抑えることができる。これは例えばリン含有銅合金粒子に吸着させたときの立体的な反発作用が不足して粒子同士が凝集するという現象が抑制されるためと考えることができる。一方樹脂の重量平均分子量が500000以下の場合には、樹脂同士が溶剤中で凝集し、結果として電極用ペースト組成物の粘度が増加するという現象が抑えられる。これに加え樹脂の重量平均分子量を適度な大きさに抑えると、樹脂の燃焼温度が高くなるのが抑えられ、電極用ペースト組成物を焼成する際に樹脂が完全に燃焼されず異物として残存することが抑えられ、電極の低抵抗化が図られる。
【0039】
本発明の電極用ペースト組成物において、前記溶剤と前記樹脂の含有量は、所望の液物性と使用する溶剤及び樹脂の種類に応じて適宜選択することができる。例えば、溶剤と樹脂の総含有率が、電極用ペースト組成物の全質量中に3質量%以上29.9質量%以下であることが好ましく、5質量%以上25質量%以下であることがより好ましく、7質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。
溶剤と樹脂の総含有率が前記範囲内であることにより、電極用ペースト組成物をシリコン基板に付与する際の付与適性が良好になり、所望の幅及び高さを有する電極をより容易に形成することができる。
【0040】
(銀粒子)
本発明の電極用ペースト組成物は、銀粒子を更に含むことが好ましい。銀粒子を含むことで耐酸化性がより向上し、電極としての抵抗率がより低下する。さらに太陽電池モジュールとした場合のはんだ接続性が向上するという効果も得られる。このことは例えば、以下のように考えることができる。
【0041】
一般に電極形成温度領域である600℃から900℃の温度領域では、銅中への銀の少
量の固溶、及び銀中への銅の少量の固溶が生じ、銅と銀との界面に銅−銀固溶体の層(固
溶領域)が形成される。リン含有銅合金粒子と銀粒子の混合物を高温に加熱後、室温へゆっくりと冷却した場合、固溶領域は生じないと考えられるが、電極形成時には高温域から常温に数秒で冷却されることから、高温での固溶体の層は、非平衡な固溶体相または銅と銀の共晶組織として銀粒子及びリン含有銅合金粒子の表面を覆うと考えられる。このような銅−銀固溶体層は、電極形成温度におけるリン含有銅合金粒子の更なる耐酸化性に寄与すると考えることができる。
【0042】
前記銀粒子を構成する銀は、不可避的に混入する他の原子を含んでいてもよい。不可避的に混入する他の原子としては、例えば、Sb、Si、K、Na、Li、Ba、Sr、Ca、Mg、Be、Zn、Pb、Cd、Tl、V、Sn、Al、Zr、W、Mo、Ti、Co、Ni、及びAu等を挙げることができる。
【0043】
本発明における銀粒子の粒子径としては特に制限はないが、積算した重量が50%である場合における粒子径(D50%)が、0.4μm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上7μm以下であることがより好ましい。0.4μm以上とすることでより効果的に耐酸化性が向上する。また10μm以下であることで電極中における銀粒子及びリン含有銅合金粒子等の金属粒子どうしの接触面積が大きくなり、抵抗率がより効果的に低下する。
【0044】
本発明の電極用ペースト組成物において、前記リン含有銅合金粒子の粒子径(D50%)と前記銀粒子の粒子径(D50%)の関係としては特に制限はないが、いずれか一方の粒子径(D50%)が他方の粒子径(D50%)よりも小さいことが好ましく、いずれか一方の粒子径に対する他方の粒子径の比が1〜10であることがより好ましい。これにより、電極の抵抗率がより効果的に低下する。これは例えば、電極内におけるリン含有銅合金粒子及び銀粒子等の金属粒子どうしの接触面積が大きくなることに起因すると考えることができる。
【0045】
また本発明の電極用ペースト組成物における銀粒子の含有率としては、耐酸化性と電極の低抵抗率の観点から、電極用ペースト組成物中に8.4〜85.5質量%であることが好ましく、8.9〜80.1質量%であることがより好ましい。
【0046】
さらに本発明においては、耐酸化性と電極の低抵抗率を達成しつつ、価格を抑える観点から、前記銅含有粒子と前記銀粒子の総量を100質量%としたときの銀粒子の含有率が5〜65質量%となることが好ましく、7〜60質量%となることがより好ましく、10〜55質量%となることが更に好ましい。
【0047】
また本発明の電極用ペースト組成物においては、耐酸化性、電極の低抵抗率、シリコン基板への塗布性の観点から、前記リン含有銅合金粒子及び前記銀粒子の総含有率が70質量%以上94質量%以下であることが好ましく、74質量%以上88質量%以下であることがより好ましい。前記リン含有銅合金粒子及び前記銀粒子の総含有率が70質量%以上であることで、電極用ペースト組成物を付与する際に好適な粘度を容易に達成することができる。また前記リン含有銅合金粒子及び前記銀粒子の総含有率が94質量%以下であることで、電極用ペースト組成物を付与する際のかすれの発生をより効果的に抑制することができる。
【0048】
さらに本発明の電極用ペースト組成物においては、耐酸化性と電極の低抵抗率の観点から、前記リン含有銅合金粒子及び前記銀粒子の総含有率が70質量%以上94質量%以下であって、前記ガラス粒子の含有率が0.1質量%以上10質量%以下であって、前記溶剤及び前記樹脂の総含有率が3質量%以上29.9質量%以下であることが好ましく、前記リン含有銅合金粒子及び前記銀粒子の総含有率が74質量%以上88質量%以下であって、前記ガラス粒子の含有率が0.5質量%以上8質量%以下であって、前記溶剤及び前記樹脂の総含有率が7質量%以上20質量%以下であることがより好ましく、前記リン含有銅合金粒子及び前記銀粒子の総含有率が74質量%以上88質量%以下であって、前記ガラス粒子の含有率が1質量%以上7質量%以下であって、前記溶剤及び前記樹脂の総含有率が7質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0049】
(フラックス)
電極用ペースト組成物は、フラックスの少なくとも1種をさらに含むことができる。フラックスを含むことで耐酸化性がより向上し、形成される電極の抵抗率がより低下する。さらに電極材とシリコン基板の密着性が向上するという効果も得られる。
【0050】
本発明におけるフラックスとしては、リン含有銅合金粒子の表面に形成された酸化膜を除去可能なものであれば特に制限はない。具体的には例えば、脂肪酸、ホウ酸化合物、フッ化化合物、及びホウフッ化化合物等を好ましいフラックスとして挙げることができる。
【0051】
より具体的には、ラウリン酸、ミリスチン酸、バルミチン酸、ステアリン酸、ソルビン酸、スレアロール酸、酸化ホウ素、ホウ酸カリウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸リチウム、ホウフッ化カリウム、ホウフッ化ナトリウム、ホウフッ化リチウム、酸性フッ化カリウム、酸性フッ化ナトリウム、酸性フッ化リチウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム、フッ化リチウム等が挙げられる。
中でも、電極材焼成時の耐熱性(フラックスが焼成の低温時に揮発しない特性)及びリン含有銅合金粒子の耐酸化性補完の観点から、ホウ酸カリウム及びホウフッ化カリウムが特に好ましいフラックスとして挙げられる。
本発明においてこれらのフラックスは、それぞれ1種単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0052】
また本発明の電極用ペースト組成物におけるフラックスの含有率としては、リン含有銅合金粒子の耐酸化性を効果的に発現させる観点及び電極材の焼成完了時にフラックスが除去された部分の空隙率低減の観点から、電極用ペースト組成物の全質量中に、0.1〜5質量%であることが好ましく、0.3〜4質量%であることがより好ましく、0.5〜3.5質量%であることがさらに好ましく、0.7〜3質量%であることが特に好ましく、1〜2.5質量%であることが極めて好ましい。
【0053】
(その他の成分)
さらに本発明の電極用ペースト組成物は、上述した成分に加え、必要に応じて、当該技術分野で通常用いられるその他の成分をさらに含むことができる。その他の成分としては、例えば、可塑剤、分散剤、界面活性剤、無機結合剤、金属酸化物、セラミック、有機金属化合物等を挙げることができる。
【0054】
本発明の電極用ペースト組成物の製造方法としては特に制限はない。前記リン含有銅合金粒子、ガラス粒子、溶剤、樹脂、及び必要に応じて含まれる銀粒子等を、通常用いられる分散・混合方法を用いて、分散・混合することで製造することができる。
【0055】
<電極用ペースト組成物を用いた電極の製造方法>
本発明の電極用ペースト組成物を用いて電極を製造する方法としては、前記電極用ペースト組成物を、電極を形成する領域に付与し、乾燥後に、焼成することで所望の領域に電極を形成することができる。前記電極用ペースト組成物を用いることで、酸素の存在下(例えば、大気中)で焼成処理を行っても、抵抗率の低い電極を形成することができる。
具体的には例えば、前記電極用ペースト組成物を用いて太陽電池用電極を形成する場合、電極用ペースト組成物はシリコン基板上に所望の形状となるように付与され、乾燥後に、焼成されることで、抵抗率の低い太陽電池電極を所望の形状に形成することができる。また前記電極用ペースト組成物を用いることで、酸素の存在下(例えば、大気中)で焼成処理を行っても、抵抗率の低い電極を形成することができる。
【0056】
電極用ペースト組成物をシリコン基板上に付与する方法としては、例えば、スクリーン印刷、インクジェット法、ディスペンサー法等を挙げることができるが、生産性の観点から、スクリーン印刷による塗布であることが好ましい。
【0057】
本発明の電極用ペースト組成物をスクリーン印刷によって塗布する場合、80〜1000Pa・sの範囲の粘度を有することが好ましい。尚、電極用ペースト組成物の粘度は、ブルックフィールドHBT粘度計を用いて25℃で測定される。
【0058】
前記電極用ペースト組成物の付与量は、形成する電極の大きさに応じて適宜選択することができる。例えば、電極用ペースト組成物付与量として2〜10g/mとすることができ、4〜8g/mであることが好ましい。
【0059】
また本発明の電極用ペースト組成物を用いて電極を形成する際の熱処理条件(焼成条件)としては、当該技術分野で通常用いられる熱処理条件を適用することができる。
一般に、熱処理温度(焼成温度)としては800〜900℃であるが、本発明の電極用ペースト組成物を用いる場合には、より低温での熱処理条件を適用することができ、例えば、600〜850℃の熱処理温度で良好な特性を有する電極を形成することができる。
また熱処理時間は、熱処理温度等に応じて適宜選択することができ、例えば、1秒〜20秒とすることができる。
【0060】
熱処理装置としては、上記温度に加熱できるものであれば適宜採用することができ、例えば、赤外線加熱炉、トンネル炉、などを挙げることができる。赤外線加熱炉は、電気エネルギーを電磁波の形で加熱材料に直接投入し、熱エネルギーに変換されるため高効率であり、また短時間での急速加熱が可能である。更に、燃焼による生成物がなく、また非接触加熱であるため、生成する電極の汚染を抑えることが可能である。トンネル炉は、試料を自動で連続的に入り口から出口へ搬送し、焼成するため、炉体の区分けと搬送スピードの制御により、均一に焼成することが可能である。太陽電池セルの発電性能の観点からは、トンネル炉により熱処理することが好適である。
【0061】
<太陽電池>
本発明の太陽電池は、シリコン基板上に付与された前記電極用ペースト組成物を、焼成して形成された電極を有する。これにより、良好な特性を有する太陽電池が得られ、該太陽電池の生産性に優れる。
【0062】
以下、本発明の太陽電池の具体例を、図面を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
代表的な太陽電池素子の一例を示す断面図、受光面及び裏面の概要を、それぞれ図1、図2及び図3に示す。
通常、太陽電池素子の半導体基板130には、単結晶または多結晶Siなどが使用される。この半導体基板130には、ホウ素などが含有され、p型半導体を構成している。受光面側は、太陽光の反射を抑制するために、エッチングにより凹凸(テクスチャー、図示せず)が形成されている。その受光面側にはリンなどがドーピングされ、n型半導体の拡散層131がサブミクロンオーダーの厚みで設けられているとともに、p型バルク部分との境界にpn接合部が形成されている。さらに受光面側には、拡散層131上に窒化シリコンなどの反射防止層132が蒸着法などによって膜厚100nm前後で設けられている。
【0063】
次に受光面側に設けられた受光面電極133と、裏面に形成される集電電極134及び出力取出し電極135について説明する。受光面電極133と出力取出し電極135は、前記電極用ペースト組成物から形成されている。また集電電極134はガラス粉末を含むアルミニウム電極ペースト組成物から形成されている。これらの電極は、前記ペースト組成物をスクリーン印刷等にて所望のパターンに塗布した後、乾燥後に、大気中600〜850℃程度で焼成されて形成される。
本発明においては前記電極用ペースト組成物を用いることで、比較的低温で焼成しても、抵抗率及び接触抵抗率に優れる電極を形成することができる。
【0064】
その際に、受光面側では、受光面電極133を形成する前記電極用ペースト組成物に含まれるガラス粒子と、反射防止層132とが反応(ファイアースルー)して、受光面電極133と拡散層131が電気的に接続(オーミックコンタクト)される。
本発明においては、前記電極用ペースト組成物を用いて受光面電極133が形成されることで、導電性金属として銅を含みながら、銅の酸化が抑制され、低抵抗率の受光面電極133が、良好な生産性で形成される。
【0065】
また、裏面側では、焼成の際に集電電極134を形成するアルミニウム電極ペースト組成物中のアルミニウムが半導体基板130の裏面に拡散して、電極成分拡散層136を形成することによって、半導体基板130と集電電極134、出力取出し電極135との間にオーミックコンタクトを得ることができる。
【0066】
また本発明の別の態様である太陽電池素子の一例である受光面及びAA断面構造の斜視図(a)、ならびに裏面側電極構造の平面図(b)を図4に示す。
図4(a)の斜視図に示すようにp型半導体のシリコン基板からなるセルウェハ1には、レーザドリルまたはエッチング等によって、受光面側及び裏面側の両面を貫通したスルーホールが形成されている。また受光面側には光入射効率を向上させるテクスチャー(図示せず)が形成されている。さらに受光面側にはn型化拡散処理によるn型半導体層3と、n型半導体層3上に反射防止膜(図示せず)が形成されている。これらは従来の結晶Si型太陽電池セルと同一の工程により製造される。
【0067】
次に、先に形成されたスルーホール内部に、本発明の電極用ペースト組成物が印刷法やインクジェット法により充填され、さらに受光面側には同じく本発明の電極用ペースト組成物がグリッド状に印刷され、スルーホール電極4及び集電用グリッド電極2を形成する組成物層が形成される。
ここで、充填用と印刷用に用いるペーストでは、粘度を始めとして、それぞれのプロセスに最適な組成のペーストを使用するのが望ましいが、同じ組成のペーストで充填、印刷を一括で行ってもよい。
【0068】
一方、受光面の反対側(裏面側)には、キャリア再結合を防止するための高濃度ドープ層5が形成される。ここで高濃度ドープ層5を形成する不純物元素として、ボロン(B)やアルミニウム(Al)が用いられ、p層が形成されている。この高濃度ドープ層5は、例えばBを拡散源とした熱拡散処理が、前記反射防止膜形成前のセル製造工程において実施されることで形成されていてもよく、あるいは、Alを用いる場合には、前記印刷工程において、反対面側にAlペーストを印刷することで形成されていてもよい。
【0069】
その後、650から850℃において焼成され、前記スルーホール内部と受光面側に形成された反射防止膜上に充填、印刷された前記電極用ペースト組成物は、ファイアースルー効果により、下部n型層とのオーミックコンタクトが達成される。
【0070】
また反対面側には、図4(b)の平面図で示すように、本発明による電極用ペースト組成物をそれぞれn側、p側共にストライプ上に印刷、焼成することによって、裏面電極6、7が形成されている。
【0071】
本発明においては、前記電極用ペースト組成物を用いて、スルーホール電極4、集電用グリッド電極2、裏面電極6及び裏面電極7が形成されることで、導電性金属として銅を含みながら、銅の酸化が抑制され、低抵抗率のスルーホール電極4、集電用グリッド電極2、裏面電極6及び裏面電極7が、優れた生産性で形成される。
なお、本発明の電極用ペースト組成物は、上記したような太陽電池電極の用途に限定されるものではなく、例えば、プラズマディスプレイの電極配線及びシールド配線、セラミックスコンデンサ、アンテナ回路、各種センサー回路、半導体デバイスの放熱材料等の用途にも好適に使用することができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。尚、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0073】
<実施例1>
(a)電極用ペースト組成物の調製
7質量%のリンを含むリン含有銅合金粒子を調製し、これを溶解して水アトマイズ法により粉末化した後、乾燥、分級した。分級した粉末をブレンドして、脱酸素・脱水分処理し、7質量%のリンを含むリン含有銅合金粒子を作製した。尚、リン含有銅合金粒子の粒子径(D50%)は1.5μmであった。
【0074】
二酸化ケイ素(SiO)3部、酸化鉛(PbO)60部、酸化ホウ素(B)18部、酸化ビスマス(Bi)5部、酸化アルミニウム(Al)5部、酸化亜鉛(ZnO)9部からなるガラス(以下、「G1」と略記することがある)を調製した。得られたガラスG1の軟化点は、420℃、結晶化温度は600℃を超えていた。
得られたガラスG1を用いて、粒子径(D50%)が1.7μmであるガラス粒子を
得た。
【0075】
上記で得られたリン含有銅合金粒子を85.1部、ガラス粒子を1.7部、及び3質量%のエチルセルロース(EC、重量平均分子量190000)を含むテルピネオール(異性混合体)溶液13.2部を混ぜ合わせ、メノウ乳鉢の中で20分間かき混ぜ、電極用ペースト組成物1を調製した。
【0076】
(b)太陽電池セルの作製
受光面にn型半導体層、テクスチャー及び反射防止膜(窒化珪素膜)が形成された膜厚190μmのp型半導体基板を用意し、125mm×125mmの大きさに切り出した。その受光面にスクリーン印刷法を用い、上記で得られた電極用ペースト組成物1を図2に示すような電極パターンとなるように印刷した。電極のパターンは150μm幅のフィンガーラインと1.1mm幅のバスバーで構成され、焼成後の膜厚が20μmとなるよう、印刷条件(スクリーン版のメッシュ、印刷速度、印圧)を適宜調整した。これを150℃に加熱したオーブンの中に15分間入れ、溶剤を蒸散により取り除いた。
【0077】
続いて、裏面にアルミニウム電極ペーストを同様にスクリーン印刷で全面に印刷した。焼成後の膜厚が40μmとなるように、印刷条件は適宜調整した。これを150℃に加熱したオーブンの中に15分間入れ、溶剤を蒸散により取り除いた。
続いてトンネル炉(ノリタケ社製、1列搬送W/Bトンネル炉)を用いて大気雰囲気下、焼成最高温度850℃で保持時間10秒間の加熱処理(焼成)を行って、所望の電極が形成された太陽電池セル1を作製した。
【0078】
<実施例2>
実施例1において、電極形成時の焼成条件を最高温度850℃で10秒間から、最高温度750℃15秒間に変更したこと以外は、実施例1と同様に太陽電池セル2を作製した。
【0079】
<実施例3>
実施例1において、リン含有銅合金粒子の粒子径を1.5μmから5.0μmに変更したこと以外は、実施例1と同様に電極用ペースト組成物3及び太陽電池セル3を作製した。
【0080】
<実施例4>
実施例1において、リン含有銅合金粒子のリン含有率を7質量%から6質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして電極用ペースト組成物4及び太陽電池セル4を作製した。
【0081】
<実施例5>
実施例1において、リン含有銅合金粒子のリン含有率を7質量%から8質量%に変更したこと以外は、実施例1と同様にして電極用ペースト組成物5及び太陽電池セル5を作製した。
【0082】
<実施例6>
実施例3と同様にして、但し、更に銀粒子(粒子径(D50%)3μm、アルドリッチ社製高純度化学品)を添加して、電極用ペースト組成物6及び太陽電池セル6を作製した。
具体的には、リン含有銅合金粒子(リン含有率7質量%、粒子径(D50%)5μm)75.0部、銀粒子10.1部、ガラス粒子(G1)1.7部、及び3質量%のエチルセルロース(EC)を含むテルピネオール(異性混合体)溶液13.2部を含有する電極用ペースト組成物6を調製し、この電極用ペースト組成物6を用いた以外は実施例3と同様にして、太陽電池セル6を作製した。
【0083】
<実施例7〜17>
実施例1において、リン含有銅合金粒子のリン含有率、粒子径(D50%)及び含有量、銀粒子の含有量、ガラス粒子の種類及び含有量、3%のエチルセルロース(EC)を含むテルピネオール溶液の含有量を表1に示したように変更したこと以外は、実施例1と同様にして電極用ペースト組成物7〜17を調製した。
尚、ガラス粒子(G2)は酸化バナジウム(V)45部、酸化リン(P)24.2部、酸化バリウム(BaO)20.8部、酸化アンチモン(Sb)5部、酸化タングステン(WO)5部からなり、粒子径(D50%)が1.7μmであった。またこのガラスの軟化点は492℃、結晶化温度は600℃を超えていた。
【0084】
次いで、得られた電極用ペースト組成物7〜17をそれぞれ用い、加熱処理の温度及び処理時間を表1に示したように変更したこと以外は、実施例1と同様にして所望の電極が形成された太陽電池セル7〜17をそれぞれ作製した。
【0085】
<比較例1>
実施例1における電極用ペースト組成物の調製においてリン含有銅合金粒子を用いずに、表1に示した組成となるように各成分を変更したこと以外は、実施例1と同様にして電極用ペースト組成物C1を調製した。
リン含有銅合金粒子を含まない電極用ペースト組成物C1を用いたこと以外は、実施例1と同様にして太陽電池セルC1を作製した。
【0086】
<比較例2>
比較例1において、電極形成時の焼成条件を最高温度850℃で10秒間から、最高温度750℃で15秒間に変更したこと以外は、比較例1と同様に太陽電池セルC2を作製した。
【0087】
<比較例3>
実施例1において、リンを含有しない純銅(リン含有率が0%)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして電極用ペースト組成物C3を調製した。
電極用ペースト組成物C3を用いたこと以外は、実施例1と同様にして太陽電池セルC3を作製した。
【0088】
<比較例4>
比較例3において、電極形成時の焼成条件を最高温度850℃で10秒間から、最高温度700℃20秒間に変更したこと以外は、比較例1と同様に太陽電池セルC4を作製した。
【0089】
【表1】



【0090】
<評価>
作製した太陽電池セルの評価は、擬似太陽光として(株)ワコム電創製WXS−155S−10、電流−電圧(I-V)評価測定器としてI−V CURVE TRACER MP−160(EKO INSTRUMENT社製)の測定装置を組み合わせて行った。太陽電池としての発電性能を示すEff(変換効率)、FF(フィルファクター)、Voc(開放電圧)及びJsc(短絡電流)は、それぞれJIS−C−8912、JIS−C−8913及びJIS−C−8914に準拠して測定を行なうことで得られたものである。得られた各測定値を、比較例1の測定値を100.0とした相対値に換算して表2に示した。
尚、比較例3及び比較例4においては、銅粒子の酸化によって電極の抵抗率が大きくなり、評価不能であった。
【0091】
【表2】



【0092】
実施例1〜17で作製した太陽電池セルの性能は、比較例1の測定値と比べほぼ同等又はそれ以上であった。特に太陽電池セル1〜5及び太陽電池セル16は、銀粒子を用いずに電極を形成しているが、高い発電性能を示した。
【0093】
また太陽電池セル1〜5及び太陽電池セル16の受光面電極について、CuKα線を用いてX線回折法で回折X線を測定した結果、回折角度(2θ、CuKα線)の少なくとも43.4°、50.6°、74.2°に、銅の特徴的な回折ピークを示した。このように受光面電極から銅が検出された理由として、以下の原理が挙げられる。
【0094】
まず、電極用ペースト組成物1〜5及び16中のリン含有銅合金粒子は、リン含有率が6質量%以上8質量%以下である。この部分の組成は、Cu−P系状態図から、α−Cu相とCuP相からなる。焼成初期段階では、α−Cu相が酸化され、CuOに変わる。このCuOが再びα−Cuに還元されていると考えられる。尚、この還元反応にはリン含有銅合金粒子に含まれていたCuP相もしくはこの酸化物由来のリンが寄与しているものと考えられる。
【0095】
よって、リン含有率が6質量%以上8質量%以下のリン含有銅合金粒子を用いた電極用ペースト組成物では、実施例1〜17に示されるように、最高温度の保持時間を10秒〜20秒としても、焼成時における銅の酸化が抑制され、抵抗率の低い電極が形成されたものと考えられる。また、焼成時間を長くすることにより、リン含有銅合金粒子の焼結が進むため,より緻密で抵抗率の低い電極を形成できる他、ファイアースルーをより効果的に行うことができるため,電極と半導体基板とのオーミックコンタクト性が向上するという効果を得ることができる。
【0096】
<実施例18>
上記で得られた電極用ペースト組成物1を用いて、図4に示したような構造を有する太陽電池セル18を作製した。尚、加熱処理は850℃、10秒間で行った。
得られた太陽電池セルについて上記と同様にして評価したところ、上記と同様に良好な特性を示すことが分かった。
【符号の説明】
【0097】
1 p型シリコン基板からなるセルウェハ
2 集電用グリッド電極
3 n型半導体層
4 スルーホール電極
5 高濃度ドープ層
6 裏面電極
7 裏面電極
130 半導体基板
131 拡散層
132 反射防止層
133 受光面電極
134 集電電極
135 出力取出し電極
136 電極成分拡散層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有率が6質量%以上8質量%以下であるリン含有銅合金粒子と、ガラス粒子と、溶剤と、樹脂と、を含み、前記リン含有銅合金粒子の粒子径が0.4μm〜10μmである電極用ペースト組成物。
【請求項2】
前記ガラス粒子は、ガラス軟化点が600℃以下であり、結晶化開始温度が600℃
を超える請求項1に記載の電極用ペースト組成物。
【請求項3】
銀粒子を更に含む請求項1または請求項2のいずれか1項に記載の電極用ペースト組成物。
【請求項4】
前記リン含有銅合金粒子と前記銀粒子の総量を100質量%としたときの銀粒子の含有率が5質量%以上65質量%以下である請求項3に記載の電極用ペースト組成物。
【請求項5】
前記リン含有銅合金粒子及び前記銀粒子の総含有率が70質量%以上94質量%以下であり、前記ガラス粒子の含有率が0.1質量%以上10質量%以下であり、前記溶剤及び前記樹脂の総含有率が3質量%以上29.9質量%以下である請求項3又は請求項4に記載の電極用ペースト組成物。
【請求項6】
シリコン基板上に付与された請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の電極用ペースト組成物を焼成して形成された電極を有する太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−33751(P2013−33751A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−224588(P2012−224588)
【出願日】平成24年10月9日(2012.10.9)
【分割の表示】特願2011−85703(P2011−85703)の分割
【原出願日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(000004455)日立化成株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】