説明

電気めっき方法

【課題】めっき操業中、ライン速度が低下した場合であっても、めっき効率を低下させず、かつめっき付着むらの発生を効果的に防止できる電気めっき方法を提案する。
【解決手段】複数のめっきセルを用いて電気めっきを施すに際し、予め電流密度とめっき効率との関係から電流密度の許容下限値を求めておき、ライン速度に応じてめっきセル数を切り替えることにより、電流密度が上記許容下限値を下回ることがないように、電流密度を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気めっき方法に関し、特にライン速度の低下などめっき操業条件が変動した場合であっても、めっき不良の発生を防止しようとするものである。
【背景技術】
【0002】
鋼板の表面には、耐食性などの表面特性を向上させるために表面処理が施されるが、かような表面処理の一つとして電気めっきが広く用いられている。
電気めっきの中でも、耐食性と装飾性を兼ね備えたものとしてニッケルめっきが知られており、従来から飲料缶等の用途に広く使用されている。
【0003】
ところで、電気めっきを行う場合、めっきセルの前段に十分なルーパー設備を有する場合はともかく、かようなルーパー設備を有しないめっきラインでは、コイルの切換え時などに、めっきセル部の通板速度が低速になる場合がある。
【0004】
電気めっきにおいて、鋼板に対するめっき付着量を一定にするためには、電気量密度(C/dm2)を一定にする必要がある。
従って、ライン速度が低下し、通板面積が減少した場合には、電流密度(A/dm2)を低減することにより、電気量密度の変動を抑制していた。
【0005】
しかしながら、電流密度の低減は、めっき効率を低下させるだけでなく、ステインと呼ばれるめっき付着むらの発生原因となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するために開発されたもので、めっき操業中、ライン速度が低下した場合であっても、めっき効率を低下させず、かつめっき付着むらの発生を効果的に防止することができる電気めっき方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
さて、発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた。
その結果、ライン速度が低下した場合にはめっきセル数を切り替える、具体的には使用するめっきセル数を減少し、単位セル当たりの電流密度を上昇させることによって、所期した目的が有利に達成されることの知見を得た。
本発明は上記の知見に立脚するものである。
【0008】
すなわち、本発明は、鋼板表面に、複数のめっきセルを用いて電気めっきを施すに際し、予め電流密度とめっき効率との関係から電流密度の許容下限値を求めておき、ライン速度に応じてめっきセル数を切り替えることにより、電流密度が上記許容下限値を下回ることがないように、電流密度を制御することを特徴とする電気めっき方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ライン速度が低下した場合であっても、単位セル当たりの電流密度が許容下限値未満には低下しないので、めっき効率の低下は勿論のこと、めっき付着むらの発生を効果的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を具体的に説明する。
図1に、めっきセルの前段にルーパー設備を有しない電気ニッケルめっき設備の全体概略図を示す。図中、番号1がニッケルめっき装置、2は洗浄機、3は焼鈍炉である。
図2には、このニッケルめっき装置1の詳細図を示す。この例は、2基のめっきセルをそなえる場合である。図中、番号4は前段セル、5は後段セルであり、被処理材であるストリップ(鋼板)6は、これら前段セル4および後段セル5を通過する間に、その表裏面に所定厚さのニッケルめっきが施される。また、番号7は前段おもて面整流器、8は前段うら面整流器、9は後段おもて面整流器、10は後段うら面整流器、11は前段通電ロール、12は後段通電ロール、そして13がめっき用電極である。
【0011】
さて、本発明では、予め電流密度とめっき効率との関係を求めておく。
その一例を図3に示す。
同図に示したとおり、電流密度を低下させていくと、ある値Iに達するとめっき効率は低下しはじめる。
そして、電流密度値がIを下回って来ると、めっき付着むらが発生し出す。従って、Iを、適正なめっき効率が得られめっきむらが発生しない許容下限値とする。
【0012】
そこで、本発明では、ライン速度の低下に伴い電流密度が低減しはじめた場合、該電流密度値がI値すなわち許容下限値を下回らないように、例えば図4に示すように、許容下限値Iよりも若干高いIO値に到った時点で、セル数を切り替え、セル数を減少して単位セル当たりの電流密度を上昇させるのである。
ここに、IO値は、I値よりも10〜30%程度高い値に設定しておくことが好ましい。
【0013】
なお、セル数の切り替えは、図2に示した各整流器7〜10を用いて行い、必要に応じて使用するセル数を調整する。
【実施例1】
【0014】
図1に示した電気ニッケルめっき設備を用いて、ニッケルめっきを行った。セル数の切り替えは、図4に示した要領で行うものとし、ここに電流密度の許容下限値Iは0.5A/dm2、また切り替え設定値IOは0.6A/dm2に設定した。
そして、ライン速度に応じて電流密度が切り替え設定値IOまで低下した際には、図2に示した各整流器7〜10を調整して使用セル数を切り替えた。
【0015】
上記の条件で電気ニッケルめっきを実施した際のめっき付着むら発生率について調べた結果を、図5に示す。
なお、めっき付着むら発生率は、従来法に従って、めっき速度の低下に伴い電流密度を低下させた場合におけるめっき付着むら発生率を1として、その相対比で示す。
【0016】
図5に示したように、本発明に従い、めっき速度の低下に伴い電流密度が低下した場合に、使用セル数を切り替えることによって、電流密度が許容下限値を下回ることがないように制御した場合には、従来に比べてめっき付着むら発生率を格段に低減させることができた。
【0017】
以上、実施例では、電気ニッケルめっきに本発明を適用した場合について主に説明したが、本発明は、これだけに限るものではなく、電気亜鉛めっきや電気銅めっきなどいわゆる電気めっきであればいずれにも適合する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】めっきセルの前段にルーパー設備を有しないニッケルめっき設備の全体を示す概略図である。
【図2】2基のめっきセルをそなえるニッケルめっき装置の詳細図である。
【図3】電流密度とめっき効率との関係を示す図である。
【図4】セル数の切り替えタイミングを示す図である。
【図5】本発明に従ってニッケルめっきを実施した際のめっき付着むら発生率を、従来法の場合と比べて示した図である。
【符号の説明】
【0019】
1 ニッケルめっき装置
2 洗浄機
3 焼鈍炉
4 前段セル
5 後段セル
6 ストリップ(鋼板)
7 前段おもて面整流器
8 前段うら面整流器
9 後段おもて面整流器
10 後段うら面整流器
11 前段通電ロール
12 後段通電ロール
13 めっき用電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板表面に、複数のめっきセルを用いて電気めっきを施すに際し、予め電流密度とめっき効率との関係から電流密度の許容下限値を求めておき、ライン速度に応じてめっきセル数を切り替えることにより、電流密度が上記許容下限値を下回ることがないように、電流密度を制御することを特徴とする電気めっき方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate