説明

電気二重層キャパシタ用炭素材と製造方法

【課題】 大きな静電容量と低抵抗特性とを有する電気二重層キャパシタを実現可能とする炭素材を安価に簡便に製造する。
【解決手段】 石炭の溶剤抽出物を不活性雰囲気下で800℃から950℃の温度範囲において加熱し、得られた固体残渣をアルカリ賦活する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量の大きい新しい電気二重層キャパシタ用炭素材と製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電気二重層キャパシタの分極性電極材として、種々の炭素質原料からアルカリ賦活して得られる活性炭を用いる方法が提案されている。たとえば、国際公開WO91/12203号には、活性炭原料をアルカリ金属の水酸化物浴中700℃未満で熱処理して得られる高静電容量炭素質素材が開示されている(特許文献1)。ここで活性炭原料としては、一般に活性炭を製造するための炭素質原料であればいかなるものでもよく、その例としてはたとえばヤシ殻、木粉、石炭、樹脂などがあげられるとしてあり、実施例では、ヤシ殻、木粉、石炭、フェノール樹脂を炭化したものを用いている。また、アルカリ金属の水酸化物としては、ナトリウム、カリウム、セシウム、リチウムなどの水酸化物が用いられるとされており、実施例では専ら水酸化ナトリウムを用いている。
【0003】
このような炭素材料については、フェノール樹脂、フラン樹脂およびポリアクリロニトリル樹脂から選ばれる樹脂を炭化して炭素材とした後、溶融状態の水酸化カリウムを用いる賦活法で賦活した活性炭を主体とすること(特許文献2)や、紙基材フェノール樹脂積層板を粉砕して温度500〜900℃で炭化処理した後、アルカリ金属水酸化物にて温度400〜900℃で賦活処理して得た炭素材(特許文献3)をはじめ、イオン交換樹脂の炭化物をアルカリ賦活したもの(特許文献4)、塩化ビニル系樹脂を焼成しアルカリ賦活したもの(特許文献5)、炭素繊維の粉砕物をアルカリ賦活したもの(特許文献6−7)等も提案されている。
【0004】
しかしながら、これら従来の技術では、活性炭や種々の樹脂、繊維等からの炭素材を用いることに特徴があるものの、その原料並びに原料処理にともなう炭素材の製造コストは高価なものとなり、このことが製品となるキャパシタの価格を高いものにしてしまうという問題がある。また、電気二重層キャパシタ用炭素材としてはより大きな静電容量を有するものとすることは低抵抗化が求められてもいた。
【0005】
従来の小電力分野から、電気自動車用バッテリーの補助電源等の大容量分野への応用が期待されている電気二重層キャパシタにおいては電極材としての炭素材の実用化のためには以上のような課題を解決することが必須とされていた。
【0006】
一方、炭素材の原料の一種としての石炭は、上記の樹脂や繊維原料に比べてより安価に利用できることから、石炭を用いることについての検討も行われている。たとえば、石炭ピッチコークスからなる素材を炭化処理し、その後アルカリ賦活処理したものとすること(特許文献8)や、石炭を炭化処理し、水蒸気賦活したものとすること(特許文献9)もすでに提案されている。
【0007】
だが、このように石炭を原料とする場合にも、上記と同様に、より安価で簡便に製造することができ、しかもより大きな静電容量等の特性を有する炭素材とすることが課題とされていた。
【特許文献1】国際公開WO91/12203公報
【特許文献2】特開平8−162375号公報
【特許文献3】特開平8−51045号公報
【特許文献4】特開平8−208212号公報
【特許文献5】特開平9−275042号公報
【特許文献6】特開平11−222732号公報
【特許文献7】特開平11−293527号公報
【特許文献8】特開平10−199767号公報
【特許文献9】特開2001−319837号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上のとおりの背景から、従来の問題点を解消し、大きな静電容量と低抵抗特性とを有する電気二重層キャパシタを実現可能とする炭素材を安価に簡便に製造することのできる、新しい電気二重層キャパシタ用炭素材の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の製造方法は、上記の課題を解決するものとして以下のことを特徴としている。
【0010】
第1:石炭の溶剤抽出物を不活性雰囲気下で800℃から950℃の温度範囲において加熱し、得られた固体残渣をアルカリ賦活する電気二重層キャパシタ用炭素材の製造方法。
【0011】
第2:石炭の溶媒抽出物は、石炭を、沸点200℃〜350℃の範囲の石炭乾留油を溶剤として300〜450℃の温度範囲で抽出処理したものである上記の電気二重層キャパシタ用炭素材の製造方法。
【0012】
第3:アルカリ金属水酸化物によりアルカリ賦活する上記の電気二重層キャパシタ用炭素材の製造方法。
【0013】
第4:比表面積2000m2/g以上で、抵抗が9.5Ω以下、静電容量が45F/g以上、18F/cc以上である炭素材を製造する上記いずれかの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
上記のとおりの本発明の製造方法によれば、比較的安価な石炭を原料とし、しかも溶剤抽出という簡便で低コストの処理により得られる抽出物を用いることができ、得られた炭素材は、電気二重層キャパシタ用の電極材として従来品と同等以上の大きな静電容量と低抵抗性を実現可能とする。これにより、本発明による炭素材は、ハイブリッド車、電気自動車、パーソナルコンピュータ、その他ソーラー発電や風力発電等の蓄電池等に有用な高性能キャパシタを安価に提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
上記のとおりの特徴を有する本発明について以下にその実施の形態について説明する。
【0016】
本発明の電気二重層キャパシタ用炭素材の製造方法においては、その原料として石炭の溶剤抽出物を用いるが、この場合の石炭の溶剤抽出は、近年、石炭の灰分低減の方法として注目され、たとえば、得られる脱灰炭を「ハイパーコール」と呼ぶことが提案されてもいる(NEDO:石炭利用次世代技術開発調査、平成14年11月)(AIST Today 2001.6)。
【0017】
本発明の製造方法では、このように従来より知られている方法をはじめとして各種の石炭の溶剤抽出物が原料物質としての対象となる。なかでも、本発明では、石炭を、沸点200℃〜350℃の範囲の石炭乾留油あるいはこれに類似する多環芳香族炭化水素を溶剤として300〜450℃の温度範囲で抽出処理したものが好適に考慮される。この場合の石炭については、炭素含有量が70重量%以下の亜炭、70〜78重量%程度の褐炭、78〜90重量%程度の瀝青炭および90重量%以上の無煙炭のいずれのものでもよいが、瀝青炭、無煙炭がより好ましいものとして考慮される。なお、溶剤による抽出率を高めるためには軟化開始温度がより低いものとすることができる。
【0018】
抽出のための溶剤としては、たとえば、メチルナフタリン油、ナフタリン油、タール軽油、あるいはこれらの混合物である石炭乾留油(石炭を乾留してコークスを製造する際の副生油の蒸留油)や、これに類似のジメチルナフタレン、テトラリン、その他の多環芳香族炭化水素が好適に考慮される。もちろん、石炭の種類や性能によっては、他の炭化水素(油)であってもよい。
【0019】
これらの溶剤による石炭の抽出処理は、石炭の種類にもよるが、乾燥炭基準で、溶剤に対する石炭沸度が10〜60重量%の範囲とし、300〜450℃の温度で、減圧、常圧、そして加圧のいずれかの条件で、5〜100分間程度行うことが好ましい。
【0020】
なお、石炭はあらかじめ乾燥して用いることが一般的であるが、30重量%程度の水分を含む状態であってもよい。そして、石炭は、8mm程度以下の大きさに粉砕したものを用いることが好ましい。
【0021】
また、加熱は不活性雰囲気下で行うが、この雰囲気は、たとえば窒素ガスやアルゴンガス等の雰囲気下としてもよいし、真空減圧下であってもよい。
【0022】
得られた抽出物については、含有されている不純物としての金属(塩)を除去するためにイオン交換処理してもよい。本発明の製造方法では、石炭の溶剤抽出物は、次いで、800℃〜950℃の温度において加熱処理する。この加熱は、通常、900℃までの加熱温度を目安とすることができる。この加熱によって固体残渣分を得る。
【0023】
さらに本発明の製造方法では、この生成された固体残渣に対してアルカリ賦活処理を行う。
【0024】
アルカリ賦活は、アルカリ金属の水酸化物や重炭酸塩等を用いて行うことができる、より好ましく用いられるアルカリ金属酸化物としては、水酸化カリウムが特に好適であり、そのほか、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化セシウムなどを用いることもできる。
【0025】
上記の固形残渣とアルカリ金属酸化物との混合割合は、重量比で、1:05〜1:10(好ましくは1:1〜1:5)とすることが好適に考慮される。アルカリ金属酸化物の過少は賦活不足を招き、その過多は得られる炭素材の脆化を招く。
【0026】
賦活処理に際しては、アルカリ金属酸化物の固体またはその水溶液を用いる。固体を用いるときは、アルカリ金属酸化物が吸湿性であることから、保管に際して空気中の湿分を遮断する必要があり、また賦活前の原料と均等に混ぜる操作が必要である。アルカリ金属酸化物の水溶液を用いるときは、市販されている水溶液を用いて、その水溶液に賦活前の固体残渣を混入するだけでもよい。
【0027】
賦活処理時の温度は400〜900℃、好ましくは600〜900℃、さらに好ましくは700〜900℃が適当であり、温度が余りに低いときは静電容量の大きな炭素材が得られがたく、一方温度が余りに高いときには装置の材質に大きな制約が加わるので実際的でなくなる。
【0028】
賦活処理後は、アルカリ洗浄、酸洗浄、脱水、粉砕、造粒などの精製工程や二次加工工程に供することができる。
【0029】
このようにして得た炭素材は、たとえば、BET比表面積が2000m2/g程度以上、細孔容積が1ml/g以上であるが、比表面積や細孔容積の値の如何にかかわらず、静電容量の大きな電気二重層コンデンサ用炭素材として好適に用いることができる。
【0030】
電気二重層キャパシタは、たとえば、(a)上記で得た炭素材の粉末品、導電材料、バインダーおよび溶媒を混合してペースト状の混合物を調製してからシート状に成形して電極材料となし、該シート2枚をセパレータを介して重ねて外装容器に収容し、この中に電解液を注入する方法や、(b)上記で得た炭素材の粉末品と電解液との混合物を調製してペースト状となし、これをセパレータを介在させた状態で外装容器に収容する方法、(c)上記で得た炭素材の粉末品に樹脂系粉末品(たとえばフェノール樹脂)を混合した後、高温(600〜1000℃)で熱処理して炭素成形体を作り、電解液を含浸させて、これをセパレータを介在させた状態で外装容器に収容する方法をはじめ、従来採用されている各種の方法により作製される。電解液としては、水溶液系電解液や非水溶媒系電解液が用いられる。
【0031】
本発明の製造方法においては、たとえば静電容量が45F/g以上、18F/cc以上で、抵抗値が9.5Ω以下の良好な特性が実現されることになる。
【0032】
そこで以下に実施例を示し、さらに詳しく本発明について説明する。もちろん以下の例によって発明が限定されることはない。
【実施例】
【0033】
水分含有率4.5重量%の瀝青炭(平均粒径3mm粉砕品)を、乾燥高基準で25重量%の割合になるようにしてタール軽油により、350℃の温度、N2ガス雰囲気下に抽出処理した。
【0034】
次いで得られた抽出物を900℃に加熱して固体残渣を生成させた。この固体残渣に対しては、重量比で1:3となるようにKOHの水溶液を用いて700℃の温度で賦活処理した。
【0035】
得られたアルカリ賦活処理炭素材を用いて前記の方法(a)に従って電気二重層キャパシタを構成した。
【0036】
このものについての特性を従来品等と比較評価し、その結果を表1に示した。
【0037】
表1に示した、本発明の方法により製造された炭素材「石炭の溶剤抽出物」の場合には、比表面積が非常に大きく、低抵抗であって、大きな静電容量を実現していることがわかる。
【0038】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
石炭の溶剤抽出物を不活性雰囲気下で800℃から950℃の温度範囲において加熱し、得られた固体残渣をアルカリ賦活することを特徴とする電気二重層キャパシタ用炭素材の製造方法。
【請求項2】
石炭の溶媒抽出物は、石炭を、沸点200℃〜350℃の範囲の石炭乾留油を溶剤として300〜450℃の温度範囲で抽出処理したものであることを特徴とする請求項1の電気二重層キャパシタ用炭素材の製造方法。
【請求項3】
アルカリ金属水酸化物によりアルカリ賦活することを特徴とする請求項1または2の電気二重層キャパシタ用炭素材の製造方法。
【請求項4】
比表面積2000m2/g以上で、抵抗が9.5Ω以下、静電容量が45F/g以上、18F/cc以上である炭素材を製造することを特徴とする請求項1から3のいずれかの製造方法。

【公開番号】特開2007−142204(P2007−142204A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−334712(P2005−334712)
【出願日】平成17年11月18日(2005.11.18)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【出願人】(000156961)関西熱化学株式会社 (117)
【Fターム(参考)】